QUATERMASS

  イギリスのキーボード・トリオ「QUATERMASS」。 69 年結成。 作品は HARVEST からの 70 年の一枚のみ。 唯一作の内容は、凶暴なオルガン・ワークを中心にしたハードなプログレッシヴ・ロック。 ピート・ロビンソンは SUN TREADER などを経て BRAND X へ参加する。

 Quatermass
 
John Gustafson bass, vocals
Pete Robinson keyboards
Mick Underwood drums

  70 年発表の唯一作「Quatermass」。 内容は、圧倒的存在感をもつオルガンをメインにした、痛快なハード・プログレッシヴ・ロック。 THE NICE のようなオルガン・ロックを、そのままヘヴィに推し進め、ハードロックとして究めたサウンドである。 いわば、EL&P による DEEP PURPLE。 ロビンソンは、豪快なハモンド・オルガンを主に、ピアノ(ロビンソンは王立音楽院卒後チャイコフスキー・コンクールへ招聘された超逸材である)、エレクトリック・ピアノ、チェンバロを用いている。 楽曲は、シャープで重量感あふれるハードロックを中心に、ジャジーなオルガン・ソロをフィーチュアしたナンバー、チェンバロ伴奏のバラード、ストリングスを交えた勇壮なナンバーまで、さまざまである。 パワフルなヴォーカル・パートは、ブルーズ・ロックの強い影響を受けたハードロック的な表現だが、テーマ部やソロでは、クラシックからジャズまでを飛び交う破天荒なプレイが連発され、雄大なストリングスが高まると、もはやプログレ以外の何ともいえない世界が広がる。 しかし、比重としては、ジャズ、クラシック的なパッセージはあくまでアクセントであり、主となるのは、直線的でヘヴィなリフと哀感漂うメロディ、つまりハードロックのスタイルである。 このバランスが面白いところだ。 ハードロックという点から見ても、奔放かつ研ぎ澄まされたプレイが楽しめる、密度の高い作品だと思う。 シンプルで重いドラムスも曲調に合っている。 しかしながら、キーボードという新兵器を用いながらも、ヴォーカルやメロディがブルーズから離れられず、クラシカルな曲調が活かしきれなかった点が、ニューロックとしては分が悪かったかもしれない。 それでも、後半の大作やボーナス・トラックにおける切れのある即興演奏を聴いていると、後に先鋭的なジャズロックへと進んでゆくロビンソンのプレイヤーとしての凄みは、はっきりと見えてくる。 超現代的な背景に、原始の翼竜が群れをなすウルトラ「Q」風のジャケットは、もちろんヒプノシス。

  「Entropy」(1:10) オルガンによる序曲風のオープニング。 クレジットはロビンソンだが、クラシック作品の翻案ではないだろうか。 2 曲目への展開は、いかにもプログレッシヴ・ロックらしく劇的。 ロビンソン作。 まったく古びていない、きわめて芸術的な作品である。

  「Black Sheep In The Family」(3:36) RAINBOW も取り上げたドラマティックなハードロックの佳曲。 完全にギターレスの DEEP PURPLE である。 グスタフソンの不良っぽくこなれたヴォーカルもいい。 スティーヴ・ハモンド作。

  「Post War Saturday Echo」(9:42) 黒っぽくアーシーなテーマへの幅広いアレンジが冴えるドラマチックな名曲。 スローながらもグルーヴあり。 終盤のエレクトリック・ジャムが強烈。 イアン・ギランやデヴィッド・バイロンの一歩手前くらいのシャウトが微笑ましい。 アルバム最初のクライマックスである。 ロビンソン・グスタフソン・ロス共作。

  「Good Lord Knows」(2:54) 小品ながら、ストリングスとクラシカルな曲調を活かしきった傑作。 チェンバロ伴奏による厳かな賛美歌風のバラードである。 フェード・インによるオープニングは、きわめてプログレ的。 デリケートなチェンバロ演奏がすばらしい。 グスタフソン作。

  「Up On The Ground」(7:08) タメのきいたリフがドライヴするハードロック。 遠慮会釈なしのドラミングや完全アドリヴ調のオルガンが痛快。 感電しそうです。 グスタフソン作。

  「Gemini」(5:54) 快速ロックンロールと厳かなチャーチ・オルガンのコントラストがプログレ的興奮を呼び、中盤以降はピアノが重みあるビートを叩きつけハモンドが暴れるキーボード・ヘヴィ・メタル。 シンプルなロックンロールを、思い切りキーボード中心のアレンジで生まれ変わらせている。 スティーヴ・ハモンド作。

  「Make Up Your Mind」(8:44) キャッチーなコーラスによる開放感あるメイン・パートは、電子音に導かれて、一気に邪悪な演奏へと変転する。 スティーヴ・ハモンド作。

  「Laughing Tackle」(10:35) ストリングスから各自のソロ、エレクトリック・ピアノのプレイなどを盛り込んだフリーな曲想の大作。 ドラム・ソロもあり。 ハードロックにとどまらない広い音楽的視野が感じられる。 ロビンソン作。

  「Entropy」(0:40)ロビンソン作。

  「One Blind Mice」(3:15)ボーナス・トラック。メタリックなハードロック。 なぜかイタリアン・ロック風。 グスタフソン作。

  「Punting」(7:09)ボーナス・トラック。 異色のジャズロック・インストゥルメンタル。 セッション風ですが、なぜかオルガンとエレクトリック・ピアノ、二人の奏者、さらにはギターまでいるような。 グスタフソン作。

(HARVEST SHVL 775 / REP 4620-WY)


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