DRAGONFLY

  スイスのプログレッシヴ・ロック・グループ「DRAGONFLY」。 70 年代中盤からキーボードのマルクス・ヒュッシとギターのマルセル・イーゲを中心に活動。 83 年解散。 英国のプログレッシヴ・ロックに影響を受けた無名のグループであったが、80 年代末に発掘され注目された。

 Dragonfly
 
Rene Buhler lead vocals, percussion
Markus Husi keyboards
Marcel Ege guitars
Klaus Monnig bass, Taurus bass, vocals
Beat Bosiger drums
Patrick Baumgartner bass on 6

  81 年発表の唯一作「Dragonfly」。 内容は、やや暑苦しくも伸びやかなヴォーカルを中心とするロマンチックなシンフォニック・ロック。 80 年代ハード・ポップ、産業ロック系のポップ・テイストもあるが、81 年という早めの時期な分、70 年代終盤の YES/EL&P にドイツ的な垢抜けないハードロック風味を加えた作風といった方が適切だろう。 全パートが元気に音を出すが、あまりががちゃがちゃせず、安定したグルーヴを供給する演奏である。 ギターはオーソドックスなプレイヤーであり、キーボードは、オルガン、シンセサイザー、ピアノから豊かなフレーズを放ちギターとフロントを分け合う正統的なプレイヤーである。 他にも、タム回しがうるさいドラムスとクリス・スクワイアばりのダイナミックなベース・ラインなどが特徴だ。 明るめのメロディ・ライン、テクニックを意識させないながらも明快で安定したアンサンブル、ユーモアも交えた演奏は、一流どころと大差ない。 ただし、全体にドイツ圏らしくどことなくもったりとしたところはある。 清潔感のある、ロマンティックな作風だが、ピントが完全には合っていない感じがあり、鋭さや清冽な美感はない。ただし、そこから巧まずして暖かみが生まれている。 これは録音レンジや製作の方針にも関係するのかもしれない。
   プログレという観点では、やはり B 面の組曲。 クラシカルなピアノ・ソロ、アコースティック・ギターのアルペジオから、次第に広がりを見せてゆく序盤の語り口はみごとだ。 中盤のギターも優美なメロディを歌わせている。 そして、シンセサイザー・ソロでは、トニー・バンクスそのもののようなレガートの極致の演奏を見せる。
   作品ごとにバラツキはあるものの、全体の印象はすっきりとまとまりがよい。 「Trick Of The TailGENESIS や「究極」YES が好きな方はハマるかも。 アルバムは、78 年から 81 年にかけて録音され、自主レーベルから発表された。

  「Behind The Spider's Web」(5:10)キャッチーなヴォーカル・ナンバー。 サビはなかなかいい感じだ。 ギターやベースのプレイは YES を思わせる。

  「Shellycoat」(7:11)P.F.M の「Celebration」を髣髴させるシャフル・ビートのインストゥルメンタル。ユーモラスなタッチである。 クラシカルな 8 分の 6 拍子とムーグ・シンセサイザーやオルガンの調子などは、EL&P 的でもある。

  「You Know My Ways(I Belong To You)」(3:52)ピアノ伴奏によるラヴ・ソング。

  「Willing And Ready To Face It All」(5:17)アップ・テンポのハードロック。 スペーシーなシンセサイザーのソロが秀逸。演奏スタイルのせいか単調になりやすい。

  「Dragonfly」(18:30)初期 GENESIS 調の、ピアノ、アコースティック・ギターによるファンタジックなオープニング。 本格的なクラシック・ピアノ・ソロをはさんで、中盤は、夢幻の境地に遊ぶヴォーカル・コーラス・パートからギターのリードするやや緊張感のあるアンサンブルへ。 メロディアスなギター・ソロに続くシンセサイザー・ソロは、完全に「Firth Of Fifth」である。 終盤は、ヴォーカル、ギターのリードによるリズミカルにして技巧的なアンサンブルが続いてゆく。 今更ながらに YESEL&PGENESIS のいいところ取りを狙ったようなサウンドである。

  「Humdinger」(7:04)CD ボーナス・トラック。

  「The Riddle Princess」(15:41)CD ボーナス・トラック。

(MUSEA 4148 AR)


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