CRAFT

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「CRAFT」。 THE ENID の元メンバーによって結成されたグループ。 作品は一枚のみ。

 Craft
 
William Gilmour keyboards, cover art
Grant Mckay Gilmour drums, percussion
Martin Russell bass, keyboards

  84 年発表のアルバム「Craft」。 シンセサイザー、ピアノを中心にした、優美なシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。 機敏なリズムでたたみかける場面から、音響に気づかった幻想的な場面まで、オーケストラを思わせる正統的な演奏である。 曲想/展開は、本家 THE ENID とよく似たロマン派クラシック調のもの。 おだやかな場面ではややニューエイジ風だ。 しかし、もっぱら印象に残るのは、力強いリズムで躍動的に駆け巡る演奏であり、メロディアスなシンセサイザーもそういう場面で一層いい味わいになっている。 ディストーションのかかったギターの音も、違和感なくアクセントとしてはたらいている。 シンセサイザーの音もどちらかといえばアナログ的ではないだろうか。 ファンファーレ調の金管の音がとても美しい。 キーボード・トリオではあるが、近代風のエキセントリックな和声や攻撃性、ヴォーカルがないため、全体には EL&P というよりは、やはり、元気で小粒な THE ENID というイメージである。 ギターの音はすべてベースを用い、カスタム・ペダル操作で出しているとクレジットされている。 曲のタイトルは、黄道十二宮のうち 6 つの星座を現すらしい。 時期的にはポンプ・ロック隆盛期ではあるが、いわゆる GENESIS クローンでは全くない。 全曲インストゥルメンタル。プロデュースはマーティン・ラッセル。

  「Aries」(5:51) 重厚なピアノと意外なほどヘヴィなギターがシャフルで突き進む、典型的なキーボード・シンフォニック・ロック。 オープニングは THE ENID の「In The Region Of The Summer Stars」の 1 曲目を思い出させるピアノがシャフル・ビートを刻み、テーマ部ではファンファーレ調のシンセサイザーが勇ましく走る。 ピアノのオスティナートには、エマーソン風のパーカッシヴにして華やかな調子がある。 ただし、ソフトな表情を見せるプレイの方が、より自然な気がする。 音数の多いドラムスがいかにもキーボード・トリオ。

  「Taurus」(3:54) シンセサイザー、ピアノとベース、マリンバらによる、ロマンティックで繊細な緩徐楽章風の作品。 ストリングス・シンセサイザーが夢見るような浮遊感を与える。 ヴァイブ、フルートを模したシンセサイザーによる、わななくような表情が美しい。 ドラムレスの叙情的な作品だ。

  「Gemini」(7:11) アップテンポの快活でドラマティックな作品 堅実なオスティナートや管楽器風の音色など、シンセサイザー・オーケストレーションと切り込むピアノは、きわめて THE ENID 的。 ギターによるアクセントが、不思議とオーケストラ的な効果をもっているところも、本家風である。 前半は、明るく溌剌とした曲調だ。 ここでも、ドラムスは隙間を埋めるが如く叩きまくる。 中盤、ニューエイジ風の EL&P のようなモダンなブリッジから、ギター主導のヘヴィながらもメロディアスな演奏を経て、ファンタジックな広がりを見せる。

  「Cancer」(6:57) 勇壮なファンファーレ風の金管、舞うようなフルート、そしてキット・ワトキンスを思わせるムーグ・ソロが美しいファンタジックな行進曲。 巧みに重なるシンセサイザーとギターのアンサンブルによるテーマ部分は、やはり THE ENID 風。 夢見るように美しいが、ほのかなメランコリーとエキゾチズムあり。 エキゾチックなテーマによるマーチを基本に、叙情的な演奏を交えてゆく。 ゆったりとした場面へ入るときのテンポ、音量の変化が実に自然でみごとだ。 終盤のギター主導のメロディアスな演奏がカッコいい。

  「Leo」(8:36) 勇ましくもやや軽いオルガンのテーマをシンセサイザーが彩る、ニューウェーブ・シンフォニック・ロック。 クラシカルなテイストは後退し、ここまでと異なるシンプルなドラム・パターンとシンセサイザー・ベースのせいで、いかにも 80' ハードポップ調に聴こえる。 CAMEL もこの頃こんな音でした。 ギターが活躍する後半で、ようやくドラマが感じられるようになる。

  「Virgo」(2:28)ピアノ、THE ENID 風のシンセサイザーによるロマンティックなエピローグ。 Xmas ソングのようだが、ストリングスを模すシンセサイザーはしみとおるように美しい。

  「Branislana」(2:36)あまりにロマンティックなピアノ・ソロ。 背景をうっすらとシンセサイザーが彩る。 ニューエイジ・ミュージックが氾濫し、陳腐化する前に聴いていれば、かなりの感動だったろう。 ボーナス・トラック。

  「And So To Sleep」(2:09)ラベルの夜のガスパールやドビュッシーの沈める寺を思わせる印象派風のピアノ・ソロ。 ボーナス・トラック。

(KDCD 1003)


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