Jens Johansson

  スウェーデンのキーボーディスト「Jens Johansson」。1963 年生れ。80 年代初頭に HR/HM シーンから頭角を現す。フュージョン、HR/HM をまたがるテクニカル・キーボード奏者の草分けの一人。 すでにフォロワーも数多し。

 Fjäderlösa Tvåfotingar
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Anders Johansson drums, some programming
Jens Johansson keyboards, some prcussion
Jonas Hellborg bass, some drums

  92 年発表のソロ第一作「Fjäderlösa Tvåfotingar」。 内容は、メタリックで無機的なタッチが特徴的なテクニカル・キーボード・ジャズロック。 リフやテーマ、ソロに U.K. の影響が感じられる。 U.K. をさらに抽象化したようなキーボード・ロックというといいかもしれない。 ギターに似たフィードバックを放つ挑戦的なソロ、メカニカルなリフ、アブストラクトなコードワークと好対照を成す叙情的なピアノ、クールなサウンド、鋭角的なアンサンブルなどによって、どこまでもスリリングな演奏になっている。 ミニマルな展開にサウンド・スケープ的な表現(どことなくエディ・ジョブソン風)なども適宜はさみながら、全体としては、メカニカルで尖がったイメージのキーボード・プレイが続いてゆく。 シンフォニック・チューン、ファンクなジャズロック、HM 的なパワー・コード・シーケンスとさまざまな作風をアコースティックなサウンドの対極にある人工的サウンドを駆使してまとめている。 リズムについては、ハードロック的なパワーと表情の乏しい無機的なタッチが矛盾なく並立する人力ドラムスに加えて、打ち込みシーケンス、シンセサイザー・ビートも駆使している。 そして、当然のように変則拍子も多用されている。 エルボーグのベースもタメの効いたフレーズを放っているが、ここの音楽は誰かが突出するタイプのものではなく、それぞれに荒削りなサウンドが一体となった迫力が魅力だ。 おもしろいのは、主役のキーボーディストは HM 畑出身ながらも、元来の志向がジャズであるらしいこと。 ただし、4 曲目のソウル・ジャズ風のオルガンのようにいわゆるジャズらしき表現もあるが、ノイズなどのエレクトリック・サウンド処理によって異形の音楽に変容している。
   大曲が多いが、ひねくれたサウンドにきちんとドラマが刻まれており、聴き飽きることはない。 即興よりも作曲や編曲を重視した作品になっているといっていいだろう。 意外な名作である。
   本作品で聴かれるギター・アドリヴに近いニュアンスをもつキーボード・プレイは、ヤン・ハマーを嚆矢に 80 年代以降のテクニカル・キーボーディストがこぞって試みた。 本作を気に入った方には、Jonas Hellborg の 94 年作品「e」もお勧め。

  「A Mote In God's Eye」(12:52)
  「In Transit」(13:48)
  「Megiddo」(10:03)
  「Semaphores」(8:35)
  
(AMCD 872)

 Heavy Machinery
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Anders Johansson drums
Jens Johansson keyboards
Alan Holdsworth guitars, synthesizer

  96 年発表の作品「Heavy Machinery」。 ヨハンソン兄弟とアラン・ホールズワースによるインストゥルメンタル・アルバム。 内容は、生々しいビートとモーダルなリフの上で繰り広げられる躍動感あふれるテクニカル・ジャズロック。 ギターを強く意識したシンセサイザーのアドリヴをハモンド・オルガンの火を噴くオブリガートときわめてマシンじみたシンセ・ベースの脈動が沸き立たせ、むちゃくちゃな手数のドラムビートが支える。 ギターのアドリヴは、キーボードらのアンサンブルが一渡り地ならしをした後で悠然と現れ、自由奔放に振舞う。 似たような抑揚のギターとシンセサイザーが交錯して訳が分からなくなるのもおもしろい。 全編を貫くスピード感と切迫感に独特の屈折や揺らぎがある。 ジャズロックといったが、ファンクにもジャズにもなりそうでならないアブストラクトで無機的な演奏であり、いわゆる現代音楽じみたところもある。 兄弟とホールズワース氏の間でのテープのやり取りのみで録音を済ませたせいなのかどうか分からないが、比較的ミックスはラフであり、パートが明快な、ライヴに近い感覚の音になっている。 それだけに技量が掛け値なしで出るわけだが、そのパフォーマンスがまた凄いから大したものである。 ギター、キーボードともにソロのプレゼンスは圧倒的である。 音が飛んできて突き刺さる感じは、最近のグループでいうと TUNNELS に近い。
   昨今、超絶技巧を誇るミュージシャンは掃いて捨てるほどいるし、HM 系テクニカル・フュージョン作品も星の数ほどある。 したがって、本作品にもその水準からすれば「普通のレベルの作品」があると思うが、ここの作品は音質が度外れて個性的(記名性が高いというべきか)なために、到底普通には聴こえない。 何か今までに経験したことのない音に感じられる。 パイオニアの称号は、決して伊達ではない。 6 曲目「Siouxp Of The Day」は U.K. か?
  
(HECD 011)

 Fission
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Jens Johansson keyboards
Anders Johansson drum kit, percussion
Shawn Lane guitar
Mike Stern guitar

  98 年発表の作品「Fission」。 ヨハンソン兄弟とショーン・レーン、マイク・スターンによるインストゥルメンタル・アルバム。 電子ピアノ、オルガンおよびオルガンに近いニュアンスのシンセサイザー(Korg の Polysix という機材らしい)を駆使して、アンダースの人力リズムマシンとともに、得意の、レガートにしてマシーナリーで無機的なタッチの演奏を繰り広げている。 フュージョンというにはあまりに遊びがなく冷徹な感じがするので、やはり現代のプログレというべきだろう。 1 曲目のような変拍子奇数小節パターンへの固執や、ベース・パートをシンセサイザーでカバーしていることなども、このデジタルで無機質なイメージを強調している。 ただし、ハイテク高速プレイのみならず、アコースティック・ピアノによるソロなど叙情的でロマンティックな面も見せている。 ピアノ・ソロ・アルバムを出しているくらいなので元来こういう叙情性も持ち合わせているのだろうが、その現れ方はちょっと変わっている(らしい、というか)。 なんというか色が薄いというか、エモーショナルなフレーズを弾いても血が通わず、薄紫色なのである。(奇妙な喩えですみません) いずれにしても、サウンド作り含めクールなロマンティシズムにエディ・ジョブソン = U.K. の影響は大きそうだ。 ショーン・レーンはきわめて現代的なテクニックでヨハンソンのキーボードと似たニュアンスのソロを披露する(そういえば、レーンはキーボードの名手でもある)。 前作のホールズワースの路線の延長にある感じであり、無慈悲で容赦のないトリオのイメージもそのまま引き継いでいる。 一方、大御所スターンは、ジャジーでエモーショナルなフレーズを、これまた正確無比に早回ししたような馬鹿テクで並べてゆく。 ナチュラル・ディストーション風のサウンドの気持ちよさはこの人ならではのものだ。 全体に、前作よりもブルージーでロックな表情が分かりやすく出ているのは、このスターンのスタイルに拠ると思う。
  ちなみに、ベースについては、DIXIE DREGS のアンディ・ウエストが録音に参加する予定だったが、諸事情で不可能となった由がインナーに書かれている。 U.S.盤はジャケ違い。 次は、ぜひロバート・フリップと競演してもらいたい。
  
  「Hooded Strangers」(10:41)7 拍子 x 3 小節 およびその逆のパターンで攻めるハイテク変拍子フュージョン。 挑発的なテーマがいい。 後半のレーンのソロがすごい。

  「Phase Camouflage」(6:48)またまた 7 拍子。スターンのジャジーなソロがいい。キーボードのギアが上がり始めて、見せ場も明快。

  「Zero Sum Game」(3:36)完全即興のキーボード・ソロ。後半のバロック風のピアノが意外。

  「Acrostic Shibboleth」(8:12)複雑怪奇な変拍子パターンによる、それでも軽快なジャズロック。 ソロは、ヨハンソン、スターン、レーンの順。スターンがすごく普通に聴こえる。普通の人はレーンのヴァイオリン奏法にすら追いつけないだろう。

  「Don't Mention The War」(10:48)ドラムス、キーボードのデュオ。 またまた 7 拍子。 冒頭のオルガン・ソロで示すとおり、いかにもプログレな作品。 シンセサイザーがギターのようなソロを奏でるので、ギター入りの 4 ピースによる演奏に聴こえる。

  「Race Condition」(7:32)

  「CrowdTectonics」(6:14)

  「Nystagmus」(10:48)

  「Beautiful Lung Dogs」(10:45)

  「Straffpolska Från Sudan」(9:30)

(PCCY-01215)


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