CONGRESO

  チリのプログレッシヴ・ロック・グループ「CONGRESO」。69 年結成。 フォルクローレ・グループから出発、80 年代の電化時代にユニークな作品を残す。 フレットレス・ベースとマリンバ、トランペットが特徴的。

 Viaje Por La cresta Del Mundo
 
Joe Vasconcellos vocals, cueros, percussion
Hugo Pirovic flute, piccolo, melodica, vocals
Ricardo Vivanco marimba, percussion
Anibal "Pericote" Correa piano
Ernesto Holman bass
Fernando González guitar
Patricio González cello, charango, acoustic guitar, acoustic bass
Sergio González drums, percussion

  81 年発表の第四作「Viaje Por La cresta Del Mundo 」。 内容は、エキゾティックで素朴なヴォーカル・ハーモニーと超技巧的な演奏が特徴的なジャズ・フォーク。 チャランゴやギターをかき鳴らしながらの歌唱にフルートの調べが寄り添うと、通俗的なイメージ通りの朴訥な民族フォークロックとなるが、本作品はそこからのジャンプが凄い。 素朴なフルートの調べで幕を開けながらも、アコースティックでメロディアスな歌ものからシリアスなインストゥルメンタルまできわめて多彩な音楽性を見せつける。 フォークを下地にジャズ/フュージョン、ロック、クラシックをブレンドした極上の音楽である。 ワールド・ミュージック風の音に浸食された耳には初めはありがちなフォルクローレ・バンドに聴こえてしまうかもしれない。 しかしながらそんな疑念は、聴き進むうちに吹っ飛んでしまう。 アンデスなイメージを匂わせてエキゾチズムの魔力で迫るのみならず、驚くなかれ、フランク・ザッパもかくやとばかりの技巧的かつ挑戦的で豊穣な演奏が次々と現れるのだ。 唖然である。 吹きすさぶ風に漂うような哀感あるメロディと、音こそアコースティックだがきわめてモダンでメカニカルなアンサンブルのコンビネーションはハイテクなイタリアン・プログレといえば分かりやすそうだ。 ベース(フレットレス含む)、ドラムスは間違いなく超絶。 マリンバなど打楽器を活かした急反転する演奏がじつにカッコいい。 一方異国情緒は主にフラウト・トラヴェルソや他の笛に依り、さらにクラシカルな演出は弦楽器が担う。 ヴォーカリストは民族色を出しつつもポップス畑で通用しそうなソフト・ヴォイス。 エレクトリック・キーボードがないせいでメイン・ストリーム風の画一化が避けられたのかもしれない。 技巧と破天荒でロマンティックな曲想ががっちりと手を組んでおり、土臭さ一辺倒でもアーバン・メロー・フュージョンでもない筋金入りのプログレッシヴ・ジャズロックに聴こえます。
   2 曲目はスリリングなプログレッシヴ・ロックであり、なおかつ WEATHER REPORT 風のジャジーな叙情性をもつ傑作。 力強いトゥッティに魅せられるはず。 3 曲目は、やや田舎なフルート、ピアノながらも RTF からブラジル風味の代わりにアンデス風味を入れたようなジャズロック。 6 曲目のタイトル・ナンバーはハバネラのリズムの上で木管フルート、チェロが舞う南国幻想風の美しい曲。 JADE WARRIOR 的。 8 曲目も勢い・変化の切れともに十分あります。 ところでヴォーカリストのジョー・ヴァスコンセロスは高名なパーカッショニストの縁者の方でしょうか。

(EMI 8 34699-2)

 Ha Llegado Carta
 
Joe Vasconcellos vocals, cueros, percussion
Hugo Pirovic flute, piccolo
Ricardo Vivanco marimba, percussion
Fernando González guitar
Ernesto Holman bass
Patricio González cello, charango, acoustic guitar
Anibal Correa piano
Sergio González drums, percussion

  83 年発表の第五作「Ha Llegado Carta」。 内容は、アコースティックな民族音楽風ジャズロック。 民族音楽風の意匠を基調にジャズ、クラシック、ビート感ではロックといった多彩な音楽的広がりを見せている。 フォークソング出身らしく、プログレに到達するのにエレクトリック・サウンドは必ずしも要しない、という好例にもなっている。 (唯一電化を試みたのはベーシストであり、そのフレットレスベースの存在感がまた際立っている。ジャズロック的な抑揚を支えるのはこのパーシー・ジョーンズばりのベースである) 高山の乾いた風のようなヴォーカルは期待通りのローカリズムを放って止まないが、リズムやアレンジの鋭さ、幅広さが生む情趣は欧米主流とそん色ないものだ。 演奏力はもともとすばらしく高いのだろう、土の香りのフォークソングと本格クラシックやコンテンポラリーなポピュラー音楽、即興音楽の間を難なく、ごく自然に行き交っている。 リズミカルな歌ものフォークのバックでテクニカルなリズム・セクションが躍動し、野卑なリズムを吸い込むように神秘的なピアノがさざめき、素朴でメロディアスなテーマと大胆な即興が交錯する様子は、あたかもボロをまとった農夫がいきなり最新鋭のデバイスで国際電話をかけ始めたようで、呆気に取られるしかない。 演奏で目立つのは、ライヴ録音らしい最終曲で鮮やかな独演を見せるピアノ、アンサンブルを軽快な息遣いで波打たせるマリンバ、そして技巧派エレクトリック・ベースとシュアーなドラムスによるリズム・セクション。 鋭過ぎるリズム・セクションがのんびりした民族歌謡を支える様子はかなりおもしろい。 一方、アコースティック・ギターの弾き語りにはイタリアン・ロックと同質の胸を締めつけるような情感がある。 また、チャランゴや横笛の音による「アンデス」なイメージの演出は、今でこそ人口に膾炙したが、最初はすばらしく新鮮だったに違いない。
   4 曲目「Sur」は、オーケストラ作品。バンドからはドラムス、フルート、ピアノが参加か。 5 曲目「Primera Procession」は、ミニマルなマリンバ(?) が特徴的な作品。間奏部のアンサンブル、リズム・アレンジが大胆。聴きようによっては GENTLE GIANT 的である。 6 曲目「... Y Entonces Nacio」は即興を強調した野心作。 タイトル曲は、あきらかに欧米のジャズ/フュージョンを見据えたであろう傑作。RETURN TO FOREVER のようです。 作曲は一曲をのぞいてセルジオ・ゴンザレス。 イタリアン・ロックに魅せられた方にはお薦め。
  
(EMI 834698 2)

  Pájaros de Arcilla
 
Hugo Pirovic flute, vocals
Jaime Atenas soprano sax, tenor sax, flute
Patricio González cello, charango, spring quiro
Ricardo Vivanco marimba, congas, cymbals, castanets, backing vocals
Fernando González guitar synthesizer, triangle
Anibal Correa piano
Ernesto Holman bass
Sergio González drums, percussion, bongs, tambourine, bells, hand cymbals, bass drums, backing vocals

  84 年発表の第六作「Pájaros de Arcilla」。 メンバー・クレジットによれば、打楽器奏者が一人脱退し、管楽器奏者が加入している。 内容は、エレクトリック・ベースの音が大いに目立つ民族音楽ジャズロック。 初期 RETURN TO FOREVER を素朴でルーラルな味わいにしたような作風である。 ただし、「ルーラル」と感じるのはわたしが日本人であるからで、実際はチリのドメスティックな音楽に世界的な流行であるクロスオーヴァー、フュージョンを(やや遅ればせながらも)取り込もうと溌剌と腐心した成果というべきだろう。 民族の、ドメスティックな感覚を反映したという意味では、日本のフュージョンがどことなく演歌っぽかったり、「完璧なコピー製品」めいていたのも、実にうなずける。 太平洋のかなたとの共通点を無理やり探すとしたら「哀愁」だろう。 チリのことなど何も知らないのに、音には深く共感ができる。 不思議なことだ。 巧みな編集で曲間がつながれていて、全体がひとつの作品のような印象を与える。 ヴォーカルはスペイン語。

  「Voladita Nortina」(6:43)KING CRIMSON の「Islands」の作風を髣髴とさせるファンタジックかつ哀愁もある名曲。
  「Pájaros De Arcilla」(4:58)憂鬱さとほのかな救済を示唆する哀愁の歌もの。ピアノによるバラード調のテーマ伴奏と管楽器による行進曲風のテーマ変奏がそれぞれとてもいい。
  「Andén Del Aire」(6:03)ギター・シンセサイザーらしき怪しいアクセントが気になるも、渦を巻くようにテクニカルに発展するスリリングな佳作。鍵盤打楽器、ベースが冴える。 アンデスのザッパ。
  「Alas Invasoras」(6:46)前半はキメのフレーズが BRAND X っぽくミステリアス、中盤からはニューエイジっぽくもある民族ジャズロックへと展開。カリンバのような音となめらかなサックスが印象的。
  「En La Ronda De Un Vuelo」(4:36)フルートとピアノ、ベースが織り成す美しいインストゥルメンタル。JADE WARRIOR 風。
  「Allá Abajo En La Calle」(3:56)即興風のプレイとスピーディなテーマをたたみかけて険しさを強調したジャズロック・インストゥルメンタル。トーキング・フルートとテクニカルなベース、ノイズを放つシンセサイザー、ギターやブラスも切り込むアッパーでアグレッシヴな作品だ。4 分弱だがかなり濃い。
  「Volando Con Buenos Aires」(2:25)フェードインでいきなりクライマックスなジャズロック。 ウェイン・ショーターばりのソプラノ・サックスとパストリアス風のベース・プレイが飛び出してひた走り、ピアノも華やかに追いついてくる。
  「Misa De Los Andes」(28:48)本 CD の目玉であるボーナス・トラック。サンチャゴ大司教教会からの委嘱で 78 年に礼拝式用に作曲された作品。 11 部から構成され、歌詞は礼拝文をモチーフとするようだ。エレクトリック・ジャズロック・スタイル完成以前(ベースはこれくらいのほうがいいし、ギターにはっきりと見せ場があるところもいい)の作品だが、アルゼンチンの ANACRUSA と同じく、リズム・セクションを強調し、管弦合唱を巻き込んだスケールの大きい作品である。LOS CANARIOS の「Ciclos」を思わせるところも。
  
(Discos CBS 20.524 / M&C 555)

 Medio Dia
 
Sergio González drums, percussion, treatments
Raul Aliaga acoustic & MIDI marimba, percussion
Jaime Atenas tenor, baritone & soprano sax, flutes
Serge Campos bass, guitars, vocals on 9
Hugo Pirovic flute, alto sax, percussion
Jaime Vivanco piano, synthesizer, samples
guest:
Fernando González guitar on 1,4,10
Patricio González cello
Ernesto Holman fretless bass on 2
Simon González children voice on 8

  97 年発表の作品「Medio Dia」。 内容は、フォーク色を残しつつもサウンドが洗練されたジャズロック/フュージョン。 オリジナルメンバーは半分になったが、ゴンザレス・ファミリーはゲスト参加している。 エレクトリック・キーボードも普通に使われており、80 年代のアコースティック・ジャズロック的な魅力とはまた異なる、新しい切り口の音楽を提示している。 それは、一つにはニューエイジ、ワールド・ミュージックという意匠をためらいなく自然に身に着けていることであり、それを通じてメインストリームの音楽の好影響を吸収していることだろう。 ブラジリアン・ミュージック風の表現すら堂に入っている。 素っ頓狂にして切り刻むような感性の暴走こそもはや見当たらないが、音楽の充実度合いはまったく変わらない。 陳腐な表現だが、大人になってもセンスはいいのである。 また、サウンド面の洗練には製作面でもいろいろな寄与があったのだろう。
  
(3001 804)


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