STRAWBS

  イギリスのフォーク・ロック・グループ「STRAWBS」。 64 年結成。作品多数。現役。 トラッドや中世古楽を取り入れたアコースティックなサウンドを出発点にエレクトリックな音も取り入れた独自のポップなロックを貫いた。 YES 加入前のリック・ウェイクマンが在籍。

 Just A Collection Of Antiques And Curios
 
Dave Cousins vocals, acoustic & electric guitars, dulcimer
Tony Hooper vocals, acoustic guitar, tambourine
Rick Wakeman organ, piano, harpsichord, celeste
Richard Hudson conga, drums, cymbal, tambourine, sitar, vocals
John Ford bass, vocals

  71 年発表の第三作「Just A Collection Of Antiques And Curios」。 堅固なアンサンブルによる明快な演奏をとらえた、クイーン・エリザベス・ホールでのライヴ録音。 前作にゲスト参加したリック・ウェイクマンが正式加入し、リズム・セクションもハドソン/フォードに交代。 トラッド色の強いアコースティックなトーンが全体を貫く一方で、ウェイクマンによるクラシカルなキーボード・プレイも、大幅にフィーチュアされている。 そのプレイは、ルネッサンス風のチェンバロから、ロマンチックかつ豪快なピアノそしてヘヴィなオルガンまで、縦横無尽な広がりを見せ、強烈な存在感を放っている。 また、ヴォーカルとギターによるアンサンブルも、枯れたトラッド調のサウンドに現代的なメランコリーを交えて、独特の魅力を見せている。
  個人的には、本作よりも先に後のアルバムをいくつか聴いているため、ヴォーカルのもつトラッド風の抑揚に新鮮な驚きがあった。 ここを出発点にして以後の変化を考えると、改めて、デイヴ・カズンズの進取のセンスのよさを感じる。 対照的にトニー・フーパーは、完全に本作のスタイルにおちついており、ツイン・ヴォーカルにおいてはみごとな表現で存在感を見せる。 いわゆるロック化よりは前の作品ではあるが、中世趣味とトラッド・フォーク、カントリー、ポップスが自然な形でとけ合った不思議な魅力は、既に現れている。 インストが充実した大作を中心に、全体にノリと録音のよさでとても聴きやすい作品といえるだろう。
  プロデュースはトニー・ヴィスコンティ。

  「Martin Luther King's Dream」(2:53)素朴なコーラスが美しいトラッド・フォークだがリズム・アクセントにポップさを感じる。 オルガンがとても愛らしい。

  「The Antiques Suite」(12:12)4 つのパートから成る大作。 最初のパートは、ルネッサンス風の典雅なギターとチェンバロのアンサンブルに逞しいリズムが加わって、躍動感を生んでいる。 2 番目のパートは、ややカントリー風のポップなツイン・ヴォーカルとアコースティック・ギターの響きが美しい。 3 番目のパートは、クラシカルなチェンバロの伴奏でカズンズがメランコリックに歌うナンバー。 4 番目のパートは、再びツイン・ヴォーカルで歌われるフォークソング。 伴奏のチェレステが愛らしく、オブリガートのピアノには目を見張る。 ブリティッシュ・フォークらしい魅力にあふれた作品だ。

  「Temperament Of Mind」(4:50)目の醒めるようなピアノ・ソロ。 後に YES でも披露するクラシック・ナンバーの即興である。

  「Fingertips」(6:14)シタールやダルシマーを使ったアコースティックでエキゾチックなナンバー。 モノトーンのヴォーカルとシンプルなリズムの演奏は、長閑さや呪術性が一緒になった古からのこだまのようだ。 前半のリズムレスの浮遊感と後半のインストゥルメンタルのトランス性は、意図したかどうかはともかく、サイケデリック・ミュージックに通じる。

  「Song Of A Sad Little Girl」(5:28)美しく哀愁漂うピアノから始まるフォークソングだが、現代的なメロディラインとトラッドなセンテンスが巧みに織り交ぜられている。 ピアノはとてもモダンである。

  「Where Is This Dream Of Your Youth?」(9:07)アップテンポのロックとトラッドが綴り合わされたユニークなナンバー。 スピード感あふれるオルガンがジャズからクラシック、中近東まで幅広い演奏を見せる。 グループの将来を感じさせるナンバーだ。

  「The Vision Of The Lady Of The Lake」(10:03)ボーナス・トラック。

  「We'll Meet Again Sometime」(4:17)ボーナス・トラック。
  「Forever」(3:32)ボーナス・トラック。

(A&M 540 938-2)

 From The Witchwood
 
Dave Cousins vocals, guitar, banjo, dulcimer, recorder
Tony Hooper vocals, guitar, autoharp, tambourine
Rick Wakeman organ, celeste, electric piano, piano, moog, harpsichord, clarinete
Richard Hudson drums, vocals, sitar
John Ford bass, vocals

  71 年発表の第四作「From The Witchwood」。 リック・ウェイクマンを正式メンバーに迎えた、初のスタジオ・アルバム。 彼のキーボード・ワークが、アコースティックなトラッド・フォークにクラシカルでドライヴの感あるプログレ色をもたらした。 民俗、中世教会、宮廷音楽などを基調にするも、軽やかでドリーミーな英国ポップスのフィーリングにあふれる好盤である。 エレキギターが用いられるのは 10 曲中 2 曲のみ。
  プロデュースはトニー・ヴィスコンティ。 LP の頃、日本盤のジャケットは、聖者を描いた美しいタイル画のようなものだった記憶があるのですが。

  「A Glimpse Of Heaven」(3:50)トラッド調のメイン・ハーモニーにオルガンとコラールが教会音楽風の響きを与える作品。 ほのぼのとしたなかに、彼岸への願いのような厳かなムードがあり、ここにはないものへの憧れという点で、日常的な夢想と宗教的な願いが接したような印象である。 中間部では、オルガンとバンジョー、アコースティック・ギターによるエキサイティングなアンサンブルもある。 後半、歌を追いかけるチェレステの響きが愛らしい。 カズンズ作。

  「Witchwood」(3:23)素朴な哀感の漂うテーマが繰り返される作品。 アコースティック・ギターのアルペジオと空ろなテーマを奏でるダルシマーのアンサンブル、メイン・ヴォーカルがダルシマーに代わりテーマを歌うと、伴奏は素朴なバンジョーである。 ダルシマーのテーマは、開放弦の響きとビートが厚み/力強さを加えるが、かえって寒々しく物悲しい。 間奏とエンディングには、うっすらとクラリネットが聴こえる。 (クレジットではウェイクマンの演奏とある)カズンズ作。

  「Thirty Days」(2:52)スウィートなポップソング調のヴォーカルとトラッド風のアコースティックな演奏が組み合わさった佳作。 THE BEATLESTHE BEACH BOYS を思わせるヴォーカルとハーモニー。 リード・ヴォーカルは、まるでレノンとマッカートニーが交ざったようだ。 そう聴こえてくると、懸命に自己主張するシタールがさらに THE BEATLES のイメージを強める。 全体的には、シタールによる無遠慮な土臭さが都会的なポップスをやや侵食し、奇妙な印象を与える。 フォードの作品。 クレジットによるとカズンズは参加していない。 シタールはハドソンによる。

  「Flight」(4:24) BARCLAY JAMES HARVESTMOODY BLUES を思わせる幻想的なフォーク・ロックの傑作。 耳をよぎるラジオのジングルのようなイントロ、ドリーミーなヴォーカルとコーラス、軽やかなピアノなど、ふとまどろんだときの夢想をそのままスケッチしたような、すてきな作品だ。 アコースティック・ギターによる華やかなアクセント以降の演奏は、まさしく BJH に通じるものだ。 ウェイクマンがラグタイム調のピアノを弾くのは、珍しいのでは。 ヴォーカルはハドソンで彼の作品。

  「The Hangman And The Paptist」(4:11)アコースティックで土臭いフォークソングに、圧倒的なオルガンがクラシカルでけれん味あふれるアクセントをつける作品。 オープニング、ウェイクマンの華麗なるオルガン速弾きが炸裂する。 YES でも聴かれたクラシカルなフレーズ(手癖?)が現れる。 カズンズのセンチメンタルなヴォーカルとこのオルガンが、モノクロのフォーク・ソングに独特の輝きを与えているのは間違いない。 カズンズの歌い上げる感じと力強いドラムス、オルガンに、羽音のようなギターやフーバーのノーブルなサブ・ヴォーカルがデリケートな表情で対比をつける。 マーチング・スネアもいい感じだ。 カズンズ作。

  「Sheep」(4:14) DOORSJEFFERSON AIRPLANE を思わせるビートの効いたアート・ロック。 オルガンやファズ・ベースがサイケデリック。 特にオルガンはクラシカルで技巧的なプレイをやや抑え、わざとサイケ風に徹しているようで面白い(もっとも間奏のソロではやはり手癖が火を噴く)。 フォーク色が後退すると、カズンズの声と表情がピーター・ゲイブリエルに似ているのが分かる。 エンディングでは、ガラリと雰囲気を変えて、トーンをか細く変化させたオルガンとギターが伴奏するフォークソングになる。 カズンズ作。 異色ではあるが、雑食性のアイデア・マンらしいナンバーである。

  「Cannon dale」(3:46)けだるく幻想的なバラード。 傑作。 サイケデリックなシタールやユーモラスな間奏は完全に THE BEATLES。 ベース、ドラムスのピックアップによる導入部も洗練されている。 ひょっとすると、ハドソン/フォードは、レノン/マッカートニーへの思い入れたっぷりなのかもしれない。 ハドソンの作品。

  「The Shepherd's Song」(4:34)スパニッシュなギターとトラペットを思わせるムーグ・シンセサイザーがカッコいい。

  「In Amongst The Roses」(3:48)

  「I'll Carry On Beside You」(3:09)西海岸風のすてきなフォーク・ナンバー。 エレキギターが現れる唯一の曲だ。 リード・ヴォーカルはフーパー。 カズンズ作。
  「Keep The Devil Outside」(3:02)ボーナス・トラック。 キャッチーな西海岸風味のなかにも微妙なトラッド調の陰影のある名作。 ヴォーカルはフーパー。

(A&M 540 939ー2)

 Grave New World
 
Dave Cousins vocals, electric & acoustic guitar, dulcimer
Tony Hooper vocals, guitar, autoharp, tambourine
Blue Weaver organ, piano, harmonium, mellotron, clavioline
Richard Hudson drums, vocals, sitar
John Ford bass, vocals

  72 年発表の第五作「Grave New World」。 YES へと移ったウェイクマンの後任に、ブルー・ウィーバー(復活 CHICAGO の「Hot Streets」に参加していましたね)が加入。 メロトロンやオルガンを駆使し、前任者と遜色ないプレイで重厚にして独特の翳りや含みのあるサウンド作りに貢献する。 止むことなくリズムを刻み続けるアコースティック・ギターがフォーク路線の堅持を示す一方で、ファズを使ったエレクトリック・ダルシマーやシンフォニックなメロトロン、テープ操作による実験的な試みなど、アコースティック・ロックというべき一歩進んだロック・サウンドを生み出そうという気概もはっきりうかがえる。 フーパーによる純フォーク・ソングやハドソン・フォード組によるポップな作品もいいが、やはりアルバムの軸となるのは、多彩で複合的な味のあるデイヴ・カズンズの作品だろう。 典雅にして素朴なアコースティック・サウンドとクラシカルな重厚さ、メランコリックにしてモダンなポップ・テイストがバランスした英国ロックらしい好アルバムだ。
  プロデュースは 1 曲目でトニー・ヴィスコンティのサポートを仰ぐも、すべてグループによる。 ジャケットはウィリアム・ブレイクの「歓びの日」。タイトルはハックスレイの著作のパロディか。

  「Benedictus」(4:24) 親しみやすさの内に厳かな響きとほのかな哀感を漂わすフォーク・ロックの名品。 やや沈みがちながらも、リラックスしたヴォーカル・ハーモニーと重厚にして厳かなキーボード・ワークがとけあい、独特のポップ・テイストを醸し出している。 元気よくシンプルなギターのリフと穏やかなサビの繰り返しが、次第に、何ともいえない普遍的な重みをもってくるところが魅力だろう。 キーボードは序奏と伴奏では古式ゆかしいオルガンが活躍し、間奏ではメロトロン、ピアノがイタリアン・ロックに迫る調子でロマンをかきたてる。 間奏で最初にリードを取る太い音は、エレクトリック・ダルシマーだろうか。 メロトロンとヴォーカル・ハーモニーが一つになって、悠然と広がってゆくエンディングもいい。 オブリガートで目立つベース、ドラムスが、何気なくも鋭いプレイを見せ曲を引き締めている。 カズンズ作。

  「Hey Little Man...Thursday's Child」(1:06) maj7 の響きを活かしたアコースティック・ギターのアルペジオ伴奏による密やかな弾き語り。 英国フォークらしい幻想的な響きがあり、前曲からの流れを変え、ぐっとプライヴェイトな空気を引き寄せる。 小さなブリッジ、間奏曲の役割を果たしているようだ。 カズンズ一人による弾き語り。カズンズ作。

  「Queen Of Dreams」(5:32) 正統的な英国フォークに斬新なアレンジを施した実験的な佳作。 前半の伴奏は、テープを逆回転させた演奏と歯切れのいいドラムスのみ。 やや虚脱したような表情が特徴のカズンズと、澄んだ声を持つフーパーによるドリーミーなハーモニーがじつにいい。 間奏では、再び、レガートなエレクトリック・ダルシマーがフィーチュアされる。 中間部では、なんと意外にもノイズを用いたミュージック・コンクレート風のアプローチを見せる。 後半、ようやくオルガン、ベース、ギターらが現れる。 オルガンは、クラシカル・テイストたっぷりにいい感じで歌っている。 メロディアスにうねりをもつヴォーカル・メロディに対して、演奏は全体にリズムのアクセントがきつく、エンディングへ向けて、ドラムスの機敏なプレイもフィーチュアした力強い演奏が続いてゆく。 どうしても THE BEATLES したいという気持ちが現れていて微笑ましい。 カズンズ作。

  「Heavy Disguise」(2:53) 切れ味鋭いアコースティック・ギターのストロークと金管楽器の響きが印象的なフォーク・ロックの佳作。 甘めの声ながらも、エルトン・ジョンやビリー・ジョエル(マイナーどころではラルフ・コヴァートにもよく似ている)を思わせるスタイリッシュに洗練されたヴォーカルが、あえてクラシカルかつトラッド風のフォーク・ソングにチャレンジすることにより、ポップスらしい新しい魅力が生まれている。 バロック調の金管楽器の柔らかな響きとクリアーなギターの音色、メロディアスなヴォーカルのコンビネーションは絶妙の味わいだ。 気障も決まるとイヤミがない。 フォードの作品。ヴォーカルとギターはフォード。 ブラス・アンサンブルは Robert Kirby Silver Band

  「New World」(4:11) 重厚にして悲劇的なドラマを感じさせる「泣きの」シンフォニック・チューン。 陰鬱につぶやき血を吐くように悲痛な叫びをほとばしらせるヴォーカルを取り巻き、支えるのは、絶え間なく刻まれるアコースティック・ギターと勇壮なブラス・セクション、そして轟きわたる劇的なメロトロンである。 メロトロンは、伴奏、オブリガート、間奏など全編で現れる。 BARCLAY JAMES HARVEST を思わせるドラマチックな広がりのある作品だ。 ベースのオブリガートや決め所で叩きまくるドラムスなど、リズム・セクションも存在感あり。 カズンズ作。

  「Hey Little Man...Wednesday's Child」(1:06) 2 曲目とほぼ同じ、アコースティック・ギターのアルペジオが伴奏する弾き語りフォーク・ソング。 素朴ながらも夢見心地の小品だ。 カズンズ作。

  「The Flower And The Young Man」(4:17) THE BEACH BOYS 風のヴォーカル・ハーモニーに驚かされるシンフォニック・チューン。 ソフトな声ながらもきっぱりとした表情を見せるフーパーのヴォーカルや歌メロ、キーボードが一気に高まる演奏など、前々曲に続いてエレキギターのない BARCLAY JAMES HARVEST といった趣である。 序奏のハーモニーを支えるハーモニウム、伴奏のクラシカルなオルガン、間奏で高まるメロトロンとクラヴィオリンなど、キーボードをぜいたく配している。 安定したリズム・セクションが、ここでも堅実なプレイでしっかりと曲を支えている。 どちらかといえば、シンプルで坦々としたフォーク・ロックを、キーボードとリズム・セクションでシンフォニックな広がりをもつように変容した作品といえるだろう。 フーパーのヴォーカルは、いかにもフォーク・ソング向けの素直な美声である。 カズンズ作。

  「Tomorrow」(4:49) エレキギター、オルガンをフィーチュアしたヘヴィなアート・ロック風の作品。 オープニングのオルガンは、いかにもニュー・ロック調で強烈だ。 全体に、歪み系のエフェクトを駆使した音作りであり、メロディ・ラインとカズンズの歌唱こそフォーク調(ピーター・ガブリエルばりの奇怪な表情も)だが、かなりハードな演奏である。 展開部では、ヘヴィなオルガンを受けたチェンバロ、ピアノが絶妙の呼吸でアコースティックなフォーク・ロック調を取り戻し、ヴォーカルを支える。 もっともそれもつかの間、一転してヘヴィなブルーズ・ロックへと突入する。 大胆な変身ぶりである。 THE NICE を思わせるワイルドなオルガンがうねるギター以上に全編で大活躍する。 いつになく音数の多いドラムス、太い音で動き回るベースなど、リズム・セクションも強烈だ。 ブラス・セクションとともに突き進む終盤は、ほとんど ATOMIC ROOSTER 状態である。 異色作だろう。 グループ全員の共作。

  「On Growing Older」(1:56) 透明感あふれるアコースティック・ギターのコード・ストロークとヴォーカル・ハーモニーに酔うフォーク・ロック小品。 快調なテンポで語りかけてくるような調子の作品である。 間奏の 12 弦ギターのアルペジオが美しい。 英国フォークのファンタジー的なムードと、西海岸風の健康的な爽快感が、交じりあった雰囲気を持つ。 いかにも STRAWBS らしい音ともいえるだろう。 カズンズ作。

  「Ah Me, Ah My」(1:24) ユーモラスでノスタルジックなヴォードヴィル・ソング。 ブラス・セクションと弦楽奏、マリンバが彩る演奏は、あたかも、古いディズニーかチャップリンの映画音楽のようだ。 フーパーの作品。 オーケストラ・アレンジはトニー・ヴィスコンティ。

  「Is It Today, Lord?」(3:07) シタール、ハーモニウムらを用いたインド音楽調の作品。 カズンズのヴォーカルによるメイン・パートは、フォーク調のメロディ・ラインだが、伴奏がすべてインド風であり、奇妙な味わいがある。 テープ逆回転を用いた風に巻かれるようなコーラス、序奏と後半のシタール、タブラ、オートハープらによる完璧なインディアン・アンサンブルなど趣向を凝らしている。 雑多な音楽性を次々と披露するわりには、全体のイメージにそれなりの統一感があるところが、名盤たる所以だろう。 シタールおよび作曲はハドソンによる。

  「The Journey's End」(1:46) 前曲のフェード・アウトを受けるような慈愛に満ちたピアノの調べと、厳かに諭すようなカズンズの歌唱。 人生の旅の終焉へと静かに歌を捧げ、アルバムの締めくくりに相応しい感動を与える。 ピアノのもつ楽器としての説得力を改めて気づかせる作品だ。 カズンズ作。

  「Here It Comes」(2:42)ボーナス・トラック。
  「I'm Going Home」(3:14)ボーナス・トラック。


  アルバム・タイトルや曲名から判断して、人間の一生を扱ったトータル・アルバムのようだ。 多彩な曲をテーマに沿ってうまくまとめていると思う。 フォーク・ロックをベースに、シンフォニー的な曲やハードでエレクトリックな曲、エキゾチックな曲など、さまざまな方向へと踏み出しつつも、アルバムを通して、明確な起伏のあるストーリーを感じさせる。 各曲それぞれに好作品だが、一気に聴かせるこの曲配置、アルバム構成もみごとである。 「New World」や「Tomorrow」には、完全に新しいサウンドがある。 元来持っていたルネッサンス、トラッド調のサウンドに、エレクトリックな楽器を持ち込んででき上がった音楽は、まさしく「プログレッシヴ・ロック」である。 ウィーバーのキーボード・ワーク、テクニックはさほどでもないが音に対して敏感なカズンズのエレクトリック・ギターのプレイ、パワフルなリズム・セクションなど演奏面では見るべきところが多い。 しかしながら、本作は、個々のプレイよりもアイデアとアンサンブルに工夫を凝らした結果の傑作というべきだろう。 音の輪郭をにじませる英国風のくすみと翳りが魅力のとても聴き応えのある作品だ。 名盤。

(A&M 540 934-2)

 Bursting At The Seams
 
Dave Cousins vocals, guitar, banjo
Dave Lambert guitars
Blue Weaver keyboards
Richard Hudson drums, vocals, sitar
John Ford bass, vocals

  73 年発表の第六作「Bursting At The Seams」。 ブルーグラス時代からの盟友トニー・フーパーの脱退とギタリストのデイヴ・ランバートの加入は、アコースティック路線からエレクトリック路線への転換の象徴となった事件であった。 本作辺りから、シーンの流行とともにグラム・ロック・グループと誤解される時期がしばらく続く。 今となってはご愛嬌だが、彼らはどんな心境だったのだろう。 全体にフォーク・タッチのメイン・パートをクラシカルなキーボードや管弦楽、ハーモニーを活かしてシンフォニックでスケール大きく展開させるスタイルであり、プログレ度合いも十分である。 また一方で、エレクトリック・ギターのフィーチュアされたアップテンポなナンバーは当然ながらも、いかにもブリティッシュな陰影に富むフォーク・ロックの内にも、ほんのりアメリカンなレイド・バック感がないだろうか。 オーケストラを用いた作風や西海岸風味のポップ・テイストは、BARCLAY JAMES HARVEST の作品を思い出していただくといいだろう。 ハドソン/フォードのコンビの曲ではシングル・ヒットも放った。 カズンズのヴォーカルは、曲毎に雰囲気をうまく使い分けてさらに磨きがかかっている。
  注意すべきは、決してフォーク的な面がなくなったわけではないこと。 エレクトリック・ギターの音を大幅に取り入れた結果、クラシカルなフォーク・ロックのうちにハードなアタックとポップ・テイストが生まれ出てきたという表現が正しいだろう。 実際、ギターはいわゆるエレキギターらしいブルース・ロック系のプレイではなく、アルペジオとトラッド風のフレージング(名手リチャード・トンプソンを思わせるところもあり)が主である。 ウィーバーのキーボード・プレイも多彩である。
  プロデュースはグループ。

  「Flying」(4:51) エレクトリックにしてクラシカルなフォーク・ロックの傑作。 アルペジオ主体のプレイをあえてエレクトリック・ギターで軽やかに決めるランバートのセンスは、リチャード・トンプソンやゴードン・ギルトラップに匹敵する。 あたかも畏怖の念にこわばるような歌の始まりが宗教音楽をイメージさせ、幽玄で神秘的な空気をもたらす。 そして、すぐに親しみやすいサビのメロディを導いて、リラックスさせる。 こういう機微がいい。 さらに、その親しみやすいメロディにオルガン、メロトロンとコーラスで厚みをつけて、自然にシンフォニックな広がりをもたらしている。 間奏部では、重厚なアコースティック・ギターがぐっと空気を引き締め、やがて軽やかなバンジョーとのデュオにメロトロンが重なってゆく。 意外な流れが緊張をもたらし、やがて感動の波が押し寄せる。 巧みな展開だ。 ギターのアルペジオが呼び戻される最終コーラスは、イタリアン・ロックを思わせる、のどかで和らいだ美しさがある。 そういえば、フォーク的な主題にキーボードでシンフォニックな味つけを施すスタイルは、まさにそのままイタリアン・ロックである。 エンディング、ピアノによって、一気に典雅な雰囲気をもたらすところもいい。 緊張と弛緩、明と暗のコントラストをナチュラルなメロディで貫いた傑作である。 パストラルなイメージが次第に幻想性を強めるあたりは、GENESIS 的といってもいいかもしれない。 カズンズ作。

  「Lady Fuschia」(4:00) 伸びやかなエレクトリック・ギターが印象的な STRAWBS らしいフォーク・ロック。 アコースティック弦楽器をさまざまに使いこなすも、アシッド・フォーク的なアプローチではなく、おっとりとしたミドル・テンポと優しげなメロディによる素朴なポップ・テイストがうれしい佳曲である。 リード・ヴォーカルはハドソン/フォードに任せ、カズンズはハーモニーにまわっている。 サビのハイトーンのコーラスとアコースティック・ギターの響きになんともナイーヴな美しさがある。 宝石のようなきらめきを見せるエレピのアクセントやバンジョー、シタール、そしてベース・ラインなど、細かいところにも神経が行き届いている。 このグループのアコースティックな路線を代表する作品ともいえる。 ハドソン/フォードの作品。

  「Stormy Down」(2:46) どうしたって EAGLES を思い出す西海岸風のリズミカルなナンバー。 爽快感あふれるヴォーカル・ハーモニーを中心にピアノとアコースティック・ギターが心地よくビートを刻み、エレクトリック・スライド・ギターが彩りをつける演奏だ。 悩みのない軽快さと垢抜けない土臭さは、いかにもアメリカンである。 カズンズ作。

  「The River」(2:22) 神秘的な悲劇のイメージを貫く重厚な小品。 開放弦を用いた sus4 の不安定な響きを強烈なアクセントに、雄大なストリングスもフィーチュアしてメジャーとマイナーを巧みに行き交い、ドラマチックな展開を見せる。 ささやくようなスライド・ギターやピアノを用いた素朴なフォーク・タッチのテーマ/演奏を基本に、丹念な語り口とアレンジを用い、とても 2 分あまりとは思えない充実したスケール感を与えている。 カズンズのヴォーカルも、叙事詩人の詠唱ともいうべき力強いパフォーマンスである。 カズンズ作。

  「Down By The Sea」(6:19) 憂鬱な弾き語りがハードな展開部を経てシンフォニックに高まってゆく劇的な作品。 序盤はトラジックな重みをもつアルペジオが、メランコリックなフォーク・ソングを導く。 弾き語りのパートは、メロトロン・ストリングスがうっすらと流れ、幻想性を強めている。 しかし、すぐさまキーボードとエレクトリック・ギターが、ハードロックへと変貌させるのだ。 カズンズも懸命のシャウトを見せる。 再び、虚脱したような弾き語りが始まるも、結末はイントロのアルペジオが再現、あまりにドラマティックな管弦楽を呼び覚まし雄々しき高まりを見せる。 三曲分くらいのアイデアを一つにまとめたようなイメージだ。 カズンズ作。

  「Part Of The Union」(2:56) 親しみやすくもほんのり切ない歌メロや、のどかで楽しげなサビのコーラスがすてきなポップ・チューン。 間奏のホンキー・トンク風のピアノやお祭りさわぎふうのコーラスなど、ノスタルジックな音使いはきわめてポール・マッカートニー的。 ロジャー・マッギンを意識しているような透明感あふれる音色の 12 弦アコースティック・ギターがいい。 幽玄なムードが支配するアルバムにおいて一服の清涼剤的な存在の名曲だ。 大ヒットしたハドソン/フォードの作品。

  「Tears And Pavan」(6:38) 前半はメロトロンを大きくフィーチュアした幻想味あふれる曲調。 エレクトリック・ギターの密やかなアルペジオや、ささやくようなヴァイブなどが夢の世界へと誘う。 ヴォーカルは、伸びやかながらもゆくあてなく漂い続けるようなイメージが強い。 一曲目とおなじく霧深い神秘の森の奥をさ迷うような幽玄な調子であり、最初期 GENESIS に近い雰囲気である。 チェンバロ・ソロをはさみ、中盤からはアコースティック・ギター、バンジョーらによる逞しいトラッド・テイストあふれる演奏である。 ハンド・クラップとともにステップを踏むようなダンサブルな演奏は、前作までの作風を感じさせる。 実際に、カズンズ作曲の「Tears」とハドソン/フォード作曲の「Pavan」をチェンバロのカデンツァでつないで一つにした作品なのだそうだ。 あたかも彼岸と現世をゆき交うような内容といってもいい。 トラッドにしてバロックそして幻想的という、STRAWBS 流のプログレッシヴ・ロックの傑作である。

  「The Winter And The Summer」(4:30) ドリーミーでポップな英国フォーク・ロックの名品。 アコースティック・ギターとメロトロン・フルートのよる弾き語りから、ほんのりカントリー・テイストも交えた軽快な調子へと移り、ついにはリズム・セクションも交えたロック調へと進む。 一貫するのは、アコースティック・ギターの軽やかなプレイ。 中盤では、一気に、エレクトリック・ギターとヴォーカル・ハーモニーで盛り上がる。 ラウドになっても、アメリカン・テイストよりは英国フォークの夢見るような調子がキープされている。 ハモンド・オルガンが終始伴奏として流れ、最後には鮮やかに存在を印象つける。 ランバート作。

  「Lay Down」(4:33) 西海岸風のストレートで力強いナンバー。 カズンズの声質には英国風の翳りがあるものの、曲調そのものは、完全にアメリカン・ロック、というか EAGLES である。 ただし、どうしても英国らしいところもある。 意外なほどハードロック風のラウドな音を使うエレクトリック・ギターや、何気ない転調、オルガンやメロトロンなどがそうだ。 吸い込まれてゆくようなエンディングのコーラスも GENESIS 的。 それでも、思わず押し切られてしまう調子のいいサビは、いかにもシングル向けといえるだろう。 実際英国チャートでナンバー 10 に入ったヒット曲である。 本曲はキーは F# だが、シングル盤「Lay Down」では E に下げられている。 カズンズ作。

  「Thank you」(2:15) ピアノ伴奏で子供たちとカズンズが合唱する賛美歌風の終曲。 カズンズの指示にしたがい一生懸命に歌う声が、すばらしく愛らしい。 内容は、ここまで聴いてくださってありがとう、というご挨拶である。 クリスマス・ソングのように心温まる作品である。 カズンズ作。

  「Will You Go」(3:54)ボーナス・トラック。
  「Backside」(3:49)ボーナス・トラック。
  「Lay Down」(3:33)ボーナス・トラック。シングル・ヴァージョン。


  エレクトリック・ギターを駆使するも幽玄なタッチとリラックスしたメロディのバランスのとれた傑作アルバムである。 ポップななかに英国滋味のあふれるフォーク・ロックとして完成された姿がある。 クラシカルなトラッド/フォークとロックをブレンドすることにより、自然ににじみでてきた極上のポップ・テイストをしっかりとつかんでいるといえるだろう。 キーボードによるプログレ的なけれん味たっぷりのクラシカルな演出もうれしい。 ヴォーカルもかなりうまくなっており、歌の味わいで納得させられる場面もある。 前作にあったような過渡的な作品は姿を消し、それぞれに確立されたスタイルをもつ楽曲が並ぶ。 そして、楽曲にまとまりができた反面、オーヴァーフロー気味のスリリングなインストやあらぶるような激しい展開は抑えられているようだ。 ヴォーカルを中心に、シングルも意識した作品が多いといってもいいだろう。 土臭いトラッド・テイストはやや薄められ、明るさと口当たりのよさも目立つ。 しかしながら、ポップという意味ではきわめて充実している。 どの曲も、シンプルなようでいて、アレンジ(キーボードやギターの使い方、コーラスなど)は実に的確だ。 これに気づくと、奥深い味わいがある。

(A&M 540 936-2)

 Hero And Heroine
 
Dave Cousins vocals, electric & acoustic guitar
Dave Lambert vocals, electric & acoustic guitar
John Hawken piano, electric piano, organ, mellotron, synthesizer
Chas Cronk bass, synthesizer, vocals
Rod Coombes drums, percussion, vocals

  74 年発表の第七作「Hero And Heroine」。 ポップ・センスを独自の路線で発揮したいと考えたハドソンとフォードのリズム・セクションが脱退。 さらに、鍵盤奏者のウィーバーまで脱退して窮地に立ったグループだったが、音楽界から引退していた大物 RENAISSANCE のオリジナル鍵盤奏者であるジョン・ホウクンを招聘、この危機を乗り切った。 持ち前の素朴ながらも冷え冷えと幻想的なムードにあふれたフォーク・ソングにエレクトリックなサウンドを大胆に加味して、独特な緊張感とキープしつつポップでプログレッシヴなロックを展開する。 おもしろいのは、前作のような明快なポップ調はやや抑えられたにもかかわらず、うっすらとかかった幻想味のヴェールを通してなめらかでキャッチーなポップ・テイストがちゃんと伝わってくるところである。 よりひねりの効いた深みある内容といえるし、アルバム全体のサウンド・イメージが一貫している辺りは 70 年代プログレッシヴ・ロックの王道ともいえる。 ノーブルで可憐なピアノと重厚なメロトロンのプレイ、ロックらしく鋭さを増したリズム・セクションらを演奏にうまく活かしている。 こういった緻密なアレンジ力がヒット・メイカーとしての秘訣なのかもしれない。 カズンズのヴォーカルには、英国の森に響くパン・フルートのようにメランコリックな響きが息づいている。 曲名から考えて、おそらくトータル・アルバムと思われる。
  プロデュースはデイヴ・カズンズとトム・アロム。

  「Autumn」(8:27)やや悲劇的な、幽玄極まる序章からメランコリックなトーンが貫く重厚な作品。 ヴォーカルのメロディ・ラインやソロ・ピアノには気品あふれるポップ・テイストあり。 メロトロン全開。 ホウクン - カズンズ作。

  「Sad Young Man」(4:09) 霧におおわれた深い森のように素朴で幻想的な雰囲気があり、そのムードとポップ・タッチのブレンドが絶妙なクラシカル・ロックの佳作。 エレクトリック・ピアノの響きが新鮮。 ジャジーなアーバン・テイストにならずファンタジックな趣を貫くところがセンスだろうか。 STRAWBS らしい曲です。 中盤のオルガンもカッコいい。 これら冒頭ニ曲でジョン・ホウクンの力量が分かる。 クームベス作。

  「Just Love」(3:41) キャッチーでにぎやかなロックンロール。 間奏部の大仰でクラシカルなアレンジが冴える。 米国でヒットしそう。 ランバートの甘めのヴォーカルも悪くない。 ランバート作。

  「Shine On Silver Sun」(2:46) ピアノ、ストリングスをフィーチュアしたポップな牧歌ロック。 素朴で愛らしいメロディと暖かくハートフルな演奏。 ストリングスは情感の高まりに合わせて湧き上がり、思わず口をついた独り言のようなピアノが波打つ。 弦とピアノの響きをフル活用したクラシカルなアレンジはイタリアン・ロックによく観られる。 カズンズ作。

  「Hero & Heroine」(3:29) バンジョーをフィーチュアした軽妙な酔いどれカントリー・タッチと悲劇的かつ重厚なストリングスのコントラストがおもしろいプログレッシヴな佳作。 ピーター・ガブリエルばりの大仰な表現を操るヴォーカル、ギターのパワーコードやメロトロンと重なるゴリゴリのストリングスの響き(変拍子パターン)など、思い切った大袈裟さが特徴である。 エピローグは一転して憂鬱なアコースティック・ギターのデュオとチェロの響き、これらはそのまま次曲を誘う。 カズンズ作。

  「Midnight Sun」(3:06) アコースティック・ギター弾き語りによるメランコリックなバラード。 虚しさに苦しみつつも言葉を解き放っているような歌唱。 フルートはメロトロンだろうか。 リズムはコンガのようなパーカッションのみ。 祈りのようなエンディング。 クロンク/カズンズ共作。

  「Out In The Cold」(3:19) カントリー・フレーヴァーあふれるポップ・チューン。 アコースティックギターに寄り添う控えめなブルース・ハープがいい感じだ。 スライド・ギターの柔らかな音色が雰囲気によく合っている。 エコーやヴォリューム奏法の音がなんともノスタルジック。 ピアノのオブリガートには欧州風のクラシカルなエレガンスがあり、米国風味に対するいいアクセントになっている。 カズンズ作。

  「Round And Round」(4:44) 70 年代中盤らしいスペイシーなエレクトリックなサウンドを器にするも、中身は変わらずカントリー調の STRAWBS らしいフォークロック。 イントロダクションと間奏のシンセサイザー・サウンドが新しい。 ギターのパワーコードがかなりワイルドだしオブリガート風のベースも鋭いが、全体としてはキャッチーなロックに仕上がっている。 演劇的な演出などきわめて英国的なセンスをもちながらも、米国でも人気が出た理由がわかるような内容の作品だ。 カズンズ作。

  「Lay A Little Light On Me」(3:27)多彩な表情を見せるプログレッシヴ・ロック小品。 弾き語りフォークのアコースティック・ギターがエレクトリック・ピアノに代わると AOR 調になることを知った。 ヴォーカルの語り口、表情は GENESIS 風。 フォーク・ロックからアーバンなシティ・ポップスへの橋渡しのイメージだ。 メロディラインは素朴なままだが。 そして、中盤のリズム・チェンジからの重々しい展開とそれを跳ねのけようともがくところが英国ロックらしい。 ヴォーカルもプロテスト調となる。 短いがスケールが大きい。 カズンズ作。

  「Hero's Theme」(2:28) ブレイクなしで最終曲へ。 前曲の重厚なリフレインを刻み付けるようにそのまま繰り返す。 コーラスの騒めきを経て厳かなコラールが締めくくる。 ランバート作。

以下 CD ボーナス・トラック。
  「Still Small Voice」(2:28)
  「Lay A Little Light On Me (Early Version)」(3:20)

(A&M 540 935-2)

 Ghost
 
Dave Cousins vocals, electric & acoustic guitar, recorder
Dave Lambert vocals, electric & acoustic guitar
John Hawken piano, electric piano, harpsichord, mellotron, moog, hammond organ, pipe organ
Chas Cronk bass, acoustic guitar, vocals
Rod Coombes drums, congas, percussion, vocals

  75 年発表の第八作「Ghost」。 西海岸風のポップ・センスとブリティッシュ・ロックの王道というべき幽玄なるシンフォニック・サウンドがブレンドした好作品。 ホウクンによる、的確にして品のあるキーボード・プレイと、ランバートのエネルギッシュなギター、そしてカズンズのメロディが一体となったロックは、知的にして素朴、詩的にして迫力もある豊かなエンタテインメントだ。 多彩であることがロックの大いなる魅力の一つであることが再確認でき、音を読んでゆく楽しさを堪能させてくれる 。 スライド・ギターが生むウエストコースト風味はもとより、アメリカン・ロックらしいイージーなノリもあるのだが、カズンズの個性的なヴォイスと大仰なまでに凝ったアレンジによって方向を変えて、英国田園の香り豊かな風を吹かせている。
  オープニングのタイトル作は、メロトロンやオルガンが重厚な唸りを上げ、トラッド調のメロディが気品ある陰影をつけるかと思えば、派手で技巧的なアンサンブルも見せつける、いかにも正統的なプログレ大作。 幻想的でスリリング、そして暖かな包容力を持つ音色に満ちた、渾身の力作といえるだろう。 ギター、キーボードとともに、チャス・クロンクのベース・ラインが躍動感の源泉として存在をアピールしている。 また、5 曲目(旧 B 面 1 曲目)は歌メロと轟くメロトロンが GENESIS を思わせる。 最終曲はその GENESIS のメンバーを輩出したチャーター・ハウス・スクールにおいて録音され、シングル・カットされたナンバー。 燈台守の娘の悲劇的な物語を美しいコラールとパイプ・オルガンが彩る。
  プロデュースはトム・アロム。

  「Ghosts」(8:30)
  「Lemon Pie」(4:02)クラシカルな EAGLES といった趣のキャッチーなナンバー。 スライド・ギターのハーモニーとあまりに古典的なキーボードの組み合わせが新鮮。

  「Starshine/Angel Wine」(5:15)ブリティッシュ・ポップスの王道を往くビター・スウィートな前半から、ポップにして田舎風という STRAWBS らしさを発揮するリズミカルな後半へ。 前半のストリングス・セクションが美しい。

  「Where Do You Go(When You Need A Hole To Crawl In)」(3:03)
  「The Life Auction」(6:52)
  「Don't Try To Change Me」(4:28)
  「Remembering」(0:55)
  「You And I(When We Were Young)」(4:04)
  「Grace Darling」(3:54)
  「Changes Arrange Us」(3:52)ボーナス・トラック。ドラムスのクーブスの作品。マイルドでアメリカンなすてきなシングル B 面ナンバー。

(A&M 540 937-2)

 Two Weeks Last Summer
 
Dave Cousins vocals, guitar, piano
Rick Wakeman piano, organ
Roger Glover bass
Jon Hiseman drums, percussion
Miller Anderson guitar
Dave "Lampoon" Lambert guitar, backing vocals
Robert Kirby arrangement
Tom Allom organ, backing vocals
Tom Newman backing vocals

  72 年発表の作品「Two Weeks Last Summer」。 STRAWBS のブレインチャイルド、デイヴ・カズンズのソロ作品である。 グループの盟友はいわずもがな、ジョン・ハイズマンやロジャー・グローヴァーら大物も集結している。 内容は、クラシカルなフォーク・ロックを基本に、ピアノ伴奏のバラードからロックンロールまで手を広げている。 リズム・セクションはどこまでも小気味よく、エレキギターの音も非常にいい。(英国時代の FLEETWOOD MAC を思い出した) それでも、その世界観は、カズンズの個性的なヴォーカルがリードする、現実味の希薄な独特の幻想テイストに満ちている。 取り立てて目立つ音があるわけではないが、常にどこかが揺らいだりぶれたりしていて、謎めいた雰囲気が全体を貫いている。 夢や妄想の広がりをそのまま音にしたような作品だ。

(A&M / SDRCD 010)


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