MANEIGE

  ケベックのジャズロック・グループ「MANEIGE」。 72 年結成。 83 年解散。作品は七枚。 打楽器と管楽器を大幅に取り入れた、技巧的かつユーモラスなジャズロック。 室内楽からフリージャズ、ややネジの緩んだ後期 GONG、ルロイ・アンダーソンまでを揺れ動く特異な音。

 Maneige
 
Alain Bergeron piano, flute, sax
Jrome Langlois clarinet, piano, organ
Vincent Langlois piano on 4, percussion on 1,2,3,4
Denis Lapieree electric and acoustic guitar
Yves Leonard bass, double bass
Gilles Schetagne drums, percussion
Paul Picard percussion on 5,6

  75 年発表の第一作「Maneige」。 内容は、打楽器中心の小オーケストラ風アンサンブルによる、ジャズ、ロックも取り入れたモダン・クラシック。 ジャズやロックのニュアンスは、唐突に浮かび上がるポップなメロディやエネルギッシュな即興、アタックの強いプレイ、大胆な場面展開などにある。 クラシック系のアーティストが、フランク「Hot Rats」ザッパ や英国プログレからの影響のもと、実験的な姿勢で打ち出した音楽だと思う。 この個性的なアンサンブルにおいて、特に強い存在感を放つのは、アコースティック・ピアノのプレイ。 近現代クラシックに通暁する巨人キース・エマーソンに直結する、パワフルな音の奔流を生んで、演奏をリードしている。 (リーダー格のジェローム・ラングロアは THE NICE が好きといっている) フルートやピアノ、和声の関係から、いわゆる「印象派」的なイメージもあるが、冒頭やエンディングの大胆な即興ノイズなどから考えて、より時代を降った現代音楽の直接的な影響がありそうだ。 そして、ジャズ的なインプロヴィゼーションとともに、ロックの直線的なビート感やワイルドさもある。 特徴的なのは、打楽器の他にピアノも含めて、パーカッシヴな表現が演奏の中心位置を占めていること。 フルートやピアノ、シロホンが提示するテーマを巡って、活気あるアンサンブルが、やや忙しなく走りまわる。 エネルギッシュな、時に荒っぽくすらある表現もあれば、愛らしくユーモラスなタッチもある。 一方、管楽器によるエレガントでメロディアスな表現は、メインではなくサイドディッシュとして機能している。 ただし、フルートだけは、スタッカートを多用したスピーディな演奏が打楽器系の音とともに演奏を大きくリードし、また、叙情的な表現においても一際美しい歌をさえずっている。 全体に、現代音楽といったときにつきまとう小難しい感じはほとんどなく、チェンバー系のプログレとしては聴きやすい方である。
   大作「Le Rafiot」は、「辛苦に満ちた航海」を表現する音の象徴詩ということだ。 アヴァンギャルドな即興を交えつつも、印象派の作風を感じさせる叙景的な作品である。 また、最終曲「Galerie III」でもラウンジっぽさとヘヴィなジャズロック調がこん然とする個性的な作風を見せる。
   75 年という年にしては、アプローチ、作風、楽曲、すべてが 70 年代初期のようなアイデア先行型で、ためらいのない大胆さにあふれている。 全曲インストゥルメンタル。 プロデュースはリー・デ・カルロ。 NOETRA というフランスのユニットとの関連はこれから調べます。

  「Le Rafiot」(21:22)
  「Une Annee Sans Fin」(6:39)
  「Jean-Jacques」(4:13)
  「Galerie III」(7:50)

  「Tedetedetedet」(6:42)ボーナス・トラック。ややノリの違う、民族でダンサブルな作品。
  「Jean-Jacques」(4:29)ボーナス・トラック。執拗な変拍子はカンタベリー的。

(HARVEST ST-70035/ MPM 24)

 Les Porches De Notre-dame
 
Alain Bergeron flute, sax, piano
Jrome Langlois clarinet, piano, guitar
Vincent Langlois piano, percussion
Yves Leonard bass, contrabass
Gilles Schetagne drums, percussion
guest:
Paul Picard bongo, xylophone
Denis Lapieree guitar
Raoul Duguay trumpet, voice
Peter Schenkman, Albert Pratz, Walter Babiak, Bill Richards violin

  75 年発表の第二作「Les Porches De Notre-dame」。 内容は、ピアノ、管楽器、打楽器、エレキギターらによる素朴にしてメランコリックな味わいのあるチェンバー・アンサンブル。 フルート、クラリネットによる柔らかく雅なサステインと、ヴァイブ、ピアノらによる点描風の効果をブレンド、対比させた巧みな演奏である。 クラシカルではあるが、厳しい精密さよりも、コロコロと転がるような軽妙さと愛らしさが勝った演奏といえるだろう。 ちょこまかとした音にピアノ、コントラバス、エレクトリック・ベースによる低音部が押さえを効かせており、アンサンブル全体のバランスはいい。 ほぼアコースティック楽器のみの演奏だが、一部でジャジーなエレキギターが大きくフィーチュアされる。 A 面のタイトル組曲の終章は、ソロをフィーチュアしつつ朗々たるテーマの全体演奏で突き進み、かなり感動的。 音楽としてはクラシックの室内楽だが、ハードロック的なマインドも旺盛なような気がする。 B 面の組曲はジャジーで諧謔味もあり、SOFT MACHINE や、カンタベリーという言葉を引き合いに出しておそらく問題ない。 NOETRA など、フランス語圏のグループにはこういうニュアンスの音がよくあると思う。
  一部フランス語のヴォーカルと弦楽セクションの参加あり。プロデュースはリー・デ・カルロ。

  「Les Porches De Notre-Dame」(19:14)
    「Ouverture」(3:03)
    「Suite Partie 1」(2:34)
    「Suite Partie 2」(0:45)
    「Suite Partie 3」(3:25)
    「Desouverture - piano solo」(2:48)
    「Desouverture - Les Porches」(6:50)ヴォーカルあり。ドラムスも加わってロックっぽさが出てくる。トランペットが入るとけっこう KING CRIMSON 風(正確には CARPE DIEM のような CRIMSON を目指したフランスのバンドか)。
  「La Grosse Torche」(1:24)短いがよくまとまったソナタ。

  「Les Aventures De Saxinette Et Clarophone」(15:41)サックス、エレクトリック・ピアノ、ヴァイヴが加わり、木管のプレイもブルーズ・スケールになって全体にジャズロック化。チェンバー・ロックらしい逸脱調もあり。
    「Chapitre I - Episode 1」(3:47)
    「Chapitre I - Episode 2」(5:16)
    「Chapitre II - Episode 1」(1:31)
    「Chapitre II - Episode 2」(2:34)
    「Chapitre III」(2:33)
  「Chromo」(4:13)トイ・ミュージック、ラウンジ・ミュージック風のユーモラスな作品。ネジの外れた洋風チンドン屋。
    「Partie 1」(2:36)
    「Partie 2」(1:37)

(HARVEST ST-6438)

 Ni Vent....Ni Nouvelle
 
memberinstruments
Alain Bergeron piano, electric piano, flute, recorder, picolo
Vincent Langlois alto sax, acoustic guitar, electric guitar, slide guitar
Denis Lapieree bass, drums, timpani, latin timpani, cenceros,china blocs
Yves Leonard taboukas, Darboukas, wood drum, woodblock, gong, maracas
Paul Picard Flexatone, Cuilleres, basque drum, Grelot, Klaxon, vibraphone
Gilles Schetagne glockenspiel,tubular bells
guest:
Denise Lupien violin
Chantale Remillard violin
Christiane Lampron alto for "La fin de l'histoire", "Les Epinettes"
Andre Pelchat soprano sax for "Mambo chant"

  77 年発表の第三作「Ni Vent....Ni Nouvelle」。 珠玉の最高傑作。 内容は、管弦、鍵盤楽器らによるジャズ・アンサンブルにロックっぽいシンプルなビート感を持ち込んでイージー・リスニング化したようなきわめてユニークなもの。 端的にいえば、初期 RETURN TO FOREVER をイージーにロックっぽくして、弦楽器のアクセントを加えた感じである。 ポップスのロマンチシズムとジャズや現代音楽の精密さが混然とするところにさらに融通無碍なユーモアが放り込まれている。 たとえばチャイルディッシュなメロディがいつしかハードなブローになったり、せわしなく落ちつきない演奏が突如ファンタジックなきらめきを見せるなど一筋縄ではいかない。 もちろん変拍子も多用される。 ジャズロック、フュージョンの象限の誰もいない片隅ある作風といえばよかろう。
  演奏は精緻なアンサンブル指向であると同時にメロディアスなテーマもはっきりと強調できる優れたものであり、明晰にして豊かなエモーションを感じさせる。 柔和なメロディがいつしか網の目のような音の迷宮に包み込まれてゆくファンタジックにしてスリリングな瞬間も多い。 その音の感触はフュージョンやジャズロックといった紋切り型のラベルを貼るにはあまりにデリケートで奇妙である。 強いていうなら独特な閉塞感のある室内楽といった方がよさそうだ。 テクニックも思想もレコメン系のグループほど先鋭的ではないようだが、明解なメロディにもかかわらず、音は開放されるというよりは自らの内側へ向けて落ち込んでゆくようだ。 その点でアヴァンギャルドといえなくもない。 そしてかろうじて出てきた音も、組み上げられた場所から大きく動くことはせず、きらきらと輝きながら構築物のパーツとしてクールに佇んでいるようなイメージがある。 やさしげなメロディにも関わらず漂う冷ややかさは、こういうことが原因なのかもしれない。 かといってひ弱なわけではなく、密室芸のような陰のエネルギーを秘めている。
  車座になったメンバー全員が楽器を手元に引き寄せつつそれぞれの譜面に首を突っ込んで奏でているような光景が目に浮かんでしまう。 全体にキュートにしてこましゃくれたイメージは打楽器系が担っており、管楽器の存在感が強まるとジャジーで逞しいイメージになるようだ。 エレキギターががんばる 6 曲目では、CAMEL のような雰囲気も出てくる。
  いわゆるフュージョン、ジャズロックやチェンバー・ロックとは異なる「無邪気な神経症」ともいえる音楽は、カンタベリーの亜種なのかもしれない。 ヒネリというかフランス風のエスプリはたしかに効いているようだ。 無造作に散らばった宝石を眺めるようにとっ散らかった曲想を素直に味わうべきだろう。 物寂しげな表情にどこか違和感を覚えてしまうのは、叙情性のレンジが日本人とは決定的に異なるためだろうか。
  どの楽器をどのプレイヤーが演奏しているかはクレジットがない。 あるのはそれぞれのリストのみ。 プロデュースはイヴォン・デュフォーとイーヴス・サヴァ。 全曲インストゥルメンタル。

  「Le Gai Marvin」(1:41)
  「La Fin De L'Histoire」(3:18)
  「Les Folleries」(6:07)
  「Les Epinettes」(3:32)
  「Mambo Chant」(5:22)
  「Douce-Amere」(5:53)
  「Le Gros Roux」(3:31)
  「Au Clair De La Prune」(4:02)
  「11 Juillet」(5:02)
  「Time Square」(1:38)

(POLYDOR 2424 143 / KO2503-2)

 Libre Service
 
Alain Bergeron flute, alto sax
Vincent Langlois piano, percussion
Denis Lapieree guitars
Yves Leonard bass
Paul Picard percussion
Gilles Schetagne percussion, drums

  78 年発表の第四作「Libre Service 」。 ストレートなポップ・テイストが強まるも軽妙さに奇妙にねじれた諧謔味の漂うジャズロックの佳作。 ジャジーでクールなフルート、悩ましげで饒舌、人肌感を演出するサックス、ファンキーなロック・ギター、アブストラクトな鍵盤打楽器、スペイシーなシンセサイザー、鼓笛隊ドラムスらによる、クールでユーモラス、なおかつチェンバー風味もほんのりある一風変わった作風である。 不調法ながらもファンキーに跳ねるリズムを冷ややかなフルートや鍵盤パーカッションの音が鮮やかにクールダウン、フュージョンというよりもモンド・ミュージック、ラウンジ・ミュージック的な空気を醸し出している。 ほのかなカリビアン・テイストや中近東ジプシー風味、シャンソン風味など意図的なイージー・リスニング調は明らか。 そこに無表情な反復パターンや変拍子リフによる圧迫感のあるアンサンブルが現れてのんびりした雰囲気に翳りが生まれてくる。 ギターが前に出てリードするとロックっぽさも強まる。 ソロ・ピアノのプレイやインサート風の小品などクラシカルな味わいにもアクセント以上の趣がある。 しかしそういった要素の総体はどこにも行き切らないまま踊り場で奇妙なアンサンブルを成して停滞する。 そこが個性といえば個性。 愛らしいようで不敵でぐねぐねととぐろを巻くような不気味な調子は前作と共通する。 打楽器系の音とフルート、サックスのクールネスからピエール・モエルランの GONG に近いイメージもあるが、彼のグループほどにはテクニカルな圧迫感はない。 キャッチーなメロディやフレーズがあるのに極端に技巧に走りすぎたせいで閉塞感が生まれてその軋みの火花が散るのがテクニカル・フュージョンだとすれば、ここの音は技巧に走りそうで走り切らないための熱っぽい停滞感(それをエスプリと称すのかもしれない)が特徴のジャズロックである。 そのこもった熱気の一部はハードロックを捨てきれないせいだろう。 大上段に振りかぶってはいないし目を剥くようなインパクトもないが、なぜか気になる音、そんな感じのジャズロック・アルバムです。 一貫したものがない、まとまりがないともいえるがプログレ・ファンは許せるはず。 全編インストゥルメンタル。

  「Troizix」(2:36)
  「L'envol Des Singes Latins」(4:30)
  「Les Pétoncles」(4:58)
  「La Belle Et La Bête」(3:29)
  「Bagdad」(1:26)
  「Noémi」(0:49)
  「Célébration」(2:47)
  「La Noce」(7:25)クラシカルなイージー・リスニングに緊張感も持ち込んだ傑作。抜群のコンティニュイティ。
  「Toujours Trop Tard」(5:08)ギター、サックスが活躍する、ハレム・ノクターンを思わせるエキゾチカ風の異色作。
  「Miro Vibro」(5:47)このグループらしいジャンルレスの佳作。TV/ラジオ・ジングル向け。深夜放送にしかないファンタジー。

(POLYDOR 2424 176 / KOZAK KO2504-2)

 Live Montreal
 
Alain Bergeron flute, alto sax
Vincent Langlois piano, percussion
Denis Lapieree guitars
Yves Leonard bass
Paul Picard percussion
Gilles Schetagne percussion, drums

  98 年発表のライヴ・アルバム「Live Montreal」。 1974 年と 1975 年のライヴ録音をまとめた作品であり、収録曲は 3 曲のみ。 現在は PROG QUEBEC レーベルからより収録曲の多い完全版が発表されている。
   内容は、メロディアスといえなくもなし、パーカッシヴといえなくもなし、即興もテーマも、どこもかしこも中途半端な感じだが、不思議と心地よい演奏である。 独特のダラダラ感を嫌がらずに、流れに乗っていると、なかなかいい感じになる。 ひょっとするとすごい独自性があるのかもしれないが、そう気がつくにはしばらくかかりそうなタイプである。 スコッチのオープンリールのケースそのままという、手を抜いているのか、ユーモアなのか判然としないパッケージに、音楽性が象徴されているようだ。 全編インストゥルメンタル。
   なお、リーダー格の一人、ジェローム・ラングロワがクレジットされていないが、2007 年の「Live A L'eveche」ではクレジットされているため、1) 本作収録曲では一時的に演奏していない、2)クレジットの誤り、3)共作の著作権に関わる何らかの問題、のいずれかだと思われる。

(VOX 7964-2)

 Live A L'eveche
 
Alain Bergeron flute, picolo, sax(2-7), piano
Jerome Langlois piano, clarinette(1,3-7), guitar(2)
Vincent Langlois percussion(1,3,4,5), guitar
Denis Lapieree guitar(1,3-5), synthesizer
Yves Leonard bass, bouble bass
Paul Picard percussion, drums
Gilles Schetagne drums, percussion(1-7), synthesizer

  2007 年発表のライヴ・アルバム「Live A L'eveche」。98 年の「Live Montreal」の各曲を収録しているため、事実上の置き換え盤である。収録曲はボーナストラックの 2 曲を含めて計 7 曲。
   5 曲目までは、1975 年 11 月 22 日、モントリオールのホテル・ネルソンでのライヴ録音、ボーナストラックの 2 曲は、1974 年 1 月 6 日、CKVL-FM 放送ためのスタジオライヴ録音。 全曲インストゥルメンタル。

  「Mambo Chant」(6:45)チープなギターと高尚でまろやかなクラリネットのコンビネーションがいい。愛らしいファンタジーでありほんのりエロティック。テーマが強力過ぎないためジャズっぽいイージー・リスニングにならず、傾いだような奇妙な味わいチェンバー・ミュージックになっている。
  「Les Epinettes」(3:50)フルートとヴィヴラフォン、ピアノによる冴え冴えとした哀愁のアンサンブルが光を求めて伸びあがる。
  「Bulfrog Dance」(6:08)一転してロックっぽさを強調した作品。重く謎めいたリフとワウ・ギターの応酬。70 年代初期のブリティッシュ・ロックを思わせる怪しさ。ヘヴィなのにヴァイヴやクラリネットがなんとかチンドン屋化しようと企む。
  「1-2-3-4-5-6」(7:26)98 年盤に収録。融通無碍な名曲。中盤のブルーズロック風の展開が際立つ。
  「La Balloune」(29:19)98 年盤に収録。印象派風(というかディズニーかな)のクラシカルなファンタジー。狂言回しはピアノ。
  「Maneige」(4:45)ボーナストラック。初出トラック。野太い管楽器群がメロディアスにリードする大人の楽隊。グラマラスな哀愁。
  「Le Rafiot」(19:24)ボーナストラック。98 年盤に収録。 終盤、ポエティックで清楚なたたずまいをぶち壊して、ドシャメシャな即興へと発展するという荒業あり。 乱れてもすごいんです。

(MPM07)


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