CARTOON / PFS

  アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「CARTOON」。 79 年結成。 81 年自主製作にてアルバム発表。 83 年第二作を製作、ヨーロッパの Recommended Record シーンと交流するも同年解散。 86 年メンバーの一部で「PFS」として再結成。 クラシカルなサウンドが特徴。

 Sorte
 
Scott Brazieal keyboards
Herbert Diamant woodwinds on 8-12
Craig Fry French horn & violin on 8-12
Mark Innocenti guitars, bass on 2
Gary Parra percussion

  94 年発表の「Sorte」。 本 CD は 80 年に発表された自主制作のデビュー・アルバム「Cartoon」と、82 年に録音された第二作「Music From Left Field」のカップリング。
  第一作の作風は、フリーキーなアヴャンギャルド・ロック。 フリージャズ、近現代クラシック、不協和音、無調、即興、変拍子、ノイズ、コラージュといった技法やアイデアをベースに、シリアスにユーモラスに暴れ回れつつも調和と不調和を抜群の演奏力でひとくくりにできる、八方破れの痛快な内容である。 間違いなくクラシカルに熟達したピアノ演奏を軸に、KING CRIMSON/HENRY COW 直系のヘヴィ・ディストーション・ギター、シンセサイザー、オルガンに木管楽器、スネアを強調した打楽器も加え、集まったかと思えば散らばり、止まったかと思えばまた駆け出す演奏をめまぐるしく繰り返す。 特にピアノの存在感が全編を通して圧倒的。 リードにオブリガートにバッキングに躍動感あるプレイで活躍しっ放しである。 演奏は、基本的にベースレスで、低音域はピアノがカヴァーしている。 ギターは歪んだ、けたたましい音でリフやテーマを刻むことが多い。 パンクやニューウェーヴといった時代の音にも敏感そうだ。
   変拍子を多用する技巧的なアンサンブルだが、子どもっぽい奔放さ、荒々しさがある。(バンド名が「TV アニメ」ですしね) このモダン・クラシック的でチャイルディッシュな諧謔味があるおかげで、クロスオーヴァー、コンテンポラリー・ジャズ風のところがほとんどないにもかかわらず、カンタベリーとの共通性が感じられる。 特に、演奏の中心がキーボードなところとアンサンブルが技巧的なのにややズっこけるところは、キリキリ舞いするような攻撃性はさほどでないものの、SAMLA MAMMAS MANNA を思い出させる。 クラシカルなアンサンブルや音が集中するドラマチックな展開にプログレ心が感じられるものの、あえて脈絡をぶった切って予定調和に陥るのを避け続けるスタンスはリスナーを選びそうだ。 ユーモア過多の正統 RIO の後継者というべきだろう。
   LP の最終曲 7 曲目の大作は、散逸していた音が周辺から集まって見る見るうちに塊となってゆく、爆発的なパワー・チューン。 ヤケクソ気味のハードな演奏が、かなりカッコいい。 全体に音質はチープだが、その音質が作風に合っているとも思う。
  第二作はフルート、木管、ヴァイオリンらによるクラシック・オーケストラ風の音を残しつつも、即興によるフリー・フォームの演奏が主体となっている。 ピアノが大胆に既存の曲をパッチワークし、管楽器、ギター、打楽器の連携ならぬ連携、呼応ならぬ呼応が予断を許さぬ緊張を生む。 歌謡漫才か「みんなのうた」のようなナンセンスな逸脱調が目を惹く一方で、がっちりとまとまった瞬間の演奏は KING CRIMSONUNIVERS ZERO のように高密度でヘヴィかつ険しい。 現代音楽調のシリアス・ロック。 10 曲目のみが作曲もの。 なお LP 収録の「Trio」なる作品は、CD 収録容量の都合で割愛されている。

  「Shark」(8:16)ワイルドでパンキッシュな作品。カッコいい。
  「Ptomaine Poisoning」(8:02)序盤はキース・エマーソン張りの豪力ソロ・ピアノ。打楽器です。ギターも加わってガレージ調のヘヴィな展開へ。ピアノだけは現代音楽。
  「Anemic Bolero」(3:33)アコースティックなサウンドによる目まぐるしく変化する快速ジャズロック。 ボレロといえばボレロ。どちらかというとお祭りのお囃子風。 高速トレモロのアコースティック・ギターをフィーチュア。
  「Flotsam」(4:01)ヴァイオリン、木管を使ったへヴィ・フリー・ミュージック。
  「Apathy In America」(5:33)普通のポップな曲を解体してデタラメにつなぎなおしたような作品。短時間で変化しすぎると逆に変化に鈍感になって気づかなくなってしまう自分がいる。
  「I Have No Teeth」(1:03)エレポップ風の異色小品。
  「Shredded Wheat」(11:22)凶暴なソロから頑固な子どものように狷介極まる変拍子アンサンブル、ドシャメシャ・ジャズロックまで気まぐれに暴れまわる痛快作。時おり大人びた風情も見せるので始末に負えない。最後はスネークマンショーか。


  「Quotes 」(15:33)印象派かニューエイジかという音響空間と素っ頓狂な前衛ロックと不安定な即興空間を行き交う。「Imagine」、「Maple Leaf Rag」も出現。「引用」ですからね。
  「Bedlam」(4:47)
  「Light In August」(5:44)UNIVERS ZERO 調のヘヴィ・チェンバー・ロック。
  「Scherzo」(3:40)
  「Bottom Of The Ninth」(4:04)

(CUNEIFORM 55005)

 279
 
Scott Brazieal piano, keyboards, tapes
Herbert Diamant sax, bassoon
Gary Parra percussion, noises
Reed live visuals
guest:
Craig Fry violin
Bill Johnston cello

  PFS として 89 年に発表された第二作「279」。 編成は、ピアノがメインのキーボード奏者、管楽器奏者、打楽器奏者のトリオで、ゲストとしてヴァイオリン、チェロの弦楽器奏者二名を迎えている。 内容は、アコースティックなサウンドとフリージャズや室内楽の枠組みを活かし、厳格かつ攻撃的な姿勢を貫く狷介不羈な現代音楽。 いわゆるチェンバー・ロックである。 音楽の枠組みを崩壊させるような爆発的プレイと多旋律による厳格なアンサンブルが同居するところがおもしろい。 主役はサックスとピアノの力強く重量感あるプレイ。 両者の主張と協調のバランスもイイ。 クラシカルなニュアンスはゲストの弦楽器が生み出している。 ピアノはクラシカルというよりは自由奔放でパーカッシヴな表現が主だ。 管弦のドローンやストリングス系シンセサイザーのアンビエント・サウンドによるサイケデリックな浮遊感もある。 険しさと独特のユーモアを見せつつ黙々と歩み続ける、といえばいいだろう。 ライナーノーツによれば、ほとんどが即興演奏に近いようだ。 ECM のジャック・デジョネットの作品に、似たような味わいのものがあったような気もする。 展開はなかなか変化に富むが、決して冗漫ではなく、音もスリムに引き締っている。 はりつめた空気の中でときおり現われるメロディアスなソロやクラシックからの引用が美しい。 そういう場面ではゲストの弦楽器がうまく活かされている。 また、グレゴリオ聖歌やヒトラーの演説などのテープ・エフェクトの生むストレンジなドラマ性が音楽の奥行きをうまく拡げている。 映像的な音とエフェクトなどのコラージュ・アートのコンビネーションがいかにもアメリカらしいドライで猥雑な現代性を感じさせる。 エンディングのシューマンの演奏は感動的。 全編インストゥルメンタル。

  「The Road To Rome」()
  「Raising The Dead」()
  「Overtown」()
  「Solace」()
  「Fey」()
  「2 s's & 2 o's」()
  「Live First Die Jung」()
  「Leeward」()
  「Pasquinade II」()
  「Sigh」()
  「War」()
  「Theme In E-Flat」()

(CUNEIFORM RUNE 22)


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