CARPE DIEM

  フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「CARPE DIEM」。 70 年結成。作品は二枚。79 年解散。 第三作も録音されたが未発表。 サウンドは、サックス、ギターがリードするジャジーでファンタジックなもの。 2015 年第三作「Circonvolutions」発表。 グループ名はラテン語の箴言でソウル・ベローの作品にもある「Seize The Day」の意。

 En Regardant Passer Le Temps
 
Gilbert Abbenanti guitars
Christian Trucchi keyboards, vocals
Claude-Marius David soprano sax, flute, percussion
Alain Berge bass
Alain Faraut drums, percussion

  75 年発表の第一作「En Regardant Passer Le Temps(時間牢の物語)」。 内容は、サックスをフィーチュアし張り詰めた緊張の中にサイケデリックな色彩美をあしらったシンフォニック・ロック。 イコライザやフェイズ・シフタ系のエフェクトを多用したエレクトリックな音は、ややチープな印象を与えるものの、現実離れした世界を提示することに成功している。 サックスを演奏の中心におきつつも、ジャズロック的なファンキーなノリやグルーヴ、ブルーズ感覚は皆無であり、クラシカルで丹念なアンサンブルが主である。 しなやかに流れるサックス、ロングトーンのヒステリックなギター、細かなドラム・ロールや 8 分の 6 拍子のリフなど、初期の KING CRIMSON を意識しているところもある。 ただし、ほの暗いファンタジーに耽溺するようなところが、英国ロックの翳りやアイロニーとはまた違ったニュアンスをもっている。 それが大陸風なのかどうかは分からないが、PULSAR と共通する内にこもってゆく耽美さがあると思う。 各メンバーとも決してテクニシャンではないが、思いつめたような緊張感と微妙な音のグラデーション配置が個性的な味わいを生んでいる。 全体に、ゆるやかな調子であり、アクセントをつけながらそのレガートなうねりが延々と続いてゆく。
   プロデュースは、グループとアルフォンゾ・フォルテ。

  「Voyage du non-retour」(3:51)KING CRIMSON 調の 8 分の 6 拍子のベース・リフの上でキーボード、サックス、ギターがシリアスなアンサンブル/ソロを繰り広げる。 スピーディかつ流れるような勢いがあるインストゥルメンタルだ。 短いながらシリアスな緊迫感がいい。

  「Reincarnation」(12:53)クラシカルでドリーミーなメイン・ヴォーカル・パートと緊張感あふれるインストゥルメンタルを組み合わせた大作。 イントロは、エレピとフルートらによるクラシカルで愛らしいアンサンブル。 そしてメイン・パートは、エレピ伴奏でイコライジングでささくれだったヴォーカルがゆるやかに歌う。 インストゥルメンタル・パートでは、ギターとサックス、オルガンらが細い音符の糸をたどるような、レガートにして緊迫した演奏を見せる。 メロディは優しげ、しかし、一種パラノイアックなテンションがある。
  6 分半辺りで一段落し、やや即興風のサイケなアンサンブルへと進む。 ヴォコーダを通したようなモノローグとリリカルなギターが、渦を巻くようなオルガン(エフェクトでストリングス・アンサンブルに近い音になっている)とともに流れてゆく。 この 2 分あまりの緩徐パートを経て、再びメイン・パートへと回帰。 終章では、ギターとオルガンらが交錯する澱みをフルートが軽やかに拭い去り、エレピ、ギター、サックスらによる全体演奏が沸騰、ミステリアスなモノローグが幕を引く。
  リリカルなイントロ、メロディアスなヴォーカル・パートが次第に緊張感あるインストゥルメンタルへと吸い込まれてゆく大作。 サックス、ギター、キーボードのハーモニーによるレガートで優美な流れを、硬質で細かなビートが切り刻み、もう少しゆき過ぎると苛ついてしまいそうな曲調を保つ。 リズムの甘さや平板な音響が生硬な印象を与えて、かえってタイトロープをたどるような緊張を生んでいるのかもしれない。 終盤はハイ・テンションの演奏でクライマックスを迎えて、揺らぎながらも爆発を繰り返す。 かなりスリリングだ。 この独特のファンタジックな作風は、第二作へ引き継がれてゆく。

  「Jeux du siecle」(10:12) ギターとエレピのアルペジオが静かに湧き上がるイントロダクション。 「Tubular Bells」を思わせる密やかなオープニングである。 彷徨うようなフルートの先導で、演奏が動き出す。 ざわめくシンバル、つぶやくベース、ゆるやかに響くオルガン。 ベースがたたみかけるのをきっかけに、サックスがリードする鋭い演奏が飛び出してくる。
  サックス、ギターのリードによってメロディアスなテーマが提示される。 ブリッジは 8 分の 5 拍子によるポリリズミックなアンサンブル。 即興風のプレイを重ねながら次第に演奏はまとまり、サックス、ギター、キーボードのユニゾン、ハーモニーでテーマへと進む。 続くソロ・ギターは、たどたどしくもロバート・フリップ風。 ギターを支えてアンサンブルがひた走る。 ドラムスのリズムは今ひとつ甘いが、ベースのアクセントが効いている。 次は、エレクトリック・ピアノのソロ。 練習曲のように愛らしい演奏だ。 オルガンに変わるも、やはり軽やかで優しい音である。 キーボードのかけあいからギターのリフレイン、サックスのリードと目まぐるしく演奏は主役を切り換えて進む。 テンポに変化はなく、一直線だが、力強さよりも女性的ななよやかさが印象的。 サックスが主導権を握り力強く突き進むと、テンポをやや落としてギターが切ないフレーズで受け止める。 再び高らかなサックスとともに走り出すアンサンブル、そして、再びギターによる受け止め。
  ギターのトリルにフルートも加わってエレピの穏やかな伴奏とともにクラシカルな調子に変化する。 ドラムスが再び加わって、力強い打撃でアクセントをつける。 舞うようなフルートとおだやかなエレピのオスティナート、そして渦を巻くキーボードによる夢見るような演奏。 驚いたことに、ここに及んで密やかな歌が始まる。 ひらひらと舞い降りるようなオブリガートはフルート。 ヴォーカルを吸い込むように、ストリングス・アンサンブルが消えてゆく。
  短いモチーフをラフに組み合わせたような大作。 自閉的なファンタジーと躍動するロックが錯綜し、眩暈がしそうだ。 中盤では、ソロもフィーチュアしたハイ・テンションの演奏が延々と続く。 一体感のある全体演奏は VdGG のインストゥルメンタル・パートにも通じるような気がする。(そちらほどハードではないが) ただし、一貫した流れや構築性はあまり感じられない。 また、いわゆる即興演奏のような、瞬間のインスピレーションによるプレイのぶつかりあいではなく、緩やかに決められた流れにしたがってストックされた演奏を並べているようなイメージである。 場面ごとのおもしろさや迫力はあるが、全体を通した印象が今ひとつ薄い。

  「Publiphobie」(9:54) 1 曲目と同じくハードなギターとサックス、キーボードが一線になり、硬質なリズムにドライヴされるヘヴィ・チューン。 16 ビートのほとばしるようなアンサンブルである。 サックスが鮮やかなテーマを提示する。 ギターのトレモロやフルート、エレピが細かな起伏を刻むが、基本的には幅広のスペクトルをもつ音が轟々と流れ続ける。
  3 分付近でブレイク、スローなヴォーカル・パートが始まる。 ソプラノ・サックスによるジャジーなオブリガート。 伴奏のギターもジャズ調である。 間奏はブルージーなギターからきらめくようなソプラノ・サックスのリフレインが高まり、次の展開への予感が。
  リズム・ブレイク、ギターとオルガンのリフレインが細かなモアレを織り成してゆく。 ここから 3 連符進行によって流れはなめらかになるが、たどたどしさも強調される。 エレピの 3 連リフレインにサックスがアクセントする。 密やかなリフレイン、そしてサックス、ベースがリードするヘヴィな演奏へと変化する。 ギターのオブリガートがかなりハードな調子で唸りを上げ、緊張感が高まっていく。 渦巻きのような 3 連リズムと荒々しさを増すアンサンブル。破談点が迫る。
  一気に 2 拍子系に切り換え、サックスが朗々と歌う中をギターがパワーコードをたたきつける。 ブレイクをはさみ、緊迫感を高めるアンサンブル。 シンセサイザー透き通るような音がアクセントをつけるも、演奏は激しさを増してゆく。 熱っぽい演奏に呼び醒まされるようにサックスがついに最初のテーマを再現、強引なまとめで一気にエンディングを迎える。
  ジャジーなサックスのテーマを軸に、レガートなアンサンブルに強圧的な反復を埋め込んで突き進むパワフルな作品。 サックス、ギター、キーボードが追いかけあいながら進むさまは、他の楽曲ほどはクラシカルではなく、ジャズロックというべきものだ。 明快な変化でメリハリをつけており、反復が多いわりには単調さはない。 ヘヴィなギターが新鮮。VdGG からフリージャズ色を抜いて印象派風のサウンドに仕立てたイメージである。


  聴き終えて初めに思い浮かんだ言葉は「幻想美」。 それもカラフルなファンタジーと、漆黒の闇が同居する奇妙な幻想美である。 耳に残るのは、フェイザーのかかったギターとサックスのクリアーな音だ。 淡々とした演奏ながらも音に厚みがあり、それなりの聴き応えがあるのは、やはりアンサンブルとして練られているのだろう。 1 曲目と最終曲で見られる、せわしなく追い立てる曲調とファンタジックに澱む場面のコントラストも効果的だ。 ヴィブラートを効かせたロングトーンのギターや、複合拍子でたたみかけるプレイは、KING CRIMSON のコピーで培ったものなのだろう。 特にドラムスのプレイは、甘目の曲調をしっかり引き締めている。 専らヘタウマ的な味わいが主なのかもしれないが、個性的なサウンドであることは間違いない。 演奏よりも音の調合による微妙な色合いに魅力のある、インストゥルメンタル・ロックといえるだろう。 初期の KING CRIMSON を思わせる緊張感とリリシズムそして繊細な幻想性であり、ひょっとするとフランス的な KIING CRIMSON 解釈なのかもしれません。

(ZAL 6418 / FGBG 4122.AR)

 Cueille le Jour
 
Gilbert Abbenanti guitars
Alain Berge bass
Alain Faraut drums, percussion
Christian Trucchi keyboards, piano, synthesizer, vocals
Claude M. David soprano sax, flute, percussion
Gilles Bertho sound
Yves Yeu text

  76 年発表の第二作「Cueille le Jour(彩)」。 前作で見せたハードで攻撃的な面は形を変えて全体に散らされ、取り込まれて、緊張感と叙情性を両立した独自の世界が確立された。 ギターとキーボードの生み出す夢幻空間を、サックスが着実な歩みで切り開いてゆくさまには、切子ガラスに光が跳ね返るような息を呑む調和と摂動の美しさがあり、その耽美な世界の秩序を、小刻みなリズムが心地よいテンションで維持している。 タイトル組曲は名作。 アナログ LP では B 面であった組曲は、本 CD では A 面になっている。
   プロデュースは、ジャン・クロード・ポニャン。

  「Couleurs」(21:38) キーボードと位相系エフェクトが織り成すスペイシーなサウンド・スケープのなかでサックス、ギターが紡ぐファンタジックな物語。 どちらかといえば、音量やテンポの変化よりも、音色とアンサンブルのおもしろさに力を注いだ作品である。 キュートでメロディアスなフレーズが群れを成し、さざなみのように重なりあい高まってゆく展開に、わくわくさせられる。 変拍子も使いながら一貫して小刻みなプレイを続けるドラムスは、この独特のテンションの維持とともに、堅実な歩みの原動力となっている。 要所では重厚邪悪な表情も見せるが、どちらかといえば、愛らしくもクールなフレーズや器楽のやり取りに魅力がある。 ほぼインストゥルメンタルから成る大作ながら、この内容であれば、比較的楽に音についていけるのではないだろうか。 また、ギタリストのプレイは決してハイテクというわけではなく、むしろ訥々としている(WAPASSOU と同系統)だが、ロングトーンを巧みに使った丁寧なフレージングが魅力。 長いクレシェンドの果てにクライマックスを迎えたような、中盤の演奏もカッコいい。 サックスのリードも、いわゆるジャズ、ロック的なブロウとは異なる、メロディアスで丹念な演奏が主である。 キーボード的な使い方といってもいいだろう。 サックスをなぞる管楽器風のキーボードもいいサポートをしている。 全体に、さまざまな音を効果的にきめ細かく配置することに集中している感じがする。 各章の色の名前の通り、まさに音の「彩」に満ちあふれているのだ。 エレクトリックなサウンドが主でサックスが主導するパートが多いが、それでも、クラシックの室内楽的なニュアンスがあると思う。 同じくサックスを用いた KING CRIMSON 系の稠密な音世界という点では、CERVELLO とも共通するものを感じる。

  「Naissance」(3:22)大曲のクライマックスを取り出したような力強くも悲壮な作品。 メロトロンを思わせるストリングス・シンセサイザーが冒頭から湧き上がり、ムーグとサックスのユニゾンによる緊迫したテーマが高鳴る。 前の大作の中盤を思わせる。 ドラムスが、積極的に力強い打撃を見せると、上ものがソフト・タッチでも表情が一変する。 最初から飛ばして、一気に盛り上り、銅鑼の残響とともに消えてゆく。 インストゥルメンタル。

  「Le Miracle De La Saint-Gaston」(3:38) シンフォニックなバラード。 きわめてシャンソン風の歌を、多彩な器楽が支える。 ヴァースはアコースティック・ギターやフルートなどアコースティックな音で支え、盛り上がりとともにリズム、キーボードも加わってブリッジを彩り、サビは重厚な器楽で迫る、という常套手段ではある。 序盤/中盤のメロトロンのようなオルガンによる重厚なテーマや、リリカルなサックス、フルートなど、やはりかわいらしい初期 KING CRIMSON というイメージである。 一つ一つの楽器がしっかりと特徴を見せており、アレンジのセンスも、かなりのものだ。

  「Laure」(2:45) リズミカルなダンス・ミュージック風の作品。 イントロは、泡立つようなディレイを効かせたギターによるファンタジック、いやラテン、カリプソ風の演奏。 メイン・パートは、アコースティック・ギターがリズムを刻み、フルートとキーボード、サックスらが軽やかに舞い踊る、いわばライトな JETHRO TULL。 後半は、かなり無茶なギター・ソロ。 最後は、サックスがメロディアスなプレイで締める。 フェイザー系のエフェクトのせいでキレは悪いが、奇妙ににじむ音がファンタジックな効果を生んでいる。 いろいろな意味で、短いわりには印象は強烈だ。 インストゥルメンタル。

  「Tramontane」(3:37) 2 曲目と同じく、1 曲目のクライマックス部分の変奏のようなインストゥルメンタル。 サックスとギターをフィーチュアし、モダン・ジャズのビッグ・バンド風の広がりと厚み、スリルをもって、疾走する。 緊張感と力強さがバランスしたカッコいい演奏だ。 スクエアで細かいドラム・ビートも本領発揮である。 イントロでは、ベースをフィーチュアしミステリアスな含みを見せるが、サックスによるテーマに導かれてみるみるうちに、ほんのり邪悪でジャジーな演奏へと進んでゆく。

  「Divertiment」(3:56) ピアノとサックスのみで綴られる、クラシカルなロマンあふれる作品。 序奏はメランコリックなピアノ・ソロ。 テーマ部は、サックスが加わり、厳かなテーマへと進んでゆく。 印象派とベートーベンがつぎはぎされたようなイメージである。 端正なピアノと温かみあるサックスが互いに高めあううちに、やがてドビュッシーを思わせるアンサンブルへ。 ユーモラスなピアノとサックスのやりとり。 サックスはジャジーなアドリヴも見せるが、不思議とジャズらしくない。 他の曲に比べると遥かにシンプルな内容だが、それだけにサックス、ピアノの力量がはっきりと分かる。 サックスのメロディに秘められた力強さ、豊かなピアノの表現はみごとである。 後半のピアノはどこかで聴いたような気がするので、ドビュッシー(子供の領分?)やサティの作品そのものかもしれません。

  ボーナス・トラックは、「Couleurs」の第4部「Rencontre」の英語ヴァージョン。 (3:22)編曲が異なるのか、ここではメロトロンが使われているような気がする。

  ファンタジックなサウンドを用いたジャズロック。 初期 KING CRIMSON 風の曲調にサイケなエフェクトをかけまくったような音である。 白眉は、このサウンド、演奏スタイルの集大成ともいえる組曲だろう。 ソフトなサウンドをサックス、ギターが貫く演奏は、音の感触とは裏腹になかなかタイトかつハードである。 硬めの音で敏捷なフレージングをするベースと、細かいリズムを叩き出すドラムスの存在も大きいだろう。 甘目の音、メロディが主であるアンサンブルを、しっかりと支えて起伏をつくっている。 また、サックスのプレイに、ジャズっぽさよりもクラシックのオーボエのような端正さ、上品さがあるところも興味深い。 全体に演奏テクニックよりも、音色と編曲のバランス感覚が優れた作品といえる。 フレーズはさほど込み入っていないが、それらが組み合わさったときの精緻な模様のような美しさはかなりユニークである。 前作で散見された露骨な KING CRIMSON のモノマネ部分が解消したのは正解。 ワンパターンには違いないが、そのパターンが優れている。 組曲以外にも、「Le Miracle De La Saint-Gaston」における CAMEL 風のストレートなロマンチシズムや、「Divertiment」におけるクラシカルなアンサンブルなど見せ場は多い。 ファンタジックでクラシカルなジャズロックの好盤。

(ZAL 6403 / KICP 2813)


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