STACKRIDGE

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「STACKRIDGE」。69 年結成。作品は八枚。99 年再結成。通称「田舎のビートルズ」。

 Stackridge
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Andrew Creswell-Davis lead guitar, piano, harmonium, acoustic guitar
James Warren bass guitar, acoustic bass, acoustic guitar, typography
Michael "Mutter" Slater flute
Michael Evans violin
Billy Bent drums, triangle

  71 年発表の第一作「Stackridge」。 内容は、THE BEATLES の影響を思い切り素直に受けて反芻したアコースティック・ロック。 やさしげなヴォーカルをデリケートで時に小気味よく跳ねる器楽が取り巻いて、不思議な御伽噺を奏でる。 物寂しげなフルート、優雅なヴァイオリン、静かにコードを刻むアコースティック・ギターなど自然なペーソスが全編を貫いている。 繊細でセンチメンタル、そしてちょっと「変」でもある。 何を懐かしむかは年齢にも場所にも人にもよるはずだが、不思議なことに誰しもがノスタルジーを感じるような音を巧みに作り上げている。 (もちろん、ポール・マッカートニーの薫陶しからしむるところである) また、ロックンロールへの憧憬を演出する曲では、BEATLES にとどまらず THE BEACH BOYS へのリスペクトも隠さない。 フォーク・ソングからの発展系ということでは初期 GENESIS とも共通するが、GENESIS のように未熟さ故の思い込み過多による変態的な趣味に走っておらず、あくまで作風は分かりやすく(なにせ BEATLES ですからな)ポップス的に練れている。 つまり「田舎の」といいつつも、ジャズや R&B といった音楽の都会的フィーリングや現代性にも通じているのだ。 逆に、これだけアコースティックながら、トラッドやフォークといったレッテルはあまり似つかわしくない。 これは逞しさや無常感という要素が少ないためだろう。 やはり、一流のポップス・ヲタクなのだ。 この普通以上の音楽センスをもった若者たちを「ノスタルジー」を売りにして登場させる辺り、すでに音楽会社の戦略のようなものも感じられる。(まずは BEATLES のそっくりサンとしての需要かもしれないが) 作曲/演奏力と音への鋭いセンスは、8 分にわたるアコースティック・サウンドによるインストゥルメンタルがあることからも分かる。 管弦を巻き込んだ、クラシックでもフォークでもジャズでもないアンサンブルをプログレといわずして何といおう。
   「Slark」は、お囃子のように素朴なテーマで綴る御伽噺風のプログレ大作。 この大作の作者の一人でオリジナル・メンバーのジム "クラン" ウォルターが演奏者としてクレジットされていない理由をご存知の方はぜひ教えてください。 プロデュースはフリッツ・フライヤー。 素朴な美しさにどこか妖しさも漂うジャケット・アートはヒプノシス。

  「Grande Piano」(3:21)
  「Percy The Penguin」(3:40)
  「Three Legged Table」(6:47)
  「Dora, The Female Explorer」(3:45)
  「Essence Of Porphyry」(8:04)インストゥルメンタル。

  「Marigold Conjunction」(4:58)
  「32 West Mall」(2:25)
  「Marzo Plod」(3:05)「Martha My Dear」かと思いました。
  「Slark」(14:07)この曲だけはポールではなくジョンの作風のようだ。傑作。
  
(MDKS 8002 / EDCD 518)

 Friendliness
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Michael Evans violin, cello
James Warren guitar, bass on 8
Jim Walter bass, lead guitar on 8
Billy Sparkle percussion
"Mutter" Slater flute, piano on 9
Andrew Davis keyboards, guitar

  72 年発表の第二作「Friendliness」。 内容は、メンバーによる管弦楽器やピアノがやさしげなヴォーカルを彩る、ホンワカと夢見心地のアコースティック・ロック。 ポール・マッカートニーの小話風の曲ばかりを集めたアルバム、といえばいいだろうか。 ピアノやギター、ヴァイオリン、フルートといったアコースティックな音を操って記憶の奥底に眠るノスタルジーをかきたてるチャーミングな音楽である。 しかし、フォーク・ロックというには土臭さとたくましさが足りない。 その代わりに田舎モノに分かり得ないデリカシーとセンチメンタリズムがある。 また、ヴォードヴィル調といってしまうと俗っぽくなりすぎる。(そういう感じがまったくないわけではないが) なぜなら、クラシカルな気品と雅とともに、シニシズムに至る前の若々しい苦悩やピュアな思いもたっぷりと込められているから。 実際、ヴァイオリンやフルート、ピアノの調べは「村祭りのお囃子」ではなく「素朴すぎるクラシック」というべきだ。 そして、優しげでルーラルな歌もいいうえに、タイトで緻密なアンサンブルがドライヴするインストゥルメンタル・パートがスリリングでまたカッコいい。 演奏がすっきりと歯切れよくまとまっていて、バンドとしての呼吸がいい。 もちろん、メロトロンもさりげなく。 何にせよ、精霊や妖精が舞い踊る深い森のある国ならではの作品である。
   プロデュースはヴィク・ギャムとグループ。 かえすがえすも、子供向けの TV 番組の音楽担当にうってつけのグループだと思う。

  「Lummy Days」(3:20) インストゥルメンタル。小劇場や寄席の幕開き前の音楽のよう。
  「Friendliness Part 1」(2:27)本アルバムのメイン・テーマ。切なく懐かしく暖かい。
  「Anyone For Tennis」(2:30)
  「There Is No Refuge」(3:21)
  「Syracuse The Elephant」(8:44) シタールも登場してインド風に変化する力作。

  「Amazingly Agnes」(3:27)
  「Father Frankenstein Is Behind Your Pillow」(3:34)
  「Keep On Clucking」(4:02)けたたましいギターが飛び出す異色のブルーズ・ロック。
  「Story Of My Heart」(2:04)インストゥルメンタル。 ムッター・スレイターによるピアノ独奏。 なんちゃってクラシックかもしれないが、幻想的でとてもいい雰囲気である。
  「Friendliness Part 2」(1:54)メイン・テーマの再現。
  「Teatime」(5:49)緊張感あふれるクライマックス。CARAVANCAMEL の最上の瞬間に通じるものあり。
  以下ボーナス・トラック。
  「Slark」(4:43)シングル MKS 5091 A 面。第一作の大作のシングル・エディット。
  「Everyman」(4:24)シングル MKS 5065 B 面。A 面は第一作収録の「Dora, The Female Explorer」。
  「Purple Spaceships Over Yatton」(6:40)シングル MKS 5091 B 面。 インストゥルメンタル。 細やかな哀歓を誇大妄想風に描いた傑作。オーケストラを動員。
  
(MKPS 2025 / EDCD 487)

 The Man In The Bowler Hat
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Andrew Davis guitar, keyboards, percussion, singing
Mutter Slater flute, keyboards, percussion, singing
Mike Evans violin, singing
Billy Sparkle drums
James Warren guitar, singing
Crun Walter bass

  74 年発表の第三作「The Man In The Bowler Hat」。 内容は、英国らしいクラシカルで甘酸っぱくほのかな苦味もあるポップ・ロック。 アコースティックでフォーキーな音を多用し、ビートやサイケなどの 60 年代テイストといっしょにうまくパッケージ化してメロディアスでポップな完成度を高めている。 王道ポップス路線のデイヴィスの作風とノスタルジックなヴォードヴィル路線であるスレイターの作風、そして優美で繊細、夢想的なウォレンの作風がバランスよく配されている。 3 曲目「The Last Plimsoll」は名曲。 5 曲目「The Road To Venezuela」は STRAWBS を思わせるメロディアスな佳曲。アンディ・デイヴィスの声質がデイヴ・カズンズに似ているのかもしれない。 7 曲目「Humiliation」はファンタジックで美しすぎるメロディとサウンドによる痛烈な現代社会批判。 最終曲「God Speed The Plough」は、クラシカルでロマンティックなインストゥルメンタル。 正直、本作は、ちょっと BEATLES 過ぎてドギマギします。
プロデュースはジョージ・マーティン。タイトなバンド演奏としっくりくる管弦のアレンジはさすが。 ジェームス・ウォレンのセンスとヴォーカルが好みだっただけに、本作で脱退は残念でした。

  「Fundamentally Yours」(2:36)
  「Pinafore Days」(2:37)
  「The Last Plimsoll」(4:32)
  「To The Sun And Moon」(2:50)
  「The Road To Venezuela」(4:53)
  「The Galloping Gaucho」(2:48)
  「Humiliation」(3:33)
  「Dangerous Bacon」(2:43)
  「The Indifferent Hedgehog」(3:15)
  「God Speed The Plough」(5:29)
  以下ボーナス・トラック。
  「Do The Stanley」(2:54)シングル MUS 1182 A 面。
  「C'Est La Vie」(3:17) シングル MUS 1182 B 面。
  「Let There Be Lids」(3:17)76 年の編集盤「Do The Stanley」より、当時の未発表曲。
  
(MCG 3501 / EDCD 488)

 Extravaganza
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Roy Morgan drums
Rod Bowkett keyboards
Keith Gemmell sax, clarinet, flute
Paul Karas vocals, bass
Mutter Slater vocals, flute
Andrew Davis vocals, guitar, Mellotron

  74 年発表の第四作「Extravaganza」。 ムッター・スレイターとアンディ・ディヴィス以外のメンバーを刷新、AUDIENCE のキース・ジェメル、RARE BIRD のポール・カラスら四人の新メンバーを迎えて、製作もエルトン・ジョンのロケット・レーベルで行われた。 内容は、フォークロックを基調にしたロックのスタイル総覧的なプログレッシヴ・ロック。 フォーキーな人懐こさに加えてジャジーでテクニカルな面も強調し、精緻なアレンジを施した、知る人ぞ知る名盤である。 LP A 面はヴォードヴィル調やフォーク・タッチの素朴でユーモラスな歌もの集であり、LP B 面はインストゥルメンタルを主とした内容になっている。 6 曲目「Happy In The Lord」はカヴァーながらなかなかの出来。 BEATLES 直系、英国音楽らしさ満点の A 面も魅力的だが、やはり聴きものは B 面。 アコースティックな音を使いながらも、ジャズロック、プログレ的なテクニカルでシャープな演奏が繰り広げられる。 スケール感とスリル、ダイナミズムを 5 分に満たない作品で目一杯感じさせてくれる。 その中でも 7 曲目「Rufus T.Firefly」は、痛快なジャズロック調にトラッド風の味付けも施したユーロロック的傑作。 8 曲目「No One's More Important Than The Earth Worm」は、メンバーとしても一時在籍したゴードン・ハスケルによるハードロック・バラード風の異色作。 不思議な東洋風味(ジャポネスク?)がある。 10 曲目「Who's That Up There With Bill Stokes ?」も、シリアスかつコミカルな変拍子インストゥルメンタル。 ゴードン・ギルトラップやペッカ・ポーヨラに通じる豊穣な音楽である。 演奏/作曲ともに新任キーボーディスト、ロッド・ボウケットの存在感が大きい。 一作目、二作目の偏屈フォーク志向とジャズロック的なインストゥルメンタル志向をうまくブレンドさせているのは彼の手腕ではないだろうか。 モーガン、カラスのリズム・セクションもシャープでテクニカルだ。
   プロデュースはグループとトニー・アシュトンとジョージ・マーティン(B3 のみ)。 カナダ盤は UK 盤と内容や曲順が異なる。

  「Spin 'Round The Room」(2:43)
  「Grease Paint Smiles」(4:02)
  「The Volunteer」(5:04)
  「Highbury Incident (Rainy July Morning)」(4:00)
  「Benjamin's Giant Onion」(4:02)
  「Happy In The Lord」(3:50)

  「Rufus T. Firefly」(4:48)テクニカルにしてファンタジックな傑作。インストゥルメンタル。
  「No Ones More Important Than The Earthworm」(5:10)
  「Pocket Billiards」(4:03)ギターと管楽器を中心にした輪舞曲風のインストゥルメンタル。
  「Who's That Up There With Bill Stokes ?」(4:36)ミステリアスな味わいを加味した、スリリングな変拍子インストゥルメンタル。
  
(PIGL 11 / PHCR-4211)


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