IKARUS

  ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「IKARUS」。 作品は一枚のみ。リーダーと思われるペーターソンは、後に Brain レーベルのプロデュサーとして活躍する。

 Ikarus
 
Jochen Petersen guitar, sax, flute, clarinet, vocals
Wulf Dichter Struntz organ, piano
Manfred Schulz guitar, vocals
Wolfgang Kracht bass, vocals
Lorenz Kohler vocals
Bernd Schroder drums, percussion

  71 年発表のアルバム「Ikarus」。 悪夢幻想的な大曲四作から構成される。 内容はオルガン、管楽器をフィーチュアしたサイケデリックでジャジーなヘヴィ・オルガン・ロック。 ブルーズ・ロックを基本に R&B テイストとジャズ・フレイヴァーをまぶした、典型的な 70 年代初頭英国「ジャズロック」スタイルである。 (PETE BROWN のグループや VERTIGO や NEON のジャジーなオルガン・ロックを想定してもらっていい) 太く男性的なリズム・セクションとワイルドなオルガン、ギターは、いわば、この時代の普遍的なものである。 ユニークなのは、ストリングスからサックス、クラリネット、フルートまで多彩な小技を用いてジャズ・タッチを見せるところ。 特に、決め所でのストリングスがオーセンティックな雰囲気を効果的に演出している。 フリーな即興風のパートをストリングスがぬりかえてゆく場面はかなり感動的だ。 また、金管のなめらかなブロウがリードを取る場面や、存在感あるベースのリフの上でソロが続く場面などもきわめてジャズ的であり、英国初期ジャズロックとまったく同じテイストである。 たとえば、2 曲目のビート風のうつろなテーマなどは CRESSIDA、3 曲目のテーマ部などは BEN といったグループと共通する。 また、ヴォーカル・パートでもアコースティック・ギター伴奏によるメランコリックな歌メロと英詞がブリティッシュ・ロック然としたリリカルなムードを強める。 3 曲目、モノローグ風のヴォーカルとサイケデリックな演奏においても、決して弛緩し切らずに計画とおりの場面展開へと持ち込んでいる。 全体として、ジャーマン・ロックらしいハードで素朴なオルガン・ロックに英国風のセンチメンタリズムを巻き込んでグレード・アップした快作といえる。 もう少し音を整理して、透明感あるロマンチシズムを浮き上がらせれば、最初期の KING CRIMSON にも迫ったろう。 ユルさや酩酊感ではなく、あくまで翳りのある色調と仕かけで訴えてくるところが、ドイツというよりは英国風に思える理由だろう。 四曲のみにも関わらず、アルバムとしての統一感は薄く、それぞれの楽曲の個性が際立っている。 大所帯の音楽的な方向性の違いが、そのままそれぞれの曲の面白みになっているが、二枚目以降へつながらなかったのも同じ理由ではないだろうか。 ともあれオルガン・ロック・ファンへはお薦め。 71 年でこの完成度はみごとです。ヴォーカルは英語。

  「Eclipse」(15:09)ジャジーな 8 分の 6+5 拍子にもかかわらず、初期 KING CRIMSONSOFT MACHINE というよりは、ハードロック的なヘヴィネスを強調するオープニング。 これはギターとリズムのせいだろう。 しかし、メロディアスな管楽器のリード(特に、クラリネットがカール・ジェンキンスのオーボエを思い出させる)が湧き上がると、一気に SOFT MACHINE へと接近する。 変拍子リフに管楽器が寄り添う展開は、かなり個性的だ。 リリカルなヴォーカル・パートでは PROCOL HARUM のような英国情趣も現れる。 うっすらと伴奏するオルガンと、力強く確実に前へと進めてゆくリズム・セクションがいい。 ここまで前半には、「Scyscrapers」という副題あり。
  後半「Sooner Or Later」は、ハードロック風のリフの上でクラシカルなプレイも交える強烈なオルガン・ソロが続く。 クライマックスでストリングスが湧きあがり、オルガンを制し、メイン・パートへと回帰するところがカッコいい。 ストリングスと感極まったヴォーカルとのやりとりから、再び、ジャジーな変拍子アンサンブルへと戻り、今度はぐっと R&B 色を強めたヴォーカルとヘヴィーなギターがリードする演奏が続いてゆく。 エンディングのノイズや鳥のさえずり、走り去る足音など細工も細かい。 不良っぽい R&B タッチとクラシカルな盛り上がりなど、やや詰め込み過ぎながらも、多面的な魅力を持つドラマチックな大作だ。

  「Mesentery」(6:34)CRESSIDA を思わせるジャジーな演奏とフォーク・タッチの歌、そしてサイケデリックな即興もあるアートロック。 フルートもフィーチュアする疾走するようにスピーディな演奏から、中盤では、けだるく空ろな響きのある演奏へと変化する。 ツイン・ヴォイスによるつぶやくような歌と生音に近いギターの和音の響きは、ラウンジ、イージー・リスニング調である。 さらに、ノイズ渦巻くサイケデリックな即興空間へと飛び込むも、小気味よいドラム・ビートとストリングスが次第にカオスに秩序をもたらしてゆく。 ストリングスは朗々と歌いロマンをかきたて消えてゆく。 世界を変えてしまってそれっきりだが、シャープな演奏が楽しめる。

  「The Raven」(11:44) 短い楽章を積み重ねる叙情的な作品。 サックス、フルート、パーカッシヴなハモンド・オルガンが魅力。 歌詞はもちろん E. A. ポーの名詩編より。

  「Early Bell's Voice」(7:46) ピアノ、オルガン、サックスらによる美しいオープニングが印象的な名作。
  
(SB 032)


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