FLAMBOROUGH HEAD

  オランダのプログレッシヴ・ロック・グループ「FLAMBOROUGH HEAD」。 90 年結成。 作品は七枚。最新作は 2022 年発表の「Jumping The Milestone」。 CYCLOPS レーベルを支えたダッチ・ネオプログレのエース。 派生ユニットも多い。

 Unspoken Whisper
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Marcel Derix bass
Koen Roozen drums, percussion
Andre Cents guitars, backing vocals
Edo Spanninga keyboards
Siebe-Rein Schaaf  lead vocals, keyboards

  98 年発表のアルバム「Unspoken Whisper」。 内容は、メロディアスで哀願調の典型的な 90 年代ネオ・プログレッシヴ・ロック。 ネオプログレの要素、すなわち、アコースティック・ピアノも含めたヴィンテージ・キーボードによるクラシカルな表現、メタリックなスタカートでリフを刻みつつも綿々と歌うこともためらわないギター・プレイ、そして、なよやかなメロディ・ラインを生真面目にたどってゆくヴォーカル・ハーモニーといったファクターを、ロック本来の荒々しさや衝動性と対立させずに、むしろ巧みに協調させて、ロマンティックかつ重厚なドラマを描き切っている。 キーボーディストを二人擁するだけあって、アンサンブルはカラフルであり立体感もある。 アナログ・シンセサイザーの霊妙な音色のリフレインを透き通るようなストリングスのベールが包み、そのベールをあたかも水晶を響かせるようにアコースティック・ピアノの和音が震わせる。 これらの充実したサウンドで濃厚なメロディを丹念に彩り、しなやかなギターのリードと力強いリズム・セクションでさらなる生命力を吹き込む。 ファンタジーだがニュアンスや余韻で聴かせるのではなく、あくまでしっかりと主張があり、色付けも積極的で明快である。 この辺りは英国ロックの「含み」ある表現スタイルとはやや異なる、オランダ流ということなのだろう。 ただし、確かにメロディの冴えはオランダ流だが、いわゆるダッチ・ロックの人懐こさよりも「泣き」の要素、ブルーズ・フィーリングが顕著だ。 そこだけは英国ロック流といえるだろう。 これはなかなかユニークな特徴だ。 また、オールド GENESIS の流れにある MARILLION など 80 年代ポンプ・ロックの系譜を辿るのは当然として、その源流の一つである大御所 PINK FLOYD からの引水も隠さない。 ひょっとすると、少し後のポーランド勢、ドイツ勢の暗鬱系メロディアス・ロック隆盛はここらに端を発するのでは。 器楽の展開に若干冗漫なところはあるが、カラフルでメロディアス、そして若々しさあふれるシンフォニック・ロックとしては一級品といえるだろう。 オールド・ファンも、やや訛った英語ヴォーカルと「プログレ・メタル」系のヘヴィなギター表現にとまどうことがなければ、リッチなサウンドによるめくるめくファンタジーの趣きある楽曲に酔いしれることが可能だろう。 本作、個人的には 90 年代には陳腐すぎて聴けなかったが、年降るに連れ許容範囲がゆるゆるになったせいか、かなり聴けるようになった。 (それがいいことなのかどうかはまるで分からないが)
   ヴォーカルは英語。矛盾した表現で奇を衒ったタイトルはいかにも若気の至りだ。

  「Schoolyard Fantasy」(8:07)「Hey you ...」からして PINK FLOYD 直系な歌メロを GENESIS な鍵盤器楽が取り巻く、ありそうでなかった展開。 堅牢な構成による端正な作品だ。聴き終った感じは MARILLION に似る。

  「Wolves At War」(4:53)ギターがリードし、キーボードが脇を固める絢爛なインストゥルメンタル。 モダンでメタリックな CAMEL といった趣。 きらびやかでスペイシーなイントロダクションは、この後いつ快速変拍子のギターが走り出すかという期待でワクワクさせる。(「Luna Sea」辺りからの連想だ) 史劇風の勇壮なユニゾンが高鳴ってミドル・テンポでヘヴィなギターが歌いだすとその期待は裏切られるが、キーボードとギターが交互にせめぎあいながら朗々と音を紡ぐ演奏には、ストレートな高揚感あり。

  「Childscream」(7:19)ロマンティックなトーンの中にほんのり逞しいオルタナティヴ・ロック風味も漂わせる歌もの。 ギターに存在感あり。 MARILLION のバラードとの違いは、ほのかに憂いある表情のベースにあるオプティミズムだろう。 中間のアコースティック・ピアノも優しい。ヴォーカルのいきみとともに PINK FLOYD 風になるのは前曲と同じ。

  「Unspoken Whisper」(10:23) 初期 GENESIS のたおやかさと熱くなってもカッチリとまとまるところをよく再現した佳曲。 冒頭の和声進行は凝ったほどは効果が上がっていないが、調性が安定してからはスムースになる。 包み込むように優美でほんのり神秘的なキーボードのメロディ、リフレイン、進行に連れて成長してゆく姿をイメージさせる若々しいヴォーカルもよし。 ギターはキーボードを邪魔せずにレガートに徹して正解。 全体にキーボード中心のアレンジが奏功した作品だろう。

  「Legend Of The Old Man's Tree」(4:28)IQ のようなインストゥルメンタル。溌剌としながら粘っこく薄暗い。メロトロン・フルートあり。ファンファーレ調のムーグ・シンセサイザーやハモンド・オルガンもイイ感じだ。

  「Xymphonia」(10:06)詩情あふれる傑作。器楽は常にオルゴールのイメージ。

  「Heroes」(7:53)やや悪趣味なまでに子供向け番組風の明快なフレーズを次々と繰り出すインストゥルメンタル。 このイージーな感じは、EKSEPTIONTRACE と共通する。
  
(CYCL 063 / OSKAR 1066 CD)

 One For The Crow
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Marcel Derix bass
Koen Roozen drums, percussion
Eddie Mulder guitars, backing vocals
Edo Spanninga keyboards
Margriet Boomsma lead vocals, flute, recorder

  2002 年発表のアルバム「One For The Crow」。 内容は、クラシカルで朴訥、70 年代ロックの味わいを多く残したシンフォニック・ロック。 本アルバムより、ギタリストはエディ・マルダーに、ヴォーカリストは女性のマルグリット・ボームスマに交代する。 この交代はそのままサウンドの変化となって現れている。 音楽からプログレ・メタル風味は雨散霧消、CAMEL 風のメロディアスで暖かく、自然なブルーズ・フィーリングを放つものとなった。 ギタリストのプレイは良くも悪くも、ややハケット、ラティマー系に寄ったオールド・ロック的なスタイルであり、ヴォーカリストはさほど数多くはないシーンで健康的かつ優美なる歌唱を悠々と操る。 これに引っ張られるように、元々オールド・スタイルであったキーボードもさらにまろやかでチャーミングな気品を振りまくものとなった。 クラシカルなタッチも、凜と整ったというよりは、素朴で暖かみにあふれ和みテイストが強い。 ルネッサンス歌曲の伴奏のように愛らしいフルートやリコーダーも、これ以上ないというくらいに、ここの音にぴたっとはまっている。 そして、硬軟、緩急、静動といった抑揚や語り口の自然さは一作目をはるかに凌ぎ、楽曲は非常に充実している。 リフやテーマとなるフレーズは明快にして構成的であり、ほどよいスリルと心地よさとともに口ずさむこともできる。 どこまでも暖かく柔和ながらも、全体の聴き応えはしっかりとある。 初期 GENESIS から病的な幻想味と攻撃性を取り除き、CAMEL 的なファンタジーの味わいを強めた感じといえばいいだろう。 MARILLION ではなく PENDRAGON であり、70 年代イタリア黄金時代の B 級バンド的なニュアンスもある。 この時期のバンドにありがちだった取ってつけたような変拍子がないのも好感度高し。
   ヴォーカルは英語。

  「One For The Crow」(12:00)
  「Old Shoes」(13:13)
  「Separate」(1:39)
  「Daydreams」(6:18)
  「Nightlife」(10:07)
  「Old Forest」(2:46)
  「Limestone Rock」(9:59)
  「New Shoes 」(2:14)
    「Old Shoes - Reprise
    「Pure - 16th Of June
  
(CYCL 108)

 Tales Of Imperfection
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Margriet Boomsma lead vocals, flute, recorder
Marcel Derix bass
Eddie Mulder guitars, backing vocals
Koen Roozen drums, percussion, coffee
Edo Spanninga keyboards

  2005 年発表のアルバム「Tales Of Imperfection」。 内容は、つややかで優美、時に上品な憂鬱さを漂わせるメロディアス・シンフォニック・ロック。 ブルーズ・ロックから半世紀余り、ブルース・フィーリングをロックに封じ込める手腕もずいぶんとソフィスティケートされてきたと思わせる音である。 小気味いいバンドのパフォーマンスにストリングス系のサウンド、アコースティック・ギター、フルート、ピアノといった叙情派定番楽器を盛り込み、若々しくも早や円熟味を感じさせる。 溌剌としつつも抑えることも熟知したリズム・セクションは、バンドとしての躍動感と小気味のよさ、腰の据わった安定感を支えているし、耳になじむフレーズを粘っこく紡ぐギターは感動のキャリヤであるとともに独特のフックとしても機能している。 朴訥ながらも正攻法で歌いあげるスライド・ギターがじつにいい。 独特のひっかかり感やぎこちなさも含めて魅力になるところは、絶頂期の YES と同じである。 そして、キーボードがさまざまな音色とフレーズで、テーマを奏でヴォーカルを支えアンサンブルを彩り、演奏のすべてにわたって演出の仕上げをしていることはもはやいうまでもない。 フルート、リコーダー、シンセサイザーによる木管調の音はルネッサンス、バロック音楽のエッセンスを薬味のようにタイムリーに注ぎ込む。 一種の時代を超えた魔法のような内容であり、現実逃避として抜群の機能性をもつ。 震えおののくようなメロトロンやハモンド・オルガン、滾々と湧く森の泉の如きピアノ("Lamb" そのもののような表現もある)とフルートのさえずりに稚気凛々たるギターが重なると、プログレの醍醐味としかいいようのないふくよかな味わいがいっぱいに広がる。 また、アコースティック・ギターも加わったアンサンブルには、GENESIS だけではなく、その後のニューエイジ・ミュージック、ワールド・ミュージックの流れに通じるオーガニックな響きもあり。 ステレオタイプに陥りがちなヴォーカルよりも器楽に大きくスペースを割く作戦は的を射ていると思う。 クラシカルだが厳粛な重苦しさはなく、モーツァルトのように素朴な明るさと愛らしさ、突き抜け感のあるシンフォニック・ロック作品である。 ギターの表現は、いわゆる技巧志向ではなく、感情のひだをていねいにたどるようなアプローチであり、ブルーズにもジャズにも寄らずに素朴さとクラシカルな味わいを貫いている。 GENESIS はもちろん、古い英国ロック、たとえば FRUUPPDRUID のようなグループの作品と共通する牧歌調、叙情性があると思う。 女性ヴォーカルは英語。ソプラノではなく、清潔感あるコントラルトです。 唯一瑕疵があるとすれば、過去の著名な作品を含め「イイところ取り」すぎるパッチワーク的な作風なために、一部を聴くとどの曲のどの部分なのかがまったく分からない。
   本家本元から見ればすでに曾孫世代となる 90 年代ネオ・プログレッシヴ・ロックの正当後継者であり、血統に息づく情熱はいささかも衰えていない。 もはや伝奇的ですらあり、この情熱を半世紀前に怪奇骨董音楽箱を開くことでかけられた一種の「呪い」ととらえると、いったい人生とは何なのかという問いにまで遡れそうだ。 現代に甦った死人魔法遣いのシモーヌ・ロセッティに問いかければ、「知れたことよ」と顔を歪めて不気味に笑うだろう。

  「For Starters」(2:24)重厚な弦楽とスライドギター、リコーダーによる美しくも厳かなイントロダクション。

  「Maureen」(12:00)スティーヴ・ハケットのソロ作品を思わせる抒情的なシンフォニック・ロック。フルートとピアノが活躍。溌剌とした作風。6:20 のピアノはどこかで聴いたような。

  「Higher Ground」(7:00)キーボード中心のロマンティックなオムニバス風インストゥルメンタル。 「いいところ」のつぎはぎ感強し。フルートとアコースティック・ギターのデュオ・パートも。

  「Silent Stranger」(10:30)ヴォーカルの決然とした表情が印象的な力強いシンフォニック・ロック。「ロック」に重きあり。 ギターが展開をリードし、アコースティック・ピアノが盛り立てる。

  「Captive Of Fate」(8:08)フォーキーなバラード。12 弦ギターの眩い響き、そしてフルートの哀しい調べ。

  「Mantova」(8:39)CURVED AIR 風のやんちゃでパンチのあるプログレ・チューン。 オールド・ロック・ファンに訴えそうなギター・プレイ。やはり「いいところ」のつぎはぎ感強し。レゲエもアリ。インストゥルメンタル。

  「Year After Year」(3:11)ジャジーな大人のバラード。
  
(OSCAR 1068 CD)


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