DEVIL DOLL

  イタリア/スロヴェニアのプログレッシヴ・ロック・グループ「DEVIL DOLL」。87 年結成。謎のリーダー Mr.Doctor 率いるイタリアとスロヴェニアの混成部隊。作品は五枚。 ゴシック・ホラー色の強い演劇調チェンバー・ロック。デスメタルになりそうでならない奇跡的な作風である。

 The Girl Who Was ... Death
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Mr.Doctor voices, keyboardsEdoardo Beato piano
Albert Dorigo guitarLucko Kodermac drums
Bor Zuljan guitarJani Hace bass
Davor Klaric keyboardsSasha Olenjuk 1st violin
Katia Giubbilei 2nd violin
guest:
Paolo Zizich backing vocalsMojca Slobko harp
The Devil Chorus conducted by Marian Bunic

  89 年発表のアルバム「The Girl Who Was ... Death」。 声色を駆使するヴォーカリストを中心にした演劇調へヴィ・クラシカル・チェンバー・ロック。 バンド編成に弦楽奏、チャーチ・オルガン、混声合唱も導入した、大仰な芸術作品である。 したがって、ピアノやヴァイオリン、ハープらによるアコースティックで叙情的な演奏や、クラシカルで厳かな演奏が主となっている。 しかし、そういった純クラシカルな表現にドラムスやギターががっちりとからみ、時にリードして、オーケストラにはない疾走感や重量感、迫力を生み出している。 だから全体に展開にメリハリがある。 弦楽奏とギター・リフがオーヴァーラップして盛り上がるなどチェンバー・ロックらしさは満点だ。 本作品が名品足り得ているのは、二つの明快な性格、つまりホラー的な基調とロックらしい筋が通っていること、が互いに支えあっているためだ。 エキセントリックな面はヴォーカルが主役となってリードするが、器楽についても現代音楽調のピアノが暴れ、険しいヴァイオリンが絶叫し、雷鳴のような打楽器が轟くなど盛りだくさんだ。 クラシカル、ゴシックなドラマ性とエキセントリックな表情の演出が強烈なので、エレクトリックでへヴィな音が使われ、またデス声に近い表現もあるにもかかわらず HR/HM 色が目立たない。 叙景的なインストゥルメンタルも多く、音楽劇の劇伴を想定していただくと近いと思う。 よく聴くと、アレンジやヴォーカル表現やキーボードの演奏などに GENESIS に倣ったようなところがたくさんある。 作風として意外ではあるが、時期的にもネオ・プログレッシヴ・ロックの流行と近いので意識はあったのだろう。 ゴシック系のサントラ風音楽(よく知りませんが ELEND 辺りでしょうか)、と思って聴き始めても、この「プログレらしさ」に気づいてゆくうちに「なかなかいいじゃん」となる。いい作戦である。 もちろん、ホルスト、ストラヴィンスキーのファンにもお薦め。
   タイトルは、かの TV ドラマ「プリズナー No.6」に登場した敵方の女性の名前からとられたそうだ。 スリラー調の表現やジャケット写真から、モチーフはゴシック・ホラー的なものと思っていたので意外。 40 分一本勝負。(20 分あまりの沈黙の果て、「プリズナー No.6」最終回の一場面のダイアローグが流れ、続いてへヴィなアレンジの OP テーマが炸裂する...) ヴォーカルは英語。

  「The Girl Who Was ... Death」(66:06)
  
(HURDY GURDY HG-1)

 Eliogabalus
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Edoardo Beato piano, keyboardsRoberto Dani drums
Katia Giubbilei volin, stringsAlbert Dorigo guitars, e-bow
Rick Bosco bassMr.Doctor voices, organ, piano, celeste, accordion
guest:
Paolo Zizich vocalsBor Zuljan guitars
Jurij Toni tubaThe Devil Chorus conducted by Marian Bunic

  90 年発表のアルバム「Eliogabalus」。 内容は、前作よりも情感を前に押し出したクラシカルなネオ・プログレッシヴ・ロック。 謎の主題を、多彩な声色のヴォーカル、ロックバンド、混成合唱、管弦楽、ミュージカル風の表現などでまとめあげた、明快な場面展開のある音楽劇的な作品になっている。 ただし、デス・ヴォイスがリードするところでこそ弦楽や打楽器含め厳かなクラシック調、ゴシック・ホラー調が強まるが、今回は、ピアノやアコーディオン、ギターによるメロディアスでリリカルな表現やタイトでリズミカルなバンド・アンサンブルがそれを払底するばかりに存在感を放っている。 そういう意味で、チェンバー・ロックというよりは、ネオ・プログレと呼んだほうが適切なようだ。 何にせよ「怪奇骨董音音楽箱」GENESIS への憧れは強いと思う。
   基本はエキセントリックでシリアス、トラジックだが、それらと同時に、不思議な清らかさ、優美さ、お伽噺風のドキドキ感、コミカルさもある。 やはりオールド GENESIS やピーター・ハミルを思い出しながら聴くのが正解のような気がする。 時代が異なるのだから当然ではあるが、志向や表現形式が通じる ART ZOYD と比べると、こちらは格段にネオプログレっぽい。 ヴォーカルは英語。

  「Mr. Doctor」(20:30)エピローグのタンゴが秀逸。
  「Eliogabalus」(24:40)
  
(HURDY GURDY HG-6)

 Sacrilegium
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Mr.Doctor voicesFrancesco Carta piano
Roberto Dani drumsSasha Olenjuk violin
Bor Zuljan guitarsDavor Klaric keyboards
Michel Fantini Jesurum  pipe organ
guest:
Damir Kamidoullin celloMatej Kovacic vocals
Paolo Zizich vocalsThe Devil Chorus conducted by Marian Bunic

  92 年発表のアルバム「Sacrilegium」。 再びデス・ヴォイスが率いる極端なゴシック演劇調へと回帰。 弦楽奏、打楽器による緊張感あふれるアンサンブル、チャーチ・オルガンと混声合唱による宗教色、ピアノとヴォイスによる幻想的かつエキセントリックな現代音楽、サントラ調を駆使した重苦しいパフォーマンスにアグレッシヴなバンド演奏を盛り込み、クラシカルにして怪しすぎるドラマを描く。 リード・ヴォーカリスト Mr.Doctor は歌唱を超越したシアトリカルなパフォーマンスで強烈な存在感を示し、モノローグに支配されたところでは音楽は完全にオペラの劇伴と化す。 全体としては、重厚、厳粛にして怪奇と邪悪もあり、それゆえの悲哀と郷愁もある。 全編前世紀的なロマンの香りを漂わせており、特に背景知識がなくとも音楽だけでドラマを味わうことができる。 また、ネオ・プログレッシヴ・ロック的なところは随所にあるが、今回は GENESISMARILLION か?)に加えて PINK FLOYD も出てきた。 オーケストラルなスケール感、肌理の細かさ、音楽的包容力という点では一番か。 ピアノの響きとチェロの調べが美しい。 そして、Mr.Doctor はピアソラのファンのようだ。
   表題曲 43 分一本勝負。本編後しばらくすると埋葬が始まり、最後にテープ逆回転らしき不気味なモノローグが入る。(There is no dark side of the moon, really とかいってないよね??) ヴォーカルは英語。 タイトルは「冒涜」(英語の sacrilege)のラテン語表記らしい。
  
  「Sacrilegium」(49:16)
  
(HURDY GURDY HG-7)

 Deis Irae
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Mr.Doctor voicesDrago accordion
Jani Hace bassRoman Ratej  drums
Bor Zuljan guitarsDavor Klaric keyboards
Sasha Olenjuk violinFrancesco Carta piano
Norina Radovan sopranoDavor Klaric keyboards
Paolo zizich backing vocalsMichel Fantini Jesurum organ
guest:
Igor Škerianec celloFraim Gashi double bass
Irina Kevorkova violinSlovenian Philharmonic Orchestra 
Gloris Chorus backing vocalsMarian Bunic conducter of Gloria Chorus

  96 年発表のアルバム「Deis Irae」。 内容は、全 18 パートから構成される、弦楽とパイプ・オルガンを帯同したゴシック風味のネオ・プログレッシヴ・ロック。 デス・ヴォイスやお芝居調の強烈なヴォーカル、モノローグを狂言回しに、管弦楽が荘重かつ重厚なムードを高めるも、あくまで全体をリードするのはパワフルなリズムによるバンド演奏である。 いわば邪悪きわまる ENID であり、HR/HM の様式とは異なるベクトルをもつヘヴィ・ロックである。 伸びやかなギター・プレイとピアノの演奏は特筆すべきだろう。 また、弦楽とバンドとの呼吸もすばらしくいい。 コケオドシ的な音響作品だが、滑稽なまでの狂気が猛威を振るった後の厳かな調べに救済と悲哀が深く突き刺さっているのも事実である。 改めて、オペラからロックに向かうのではなく、GENESIS のような演劇ロックからオペラへと戻っていく過程の音だと思う。 終曲のシンフォニックな盛り上がりには意外なほどの感動がある。
  
(HURDY GURDY HG-10)


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