TRESPASS

  イスラエルのプログレッシヴ・ロック・グループ「TRESPASS」。作品は二枚。シャープなイメージのキーボード・ロック。中心人物はプログレには興味がないそうです。

 In Haze Of Time
 No Image
Gil Stein keyboards, vocals, recorders, guitar
Gabriel Weissman drums
Roy Bar-tour bass

  2002 年発表のアルバム「In Haze Of Time」。 内容は、技巧派キーボード・トリオによるメロディアスかつスピーディなシンフォニック・ロック。 クラシカルな技巧をふんだんに散りばめた上に、甘めのヴォーカルもフィーチュアした、いわば「気品あるワイルドさ」を演出する キーボード・ロックである。 プログレ・メタル的な表現はないので、往年のファンにも十分受け入れられる音だろう。 演奏は、クラシックのみならず、モダン・ジャズ、イージー・リスニングにまで振幅を大きく取って、奔放なアレンジとともに無窮動でひた走る。 特にユニークなのは、今風の洗練されたメロディアスな表現と、タイムスリップしたかのようにクールでジャジーかつ R&B 的な 70 年代初期型英国ロック・テイストが共存するところ。 EL&P のようなヘヴィな現代音楽調ではなく、VERTIGO や NEON のオルガン・ロックに通じる雑多なポップ・テイストを感じさせるのだ。 90 年代以降も EL&P に倣うキーボード・トリオは数多あるが、洗練された技巧とこういった「古臭さ」が同居するパターンは珍しい。 そして、アナログ・シンセサイザー、グランド・ピアノ、ハモンド・オルガンの三種の神器によるエネルギッシュなプレイは、もはやこういうスタイルでは当然として、それに加えて、フルートやリコーダーによるフォーク・タッチの叙情的な表現や、ギターによるメロディック・メタル風のソロもある。 シンフォニックな音の流れで無造作にフルートがさえずるというのも、なんとも懐かしい感じがする。
  ヴォーカルは、やや訛りはあるものの、美声であり、フレディ・マーキュリーばりのファルセットも鮮やかにこなす。 ぐっと唸るところは、80 年代辺りの辺境プログレ・バンドのイメージ、マイナーでメロディアスに歌うところはやはり往年の英国正統派のイメージである。
  文句があるとすれば、キーボードのプレイ、サウンドが鮮やか過ぎるあまり、するっと耳を通りぬけてしまうこと、ジャジーなアンサンブルでリズム・セクションがやや重いことなどだが、所詮は「慣れ」の問題だろう。 また、キーボーディストは、ソロ、即興も圧倒的なテクニックで軽々こなし、サウンド・メイキングにもセンスを発揮するが、意外や、貧血を起こさせるような必殺のフレーズがない。 雑多な情報量の多さという点では、往年のプログレッシヴ・ロックに匹敵どころか凌駕する可能性もある。 しかし、耳を惹きつけるメロディや無茶苦茶な迫力、攻撃性といった分かりやすいアクセス・ポイントが見当たらないのだ。 したがって、相対的には、メロディアスなヴォーカルがリードする場面の方が目立っている。 キーボード・ロックといったが、EL&P ではなく、キーボードをフィーチュアした、かつての CRESSIDA のようなグループを現代的にしたという方が的を射ているだろう。 また、昔ならばサイケデリック・ロックといわれたような、ジャム・バンド的なタフな演奏力はあると思う。 スペインの KOTEBEL に通じる雰囲気もある。
CD ジャケットは再発盤のもの。プロデュースは、ギル・スタイン。
  
  「Creatures Of The Night
  「In Haze Of Time
  「Gate 15
  「City Light
  「Orpheus Suite
  「Trova
  「The Mad House Blues
  
(MALS 088)

 Morning Lights
 
Gil Stein keyboards, vocals, recorders, guitar
Gabriel Weissman drums
Roy Bar-tour bass

  2006 年発表の第二作「Morning Lights」。 内容は、キーボード主体のクラシカル・ロック。 徹底してクラシカルなフレージングと抑揚を駆使してアンサンブルを構成する雅なシンフォニック・ロックである。 前作よりもずっとクラシカルな作品になった。 管弦楽シミュレーションとしても、歌入りクラシカル・ポップスとしても一流の出来といえるだろう。 そして、つむじ風のようなポルタメントを巻き取りながら金切り声を上げるシンセサイザー、噴火のように熱くたぎり荒々しく転げまわるハモンド・オルガンなど、キーボード・ロック・ファンにはこたえられないプレイがガンガン現れる。 キーボードとベースによる優雅なポリフォニーはもちろんのこと、せわしないドラミングとともにオルガンがたたみかける、いわばキーボード・ロックのお約束ともいうべきシーンもきっちり決めている。 特にタイトル曲の中盤には、ハイ・テンションで走り抜ける痛快な展開がある。 まさに、キース・エマーソン、リック・ヴァン・ダー・リンデン、マリアン・ヴァルガと同系譜に置くべき作風である。 木管風のシンセサイザー、ギターのアルペジオ、さえずるようなリコーダーなどクラシカルな薬味の効きもいい。 要所でノーブルなヴォーカルも入って、スパイラル VERTIGO テイストもキープされている。 ヴィヴァルディのコピーとともに、快調にすっ飛ばしても荒々しくならず、お行儀よく愛らしさを保ち続けるところが本当に TRACE そっくり。 透明感のあるヴォーカルからは CAIRO への連想も。 ただし HR/HM 色は皆無。 すでに使い古された手法ではありますが、どストライクな方は多いと思います。わたしも久しぶりにイ・ムジチを聴きたくなりました。 イスラエル語(ヘブライ文字?)なのでしょうか、スリーヴの半分が読めません。

  「Song Of Winds」(3:38)バッハの管弦楽組曲か?
  「Morning Lights」(21:33)
  「Ripples」(12:16)
  「Vivaldish」(5:39)
  「Forest Bird's Fantasy」(4:59)

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