イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「YES」。 68 年結成。作品は二十二枚。 最新作は 2023 年発表の「Mirror To The Sky」。 英国プログレッシヴ・ロックの代表格であり、アンサンブルとしてのロック・バンドの一つの完成形を示している。
Jon Anderson | vocals, percussion |
Chris Squire | bass, vocals |
Steve Howe | electric & acoustic guitars, vachalia, vocals |
Tony Kaye | piano, organ, moog |
Bill Bruford | drums |
71 年発表の第三作「The Yes Album(サード・アルバム)」。
スティーヴ・ハウの加入(交代させられたピーター・バンクスは、脱退後に結成した FLASH を聴く限り、音楽的な方向性は決してずれていないので、ちょっとかわいそう)をきっかけに、オリジナリティあふれるアンサンブルが完成に近づいた作品である。
前作までのカヴァー曲は姿を消し(THE BEATLES への敬愛は巧みに盛り込まれているが)、今なおライヴで頻繁に取り上げられる、エネルギッシュかつきちんとした構築美をもつオリジナルの名曲揃い。
コーラス・ワークや器楽テクニックもぐんと向上し、「カッコいいロック」としての YES サウンドが充実している。
「Yours Is No Disgrace」や組曲「Starship Trooper」(最終パートのミニマルかつサイケデリックなセンスに脱帽)など、かなり長い曲でも、中だるみすることなく、メリハリある構成と巧みなアンサンブルそしてフィーチュア・プレイの切れ味で、躍動感いっぱいのノリを感じさせてくれる。
「The Clap」はハウによるアコースティック・ギター・ソロ。
小品ながらもチェット・アトキンズ風の超絶技巧をリズミカルに放つ名品である。
そして、「Your Move」、「All Good People」で見せるパストラルな雰囲気も、YES サウンドを特徴つける一面である。
最終曲「Perpetual Change」は、その牧歌性とシンフォニックなハードネス、変拍子などによる緊張感とヴォーカル中心の開放感が抜群の均衡を見せ、ハウの多彩なギター・プレイを楽しめる佳曲。
すべての曲が、後々までライヴの定番となってゆく傑作アルバムである。
さまざまなグループの音楽を研究した成果として、YES 流のロックが完成したアルバム。
アンサンブルとソロのバランスやヴォーカルと演奏の絡み、コーラス・ワークなどテクニカルにも音楽的にも申し分のないハイ・クオリティのサウンドだ。
スティーヴ・ハウの加入は、ギターのプレイの幅を広げ、演奏のヴァリエーションに大きく貢献していると思う。
構築性と勢いのよさが理想的な均衡を見せており、一音で YES と分かるフレッシュなサウンドをつくり上げているといえるだろう。
(20P2-2112)
Jon Anderson | vocals |
Bill Bruford | drums, percussion |
Steve Howe | electric & acoustic guitars, vocals |
Chris Squire | bass, vocals |
Rick Wakeman | organ, grand piano, electric piano, harpsichord, mellotron, synthesizer |
72 年発表の「Fragile(こわれもの)」。
各メンバーのソロをフィーチュアした小品をはさみ、緻密でダイナミックな四つの大作が並ぶ大傑作アルバム。
ハウの破天荒なギター・プレイに対して STRAWBS から新加入したリック・ウェイクマンのツボを押さえたキーボード・プレイが向かい立つことで演奏にみごとな緊張感が生まれている。
ブルフォード、スクワイアのリズム・セクションもこれに刺激を受けたように一層強力に、ダイナミックになってアンサンブルを駆動している。
ソロのカッコよさと急カーブを加速しながら曲がるような変拍子アンサンブルのドライヴ感は全作品中でもピカ一だろう。
オープニングの「Round About」は、アコースティック・ギターによるクラシカルなイントロダクションから一気に躍動感あるアンサンブルになだれ込み、ハイ・テンションの演奏が繰り広げられる名作。
リリカルかつワイルドというロックンロールの審美を極めている。
緊迫した一糸乱れぬアンサンブルがイントロダクションと同じギターでまるで宝石箱を閉じるように幕を引くエンディングは息を呑むばかり。
YES からの音の贈り物のような作品だ。
なかなかライヴ・テイクにお目にかかれない難曲(FULL CIRLCE ツアーの目玉でした)「South Side Of The Sky」は、硬質なドラミングと荒ぶるギターがスリリングに絡み合うハードな作品。
ヘヴィなリフとギターの奔放なオブリガートがカッコいい。(ウェイクマンのアドリヴに一瞬「ペトルーシュカ」がよぎるような...)
「Long Distance Runaround」はヴォーカル主導の作品。アンダーソンが詠うことによって呪文と賛美歌が同じものであることに気づかされる、YES ならでは趣向である。
さらに「Heart Of Sunrise」はトレモロを活かしたヘヴィなリフがドライヴするメイン・パートとリリカルかつ幻想的なヴォーカル・パートを軸にめくるめくシーンが繰り広げられるシンフォニック・ロック大作。
ポリリズミックな緊張感とパストラルな和やかさがくっきりと対比し、「Close To The Edge」以降のドラマチックな大作主義の端緒となる作品とも考えられる。
そして間をうめる小品も粒揃い。
ウェイクマンの手遊び多重録音によるブラームスの華麗なる翻案「Cans And Brhams」(個人的には GREENSLADE と共通するセンスを見る)、アンダーソンの宗教的な精神性がこだまする「We Have Heaven」、ブルフォードによる元祖ドラムンベース風パッチワーク小品「Five Per Cent For Nothing」、ドラムス以外はスクワイア一人のプレイらしいベース愛溢れる変拍子チューン「The Fish」など、それぞれに奇天烈な感性を生かした個性的な作品が並ぶ。
とりわけ、スティーヴ・ハウのスパニッシュ・ギターが冴える「Mood For A Day」は、凡百のギター小僧の目の鱗を落とした佳品である。
前作で完成の域に達したアンサンブルをさらにテクニカルにソフィスティケートする方向へと推し進めた大傑作。
きら星の如くならぶ大作を小品でつなぎあわせた、流れるようなアルバム構成がみごとだ。
文字通りガラス細工のようなきらめきと緊張感、そしてダイナミックさを併せ持つ作品である。
サウンドとともに SF 的な感覚を表現したジャケット・ワークもすばらしい。
この作品が醸し出す一種独特の緊迫感や閉塞感はいわゆるロックのアルバムにはないものだ。
それがプログレのエッセンスの一つであることは間違いないだろう。
あまりに語られたせいか、この辺りの作品は聴いていないのに聴いたつもりになっている人も多いのでは。仕事(家事、子作り他)の手を休めて居住まい正してちゃんと聴いてみましょう。
(20P2-2052)
Jon Anderson | vocals |
Bill Bruford | percussion |
Steve Howe | guitars, vocals |
Chris Squire | bass, vocals |
Rick Wakeman | keyboards |
72 年発表の「Close To The Edge(危機)」。
すべての音がガラスの織物ようにきらめきながらどこまでも飛翔してゆくようなイメージを与える空前絶後の大傑作。
未来や宇宙や理想郷といった目に見えないものへの憧憬を高いレベルで抽象化して音にしたようなアルバムだ。
すべての楽器が個性的なフレーズを噴き上げて美しくも異形のアンサンブルを繰り広げる。
乱調美の果て爆発しっぱなしのギター、世界を繋ぎ止めるネジがすべて緩んでぶっ飛びそうなオルガン、フロントの空隙を縫うように浮上する凶暴なベース、独特なシンバル・ワークとスネア・ドラミングが冴えるドラムス。
この八方破れのアンサンブルをまとめられるのは混沌の雲間を貫く曙光の如き讃美歌ヴォーカルの他にはあり得ない。
アクロバティックな演奏に途方もない緊迫感と完璧な構築美を見せるタイトル・チューン「Close To The Edge」はいうに及ばず、「And You And I」のようなアコースティックな牧歌調の楽曲までもが、あらゆるエネルギーを注ぎ込まれて破裂寸前のようなハイ・テンションをキープしている。
唖然とするしかない。
そして「Siberian Khatru」は、ギターを中心に牧歌的なテーマをアヴァンギャルドといっていいほどの大胆さと奔放さで振り回すダイナミックな YES 流ハードロック。
こういうアルバムは奇跡みたいなもので、意図的に作ろうったってそうできるもんじゃない。
したがって、ロジャー・ディーンによるシンプルなグリーンのジャケット・デザインが、静かなる暴走をクールに表現したように見えてしょうがないのだ。
また、当時は人気グループは最低でも年に一枚はアルバムが出たが(PINK FLOYD は別格扱いになっていた)、72 年に関しては「Fragile」、「Close To The Edge」の二作が発表され、まさに YES は絶頂期にあった。
ファン至福の 1 年である。
遂にテクニカルなアンサンブルが深遠なコンセプトも得て一種の極限にまで到達してしまったアルバム。
緻密に構成された大作をすばらしく大胆な演奏でぶっ飛ばす。
特にギターとドラムスはアイデアも即興力も十分な想像を絶するプレイを繰り広げている。
全編を緊迫感が貫き、幻想的かつ荘厳な美とメカニカルな荒々しさが渾然となったそそり立つような音楽を構築している。
間違いなくプログレッシヴ・ロックの最高峰の一つ。
細部のアレンジはいろいろとあるかもしれないし、ギター・インプロヴィゼーションなんてかなりきわどかったりするんだが、全く気にならないどころかかくあるべきのような気持ちにさせられてしまう説得力をもっている。
プログレッシヴ・ロックのアルバムから一枚選べといわれたら、最終的にはこのアルバムと KING CRIMSON の一作目を並べてうんうん悩むに違いない。
(7567-82666-2)
Jon Anderson | |
Steve Howe | |
Chris Squire | |
Rick Wakeman | |
Alan White |
アナログ LP 三枚組という驚異的ヴォリュームのライヴ・アルバム「Yes Songs」に続くスタジオ・アルバムは、73 年発表の LP 二枚組の大作「Tales From Topographic Oceans(海洋地形学の物語)」。
アンダーソンが宗教書からヒントを得た瞑想的な主題を軸に、約 20 分の作品が 4 曲というアルバム構成で、神秘的なシンフォニック・ロックが繰り広げられる。
サウンド的には、「Close To The Edge」の拡大版ということになりそうだ。
ドラムスにアラン・ホワイトを迎えた初のスタジオ作であると同時に、リック・ウェイクマン脱退の引き金となった作品でもある。
壮大なイメージのわりには、まったり感の漂う作品です。
アンダーソンのヴォーカルとコーラス・ワークを中心に繰り広げられる「The Revealing Science Of God Dance Of The Dawn」(20:27)は、「The Yes Album」で見せたキャッチーにしてメロディアスなロックと、「Close To The Edge」で培われたストーリー・テリング、瞑想性がブレンドした作品。
モノローグ風の冒頭からはもっと破天荒で幻想的な展開を予想したが、意外にインテンポでストレートに、おだやかに流れてゆく。
飛びぬけたテンションは感じられない一方、メロディアスで聴きやすい。
メロトロン、ストリングス/ムーグ・シンセサイザー、ピアノが次々現れて重なり合うリッチなキーボード・ワークがみごと。
「The Remembering High The Memory」(20:38)は、オープニングからヴォーカルのリードで牧歌調に進み、キーボードが厳粛な深みのある空間を演出する。
リリカルな演奏とともに、歌詞もロマンを感じさせるものだ。
中間部にリズミカルなトラッド・フォーク風の展開(アンダーソンに中世のトルバドールのイメージがだぶる)をはさみ、遂には、ベースが唸りを上げるドライヴ感たっぷりの演奏へとなだれ込む。
そしてその果てに、再びキーボードによる夢幻の空間が広がり、壮大なシンフォニーを結ぶドラマチックで感動的な作品だ。
エンディングは、まさに YES らしさ満載の演奏。
「The Ancient Giants Under the Sun」(18:34)は、民族楽器風の鍵盤パーカッションと、スライド・ギターによるエキゾチックな古代の歌に導かれる霊妙にしてテンションあるアンサンブルから幕を開ける。
メイン・ヴォーカル・パートは、ヘヴィなリズムとブレイクを用いた緊張感と、メロトロンと思われるストリングス系のキーボード、ギターによる包み込むような感触が交錯した、パーカッシヴにしてアヴァンギャルドなものだ。
明確なリード・メロディ不在のポリリズミックなアンサンブルや、ギター主導のフリー・フォームに近い演奏は新境地だろう。
終盤、クラシカルなアコースティック・ギターのカデンツァ(「Mood For A Day」風のフレーズも)をはさみ、メロディアスなヴォーカル・パートがようやく現れる。
そして、リリカルなアンサンブルから、スライド・ギターによる牧歌調とヘヴィでパーカッシヴな場面を回顧しつつ終わってゆく。
全般にギターがフィーチュアされた作品であり、前半のインストゥルメンタルの展開は、これまでにはなかった革新的なものである。
また、ところどころでギターが「Close To The Edge」のフレーズを弾くのは、手癖かくすぐりか。
「Ritual Nous Sommes Du Soleil」(21:35)は、いかにも YES 風のテーマ・リフがドライヴ感を生むスクワイア色濃い作品だ。
ヴォーカル・パートもストレートに力強く、きらめく尾を見せながら夜空を駆けてゆく彗星のようなイメージである。
12 分あたりから始まるインスト・パートでは、リズム・セクションのリードで強烈にリフをアピールしている。
メロトロンが響く中をギターのリードで疾走するアンサンブルは、ただただカッコいい。
そして意外なパーカッション・ソロ。
ここでも、民族的なビートを強調したドラムスが、キーボードとオーヴァー・ラップして神秘的、異世界的かつ未来的なイメージのサウンドをつくり上げている。
ギターの歌に導かれて懐かしさを憶えるヴォーカルへと静かに回帰し、エネルギッシュな演奏が静かに去ってゆく。
リズム・セクションがフィーチュアされ、リフの切れ味もすばらしい。
そしていかにも YES らしい、緊迫感のあるアンサンブルができあがっている。
長大な旅の終わりに故郷へと回帰するような安らぎとともに、ポジティヴな歩みと活気をも感じさせる作品である。
神秘的な主題を掲げ、多様なプレイをフィーチュアした濃密な力作が並ぶアルバム。
コンセプトを明確に語るヴォーカルを中心に、主題と演奏の確かな結びつきがなされた、構築性のある内容である。
火花散るようなハイ・テンションのアドリヴ的瞬間の連続ではなく、決められたシナリオに則って、分厚く色を積み重ねた丹念な作業の結実というイメージである。
それでいて、各プレイヤーの色もしっかり出ている。
散りばめられた YES 的なイディオムも、守りに入っているというよりは、なじみやすさを優先しているとるべきだろう。
後半、キーボードがやや手薄に感じられること(最終曲では一部のピアノをアラン・ホワイトが弾いているらしい)や、あまりに個性的であったドラムスがパワフルなロック・ドラムスになったことなど、サウンドに若干の変化はあるが、全体としては、凄まじい充実度をもつ作品といえる。
さまざまな音楽的なアイデアを詰め込んだわりに、しっかり聴きやすさも維持されているところが、センスでありベテランの風格である。
スティーヴ・ハウによる 3 曲目の新境地が興味深い。
また「Ritual」のエンディングのドラムスの演奏には、前任者への相当な意識を感じる。
憶測だが、この内容だと Spiritual 系の米国フォロワーにも強い影響を与えたのではないだろうか。
(AMCY-4032-3)
Steve Howe | |
Alan White | |
Chris Squire | |
Jon Anderson | |
Patrick Moratz |
74 年発表の「Relayer(リレイヤー)」。
脱退したリック・ウェイクマンに代わってキーボーディストとして REFUGEE よりパトリック・モラーツを迎えた。
傑作「Close To The Edge」と同様な曲構成が続編的な雰囲気を醸し出すも、作風はギターを中心とした幻想的で即興的かつさらに奔放な方向へと舵を切った。
時代に即したジャジーなプレイも導入されている。
「The Gate Of Derilium(錯乱の扉)」(21:55)は、ハードかつシンフォニックなインストゥルメンタルの乱舞とリリカルなエンディングが強烈なドラマを成す 20 分以上にわたる超大作。
過激なサウンド・メイキングと MAHAVISHNU ORCHESTRA ばりの破裂しそうなテンションのプレイが注ぎ込まれている。
現代まで続いているテクニカル・ロックの端緒の一つといえそうな挑戦的な作品だ。
終章部分は独立させて YES らしいリリシズムを発揮したファンタジックな名バラード「Soon」として演奏されることも多い。
「Sound Chaser」(9:25)は、チック・コリアばりのモラーツのエレピとドラムスをフィーチュアしたハードなインタープレイをイントロダクションに、アグレッシヴなジャズロック・テイストとハウのカントリー的なセンスとアンダーソンの歌唱による牧歌的な叙情性を交差させた異色作。
ソリッドで硬質なインタープレイの背景でメロトロン・ストリングスが鳴り響くという異常事態である。
中盤からは爆発的なギター・アドリヴ(ジャズ・ギターという面では前任のピーター・バンクスに及ばないものの、奇天烈な個性とストーリーテリングという点では天才である)が独走し、唯我独尊を貫くヴォーカリストが秩序をつかんだのもつかの間、ジャズ・ブギーとでもいうべき WEATHER REPORT も真っ青の演奏が繰り広げられる。
ジャズ色が強いという点では異色だが、サイケデリック・ロック時代を髣髴させる型破りなパワーを感じさせる作品だ。
「To Be Over」(9:08)は、オリエンタルな響きのあるおだやかな演奏に支えられたアンダーソンのリラックスした歌唱から、前曲の熱気覚めやらぬギター・アドリヴがエネルギーを注ぎ込みながら次第にアコースティックでリリカルなタッチを取り戻し、やがてはすべてが調和のある美しいアンサンブルへと整えられてゆく。
YES らしい空想世界の山河を思わせる幻想的で神秘的なイメージを湛えた演奏で幕を引く、安らぎのある美しい終曲だ。
オープニングの大作は爆発的な演奏力を誇示しつつもストーリー・テラーとしても辣腕も発揮された名作。
唯一瑕疵があるとすれば新機軸として演奏を支えているキーボード・サウンドが巷間のフュージョン風でそのままでやや垢抜けないこと。
他の面での個性が際立ちすぎてるため相対的にそう見えてしまうのだろう。
演奏はこれまでサイケデリック・ロックのワイルドさとクラシカルな高揚感のブレンドにジャズロック的なテンションを加味した形になっている。
このジャズロック色はモラーツの参入がきっかけになったに違いない。
ハウがくびきを解かれたかのようにこれまで以上に暴走気味に弾きまくるのも面白い。
ここでのギター・プレイは YES フォロワーに大いに影響を与えていると思う。
モラーツの個性を活かしつつ YES としてのサウンドを堅持しようとした結果の異色作といえるかもしれない。
エディ・オーフォードがプロデュースに参加した最後の作品となった。
(19135-2)
Jon Anderson | vocals, harp |
Steve Howe | steel & electric & acoustic guitar, vachalia, vocals |
Chris Squire | bass, vocals |
Rick Wakeman | piano, church organ, polymoog, electric keyboards |
Alan White | drums, percussion |
77 年発表の「Going For The One(究極)」。
リック・ウェイクマンの復帰とともに、即興性やジャズ色の強かった前作からシンフォニックな重厚さとポップ・フィーリングのあるサウンドへとゆり戻した傑作。
個人的には、前作よりも YES らしさが感じられ、親しみがもてる。
直線的でエッジのある作品、幻想的な大作、リリカルなヴォーカル曲らから構成されるバランスの取れた内容には、ディーンからヒプノシスへと変わったジャケットとともに、YES のグループとしての再出発にかけた意気込みが感じられる。
ただし、その作風は、以前の作品に見られた複雑な構築性やそれに伴う緊張感からは解き放たれ、より明快で余裕のあるものになっている。
変化しつつも特徴と強みを生かした力作といえるだろう。
タイトル・チューン「Going For The One(究極)」(5:30)は、ハウのスライド・ギターとアンダーソンのヴォーカルの白熱した呼応からほのかな R&B テイストも浮かんでくる YES 流ブギー。
エネルギッシュなヴォーカルを巡ってギターとシンセサイザーが華やかな演奏を繰り広げ、間奏ではスライド・ギターとピアノがファンキーに踊る。
エッジの効いたハードなタッチながらもファンタジックな空気を守り続けているところが、非常に YES らしい。
もっとも、シンプルなリズムがかつてほど息づまるような緊張感をかもし出さないところが、時代といえば時代である。
「90125」の片鱗というか、現在の YES のサウンドの基本は、ここにあるような気がする。
そして、目一杯のロマンチシズムと静けさの中に大作の構築美の片鱗を見せる「Turn Of The Century(世紀の曲り角)」(7:58)。
かつての大作の「静」の部分のみを抽出したような、もしくは「Round About」のたおやかな変奏曲というイメージの作品だ。
終盤へ向け、打ち寄せる波がいつしか大きな潮流となってゆくような盛り上がりに胸が熱くなる。
対して、「Parallels(パラレルは宝)」(5:52)は、ダイナミックな演奏を見せつけるハードなシンフォニック・チューン。
チャーチ・オルガンによる荘厳なオープニングから、怒涛のリフを刻むベース、疾走するギターそして天まで突き抜けるヴォーカル・コーラスが一体となって、すばらしいプレイを繰り広げる。
ストレートな高揚感が、YES の「動」の部分を見事に表現している。
「Wonderous Stories(不思議なお話を)」(3:45)は、アンダーソンのヴォーカルをフィーチュアした慈愛に満ちた瑞々しい作品。
往年の「Time And A Word」を思い出させる佳曲である。
シンセサイザーとヴォーカルのコンビネーションは後のヴァンゲリスとの共演作につながるイメージである。
そして、畢生の大作「Awaken(悟りの境地)」(15:38)は、壮大なドラマをもった起死回生の一発。
幻想性、神秘性、物語性、緊張感ある展開、けれん味あるプレイ、どれを取ってもプログレッシヴ・ロックの代表作といって間違いない。
スティーヴ・ハウが前作の延長上にある爆発力を見せ、ウェイクマンは音の奔流を惜しげなく注ぎ込み、アンダーソンは嵐のような演奏をものともせずに一人超然と物語をつむいでゆく。
「海洋地形学」を凝縮して密度を上げ、前作同様の奔放なプレイをつぎ込むも、遥か未来を見通すヴィジョンのようにどこまでも明快である。
黄金期のメンバーが一体感のある演奏を見せる最後の作品といってもいいかもしれない。
チャーチ・オルガンの乱れ弾きと深く広がるエコーが印象的だ。
中間部の神秘的な展開には、初期 KING CRIMSON と同じく、無常感がこだまする叙情性がある。
ハードにして構築美を備えたアンサンブルは、みごとなまでに健在である。
YES 復活といって間違いない。
同時に、シンプルなリズム処理や曲構成の直線性により、ストレートな娯楽性をアピールしようとしたグループの意図が見え隠れする。
もちろんそれでも、各曲とも性格の明快な高品位のポップ・ミュージックであり、最後の大作のように、自らの技を知り尽くした手練の繰り出す魔術的なサウンド・コンクレーションは充分に魅力的だ。
「Awaken」は「Close To The Edge」に匹敵する傑作であり、すでに翳りが見えてきたプログレッシヴ・ロックの最後の輝きの一つといっていいだろう。(他の一つはもちろん U.K. である)
結論として本作は、ポップ化の波をうまく操りながら自らのアイデンティティを失わないプロフェッショナル達の渾身の作品である、といえるだろう。
スイス録音。
(82670-2)
Geoff Downes | keyboards, vocoder |
Trevor Horn | vocals, bass on 5 |
Steve Howe | guitars, vocals |
Chris Squire | bass, vocals, piano on 5 |
Alan White | percussion, vocals |
アンダーソンとウェイクマンというキーパーソンが脱退、存続の危機に瀕した YES。
しかし、BUGGLES からトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズを迎え、80 年に「Drama」を発表。
アルバムの評価はかなり賛否が分かれるようだが、クリス・スクワイアがソング・ライティングに力を注ぎ、ニューウェーヴらしくスリムに削ぎ落としたサウンドのクールネスとともに「The Yes Album」を思わせるロックらしいダイナミズムが発揮されている。
時機をとらえた好作品ではないだろうか。
卓越したサウンド・プロデュースとともにパフォーマンス面でもジョン・アンダーソン風に歌ってくれた名プロデューサーのトレヴァー・ホーンの努力に感謝しなくてはならない。
当時僕は、ほんのりテクノの香りも漂う新生 YES がこのまま 80 年代を突っ走っても OK だな、と思いました。
そういえば二年後の ASIA の大ヒットにも本作と同じテクノ・タッチと中華東洋風味が生かされていましたね。
「Machine Messiah」(10:27)ミステリアスにしてシンフォニック、なおかつメタリックでシンプルなビートのテクノという、なかなかあり得ない作品。ハウのギターが活躍。
虚空に浮かびすべてを見透かす単眼の機械神という強烈な、P.K.ディック風の悪夢のようなイメージが確かに浮かんでくる音である。
独特の小刻みな忙しなさと弾力あるしなやかさのバランスがいい。
みごとな「ドラマ」になっている。
「White Car」(1:21)YMO に端を発した中華風味もこの頃の流行でした。
「Does It Really Happen ?」(6:34)
クールな余裕を見せるテクニカル・ニューウェーヴ・チューン。
YES のリズム・セクションのカッコよさを十二分に発揮した作品でもある。
U.K. と共通するこの時代らしい音だ。(ホワイトのテリー・ボジオばりのドラミングにも注目)
二拍三拍のリズム・チェンジはやろうとするとけっこう難しい。
キーボードがフィーチュアされているが、意外にもシンセサイザーと同じくらいオルガンも使われている。
ギターは得意のスライドも駆使する。エンディングはベースがダイナミックにリードする。
「Into The Lens」(8:31)
うつむきがちのオタク少年の瞳が未来に向けて開かれてゆくようなファンタジックなテクノ・シンフォニック・チューン。
集中と弛緩、ネガとポジ、内省と外向の対比でさわやかなドラマを作っている。
元々 BUGGLES 用の作品だったらしい。
メランコリックな表情でささやかれる「I am a camera...」というフレーズから漂う夢見るようなテクノ・フェティッシュな香りがいかにもこの時代らしい。
トレモロ気味のベースのリフやオブリガートのギター、後半のヴォーカルとギターのからみ、ダイナミックなリズムは完全に YES のもの。
「Run Through The Light」(4:39)フレットレス・ベースのプレイはホーンによる。ミスター YES からベースを奪うとは、なかなか大胆です。デジタル・タッチの YES 流歌もの。
「Tempus Fugit」(5:14)痛快極まる疾走ロックンロール。リフのキレのいいこと! 名曲です。
(16019-2)
Jon Anderson | vocals |
Alan White | percussion |
Steve Howe | guitars, vocals |
Chris Squire | bass, vocals |
Rick Wakeman | keyboards |
Patrick Moratz | keyboards |
80 年発表の「Yesshows」。
公式ライヴ・アルバム第二弾。70 年代後半のツアーでの演奏から「海洋地形学の物語」以降の作品をピックアップしている。緩急自在、ややかっ飛ばし気味の演奏だがこれだけ複雑な曲をかっ飛ばせるのがそもそもスゴイ。まだまだ海外のロックのライヴが貴重だった時代、重宝したアルバムでした。「Drama」の後に出たので、何となくアンダーソンの声にホッとしてしまった記憶あり。
LP 二枚組。
WMJ からの CD は「I've Seen All Good People」(78 年 10 月 28 日英国ウェンブリー、エンパイアプール公演。メンバー紹介がカッコいい)、「Round About」(78 年 10 月 7 日米国オークランド、アラメダ・カウンティ・コロシアム公演。)の二曲のボーナス・トラック付。
ジャケット上部のタイトル・ロゴで「Yesshows」の"shows"の部分だけ「Relayer」色になっているのが興味深い。モラーツの参加を現しているような気がする。
「Parallel」「Going For The One」より。77 年 11 月 24 日オランダ、ロッテルダム公演。
「Time And A Word」「Time And A Word」より。78 年 10 月 27 日英国ウェンブリー、エンパイアプール公演。
「Going For The One」「Going For The One」より。77 年 11 月 18 日ドイツ、フランクフルト公演。
「The Gate Of Delirium」「Relayer」より。キーボードはパトリック・モラーツ。
78 年 8 月 17 日米国デトロイト公演。
「Don't Kill The Whale」「Tormato」より。78 年 10 月 28 日英国ウェンブリー、エンパイアプール公演。
「Ritual Part 1」「Tales From Topographic Oceans」より。キーボードはパトリック・モラーツ。78 年 8 月 17 日米国デトロイト公演。
「Ritual Part 2」「Tales From Topographic Oceans」より。キーボードはパトリック・モラーツ。78 年 8 月 17 日米国デトロイト公演。
「Wonderous Stories」「Going For The One」より。77 年 11 月 24 日オランダ、ロッテルダム公演。
(WPCR-80316/7)
「Drama」発表後、同年に再びライヴ・アルバム「Yes Shows」を発表。 その後スティーヴ・ハウ、ジェフ・ダウンズも脱退し、アンダーソンが復帰、さらにスクワイアが新たなギタリストを獲得、キーボードにもトニー・ケイをサード・アルバム以来復帰させ、「90125」、「Big Generator」でみごとに 80 年代ハードポップへの路線変更を成功させた。 その後アンダーソンが再脱退、事実上の解散状態になるが、90 年の「Anderson, Wakeman, Bruford and Howe」を契機にして 91 年、八人体制で再結成、「Union」を発表した。 現在は黄金期のメンバーで YES 流プログレッシヴ・ロックの王道をさらに前進中。
Jon Anderson | lead vocals |
Steve Howe | lead & acoustic guitars, steel, mandolin, vocals |
Billy Sherwood | guitars, vocals |
Chris Squire | bass, vocals |
Alan White | drums, percussion, vocals |
Igor Khoroshev | keyboards, vocals |
99 年発表の「The Ladder」はスタジオ・アルバムとしては「Open Your Eyes」から約二年ぶりの作品。
前作から参加のキーボーディスト、イゴール・ホロシェフが正規メンバーに加えられている。
YES の新譜を買うのは「Drama」以来、十八年ぶりだ。
ゴージャスで切れ味抜群の演奏をしたがえて、ジョン・アンダーソンが縦横無尽に歌いまくる世界音楽紀行。
エキゾチックな雰囲気を盛り込みながらも、YES 流ロックは驚くべきことに今だ健在だ。
独特のクリアーにして広がりのあるサウンドに胸が躍る。
ホロシェフのキーボードはウェイクマンをたっぷり意識しており、ハウのアコースティック・ギターさばきとともにオールド・ファンを唸らせる。
現代的なサウンドの中に YES の音楽をとけ込ませ、新たなポップ・テイストを生み出したブルース・フェアバーンの手腕に敬服だ。
新たなエネルギーを得た、爽快で明朗な YES サウンドに思わず微笑がこぼれ、気がつけば拍手喝さいである。
ただし、ロックのグルーヴが必ずしもジャスト・ビートには拠らないことを体現していたグループであるだけに、リズムが表情を失って単調になるところに若干不満があるが、ストレートにして色彩感のあるメロディ・ラインと品のある小気味よさが、そういった欠点を忘れさせてくれる。
正直にいって、ハウのギター、スクワイアのベース(音はチョットばかり今風になっているようだ)など、もはや記号と化した個性的なプレイが聴けるだけでもうれしい。
「Going For The One」や「Tormato」、アンダーソンのソロ作品を思い出すところもある。
なんだかんだいっても、これは誰が聴いてもいいんじゃないかなあ。
なんせ分かりやすいし、やあ YES、お帰りって感じです。
本作は、製作中に急逝したプロデューサー、ブルース・フェアバーンに捧げられている。
「Homeworld(The Ladder)」(9:32)アンダーソンの力いっぱいの歌唱が躍動的にリードし、YES らしいしかけのある演奏が冴える傑作。
シンプルなヴァースなだけに、サビのメロディのふわりと落ちつく感じがいい。
中盤のハモンド・オルガンは、もう少しワイルドでもよかったかも。
後半のシンセサイザーは音のイージーさがウェイクマンそっくり。
アコースティック・ギター、ピアノからおだやかな歌が始まるエピローグも泣かせる。
「It Must Be A Good Day(The River)」(4:53)オリエンタルな音使いがおもしろい歌もの。
スクワイアのハーモニー、ハウ独特のオブリガート、ヴァイオリン奏法など、おなじみのプレイが散りばめられている。
こういうのを 84 年くらいにやっていれば、紆余曲折はなかったのかもしれない。
シンプルなリズムがあまり YES らしくはないが、エキゾチックなテイストをもつポップ・ミュージックとしてはなかなかのもの。
「Lightning Strikes」(4:35)YES 流のすてきなラテン・ポップス。
「Can I?」(1:31)「We Have Heaven」の翻案。
「Face To Face」(5:01)
キャッチーにして勢いたっぷりの傑作。
自信にあふれるヴォーカル・ハーモニーを前面に、全パートが弾けるような溌剌たる演奏を見せる。
とにかくカッコいいです。
「If Only You Knew」(5:43)ハウのギターを中心に管弦楽も交えて YES らしい荘厳な音を散りばめつつも、実はかなりコマーシャルな方向への野心を感じさせるバラード・チューン。
やろうと思えばこういう曲だってできるんだよ、といっているようです。余裕というか無敵というか。
「To Be Alive(Hep Yadda)」(5:07)やや東洋風のニューエイジ・ロック。
コーラスは ENYA のようだが、ここには力強いリズムがある。
ハウのスライド・ギターも健在。
「Finally」(6:01)テンションの高いファンタジック・ロックンロール。
後半の透明感あふれるキーボード・オーケストレーションと、ギターのプレイに酔いしれる。
こういう曲に違和感を感じないか感じるかで「Lonely Heart」以降のファンかどうかが分かる(かもしれない)。
アメリカのロックバンド風のオバカな感じはあまり似合わないと思う。後半の雄大なランドスケープが一気に広がるような展開や音使いの面白さはさすがである。
「The Messenger」(5:13)ブルージーでアーシーな、どちらかといえばアメリカのオンエア向きの作風。
80 年代中盤の QUEEN 辺りと通じる、「米国にて売れる秘訣」を体現したような作品である。
ただし、ややステレオタイプなところがあるというだけで、音作りやなめらかな展開は前曲と同じく「さすが」としかいいようがない。
浅いようで深いのである。
YES が SPOCK'S BEARD の真似をするとこうなりそうだ。
「New Language」(9:19)ワクワクするようなオルガンとギターのせめぎあいがカッコいいオープニング。
爆発的なオルガン・ソロ、ヘヴィなリフ、おまけにメロトロンも一瞬聴こえる。
メイン・パート以降は、80 年代風のメロディ・ライン、サウンドによる分かりやすい展開。
終盤、ギターのリードで走る演奏がカッコいい。
「Nine Voices(Longwalker)」(3:21)思索的にしてやさしさにあふれるエンディング。
(63985-78046-2)
Jon Anderson | lead vocals, MIDI guitar, acoustic guitar |
Steve Howe | acoustic & electric guitars, steel, mandolin, vocals |
Chris Squire | bass, vocals |
Alan White | drums, percussion, vocals, piano |
guest: | |
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Larry Groupe | conductor |
2001 年発表の「Magnification」。
サウンド面で大役を果たすべきキーボーディスト不在をきっかけに、管弦楽団との共演というチャレンジに立ち向かった作品である。
時代錯誤的な響きのある「オーケストラとロックバンドとの共演」とは老いた有名バンドマンの錯覚か、はたまた高級な服地のようになめらかな弦楽の調べをしたがえてジョン・アンダーソンのナルシズム爆発かと邪推したが、みごとに外された。
YES らしいトリッキーなアンサンブルが、オーケストラとの化学反応でより一層スリリングで彫りが深くなり、結果、その描くファンタジーはきわめて優れたものになった。
水晶のように輝くカラフルで郷愁ある異世界を奔放に駆け巡り光の尾をひきながら飛翔し、われわれリスナーをどこまでもワクワクさせるのだ。
この内容ならストラヴィンスキーが苦笑いしながらも拍手しそうである。
ハリウッド SF 映画風の大仰さとは無縁であり、初期作品に回帰したようなタイトなロック(スクワイアの作曲面での貢献大と見た)を、ときに管楽器と対峙しつつ、ときに弦楽に支えられつつ、いい呼吸でヴィヴィッドに演奏している。
とにかく、多彩な曲調含め YES らしさは存分に発揮されいる。
ブリティッシュ・ロックのファンにはぜひお薦めしたい作品だ。
唯一、リズムに活力や急旋回するようなスリルよりも堅実さがまず感じられるところは 70 年代黄金期を知る者にはやや物足りなさを覚えさせるかもしれない。
アンダーソンの声域はさすがに以前ほどではないが、バンドを引っ張るリード・ヴォイスとしてはやはり破格の存在感である。
ヴォーカル主導で夢見がちでマッタリし過ぎそうになるところを、ハウのギターやスクワイアのベースなど「誰でも分かるあの音」による小気味のいいプレイで整えてメリハリをつける、そういったアレンジもさすがに長年やっているだけあって手際がいい。
ごく個人的には一曲目の終盤で「A Day In The Life」が迫ってきた感じがして、その時点でモロ手を上げて降参になりました。
スティーヴ・ハウは絶好調といっていい出来。
日本語版ボーナス・トラックは、オーケストラと共演した「Long Distance Runaround」。
プロデュースはグループとティム・ウェイドナー(氏はトレヴァー・ホーンの右腕らしい。3 曲目のアレンジはまさにホーン流である)。
2023 年現在ジョン・アンダーソンがリード・ヴォイスを務める最後の作品である。
ハリウッド・サウンドトラックとは異なる典雅で時に大胆な英国流管弦楽表現によってスタイリシュで常に革新性を誇るブリティッシュ・ロックらしさが強調された佳作になったと思う。
「Magnification」(7:15)
「Spirit Of Suvival」(6:01)佳曲。
「Don't Go」(4:26)
「Give Love Each Day」(7:43)
「Can You Imagine」(2:58)リード・ヴォイスはスクワイア。
「We Agree」(6:30)
「Soft As A Dove」(2:17)
「Dreamtime」(10:45)後半、テンポ・アップ後の追いたてるようなアンサンブルがカッコいい。
「In The Presence Of」(10:24)新しいシンフォニック・ロックのスタイルを提示するドラマティックな力作。管弦との呼吸がすばらしい。
「Time Is Time」(2:08)
「Long Distance Runaround」(3:47)日本版ボーナス・トラック。
(TECI-24077)
Chris Squire | bass, vocals |
Steve Howe | guitars, vocals |
Alan White | drums |
Geoff Downes | keyboards |
Benoit David | lead vocals |
2011 年発表の「Fly From Here」。
十年ぶりのアルバムは、トレヴァー・ホーン、ジェフリー・ダウンズを迎え、「Drama」の続編になるはずであった作品を甦らせた組曲を中心にしたものとなった。
ホーンらしい輪郭の強いサウンド・メイキングが特徴的だ。
トリッキーかつ叙情的な YES 流アンサンブルが随所に現われるのはもちろん、BUGGLES を思わせるパートも散見できるのでマニアには受けそうな内容である。
タイトル組曲を除くとメンバー全員のクレジットがある楽曲は一曲のみであり、明らかにこの組曲のサルベージと完成が主目的のアルバムといえるだろう。
ヴォーカリストには、体調不良のジョン・アンダーソンに代わって、カナダ人のベノワ・ディヴィッドが起用された。
ハイトーンだが独特の苦味がありエキセントリックな表情も駆使したアンダーソンと比べると、透明感や清涼感では勝るが強い存在感はない。
8 曲目は、なぜかグレッグ・レイク風の序盤から YES らしいプレイを交えた快調なメロディアス・ロックへと進む佳曲。
ホーン & ダウンズのコンビによる曲だけあって、エンディングのキレはいかにも BUGGLES 風。
ハウによる 9 曲目もリラックスした調子が却っていい感じになっている。アコースティック・ギターの音が心地よい。
プロデュースはトレヴァー・ホーン。
(MIZP-30001)
アルバムとしてのベストは、やはり 71 年発表の「The Yes Album」、72 年発表の「Fragile(こわれもの)」、73 年発表の「Close To The Edge(危機)」になるだろう。
大曲指向から一転コンパクトな曲でロックのパワーを取り戻した 77 年発表の「Going For The One(究極)」も捨て難い。
YES の大きな特徴である、複雑な楽曲にもかかわらず聴きやすいというところは、アレンジに優れた工夫が凝らされている証拠である。
またそのアレンジにしても演奏にしても、研究と研鑚のたまものだろう。
おそらくたいていのバンドのコピーはできるんじゃないだろうか。
BBC ライヴを聴くと、いろいろな曲をカバーして見事に YES サウンドに仕立てている。
そして多くの成功したバンドの中でも、とりわけ各メンバーの音が個性的。
テナーというより女声に近い讃美歌系美声ハイトーン・ヴォーカルを筆頭に、豪快なピッキングと硬質なナチュラル・トーンが特徴的なテクニカル・ベース、ジャズ/クラシック/カントリーなどを自己流に束ねた掟破りのプレイが信条のギター、クラシックを基礎にした超絶テクニックと海千山千的な見せ場のうまいキーボード、そして天才ジャズ・ドラマーからなるラインアップは今見ても魅力的である。
音楽ルーツ的には THE BEATLES は当然として BIRDS、CSN&Y、VANILLA FUDGE のようなアメリカのグループの影響も大きい。
メンバー皆がテクニシャンだが、とりわけスティーブ・ハウのギターが個性的。
普通のロック・ギターとは違った、リードともバッキングとも区別できない独特のプレイがいっぱいで面白い。
脱退した初代ギタリストのピーター・バンクスに音やスタイルが似ているのも不思議なところだ。
後進(特にアメリカのバンドに多いようだ)の手本足りえる、いまだ現役を続ける元気なオジサン達である。
90 年代に入ってからのライヴ作品「Key To Ascention」を聴いても全然衰えはなく(後日ライヴ録音にスタジオでの編集を加えたという事実を知ってちょっとガックリしましたが)、現代風の音で昔の曲を悠々演奏している。
おまけに新録の曲もいい出来映えだ。「プログレって?」という方には、「まずここから」とお勧めしたいアーティストです。