NOVA

  イタリアのジャズロック・グループ「NOVA」。 OSANNA のエリオ・ダーノとダニロ・ルスティーチが「UNO」発表後ジャズロック指向を本格的に推し進めて英国で結成。 OSANNA の活動とオーヴァーラップしつつ 80 年代初頭まで活動。ARISTA レーベル。

 Blink
 
Corrado Rustici vocals, electric & acoustic guitar
Elio D'Anno alt & tenor & soprano saxes, flute
Luciano Milanese bass
Franco Loprevite drums
Danilo Rustici guitar
guest:
Mourice Pert percussion

  75 年発表の第一作「Blink」。 内容は、典型的な 70 年代型山下毅雄/大野雄二直系ジャズロックに、イタリアンな熱気を過剰に注ぎ込んだもの。 ギターによる小気味よくも粘りつくコード・カッティング、クレイジーなサックス、パワフルにして音数多過ぎるドラムス、ソロも披露するテクニカルなベースらによる、ファンキーにしてパンチの効いたクロスオーヴァー・サウンドである。 OSANNA 組の音がこの手の音楽の向きにはややヘヴィ過ぎる感もあるが、それも個性だろう。 いわゆる「フュージョン」ではない、暑苦しくハイ・テンションの演奏が全編にわたって繰り広げられる。 おもしろいのは、ブリティッシュ・ロック的なメランコリックでリリカルな雰囲気があること、そしてドイツの KRAAN に通じる「天然なセンス」もあること。
  リード・ギター、ヴォーカル担当は、元 CERVELLO のコラード・ルスティチ。 ダニロは、リズム・ギターに専念しているようだ。 曲名とともに歌詞も英語。 そしてプロデュースはなんとルパート・ハイン。 サンクス・クレジットには、ピート・タウンジェントの名前もある。 バリバリの英米志向であり、その志向の質が日本人と似ている気がする。 再発 CD は若干音ににじみやゆがみがある。

  「Tailor Made Part 1, Part 2」(5:09) ファンキーかつ躍動感あふれるジャズロック。 ザックリ刻むリズム・ギター、かなりヘヴィなリード・ギター、そして突き抜けるような勢いのサックスが、撥ねまわるリズム・セクションに乗って暴れまくる。 ヴォーカルも色っぽい。 ブリティッシュ・ロックといっても、疑われないでしょう。 ヴォーカルは、チャーリー・コーセイかジョー山中かチャーでもいいかも。

  前曲のエンディングのサックスが、そのままイントロにつながる「Something Inside Keeps You Down Part 1, Part 2」(6:11)。 翳りのある MAHAVISHNU ORCHESTRA 風バラード調の作品。 悩ましげなサックスの調べと、暴走しがちながらも(マクラフリンに瓜二つ)リリカルなアコースティック・ギター。 変拍子パターンも交えつつ次第に加熱するが、サックスのブローに切なさがある。 凶暴に反復するバッキングと狂おしげに身悶えるサックス。 全体に均整の取れた、落ちついたイメージの演奏である。 ここでのきめ細かなパーカッションが、おそらくモーリス・パート。 ドラムスは、ややリズム・キープに難ありか。

  「Nova Part 1, Part 2」(7:10) テクニカルにして躍動感あふれるジャズロック・インストゥルメンタル。 リードは、ハイ・テンションのサックスとクチャクチャ・カッティング・ギター。 最初のギター・ソロがカッコいい。 リズム・セクションもフィーチュアし、ベース・ソロ、ドラム・ソロもある。 特にドラムスの元気は尋常ではない。 叩きに叩き、刻みに刻む。 けたたましさの中、ギター、サックスによるしなやかなテーマがくっきりと浮かび上がり、カッコいい。 痛快。 体温が五度高い KRAAN

  「Used To Be Easy Part1, Part2」(5:12) ややセンチメンタルでメロディアスなテーマをもつ歌もの。 またも金切り声を上げるサックスとともに、ヴォーカルにからむベースの動きが印象的だ。 サックスとギターのコンビネーションは、ストレートにかっ飛ばすかと思えば官能的に絡み合うなど、なかなか変化に富む。 ライヴ感覚たっぷり。 間奏や後半のアンサンブルには、CITTA FRONTALE にも通じる(というか OSANNA そのもの) テクニカルながらもパストラルな暖かみが散りばめられている。 これなら、リノ・ヴァイレッティが歌ってもいいじゃない。 くすんだヴォーカル・ナンバーが、いつのまにか、テンション上がりっぱなしのジャズロックへと変貌する。 ドラムスがうるさい。

  「Toy Part1, Part2」(4:21) ライトで黒っぽいファンク・チューン。 元 PRINCE が何年か前にやっていたような気がする。 加熱し過ぎず、ミドル・テンポをキープ、ファンキーかつメロディアスに迫る。 サックスは、ジャズよりもファンク系が本職では、と思わせるナイスなプレイ。 一方ギターは、いい音だが固い手癖がファンキーなノリと合いにくい模様。 終盤ビートが跳ねなくなってからの方が居心地がよさそうだ。 インストゥルメンタル。

  「Stroll On Part1, Part2」(10:33) オープニングの鋭くしなやかなサックスに魅せられる暇もなく、怒涛のハイテンション・パフォーマンスに巻き込まれるハード・ジャズロック。 ヴォーカル・パートをはさみ、サックスとギターが交互に烈しいソロを決める。 ヴォーカルはすさまじくパワフル。 そして、力技ばかりでなく、ストーリーと構成でも聴かせる。 巧みにテンポを揺らして、弾力あるアンサンブルになっているところも聴きやすさの秘訣か。 演奏にみなぎる熱気と緊迫感がすばらしい。 最後のフェード・アウト/インは、無意味なものですら、勢いさえあれば何かを感じさせるという典型。

  メイン・ストリーム向けのキャッチーなサウンドと爆発的なテクニックを盛り込んだジャズロック・アルバム。 徹底して音数の多いリズム・セクションの上ですべての楽器が横一線に並んだまま全力疾走する典型的なスタイルである。 もっとも、バランスとしてはソロ回しや緻密なビートなどジャズ的な面よりも、勢い重視のハードロック的な面がやや勝っているようだ。 OSANNA 系特有の強引さと力強さを持つ、といってもいいだろう。 そして、メカニカルになりがちなアンサンブルに豊かな表情を与えるのは、豪快かつ歌心のあるブローを見せるサックスの存在である。 リード・ギターもダイナミックなソロで頑張るが、サックスと比べると、ややこじんまりとまとまったイメージだ。 その一方で、ワウやフェイザーを用いたバッキングのギターが、地味ながらも、巧妙に全体のうねりを演出している。 また、リズム・セクションは、ギリギリ目一杯のプレイで緊迫感を演出している。 ソウルフルなヴォーカル含め、かなりファンキーなのも特徴だろう。 ノリノリの走り捲くりが一本調子といえなくもないが、爆発的なパワーで突き進む荒削りの演奏に酔うことはできる。 強烈なメイン・ストリーム指向と血にたぎるイタリア根性という相反するベクトルが拮抗する、スリリングなクロス・オーヴァー・サウンドといえるだろう。
  
  
   次作「Vimana」ではダニロが脱退、コラード・ルスティチとエリオ・ダンナ、新加入の元 NEW TROLLS のキーボーディスト、レナート・ロッセのメンバーに BRAND X の面々をゲストに迎え、さらにテクニカルなフュージョン/ジャズロック路線を突き進む。 そしてこのサウンドは 77 年の「Wings Of Love」で頂点を極める。

(ARISTA ARTY 118 / VM 020)

 Vimana
 
Corrado Rustici lead vocals, electric & acoustic 6 & 12 guitar
Elio D'Anno tenor & soprano saxes, flute, synthesized flute on 6
Renato Rosset Fender Rhodes, piano, Mini-moog, string-ensemble, clavinet
guest:
Percy Jones bass
Narada Michael Walden drums, Fender Rose on the last part of 6
Phil Collins percussion
Zakir Hussain congas

  76 年発表の第二作「Vimana」。 ダニロ・ルスティチが脱退するも、新生 NEW TROLLS の鍵盤奏者レナート・ロッセを新メンバーに迎え、多彩なゲストとともにロビン・ラムレイのプロデュースを仰いだ作品。 テクニカルにしてロマンティックなジャズロックとして、充実した内容である。 サポート陣は、BRAND X および MAHAVISHNU ORCHESTRA のメンバーが主であり、ナラダ・マイケル・ウォルデンの手数ドラミングを筆頭に、技巧のキレは前作を遥かに凌ぐ。 (パーシー・ジョーンズは、目立ちすぎないように気をつけているようで、可笑しい) それでも、決して英米ジャズロックの音に乗っ取られたわけではない。 フォーク・タッチの素朴な味わいをもつテーマやパッショネートな全体演奏には、間違いなくイタリアン・ロックの香りがあり、ラテンの王道的なロマンを感じさせる。 格調あるメローさと濃厚な歌心が自然体で現れており、そこへさらに BRAND X 風のハードでミステリアスな色が加わっているのだ。 特に、ダーナのサックスが前作と同じ押しの強さと土臭さをもって、シャープすぎる演奏にまろやかで活き活きした抑揚をつけている。 アコースティック・ギター、ピアノ、フルートらによるニューエイジ調の繊細でクラシカルな演奏もある。 一方、コラード・ルスティチはもともとジョン・マクラフリン・タイプのギター・プレイヤーなので、アコースティック・ギターも含め下手をすれば本家をしのぐほどの攻めのプレイで縦横無尽に走り回る。 そのため、管楽器入りの MAHAVISHNU ORCHESTRA に聴こえるところも多い。 レナート・ロッセだけは、英国の凄腕連に囲まれてもまったく力むことなく本格的なプレイを放っている。(音色についてはラムレイのアドバイスがあったと思う) 全体的には、技巧の冴えはもちろんのこと、叙情的な場面の演奏に強い魅力があると思う。 本家 BRAND X ばりの東洋風エキゾチズムもあり。 ルスティチは、ヴォーカル(英語)でもなかなか健闘。

  「Vimana」(7:18)押しも引きも心得たロマンティックなジャズロック。冒頭の 12 弦ギターがいい感じだ。
  「Night Games」(9:37)ルスティチがヴォーカルを取るスペイシーでファンタジックな作品。BRAND X 色強し。ところがギターだけはマクラフリン。
  「Poesia(To A Brother Gone)」(5:11)ピアノ、アコースティック・ギター、フルートのトリオによる美しい作品。 この深みと色気のある詩情は本家を凌ぐ。

  「Thru The Silence」(5:43)変拍子だがリズミカルでキャッチーな歌ものジャズロック。しなやかなライトファンク調の演奏がいい。
  「Driftwood」(10:03)メローなジャズ感覚とハードロック志向を合わせたスペイシーなジャズロック。叙情的なプログレ度高し。
  「Princess And The Frog」(7:44)ギター、サックス、キーボードそれぞれに見せ場のある変拍子ジャズロック。ミドル・テンポで安定感ある演奏を見せる。エピローグは鳥のさえずり。

(ARISTA 4110)

 Wings Of Love
 
Corrado Rustici lead vocals, electric & acoustic 6 & 12 guitar, glockenspiel, triangle, gong
Elio D'Anno tenor & soprano & alto & baritone saxes, flute
Renato Rosset Fender Rhodes, piano, Mini-moog, Poly-moog, Hammond organ, clavinet
Barry Johnson bass, wind chimes
Ric Parnell drums, percussion

  77 年発表の第三作「Wings Of Love」。 内容は、サックスとギターをフィーチュアしたロマンティックな歌ものジャズロック。 メインストリーム・フュージョンらしいファンキーさ、メローさのあるポップな作風を目指しているようだが、少し違和感があり、それが魅力になっている。 つまり、メロディや和声など曲の展開は典型的な「フュージョン」だが、モダン・ジャズやフリー・ジャズの面影の強い個性的なサックスや重量感ありすぎるリズム・セクション(パーネルのドラミングはマイケル・ウォルデンを意識か)、爆発的なアドリヴを放つギターらが 7、8 年の時をあっさりと遡らせてしまい、MAHAVISHNU ORCHESTRA のようなギラギラ感を放つ世界を作り上げている。 70 年代初頭のハードロックやへヴィ・プログレを決して忘れていない、といってもいい。 実際、ここまでフュージョンに近づいてきても、フルートのプレイや歌のメロディなどに OSANNA 風の呪術めいた神秘的な響きが嗅ぎ取れる。 ここで描いている官能は、都会風の形而下に堕落したものではなく神々の供宴から妖しさやみずみずしさとともに生まれ出たものなのかもしれない。 スタイルを依拠しながらも原初のロマンの出自を問い直しているとしたら、まさにイタリアン・ロック正統の役割を果たしていることになる。 B 面でやや迎合気味になるも前作に匹敵するローカル・ジャズロックの傑作。 ちょっと訛った感じが日本産に聴こえなくもない。
   プロデュースはナラダ・マイケル・ウォルデン。 仏盤、米盤はジャケ違い。

  「You Are Light」(6:19)リード・ヴォーカルはバリー・ジョンソン。
  「Marshall Dillon」(3:53)ハードでテクニカルなインストゥルメンタル。ドラムス豪快。P.F.M のライヴ演奏にも似る。痛快。
  「Blue Lake」(6:50)リード・ヴォーカルはコラード・ルスティチ。妖艶で謎めいたメロディ・ラインやサックスのテーマなど OSANNA そのもの。
  「Beauty Dream - Beauty Flame」(6:22)フルート、アコースティック・ギター、ピアノをフィーチュアしたインストゥルメンタル。CERVELLO を思い出して正しい。それにしてもマクラフリンすぎる。

  「Golden Sky Boat」(6:09)リード・ヴォーカルはコラード・ルスティチ。ハードなタッチのキャッチーなキラー・チューン。
  「Loveliness About You」(5:53)リード・ヴォーカルはコラード・ルスティチ。メローなバラードがシンフォニックに高まる。
  「Inner Star」(6:31)リード・ヴォーカルはバリー・ジョンソン。さらにこなれたポップ・チューン。フルート、ギターを主に器楽がぜいたく。
  「Last Silence」(5:11)インストゥルメンタル。

(ARISTA SPARTY 1021)



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