BLEZQI ZATSAZ

  ブラジルのプログレッシヴ・ロック・グループ「BLEZQI ZATSAZ」。91 年結成。2008 年現在作品は二枚。リーダー格のキーボーディストはブラジルの著名 HM グループのメンバー。

 Rise And Fall Of Passional Sanity
 No Image
Fabio Ribeiro electric keyboards
Luiz Sacoman electric guitars
Chico Mocinho drums, percussion
Ronaldo Lobo bass guitar, fretless

  92 年発表のアルバム「Rise And Fall Of Passional Sanity」。 内容は、アグレッシヴで感傷的な「ポンプ」・キーボード・ロック。 多彩なキーボードを操るキーボーディストを中心とした、きわめて華やかでセンチメンタルな演奏である。 力点は(カッコいいかどうかは別として)完全に「ロック」にあり、テーマとなるメロディやフレーズをクラシック調にする手法のようだ。 したがって、HR/HM 風の表現にずれ込むのも当然である。 また、アンサンブルやインタープレイの呼吸(カッコよさの原動力の一つである)に凝ることよりも、キーボードのテーマを 4 ピースのロック・バンドで手堅く支えているイメージである。 そして、オールド・スタイルというか往年のプログレらしさも、キーボードの音やプレイにわりと分かりやすく示されている。 7 拍子のリフや華やかなリフレインは、初期 MARILLION からだろうし、泣きのメロディック・マイナー調もプログレとヘヴィ・メタルとの融合以降 90 年代初頭の作品では、ごく自然なスタイルである。 一方、いかにもプログレらしい 9 曲目のジャズ、ブギー調も交えた破天荒な展開がやや背伸び気味、未消化に感じられるのは、70 年代のグループほどには、ジャズや R&B が音楽の素地に染み込んでいないのだろう。 すべてが細分化され整理された世界で未開の時代の逞しさをかぎわけ身につけるのは難しいということだ。 ただし、音楽的にはあえてそこに拘泥せずとも高みは目指せると思うし、時代が異なるといえばそれまでのことである。
   特筆すべきは、ゴージャスなサウンド・メイキングとそれをフルに活かすための録音、製作だろう。 ややキンキンしたエレクトリック調過ぎるきらいもあるが、このプロデュースがなければ、この音楽が活きない。 また、ニューエイジ、映像ドキュメンタリー的なサウンドという点では、SOLARIS に迫る。(7 曲目に顕著) 大仰系単発キーボードものとしては、かなり充実した作品であることは間違いない。 また、キーボーディストのプレイは、70 年代のスタイルを継承した明快で堅調なものだ。 テーマの提示と鮮やかな展開、バックグラウンドの構成など、間違いなくこのキーボードが演奏全体の推進力である。 ギターやリズム・セクションとのバランスもきちんと意識されており、バンド一体で音を出している感じがする。 このバランス感覚はおみごとである。
   さて、確かに豊かな素養にさまざまな技巧とパワーを身につけた天晴れな作風ではあるが、根が性急過ぎるためか、はたまた感情の起伏が豊か過ぎるせいか、ずっと付合っているとかなり疲れる。 PAR LINDH PROJECT のような完全クラシック+ブラスト・ビートではなく、NEXUS のような EL&P+HR でもない。 イタリアのプロジェクト DORACOR のような GENESIS+ポンプに大量の砂糖とハバネロを加えるとこうなるのだろうか、とも思ったが、ハタと膝を打ったのは、イタリアの鬼才クラウディオ "GOBLIN" シモネッティ氏、そして、さらに遡れば、リック・ウェイクマン氏である。 そう、この派手で濃密で情熱的で完璧主義だがどこか気まぐれな感じ、詰め切らない感じは、まさにウェイクマン氏の芸風の後継である。 結論、新世代のキーボード・ロックの里程標として、長くいい位置を占める作品ではないだろうか。 傑作は 11 曲目。クラシカルな表現とロックらしいノリが共存する、分かりやすいキーボード・シンフォニック・ロック作品である。ヴィヴァルディ、バッハ、リック・ウェイクマン、リック・ヴァンダー・リンデン、クラウディオ・シモネッティ全部あり。

  「Dawn」(3:45)
  「The Last Wisdom」(6:34)
  「Mind」(1:08)
  「Heart And Soul」(11:40)往年のアナログ・シンセサイザーによるキース・エマーソン風のプレイが光る。全体としては、HM 系の泣きのハードロック・バラードか。エレガントなピアノのプレイはエマーソンとはタッチが違う。
  「Shine」(0:53)
  「In A Flash」(4:10)このピアノは明らかにバンクス流。タイトルと演歌なサックスは PINK FLOYD 趣味。
  「Friday Twilight」(6:44)
  「Haunted Recollections」(1:18)
  「The Wrath」(6:20)
  「Void, The Partner」(1:35)
  「The Rising」(6:30)
  「Snowman」(4:31)2005 年再発盤に収録。
  
(FGBG 4341.AR)

 The Tide Turns
 
Fabio Ribeiro synthesizers, acoustic guitarKiko Loureiro electric guitars
Hugo Mariutti electric & acoustic guitarsZe Renato electric & acoustic guitars
Richard Furck bassCarlos Desenha Gonzales bass
Ale Souza bassEduardo Ribeiro drums, percussion
Hugo Hori flute, tenor sax

  2000 年発表の第二作「The Tide Turns」。 キーボーディストを中心としたプロジェクト形式による十年ぶりの作品ということらしい。 内容は、メロディアスかつ無駄にテクニカルなギター・プレイとクリアで流麗なシンセサイザー・プレイをフィーチュアし、変拍子アンサンブルで迫る、ネオ・プログレ流のシンフォニック・ロック。 陰陽や軽重といったドラマとしてのメリハリはあまり効かせず、変拍子のリフの上でギターやサックスがひたすら優雅に舞い、切なく泣く。 クラシカルだがクラシックそのものではなくクラシカルな HR/HW を参考にしている。 また、ドラムスが強くないためにふわっとした印象があるが、ブラストするよりはこちらの方が他の音に集中できると思う。(軽めの音で叩き捲くるというプログレ・スタイルを開発したカール・パーマーはやはり偉大であると再認識) 起伏が大きくないのでもう少し繰り返し部分を刈り込んだ方が、ちょうどいい感じで聴き流せるディスクになったはずだ。 14 分にわたる大作「Azzivulas' Suite」が聴きもの。フルートも加わって、SOLARIS 風の展開になります。 シャフル・ビートで金管風のシンセサイザーが雄叫びを上げるような展開がもう少し多いとよかった。(最後から二番目の大作の終盤が貴重!) 1 曲、オルガンによるバッハのアレンジものあり。 メローな AOR タッチに傾き過ぎてしまうところもあるが、ガッツでリカバリーもするので許容範囲である。 ASIA のファンにもお薦め。 全曲インストゥルメンタル。

  「L'être Et Le Néant」(6:49)
  「The Asphaeings Are Back!」(4:36)
  「Afterimage」(5:47)
  「Parallel Paradise」(5:01)
  「Thy Fake」(4:20)
  「The Well Tempered Drawbar」(3:19)
  「Ways Of Control」(4:31)
  「Azzivulla's Suite」(14:39)
    「I. Fleeting Dream
    「II. Pangs Of Death
    「III. Back To Our Minds
    「IV. Hereafter
  「Lilith」(3:36)
  「Soul Mirror」(4:23)
  「The Gates Of Ixtlan」(8:36)
  「Once And Again」(4:58)

(LU20028-2)

 Desequilíbrios
 
Paulo Preto vocals
Zé Renato guitar
Ronaldo Lobo bass
Henrique Iafelice drums
F&aacte;bio Ribeiro keyboards

  93 年発表の作品「Desequilibrios」。 「BLEZQI ZATSAZ」のキーボーディスト、ファビオ・リベイロが参加したグループ「DESEQUILIBRIOS」(86 年結成)の唯一作。 内容は、エレクトリック・キーボードを駆使しつつも、エキゾティックで神秘的な要素をふんだんに盛り込んだハード・シンフォニック・ロック、あるいはプログレメタル。 ギタリストのプレイがこの時期流行った「ピッキングはエコノミーなのに音数は無駄使い」系 HM ギターなので 90 年代の作品だと気づくが、キーボーディストの基本的な発想元は EL&P やマイク・オールドフィールドのようだ。 そして、多様な製作系の仕事にも携わる鍵盤奏者らしく、第三世界的な音や映画音楽系の素材もいろいろと取り入れている感じである。 メロディ・ラインには土着的なものも感じられるが、欧米の HM/HR やネオ・プログレッシヴ・ロックからのダイレクトな影響も強い。 もっとも、後者の耽美なウェットさを南米らしい乾いた心地よさへと転換できているところも多い。 変拍子の処理が取ってつけたような感じがするところが残念。 また、全体に、ギタリストが弾き過ぎない方が曲としてのまとまりがあったと思う。 ヴォーカルはポルトガル語と一部英語。

  「Na Correnteza Ácida Da Loucura」(6:20)
  「Como Se Eu Fosse O Máximo」(10:18)
  「Onde O Céu Era Cinza」(5:28)
  「Imagens No Vale Do Tempo」(5:43)
  「Passional Violência」(3:53)
  「Ritos」(6:00)
  「Anônimos」(7:00)
  「Baile De Máscaras」(3:37)
  「Prá Você」(5:17)

(PRW 009)


  close