GRAVY TRAIN

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「GRAVY TRAIN」。 69 年結成。 73 年解散。 作品は四枚。
  初期はフルートをフィーチュアしたヘヴィ・ロック、そこからプログレッシヴなハードロック、管楽器を用いるジャズロック、メロディアスなバラードとさまざまなスタイルを変遷した。 グループ名は「甘い汁を吸う」という意味の俗語。

 Gravy Train
 
Norman Barratt guitar, lead vocals
Barry Davenport drums
Les Williams bass, vocals
J.D.Hughes flute, alt & tenor sax, vocals

  71 年発表の第一作「Gravy Train」。 フルートをフィーチュアしたヘヴィなサウンドと紆余曲折ある大作指向が特徴である。 管楽器以外にも、LED ZEPPLIN 風のギターやアフロなドラムスなど個性的な音が多く、ブルーズ・ロックというくくりから大きく踏み出した内容といえる。 楽曲は、ブルース調から即興を活かしたプログレッシヴなハードロックまでヴァラエティに富み、すべて 5 分以上であり、ヘヴィな音を幻想性、夢想的なトーンが貫いている。 荒々しいようでハードロック的な娯楽性は感じられず、むしろ、人生の深遠なるものをとらえようとするかのような懊悩が感じられる。 決して卓越した演奏ではないが、アイデアがいい。 要するに芸術的なのである。 さまざまなしかけを持つ演奏だけに、しゃがれ声のヴォーカルの放つタガの外れた感じが活きている。 アルバム評などで「濃厚なアンダーグラウンド臭」という表現がよく用いられるが、そのいい方もまったく的を射ている。 英国ロックよりもイタリアン・ロック(DELIRIUM など)に近く感じられるのは、土臭さとフルートの調べだけではなく、奔放にして繊細な芸術性のためだろう。 プロデュースは、ジョナサン・ピール。

  1 曲目「The New One」(5:14) バスドラ一撃とシンバルのざわめきによる思わせぶりな幕開け、そして、アフロ風の重いドラムスが鳴り出すと、フルートとギターが荒っぽいリフを刻み始める。 男臭い音だが、リフは、何気なくも 8 分の 6 + 8 分の 7 の変拍子パターンであり、奇妙にダンサブル。 野蛮なダンスがぐるぐると回り、フルートがストリングス(フルートの音を加工して多重録音した可能性もあり)とともに、やおらクラシカルなソロを一くさり披露する。 フルートとドラムス、ギターによる荒っぽいアンサンブル、意味ありげなキメとブレイクを経て、ようやくメイン・パートが立ちあがる。
  ファルセットのコーラス、リズミカルなリフに支えられて、悪声ヴォーカルの登場だ。 切なくもソウルフルで重苦しいシャウトによる歌唱だ。 展開部は、一転してマイナーのブルーズ調。 メインパートの再現から、間奏は再びイントロのフルートがリードする 6+7 拍子アンサンブルに回帰。 謎めくギターのかき鳴らし、土人の踊りのような演奏から、クラシカルなフルートが哀しげに流れる。 空ろなストリングス(フルート?)の響き。
  フルートをフィーチュアしたムーディなヘヴィ・ロック。 変拍子のリフ、リズム・チェンジ、クラシカルなフルート・ソロなど、いろいろと盛り込まれている。 ブルーズ・ロック的なのは一部であり、全体的には叙情的、幻想的な作品だと思う。 イントロが長いというのもプログレの特徴の一つである。シングルカット。

  2 曲目「Dedication To Syd」(7:25) フルートのリフにギターが重なる引きずるように粘っこいオープニングから、フルートのリードでもったりとした 8 分の 6 拍子の演奏が続く。
  一転してリズムは軽くシュアーな 8 ビートに変化、ジャジーなギターの伴奏でフォーキーなメイン・ヴォーカルが歌い出す。 コーラスはテープ早回しのように甲高く加工されている。 2 コーラスでハーモニーは変調するようにピッチをあげて消えてゆく。 打ち鳴らされるシンバルとフルート。
  またも唐突に調子は変化、アクセントが特異な位置にある 10 拍子によるメロディアスなヴォーカル・パートとなる。 ソウルフルなヴォーカルに対して、ベース中心の伴奏はメカニカルで冷ややか。 間奏は、リフから自然発生的に発展するフリーキーなギターとフルートの即興演奏である。 脈絡なくフェード・アウト、いや、ベースのリフだけが遠くに残っているか。
  もはやエンディングか、と思わせる長い沈黙を経て、ふるえるような電子音のロング・トーンとともに、フルートによるフリー・フォームのソロが深いエコーにひたって続いてゆく。 再びフェード・アウト。 しかし、ハイハットとタムタムが刻まれて、リズムが戻ってくる。 ここのドラムスはなかなかモダン。 フルートとドラムスによる奇妙な切れ切れのユニゾンであっさり終わる。
  脈絡薄く変転を遂げながら結局元に戻らないイタリアン・ロック調の怪作。 激しい作品ではまったくない(むしろ冷ややかな感じがある)が、表現というか、姿勢は大胆である。 おそらく、いくつかのモチーフを繋ぎ合わせて即興も交えた作品なのだろう。 演奏のリードはフルートだが、奇妙なコーラスや急激なリズム、調子の変化といった「しかけ」が本当の主役だろう。 後半は、フリー・フォームの演奏が繰り広げられ、やがて楽曲の枠組が解体されてゆく。 本アルバムの特異点である。 Syd ってまさかシド・バレットじゃないよね?!

  3 曲目「Coast Road」(6:50) 冒頭から、フルートとギターが追いかけあう 12 小節のヘヴィなブルーズである。 フルートの表現は、ブルース・ハープに近い。 重く横揺れするリズムにのって、ギターがけだるくも冷気と熱気を兼ね備えたソロを繰り広げる。 ジミー・ペイジによく似たタッチのプレイである。 続いて、リードはサックスへ。 ギター・リフに触発されるかのように、かなりフリーキーに暴れるが、明快かつ渋みがあるいいプレイだ。 サックスとギター・リフが絡み合ううちに、ブルージーな空気が満ち溢れてくる。 そして、ようやく現れる典型的なブルーズ・ヴォイスのヴォーカル。 鮮やかなギターのオブリガート、そしてフルートとギターによる演奏から、再びサックス・ソロへ。 ギター・ソロも重なり熱い演奏が続く。
  ギターが主役を務めるヘヴィなブルーズロック。 フェスティバルでジミー・ペイジの代役を務めたギタリストだけに、さすがにスタイルはよく似ている。 リフの組み立てもソロの手癖もそっくりだ。 オーヴァー・ダビングされた二つのギターがせめぎあうソロやヴォーカルへ絡みつくオブリガートはかなりの聴きもの。 野心的なサックス・ソロなど、個性的なプレイもフィーチュアされている。 ただし、典型的なスタイルだけに、ミドル・テンポを刻むドラムスの切れ味がもう一つに感じられる。

  4 曲目「Enterprise」(6:23) スタッカートするフルートにギターのヘヴィなパワーコードが炸裂し、ドラム・ロールが重なる。 インパクトあるオープニングだ。 テーマは、アフロなタムの 7 拍子がドライヴするフルート、ギターのユニゾン。 突き刺さるオブリガート。
  一転切り返して、安定したミドル・テンポの 8 ビートに変化し、ビート・ポップ風のメロディアスなメイン・パートが始まる。 オブリガートは流れを断ち切る唐突な 5 拍子のフルートとギターのユニゾンであり、その勢いにつまづきそうになる。
  そのままテンポ・アップ、ギターとフルートのアンサンブルが続いてゆく。 ベースも機敏な動きである。 再び 5 拍子による突っ込み気味のオブリガート。
  7 拍子のテーマが再現。 目まぐるしい展開だ。
  今度は、ヘヴィでスローな 5 拍子で噛みつくようなヴォーカルがスタート。 ヘヴィなギター・リフ、ややイコライジングされてひしゃげたダミ声ヴォーカル、そして、ギター・リフにオーヴァーラップする激しく悶えるようなフルート・アドリヴ。 フルートもギターも加熱し、テンションが上がってゆく。 ヴォーカルも復活、酔っ払ってるようだが、ギター・リフ、フルートとともに力強く突き進む。
  オープニングのスタッカートのフルートが再現される。 太鼓、ギターの激しいプレイから 7 拍子のテーマへと進む。 くるくると早回しするようなユニゾンのオブリガートで終わり。
  目まぐるしいリズム・チェンジを導入したアヴァンギャルドなハードロック。 奇数拍子のリフを支えに、唐突に曲調を変化させてゆく。 ワン・コーラスの中にも変化がある。 意図的なのだろうが、きわめてあざとい場面展開であり、リズム・チェンジそのものもキレというよりは力づくである。 それでも、どこか憎めないのは何が何でも他とは違うことをやってやるという気概がにじみ出ているからだ。 中間部のフルート・アドリヴと 5 拍子のリフによる突進にはかなりの説得力あり。 ドラムスがミスってやり直すオープニングがケッサク。

  5 曲目「Think Of Life」(5:10) 奇妙なモノローグが消えてゆくと、ヘヴィなギターとフルートによるブルージーなリフがスタート。 フルートとノイジーなファズ・ギターがユニゾンする。 ヴォーカルはフルートを付き随わせてパワフルに迫る。 ビートよりもブレイクが強調された、乗車拒否型の曲調だ。 クセのある表情がいい。 フルートはヴォーカルにぴったり寄り添い、JETHRO TULL っぽさ満点。 フィードバック寸前のギターが、左右のチャネルを駆け抜ける。 リズムはひたすら荒々しく男性的。
  いきなりの転調、柔らかくパストラルなイメージのフルートの調べ、そして、ややテンポ・アップしてギター・ソロ。 軽やかなロックンロール調のリフが示され、パワフルなヴォーカルも加わる。 伸びやかなヴォーカルと無邪気に盛り上がるコーラス。 エンディングでは、テーマを変奏するフルートとヘヴィなギター・ソロが重なり合う。
  粘っこくブルージーな前半と軽快に躍動する後半から構成される作品。 ともにシンプルで味のあるギター・リフがドライヴする。 後半のブギー風の演奏はなかなかポップだ。 この作品ではフルートが比較的引っ込んでいるが、独特の牧歌調のアクセントになっている。シングルカット。

  6 曲目「Earl Of Pocket Nook」(16:14) ドラム・ロールとすさまじくひずんだギターのミステリアスな呼応からスタート。
  一転軽やかな 8 分の 6 拍子が走り出し、やや呪文めいたヴォーカルが歌いだす。 実はファズギター以外はわりと牧歌調である。 フルートはしっかりとヴォーカルに寄り添う。
  そのまま、軽快な 8 ビートとともにフルート/ギターのユニゾンによるジャジーなインストゥルメンタルがスタート。 ブルージーでややフォーキーで、なおかつジャジー。 ユニゾンから互いの奔放なアドリヴ・ソロを重ねたアンサンブルへ。 挑発し合うギターとフルートをランニング・ベースがクールに支えている。 ヴィブラートを効かせたギターとフルートは横一線で突っ走る。
  若干のテンポ・ダウンとともにサックス・ソロがスタート。 オブリガートは鋭く凶暴なギターが突き刺さる。 もったりとしたシャフル・ビート、そしてギターは次第にサックスを凌ぐ勢いへと登りつめてゆく。 サックスは負けじと二管吹きで対抗し、ギターとの狂おしいインタープレイが始まる。 ドラムスはもはや原始のトムトムである。 混沌。 サックス、ギター、リズムすべてのネジが緩み始め、ノイズが渦を巻く。
  フィードバック音といななくようなサックスが反応し合ううちに次第にリズムが形作られてゆく。 シャープなビートが復活し、再びサックスとギターのソロ合戦が始まる。 ベースはいらだつような高音リフレインを放ち、サックスとギターはもはやヤケクソ気味のアジテーションを続ける。 演奏は衝動の塊へと退化し、知性と秩序は霧消する。 ここまでで約 10 分経過。 先行き不安にさせる展開である。
  ギター、フルートの対話風のプレイが繰り返され、ようやく秩序が戻ってくる。 ドラムスは一気に元気を取り戻し、ワイルドなギター、荒れ狂うフルートをさらに挑発、ラウドな演奏で盛り上がる。
  なぜか再び演奏は勢いを失い、途方にくれる。 フルートとギターがきまぐれにつぶやき、互いに相手の反応にいらつくようなかけ合いが続く。 力尽きる寸前。
  目の覚めたドラムスは再び丹念なリズムを刻み始め、すぐに加速、ブルージーなギター・ソロとフルート・ソロが激しくぶつかり火花を散らす。 ドラムスが急ブレーキ、シンバルが打ち鳴らされるとギターがノイジーに反応する。 悲鳴を上げるフルート。 ヴィブラートで、もがき続けるギター。
  ギター・ノイズをきっかけに、フルートを中心としたオープニングのリフが復活する。 一転して行進曲風のスクエアな 4 拍子のアンサンブルへ。 襟を正したようなリフが繰り返されて、プツンと唐突に終わる。
  16 分にわたる奇天烈なジャム・セッション大作。 ヘヴィなギターによるリードで始まるが、リズム・セクションは次第にジャジーに変化し、中盤ではフリージャズをロックで模したような即興風のプレイが延々と続く。 さらに演奏は解体し、知性が破裂してその破片が散らばっているようなドロドロのフリー・セッションへ。 緩急・浮沈を繰り返しつつ、エネルギッシュではあるが的を大きく外れたようなプレイが続いてゆく。 それでも要所要所ではなかなかいいギターやサックスのプレイを聴くことができる。 やや辛くなるところもあるが、16 分がかなり短く聴こえるのもまた確かである。


  フルートを駆使した男臭く荒々しい演奏と、予想を裏切るような不可思議な曲展開が魅力のハードロック。 ブルーズ・ロックからハードロックへとシフトするときにジャズの洗礼を強く受けてしまった結果の産物のようだ。 センスあふれるギター・リフで突き進むハードロックにフルートと変拍子を盛り込んだナンバーには、新しいことをやってやろうという意気込みが感じられる。 管楽器を中心に全体にジャズ的なソロをフィーチュアするスタイルが貫かれており、ギターとフルートのアンサンブルや管楽器のソロはもちろん即興風のインタープレイもかなりおもしろい。 またヴォーカルは、イアン・アンダーソンほどではないがアクの強い曲者タイプ。 汗臭く男臭くソウルフルなのにヒネクレている。 1 曲目のリリカルなフルートとヘヴィ・ロックの落差に痺れるとハマるでしょう。 しかしこの先どういう発展を遂げるのか予想は困難である。 最後の大作は、ロック固有のヘヴィネスそのままをフリー・ジャズに持ち込んだ野心作。 ルーズでヘヴィなアートロックの名盤。
(Vertigo 6360023 / RR 4063-CX)


 A Ballad of A Peaceful Man
 
Norman Barratt lead guitar, lead vocals
Barry Davenport drums, percussion
Les Williams bass, backing vocals
J.D.Hughes flute, keyboards, sax, vocals

  71 年発表の第二作「A Ballad of A Peaceful Man」。 予想を覆す新機軸は、ニック・ハリスンによるオーケストラの導入であった。 アルバム前半は、ソウルフルなヴォーカルをオーケストラが支え、取り巻く牧歌調の作品が三部作の組曲のように並ぶ。 スワンプ風の土臭い歌ものを、ストリングスとフルートがドラマチックに彩る完成度の高い作品だ。 一方 B 面は、前作につながるヘヴィなロック。 ダミ声ヴォーカルとヘヴィなギターにコーラスとワイルドなフルートを絡めて独自色を出している。 前作の冒頭で見せたような変拍子による挑戦的なナンバーこそ見当たらないが、フルートは完全にトレードマークとなっていて今回も大活躍だ。 AB 面で完全に方向が異なるために面食らう可能性もあるが、後半の小曲の冴えにハマると聴き応えが出てくる。 押しの強さ、パワーという点では、前作に一歩譲るが多彩でヒネった面白さでは、こちらがリードしている。 個人的には、前半のオーケストラを使ったメロディアスでシンフォニックな歌ものよりも後半のハードロックがうれしい。 プロデュースは、マイク・ヴォーン。

  「Alone In Georgia」(4:33)リリカルなフルート、アコースティック・ギター、ピアノさらには優美なストリングスに彩られたスワンプ風のバラード。 泥臭いヴォーカルがカントリー・フレイヴァーたっぷりに歌い上げ、劇的なストリングスとスキャットによるハーモニーがヴォーカルを押し上げてゆく。 フルートとギターによる間奏が愛らしい。 弦楽オーケストラを堂々用いたハート・ウォーミングな佳作である。シングルカット。

  「(A Ballad of) A Peaceful Man」(7:09)ロマンティックなストリングスの響きに導かれてフルートがうつろな表情で歌い出すと 2 曲目である。 フルートの導くままにギターが高まりブルージーなソロへと入り、ヘヴィな曲調へと変化する。 それでもフルートのリードする冷ややかな雰囲気は変わらない。 やがて沈み込んだアルペジオとともに静かにヴォーカルが始まる。 それでもサビでは一気に高まり、スキャットをしたがえて切実なシャウトを叩きつけ、狂おしくギターがオブリガートする。 第二コーラスではヴォーカルにストリングスが厳かに寄り添う。 哀愁のストリングスと謎めいたフルート、静のメイン・パートと動のサビを組み合わせたドラマチックなバラード。 コーラスの盛り上がるシンフォニックなサビには、JETHRO TULL というよりは URIAH HEEPLED ZEPPELIN を思わせるロマンチシズムと哲学的な重厚さあり。

  「Jule's Delight」(6:58)重厚なストリングスの余韻。 そしてリリカルなフルートとチェンバロ、ざっくりとアコースティック・ギターが奏でられると 3 曲目。 ヴォーカルは、癒すような調子でおだやかなメロディを歌い上げる。 ベースはヴォーカルを相手に巧みに対位的な動きを見せて、前進する原動力となる。 アコースティックな音の中、シャウトして決めるヴォーカルは正調ハードロック。 後半フルートのリフレインとアコースティック・ギターのストロークにリードされ、演奏はリズミカルに変化し、木管を中心に管弦楽が緩やかに鳴り響いてゆく。 アコースティックにしてメロディアスな暖かみ、そして雄大なスケールも感じさせるバラード。 軽やかなフルートが耳に残る。 イタリアン・ロックにありそうなロマンティックなシンフォニック・チューンである。

  「Messenger」(5:58) 8 分の 6 拍子によるシンフォニックなバラード。 軽やかにしてトリッキーなフルート、ギターのユニゾンによるイントロから、メイン・パートのテーマまではあたかも「MirageCAMEL のよう。 どちらがオリジナルなのか興味あるところだ。 ハイハットを多用した 8 分の 6 拍子がジャジーな味わいを生む。 軽やかなフルートを受けたファースト・ヴォーカルは、ノーマン・バラットではなくヒューズなのだろう。 やや頼りなげで祈るような風情がテンポを落とした曲調にはあっている。 しかしサビではバラットが飛び込んで相変わらずの「いきみ」を見せる。 もっともこのダミ声を、幽玄なメロトロン・ストリングスがふわっとすくい上げるという大技もあり。 終盤は二人のヴォーカリストがそれぞれ楽器を手にして、8 ビートへの切りかえとともにファズ・ギターとフルートによるアドリヴ合戦へと突っ込む。 アルバム前後半の橋渡しのような存在といえる佳曲だ。 変化に富むプログレらしい作品である。

  「Can Anybody Hear Me ?」(2:59) フルート、ファズ・ギターのヘヴィなリフと険のあるダミ声ヴォーカルが食らいつくようなハードロック。 フレットレス・ベースがさりげなく存在感をアピール。 サビは意外にも爽やかなコーラスである。 最後はエモーショナルなギター・ソロ。 フルートやベース、ハーモニーをセンスよく散りばめて、表情が凶暴なだけにならないようにしている。 コンパクトだがいい曲だ。シングルカット。

  「Old Tin Box」(4:47) うねるようなギター・ストロークとサックス(エレクトリック?)がリードする R&B テイストたっぷりのハードロック。 メイン・ヴォーカルは再びスキャットに支えられる。 そして何よりメロディが切ない。 たたきつけるようなフルートのオブリガートは、確かに JETHRO TULL そっくりなのだが。 リズムレスの幻想的なシーンから、パーカッションをフィーチュアしたエキゾチックなシーンを経て再びサックスとギターが帰ってくる。 細かく刻むリズムとサックスが印象的ななめらかなハードロックである。

  「Won't Talk About It」(3:08) フルートと苛ついたギターによるリフがフィーチュアされたリズミカルで軽快な DEEP PURPLE 風ハードロック。 サビでは、ソウルフルなヴォーカルとフルートが鮮やかにユニゾンを決める。 小粋なイメージのあるブリティッシュ・ハードロックである。

  「Home Again」(3:31) ミステリアスなアフロ・ビートが印象的なビート・チューン。 ヴォーカルはヒューズ。 呪術的なリフを刻むフルートとギター、そして冷ややかなタッチのコーラスなど、ビート・グループとしての片鱗を見せている。

(Vertigo 6360051 / RR 4133-WP)


 Second Birth
 
Norman Barratt guitar, lead vocals
Barry Davenport drums on 1,5,7
George Lynon guitar
J.D.Hughes flute, keyboards, sax, vocals
Les Williams bass, backing vocals
Russell Cordwell drums on 2,3,4,6,8,9

  73 年発表のアルバム「Second Birth」。 レーベルを VERTIGO から DAWN に移した通算三作目。 今までの音の特徴を活かしつつも、さまざまな新機軸を打ち出している。 サザン・ロック調からフォーク、ややグラムっぽい曲まで多彩といえば多彩、焦点が定まらないといえば、そういえなくもない内容である。 凝った展開もあるが、全体としては、アメリカン・ロックの影響下ポップでアクセスしやすい音を目指しているようだ。 サックスやフルート、ソウルフルなヴォーカルなど、垢抜けないながらも TRAFFIC に通じるところもある。 あまりに露骨な西海岸趣味など、流行りそのままなところが苦しいが、3 曲目を筆頭に各曲の雰囲気は完成されているので、それなりの味わいはある。 ギター・ソロ、フルートは出番が若干抑えられている。 9 曲目は CD ボーナス・トラックで本アルバム・セッションの未発曲。

  「Morning Coming」だみ声、ヘヴィなギターとファルセットによるソフトなヴォーカル・ハーモニーとがコントラストするバラード。 ギターのリフはハードロックであり、トーキング・フルートが絡むとどうしたって JETHRO TULL に聞える。 URIAH HEEP 的といえなくもない。 ギター・ソロはこの作品にあるだけ。 つぎはぎ風の構成で継目をわざと強調するスタイルが、プログレ的ではある。

  「Peter」けたたましいギターが特徴的なグラム風のハードロック。 R&B 、黒っぽさがあり嫌いではありません。

  「September Morning News」透明感あるアメリカ風のフォークロック。アコースティックな響きが美しい。

  「Motorway」フルート、マッチョなシャウトなど今までのスタイルを継承しつつも、ソフトなコーラスやキャッチーなリフに工夫を感じさせる英国らしいロック。 捨てられない性なのか、オブリガートや間奏で突如緊張感あるアンサンブルが渦を巻いてプログレ魂が炸裂する。

  「Fields And Factors」ヴォーカルはシャウトだが、アコースティック・ギター、ピアノ、フルートらパストラルな音が主役の作品。後半サックスも登場するが、フォーク・ロックといっていいだろう。 ブルージーな響きを取り除けば CITTA FRONTALE のようなイタリアン・ロックにも似ていないだろうか。

  「Strength Of A Dream」西海岸な爽やかチューン。もっともイミテーションなので、カリフォルニアというよりは片瀬江ノ島ですかね。シングルカット。

  「Tolpuddle Episode」弾き語り風のアコースティック・チューン。 美しいアコースティック・ギターは新メンバーのジョージ・ライノンのプレイでしょうか。繊細な美感のある作品です。

  「Second Birth」 フルート、ギターが活躍し、extreme な表現が横溢するプログレッシヴ・ロックらしい作品。がなりたてるヴォーカルも復活。 逸脱調がいい。もちろん感動的な盛り上がりも。

  「Goodtime Girl」ボーナス・トラック。渋めのロックンロール。

(DAWN DNLS 3046 / NEM CD 612)

 Staircase To The Day
 
Norman Barratt lead guitar, lead vocals
George Lynon electric & acoustic guitar
Russell Cordwell drums, percussion
Les Williams bass, backing vocals
J.D.Hughes flute, clavinet, piano, organ, mellotron
guest:
Jim Frank drums, percussion, blues harp
Pete Solley synthesizer
Mary Zinovieff electric violin, synthesizer
Bobby Harrison vocals

  74 年発表の第四作「Staircase To The Day」。 DAWN 移籍後の二作目にして最終作。 前作同様多彩な内容のアルバムである。 リズミカルなリフとコーラスを用いたハードロックにシンセサイザーがどぎついメイクを施す作品、パストラルな空気感のあるフォーク曲、そしてクラシカルな雰囲気いっぱいの作品など、さまざまなスタイルの楽曲が揃う。 流行のグラム・ロックっぽさもある。 しかし、二曲目の切ないダミ声ヴォーカルを聴いていると、本質はアコースティックでややアシッドなフォーク・サウンドにあると感じる。 これだけ種々雑多な楽器やスタイルにチャレンジするのは、「JETHRO TULL の劣化コピー」とそしられぬためのオリジナリティ探求への執念あってのことなのだろう。 あるいはかつてブルーズ・ギターの演奏で爆発的な腕前を見せつけたノーマン・バラットがそのプライドにかけて新時代にどう切り込むか懸命に模索しているのだろうか。 土臭いファンク、ブルーズ・フィーリングにギターやシンセサイザーによるモダンな毒を盛り込んだサウンドはかなりアクが強い。 スタイルを決め損ねたことで染み出しているような癖のある音に魅力を感じられればしめたもの。 あんまり上品ではないけれど。 プロデュースはヴィク・スミス。

  「Starbright Starlight」 クラヴィネットがリズムを刻み、場違いなシンセサイザーが強烈なアクセントをつけるリズミカルなファンク・ロック。 垢抜けなさとスペイシーな SF タッチが無理やり同居する、なかなかない作風である。シングルカット。

  「Bring My Life On Back To Me」アメリカの SSW や THE BAND 辺りを思わせる土臭いバラード。切なくもソウルフルなヴォーカル、クラプトンを思わせるギターなど英国流米国ロックの真骨頂である。

  「Never Wanted You」8 分の 5 拍子のリフで小気味よく突っ走るアップ・テンポのグラム・ロック。 一転スローなサビではメロトロン・ストリングスが高鳴り、ロマンティックなムードを支える。 ブルース・ハープもクサくていい感じだ。 リズムはギター・リフとドラムスで作り、メロディやハーモニーはヴォーカルとキーボードで作るという 70 年代中盤スタイル。

  「Staircase To The Day」二つのギター、フルート、ベースが対位的なアンサンブルを成すクラシカルな作品。 可憐なアンサンブルと哀愁あふれるテーマがいかにも英国調。 イージー・リスニング風のマイナーなトーンに活を入れるのはノーマン・バラットの感傷的かつソウルフルなダミ声である。 この時期ですでに古臭かっただろう 70 年代初期の音だ。 終盤へ向けてシンセサイザー、メロトロンによって悠然たるシンフォニック・ロックへと展開する。 この辺りは第二作と同じセンスを感じる。

  「Going For A Quick One」クランチなツイン・ギターと黒っぽいヴォーカルが冴えるROLLING STONES 流のグラマラスなロックンロール。 ソウルフルなバック・コーラスなどは王道 R&B 調である 。 今ならブレイクビーツといわれそうなシュアーでうねるようなドラミングもカッコいい。 終盤はシンセサイザーがリードする。 ギターがブラス・セクションっぽい熱気を生んでいる。

  「The Last Day」 フルート、二つのギターによる淡々とした演奏からドラマが浮かび上がる幻想的な作品。 硬質でキラキラと煌くようなイメージはクリーントーンのギターのコード・ストロークと丹念にハイハットを刻むドラムスのせいだろうか。 対照的なのは軽やかなフルート。悪声ヴォーカルに寄り添って躍動的なアクセントになっている。 リリカルにして緊張感もあり現実離れしたところもある独特の作風である。 色気よりも陽気さが勝った LED ZEPPELIN といえなくもない。

  「Evening Of My Life」 ピアノ弾き語りによるリリカルなバラード小品。 クラシカルで挽歌調の沈んだ雰囲気のあるピアノ・ソロによる序奏。 波打つピアノの深いエコーの中、リード・ヴォーカルが切々と朗唱する。 典雅さと土臭さが微妙なバランスを見せている。 イントロでピアノに寄り添うのはクラヴィネットだろうか。

  「Busted In Schenectady」 メインストリーム的には完全に前時代的ブルーズロック。 吼えるようなギターがリードする男臭く油まみれで埃っぽい音である。 ブルージーなハードロックはメロトロンの高鳴りとともにエネルギーを溜め込んでアナーキーなインプロヴィゼーションへと進化する。 ギターは全開。 第一作で見せた世界の再現であり、ノーマン・バラットの意地を感じる。

(DNLH 1 / RR 4122-WP)


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