BUBU

  アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「BUBU」。 専属作曲家の曲を演奏するというユニークな作品を一枚残す。 叙情派の多いアルゼンチンには珍しい、現代音楽的なヘヴィ・ロック。 MAGMA、初期KING CRIMSON に通じる重厚な内容である。

 Anabelas
 
Sergio Polizzi violinCecilia Tenconi flute, piccolo, bass flute
Win Fortsman tenor sax, wordsPetty Guelache lead & backing vocals
Eduardo Rogatti guitarEduardo "Fleke" Folino bass
Eduardo "Polo" Corbella drums, percussion    Daniel Andreoli composition, arrangement

  78 年発表のアルバム「Anabelas」 内容は、管絃、コラールによるクラシック・アンサンブルとフリー・ジャズ、エレクトリック・ギターを軸としたヘヴィ・ロックの強烈なエネルギーを吸収した、アヴァンギャルドな"ビッグ・バンド"・ロック。 いびつながらもメロディアスなビッグ・バンド・アンサンブルには、KING CRIMSON の直接的な影響に加えて、フランク・ザッパのオーケストラ作品(「Hot Rats」や「Grand Wazoo」など)に通じるものがある。 パワフルで重厚だが、決して難解ではなく、どこまでも豊かな音楽である。
   管楽器とヒステリックなロングトーン・ギターによる狂的なユニゾンが、たたみかけるような変拍子で走り抜け、弦楽器のレガートは、すぐさま引きつるような悲鳴へと変化する。 フルート、サックスは、フリー・ジャズ的なソロで暴れ周り、リズム・セクションは、挑戦的なパターンを繰り出しては暴走する。 さらに、うなりをあげてリードするベースは、MAGMA に近い。 と思えば、アコースティック・ギターと混声コラールによるリリカルな場面も用意されている。 おまけに、フーガのような高度なポリフォニーもしっかりと現れる。 さまざまな音楽の大胆な再構築の主眼は、どうやら、ジャズ・ロックのダイナミックなリズムとオーケストラによるカラフルな音色の逞しい組み合わせということらしい。 そのダイナミズムは主として攻撃性として現れるのだが、破天荒なようでいて綿密なシナリオがあり、ハイ・テンションながらも流れるような筆致でドラマが描かれる。 即興重視のアヴァンギャルド・ミュージックとは異なり、メロディアスでクラシカルなアンサンブル指向がまずあって、その構築/秩序の美感とフリージャズの力を借りたそこからの逸脱による緊張感が演出されている。 曲からくるイメージは、分かりやすいまでにミステリアスで破壊的、狂騒的で一貫し、展開の起伏は明快である。 したがって、意外にも聴きやすい。 クラシック的なコンポジションを基本に、パワフルなジャズ、ロックの用語も用い、逞しい演奏力で音楽として実現した作品といえるだろう。 傑作。

  「El Cortejo De Un Dia Amarillo」(19:25)厳粛にして躍動的、さらには暴力性と神秘性が入り交じって疾走し続ける濃密ロマン大作。 VdGG のクライマックスのような過激で逸脱調のインストゥルメンタルに、ときおり優しくなめらかなテーマが浮かび上がる。 特に中間部のヤケッパチ気味の演奏がいい。スキャットが現れてからの終盤は最上級のイタリアン・ロックに匹敵する情熱と詩興にあふれる。

  「El Viaje De Anabelas」(11:08)ヴォーカル、管楽器をフィーチュアしたビッグ・バンド・ジャズ風のロックンロール。 アルゼンチンものらしいメロディアスなヴォーカル・パートあり。 混声合唱や弦楽アンサンブルなどクラシカルで大仰な味つけはあるが、間違いなくロックンロールである。(一部行進曲かもしれないが?) インストゥルメンタル・パートは、緻密なリズム・セクションと流麗な上物のコンビネーションで走る。 エンディング近くには美しいヴァイオリン・ソロもある。 いずれにせよ、美は乱調にあり。

  「Sueños De Maniqui」(9:18)最初期の KING CRIMSON にマイク・オールドフィールドタッチのミニマル・ミュージック的な要素、MAGMA 風の強圧疾走感を加えた傑作。 中間部には「Talking Drum」の引用のような演奏も。 後半の声量豊かなヴォーカルと器楽との堂々たるやり取りから、破裂しそうなまでに緊張感が高まってゆくさまがみごと。 全体としては、「太陽」CRIMSON と 80 年代の CRIMSON の中間地点。

(MH-10.025-2)


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