アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「QUILL」。 75 年結成。作品はテストプレスの一枚のみ。 第二作「The Demise of the Third King's Empire」もあるらしい。
Keith Christian | vocals, Rickenbacker 4001 bass, nylon string guitar |
Ken DeLoria | Hammond B2 organ, Moog synths, Mellotron, Baldwin electric harpsichord |
Steinert grand piano-forte, Arp string ensemble, RMI Keyboard Computer | |
Jim sides | vocals, drums, orchestral & tubular bells, tympani |
77 年発表のアルバム「Sursum Corda」。
77 年に録音されるもテスト盤にとどまり、93 年の発掘まで未発表だったようだ。
内容は、トニー・バンクス系とキース・エマーソン系を巧みに使い分けるキーボーディストの生み出す多彩なサウンドによるシンフォニック・ロック。
「望めばいつでも到達でき、いつでも帰還できる」異世界を描いた二部構成のファンタジー大作である。
ムーグ・シンセサイザー、ARP ストリングス、メロトロン、ハモンド・オルガン、グランド・ピアノ、エレクトリック・チェンバロなど、いかにもこの時代らしい太く明るいキーボード・サウンドを駆使して、この物語を思いきりカラフルに描き出している。
演奏はこれらのキーボードのサウンドとフレーズによって構成される疑似クラシック調のアンサンブルである。
技巧で圧倒する「弾き倒し」系ではなく、さまざまな音色で飾られた明快なフレーズをロマンティックな語り口のヴォーカルとともに和やかに澱みなく送り出してゆく叙情的なスタイルだ。
つまり、スリルや攻撃性やフィジカルなカタルシスよりも(もちろん、まったくないわけではないが)、密やかで慎みある表現による浄福感あるドラマ作りに重きがあると思う。
そういう意味では英国流のエキセントリシティは抑えられていて、まろやかさとふんわりした夢想性があり、ドイツのシンフォニック・ロックと似た味わいがある。
音色を使い分けて印象的なフレーズに割りふるセンスはかなりいいと思う。
キーボードのプレイ(特にアドリヴ)にやや手癖っぽい単調さやぎこちなさは散見されるが、音の構成はよく練られていてアンサンブルは起伏に富み、語り口はかなりいい。
製作面は、過剰に手厚い感じこそしないものの、ごくきちんとしている。
EL&P からリック・ウェイクマンの初期作品、CAMEL、果ては GENESIS までがイメージされるが、後期の EL&P のサウンドで NEKTAR のような陽性のシンフォニック・ロックをやっている感じというのが近いと思う。
後発バンドの場合、クライマックスのような一番いいところで大御所のまるパクリになってしまうとガッカリするが、そういうことはまったくない。
自分の表現を 70 年代らしいキーボード・サウンドでしっかりと立ち上げている。
小難しいことはさておき、ただただ明朗にして穏やかなキーボード・サウンドによる物語を楽しむべきである。
時代の音と曲想とが非常にマッチしていると思う。
1 曲目終盤のエマーソン風のブルージーなオルガン・ソロ、2 曲目冒頭のムーグとオルガンの演奏がかなりカッコいい。
ミュシャそっくりのスリーヴ・アートも懐かしくていい感じだ。
アルバム・タイトルは「Lift Up Your Heart」すなわち「精神を高揚させよ」という意味らしい。ラテン語でしょうか。
プロデュースは、鍵盤奏者のケン・デロリア。
「First Movement」(19:58)
「Second Movement」(15:32)
(SYNCD 01)