イタリアン・ロック草分けグループの一つ「NEW TROLLS」。 66 年結成。 三作目の「Concerto Grosso Per I New Trolls」で、アート・ロックとして高い評価を得る。 ニコ・ディ・パロとヴィットリオ・デ・スカルツィの二人のリーダーの確執からグループが分裂していた時代を経て、後に再合流。 2001 年「Concerto Grosso」再演とともに復活、ディパロとスカルツィが揃ったラインナップで活動中。
Nico Di Palo | guitar, lead vocals |
Gianni Belleno | drums, vocals |
Giorgio D'Adamo | bass |
Vittorio De Scalzi | guitar |
71 年発表の「Concerto Grosso N.I」は、エンリケ・バカロフのアレンジによるオーケストラ共演を果たした、クラシックとロックの融合実験として名高い作品。
プロデュースはセルジオ・バルドッティ。
ちなみに、原題は「Concert Grosso Per I New Trolls」だったが、最後のグループ名が外れ、いつの間にか「Concerto Grosso N.1」になってしまったそうです。
紫色のジャケット中央には、小さな文字でハムレットの名科白「生きるべきか死ぬべきか...」に続く「死か眠りか、眠れば夢を見るだろう」なる文句が書かれている。
多くのグループが試みているオーケストラとの共演。
NEW TROLLS のアプローチは、徹底してドラマチックな演出を目指すものであり、ヴィヴァルディを思わせる甘美な弦楽とワイルドなバンド演奏が対比しつつ融合し、結果としてロマンティックなサウンドをつくりだしている。
正直、すでに数多のポップス・オーケストラに馴染んでしまった耳には、イージー・リスニングに聴こえてしまうところもある。
これは否めない。
しかし、美しくも緊張感あるヴァイオリン・ソロやデリケートなチェンバロの音色らが、ワイルドなサウンドやビート感と共存して、より一層光り輝くさまに驚かされるのも、また事実である。
ジミ・ヘンドリックスに捧げられた 4 曲目では、主としてバンドが演奏をリードするが、その一方で、チャーチ・オルガンとオーヴァーラップするファルセットのハーモニーが限りなく美しく、歌メロには哀愁があふれる。
まさに、ロックとクラシックが旋律美を接点に一つになっている、といえるだろう。
曲が進むに連れ、かなりエネルギッシュなアドリヴへと発展する。
それでも、前曲までのロマンティックな弦楽の響きとシームレスになっているように聴こえる。
まさにマジックだ。
「1.tempo ALLEGRO」ソロ・ヴァイオリンとバンド・アンサンブルが巧みにかけ合い、テンション高い演奏の口火を切る。
そして、バロック風のストリングスとフルートをフィーチュアした JETHRO TULL 風のバンド演奏との熱いぶつかり合いが、ドラマチックに続いてゆく。
2 分余りの小曲にもかかわらず、一気に惹き込む魅力に満ちている。
「2.tempo ADAGIO(Shadows)」ピチカートの伴奏で奏でられるヴァイオリン・ソロは、緩徐楽章風のメランコリックな旋律。
このメロディを軸に、ギター、ピアノ、ヴォーカルが、甘美で切ない演奏を繰り広げる。
チェンバロ、ストリングスの伴奏とベースやドラムスのリズム・セクションがかみ合い、旋律を支えてゆく。
ひたすら美しく劇的である。
映画の主題歌としても使用された名曲だ。
「3.tempo CADENZA - ANDANTE CON MOTO」
スリリングなヴァイオリンのカデンツァによるオープニング。
アルペジオは、バッハの名曲「Chiaconna」を思わせる。
いつしかチェロの伴奏を得て、メロディは哀愁を帯び、フル・オーケストラによる「アダージョ」の変奏へと変化してゆく。
ギターやストリングスの分厚い響きがヴァイオリンと重なり、ドラムスは熱くビートを叩き出す。
哀愁を帯びたコーラスから、感動でダメを押すストリングスへ、そして、クラシカルなチェンバロの演奏で幕を閉じる。
「4.tempo SHADOWS (per Jimi Hendrix)」バンドがリードする即興風のナンバー。
繊細な旋律美とギターのプレイに代表される荒々しさが同居する。
エンディングへ向かうギター・ソロは、もちろんジミヘンだろう。
この曲こそ、クラシック的な構築美とロックの熱いダイナミズムが同時に表現された名曲だ。
ここまでが、バカロフ作曲の作品。
「Nella salavuota, improvvisazioni dei New Trolls registrate in diretta」は、オルガン、フルート、ギターを駆使した、ハードなインプロヴィゼーション。
20 分に及ぶ大作である。
途中、クラシカルなオルガンをフィーチュアしたり、本格的なジャズ・アンサンブルへと変化したりと、かなり面白い演奏である。
オーケストラとの共演部分では抑えられていたエネルギーを、思いきり発散させているようだ。
このグループの音楽的な素地の部分がよく分かる作品である。
(LPX 8 / FONIT CETRA CDM 2034)
Nico Di Palo | guitar, lead vocals |
Gianni Belleno | drums, vocals |
Frank Laugelli(Rhodes) | bass |
Maurizio Salvi | piano, organ, synthesizer |
Vittorio De Scalzi | guitar |
72 年発表の「Searching For A Land」。
アナログ二枚組。
一枚目がスタジオ録音、二枚目がライヴ録音の作品である。
スタジオ盤では、PENTANGLE 風のフォーク・タッチの歌もの、幻想的なシンフォニック・チューン、クラシカルかつロマンティックなバラード、ハードなジャズロック、アコースティック・ギター・ソロなど、多彩な作風で豊富なアイデアをまとめる安定したテクニックを存分に見せつける。
全体としては、アコースティックな印象の内容だ。
この一枚目の作品群は、英語で歌われるイタリアン・ロックとしては、最も完成度が高いものの一つだ。
また、ライヴ盤前半では、ワイルドにしてジャジーなフリー・フォームの演奏が、ソロをたっぷりフィーチュアしつつ繰り広げられる。
ジャジーなキーボードとハードロック的なギター・プレイの対比が鮮烈だ。
そして後半は、フルートとチャーチ・オルガンをフィーチュアしたバロック調の壮大にしてヘヴィな超大作が控えている。
スタジオ盤は、スカルツィ色がやや強く、反対にライヴ盤は、ディ・パロの色が出ているといてもよいだろう。
ヴォーカルは英語。
ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックに強く影響されたハードなスタイルに、クラシック、ジャズもカバーする幅広いテクニックとセンスが備わった傑作。
前作でのストリングスとの共演が、音楽の幅を一気に広げたようだ。
なぜかあまり注目されない傑作といってもいいだろう。
ヴォーカルは英語。
「Searching」(4:45)
ヴォーカル・ハーモニーとアコースティック・ギター中心の緩やかな演奏に、ジャズ風のドラムスとピアノが独特の緊張感をもたらす作品。
演奏は、メランコリックな表情である。
ヴァイオリンの弓でギターを弾く荒業もあり。
スカルツィは、おそらくアコースティック・ギター担当。
アコースティックな音が主だが、演奏はきわめてスリリングだ。
「Percival」(5:22)
トラッド風のアコースティック・ギターとハイトーン・ヴォーカルによる LED ZEPPELIN 風のナンバー。
間奏のアコースティック・ギターは、バート・ヤンシュを思わせるブルーズとトラッドを混合したようなスタイル。
ヴォーカルはイコライザでやや毛羽立っている。
「In St.Peter's Day」(5:00)
素朴なロマンをたたえるアコースティック・ギターとヴォーカルによる哀愁の弾き語りナンバー。
ピアノが美しい。
後半には、甘く高貴なストリングス・シンセサイザーが朗々と鳴り響く、劇的な場面もある。
このシンセサイザーのテーマは、I POOH を思わせるロマンティックなものである。
「Once That I Prayed」(4:00)
華麗なピアノ、チェンバロをフィーチュアした前世紀的なロマンあふれるバラード。
悩ましげなヴォーカルは、ディ・パロではなく、ドラムスのジャンニ・ベレロだろうか。
間奏は、ピアノとチェンバロ、フルートによる優美にして哀しきセレナーデ風のバロック・アンサンブル。
エンディングのピアノがあまりに美しい。
「A Land To Live A Land To Die」(8:25)
ブルージーかつクラシカルな COLOSSEUM 風の大作。
中心には巨大なハモンド・オルガン・ソロが君臨する。
ブリティッシュ・ロック風のクールで重厚なタッチが新鮮だ。
「Giga」(2:05)アコースティック・ギター・ソロ。
インスト。
「To Edith」(8:40)「Four Symbols」LED ZEPPELIN にエレガンスを加味した堂々の幻想大作。
ベース・ラインがカッコいい。
ここから LP では二枚目。大歓声が巻き起こる大物らしいライヴです。
「Intro」(7:20)ドラム・ソロが導く EL&P 風のジャジーなナンバー。
パーカッシヴなハモンド・オルガンが炸裂。
しかし、後半は、EL&P にはない爆発的なギター・アドリヴ。
「Bright Lights」(6:45)ヘヴィなギター・リフがカッコいいハードロック。
ハイトーンのシャウトも決まってます。
普通じゃないのは、中盤にみごとなピアノとギターのバトルがあるところ。
リズム・チェンジもカッコいい。
黄色い声が飛び交ってます。
「Muddy Madalein」(2:25)JETHRO TULL まんまのフルートをフィーチュアしたハードロック。
メイン・パートは、DEEP PURPLE で、そこへアンダーソンばりのトーキング・フルートが突っ込みを入れる。
「Lying Here」(17:25)幻想的な即興大作。
序盤は、フルートのアンサンブル。チャーチ・オルガンがひとしきり鳴り響くと、変拍子、無調のリフでドライヴするスピーディな展開へ。
終盤はワイルドなギター・アドリヴ。
ブルージーというよりはけたたましくメタリックなスタイルは、ジミー・ペイジの影響でしょう。
(LPX 12/13 / WARNER FONIT 3984 27166-2)
Nico Di Palo | guitar, lead vocals |
Gianni Belleno | drums, vocals |
Frank Laugelli(Rhodes) | bass |
Maurizio Salvi | piano, organ, synthesizer |
Vittorio De Scalzi | guitar |
72 年発表の「UT」。
名作の一つに上げられるが、内容は、クラシカルかつシンフォニックな作品とハードロックが混在し、トータルとしてはややまとまりを欠く。
しかし、演奏そのものは高度である。
特に、多彩なキーボードと縦横無尽に駆け巡るギターはみごと。
マウリツィオ・サルヴィの存在感が高まった。
本作で明らかなように、ディ・パロのハードロック路線に抵抗したスカルツィの脱退から、NEW TROLLS 受難の時代が始まった。
「Studio」(3:09)
冒頭、銅鑼の音が轟き、ピアノ、オルガンとギターのユニゾンによるベートーベン風の重厚な下降音形のテーマが、劇的に示される。
余韻の中をピアノのアルペジオが密やかにミステリアスに湧き上がり、オルガンの調べとともに、リスト風のスピーディなリフレインへと変化、加速とともに華やかに見得を切るようにスケールを駆け下りてゆく。
なんというか、中世王宮劇の華麗なる円舞である。
さて続いて、チャーチ・オルガンが葬送行進曲風の低音のテーマを提示し、ピアノの和音が要所を支えてゆく。
テーマはピアノに引き継がれ、華麗な変奏曲となってゆく。
二度目の繰り返してではシンセサイザーのつややかなプレイも重なる。
三度目の繰り返しでは、ストリングス・シンセサイザーも加わる。
悲劇的でロマンティックな演奏である。
再び荒々しく吼えるチャーチ・オルガン、ギター、ピアノのユニゾン。
朗々とテーマが歌われる
突如、テーマを打ち破るのは冒頭のベートーベンそしてドラの一撃。
重厚華麗にして劇的なピアノの魅力をフィーチュアしたドラマチックなクラシカル・チューン。
サルヴィ作曲。
息つく間もなく「XXII Strada」(1:51)へ。
ヘヴィなピアノのリフレインは、いつしかエマーソン風のジャジーでたくましいタッチを得て、ドラムスとともに一気にハードな雰囲気へ。
続いて、ギターがスリリングなテーマを提示。
ギターはしなやかにテーマを展開し、ハモンド・オルガンによるあまりに強力なオブリガートが噛み付くようにバックアップ。
ギターのテーマは、狂乱するリズムと荒ぶるハモンド・オルガンを抑えるが、あくまで挑戦的なオルガンが切り返す。
オルガンが激しい下降音形から見得を切り、演奏を断ち切る。
キース・エマーソンばりのピアノ、ハモンド・オルガンによるアグレッシヴなクラシカル・ロック・インストゥルメンタル。
激走し、あまりにめまぐるしく変化して去ってゆくだけに、もう少しでも展開すれば稀代の名曲となったろう。
ディ・パロとサルヴィ作曲。
「I Cavalieri Del Lago Dell'Ontario」(5:02)マーチ風のイントロからホイッスル・シンセサイザーを大胆かつユーモラスに使ってシンフォニックな世界を描く作品。
メランコリックなヴォーカル・パートとそれに応ずるヘヴィに猛るハモンド・オルガンのオブリガートが交互に現われるが、一転、サビは伸びやかなイタリアン・ロックらしいポップなハーモニーである。
ジャジーなリズム・セクション、バッキングに支えられるシンセサイザー・ソロは、時代がかったすさまじい音だ。
シンセサイザーというよりもトーン・ジェネレータというべきかもしれない。
再び、曲調は一転し、マーチング・スネアのフェード・インとともに、ハモンド・オルガンとギターによる名曲クラシックのテーマが繰り返される。
ユーモラスな展開は、すぐさまヘヴィなリフへと戻って終わり。
グループによる作曲。
クラシカルなアレンジによるいかにも B 級なイタリアン・ロックだが、奇想曲の気まぐれな展開とポップなヴォーカル・ハーモニーが愛らしい作品。
テンポ、展開、めまぐるしく変るも、破綻スレスレでのり切るところがこの時代の作品らしい。
シンセサイザーは大胆不敵。
「Storia Di Una Foglia」(2:57)イタリアン・ロックらしさ前回のアコースティックな田園フォーク・ロック。
軽快なアコースティック・ギターのストロークとファルセット気味のヴォーカル、アメリカンなエレキギターのオブリガート、これらすべてが一つとなって素朴で爽やかなイメージを提示する好作品である。
ギターのストロークが生む涼しげで軽やかなリズムが心地よい。
ビート・グループ出身なので、こういった演奏は自然なのだろう。
デ・スカルツィが目指したのはこの方向なのかもしれない。
狂乱するプログレの嵐の中にたたずむ一片の良心。
甘めのファルセット・ヴォイスはドラムスのベレノか。
グループによる作曲。
「Nato Adesso」(7:53)エレガントにしてやや憂鬱なピアノの伴奏による哀愁のバラード。
ギターも静かにヴォーカルをなぞり、サビでは悩ましく高まるヴォーカルにストリングス・シンセサイザーがそっと寄り添う。
イタリア風のエレガンスとブリティッシュ・ロック風の翳りが交じった独特の曲調だ。
リズムの立ち上がりとともに演奏に力がみなぎり始め、ピアノの伴奏はそのままにギター・ソロがスタート。
荒々しいトーンだがフレージングはジャジーでなめらかである。
奔放なアドリヴはマンネリ化を避けるかのようにトーンを甘めに切りかえて細かなパッセージの速弾きを繰り出す。(CHICAGO のテリー・キャスの名演を思い出した)
ジャジーなピアノのバッキングも加わって、やや覚束なげながらもジャジーなギター・アドリヴが続く。
ギターのリードする演奏は、次第に高鳴るストリングス・シンセサイザーの響きにオーバーライドされる。
激しいアンサンブルが去った後には、ロマンティックなピアノの調べと熱いヴォーカルが甦る。
潮騒か驟雨のようなシンセサイザーとともにピアノ曲を締めくくる。
ディ・パロのギターを大々的にフィーチュアした哀愁のバラード。
長大なギター・アドリヴにのれるかどうかで曲の評価が決まるだろう。
是非はともかく、破天荒さというロックの特質を体現するプレイではある。
個人的にはヴォーカルの表情がよかっただけにギターをもう少し刈り込んだほうがよかったと思う。
グループによる作曲。
「C'e Troppa Guerra」(9:53)フィードバック音を合図に一気にパワー・コードが轟くオープニング。
FORMULA TRE を思わせる強烈なギター・リフが飛び出し、オブリガートもヘヴィだ。
一転静まり返り電気処理されたヴォーカルがささやく。
再び叩きつけるように強烈なリフ。
そして奇妙な静けさでヴォーカルが喚く。
三度ヘヴィ・メタル・ギターが飛びかかる。
今度のリフはさらに狂暴だ。
ヴォーカルはディ・パロによるハイトーンのシャウト。
ギターとヴォーカルが激しく絡み合う。
LED ZEPPELIN や URIAH HEEP を思わせる英国風のハードロックだ。
噛みつきそうなヴォーカルとあくまで攻撃的なギター。
演奏力と器用さは実証済みだ。
ひとしきりエネルギーを発散したのか、アコースティック・ギターをかき鳴らす音から、おだやかなフォーク風の演奏が始まる。
ここのヴォーカルはベレノだろうか。
つい先ほどとは別人である。
案の定、唐突にヘヴィなリフが再現。
引き絞るようなシャウト、しなやかなオブリガート。
左右のチャネルから迸る激しいパワー・コードの応酬を経て、無茶なギター・ソロが飛び出す。
これもディ・パロだろう。
銅鑼が轟き、パワー・コードが刻むへヴィなリフを経て、オープニングのしなやかなハーモニック・リフが再現。
中間部にフォーク・ソングのあるユニークなヘヴィ・メタル・チューン。
ヘヴィにしてキャッチーな複数のリフ、けたたましくもハードに攻め立てる曲調は、英国本場ものに引けはとらない。
金属的なトーンのギター、ハイトーンのシャウトは、イタリアン・ロックらしからぬ鋭さと攻撃性を持つ。
HM にすら牧歌調が混じるところが南欧風なのだろう。
「Paolo E Francesca」(6:06)
ロマンティックでセンチメンタルすぎるバラード。
アコースティック・ギターのコード・ストロークとエレキギターのオブリガートがすてきだ。
まろやかに連なる言葉の心地よい響きは、イタリア語ならではだろう。
あえて切ない表情を作らずとも、言葉の響きに切ない気持ちが込められている。
リズム、ギターの音、ヴォーカルが一体となった詩的な作品だ。
甘さと緊張感の絶妙のバランスといえるだろう。
ここでのギター・プレイには、アルベルト・ラディウスにも通じる歌心があり、前曲までの無茶な弾き捲くりとは天地の差がある。
男女の会話のように左右のチャネルから交互に話しかけるギターのしかけも面白い。
サザン・オールスターズ的和み系ともいえるだろう。
主題は、ダンテが取り上げて有名な悲恋の物語。
名曲。
「Chi Mi Puo Capire」(4:35)キーボードをフィーチュアしたシンフォニックなバラード。
苦悩に身悶えし情熱を迸らせるヴォーカルと壮大なキーボード・オーケストレーションによる劇的な終曲である。
オルガン、ストリングス・シンセサイザーがクラシカルな盛り上がりを見せ、ジャジーなピアノが彩りを添える。
ニコ・ディ・パロの歌唱もいかにもベル・カントな朗々たるものである。
イタリアン・ポップスの王道たる佳作。
クラシカルなキーボード・ロック、フォーク・タッチの歌もの、ハードロックとさまざまな曲が放り込まれた作品。
キーボードをフィーチュアしたオープニングからハードロックやフォーク・ソングを経て「Concerto Grosso」を思わせる優美なエンディングへと辿りつく。
AOR っぽさやポップな歌メロが散りばめられているのは、出自を考えれば当然。
そもそも、プログレが裏芸のグループである。
無茶なギターのアドリヴや単調なハードロックも長いが、イタリアン・ロックらしい優美なメロディとハーモニーも盛り込んでリカバリーしている。
オープニングやハードロックのおかげで、スリリングでヘヴィなアルバムという印象が強いが、聴き終えてみれば、素朴なメロディのよさとナチュラルな歌心も耳に残っている。
オリジナル LP は、紺ではなく明るい緑の帯。
また、KING レコードからの CD では、フェスティバル出展作品がボーナスでつく。
卒なくどんな曲調でも仕上げられる器用さが両刃の剣になったのでは、なぞと余計な妄想までさせるほど、高度な演奏力を見せつける作品だ。
(LPX 20 / FONIT CETRA CDLP 430)
Vittorio De Scalzi | guitar, flute, Arp synth, spinetta, vocals |
Giorgio D'Adamo | bass |
Renato Rosset | piano, Hammond organ, Moog, Mellotron, electric piano |
Giorgio Baiocco | tenor sax, flute, Eminent string emsemble |
Tullio D'Episcopo | drums |
Ramasandiran Somusundaran | percussions |
Anna & Giulietta | chorus |
73 年発表の「NT Atomic System」。
音楽的な意見の食い違いからニコ・ディ・パロら一部メンバーが脱退し、別のグループを組んでしまう。
このため、スカルツィは新たなメンバーを集め、本作を発表。
(契約上バンド名をそのままは使用できなかったため、NT というアクロニムにしているようだ。
さらには、後に NEW TROLLS としても本作にシングルである「Una Notte Sul Monte Calvo」を追加したヴァージョンのアルバムを発表している(同曲は本 CD にボーナス扱いで収録))
ただし、作品そのものはそういったゴタゴタを全く感じさせない高度なものであり、キース・エマーソンばりの多彩なキーボード・プレイを中心とした、高い音楽性を誇るプログレッシヴ・ロックの会心作といえる。
NOVA にも加入するキーボーディスト、レナート・ロッセは逸材。
P.F.M や BANCO と比較すると、英国プログレの影響を演奏面にのみ集中させて超進化させているイメージである。
プログレ・ファンには一押しの作品。
「La Nuova Predica Di Padre O'brien(父オブライエン)」(6:43) EL&P を思わせるクラシカルなキーボードとヘヴィなリズムが圧巻の傑作。
ファンファーレのようなシンセサイザーで幕を開け、激しくたたみかける変則リズムとともにクラヴィネット、トーキング・フルート、シンセサイザーらによるアグレッシヴなプレイが続いてゆく。
邪悪なキーボード・リフが「Tarkus」を彷彿させる。
そのなかを貫くのが、スカルツィの男性的な朗々たるヴォーカルである。
チェロのような低音のレガートなメロディはメロトロンだろうか。
女性コーラスとクラヴィネットによるバロック風のブリッジもみごとだ。
狂おしいトーキング・フルートが緊張を高め、ストリングス・シンセサイザーが湧き上がる。
けたたましいオルガン、パーカッションが暴れ続ける演奏には、息づまるような迫力がある。
そして、あたかも緊張から迸り出るように、エキサイティングなハモンド・オルガン・ソロ。
ギター・ソロはジャジーな速弾きである。
エンディングは、透き通るようなピアノが鮮やかにまとめる。
多彩なキーボードとパーカッシヴなリズムをフィーチュアした、ハードなクラシカル・チューン。
前半は、へヴィな変拍子によるリフがドライヴしつつも、メロディアスなヴォーカル、クラシカルなコーラスが盛り込まれている。
中盤以降は、オルガンとシンセサイザーが重なり合い、強烈なリフ/ビートがあおり立てる、息づまるようなアンサンブルとソロが続く。
前作のようなストレートでギラついた切れ味とは別種の、まさにプログレど真ん中といえる、めまぐるしく過剰な情報量(メロトロンやトーキング・フルートもあり)をもつ演奏である。
EL&P を原点にした、 MUSEO ROSENBACH や BIGLIETTO PER L'INFERNO と通じる音である。
「Ho Visto Poi(オ・ビスト・ポイ)」(7:31)シンセサイザーとオルガンによる重厚にしてロマンティックなイントロから、一気に、ヘヴィなギター・リフによるハードロックへと急展開。
そして、ギター、キーボードによるファンタジックな演奏へと変化し、フォーク・タッチのヴォーカルが始まる。
密やかでメロディアスなヴォーカルに対し、間奏は、再びヘヴィなトゥッティ。
うねるギターと煮え立つようなハモンド・オルガンが強力だ。
このハードな演奏とエレクトリックながらも牧歌的な演奏が、交互にヴォーカルを支えてゆく。
やがて、シンフォニックな高まりが生まれる。
しかし、急転直下、ギター、パーカッションが伴奏するジャジーなテナー・サックス・ソロへ。
過激な展開も堂にいっている。
再び、柔らかなファンタジーの世界が甦り、つぶやくような歌が帰ってくる。
美しいシンセサイザーが、またもやヘヴィなトウッティを呼び覚ますも、エンディングは切ないシンセサイザーの調べ、そしてギター、オルガンのさざめき。
ハードロックとフォーク・タッチのヴォーカルを組み合わせた、イタリアン・ロックならではの味わいをもつ作品。
牧歌的な歌ものに、エレクトリックで強烈なアクセントをもつアレンジを施すのは、イタリア・プログレの基本手法。
エフェクトされたギターやシンセサイザー、オルガンによるスペイシーな演奏、力強いベースなど YES を思わせるところもあり。
「Tornare A Credere(真実に向かって)」(8:35)リラックスしながらも気品あるピアノに導かれて始まるは、メロディアスなバラード。
男性リード・ヴォーカルを追いかける女性コーラス、そしてオルガン、ピアノ、メロトロン・ストリングスが、優美にしてしなやかな伴奏が支える。
息を呑むようなストリングスはシンセサイザーだろうか。
クリスタルのような輝きである。
間奏は、ヘヴィなピアノとリズム・セクションにリードされ、フルートとメロトロンも加わったクラシカルなアンサンブルである。
ヴィヴァルディを原点に、ノスタルジックで甘美な 60、70 年代の響き。
そして、ヴォーカル・パートは再び力強く優しい。
雄大なオルガンによって演奏は一段落し、4 分半辺りからは、激しいジャムとなる。
最初の間奏と同じく、ヘヴィなピアノとパーカッションに導かれて、まずはジャジーなギターのアドリヴ。
ピアノがややボレロ風に変化すると、シンセサイザー・ストリングス、シンセサイザー・ブラスによる本格的なボレロが始まる。
この辺りは EL&P そのもの。
ピッチの変化やトレモロがいい感じだ。
そして、シンセサイザーに導かれて三度ヴォーカル・パートへ。
ピアノ、シンセサイザー、オルガンが次々と巧みな音色で歌を支える。
一気にムードはポップスへ。
しかし、それがいい。
力強いヴォーカルと女性コーラス陣、そしてスリリングなインストゥルメンタルがフィーチュアされた、イタリアン・ロックらしいシンフォニック・ロック。
シンフォニック・ロックというよりは、インスト・パートを拡大した、愛に満ち溢れる正調イタリアン・ポップスといった方が、ニュアンスが伝わるかもしれない。
間奏部のインストゥルメンタルは、一回目が重厚なピアノとフルート、メロトロンがクラシカルな演奏で盛り上げ、二回目はジャジーなギターとピアノ、シンセサイザーがフィーチュアされている。
重厚な演奏とロマンティックかつ情熱的な歌ががっちりと手を取った傑作だ。
キーボーディストはかなりエマーソン。
泣かせます。
「Una Notte Sul Monte Calvo(禿山の一夜)」(3:31)は、日本版 CD のボーナス。
エレクトロニックで不気味な幕開けから、オルガン、シンセサイザーのハーモニーによる重厚なテーマが走り出す。
手数の多いドラムス、ヘヴィなオルガンなどオーケストラのイメージを巧みにバンド演奏でシミュレートしている。
オルガンによるエキゾチックな第二主題、そして反応するヘヴィな演奏。
展開部はいきなりジャジーなエレピ・ソロ、そして第三主題を奏でるギターは、そのまま狂おしいアドリヴへ。
過激な音を使いつつも、タイムリーな全体演奏が曲の雰囲気を保つ。
重厚なキメと狂乱するギター、リズム。
すべてが一体となってエネルギッシュなオーケストラとなっている。
エレクトロニックなキーボードによる原曲のテーマを巡り、ジャズ風のプレイやハードロック風のプレイを過激に交えた好演奏。
ジャジーなエレピとあくまでヘヴィでアシッドなギター。
ミステリアスなテーマが、重々しいシンセサイザー、オルガンにピッタリである。
多くの場合は、クラシックの原曲そのままの演奏はビートが伴わずカッコ悪いが、この作品はパーカッションを活かしリズムにうねりをもたせたことと、けたたましいアレンジが功を奏している。
邪道風のクラシックを邪道のロックというべきプログレで復活させたインストゥルメンタル。
「Ibernazione(冬眠)」(5:48)
ハープシコードによるバロック調のソロをイントロダクションに、パーカッシヴなリズムがざわめき始めるオープニング。
ピアノ、パーカッション、ドラムらが夥しい音で波打ち始める。
3 拍子系の伴奏に、男性的なヴォーカルは 4 拍子で重なる。
間奏は、ピアノ、ハープシコードのデュオ。
オブリガートには、シンセサイザーも加わる。
最初の展開部は、シンセサイザーのリードで始まり、そのままピアノ伴奏のソロへ。
けたたましく鳴り響くシンセサイザーとともに、ヴォーカル・パートへ復帰。
今度は、間奏を経て、クラシカルなコーラスへ。
ロマンティックに表情を変えたヴォーカルが続く。
緊張感あるピアノのリフレインから、フルート、メロトロンの加わったアンサンブルへ。
重々しいシンセサイザーが鼓動のようにビートを刻み、ハモンド・オルガンがピアノのリフレインを引き継ぐ。
高鳴るシンセサイザー。
勇壮にして厳かな演奏が続く。
一転細かいジャズ・ビートに変化し、ベースのソロへ。
ディストーションを利かせたワイルドな音色のソロだ。
唐突なヴォーカルの出現、そして細かなビートで突き進み、最後はロマンティックなピアノとヴォーカルで終わり。
キーボードを中心としたクラシカルな器楽と男性的なヴォーカルをフィーチュアしたパワフルな歌ものを融合した佳作。
メロディアスで力強い主題をもちながらも、ポリリズミックな変化と目まぐるしい展開のせいで、どこかいかがわしく危うい雰囲気がある。
この辺りがまさにプログレだ。
ピアノとハープシコードのポリリズミックなデュオはトニー・バンクス、シンセサイザーとピアノは完全にエマーソン、歌はほとんど BOOZ。
終盤、重厚にしてドライヴ感あふれるインストゥルメンタルからヴォーカルへ戻る辺りで、曲が目まぐるしく変化し、ぐんぐん捻れてゆく様子が面白い。
5 分半とは思えぬ高密度の演奏だ。
「Quando L'Erba Vestiva La Terra(美しい世界)」(7:16)
ストリングス・シンセサイザーと ARP シンセサイザー、メロトロンによる弦楽オーケストラを思わせる、ロマンティックかつ重厚なイントロダクション。
ヴォーカルは物憂くピアノ伴奏も重い。
そして、オルガンとフルートが哀愁に彩を添える。
吹き上げるシンセサイザー・ストリングス。
イタリアン・ロックらしい優美な哀感が強まる。
オブリガートのシンセサイザーは金管風。
メランコリックにして甘みもあるメイン・ヴォーカルを、オルガンがそっと支えるところは、PROCOL HARUM の名曲すら連想させる。
続く間奏は、シンセサイザー・ストリングスとヘヴィかつメロディアスなギターがリードし、いやがうえにも盛り上がる。
迸る情熱とトラジックな感動。
やおらリズムはハードかつジャジーに変化し、ヘヴィなオルガン、クラヴィネット、ピアノのリフが走り出す。
迸るハモンド・オルガン。
一転リズムを失い、空間的なアンサンブルが続く。
急激な変化だ。
またも唐突に始まるジャズ・サックス・ソロ。
ピアノもジャズ調である。
いつのまにか湧き上がるヘヴィなリフ。
オルガン、ドラムスが激しく沸立つ。
絶叫するサックス。
トゥッティによるリフ。
そしてドラム・ソロ。
最後はアンコールの終わりのような長いキメ。
「Concerto Grosso」の再現というべき泣きのクラシカル・ロックからアグレッシヴなジャムへと進む作品。
前半は、管弦楽の代わりにシンセサイザー、メロトロンを用いたメロドラマティックなラヴ・ロック。
ストリングスの盛り上げる大感動大会は、お決まりとはいえかなり聴かせる。
そして展開部の妙。
キーボードによるアグレッシヴなソロ、スペイシーなアンサンブル。
おまけに、ジャジーなサックスまでも飛び出す、過激な展開だ。
メロディアスなメイン・パートとせわしなくヘヴィなインスト・パートを目まぐるしく行き交う作風は、本アルバムすべてに共通するようだ。
「Butterfly(バタフライ)」(4:41)軽やかなアコースティック・ギターとパーカッションによるイントロダクション。
ヴォーカルは、やや抑え目に密やかな表情で歌いだす。
サビは、波打つパーカッションとアコースティック・ギターのコード・ストロークが支え、女性コーラスが重なる。
歯切れいいコード・ストロークと乾いたパーカッションがいい感じだ。
オブリガートには、スピネットの軽快なプレイも入る。
レガートなヴォーカルとリズミカルな演奏の音の対比も効果的だ。
うっすらとストリングスが背景を染めている。
サビのコーラスは、ブリティッシュ風の土臭さのなかにやさしい広がりがある。
そしてトーキング・フルート・ソロ。
かなりワイルドなソロだ。
最後もサビのコーラス、そしてスピネットの華麗なソロへ。
パストラルで軽快なフォーク・ロック。
英語のヴォーカルのおかげで、P.F.M や英国ものを思わせる仕上がりである。
女性コーラスが入ったメロディアスなサビは、まさに 70 年代の空気でいっぱい。
そして、イアン・アンダーソンもびっくりのトーキング・フルートもあり。
やたらと懐かしいのは、子供の頃にラジオから流れていたこういう音を耳にしていたせいでしょうか。
すてきです。
キーボードをフィーチュアしたプログレらしい名作。
ハモンド・オルガン、シンセサイザー、クラシック的モチーフ、ジャズ的展開、たたみかけるような変拍子、そしてすべてをたばねるヘヴィなサウンドなど、いわゆる 70 年代プログレッシヴ・ロックのイディオムがきっちり揃っている。
キーボードは、エマーソン傾倒型のテクニカルな専任を含み三人がクレジットされており、確かに音色/プレイは多彩である。
ワイルドながらも安定したリズム・セクションも、イタリアン・ロックの水準を越えている。
特に、全体演奏の迫力は、ピアノ、ドラムスに負うところが大きいだろう。
濃厚な味わいをもつ歌の存在感は、いうまでもない。
個人的には、メロディアスでありながらもドライヴ感を重視するようなアレンジがうれしい。
英国プログレの影響を素直に受け止め、こなれた演奏を決めているといえるだろう。
最後の曲は口直しには最高の逸品。
名盤。
(MAGL 18003 / KICP 2817)
Vittorio De Scalzi | guitar |
Giorgio D'Adamo | bass |
Renato Rosset | keyboards |
Tullio D'Episcopo | drums |
Giorgio Baiocco | sax, flute |
74 年発表のライヴ盤「tempi dispari」。
内容は、「NT Atomic System」のメンバーによる、インプロヴィゼーション主体のジャズロック。
録音は今ひとつながらも、当時流行のスタイルと新生 TROLLS の圧倒的な演奏力がよく分かる佳作である。
アルバム・タイトルである「奇数拍子(odd times)」(カバーアートにも意味ありげな奇数が並ぶ)そのままに、奇数変拍子の大作二つが収録されている。
「4/7(settequarti)」(16:21)は、4 分の 7 拍子のリフがドライヴするクロスオーヴァー/ジャズロック。
ベースによるリフの上で、けたたましいギターとどっしりとした存在感のあるサックスによるインタープレイ、ソロが続く。
キーボードはエレクトリック・ピアノが中心。
ギターはジャジーなパッセージからサイケなハードロック調までトーンを調節して奮戦する。
停滞と推進の微妙なバランスに SOFT MACHINE を思わせる瞬間もある。
中盤、ランニング・ベースとサックス、エレピ、ドラムスの応酬では、本格的なジャズ・バンド調に。
サックスは、ジャズ畑のミュージシャンらしく、エルトン・ディーンのような骨太かつなめらかな音色を持つ本格派である。
終盤 KING CRIMSON のような激しい演奏も聴くことができる。
「13/8(trediciottavi)」(15:32)は、エレピとギターのデュオによるメランコリックな導入部(RETURN TO FOREVER そのもの)から、デ・スカルツィのギターによる「Concerto Grosso」のテーマを経て(もちろん拍手が湧き起こる)、8 分の 13 拍子のベース・リフとともにハードなインタープレイへと発展する。
ジャズよりもハードなプログレ色が強い、突き進むような演奏だ。
嵐のように湧き上がるドラム・ロールとハモンド・オルガン、サックス、ワイルドなギターが一体となって暴れ回る。
痛快な演奏だ。
さすがにポップス、ハードロック、プログレと時代の音を敏感に察知し、ヒット作を生んだ TROLLS、今回は当時全盛のジャズロック/クロスオーヴァーを著名グループと遜色ない演奏でクリアしている。
大傑作とまではいかないが、意外性だけで驚いていては失礼なレベルの高さだ。
「Atomic System」のために集まったメンバーの力量は、相当なものである。
こうなると、デ・スカルツィのハードロック・ギターの分が若干悪い。
クラシカルなフレーズやハモンド・オルガンがワイルドに攻め込む演奏など、ジャズにとどまらないプログレ向きの演奏もある。
これだけ熱気のある演奏を聴くと、映像も見たくなってしまいますね。
(MAGL 18005 / V.M.061)
Nico Di Palo | guitars, synthesizer, vocals |
Gianni Belleno | drums, percussion, vocals |
Vittorio De Scalzi | guitars, piano, flute, keyboards, synthesizer, vocals |
Giorgio D'Adamo | bass, vocals |
Ricky Belloni | guitars, vocals |
76 年発表の「Concerto Grosso N.2」は、再結成したグループの出発を飾った作品。
オリジナル・メンバーは、パロ、スカルツィ、ベレノの三人。
ベーシストは出戻りで、ギタリスト、リッキー・ベローニが NUOVA IDEA より新加入。
アイデアという意味では二番煎じになるが、前作にはなかったシンセサイザー、エレクトリック・ピアノが活躍し、弦楽器きらめくヴィヴァルディ調とジャジーなセンスを活かしたバンドのプレイを一つにした、面白い内容になっている。
霊妙なるアコースティック楽器の美しい音色と実験的なパフォーマンスのコンビネーションもいい。
得意のヴォーカル・ハーモニーも充実していて、弦楽奏とのやり取りも積極的だ。
B 面も、コンテンポラリーなキーボード・サウンドを駆使しつつもオーソドキシーを極めたロック・バラードやアーティスティックな繊細さを発揮したアコースティック・ポップス、オペラ風のメインストリーム・ロックが充実する。
全体として、キャリアにものをいわせてプログレとメイン・ストリームの間をしっかりととらえた、余裕あるポップ・ロック・アルバムといえるだろう。
演奏、ヴォーカル(一部英語もあり)ともに、欧米の一流グループになんらひけを取らない。
プロデュースはセルジオ・バルドッティ。ストリングス・アレンジ、指揮は、ルイス・エンリケ・バカロフ。
KING RECORD の単体 CD には最終曲として「Venti O Cent'Anni」が含まれている。そろそろリマスター再発してほしい一枚。
「Concerto Grosso N,2」
「1.tempo Vivace」(4:41)
「2.tempo Andante(Most dear lady)」(3:39)ヴォーカルは英語。
「3.tempo Moderato(Fare you well dove)」(4:12)ヴォーカルは英語。
「Quiet Seas」(3:21)クラシカルなバラード。ヴォーカルは英語。
「Vent'Anni」(4:50)ハーモニーが美しいフォークロック。感傷とクールネスのはざまに酔う。こういう曲調だけにギターのオブリガートもより一層映える。
「Bella Come Mai」(4:15)傑作。
「Let It Be Me」(5:17)ディパロのハイトーンを生かしたオールディーズの佳品。エヴァリー・ブラザースのヒット曲。
「Le Roi Soleil」(5:20)巧みなヴォーカル/コーラス・ワークをフル回転させた QUEEN ばりのオペラ/バーレスク調の作品。クラシカルなアレンジも絶妙。
(MAL 02 / FONIT CETRA CDM 2034)
Vittorio De Scalzi | vocals, keyboards, flute, classic guitar |
Alfio Vitanza | drums, timpani, vocals |
Roberto Tiranti | bass, vocals |
Andre A Maddalon | guitar, vocals |
Mauro Sposito | guitar, vocals |
Maurizio Salvi | keyboards |
2001 年発表の「Concerto Grosso」。
ヴィットリオ・デ・スカルツィ名義の「Concerto Grosso N.I」および「Concerto Grosso N.II」の再演を含むライヴ・アルバムである。
遡ること数年前にも再編ライヴを行っていた NEW TROLLS であったが、本作はニコ・デ・パロの参加が叶わなかったためソロ名義となったようだ。
他の旧メンバーでは、マウリツィオ・サルヴィがオーケストラの指揮とキーボードで参加している。
また、ドラムスは、90 年代以降スカルツィと活動する LATTE E MIELE のアルフィオ・ヴィタンザ。
とにもかくにも、代表作をオーケストラ帯同もそのままに再現している。
大学教授のような風貌のスカルツィは、クラシック・ギター、イアン・アンダーソンばりのフルートに大活躍し、セッション・マンらしき他メンバーとともにヴォーカル・ハーモニーを鮮やかに決めている。
伸びやかでなおかつ渋みもある歌声がうれしい。
オーケストラは十五人の小編成のようだが、バンドとのバランスは完璧に近い。
流麗華美過ぎる弦楽奏とへヴィなバンドの取り合わせが良くも悪くも過激で真にバロックな魅力を放っていたオリジナルと比べると、格段に整理されきちんとまとまった感じがする。
当然ながら現代の録音手法に拠るところも多いのだろう。
にしても、この演奏の抜群の安定感、オールドウェイヴ・ロックの誇りである。
そして、コンチェルト・グロッソに続く歌ものがまた味わい深い。
ライヴ盤としては出色の出来であり、懐かしさに酔ううちに、メロディアスでロマンティックなイタリアン・ロックの魅力を見直すことになる好作品である。
日本盤 CD にはボーナス・トラック「Dreams And Tears」 1 曲つき。
この勢いのまま、来日もした。
(MICP-10294)
「UT」で脱退したニコ・ディ・パロ等は IBIS を結成し名作「Sun Supreme」を世に問うている。 しかし、70 年代半ばには本家ともども活動が鈍り、結局 76 年にパロが復帰して NEW TROLLS は新たな出発を遂げる。