CORTE DEI MIRACOLI

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「CORTE DEI MIRACOLI」。73 年結成。76 年解散。 作品は一枚。 ツイン・キーボードをフィーチュアしたテクニカルで情熱的な演奏だ。 GROG レーベル。グループ名は「ノートルダムのせむし男」の章題らしい。

 Corte Dei Miracoli
 
Alessio Feltri keyboards
Riccardo Zegna keyboards
Graziano Zippo vocals
Flavio Scogna drums, percussions
Gabliele Siri bass
guest:
Vittorio De Scalzi guitar

  76 年発表の作品「Corte Dei Miracoli」。 内容は、二人のキーボディストが操るオルガン、エレクトリック・ピアノ、シンセサイザー、ピアノを軸としたアンサンブルによる典型的なキーボード・シンフォニック・ロック。 キーボードのアンサンブルによるクラシック調の緻密な演出は、BANCO に十分匹敵する出来映えである。 また、クラシック、ジャズと多様な音楽性を叩き込みながらも、この手の表現スタイルにありがちなコケオドシ風の大仰さやおどろおどろしさが感じられず、むしろ、優れたポップ・フィーリングがある。 甘めで熱っぽい歌唱のリード・ヴォーカルの採用は正しかったというべきだろう。 ポップなノリと緊密な演奏力のバランスもよく、コテコテ過ぎて胸焼けすることもナイーヴ過ぎてカマトトぶりっ子が気になることもない。 エレガントなポップ・テイストは、英国プログレに慣れた耳にはかなり新鮮だ。 情熱的なヴォーカルとシンセサイザーやオルガンにどっぷり漬かっているにもかかわらず、サッパリとした軽やかさがあるといってもいいだろう。 イージー・リスニング風のユーロ・ポップスをプログレ化してしまったイタリア人のセンスに、あらためて乾杯。 ただし、泥酔しそうなエコーやうわずり気味の録音など、プロダクションは好みを分けそうだ。

  「...E Verra L'uomo(男はやって来た)」(7:00) 挑戦的な導入にもかかわらず、全体としてはロマンティックなキーボード・シンフォニック・ロック。 テクニカルなオープニングで耳をひきつけ、切ない歌で酔わせてクラシカルなシンセサイザー・オーケストレーション、オルガンで興奮させる、理想的な展開である。 ノイズににじむようなエレクトリック・ピアノの音が、なんともクラシックである。 そして、さわやかな歌心に満ちたメロディと、ストリングスやエネルギッシュなドラミングによる雄大なバッキングの取り合わせの妙。 うっすらとヴォーカルをなぞるミュージック・ソーのような音はシンセサイザーだろうか。 メロディアスなメイン・パートと対比するクラシカルかつスリリングなオルガンのリードするインスト・パート。 このオルガンによる間奏部の迫力は、プログレ的醍醐味たっぷりであり、BANCO に迫るものがある。 ティンパニを思わせる連打をタイミングよく使ってぐいぐいと盛り上げてゆく。 終盤はムーグ・シンセサイザーによる哀愁のファンファーレ調の演奏が引き締める。 オープニングの悲鳴のようなギターは、NEW TROLLS のヴィットリオ・ディ・スカルツィ。

  「Verso Il Sole(太陽に向かって)」(6:30) ジャジーなプレイと切れのいいリズムによる軽やかな疾走感が気持ちいいテクニカル・シンフォニック・ロック。 明快なリフ、テーマにアドリヴを散りばめてアップテンポで進む曲展開に、YES を思い出してしまった。 軽快なオルガンのリフとシンセサイザー伴奏のメランコリックなヴォーカル・パート、そしてピアノ・ソロを中心に、ジャズ的なアドリヴが盛り込まれている。 もちろん要所では、ストリングス、ムーグによるシンフォニックな展開のワサビを効かせている。 一方、ヴォーカル・パートでは、ロマンティックなメロディを情熱的に歌い上げる。 したがって、ハードロック、ジャズロックというよりは、器楽の充実したテンポのいいポップスというべきだろう。 風を巻くように走るところとゆったりと風を浴びるようにテンポを落とすところの配分がいい。 中盤、オルガンのリフと小気味いいパーカッションで走るところへ、本格的なジャズ・ピアノがオーヴァーラップするところは、BANCO 風である。 歌ものの間奏部分を拡大したスタイルは 1 曲目と同じ。 エンディングの一ひねりでお腹いっぱいな感じである。

  「Una Storia Fiabesca(御伽噺)」(7:50) ゆったりとため込み歌い上げるメイン・ヴォーカルを軸に、キーボード・アンサンブルによるクラシカルな演出を次々に綴ってゆく作品。 ストーリー展開というよりは、歌のテーマを前面にすえ、バックに多彩極まるキーボード・プレイを次々と盛り込んで楽しませる作風である。 したがって、全体の流れは比較的ストレートである。 ピアノによるロマンティックかつ思わせぶりなイントロを経て、万を辞して幕開ける雄々しく哀愁もたっぷりなメイン・ヴォーカル。 この広がりのあるテーマがいい。 以降、技巧的な演奏の前面を貫くのはこのテーマであり、ヴォーカルが非力という通説はここで覆される。 繰り返し主体の展開を、ムーグ・シンセサイザーとオルガン、ストリングスによる細やかな伴奏、オブリガートで、マジカルに彩ってゆく。 特にムーグのオブリガートが印象的。 そのムーグに始まって、エネルギッシュなジャズ・ピアノや音程のあるパーカッション(シンセサイザーか)、リズム・パターンを小刻みに切り換える緻密なドラミング、クラヴィネット(エレクトリック・チェンバロ?)など小技も効かせて、単調にならないような工夫がなされている。 終盤のリズム・チェンジ後の 8 分の 6 拍子のパートで、ヘヴィなオルガン・ソロを軸にもう一盛り上がるとさらによかった。 チェンバロのバッキングはリマスター盤で初めてしっかり聴こえてきた気がします。 ギターの存在を補うようにベース・ラインが非常に明確に進路をリードしている。 打楽器がやかましいのも特徴的。

  「Il Rituale Notturno(夜の儀式)」(6:23) ストリングスをフィーチュアしたファンタジー物語風の作品。 ドリーミーなエレクトリック・ピアノのささやきから甘美なストリングスが満ち溢れると、一気にナイト・ミュージック調である。 情熱的かつ正統的なヴォーカルを、エレガントなバッキングが守り立ててゆく。 尾を引くようなシンセサイザー。 「夜のガスパール」ラベルか「月の光」ドビュッシーか薄めの萩原朔太郎か、初夏の晩のように涼やかながらも、なまめかしいムードである。 水滴のしたたたるようなエレクトリック・ピアノに導かれた物語は、深海を思わせるエコー、あふれんばかりのポール・モーリア風ストリングス、そして情熱的なピアノから成る優美な流れへと注ぎ込む。 ムーグによる金管楽器のファンファーレ。 忙しないピアノの 6 連フレーズ、オルガンの激しいユニゾンがいいアクセントになっている。 ムーグは、ブラスからミュージック・ソーのようなヴィブラート、さらにはいかにもなレゾナンスによる金属的な光沢のあるフレーズまでさまざまに使われている。 ジャジーなピアノ・ソロを受けて、込み入ったフレーズをくしゃくしゃにしてに空へ放つようなシンセサイザーのファンファーレが高鳴る。 典型的ながらもキーボード・ファンをくすぐる音だろう。 多彩なプレイとテンポ切りかえで、やかましく全編を支えているドラムスにも注目したい。 エンディング、「Disco volante...(空飛ぶ円盤...)」というセリフを残して泡(「あわ」でなく「あぶく」です)とともに消えてゆくヴォーカル、鐘の音、ダメを押すサンレモ音楽祭的ストリングスなど、ストーリー展開上で意味があると思われるが、詳細は不明。

  「I Due Amanti(二人の恋人)」(11:39) 緩急巧みにしてダイナミックな、イタリアの YES というべき大作。 悩ましげなテーマを繰り返し変奏しながら、一気に最後までいってしまうストレートな展開に、さまざまなキーボードの音が彩りをつけてゆく。 冒頭から 16 分の 14 拍子によるスリリングなリフでたたみかけ、ストリングス、クラシカルなピアノでゆったりと受け止めて、シンフォニックな高まりと広がりのあるステージを準備する。 ここはこれまでと似た展開、つまり長めのイントロから、悠然とメイン・パートが始まるパターンだ。 メイン・テーマはここまでにも耳にしたようなメロディ・ラインだが、ヴォーカリストの表情にやや翳り、哀しみがあるところが印象的だ。 一人かけあいのように問いかけ、応ずる歌唱である。 中盤のピアノによるジャジーなテーマ変奏以降は、オルガンやムーグがメイン・テーマを引き継ぎ、リズムも細分化してジャズロック風の演奏となる。 そして、ややファンキーなプレイも織り交ぜながら、クラシカルなピアノによる変奏を経て、メイン・パートへと回帰する。 暗めながらもメロディアスなヴォーカルと激しいビート、攻撃的なリフが拮抗する緊張感を支えに、テーマ変奏を主にしてぐいぐいと進んでゆく。 力強くリリカルなピアノと加速をあおるような金管風ムーグのリフレインが印象的。


  ツイン・キーボードによる豊かな音色とスリリングなアンサンブルが横溢するキーボード・ロック。 オルガンとエレクトリック・ピアノ、ストリングスとピアノなど、バッキング、リードのコンビネーションは多彩であり、歌心のある演奏が次々とパノラマのように現れる。 特に、一方がメロディアスなときに他方がリズミカルになるなどの対比づけが巧みだ。 エフェクトで加工したエレクトリック・ピアノの多用とパーカッションの大胆な挿入も個性的。 情熱にあふれとことんロマンチックな歌メロも特徴である。 どちらかというとドラマチックな重厚さよりも若々しい爽快さが目立ち、ヴォーカルが魅力的なせいもあって、シンフォニックなテーマが加熱しすぎずほどよいリリシズムが感じられる。 それでいてキーボード・ロックの醍醐味たる、たたみかけるように挑戦的なアンサンブルもある。 いわば、ハードロック向きのハイトーン・ヴォーカルとイージー・リスニング的な甘美でリラックスしたムード、そしてせめぎあうシンセサイザーの嵐が、ちょうどよくバランスしているのだ。 ドラムスは、潔い手数勝負の傑物であり、とにかく痛快。 そして、イタリアン・ロック常套の脈絡をぶった切るような大胆なアレンジもある。 76 年にしてはやや音が古めかしい気もするが、キーボード主体のプログレとして逸品であることにかわりはない。 2002 年 ARCANGELO のリマスター盤がお薦め。 バスドラの連打もよく聴こえます。
(GROG 004 / Arcangelo ARC7022)

 Dimensione Onirica
 
Alessio Feltri Hammond organ, Davoli synthesizer, Fender Rhodes
Michele Carlone Solina, piano, lead vocals
Mario Alessi Fender Precision bass
Alessandro Della Rocca Fender Telecaster guitar, Gibson guitar
Flavio Scogna Hollywood President drums

  92 年発表の作品「Corte Dei Miracoli」。 発掘作品。 音質はブートレッグの上級品並。 録音は、73 年から 74 年にかけてであり、オリジナル・アルバム発表前に脱退した、キーボーディスト、ベーシスト、ギタリストを擁する旧編成である。 ヴォーカリストもまだ加入していないが、ツイン・キーボード体制はできあがっている。 後にオリジナル・アルバムに入る作品は、アレンジこそ異なるがテーマ部分はほぼ完成形として演奏されている。 さて、演奏はそのキーボードを活かした、ハードで色気もあるシンフォニックなものである。 オルガンがクラシカルにハードにと縦横無尽に駆け巡り、リリカルなピアノが降り注ぎ、管弦楽組曲を彩るバロック・トランペットのようなシンセサイザーがパンパカパーンと高鳴る。 緩急、明暗の変化は明快に描き分けられていて、企画力と演奏力がハイ・レベルにあることが分かる。 意外な発見は、EL&P はさておき、THE NICEDEEP PURPLE への意識がたっぷりあるところだ。 つまり、クラシカルなハードロックというニュアンスが強い。 ギタリストの存在もその一因だろう。 したがって、英国ロックからの流れでとらえるとわりと入ってきやすい音である。 逆にいえば、歌唱こそイタリアン・ロックらしいロマンティックな面が強く出ているが、ワイルドで奔放に弾ける演奏はまだ英国の亜流の域を出ていない。 このスタイルから、ジャズ、ポップス風味などアレンジを磨いて、第一作の独特なエレガント・プログレッシヴ・ロックに到達したようだ。 同時に 70 年代中盤のポップ・シーンの変遷を真正面から受け止めている感じもする。(優れたミュージシャンは時代をとらえるものだ) また、メランコリックで翳りのある表現においては、GENESISP.F.M(7 曲目「Breve Esistenza」は名作)の直接的な影響を受けているようだ。 ヴォーカルについてはキーボーディストのミケレ・カローネが兼任する。 第一作のリード・ヴォーカリストほど派手ではないものの、落ちつきあるいい歌唱を披露している。 総合的にいって、発掘ものの逸品の一つといえるでしょう。

  「Dimensione Onirica Part 1」(3:55)インストゥルメンタル。アグレッシヴな演奏。
  「Eterna Ricerca」(7:43)ピアノ弾き語りによるバラードをクラシカルな演奏でふくらませた作品。
  「Volando Nel Sole」(10:04)オルガンをフィーチュアしたハードロック。ヴォーカル・パート周辺は「Corte Dei Miracoli」の楽曲に採用されている。ここからギターの部分とサイケな混沌を削って完成させたのだろう。
  「Il Volto Sconosciuto Della Terra」(7:04)このヴォーカル・パートもややメロディを変えて「Corte Dei Miracoli」の楽曲に採用されている。

  「Riflessione」(7:23)LED ZEPPELIN でしょうか、そこへオルガンを盛り込み英国流クラシカル・ハードロックへ。前半のシンプルながらも王道な展開もいいが、4 分辺りからの変身や PROCOL HARUM 風のエンディングもカッコいい。
  「Dimensione Onirica Part 2」(10:13)正調クラシカル・オルガン・ロック。ドラム・ソロあり。 インストゥルメンタル。
  「Breve Esistenza」(8:51)エネルギッシュなオルガン・ロック。なんだろう、この勢い任せで行く先が見えない感じ、やさぐれ感。 前半のソロ・ピアノが印象的。
  「Corte O Morte」(8:04)基本的に即興でしょう。フィーチュアされるベーシストはアンディ・フレイザーのファンか?終盤、メロトロン爆鳴り。
  「Quasimodo」(13:36)この曲名で「ノートルダムのせむし男」との関連が分かった。アルバム収録曲「I Due Amanti(二人の恋人)」の原型。

(MMP 104)


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