LOCANDA DELLE FATE

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「LOCANDA DELLE FATE」。 74 年結成。 80 年代前半解散。 1998 年再結成し、作品を発表。

 Force Le Lucciole Non Si Amano Piu
  
Giorgio Gardino drums, vibraphone
Luciano Boero bass, Hammond organ
Ezio Vevey guitar, 12 string acoustic guitar, vocals, flute
Alberto Gaviglio electric & acoustic guitar, 12 string electric guitar
Michele Conta piano, electric piano, Polymoog, cembalo, clavenet, synthesizer
Oscar Mazzoglio Hammond organ, Fender piano, Moog, Polymoog, synthesizer
Leonardo Lasso vocals

  77 年発表のデビュー・アルバム「Force Le Lucciole Non Si Amano Piu」。 内容は、緻密なアンサンブルによる技巧的かつきわめてデリケートなシンフォニック・ロック。 アコースティック・ピアノを中心に、ギター、フルート、シンセサイザーらがアンサンブルを構成し、タイトなリズム・セクションに支えられて、緩急自在に万華鏡のような歌を奏でるプログレ・ファンのための桃源郷的作品である。 緊密精妙なアンサンブルは、情感豊かにメロディを歌わせつつもスリリングなドラマを綴ってゆく。 あえて主役を選ぶとすれば、華麗なるアコースティック・ピアノときめ細かいリズム・セクションだろう。 同じようなサウンドをイタリアン・ロックで探すのは、なかなか難しい。 精妙なるアンサンブルと丁寧な音作りという点では、同じツイン・キーボードながらも CORTE DEI MIRACOLI クラスは越えており、やはり MAXOPHONE の唯一作や、P.F.M 辺りの一線級を引き合いに出すべきだろう。 この細やかさ、粒立ちながらも暖かくなめらかな触感は、ある意味イタリアン・ロックらしからぬものなのだ。 また、ヴォーカリストはどちらかといえば悪声に類するが、その声が、優美なインストゥルメンタルに丁度いいアクセントとなっており、瑞々しい生命力を感じさせるサウンドの欠かせぬ一要素となっている。 唯一瑕疵を探すとするならば、CD のミックスがヴォーカルとリズムを強調した作りになっているため、アンサンブルの緻密な作りを聴き取りにくいことくらいだろう。 プロデュースは、ニコ・パパサナシウ(ヴァンゲリスの兄弟ということだが ?)。 ヴォーカルはイタリア語。 邦題の「妖精」というのは、ジャケット画からインスパイアされたようだ。 直訳は「蛍が消えるとき」という意味らしい。

  1 曲目「A Volte Un Instante Di Quiete」(6:32) 叙情性、スリル、ドラマ性すべてに長けたファンタジック・ロックの傑作。 スリリングなクロス・リズムの上で繰り広げられる、ロマンティックで華麗な音絵巻である。 冒頭波打つようなピアノに導かれて始まるのは、裏拍にアクセントするテーマをもち、緊張感と歌心が一体となったテクニカルな変拍子アンサンブルである。 サステインするギターと泡立つようなピアノの応酬、繰り返し部分でピアノのリフレインに重なるホーンの如きシンセサイザー、さらにはオルガンの調べなど、魅力的な音をふりまきつつ、きわめて牧歌的な中間部へと物語は進む。 緩急の変化の呼吸は絶妙である。 シンセサイザーによる豊かなテーマはギターへと渡ってゆく。 緑の谷をわたる春風のように暖かく緩やかだ。 後半再び、スリリングにして官能あふれるジャズロック的世界が躍動感たっぷりと示される。 けれんみたっぷりな技巧と豊麗なサウンド、若き情熱がバランスした、理想的なシンフォニック・ロックである。 タイム・キープだけではなく、打楽器としてアンサンブルの一員として活躍するドラムスのプレイがみごと。

  2 曲目「Force Le Lucciole Non Si Amano Piu」(9:49) ゆったりとした主題に多彩な器楽アンサンブルを連ねた、オムニバス風の歌もの大作。 冒頭からのリリカルなピアノやレガートなギターのヴァイオリン奏法は 1 曲目に通じており、変奏曲のような趣もある。 ただし、こちらは、たおやかなフルートが活躍し、オルガン、ギターらによる分厚い全体演奏が、MAXOPHONE のような色彩美と旋律の力強さを強調する。 伸びやかなカンタゥトーレと器楽が連携し、しなやかなメロディを歌わせるロマンティックな主題部を軸に、テンポもリズムもさまざまなアンサンブルが、タペストリのように連なってゆく。 そしてここでも、局面をリードするのは華やいだピアノであり、メロディアスなギターがその場面を心に刻みつけてゆく。 途中ヴォーカル・ハーモニーも現れるが、それ以上に、目まぐるしくも軽やかに変転するアンサンブルに耳奪われる。 リズム/テンポ・チェンジは激しいが、演奏は流麗そのもの。 チェンバロのきらきらした音色も印象的だ。 コンプレッサを効かせ、ヴァイオリン奏法を多用するギターにもだんだん慣れてくる。 ベースも見せ場を心得ているようだ。 あたかも、絵本をめくってゆくように、カラフルな演奏を追いかけて楽しむことのできる作品である。 ヴォーカルはリカルド・コッチャンテ似の悪声型。

  3 曲目「Profumo Di Colla Bianca」(8:26) 清冽なロマンティシズムと気品のある歌もの。 口笛のようなシンセサイザーとソフトながらもタイトなドラミングが導く、涼風のようなオープニング。 チャーチ・オルガンが暖かみあるヴォーカルを守り立て、クリスタルのようなピアノがオブリガートするメイン・パート、そしてキーボードが悠然と高まり、フルートが哀しげにささやく間奏パート。 ソフトなばかりではなく、ギターとベースが、力強い連携で演奏を支えるところもある。 ギターとキーボードによるスタカートなフレーズが綾なす、ユーモラスなパッチワーク風のリフレインが、P.F.M の名作「Il Banchetto」を思わせる。 全編にわたり、ドラムスをやや控えて、キーボードを中心とした柔和な表情をもつ音を主にしている。 ふくよかな響きをもつピアノのリフレインを経て、シンセサイザーのテーマから奔放なギター・ソロが飛び込むと、演奏は一気にエネルギッシュになり 1 曲目、2 曲目に通じる世界となる。 しかし、エンディングは、やはりこのピアノ・リフレインが幕を引く。 豊かな音色と知的なアンサンブルを誇りつつも、一陣の涼風のような爽やかさが印象的な作品だ。 ムーグ・シンセサイザーのいい音が味わえます。

  4 曲目「Cercando Un Nuovo Confine」(6:42) うっすらと響きわたるストリングス系の音を背景に、デリケートなピアノ、アコースティック・ギター、フルートらが情熱的なヴォーカルを支えてゆく歌もの。 あまやかな逢瀬をイメージさせる、密やかな響きの序盤から、舞うようなピアノとともにヴォーカル・ハーモニーが朗々とリードし、ヘヴィな全体演奏がアクセントする。 ギターのヴァイオリン奏法とフルートがたおやかな歌を奏でる。 リズムが細かく刻まれる中盤以降も、やわらかく軽やかな感触は消えず、主役は歌であり、ピアノとフルートが守り立ててゆく。 後半のさえずるようなフルート、ギターのリフレインも、やはり、熱い歌の伴奏である。 終盤のハーモニーの美しさは、やはりイタリアン・ロックのものだろう。 メロディアスにしてファンタジックであり、GENESISYES の最良の部分を活かしたような作風である。 幻想的な演奏と伸びやかなカンタゥトーレのコンビネーションによる美しい作品だ。

  5 曲目「Sogno Di Estunno」(4:42) ドラムスがリードするスピーディなアンサンブルとイントロから続くメロディアスなヴォーカル・パートが鮮やかに対比するナンバー。 メランコリックな美しいテーマはイントロからヴォーカル・パート、インスト・パートと使いまわされる。 さまざまな楽器のフレーズが数珠つなぎのように連なってゆくアンサンブルには、ジャズロック的な迫力もあり。 ピアノの音色が鮮明だ。

  6 曲目「Non Chiudere A Chiave Le Stelle」(3:35) 二本のギターとベース、二人のヴォーカルだけの静かな小品。 情熱を内に秘めつつ、まじないのような歌を綴ってゆく。 緻密な大作が並ぶ中、一服の清涼剤。 ベースの響きが印象的。

  7 曲目「Vendesi Saggezza」(9:38) ピアノのテーマが 2 曲目の中盤とエンディングに現れるものとよく似ている。 最後の最後に 1 曲目のギターをリプライズする憎い演出もあり。 ドラマチックなイントロに始まり、複雑なアンサンブルがヴォーカルのリードで時に優雅に時にせわしなく、澱みなく流れてゆく。 ややサスペンスフルなムードを作ったり、突如シンセサイザーの派手なソロを展開するなど、アクセントも効いている。 テーマも似ており 1 曲目の変奏曲といった趣である。

  8 曲目と 9 曲目に、シングル盤をボーナス・トラックとして収録。 ややポップス寄りの内容だが、緻密でテクニカルな演奏は変わらない。

  8 曲目「New York」(4:34) カンタトーレ風のヴォーカルとギターが熱っぽい絡みを見せる作品。 歌のバッキングが雄大な広がりを感じさせる。 コンパクトでメロディもシンプルだが、演奏のおかげでシンフォニックな作品になっている。

  9 曲目「Nove Lune」(3:55) スピーディなジャズロック風アンサンブルにイタリア風のメロディが乗って走るナンバー。 サックスのリフは、リズムも支配するほど強烈かつ劇的。


  特徴は、ツイン・ギター、ツイン・キーボードを存分に活かした、細密画のように精緻で色彩にあふれたアンサンブル。 魅力的なフレーズとファンタジックな音がぎっしり詰め込まれている上に、はばたくような軽やかさもある。 各パートの技術とアレンジ能力は、相当なものだろう。 テクニカルかつ華麗な音色のアンサンブルは、同時代のメガヒット・フュージョン・グループに十分匹敵する。 ただし、このグループの音には、どこを切ってもイタリア独特のロマンチックな「歌」があり、その点が、フィジカルなグルーヴを追い求めるフュージョン・ミュージックとは決定的に異なる。 卓越した演奏力だが、サウンドそのものがイタリアンプログレ隆盛期である 70 年代前半よりも洗練されているかというと、意外にそうでもないようだ。 たとえば、ギターの音やアナログ・シンセサイザーの音そのものは、77 年という時期にしてはやや古めかしく聞こえる。 むしろ、70 年代前半の音の質感はそのままに、技巧を推し進めて、細部にまで制御がいきわたるようになった結果の音という感じである。 しかし、そんな思いも,贅沢に音を散りばめて作り上げられた芸術品の前では、戯言に過ぎないだろう。 何かに似てるなあと記憶をたどった結果、思い当たったのは、70 年代後半の YES である。 ギターのヴァイオリン奏法やリッケンバッカー・ベースの音の感触だけではなく、込み入ったアンサンブルを躍動感を損なわずにいとも鮮やかにこなすところが通じているようだ。 マイケル・ジャイルズ風の巧みなドラミングも印象的。
  70 年代後半、P.F.MBANCO が、微妙な路線変更とともに作品を発表していた時代、突如現れたこの作品は、おそらく奇跡のような存在だったろう。 このミュージシャンたちに失礼を承知で、時代はときに悪戯をする、といってしまいたくなる。 そして、おそらく思いはリスナーすべてに共通だろうが、せめてもう一枚作品を残して欲しかった。 あらゆるプログレ・ファンに推薦できる大傑作。

(POLYDOR 523688-2)

 Homo Homini Lupus
  
Ezio Vevey guitars, vocals
Alberto Gaviglio vocals, acoustic guitar, flute
Oscar Mazzoglio keyboards, accordion, Mellotron, Hammond B3
guest:
Luciano Boero bass, fretless bass
Giorgio Gardino drums, percussion

  98 年発表の再結成作「Homo Homini Lupus」。 オリジナル・メンバーは五人(リズム・セクションの二人はゲスト扱い)。 内容は、ヴォーカルを中心とした、いかにもイタリアらしいアコースティックな牧歌調を基調としたモダン・ロック。 さまざまなスタイルを取り込んだベテランらしい音作りだ。 シンセサイザーやオルガンが懐かしい音を響かせ、アコーディオンやアコースティック・ギター、フルートなどを用いたワールド・ミュージック調のエキゾチズムもごく自然である。 P.F.M の近作にも通じる味わいある作品だ。 前作のテーマの再現もある。

(VM CD066)


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