ブラジルのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「DOGMA」。 80 年代後半 SAGRADO 出身のフェルナンド・カンポスを中心に結成。 2000 年現在作品は二枚。 作風は、優美にして爽やかなメロディアス・シンフォニック・ロック。 夢幻の美世界をさまよいつつも、生の高まりをナチュラルに歌い上げる、ラテン/南米らしい感覚の音である。 ライトなフュージョン・テイストもあり。
Renato Coutinho | keyboards |
Daniel Mello | drums |
Fernando Campos | acoustic & electric guitar |
Barao | bass |
guest: | |
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Marcus Viana | violin (SAGRADO) |
92 年発表の第一作「Album」。内容は、熟練のギターが生み出すナチュラルなメロディとクリアな涼感あるシンセサイザーの組み合わせで優雅に描かれる、シンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
ギターは、ナチュラル・ディストーションで伸びやかなプレイを決めるオーソドックスなスタイルであり、キーボードもフュージョン・タッチの透明でリズミカルなプレイを主とする。
おもしろいのは、スタイリッシュなフュージョン系のサウンドながらも、典型的なネオ・プログレッシヴ・ロックのクリシェが顔をのぞかせるところだろう。
パット・メセニー風のゆったりしたアンサンブルに、突如トニー・バンクスが飛び込んでくるのだ。
一方残念なのは、リズムにやや躍動感を欠くところ。
サウンドが垢抜けているだけにもったいない。
マーカス・ヴィアナのゲスト参加がうれしい。
1 曲目「Beginnings」(6:23)は、本作を代表する作品。
クリアーなキーボードと深くリヴァーヴするギターのコンビネーションが生み出すサウンドは、ファンタジックかつフュージョン的な「くつろぎ」と健康的な躍動感に満ちている。
どちらかといえば、上品なクールさもある叙景的な内容といえるだろう。
演奏は、あたかも翼を一杯に広げて、勇躍飛翔しては舞い降りるような、悠然たる動きを見せてゆく。
キーボードのテーマは、どこまでもドラマティック。
前半、うっすらとした色合いながら自由自在のコード・ワークとオブリガートを見せるギターは、後半でソプラノの歌唱のような息を呑む第二テーマを提示し、華やいだソロを繰り広げてゆく。
躍動感あふれる佳曲である。
2 曲目「Clouds」(6:27)では、マーカス・ヴィアナのエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチュア。
華麗な音色に耳を奪われるが、基本的にはゆったりと歌心あるテーマを提示しており、突出することなくアンサンブルの一員として全体のムードを大事にした演奏をしている。
悩ましげな表情もいい。
シンセサイザーは、ヴァイブからフルートまで多彩な音で、抜群のアクセントになっている。
ギターは、前半はアルペジオによる伴奏に徹し、後半で誠実なメロディを丹念に紡いでゆくエモーショナルなソロをフィーチュアする。
ヘヴィ過ぎず泣き過ぎず、ロックらしいクールさを持ち続けるところがいい。
ヴァイオリンとのやり取りが鮮烈だ。
フュージョン期の CAMEL に、南米風のたおやかさを加えた感じといえるかもしれない。
メランコリックなバラード調のインストゥルメンタルである。
3 曲目「Nigth Wind」(6:26)のオープニングは、GENESIS の「Watcher Of The Skies」に酷似した、勇ましくたたみかけるリフレイン。
しかし、その勇ましいオープニングに続くのは、メロディアスなギターとキーボードのアンサンブルであり、おだやかでほのかにメランコリックな独特の調子である。
リズムレスのパートでは、ワールド・ミュージック、ヒーリング・ミュージック系の音作りを見せてゆくが、明確な語り口でリードしており、シンフォニックな重みがある。
重厚な史劇のサウンド・トラックを思わせるところもある。
後半は、ギターが朗々と歌う。
ギターのメロディには、PENDRAGON を思わせる「泣き」の表情もあるが、ウェットな情感を押しつけ過ぎず、ロックらしい骨っぽさがあるところが異なる。
パーカッション系のシンセサイザーのリフレインのサポートもいい。
苦悩しつつも、ポジティヴな姿勢を失わない。
フェード・アウトが残念。
4 曲目「Seven Angels In Hell」(8:13)は、透明感あるデジタル・シンセサイザーの 7 拍子リフレインによるオープニング。
この手の奇数拍子パターンは、忌まわしき 80 年代ポンプ・ロックの常套句であり、ちょっとため息が出てしまう。
しかし、ピアノとシンセサイザーが 3 連パターンによる 8 ビートのリフレインを持ち込み、ギターがゆったりと歌い出すところで流れは持ち直してくる。
緩やかな GENESIS といった趣だが、このくらいなら許そう。
そして、いったんギターが悠然と歌いはじめ、分厚く積み重なったアンサンブルができあがると、驚くほどの説得力がある。
ギターのフレージングは決して凝ったものではなく、ごくナチュラルである。
やはり自然な歌が一番ということか。
デイヴ・ギルモアからブルーズ色を取り去ったようなスタイルともいえる。
中盤、シンバルがざわめき、ストリングス・シンセサイザーとギターのアルペジオが流れ、ムーグが重なる辺りでやや軟弱になりかけるが、ベースのフレーズで辛くも救われる。
アクセントとして、いいタイミングだ。
その後は、ホィッスル系のシンセサイザーが前半のギターを引継ぐように、ゆったりと歌い上げる。
ストリングスに支えられたエレアコ・ギターのソロは、パット・メセニーか。
終盤は、再びデジタル・シンセサイザーによるトニー・バンクス風の 7 拍子リフレインでひた走る。
終わってみると、スローなテンポによるパット・メセニー調のネオ・プログレッシヴ・ロックという印象が残る。
前後の 7 拍子によるアップテンポのパートは不要かもしれない。
5 曲目「Movements」(8:09)は、木管楽器を思わせるソフトなシンセサイザーとアコースティック・ギターによる、穏やかなアンサンブルから始まる。
田園風景を思わせる演奏だ。
クラシカルなピアノがきっぱりとした表情を見せ、ベースが静かに歌い始めると、物語が始まり、やがてギターが切なく高鳴る。
PENDORAGON のニック・バレットを思わせるプレイだ。
ギターを受け止めるのは、重厚なストリングス演奏。
ブルージーな表情も見せて、ストリングス、ドラムスと対峙するギター。
朗々と歌い上げ、力強く進んでゆく。
柔らかなピアノが緊張を解きほぐすも、ギターはじっくりと歌ってゆく。
シンセサイザーのせわしないリフレインをアクセントに、ギターは悠々と演奏を続けてゆく。
テンポもゆったりと変化し、全体が着実な歩みを見せ始める。
キーボードが刻む和音、そしてしなやかに歌い続けるギター。
クラシカルなピアノのリフレインを経て、シンセサイザーが高鳴り、ロマンティックなストリングスが湧き上がる。
ゆるやかなギターの調べとストリングス、シンセサイザーのリフレインがシャフル・ビートにのせて、テンポよく走ってゆく。
最後は高らかなギターの一声。
TEMPUS FUGIT の第ニ作 1 曲目とよく似たナチュラル・テイストのシンフォニック・チューン。
ギターを大きくフィーチュアし、ダイナミックにストーリーを綴ってゆく。
アコースティックかつ長閑なオープニングからは想像できない昂揚感がある。
力作。
6 曲目「A Season For Unions」(22:08)は、20 分あまりのシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル大作。
集大成のように充実した傑作であり、この一曲のために本作はあるといってもいい。
ロマンティックで華やかなプレイを次々と紡ぎ、短い楽章を積み重ねたような展開を見せる。
とはいえ、あまりにカッチリと築き上げた感じはなく、どちらかといえば、奇想曲風の自由な発展が特徴だろう。
場面ごとの曲想も明快でみごとであり、ピュアでデリケートなイメージが自然と浮かんでくる。
ギター、キーボードともに広々とした空間で自在に振舞うが、特にキーボードは、GENESIS 風のメロディアスなテーマや波打つようなソロで場面をリードしている。
ギターとのやりとりも心地いい。
中盤に流れを失いそうになるが、終盤へ向けてきちんとドラマがあった。
前曲までのフュージョン・タッチを抑えて、よりロマンティックで詩的に迫った内容といえるだろう。
透明感ある、フュージョン風のネオ・プログレッシヴ・ロック・インストゥルメンタル・アルバム。
全体に、強いアクセントがなくダイナミクスも小さいせいか、第一印象は地味である。
それでも繰り返し耳になじませると、デリケートな音使いやアンサンブルの機微が分ってくる。
淡い色合いながらも、オプティミスティックな優しさにあふれている。
こまやかに音色に配慮したシンセサイザーもいい。
穏やかな表情に肯定的な力強さを蓄えた新時代のシンフォニック・ロックの佳作。
ネオ・プログレにフュージョン色を加えただけではないセンスのよさが感じられる。
(PRW006)
Barao | 5 string bass | Fernando Campos | acoustic & electric 6 & 12 string guitar, weird laughter |
Daniel Mello | drums, percussion | Renato Coutinho | keyboards, sequencers |
guest: | |||
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Renato Coutinho | weird voice | Titi Walter | vocals, Mermaid vocal on HYMN |
Guilheme Bizzotto | vocals | Ligia Jacques | vocals |
Strings | Choirs |
95 年発表の第二作「Twin Sunrise」。
エモーショナルでメロディアスな演奏を得意とするところへ、女性ヴォーカルやコラールそしてストリングスまで盛り込んで、さらにスケールが大きくなった快作。
豊麗なメロディにはちきれんばかりの想いを包みこみ、爽やかな歌声を響かせている。
演奏には、豊かな情感と雄大なスケールがそなわるとともに、明確さと切れ味も増している。
そして溌剌たる躍動感が、全体を通して鼓動のように脈打ち続けるのだ。
さらに、決めどころでのメロディ・ラインには、小気味のいい起承転結がある。
(いわゆるフック、ひっかかりがある)
淡く優しいメロディ、ハーモニーと丹念な音の積み重ねによるサウンド、イージー・リスニング的な聴きやすさ、そしてロックの運動性までをも結びつけたところが、いかにもモダンである。
シニカルなユーモアはなく、あくまで優しく癒すような音にあふれている。
往年のブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックとの違いは、まさに、その自分を笑うような余裕のあるシニシズムの不在であり、そこが誠実さというイメージの下の一種金太郎飴的な音になっている原因だろう。
もちろん民族性の違い含め、この音で癒されたい/浸りたいという指向と、ロックの向こうにさらに何が見えるか探し続けたいという指向の違いといってしまえば、それまでなのだが。
SAGRADO と非常に似たサウンドながら、彼岸的でヒューマニスティックな慈愛の響きというよりは、現世的なロマンティシズム、センチメンタリズムへの誘いというイメージが強い。
シンセサイザーがリードする雄大かつ明朗なシンフォニーである 1 曲目と、ドライヴ感ある演奏でプログレ・イディオム満載の場面を繰り広げるタイトル・ナンバー、そして明快にして上品な味わいのある 4 曲目の三つが代表作だろう。
また、2 曲目のアコースティック・ギター・プレイや 3 曲目のフルートに代表されるような、「泣き」のリリシズムも前作に続いてたっぷりと味わうことができる。
最後から、2 曲目は効果音を交えたワールド・ミュージック風のファンタジックな大作。
おだやかな音のなかにドラマがある。
JADIS や近年の PENDRAGON にも通じる切々と訴えかける演奏と、パット・メセニーを意識したようなデリケートなサウンド、PINK FLOYD を意識したような SE など小気味よくダイナミックなプレイが結びついた音楽は、正に現代のシンフォニック・ロックといえるだろう。
ネオ・プログレ・クリシェ的な面を差し引いても、素直なアクセスしやすさがあり、90 年代南米プログレを代表する一枚といえる。
三作目はあるのだろうか。
「Midday」(5:53)雄大にしてメロディアスなインストゥルメンタルの名品。キャッチーにしてシンフォニックな広がりのあるテーマを軸に悠然と進む。
トニー・バンクス調のオルガン、シンセサイザー、ピアノも楽曲とのバランスがよい。
「The Search」(7:19)パット・メセニー・グループを思わせるアコースティックでゆったりとした序章から、ややフュージョン・タッチのタイトなアンサンブルへ。
鮮やかなベースのプレイも披露される。
粒の揃ったピアノが伴奏しメロディアスなシンセサイザー、ギターが朗々と歌う。
中盤からは、SAGRADO を思わせる女声ヴォーカルやファンタジー活劇調の SE を交えたスリリングな展開へ。
悠然たる調子のなかにしなやかな歌心を感じさせる大作だ。
「Burn The Witch」(5:37)密やかな弦楽と可憐なフルートが歌う叙情的なインストゥルメンタル。
イントロからエレアコ・ギターの響きが切なさをかきたて、豊かな音色のピアノがロマンの調べをささやく。
終盤コラール、弦楽による重厚なクライマックスを迎える。
ロマンティックなバラードだ。
「Hymn」(8:21)慎み深い喜びと慈愛に満ちた、文字通り賛美歌のようなヴォカリーズをオープニングに、親しみやすいギターのテーマと優雅なピアノがゆったりと舞うインストゥルメンタル。
どこかで聴いたような気がするのは、コード進行のせいだろうか。
リチャード・クレイダーマンのようなイージー・リスニングやサザン・オールスターズもイメージされる。
ストラトキャスターのナチュラル・トーンを用いたギターの表現はみごと。
優雅に揺れるような曲調に、ハーモニウム調のオルガンをリードにしためまぐるしい演奏を交えるなど、語り口はここでも巧みである。
「The Place(Where are You?)」(4:03)VAN HALEN や ASIA を思わせるきわめて 80' ポップス風のイントロに驚かされるが、本編は非常にメロディアスな歌もの。
ヴォーカルは、アンディ・ラティマーを思いきり意識。
終盤のリック・ウェイクマンばりのシンセサイザーがカッコいい。
「The Landing」(10:00)走馬灯のように湧き出る思い出を綴ったファンタジックな大作。
タイトル通り、雷鳴のなか飛行機が着陸する SE から始まるドラマ仕立ての序章から、クラシカルかつ重厚なオーケストラの轟き、そして哀愁のテーマが奏でられる。
息を呑むアコースティック・ギター・ソロとエキゾチックな男性コラールが重なる。
いつしかギターに導かれて、ストリングス系シンセサイザーの柔らかな調べが流れ出る。
マーチング・スネアとともに勇壮なテーマが奏でられ、悲劇の色合いが生まれる。
そして終盤、励ますように快調に走りともに涙する演奏は CAMEL そのもの。
インストゥルメンタル。
「Twin Sunrise」(12:19)キーボードのオスティナートを軸に、リズムを変化させつつ進んでゆく、華やかなプログレらしい作品。
ピアノのオスティナートが支える 3 拍子と 2 拍子のポリリズミックなアンサンブルは、いかにもプログレ風。
ギターによるメイン・テーマは、中盤にようやく現れる。
変拍子を交えるなど、なかなかテクニカルだが、音色の柔らかさとメロディの優しさがそれをあまり意識させない。
終盤で堰を切ったようにピアノが弾け、鮮やかなオルガン・ソロが突き進む演奏へ。
最後に、フィード・バックとブルーズ・フィーリングを活かしたアンディ・ラティマー流のギター・ソロが堪能できる。
この終盤の、DEEP PURPLE ばりの演奏は意外だった。
インストゥルメンタル。
(PRW019)