BIG SLEEP

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「BIG SLEEP」。 EYES OF BLUE のメンバーによるワンタイム・プロジェクト。 作品は PEGASUS からの一枚のみ。 GENTLE GIANT へと加入するジョン・ウェザースが在籍した。 フィル・リアンも PETE BROWN'S PIBLOKTOMAN を経て NEUTRONS へ。 ゲリー・ピックフォード・ホプキンスは WILD TURLEY へ参加。

 Bluebell Wood
 
Phil Ryan organ, piano
Ritchie Francis bass, piano, vocals
John Weathers drums, vocals
Raymond Williams guitar
Gary Pickford Hopkins vocals, guitar

  70 年発表の作品「Bluebell Wood」。 実質 EYES OF BLUE のサード・アルバムにして、錯綜する Wales コネクションのミッシング・リング。 内容は、四人のコーラスを活かし、ビートロックの若さとソフトネスを失わない、ハードロック前夜のアート/サイケデリックなブリティッシュ・ロック。 ヘヴィでワイルドなはずのロックンロールをアコースティック・ギター、ピアノからストリングスらで丹念に薄め、抑えを効かせ、毒気をすっかり乾かした、英国もの以外では決して感じられない格調高くも幽玄な雰囲気が特徴である。 サイケデリックなギターとオルガンもフィーチュアされるが、全体の印象はアコースティックでメランコリックなスワンプ・ロック、もしくはフォーク系のものである。 前のディケイドから連なる R&B 的な側面ももちろんある、しかし、一言でくくれないところが英国風でありプログレッシヴなのだ、と苦しいいい訳をしよう。 感傷にあふれ、哀愁にまみれながらも、希望の光がそっと射し込む、そういうブリティッシュ・ロックの魅力が詰まった作品である。
  ドラムスは、抜群の安定感に加えて、タイミングのいいフィルやロールをカマす、ケレン味のあるプレイを得意とし、いかにもテクニシャンという感じ。 地味目な曲調が主なだけに、ドラムスがかなり目立つところもある。 全体にマイナーのメロディ・ラインがややワンパターンな気もするが、豊かな情感をデリケートな表現で紡ぎだすという点では、やはり英国ロックの真骨頂である。 「Bluebell Wood」は薄紫の釣鐘型の花をつける、可憐な草だそうです。プロデュースはルウ・ライツナー。 本 CD は製作クレジットがほとんどなく、プライヴェート盤の可能性も高い。

  「Death Of A Hope」(5:32)ウェザース作。 このたおやかなヴォーカルがウェザースなのだろうか。 哀愁あるメロディと品格あるストリングス、ピアノ。 枯葉を踏みしめる音と切ないまでに青く透き通った空。 遥かな思い出。 おセンチです。
   ピアノとヴォーカルによるロマンティックなバラードにストリングスがかぶさる、秋風のような作品。 間奏は、ビート・ポップ風のアップ・テンポのコーラス、そしてメロディアスなギターとストリングス。 さらにはオルガンも交えて、物憂いドラマを描いている。 郷愁とともに、強いイメージを呼びさます傑作だ。

  「Odd Song」(3:50)ホプキンス作。 ぐっとソウルフルな声質による抑えた歌い方は、さすがリード・ヴォーカル。 土臭いといっても、アメリカとイギリスでは、そもそも土の香りが異なるのだ。 メランコリックなバラードからリズミカルなロックンロールへの変化が鮮やか。 ピアノ、ベースのツボをおさえた演奏がいい。 プロデューサーが本作と同じ人であり、ウェザースも楽曲を提供したグループ ANCIENT GREASE に提供された作品だったようだ。
   ソウルフルなヴォーカルが渋い味わいをもつ、美しく、アコースティックな弾き語り。 オルガン、ピアノ、コーラスが深い余韻を与えており、冬枯れの林を歩いているような気持ちになる。 アーシーになり過ぎず、感傷的だがクール。 終盤で、意外にも軽快なロックンロールへと変化する。

  「Free Life」(6:23)ウェザース作。 やや強めのエコーに救われているヴォーカルは、ウェザースかフランシスか。 ドラマを孕む下降ベース・ラインが耳に残る。 思いを込めたメロディアス・マイナーのヴォーカルを支えるギター、オルガンのオブリガート/間奏は、やがて爆発的なオルガン、ギターのソロへ突き進み、憂いをはらんだまま激情が迸る。
   愛らしいイントロから、意外やオルガン、ギターが高鳴るブルージーなバラードへと進む。 ハイトーンのヴォーカル、アコースティック・ギターのアルペジオとヘヴィなギター、オルガンをゆき交う変化のある曲調は、LED ZEPPELIN の境地に迫る。 安定しているようで激情に突き動かされるように意表を突いた展開があるところが魅力だろう。

  「Aunty James」(4:41)フランシス作。 洒落たピアノのイントロダクションと憂鬱な歌メロ、オブリガートが愛らしくもクールな英国ポップらしい作品。 オールディーズのノスタルジーとサイケデリック・ロックのストレンジネス。 独特の単調さと急な変転。
   素っ気ないメイン・ヴァースとコーラスのビート・ポップ風ハーモニーの明快な対比で曲をドライヴする。 オルガンも交じるが、バッキングはピアノが中心。 ドラムスはダイナミックなプレイを放ち、音処理にも凝る。

  「Saint & Sceptic」(6:30)フランシス作。 ルネサンス・バロック調のアコースティック・ギターとオルガン、弦楽のクラシカルなアレンジが美しいメロディアスなバラード。 ワウ・ギターやドラムスのテープ逆回転といった小技もあり。 この大仰な感じはサイケの名残か。
   ワウ・ギターがけたたましく、中盤ストリングスが劇的に高鳴るイタリアン・ロック風の間奏部がある。 終盤のジャジーなリズムと MOODY BLUES 調のコーラスも意表を突いている。

  「Bluebell Wood」(11:15)フランシス作。 熱っぽさをもちながらも悠然たる底流が感じられる超名曲。 スワンプ風のヴォーカルがすばらしい。 間奏ではソプラノ・サックスやフルート、メロトロンも現れる。 さまざまな音で変化をつけながら後半訪れるオルガンと、ギターのせめぎあうクライマックスは、まさに白熱と忘我のサイケデリック・ロック。 THE BEATLES からプログレへと進み、遂にたどりついた境地が、この作品なのだろう。
   「ラーガな」タイトル大作は、サイケを通過した独特のグルーヴをもつ最大の聴きもの。 サックス、フルートも加わったインストゥルメンタル主体の作品であり、幻想的なコーラスやギター・アンサンブルを経て終盤に訪れるエキサイティングなクライマックスは、ドラムスも含めて YES 的ともいえるスリリングで華やかな演奏である。

  「Watching Love Grow」(2:32)フランシス作。 前曲の熱気をクールダウンするような、ノスタルジックな響きが切ない作品。 メローなヴァースとリズミカルなサビの華麗なコントラスト。 伝統を感じさせる粋さである。
   6 曲目の余韻の中で聴くとなんともいい感じのバラード。 AOR に仕上がりそうなメローなナンバーだ。

  「When The Sun Was Out」(3:38)フランシス作。 ハンド・クラッピングも入るエピローグ、アンコール風のモータウンなオールディーズ。 THE BEACH BOYS、初期 THE BEATLES、ポール・マッカートニー直系サウンド。
  
(PEG 4 / HMP CD-005)


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