ENSEMBLE NIMBUS

  スウェーデンのチェンバー・ロック・グループ「ENSEMBLE NIMBUS」。 93 年結成。 作品は三枚。 名ドラマー、ハッセ・ブルニッセンの参加で注目される。 本格的なチェンバーロック。

 Key Figures
 
Hakan Almkvist guitar, bass, voice
Lars Bjork clarinet, bass-clarinet
Hasse Bruniusson electric percussion
Stefan Karlsson keyboard
Kirk Chilton violin

  94 年発表の第一作「Key Figures」。 内容は、エレクトリック・ギターと木管楽器がリードするチェンバー・ロック。 演奏はギターと管楽器のハーモニー、ポリフォニックな進行を多彩な打撃技を誇るリズム・セクションとキーボード(デジタル・シンセサイザー)が支えるスタイルである。 クラシカルな管楽器と粘っこいロングトーンが特徴的なエレクトリック・ギターのプレイとパーカッションの効きがよく、室内楽+ロックというフォーマットが非常に明快。 特徴は北欧モノらしいトラッド・ミュージックらしさ、哀愁あるテーマ旋律やユーモラスで祝祭的なノリである。 思い切り SAMLA な「チンドン屋っぽさ」や「イナカっぽさ」も現れる。 そして、その「イナカっぽさ」がヘヴィな音とうまく結びついて手応えあるロックになっている。 もちろんリズムレスのパートでのクラリネットやヴァイオリンのどこか狂気じみたシリアスな響きはまさにチェンバーロックのもの。 しかし、チェンバーロックといった時の変拍子や無調、カコフォニーといった純現代音楽的な面、厳格さや狷介さよりも、ジャズやニュー・ミュージックをさらっと取り入れたロック、つまり HENRY COW よりも KING CRIMSONHF&N のようなプログレッシヴ・ロックとしての性格が強調されている。 RIO 風のラディカルなニュー・ミュージックの片鱗も見せつつも、素直なヤンチャさがそれを凌いで魅力的な、陽性チェンバー・ロックである。 80 年代以降のデジタル・シンセサイザーの専売特許だったパーカッション系の音質によるリフ主体のプレイがもはや懐かしい。 ドラマーはさすがに名手、アレンジに多彩な打撃技を生かしている。 若さを感じさせる内容であり、第一作だけあってやりたい音楽をぎゅうぎゅうに詰め込んでいる。

  「slaget(the battle)」(5:04)メランコリックではあるがリフのキレがよくノリのいい作品。 お祭りっぽいパーカッションが印象的。

  「förmaningen(the exhortation)」(4:48) ギターの演じるヒステリックなシリアスさとクラリネットのユーモア・センスがかみ合ったトラッド風チェンバー・ロック。

  「rabalder(the commotion)」(5:20)黄昏感満載のミュージックホール調フォークダンス・チューン。 中盤はリズミカルな即興風の展開となるが、キーボードとパーカッションの支えで持ち直す。後半のクラリネットと酔っ払ったロバート・フリップのごときギターのロカビリーっぽい絡みはイイ感じの安定感あり。 イカレたヴォーカル入り。

  「änglamakerskan(the baby-farmer)」(5:56)序盤はリズムレス、宙に満ちる見えない電磁波のようなうっすらとしたノイズとクラリネットの謎めいた調べがドビュッシー的な世界を統べる。 ギターが神秘的なムードを導くとぎこちない変拍子アンサンブルによるチェンバー・ロックらしい眉をしかめたような、それでいて少しふざけているような展開となる。

  「skrapan(the schramscraper)」(3:29)レガートなテーマを重ね合わせつつリズムに落とし穴を作るアンサンブル。 中盤のメロトロン風のキーボードがたゆとう抒情的な展開は KING CRIMSON に酷似。 ワウギターや高音部を攻めるベースのプレイなどが緊張感を引き出す。 ギターのプレイなどから 90 年代以降の KING CRIMSON の楽曲といっても分からなそう。

  「bo i bingen(lazy bones)」(5:52)ファンタジックで愛らしいテーマが不気味でかえって落ちつかないクラシカルなワルツ。 夜更けの幽霊や骸骨たちの踊り。怪しくもどこか乱調なキーボードとバス・クラリネット、ヴァイオリンのアンサンブル。ティム・バートンが使いそう。

  「hönsper(the eccentric farmer)」(3:44)ジャジーなクラリネットと透明感あるアルペジオによるムーディな演奏がリズム・セクションに焚きつけられてガレージロック調チェンバー・ミュージックへと変貌する。 ギターはややインド寄り。 前曲でも出てきたワウワウはヴァイオリンか?

  「motvalskärring(against the stream)」(4:17) ペーソスあるモノローグ・パートを再びややインド寄りのギターとピアノがドライヴする神経症的なアンサンブルでサンドイッチ。素っ頓狂なリズム・チェンジ。 軽快なドラムスがいい。

  「uti svängen(shake a leg)」(4:17)無声映画の劇伴のように忙しない変拍子コミカル・チューン。いいように狂乱するギター、調子よく走るクラリネットとヴァイオリン。SAMLA っぽさ全開。

  「nyckelfiguren(the key figure)」(3:26)ギターとオルガンと管楽器があまり熱くならずにうねうねとのたくる粘っこい表題作品。 オルガンの音色がハーモニウムのようで HENRY COW っぽい。 グラマラスであり鄙びてもいる。

  「ekivoka vänningar(indecent turnings)」(8:25)音響効果主体の、日本の時代劇をイメージさせる叙景的な演奏。 ビートの加わったアンサンブルはサスペンスフルかつ安定感あり。 スパイ映画の OST か。 ギターが加わると無理やりなリズム・チェンジやワイルドなプレイでテンションが上がってカッコいい。 ドラムスのシュアーなタイム感がいい。

(APM 9403 AT)

 Scapegoat
 
Hakan Almkvist guitar, bass, keyboard, tapes, loops, fx, voice
Lars Bjork clarinet, bass-clarinet, altered clarinet, loops
Hasse Bruniusson acoustic-electric drums, percussion, computers
Kirk Chilton viola, violin, voice
guest:
Tomas Bodin keyboard on 3
Stomu Imazawa bass on 4
Stefan Karlsson keyboard, accordion on 10

  98 年発表の第二作「Scapegoat」。 THE FLOWER KINGS のトーマス・ボディーンらをゲストに迎えた。 内容は、前作の作風において峻険さと虚脱感を極端に強調した狷介不羈な表情で一貫する本格的なチェンバー・ロック。 つまり一気に HENRY COWUNIVERS ZERO 化した。(逆にあからさまな SAMLA っぽさはやや減退) 木管、弦楽のポリフォニーと変拍子が主役となり、緊張感の高い演奏となる。 ロングトーンのギターは一歩退いてアンサンブルを補完している印象だ。(ノイズ製造機としてのプレイで目立っている) 前作のような快調なスピード感はなく、不安をかき立てる怪しさ、真っ当さの感じられない忌まわしさ、焦点の定まらない虚ろさ、といったあたかも理性を突き詰めた果ての病んだ精神状態を写し取ったような表現に重きがある。 現代音楽から派生したスタイルであり、まさしくチェンバーロックということか。 特徴的なのはタイトなビートで室内楽らしいきめ細かさをより生き生きと感じさせるのがうまいこと、肝心なところではクラシカルな美感を効果的に生かすこと。 また、キーボードのエレクトリック・サウンドとリスナーを渦に巻き込んで眩暈を起こさせる器楽アンサンブルとの相性は悪くない。 リズムレスのパートでのシンセサイザーやノイズ、エフェクトを多用したスペイシーでサイケデリックな演出もセンスがいい。 不思議なことにそういうパートの方が演奏よりも突拍子の無さが少ない。 曲間にブレイクがない(クロスフェードもあり)箇所が多い。 作曲は、全曲ハカン・アルクヴィスト。

  「Burning Arrows」(8:48)冒頭の金属的なキーボード音に ART BEARS かっ!と胸が熱くなるチェンバーロックの佳作。変拍子を刻むシャープなドラミング。うねり絡まる管弦楽器アンサンブル。挑発するギターとアジテーション。首筋が寒くなる深刻さと禍々しさとチンドン屋的脱力。

  「Three Figures」(5:30)ほのかにユーモラスながらも毅然としたテーマのおかげで終始端然とした緊張感のある作品。

  「Empty Chairs」(2:39)ノイジーなピアノとギター、ドラムスによる SAMLA 調転落ソング。 即興風の乱調ピアノはトマス・ボディーン。

  「Algrebra Of Needs」(3:43)ばらけた音、ノイズによる即興演奏。ギターの主張がスタイリッシュ。

  「Useless Passion」(3:43)ヴァイオリン、木管のトラジックな絡みに鋭くリズムが撃ち込まれるチェンバー・ロック。 ロングトーン・ギターもカッコいい。ロックの開放的なパワーが精緻だが内向的な室内楽をこじ開ける。

  「Offering」(7:22)序盤は教会風のオルガンにヴァイオリンの調べが寄り添うバロック調の厳かな演奏。 ギターをきっかけにタイトな 8 ビート演奏へと。モノローグ。

  「The Cross Of Infamy」(1:55)マリンバのプレイをフィーチュアしたノイズのコラージュ。

  「Trial By Error」(4:42)堅固なピアノとギターがリードするスタイリッシュでロマンティックな作品。 ヴァイオリンの突っ込みも生きがいい。シンプルな 8 ビート室内楽のカッコよさ。後半はバスクラが導く中近東風味あるアンサンブル。

  「Middle Of The Moment」(1:59)前曲のエピローグ風。歪んだガラスに映る風景のようにエフェクトで世界が揺らぐ。 リズムのキレがいい。

  「Wooden Tuxedo」(5:17)アラビア風の弦楽がリードする変拍子チェンバーロック。ヴァイオリンとオルガンのやり取り。リフを刻む木管。中盤ではジプシー風の哀愁も。後半は管楽器主導で怪しくエネルギッシュに迫る。

  「Epigram」(3:26)管弦、ピアノで描く美しいエピグラム。

(TAP RHCD12)

 Garmonbozia
 
Hakan Almkvist guitar, bass, keyboard, tapes, loops, fx, voice
Lars Bjork clarinet, bass-clarinet, altered clarinet, loops
Hasse Bruniusson acoustic-electric drums, percussion, voice
Kirk Chilton viola, violin
guest:
Tomas Bodin keyboard on 3,4
Stefan Karlsson keyboard on 2,7

  2000 年発表のアルバム「Garmonbozia」。 96 年から 98 年にかけて録音された「Scapegoat」のオルタネート・テイク集。

  「Three Stories From The Blue Cage」(11:59)
  「Song For Salman」(2:11)
  「Specific Curtain」(3:10)
  「Radiant Brains」(2:51)
  「Emergency Landing」(1:38)
  「Ducks In Paradise」(3:01)
  「Absolute Zero」(3:41)
  「Turmoil」(0:49)
  「The Arrow Of Time」(4:23)
  「Rouge Moon」(1:23)
  「Scapegoat」(4:20)
  「Tornado Hunting」(6:01)
  「Anita's Scarf」(4:19)
  「Nose Painting」(2:54)

(TAP RHCD 25)


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