イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「AUDIENCE」。 69 年結成、同年アルバム・デビュー。 72 年解散。 作品は四枚。 エレクトリック・ナイロン・ギター、サックス、木管をフィーチュアしたフォーク、ジャズ色のあるサウンド。 管楽器担当のキース・ジェメルは後に STACKRIDGE へ加入する。 意味深なのか何も考えてないのか分からない「聴衆」というバンド名がいかにも英国のグループらしい。
Howard Werth | acoustic guitar, lead vocals |
Keith Gemmell | saxes, all woodwind |
Tony Connor | drums, percussion |
Trevor Williams | bass, keyboards, vocals |
69 年発表の第一作「Audience」。
文字通り観客の拍手で始まる本作は、アコースティック・ギターとフルート、サックスなど管楽器をフューチュアし、フォークを基調にジャズ、R&B まで多彩に広がるサウンドが特徴。
ほぼエレクトリック・ギターなしの個性的な音である。
サックスがリードするとジャズロック的な躍動感が生まれ、クラリネットがさびしげに歌うとトラッド風の哀愁が漂う。
ヴォードヴィル風の表情付けもある。
ハワード・ウェルスのヴォーカルは、素朴さに加え、往時のビート・グループの多くがそうであったように R&B の影響が強い粘っこいタイプ。
ピーターガブリエルに似ていなくもない。
3 曲目の ROLLING STONES を思わせるカントリー・テイストや 5 曲目のスワンプ調、7 曲目のヴォードヴィル調など、アメリカ風の土臭さと演劇的な表情つけを得意とするようだ。
全体に、カントリーやブルーズなど、アメリカの音の影響を受けたノスタルジックでドリーミーな牧歌調が基本だろう。
プログレかといわれると答えが難しいが、ユーモラスかつファンキーな雑食性のサウンドは、個性派ぞろいの英国ロック中でもひときわ異彩を放つ。
個人的にはフォーク・ロックと初期のジャズロックの中間であり、あえてアコースティック・ジャズロックと呼びたい音です。
STACKRIDGE から THE BEATLES 志向を取り除いて、荒っぽくした感じです。
アルバムの終り 11、12 曲目で見せるインテリジェントでメランコリックなスタイルがカッコいい。
プロデュースはクリス・ブラフ。
「Banquet」(3:46)
「Poet」(3:05)フルートをフィーチュアしたイタリアン・ロックを思わせる牧歌的かつ無常感ある作品。
もう一人のリード・ヴォーカルはトレヴァー・ウィリアムスのようだ。
「Waverley Stage Coach」(2:59)
「River Boat Queen」(2:58)ストリングスあり。
「Harlequin」(2:35)スワンプ風の腰の座った佳曲。
「Heaven Was An Island」(4:18)サックス、ギターをフィーチュアした歌ものジャズロック。これはカッコいい。
「Too Late I'm Gone」(2:37)キャッチーなブルーズ・ロックやジャズロック、ドゥワップなどを小粋に行き交う、なかなか攻めた作品。
「Maidens Cry」(4:48)
「Pleasant Convalescence」(2:30)
「Leave It Unsaid」(4:10)
「Man On Box」(3:06)アコースティック・ギター、サックスらのバランスのいいアンサンブルによるフォークロックの秀作。
「House On The Hill」(4:13)ジャジーな R&B の佳品。熱気と表裏一体の無常感、これに尽きる。
「Paper Round」(3:42)ボーナス・トラック。
「The Going Song」(1:44)ボーナス・トラック。
「Troubles」(1:30)ボーナス・トラック。
(POLYDOR 583 065 / RPM 148)
Keith Gemmell | saxes, all woodwind | Howard Werth | acoustic guitar, banjo, lead vocals |
Trevor Williams | bass, vocals | Tony Connor | drums, percussion, piano |
guest: | |||
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Nick Judd | keyboards | Bobby Keys | sax |
Jim Price | horns |
70 年発表の第二作「Friends, Friends, Friend」。
内容は、管楽器をフィーチュアし、粗野でゴツい感じとデリケートなタッチがバランスした、のどかなアコースティック・ロック。
アコースティック・ギターのストローク、かなり手数の多いリズム・セクションに支えられて、サックス、クラリネット、フルートなど管楽器とヴォーカル・ハーモニーがメロディアスに歌い上げるスタイルは、ブラス・ロックとフォーク・ロックの中間に位置するユニークなものである。
アンサンブルは、渋みと活気を兼ね備えており、フォーク、カントリー、もしくはお祭りのお囃子のような土臭さがある。
主として演奏の中心は、ミック・ジャガーやイアン・アンダーソンばりの偏屈ヴォーカルと管楽器であり、特に、管楽器のプレイはジャズからクラシックまで幅広く本格的である。
そして、ワースのやや癖のあるヴォーカルがキャッチーにしてヒネリもきいた独特のテーマを吟じ始めると、そこはもう JETHRO TULL 的ともいうべき英国御伽噺の世界になるのだ。
さらに、アコースティックで牧歌的な雰囲気に加えて、エフェクトを活かしたサイケデリックな音つくりもしっかり行っており、フォーク・ロックとはいい切れないインパクトや緊張感もある。
サックス中心としたジャジーなインタープレイもあり。
パストラルな雰囲気とジャジーな汗臭さが同居する、ノスタルジックなブリティッシュ・ロックである。
イタリアン・ロックを受けとめられるプログレ・ファンへの贈り物。
プロデュースはグループ。
個人的には、キャッチーな 2 曲目に尽きる。
「Nothing You Do」(4:38)野太いベース、癖のあるヴォーカル、枯れたアコースティック・ギターのストローク、寂しげなヴァイブ、クールなサックス、まろやかなクラリネットら木管、野蛮なトーキング・フルートなどなどこのグループの音の特徴をすべて盛り込んだ作品。ひねくれたバラードである。
「Belladonna Moonshine」(2:40)サックスのキャッチーなオブリガートが冴える名曲。間奏ではカントリー・テイストも。
「It Brings A Tear」(2:55)愛らしいフルートとアメリカンなハーモニーによる SSW 風の佳曲。
「Raid」(8:44)アッパーでブルージー、そして夢想的なジャズロック。B メロの中途半端な感じがいい。サイケなサックス・ソロをフィーチュア。中間部では牧歌調から泥酔の乱調美へ。
「Right On Their Side」(5:24)クールで武骨な NEON、VERTIGO 風のジャジーな作品。フルートをフィーチュア。
「Ebony Variations」(5:29)TV ジングルのように可愛らしくキャッチーな作品。クラシカルなプレイを見せるソプラノ・サックスをフィーチュア。インストゥルメンタル。
「Priestess」(6:14)マカロニ・ウエスタンのサントラを思わせるスリリングな名品。熱唱するヴォーカル。風に舞うこだまのようなフルート。クールなギター。たくましくいななくサックス。
「Friends, Friends, Friend」(3:28)JETHRO TULL ばりの濃密な弾き語り。
ワースのナイロン弦ギターによるアルペジオの武骨な響きがいい。クラリネット、サックスがメランコリックな歌をささやく。
「The Big Spell」(3:03)パンチの効いたにぎやかなロックンロール。珍しくエレキギターが使われている。
(CASCD 1012)