MAINHORSE

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MAINHORSE」。 69 年結成。 71 年唯一のアルバムを発表後解散。 後に REFUGEEYES に加入するパトリック・モラーツが属した。

 Mainhorse
 
Patrick Moraz organ, electric & acoustic piano, glockenspiel, synthesizer, vocals
Peter Lockett guitar, violin, vocals
Jean Ristori bass, cello, vocals
Bryson Graham drums, percussion

  71 年発表のアルバム「Mainhorse」。 内容は、テクニカルかつ豪快なキーボードとエネルギッシュなリード・ギターが火花を散らすプログレッシヴなハードロック。 サイケデリックでラウドなヘヴィ・ロックに、クラシックの翻案を加速、大音量化して盛り込む作風は THE NICE と共通する。 キース・エマーソン流の溜飲の下がるキーボード・プレイは随所に散りばめられている。 また、弦楽奏を使ったバラードの「泣き」のシンフォニックな演出など大陸風のクラシカルなセンスが感じられるところも多い。 重量感、スピード感ともに一級だが、ブルーズ・ロック系ではなく、オルガンの轟きに象徴されるように R&B のなめらかさとクラシカルな叙情性を活かしたスタイルである。 もっというと、「ハードロック」はここでの音楽の一要素に過ぎず、パトリック・モラーツはもっと大きな枠組での音楽的な挑戦を目論んでいるようだ。
  冒頭の爆発的なオルガン演奏などキーボード・プレイは確かに凄まじいが、より注目すべきは、きわめてスタイリッシュで多彩な作品を生み出す作曲力である。 4 曲目のように、厳かな RARE BIRDPROCOL HARUM ばりのバラードに、きまぐれなエレクトリック・キーボード、アコースティック・ギター、チェロが幻惑的なビートとともにフリー・フォームでひた走るサイケデリックかつジャジーな展開が放り込むなど、並々ならぬ感性を見せてくれる。 また、最終曲、音響実験からエネルギッシュでキャッチーなギター・リフのハードロックへ進むも、奇妙に抽象的なメロディ・ラインやキーボード・プレイがそれと対立する演奏もかなり個性的である。 また、ギタリストがナチュラル・ディストーション、ペンタトニック速弾き、リフ一発勝負のナイスガイ、そしてドラムスが手数の多いイアン・ペイス型という比較的オーソドックスな布陣ながらも、この多彩な曲想の中では、それらがハードロックの素材として一層の輝きを放っている。 バラードでのノーブルな抑揚とデリケートな表現、初期の DEEP PURPLE にも通じるビート風のナンバーでの甘さなども、みごとに消化されて活かされている。
  ハードロック調の切れ味いいプレイ、クラシカルなアクセント、逞しいアンサンブルなど、英国を見渡してもなかなかカウンター・パートが見つからないくらい演奏のレベルは高い。 影の薄いリード・ヴォーカルをコーラスで補う技も成功している。 クラシック風味のキーボード・ハードロックとして見ても屈指の作品だし、それを超えたアヴァンギャルドな感性の光るプログレッシヴ・ロックとしても逸品である。
  なお、本 CD はリイシュー製作のクレジットがほとんどなく、プライヴェート盤である可能性が高い。

  「Introduction」(5:09)爆発力あるオルガンをフィーチュアしたハードロック。ギターとオルガンのバトルを軸にクラシカルなブリッジを放り込みアクセントにする。ドラムス・ソロもあって顔見世風。

  「Passing Years」(3:55)英国ロックらしい感傷的なバラード。教会風のオルガン、弦楽とグロッケンシュピール。つぶやくようなギターのオブリガート。

  「Such a Beautiful Day」(4:44)ポップ・サイケ、ジャズ調の入り交じったプログレッシヴなハードロック。 初期 DEEP PURPLE か。 ジャジーなオルガンをバックにしたギター・ソロがカッコいい。 エンジンの爆音のような音はベース? 8 ビートと 8 分の 6 の入れ代わりもおもしろい。

  「Pale Sky」(10:17) 悪夢のような、あるいは揺れ動く心情をそのまま音に写し取ったような幻惑的バラード。 バラードの常識を突き破る、クラシカルな PINK FLOYD にチック・コリアが加わったようなフリーパートが見せ場。

  「Basia」(5:32) アップテンポでライトなタッチのスタイリッシュなロック・チューン。 クラシカルながらもジャジーでスムースなキーボードに注目。中間部で 8 分の 9 拍子に変化する。

  「More Teavicar」(3:33)グロッケンシュピールをフィーチュアしたキュートなインストゥルメンタル。このスタイルから邪推すると、モラーツは、「蒼い影」や「Sympathy」のようなクラシカル・チューンで一発当てたかったのでは?

  「God」(10:31)スペイシーなキーボード音響をフィーチュアしたサイケなハードロック。REFUGEE に迫る。ややとりとめ無し。エピローグの爆音はイタリアン・ロックにありそうな演出。

(POLYDOR 2383-049 / FR 9902)


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