イギリスのクラシカル・ロック・グループ「RENAISSANCE」 。 69 年、元 YARD BIRDS のキース・レルフとジム・マッカーティらによって結成される。 オリジナル・グループは二枚のアルバムを残し、71 年解散。 しかし 72 年、第二作に参加したマイケル・ダンフォードを中心に再結成。 アニー・ハズラムのヴォーカルとジョン・タウトのピアノをフィーチュアしたサウンドで生まれ変り、不動のメンバーで 80 年代の初頭まで活動、フォーク、クラシックをおりまぜたファンタジックな作品を残す。 87 年解散。 2000 年再結成し、2001 年来日。
Keith Relf | vocals, guitar, harmonica |
Jim McCarty | percussion, vocals |
John Hawken | piano, harpsichord |
Louis Cennamo | bass |
Jane Relf | vocals, percussion |
69 年発表の第一作「Renaissance」。
クラシック・テイストのロック・ミュージックという、レルフとマッカーティの意図を実現した作品である。
サウンドの要となるのは、ピアノを主にクラシックを素材とした自由闊達なプレイを見せる、ホウクンのキーボード・ワークである。
リフ中心のハードなギターとスピーディなリズム・セクションのコンビネーションと、あくまでリリカルなピアノの対比も面白い。
セナモのベースも、ホウクンのピアノにしっかりとついてゆく。
キース・レルフのリード・ヴォーカルがいかにも 60 年代ビートポップ然としている一方、ジェイン・レルフのヴォーカルには、声質の弱さを逆手に取ったような、予期せぬデリケートな表情が現れている。
弱点は、クラシックのレパートリーを次々と披露するピアノをもってしても、インストゥルメンタル・パートがやや中だるみしてしまうこと。
ピアノとベース以外にこれといって特徴のない演奏を惹き立てるためには、全曲でジェイン・レルフのヴォーカルをフィーチュアすべきではなかったか。
プロデュースはポール・サミュエル・スミス。
全曲レルフとマッカーティによる。
「Kings & Queens」(10:55)サイケデリック風の単調なコーラスと華麗なるクラシック・ピアノをフィーチュアした幻想大作。
サイケな魔法の威力はあるものの、ややセッション風。
「Innocence」(7:05)ソウルフルな土臭さとデリケートなファンタジーのいりまじった作品。
オープニングはワウ・ギターとピアノの両方に、エフェクトをかけているようだ。
ここでも伴奏のピアノが目立つ。
巧みなリズム・チェンジも用いたリズミカルなメイン・パートと、優美なクラシカル・ピアノ・ソロ(「月光」)のコントラストもショッキング。
終盤は、再び呪術的といってもいいほどの幻想味を強める。
「Island」(5:57)カントリー/フォーク・タッチのラヴ・ソング。
ジェイン・レルフのリード・ヴォーカル。
キース・レルフはコーラス。
メロディ・ラインはアメリカ風だ。
後のハズラム時代の作品を髣髴させる。
イントロと後半は、華麗なピアノ・ソロ。
特に後半では、さまざまなクラシックのモチーフが飛び出す。
「Wanderer」(4:00)チェンバロをフィーチュアした作品。
ジェイン・レルフのヴォーカル。
ソロは当然古典的で雅。
しかし他は、意外にもパーカッシヴである。
歌メロはドイツ・リート風。
「Bullet」(11:24)ピアノを狂言回しに、各パートのソロをフィーチュアした即興曲風の曲。
けだるくサイケなテーマが新鮮。
7 分辺りのベース・トレモロ・ソロがおもしろい。
(LICD 9.00421)
Keith Relf | vocals, guitar | Neil Corner | bass on 4 |
Jim McCarty | drums, vocals | M. Dunford | guitar on 4 |
Louis Cennamo | bass | T. Slade | drums on 4 |
John Hawken | keyboards | T. Crowe | vocals on 4 |
Jane Relf | vocals, percussion | ||
guest: | |||
---|---|---|---|
Don Shinn | electric piano on 6 |
70 年発表の第二作「Illusion」。
本作完成以前に、グループとしては崩壊しており、契約履行のためにマイケル・ダンフォード以下ゲスト・ミュージシャンも迎えて、録音を完成させている。
また、ベティ・サッチャーが一部の曲の歌詞を手がけた、最初の作品でもある。
6 曲目は、異色のジャズロック大作。
プロデュースはキース・レルフ。
本作は、ドイツ向けの輸出を主としたため、オリジナル英国盤はリリース数が極めて少なく、マニアには垂涎ものらしい。
内容は、クラシカルなピアノを中心とした、穏やかで折り目正しいブリティッシュ・ロック。
やや翳のある表情とナチュラルな語り口がいい。
前作のようなサイケデリック・ロック、60 年代ビートロックの尻尾は消え失せ、頼りなげながらも、ロックの衝動性とは対極にある詩的な叙情性を前面に出す作風を取っている。
ロックをメロディアスで優美に、というプログレッシヴなアプローチの一つであり、フォーク・タッチのハーモニーとクラシカルな落ちつきの調和というスタイルは、この後メンバーが代わっても、引き継がれてゆく。
メンバーの異なる 4 曲目は、チェンバロをフィーチュアしたトラッド風のプロローグ、エピローグの間にハモンド・オルガンがリードするジャジーな演奏が続く、不思議な作品。
それに、リード・ヴォーカルをなぞる女性ヴォーカルはどなた?
セッションからの編集風ながらも、マジカルなムードは悪くない佳作。
5 曲目は、切なさに息苦しくなる名作。本作以降の作風の基調であることに間違いはないが、アニー・ハズラムにはない「頼りなげな」風情がたまらなくいい。
また 6 曲目は、細かいうねりあるビートやリフ、ランニング・ベース、エレクトリック・ピアノなど、ジャズロックといって差し支えない異色作。
「Love Goes On」(2:49)レルフ作。
「Golden Thread」(8:14)マッカーティ、レルフ作。
「Love Is All」(2:49)マッカーティ作曲、サッチャー作詞。
「Mr.Pine」(6:58)ダンフォード作。
「Face Of Yesterday」(6:04)マッカーティ作。
ジェイン・レルフのリード・ヴォーカル。
「Past Orbits Of Dust」(14:38)マッカーティ、レルフ作曲、サッチャー作詞。
(HELP 27 / REP 4513-WY)
John Tout | keyboards, vocals |
Annie Haslam | lead vocals, assorted percussion |
Rob Hendry | guitar, mandolin, chimes, vocals |
Terence Sullivan | percussion |
John Camp | bass, tampoura, vocals |
guest: | |
---|---|
Francis Monkman | VCS3 solo in 6 |
72 年発表の新生 RENAISSANCE 第一作「Prologue」。
ジョン・タウト、アニー・ハズラムら新メンバーによる録音であり、グループの再出発点となった作品である。
特徴は、クラシックの楽曲を大幅に取り入れたピアノ・アレンジと弾力あるリズム・セクション、そしてハズラムのクリスタル・ヴォイス。
全体に幻想的かつクラシカルな気品と清冽さのある音であり、ロックとフォークの狭間に新しい世界への道筋を見つけている。
マイケル・ダンフォードは作曲担当として参加。
また、旧 RENAISSANCE 時代の作品も、2 曲含まれている。
プロデュースはグループとマイルズ・コープランド。
奇妙なオブジェを描いた SF タッチのジャケットは、ヒプノシス。
「Prologue」(5:42)
オープニングは、きらめく刃のように鮮烈なる「革命のエチュード」。
華やかなソロ・ピアノはすぐにタイトなリズムに支えられたリズミカルなコード・ストロークへと変化し、翼を翻すようなポルタメントをきっかけにして、透き通るようなヴォカリーズがしなやかな流れを作ってゆく。
上品なサウンドながらも、歌声も演奏も意外なほどパンチがあり、力強く迫ってくる。
コードを刻むピアノと切れのいいドラムスが、きらめきながら飛翔するヴォカリーズを支える。
タイトなリズムとハイトーンのヴォカリーズの組み合わせはどこまでも清々しい。
ベースが前面に出てパーカッションとともに弾むように小気味いいリフを放つと、ピアノがクラシカルなピアノで華やかに反応する。
ギターのコード・カッティングとともに演奏はジャジーに走る。
一瞬のブレイクを経て、ピアノが細やかなバロック調へと変化すると、再びハズラムのスキャットが追いかけてくる。
ふと気づけば、ゆったりとした停滞が訪れ、ソプラノのヴォカリーズが超然と響き渡る、あたかもテーマを思い出させるかのように。
再び、パワフルなコード・ストロークとともにアンサンブルが走り出し、スキャットが虹を描くように飛翔してゆく。
アコースティック・ピアノとロック・ビートを巧みに交差させ、目くるめく展開を繰り広げるオープニング・チューン。
ヴォカリーズ、ピアノ、弾力あるリズム・セクションの組み合わせによる清冽な演奏だ。
クラシックの翻案も自然である。
気品あるクールネスと風を切るようなスピード感が魅力だ。
アコースティックな音が主であるにもかかわらずサイケデリックな酩酊感が若干あることも興味深い。
ヴォカリーズ以外はインストゥルメンタル。
リズム中心のギター・プレイ、ギター並みの演奏力を誇示するベースにも注目したい。
ダンフォードの作品。
「Kiev」(7:41)
ベートーベン調のドラマチックなピアノ・ソロによるイントロダクション。
ピアノはせせらぎのような柔らかく、きらめくメロディへと流れ込み、静かに丹念にリズムが入ってくる。
そして、甘めの声ながら翳りのある男性ヴォーカル登場。
歌メロは完全にフォーク風であり、サビでアニーのコーラスが加わりると、美しい重唱になる。
ギターは、ソフトなヴァイオリン奏法でオブリガートする。
憂鬱ながらも上品で若々しいデュエットである。
ピアノの和音にマンドリンのトレモロが重なると、一撃のキメ、そして再び、スリリングなピアノのリードでアンサンブルが走り出す。
ギターとも呼応しつつ、悲劇的な表情のピアノが力強く進む。
ベースとともに低音部を強調したリフレインから軽やかなオブリガートを放つ。
クライマックスでは、スピーディにスケールを駆け上る。
リズムが止み、ピアノは優美に地上に舞い下りる。
1 曲目に通じる厳かなヴォカリーズに導かれて、再びシュアーなリズムが帰ってくる。
メイン・パートへの回帰、サビは、優しくも哀しいデュエットである。
メランコリックながらも惹きつけるテーマをピアノとリズムでさまざまに彩ってゆくフォーク・ロック。
ジョン・キャンプのリード・ヴォーカルには爽やかさ、甘さとともに若さゆえの苦悩がよく表現されていると思う。
PARLOUR BAND 的な英国フォークらしいひんやりとした晩秋の空気感がある。
ピアノを中心にしたタイトなバッキングが気持ちいい。
リズム楽器としてのピアノの存在感を見直すいい機会である。
ピアノは、イントロから中盤のソロまでクラシカルなプレイで縦横無尽の活躍を見せる。
ギターがあまり前面に出ずアクセント的な使われ方をするところが特徴的だ。
マッカーシー/サッチャーの作品。
「Sounds Of The Sea」(7:13)
打ち寄せる波と海鳥の鳴き声。
イメージは、遠く伸びる海岸線、霞んだ空、そして水平線に漂う雲。
きらめくように愛らしいピアノ演奏が始まり、海鳥の鳴き声と重なる。
そして、いよいよ天使の歌声の登場だ。
安定した音程とどこまでも伸びる高音、中低音のフレーズにもゾクゾクするような美しさがある。
上昇するサビのハーモニーはピアノ伴奏とともにクリスタルの幻想である。
2 コーラス目からはヴォーカルに応ずるようにベースも響き、気高く無垢な美しさが際立つ。
ピアノとヴォーカルが互いに気遣いながら寄り添う、あらゆる喜怒哀楽を分かち合うかのように。
アウトロでは海鳥のさえずりを背景にかすかなヴォカリーズとピアノが歌い続ける。
潮騒。
ハズラムのリード・ヴォーカルをフィーチュアした気高く透明感あるバラード。
ここでようやく歌姫が主役となる。
その歌声が描く世界には、優美というには独特の硬さがあり、現世的なものを決して寄せつけないイノセントな手ざわりがある。
まるで到達し得ないファンタジーへの憧れを描いているようだ。
繊細にして落ちつきある唱法に加えて、その驚異の声質は少年の素直さと少女の可憐さを兼ね備えている。
そして、伸びやかな高音よりも低音で慎重に音をたどるさまが耳に残る。
叙景の音色がしっとりと心に染入る曲であり、大人になると忘れてしまいがちな無限の清潔感と真っ直ぐなスピリットが感じられる。
ダンフォード/サッチャーの作品。
「Spare Some Love」(5:15)
アコースティック・ギターが刻むシンプルで力強いストロークがハズラムの伸びやかなヴォーカルを呼び覚ます。
前曲と違って人肌の感じられるタッチである。
ベースの一唸りを合図に、ドラムスとピアノが加わってトラッド風の歌メロを華やかに支える。
ピアノ伴奏は前曲までとは表情を変え、エレガントにしてジャジー。
ライトなポップ・テイストもあり、とてもイイ感じの演奏だ。
サビではコーラスも加わって、ラフでストレートに盛り上る。
オブリガートのベースも逞しくカッコいい。
一方ドラムスはやや一本調子で表情に乏しいか。
そのままセカンド・コーラスへ。
展開をリードするのは安定感抜群の歌唱である。
ワイルドなギターとベースのオブリガートが、アンサンブルにブレーキをかける。
意味深なハイハット連打に、ベースが短くもたくましいフレーズで応じ、ドラムスのピックアップを合図に、サイケデリックなギター・リフが突き刺さる。
ギターを拭い去るようなピアノの一閃、そして、アカペラのハーモニーによるサビのリフレイン。
エレクトリックでヘヴィな音を浄化するようだ。
そしておだやかな歌唱が最後のヴァースとコーラスを導く。
最後は挑発するようなハイハット連打が消えてゆく。
気品とポップス調の和らぎが絶妙な歌ものフォークロック。
テーマは渋めのトラッド調だが、ハズラムの妖精ヴォイスとエレガントなピアノが色つやを加えて、全体的としては華やいだイメージである。
これだけだとシンプルなラヴ・ソングだが、間奏部のサイケデリックなヒネリのおかげで深みが出て、さらにメイン・パートに説得力が出る。
(もっとも、挑発的な演奏そのものはさほどカッコよくはない)
機を見ては前面に出てリードするベースも特徴的だ。
ダンフォード/サッチャーの作品。
「Bound For Infinity」(4:25)
親しみやすく優しさあふれるソロ・ピアノ。10 年後ならウィンダムヒルである。
ベースやシンバル、ギターがピアノに穏やかな彩りをさりげなくも巧みに加える。
ヴォーカルは品よく抑えを効かせた表情で醒めたばかりの夢をたどるように歌い出す。
軽やかにステップを踏むようなピアノ伴奏、ギターもオクターヴ奏法や緩やかなオブリガートで静かに歌を支える。
波打つパーカッションの響き。
ヴォーカルは、静かに語りかけるようでもあり、祈りをささやいているようでもある。
しかし、サビでは、ハズラムの一人コーラスが、ほんの少し悩ましげな、哀しげな表情を見せ、厳かな響きが生まれるのだ。
下降するスキャットの手をピアノがそっと取り、メイン・パートへと誘う。
再び、軽やかなピアノ、優しげなギター、暖かみある打楽器の響きが歌に寄り添う。
やがて、ピアノ伴奏はリタルダンド、ベースの余韻とともに消えてゆく。
あてどない気持ちを綴るようなドリーミーな歌もの。
英国フォークの神秘の世界である。
シンプルに繰り返されるメロディやパーカッションの響きには淡いエキゾチズムも漂う。
抑制されたヴォーカル、爪弾かれるギターが、次第にソフト・サイケデリック調の幻想的な雰囲気を広げてゆく。
比較的地味な世界において、蝶のように軽やかに舞うピアノが印象的。
マッカーシー/サッチャーの作品。
「Rajah Khan」(11:33)
電子音の腫れぼったいドローンが現れ、ゆっくり消えてゆく。
インド楽器のような響き、と連想する暇もなく、ファズで毛羽立った荒々しいギターが現れ、和音をゆっくりとかき鳴らし、熱に浮かれたようなトリルから中近東風のフレーズを決める。
広がる余韻が耳を苦しめる。
虚空に漂うギターは、素朴なフレーズを奏で、気まぐれに和音をかき鳴らすかと思えば、トリルを繰り返し、フィードバックのようなノイズと交わってゆく。
民族楽器とともにリズム・セクションは満を持してビートを打ち出し始め、演奏は動き出す。
AMON DUUL か POPOL VUH かといった趣だ。
眠りを誘うマジカルなベースのリフレインにエキゾチックなヴォカリーズが重なる。
ギターの緩いストロークは完全にシタールである。(タンボウラという楽器だろうか)
声に気品が漂う以外は、あまりにベタなサイケデリック・ロックの世界である。
コード・チェンジとともに空高くすべってゆくような高音の伸び、そしてそれとともにほのかに楽しげな表情を浮かべるヴォカリーズ。
ひょっとして
ベースのパターンとリズムが変化すると、オルガンの響きをギターがたどり、VCS3 シンセサイザーがど派手に飛び込んで、タイトな演奏が始まる。
捩れるようなシンセサイザーが絡みつくハードなアタックのある演奏と、伸びやかなヴォカリーズの奇妙なコントラスト。
再び、トライバルなビート、ベース・パターンの支えとともに、ヴォカリーズが、今度はシャーマニックな表情も若干交えて、悠々と歌い上げる。
男女のヴォカリーズが導くのは、新たなテンポの演奏であり、ピアノの強烈な打撃とともに一気にビートが強まって、アグレッシヴなアンサンブルに変転する。
強いリズムに追い立てられるギター、そして原始的なドラム連打と重ねて、録音された演奏の断片が走馬灯のように再生され続ける。
目まぐるしい変転の果て、再びジャーマン・ロック風のベース・リフ、ドラムス・パターンに導かれて、マジカルなヴォカリーズへと回帰する。
転調とともに愛らしさを加えてゆくヴォカリーズ。
再びピアノの打撃を強調したタイトなアンサンブルが飛び出し、ギターのテーマを繰り返しつつ、唐突にエンディングを迎える。
アジアン・エキゾチズムあふれるサイケなアートロック大作。
中近東風のビートで歌うハズラムは、酔っ払った妖精のように美しく楽しげであり、その魅力が破綻気味の展開に筋を通していると思う。
ヴォカリーズを支えるクラウト・ロック調のリズム・セクションもいい。
また、アコースティックなサウンドが主なので VCS3 の奇天烈な音色は新鮮なアクセントになっている。
後半、小刻みに変化するインストゥルメンタルと音響効果が、眠りを誘うようなジャーマン風のビートに起伏を作っている。
間違いなく異色作だが力作である。
ダンフォードの作品。
優美なピアノと個性的な女性ヴォーカルをフィーチュアしたフォーク・ロック。
ソフトなサイケデリック・タッチと、上品で思い切りクラシカルな表現が拮抗するところが新しい。
明快なピアノの音色とこの歌声は、ロックに慣れた耳にはかなり鮮烈である。
透き通る高音から天使が舞い下りたような低音までを難なくカヴァーするヴォーカルは、その美しさも含め、きわめて個性的である。
そして、抜群の存在感を示すアコースティック・ピアノ。
シンプルなフォークロックに、エレガントな躍動感とクラシカルな深みを加えているのは、間違いなくこのピアノである。
随所で巧みなプレイを見せるベースと堅実で的確なドラムスも、このシンプルだが味わいあるアンサンブルには欠かせない。
このクラシカルな品のよさがあるため、最終曲のようにサイケデリックな音作りも対比として活きてくる。
ピアノとヴォーカルによる清冽な表現に切れのよいリズムが加わったアンサンブルは、まさに、クラシックとロックのユニークな結合である。
決してヴォーカルとピアノだけのグループではなく、総体としてクラシカルな要素とトラッド的な要素とバンドが合体しているところに面白みがあるのだ。
レルフ/マッカーティが案出したコンセプトは、この作品にもしっかりと受け継がれている。
メロディ・ラインの冴えこそ後の作品に譲るかもしれないが、さまざま音楽が交じり合った結果の独特の美感をたたえた佳作といえる。
本作品は、レコーディング直前に事故でなくなったギタリスト、ミック・パーソンズに捧げられている。
(HTDCD78)
John Tout | keyboards, vocals |
Annie Haslam | lead vocals, assorted percussion |
Terence Sullivan | drums, percussion, vocals |
John Camp | bass, guitar, vocals |
guest: | |
---|---|
Michael Dunford | acoustic guitar |
Andy Powell | guitar on 6 |
73 年発表の第二作「Ashes Are Burning」。
ギターのヘンドリーが(予想通り)脱退し、ギター・パートはもっぱらゲスト扱いのマイケル・ダンフォードのアコースティックのみとなる。
さらに本作では、もう一人のゲストとして WISHBONE ASH のアンディ・パウエルを迎えている。
清々しく気品ある RENAISSANCE の音楽に迎えるギタリストとしてはこれ以上ない人選だろう。
さて本体の演奏は、豊かな音色を誇るピアノとタイトなリズム・セクション、そして天使のヴォーカルに管弦楽という布陣を構え、もはや磐石というべきだろう。
曲想もこの構成を活かすような気品とおちつきのあるものとなった。
作曲は、3 曲目をのぞいてダンフォード/サッチャーのコンビ。
プロデュースはグループとディック・プラント。
個人的には最高傑作。
おそらく、気高くも悲劇的なイメージと親しみやすくオプティミスティックな響きのバランスが最も取れた作品でしょう。
「Can You Understand」(9:53)銅鑼の一撃。
華麗なピアノが踊るようにフェード・イン、力強い決めの繰り返しとともに、ピアノはオクターブ下がったリフレインへ移る。
エネルギッシュなリズムに支えられて決然たる表情の演奏が続く。
劇的なオープニングだ。
ベースの動きにも注目。
「Firth Of Fifth」はこれから?
ピアノのリフレインにチェンバロが寄り添うと、シンセサイザーの高らかな一声。
それを合図に、美しいピアノとチェンバロのアンサンブルへ。
再びタイトなリズムが復活するも、華やかな 3 連のフレーズを繰り返して演奏はいったんフェード・アウト。
銅鑼が鳴る。
フェード・インするのは厳かな混声ヴォカリーズ。
アコースティック・ギターの柔らかなコード・ストロークが時を刻み、ピアノの弦が水を撥ねるような幻想的なアクセントをつける。
そしてトラッド風のメロディをしなやかに歌い上げるハズラムの登場だ。
落ちつきと気品、そして御伽噺の始まりのような期待感。
アコースティック・ギターのストロークが軽やかに加速し、ベースとともにカントリー調のビート感を生み出す。
ヴォーカルも楽しげな表情を見せる。
リラックスした、すてきな演奏が続く。
草原で風に吹かれる妖精のイメージ。
ソフトな男性ヴォカリーズが追いかける。
間奏は、のどかなフォーク・ダンス風の演奏。
リズミカルなピアノがリードし、ティンパニと弦楽がアクセントをつける。
繰り返しからは、管弦楽がぴったりと寄り添って、広がりと深みをつけてゆく。
次第にメインは管絃の響きとなり、ドラマチックな弦楽とピアノが高鳴る。
そしてゆったりとヴォーカル・パートへ回帰。
今度はシンプルなメロディを、管絃がしっかりと支えている。
アコースティック・ギターも透明感のあるいい音だ。
金管のファンファーレのような繰り返しに弦、ピアノが重なり、おだやかに広がってゆく。
最後は、タイトなリズム・セクションが復活、管弦楽とともに快調な演奏を繰り広げる。
ムーグ・シンセサイザーの高らかな歓声、そして豊かな広がりをもつ演奏が続く。
ドラマチックなリタルダンド、そしてエンディングへ。
フォークとクラシックそしてロックをみごとにバランスさせた、という RENAISSANCE への賛辞が最もあてはまる華やかな傑作。
パワフルなビート感を生み鮮烈な覚醒をうながすオープニングから、生命感あふれる田園での幻想のような歌を経て、最後には管弦楽も含みすべてが大きな流れとなってゆく、圧巻のドラマ展開である。
ロック・バンドとして一流であること示し、なおかつ繊細な感情の襞へと分け入らんとする大胆さは、まさしくブリティッシュ・ロックそのもの。
それにしても、微妙なメロディ・ラインを歌い上げるヴォーカルのなんと可憐で気高いことか。
たおやかさと快活をゆきかう表情は、永遠の女神のものである。
オーケストラ相手に一歩もひかないピアノとアコースティック・ギターが頼もしい。
華麗にして劇的なクラシカル・ロックの逸品といえるだろう。
「Let It Grow」(4:18)オープニングはあまりに愛らしいピアノ・ソロ。
宝石の転がるようなダウン・スケールのファンタジー。
そしてヴォーカルは、胸の高まりをかくせない少女のような無垢の美しさ。
それでいて成熟した落ちつきもある。
女性は不可解である。
そしてサビは、思わず感涙をこらえきれなくなる別世界への誘いの如き、麗しきハイトーン・ファルセット。
突き抜けるように舞い上がり、風をはらんでふわりと地に下る。
ピアノの間奏も優美にして牧歌的。
すべてを、サビの美しいメロディへと託してゆくような演奏である。
ベースの積極的なオブリガート。
愛らしいまま力強さもそなえたピアノの繰り返しに悠然たるヴォカリーズが重なり、そよかぜをはらんだ薄衣のようにやわらかくもスケールの大きな演奏へとなってゆく。
透明感のあるヴォーカルの美しさを余すところなく引き出したフォーク・ソング小品。
天にも昇るハイトーン・ヴォイスとピアノの響きは、極上のフォーク・ポップスであり、夢想の彼方のファンタジーである。
ハズラムのヴォーカルは、溌剌としながら清らかであり、なおかつ切ないまでにコケティッシュである。
全体のしっとりとした落ちつきは、リズムのよさによると思われる。
名曲。
「On the Frontier」(4:57)イントロは、アコースティック・ギターによる楽しげでリズミカルなカントリー・タッチのストローク。
メイン・パートは、混声のコーラスによるシンプルなメロディ。
繰り返しから伴奏に加わるエレガントなピアノ。
ドラムス、ベースと次々に加わって、リラックスした軽やかな演奏が続く。
「On The Frontier...」を繰り返すコーラス。
最後はアカペラで美しく決める。
そしてベースのリードするリフレインが、次第にシンセサイザーへとわたってゆく間奏。
再び「On the Frontier」というコーラスを経て、美しいピアノのリフレインが始まる。
やがてスピーディなマーチング・ドラムスがフェード・イン、一気に緊迫感が高まる。
一転ドラムスレスで、ピアノとベースによるロマンチックでクラシカルなかけあいが始まる。
再びメイン・ヴォーカル・パートへ。
リズミカルな演奏。
またもリズムが消え、ピアノが思わせぶりな下降パターンを繰り返す。
そしてやさしげなリズムとともに静かにリタルダンド。
コーラスをフィーチュアした和やかなフォーク・ロック。
12 弦アコースティック・ギターのストロークが、とても気持ちいい。
全体に透徹なサウンドなだけに、こういうリラックスしたムードも悪くない。
リラックスしたテーマ演奏と対比するように、アカペラ・パート、ベースからシンセサイザーへとリフが進む間奏、さらにはピアノとベースによるクラシカルなかけあいなど、凝ったプレイが散りばめられている。
エチュード風のエンディングが愛らしい。
マッカーシー/サッチャーの作品。
この作品はマッカーシーのグループ「Shoot」の唯一作でも演奏されている。
「Carpet Of The Sun」(3:31)
再び楽しげなアコ−スティック・ギターのストローク。
しかし弦楽の響きが一気にムードを和らげ、続くヴォーカルも芳しきロマンをはらんでいる。
天から舞い降りるようなアルトのおちつき。
弦楽に負けない、なめらかなタッチである。
サビは、明るく、どこまでも希望に満ちたメロディ。
美しく弦楽が彩る。
セカンド・ヴァースでは、オーボエのオブリガートとチェンバロの透明感ある伴奏が加わる。
そして再び、大空へ羽ばたくようなサビ。
木管のオブリガートが美しい。
ブレイクを経て弦楽オーケストラは、さらに音の厚みを増してゆく。
リズムも堅実だ。
最後は弦楽とともに「See The Carpet Of The Sun」の繰り返し去ってゆく。
管弦楽を用いたアップテンポで軽快なポップ・チューン。
気高さとコケティッシュさをかねそなえた無敵のヴォーカルを軸に、チェンバロとベルベットのようなストリングスをふんだんに使って、豊かな色合いに仕上げている。
サビの美しいメロディは永遠だ。
ここでのクラシックとポップスの幸せな合体こそ、まさにこのグループが目指したものだ。
ポール・モーリア風なのは確かだが、ポール・モーリアにこんなすてきなヴォーカルはおりません。
しいていうならソプラノのカーペンターズ。
RENAISSANCE を代表する名曲。
「At The Harbour」(6:48)
フェード・インするピアノは、重厚な和音を響かせオリエンタルなメロディをゆるやかに歌う。
きめ細かい色合いをもつ響きは、まさに幻想的。
ドビュッシーの「沈める寺」である。
やがて薄暮のような色合いの和音が、繰り返しとともに吸い込まれるように消えてゆく。
静かに湧き上がるアコースティック・ギターのアルペジオ。
夢を紡ぐ竪琴のようだ。
そしてヴォーカルは、トラッド風の調べをていねいに歌ってゆく。
昔語りのように耳に優しく、そして哀しげなメロディだ。
ヴァースの終わりの方ではメロディはリラックスするが、表情がややうつろに変化したかと思うと、ふと意を決したように毅然とする。
みごとな表現だ。
セカンド・ヴァースではハーモニウムが、雅にして暖かい。
絶え間ないギターのアルペジオ。
ふとヴォーカル・アンサンブルは途絶え再び、重厚なドビュッシーが始まる。
ラ・メールを思わせるサイレンの呼び声のようなヴォカリーズ。
低音を強調するピアノとヴォカリーズが響き合い幻想が膨らみ始める。
やがてヴォカリーズは消え呼びかけるようなピアノの和音が切なく高低を繰り返しそして消えてゆく。
ファンタジックな空気の中に強い哀感のあるエレジー。
哀しい決意を歌い上げるような凛としたヴォーカルが、美しすぎるサビではやや感情を揺るがせるように、微妙に表情を変化させる。
悩ましげに沈み込むところは、キャロル・キングを思わせる。
メロディを追いかけているつもりが、いつしかハズラムの表情を追いかけてしまっているようだ。
ドビュッシーを用いた構成もみごと。
「Ashes Are Burning」(11:20)吹き荒れる風の音、そして近づく橇の鈴のようなハイハット。
そしてギターのストロークとともに、哀愁のピアノが流れ出す。
抑えた調子で始まるヴォーカルは、サビでは花が咲くように可憐に清らかに歌い上げそっと声を落とす。
セカンド・ヴァースはコーラス入り。
それにしてもポップでいいサビだ。
ギターのストロークに続いて始まる、透明感あふれるヴォカリーズ。
エレガントなピアノが、旋律をすくいあげる。
しかしベースの口火で曲調は変化、激しい演奏がピアノ中心に始まる。
アップ・テンポで険しい表情をもつピアノとチェンバロのデュオ。
熱いインタープレイとハーモニー。
リズムも力強い。
ヘヴィなピアノの繰り返しが、一転リズムを抑えて静まる。
続いてハモンド・オルガンによるクラシカルなソロ。
ホットで緊迫感のある演奏だ。
再びピアノがリード、オルガンとともに、劇的な演奏が繰り広げられる。
ベースとチェンバロの先導で再びリズムは消えオルガンが遠く響く。
そしてヴォーカルが帰ってくる。
ややうつろな面持ちで沈んだメロディの糸を紡ぐヴォーカル。
潮騒のようなオルガン、そっとヴォーカルに語りかけるギター。
ヴァースのラストを高らかに歌い上げエコーが膨らむとともに、ベース、オルガンは高鳴り、ギターが悩ましげなメロディを奏ではじめる。
着実なリズム、そしてメランコリックに奔放に歌い上げるギター。
みごとなソロだ。
ハイハットからマーチング・スネアも加えて、リズムが力を得る。
あっという間にクライマックスが訪れ、やがて静かに消えてゆく。
ギターの余韻。
ロックに力点のあるクラシカル・ロックの大傑作。
フォーク的な美感のあるヴォーカル・パートから、ハモンドも飛び出すクラシカルなキーボード・アンサンブル、そしてブルージーなギターへという流れそのものもさることながら、アカデミックな堅苦しさとは無縁のやんちゃなセンスで押し切った感じがじつにいいのだ。
セッション感覚というかレイドバックした雰囲気が最高にうれしい。
もしプログレの中にクラシカル・フォーク・ロックというサブ・ジャンルがあったらこの作品がその代名詞である。
間違いなく EL&P や YES の仲間です。
アンディ・パウエルのプレイは上品かつエモーショナルな一世一代の名演。
本作の魅力は英国特有の幅広いポップ・センスの凝縮ではないだろうか。
アコースティックな音のもつ透明感、SSW 的なナイーヴさをしっかりつかまえた上で、エレガントなポップ・センスとクラシカルなアレンジをふりまき、さらにはロックらしいハードなアクセントも効かせるという贅沢きわまる娯楽作品であり、プログレという呼称にふさわしい作品だ。
それにしてもこういう音を生み出すだけの背景をもっていた英国シーンには、驚嘆を禁じえない。
超人的なヴォーカル、豊かな表現力をもつピアノ、華麗なるリズム・セクションに充実した楽曲・アレンジもそなわった一代傑作でしょう。
ブリティッシュ・ロックが誇る名盤。
どなたかいっしょにやりませんか。
(REP 4575-WY)
John Tout | keyboards |
Annie Haslam | vocals |
Terence Sullivan | drums, percussion, vocals |
John Camp | bass, vocals |
Michael Dunford | acoustic guitar, vocals |
74 年発表の第三作「Turn Of The Cards」。
存在感を増したベースのプレイや、フォーク的なたおやかさよりもややシリアスなダイナミズムに力点をおくなど、若干の変化は感じられるものの、ほぼ前作の雰囲気を維持している。
華麗なピアノとタイトなリズム・セクションによる溌剌たるアンサンブル、そして、風の精の如く天高く飛翔するハズラムの歌声の魅力は、ここでも十二分に発揮されており、期待は裏切られない。
オーケストラもさらにドラマチックに用いられている。
オープニング曲のピアノ・ソロ・パートは、フランス人作曲家ジャン・アランによるオルガン曲より。
5 曲目は、アルビノーニのアダージョに歌詞をつけた作品。
オーケストラが大々的にフィーチュアされた最終曲は、ロシアへの悲痛なメッセージ。
アルバムを通し感じられる悲劇的な重厚さは、4 曲目と最終曲という二つの傑作の印象がそれだけ強いということではないだろうか。
オーケストラ・アレンジはジミー・ホロウィッツ。
プロデュースはグループとディック・プラント、リチャード・ゴッテラー。
「Running Hard」(9:34)重厚華麗なピアノ・ソロに導かれるアップ・テンポのシンフォニック・チューン。
気高きヴォーカルとナチュラルにして流れるようなストリングス、タイトなリズムなど RENAISSANCE らしさでいっぱいの名品だ。
大空を飛ぶような奔放なさわやかさと凛とした折り目正しさが手を取り、心地よいドライヴ感が全体を貫く。
ピアノがさりげなくチェンバロに変化したり、コーラスを用いるなど、アレンジも工夫がある。
後半のオーケストラ演奏もきわめて自然な流れだ。
終盤のアコースティック・ギターとハープによる伴奏は、フォークとクラシックの交差をみごとに体現している。
オープニングのピアノ・ソロはフランス人作曲家ジャン・アラン(Jehan Alain)によるオルガン曲「Litanies for organ, Op.79」のピアノ・アレンジ。
「Think Of You」(3:05)アコースティック・ギターのコード・ストロークが美しいラヴ・ソング。
アルト・ヴォイスを活かしカレン・カーペンターに幽玄なるブリティッシュ・フォークの魔法をかけたような魅力的な歌を聴かせてくれる。
朝霧に揺らぐ陽射しのような小品だ。
「Things I Don't Understand」(9:29)清冽さとマジカルな揺らぎにジャジーでハードなタッチも交えた作品。
やや異色だが初期のサイケデリックな作風を思えばさほどではない。
クラシックを軸に幅広い音楽性を自由に行き交うピアノはここでもみごと。
「Black Flame」(6:25)
「Cold Is Being」(3:01)アルビノーニの「アダージョ」に歌詞をつけた作品。
厳かなチャーチ・オルガンの伴奏にて歌われる歌は、力強くも無常感にあふれる。
決然たる表情も、舞い上がるような高音では、手折れそうな儚さに変わる。
前曲とともに悲劇の色あいが強い。
「Mother Russia」(9:19)
(REP 4491-WY)
John Tout | keyboards, vocals |
Annie Haslam | lead vocals |
Terence Sullivan | drums, percussion, vocals |
John Camp | bass, bass pedal, vocals |
Michael Dunford | acoustic guitar, vocals |
75 年発表の第四作「Scheherazade And Other Stories」。
リムスキー・コルサコフの交響曲に着想した大作をフィーチュアした作品である。
厳かなまでの清冽さと素朴な哀感がブレンドした世界は、すでに確立されており、今回はそこへ異世界へ誘うようなマジカルなフィーリングが散りばめられている。
1 曲目の華麗なピアノとコケットにして近づき難い声で歌われる詞に魅せられるうちに、気がつけば、そのファンタジーの世界へと導かれているのだ。
メロドラマティックなヴォーカルとスリリングな器楽のバランスのよい 3 曲目も、代表作の一つ。
そして、表題大作は、管弦楽を用いたスケールの大きな作品。
ジョン・キャンプ、テレンス・サリヴァンのコンビによる達人芸的リズム・セクションと管絃がヴィヴィッドに反応しあう、すばらしい演奏である。
プロデュースは、グループとデヴィッド・ヒッチコック。
いわゆるクラシカル・ロックという表現から生まれるイメージには、最も近い作品ではないだろうか。
「Trip To The Fair」(10:51)華々しく激情をふりまくピアノ・ソロ(おそらく著名な作品と思われるが、曲名は不明)を経て、ハズラムの愛らしい歌唱が冴えるファンタジックなメイン・テーマへと進む。
序盤は、どっしりとしたピアノをタイトなリズム・セクションが支える、力強く厳格なイメージの演奏だ。
一転して、メイン・パートは、ヴォーカルを取り巻く器楽がディズニー映画を思わせるファンタジー路線。
いかにもお伽噺調の歌詞、ヴォーカルの表情も優美にしてほのかにユーモラスである。
オルゴールのような音は、エレクトリック・ピアノか鉄琴か、そして管楽器かアコーディオンを思わせるオルガンも愛らしい。
エレガントなサビを経ると、一気に演奏はダイナミックな調子へと変化し、間奏は、なんとヴァイブとピアノによる 8 分の 6 拍子のジャジーなインタープレイである。
意外な展開にびっくり。
風を巻くようなヴォカリーズ、厳かなピアノ、チェンバロ、パワフルなリズムによる堂々たる演奏が再びオルゴールと手回しオルガンに守られたワルツへと回帰する。
お伽噺を語るヴォーカルに、まさにシェヘラザードのイメージが重なる。
ほのかにユーモラスなワルツが終わることなく続いてゆく。
多彩な変化をほどよい演出にまとめあげて、不思議の物語を綴りファンタジーの香りをふりまく傑作。
トラッド系の雰囲気とロック的なダイナミックさの巧みなブレンドは、もはや手練の技としかいいようがない。
儚さとしなやかな力強さのバランスがよく、ファンタジックな世界への入り口としてはうってつけだ。
要は、大人に夢を見させる手管を知っているということです。
高雅なるエロスといってもいい。
「The Vultures Fly High」(3:04)
駿馬を駆るような疾走感にあふれるアップテンポの曲。
切れ味のいいピアノのコード・ストロークの伴奏で凛としたヴォーカルが冴える。
それでもチェンバロのオブリガートや後半の転調、ストリングス・セクションなどのワン・ポイントが効いている。
ダイナミックなドラミングに加えて、切れのいいベース・プレイがフィーチュアされている。
勢いのある佳作である。
「Ocean Gypsy」(7:05)
ストリングスとアコースティック・ギターが伴奏する哀切のバラード。
透明感あふれる弦楽とベースが伴奏するメイン・ヴァースはあまりに美しく哀しい。
サビはハズラムとキャンプのハーモニーが堰を切ったように訴えかける。
間奏はピアノ・ソロ。
最後のヴァースの伴奏で聴こえるオーボエが美しい。
本曲の歌こそまさに珠玉のメロディといえるだろう。
充実した器楽とスケール感のあるアレンジのために、きわめてポップス的な素材がポップスにならず、重厚な悲劇になっている。
メロディの冴え、ロマンティックな曲想とピアノは GENESIS に匹敵。
そういえば中盤、ピアノの間奏からヴォカリーズまでの展開もよく似ています。
「Songs Of Scheherazade」(24:37)管弦オーケストラをフル回転させた全 9 パートから成る超大作。
アラビアンな風合いは控えめにして、管弦楽の生む悠然とした広がりと包容力を強調している。
打楽器を巻き込んだダイナミックな演奏と濃密なロマンをたたえるピアノ演奏は、THE ENID の諸作に匹敵する。
(エレキギターとオケの相性の悪さがない分、こちらの方がよりナチュラルに聴こえる)
ハズラムとキャンプの二人がヴォーカルをつとめる。
(REP 4490-WY)
John Tout | keyboards, vocals |
Annie Haslam | lead vocals |
Jon Camp | bass, bass pedal, vocals |
Terence Sullivan | drums, percussion, vocals |
Michael Dunford | acoustic guitars, vocals |
76 年発表の第五作「Live At Carnegie Hall」。
「Turn Of The Cards」の成功を受け、バンドはオーケストラと共演で英国ツアー、米国ツアーを繰り広げる。
本作は、そのツアーより、ニューヨーク、カーネギー・ホールでのパフォーマンスを収録したライヴ盤。
スタジオ盤とたがわぬハズラムの美声、華麗なるキーボード、タイトなリズム・セクションなどライヴの魅力がたっぷり入った
名作であり、大作もフィーチュアした選曲からベスト・アルバムとしても機能する。
ハズラムやダンフォードの MC、華麗なソロ・ピアノに加えておそらく本ツアーでオーケストラとの呼吸が磨かれた新作「Scheharazade」、即興が詰まった 20 分を超える「Ashes Are Burning」などライヴ盤ならではの楽しみもある。
75 年 6 月 20 日、21日、22日の演奏から。
オーケストラ指揮は、トニー・コックス。
プロデュースはグループ。
LP、CD 二枚組。
「Prologue」(8:08)
「Ocean Gypsy」(7:13)
「Can You Understand」(10:47)
「Carpet Of The Sun」(3:47)
「Running Hard」(10:03)
「Mother Russia」(10:26)
「Scheherazade」(29:18)
「Ashes Are Burning」(23:04)
(BTM 2001 / ARC7016)
John Tout | keyboards, vocals |
Annie Haslam | lead vocals |
Jon Camp | bass, bass pedal, acoustic guitar, vocals |
Terence Sullivan | drums, percussion, vocals |
Michael Dunford | acoustic guitars, vocals |
77 年発表の第六作「Novella」。
内容は、フォーク・タッチの清冽なヴォーカルをオーケストラと混声合唱が支えるシンフォニック・ロック。
作風は、ロシアの交響曲(プロコフィエフ?)を思わせる重厚かつ勇壮なオーケストラとピアノをフル回転させ、ハズラムの落ちついた美声に物語を綴らせるものであり、大きな変化はない。
今回の楽曲は、トラジックな重みや甘美なロマンティシズムといった直截的な感情移入を越えて、より普遍的で厳かなイメージをもっており、人間への深い洞察が感じられる。
その結果、バンドの演奏とオーケストラのバランスはやや後者へと傾き、アンサンブルがあたかも一つの大きな流れのようになっている。
ロック、クラシックといった境界線上の話題はすでに超越し、楽曲の要請を誠実に丹念にこなす演奏になっているといえるだろう。
もちろんメロディアスななかに光る呼吸いいプレイの応酬や、牽引力である躍動的なリズム・セクション、ジョン・タウトの透明感あふれるピアノなど RENAISSANCE らしさは、きちんと強調されている。
それでも、まず第一に本作のサウンド全体が訴えてくるのは、透徹で一種の無常感すら漂わせる厳粛なヴィジョンである。
大胆なことをいうならば、ハズラムの超人的なヴォイスすら本作では楽想に追いつききっていないかもしれない。
プロデュースはグループ。
「Can You Hear Me?」(13:38)何かが飛び去るような轟音に続き舞い踊るような可憐なピアノ、しかし一瞬にして荘厳な混声合唱が湧き上がり轟々と響く。
重みのあるリズムとともに流れ出すのは、決意を秘めたような厳かにして力強いストリングスの調べ。
金管楽器、ティンパニも加わり劇的な演奏が続いてゆく。
ベースもパワフルにフレーズを刻んでいる。
オーケストラとバンドが一体になったみごとな演奏だ。
ピアノとともにアコースティック・ギターのストロークが爽やかに流れ、シンセサイザーと思われる壮大なメロディがストリングスと重なり合って高まる。
すでにテーマは幾度となく繰り返されている。
尾を引くように去ってゆく管弦楽、そしてフェード・インするのは走り寄るようなアコースティック・ギターのストローク。
このギターを伴奏に、ハズラムの力強くも透明なヴォイスが流れ出す。
中世風味とモダンなポップ・センスをブレンドしたような、印象的なメロディ・ライン。
可憐な呼びかけのようなサビは「Can You Hear Me ?」。
決然と繰り返すヴォーカル、そしてピアノの和音。
間奏は、湧き出る泉のようなピアノとストリングス、そしてシンセサイザーの調べ。
打楽器をアクセントに、アコースティック・ギターの密やかなアルペジオが続いてゆく。
金管を模したようなシンセサイザーのまろやかな調べ。
ギターは低く高くさざめく。
静かに湧き上がるのは、なめらかなシンセサイザー。
力強いヴォカリーズが轟くも、再び眠り込むように演奏は沈んでゆく。
ホルンのようなシンセサイザーのメロディ、柔らかなストリングス、そしてギターのさざめき。
またも打楽器とともにヴォカリーズが叩きつけられる。
そして沈み込むギターのアルペジオ。
甦るヴォイスは天上からの救いの光の如く差し込む。
対照的に唸るベースは怒りの象徴か。
高らかなハズラムの歌。
そして「I Call Your Name」。
謎めいたリフレイン。
ドラムスの連打そして再びヴォカリーズとともに迫真の全体演奏へ。
轟く金管楽器そして力強いヴォーカル。
再び静かに音は散らばりオーボエ、フルートらとともに「I Call Your Name」のリフレイン。
歌の末尾を管楽器が長く引っぱりそのままストリングス・オーケストラによるスリリングな演奏へと進んでゆく。
マーチを思わせる勇ましい演奏だ。
ベースのオブリガートが冴える。
リズムも厚みを増してメイン・ヴァースへと帰ってきた。
「Can You Hear Me?」。
せめぎあうヴォーカルとストリングス、そして細かなパッセージでストリングスが攻め立て、パワフルな打楽器と管楽器がヴォーカルを守り立てる。
ヴォーカルの余韻は吸い込まれるように、淡色の和音へととけこみ消えてゆく。
ハープの響き。
劇的なシンフォニック大作。
オーケストラとバンドが一体になったみごとな作品だ。
重厚な演奏と舞うように軽やかな演奏をシームレスに行き交い、ほとばしるような激情とミステリアスな詩情を一つに織り上げている。
もちろん、リード・ヴォーカルのもつ哀しきフォーク・ソングの魅力も、みごとにブレンドされている。
ハズラムの凛とした表情がすばらしい。
止むことなくささやき続けるギター、鋭く刻み演奏のドライヴ感の源泉となるベース、管楽器に近づきながらも独特のニュアンスを出すシンセサイザーなども、すばらしい。
「The Sisters」(7:12)
「Midas Man」(5:46)吟遊詩人の口ずさむ哀しい昔語りか、はたまた魔術師のささやく呪文を思わせる名バラード。
ミダスはギリシャ神話に現れるフリギアの王であり、手に触れるものすべてが金に変わってしまうという呪いをかけられた。
(あまり懲りない性格だったのか、この後別の呪いで耳をロバの耳に変えられている。
「王様の耳はロバの耳」ってやつだ)
「The Captive Heart」(4:16)
「Touching Once(Is So Hard To Keep)」(9:27)
決然とした表情が華やぎとともに弾ける。
抜群のメロディ・センスです。
ラフマニノフのような変幻自在のオーケストラ・アレンジもいい。
流麗なインストゥルメンタルとヴォーカルが一筋の大きな流れとなって進んでゆくシンフォニック・ロック作品。
オーケストラも含めて、どのくらいクレジットされていない楽器があるのかわからないが、アレンジャーの手腕も相当なものだろう。
オケに隠れてやや目立たなくなったが、キーボードは、ピアノやシンセサイザーでなかなかの活躍をしている。
そして、清潔感とイノセンスの奥に情熱と深い知性を秘めたヴォーカル。
コケットさが主流の女性ヴォーカルにおいては、きわめて新鮮である。
この声によるフォーク・タッチの旋律がアンサンブルに君臨することによって、この音楽が完成するといっていいだろう。
積極的なフレージングを見せるベースなど、器楽も安定感のある実力派揃いである。
やや地味な印象を与える作風だが、繰り返し聴くことにより、次第に感動の度合いが強まるタイプの作品である。
(WPCR-1446)
Annie Haslam | lead vocals |
Jon Camp | bass, bass pedals, electric guitar, lead vocals |
Michael Dunford | 6 & 12 string acoustic guitars, electric guitar |
Terence Sullivan | drums, percussion |
John Tout | keyboards |
78 年発表の第七作「A Song For All Seasons」。
前作同様に、管弦楽を縦横無尽に使いこなしたシンフォニックな作品。
分厚いサウンドを構築しながらも、自然でアコースティックな質感がある。
そして、クラシカルなスケール感、厳かな気品とトラッド・フォーク調の親しみやすさ/暖かみが共存する魅力は変わらない。
ただし、メロディ・ラインや曲調に時おり意識的にポップな色合いを交えているところが新しい。
また、タウトのプレイはピアノの比重がやや下がり、シンセサイザーとオルガンが中心。
一方、管弦楽とごく自然にとけあうリズム・セクションは全く健在だ。
特に、キャンプは鮮やかなベースのプレイに加えて作曲とヴォーカリストとしても活躍。
ファンタジックな世界を損なうことなく時代の音に接近する巧みさは、CAMEL や GENESIS に似ていると思う。
(実際音作りは「Wind And Wurthering」によく似ている)
オーケストラとバンドのコンビネーションが痛快な 2 曲目は、ストーリー性のある屈指のプログレ大傑作。
ピアノが心憎いまでにうまく使われている。
力強さが現れた作品である。
表題曲は、オーケストラとエレキ・ギター、シンセサイザーがせめぎあう迫力のインストゥルメンタルから、絢爛たるヴォーカル・パートへと迸るように流れ込む、大河ロマンのサントラ風大作。
終盤には、二つのアコースティック・ギターによるブリッジ風のアンサンブルも現われる。
個人的には、この二曲の存在で、「究極」同様「70 年代終盤としてのプログレッシヴ・ロック」を示した名盤の地位を確保したと思っている。
プロデュースはデヴィッド・ヘンチェル。
「Opening Out」(4:14)
オーケストラによる劇的なオープニング。
メイン・ヴォーカル・パートは、アコースティックなきらめきとトラッド調の無常感が交差する。
切ない祈りを思わせる歌がすばらしい。
透明感あるアコースティック・ギターにも注目。
ハズラムのリード・ヴォーカル。
「Days Of The Dreamer」(9:43)
オープニングのピアノが絶妙。
アップテンポで軽やかに走る演奏と空高く飛翔するようなヴォーカルに陶酔できる。
テーマ部のストリングスが高鳴るサビはほとんど ELO。
中盤は、シンセサイザーのリードで 7 拍子も交えた GENESIS 風のリズミカルなインストゥルメンタル。
後半は、ハズラムの歌声をじっくり聴かせるミドル・テンポのシンフォニック・バラード。
スリリングで昂揚感あふれる展開は、70 年代後半のプログレ大作としては出色でしょう。
名曲。
ハズラムのリード・ヴォーカル。
「Closer Than Yesterday」(3:18)
アコースティック・ギターの伴奏でクリスタル・ヴォイスがきらきらと光を放つ佳品。
甘やかなポップス風メロディを丹念に綴る歌唱に、思わず夢見心地。
一人多重録音コーラスのサビには、はやニューエイジ風味も漂う。
(エンヤや流行のケルトものの原点かもしれません)
ハズラムのリード・ヴォーカル。
「Kindness(At The End)」(4:51)
密度の高い器楽が冴えるプログレッシヴ・ロックらしい作品。
力強いオープニングから、静かなヴォーカル・パートへの展開が劇的だ。
チャーチ・オルガンからシンセサイザーまで、キーボードが充実している。
エレキギターも入り、ロックを感じさせる仕上がりだ。
ピアノとシンセサイザーのユニゾンが美しい。
ヴォーカルが入ると一気に CAMEL 調。
キャンプのリード・ヴォーカル。
「Back Home Once Again」(3:15)
キャッチーなメロディのフォーク風ポップス。
品があるので、やや大仰なカーペンターズ風。
ここでも、サビは一人多重。
なぜかドラムス・フィルが大きな音。
TV の主題歌だそうです。
ハズラムのリード・ヴォーカル。
「She Is Love」(4:11)
やや頼りなげなヴォーカルと弦楽、ピアノのみによる演奏。
スローな映画音楽調である。
終盤の弦楽とジャジーなピアノのアドリヴ風の呼吸が、ガーシュインを思わせる。
どことなく、初期の THE MOODY BLUES 風だ。
キャンプのリード・ヴォーカル。
「Northern Lights」(4:06)
心地よく響くアコースティック・ギターとヴォーカルが、いかにも RENAISSANCE らしいフォーク・ソング。
オーケストラ・アレンジとヴォーカル・エコーはやや大仰だが、木管楽器の音が愛らしい。
ハズラムのリード・ヴォーカル。
「A Song For All Seasons」(10:53)
オーケストラとバンドの力強い演奏による 3 分あまりの序奏を経て、優美にしてファンタジックなヴォーカル・パートへ。
神秘の森を空高く俯瞰したかと思うと、息つくまもなく、風を切って舞い降り、朝霧のきらめく樹海へと分け入る、そんな映像イメージをかきたてる演奏だ。
清冽なるファンタジーの味わいが、いかにもこのグループらしい。
ピアノ、アコースティック・ギターらによる密やかなアンサンブルも交えるが、基調は、オーケストラを中心としたドラマティックな演奏である。
木管楽器のアクセントが美しい。
ハズラムのリード・ヴォーカル。
(WPCR-10882)
Annie Haslam | lead & backing vocals |
John Tout | piano, YAMAHA CS80 & CS30, ARP string ensemble |
Terence Sullivan | drums, percussion |
Jon Camp | bass, cello, vocals |
Michael Dunford | 12 string acoustic guitars, electric guitar |
79 年発表の第八作「Azure D'or」。
ポリフォニック・シンセサイザーの輝かしき音色と躍動感あふれる楽曲。
小ざっぱりとしたポップスとフォーク、クラシカル・タッチの絶妙のブレンドによる佳作である。
ほんの少し濃い目のコズメを施した感もあるが、70 年代終盤のブリティッシュ・ロックの良心であり、とにかく懐かしい音です。
「Golden Key」は知られざる代表曲。
初のインストゥルメンタル・チューン「The Discovery」は VENTURES か DIRE STRAITS かというキャンプのリード・ギターも盛り込んだポップでテクニカルなプログレ・チューン。
最終曲「The Flood At Lyons」は小刻みなベースのパターンが生むニューウェーヴ・タッチのおどけたような表情が新鮮な傑作。
シンセサイザーとハズラムのヴォイスによるゆったりと抱かれるようにクラシカルな演奏が「岐路に立つ」という歌詞と響きあい、劇的な感動を呼ぶ。
全体に、ハズラムの安定した歌唱は当然として、ジョン・タウトの卓越したキーボード・センス、ジョン・キャンプの作曲力など RENAISSANCE を支えた力がはっきりと示された内容になっている。
チャート・アクションは芳しくなかったそうだが、これだけの作品、時代のめぐり合わせの不運といいいようがない。
プロデュースは、デヴィッド・ヘンチェル。
本作発表後、ジョン・タウトとテレンス・サリバンが脱退する。
(WPCR-10883)
Annie Haslam | lead & backing vocals |
John Tout | keyboards |
Terence Sullivan | drums, percussion |
Jon Camp | bass, vocals |
Michael Dunford | acoustic guitars, vocals |
97 年発表のライヴ・アルバム「KING BISCUIT RENAISSANCE Part 1」。
1977 年 10 月 14 日ロイヤル・アルバート・ホールのライヴ録音。
本 CD はその前半部分。
MC から「Novella」発表直後の録音であることが分かる。
共演する管弦楽は、ハリー・ロビノウィッツ指揮ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ。
チューニングや鍵盤の不調など演奏面の細部でやや難あるも、一体感ある演奏とアニー・ハズラムのヴォーカル表現はみごとの一言に尽きる。
ジョン・キャンプのリッケンバッカーが小気味よく唸りを上げ、ドラムスも細かな技で作品を表情豊かに彩る。
RENAISSANCE の透き通るような美感を支えたのは、このリズム・セクションであること、そして、クラシックにリズミカルで素朴なフォークの要素を取り込みたいと願ったダンフォードの意図がみごとに開花したことを再認識できる。
全体に管弦楽を強調したミックスなのか、バンド演奏があまり目立たない。
「Prologue」(8:14)管弦楽のみによる演奏。
往年のハリウッド大作のサウンドトラックを思わせる演奏である。
「Can You Understand」(11:17)インスト・パートの作曲がモーリス・ジャールとクレジットされているのは、一部で映画「ドクトル・ジバゴ」のサウンド・トラックからの引用があるためらしい。
(私には、少なくとも「Lala のテーマ」ではないことぐらいしか分からないですが)
中盤のスキャットがキュート。
「Carpet Of The Sun」(3:48)弦楽によるビート感を強調したバッキングが意外で面白い。
「Can You Hear Me」(13:58)ハズラムの MC ではタイトルを「Can You Hear Me Call Your Name」と紹介している。
元曲のやや地味なイメージを払拭するためか、管弦楽が派手なアレンジでぶちかましている。
中間部ではジョン・キャンプのベースをフィーチュア。
「Song Of Scheherazade」(25:17)華麗なスペクタクルの絵巻物。
上品なアラビアン・ナイト・フレイヴァーがいい。
(70710-88020-2)
Annie Haslam | lead & backing vocals |
John Tout | keyboards |
Terence Sullivan | drums, percussion |
Jon Camp | bass, vocals |
Michael Dunford | acoustic guitars, vocals |
98 年発表のライヴ・アルバム「KING BISCUIT RENAISSANCE Part 2」。
1977 年 10 月 14 日ロイヤル・アルバート・ホールのライヴ録音。
本 CD はその後半部分。
Part 1 と比較すると、選曲にもよるのだろうが、キレのいいバンド演奏が前面に出てリードし、管弦楽をしたがえている。
バンドとしての魅力は本作品の方が明快である。
「Running Hard」(10:33)タウトのピアノが冴えわたる。
中盤は、エレクトリック・ピアノだろうか。
後半は管弦楽とがっちり組んでスリリングなアンサンブルが繰り広げられる。
「Midas Man」(4:33)呪文を連想させる謎めいた陰りのあるバラード。
「Mother Russia」(10:01)悲劇のイメージの重厚な作品。
フルート、木管楽器が美しい。
「Touching Once(Is So Hard To Keep)」(10:13)
「Ashes Are Burning」(28:02) 最強のプログレッシヴ・ロック大作。
各パートのルーズなアドリヴ風のソロが続く。
清楚な美人がしどけない姿で一杯引っかけながらタバコを吹かしているさまを見るようで、嗚呼見ちゃいけないけどもっと見ていたい、なんて思わせるなんともいい感じの展開です。
「Prologue」(09:02)1979 年アメリカ、ニュージャージーでの録音。
「You」(08:21)
スタジオ録音の未発表曲。
EL&P ばりのポリシンセサイザーが高鳴るリズミカルな大作。
ニューウェーヴっぽさと RENAISSANCE 独特の清涼感、透明感がブレンドした力作である。
もっと耽美でゴシックな方向(4AD レーベルか)を目指せば、COCTEAU TWINS を先取りしたかも知れない。
(KBFHCD019)
Annie Haslam | vocals |
Michael Dunford | guitars, vocals |
John Tout | keyboards |
Jon Camp | bass, guitar, vocals |
Terence Sullivan | drums, percussion |
99 年に発表された「BBC Sessions」。
76 年から 78 年にわたるグループとしての絶頂期の BBC ライヴを収めた CD 二枚組。
ベスト・メンバーによるオーケストラ共演なし(「Day Of The Dreamer」だけは、あまりに多彩なサウンドが入っているのでオーケストラ付かもしれません)の緊密なアンサンブルが堪能できる。
ライヴならではの楽曲のプレゼンスは迫力満点。
ハズラムの伸びやかなクリスタル・ヴォイスとタウトによる多彩なキーボード・プレイを核とした切れ味よい演奏にも驚かされる。
特に、バンドのみの演奏による「Song Of Scheherazade」ではジョン・タウトが縦横無尽のプレイを見せる。
リズム・セクションもすばらしい。
技巧を凝らすというタイプでは無いが、バランスよくまとまった演奏は小気味よい聴き応えあり。
録音は最高でこそないが十分楽しめる水準だ。
改めてライヴ・バンドとしての RENAISSANCE の高い力量を感じさせる作品です。
「Prologue」(7:01)76 年 3 月 25 日収録。
「Prologue」より。
「Vultures Fly High」(2:52)78 年 8 月 19 日収録。
「Scheherazade and other stories」より。
ライヴ初出。
「Midas Man」(3:54)78 年 8 月 19 日収録。
「Novella」より。
「Day Of The Dreamer」(9:53)78 年 8 月 19 日収録。
「A Song for All Seasons」より。
ライヴ初出のため本 CD の目玉でしょう。
これがオケでなくキーボードだとするとタウト氏は只者ではない。(やはりオケありのようだ)
「Touching Once」(10:15)77 年 1 月 6 日収録。
「Novella」より。
「Song Of Scheherazade」(25:30)76 年 3 月 25 日収録。
「Scheherazade and other stories」より。
「Can you Hear Me?」(13:24)77 年 1 月 6 日収録。
「Novella」より。
「Ocean Gypsy」(7:29)77 年 1 月 6 日収録。
「Scheherazade and other stories」より。
「Carpet Of The Sun」(3:36)77 年 1 月 6 日収録。
「Ashes Are Burning」より。
「Mother Russia」(10:18)77 年 1 月 6 日収録。
「Turn Of A Card」より。
「Running Hard」(9:36)77 年 1 月 6 日収録。
「Turn Of A Card」より。
「Ashes Are Burning」(18:29)75 年 5 月 8 日収録。
「Ashes Are Burning」より。
(WOU 1001)
Annie Haslam | vocals |
John Tout | keyboards |
Michael Dunford | acoustic guitars, vocals |
Jon Camp | bass, acoustic guitars, vocals |
Terence Sullivan | drums, percussion |
2000 年発表の作品「Day Of The Dreamer」。
ほぼ録音クレジットのない謎のライヴ音源集。(一部既出もあるようだ、最後の二曲は 99 年発表の「BBC Sessions」と同じでは?)
ただし、大作を並べたその内容は充実している。
シンセサイザーも多用するジョン・タウトのキーボード・プレイにしてもアコースティック・ギターの響きにしても、YES や GENESIS に匹敵するプログレ魂を強く感じさせるのだ。
プログレの古代幻想物語としての魅力をあますところなく披露する出色のパフォーマンス集である。
「Can You Hear Me Call Your Name」(13:59)「Novella」より。
「Carpet Of The Sun」(3:51)「Ashes Are Burning」より。
「Day Of The Dreamer」(10:10)「A Song For All Seasons」より。プログレ大作。
「Back Home Once Again」(4:07)「A Song For All Seasons」より。
「Can You Understand / The Vultures Fly High」(5:29)前半は、「Ashes Are Burning」より。
後半は、「Scheherazade And Other Stories」より。
「A Song For All Seasons」(11:09)「A Song For All Seasons」より。序奏部や中間部はテクニカル・プログレとしての名演。
「Prologue」(7:37)「Prologue」より。ジャジーなキレがカッコいい。クラシック翻案も自然に聴かせるセンスあり。
いってみれば清涼感あふれる EL&P です。これは名演。管弦ありよりもいい。
「Ocean Gypsy」(7:44)「Scheherazade And Other Stories」より。
「Running Hard」(9:35)「Turn Of The Cards」より。
(CRESTCD 053)
Annie Haslam | vocals |
John Tout | keyboards |
Michael Dunford | acoustic guitars, vocals |
Jon Camp | bass, acoustic guitars, vocals |
Terence Sullivan | drums, percussion |
2008 年発表の作品「Dreams And Omens」。
1978 年フィラデルフィアでのライヴ録音。
どの曲も充実したパフォーマンスで演じ切っている好ライヴ・アルバムだ。
キーボードの伴奏は、決めどころはもちろんピアノだが、管弦パートをエレクトリック・キーボードでカバーしている。
シンセサイザーの人工的な音がプログレっぽさを強調し、意外にも、元来のアコースティックでフォーキーなタッチといいバランスを見せている。
いわゆるキーボード・ロックのグループに迫る攻めのフレージングもカッコいい。
改めてジョン・タウト氏が一流のロック・キーボーディストだと感じる。
また、エレクトリック・ギターのパートを担うベースの存在感も独特。
このサウンドと演奏スタイル、70 年代後半の日本のニュー・ミュージック隆盛に、間接的影響ながらも、おそらく一役買っていると思う。
汗臭く怪しく粗暴だったロックはいつしか美麗でロマンティックですっきり洒脱な存在へと変化したようだ。
ただし、このグループには清冽さやロマンチシズムだけではない、どこかダークな呪術的な神秘性がある。
そこが奥深い魅力の源だと思う。
「Can You Hear Me」(14:32)「Novella」より。
「Carpet Of The Sun」(3:53)「Ashes Are Burning」より。愛らしき名曲。
「Day Of The Dreamer」(10:32)「A Song For All Seasons」より。明暗緩急ダイナミックに変転する大作。
YES の「Awaken」同様 70 年代終盤のプログレの大傑作。
「Midas Man」(4:22)「Novella」より。御伽噺系バラードの名品。
「Northern Lights」(4:19)「A Song For All Seasons」より。
「Things I Don't Understand」(9:35)「Turn Of The Cards」より。
ジャジーなピアノ・ソロもカッコいいアートロック。プログレでなくアートロックなのはほんのちょっとだけ古めかしい、つまりサイケやインドといった 60 年代の響きが感じられるから。
(FRM-1093)