イギリスを代表するロック・ドラマー「Bill Bruford」。 YES、KING CRIMSON、GONG、GENESIS、NATIONAL HEALTH、U.K. とメジャー・グループを渡り歩いた華麗な経歴の持ち主。 70 年代終盤から自らのグループを率いてジャズロックをプレイする。 80 年代以降は、KING CRIMSON の活動とともにジャズ・グループ EARTHWORKS を結成し、コンスタントに作品を発表する。
Bill Bruford | tuned and untuned percussion, kit drums, tunes and final say |
Dave Stewart | keyboards, reasonably advanced harmonic advice |
Alan Holdsworth | guitars |
Annette Peacock | vocals |
Jeff Berlin | bass |
Kenny Wheeler | flugelhorn |
78 年発表の第一作「Feels So Good」。
初リーダー作品は、カンタベリーのユーモアの代わりにハードな表情を加味した NATIONAL HEALTH 流ジャズロック。
アネット・ピーコックのヴォイスが眼前に飛び出すとその不気味さに一歩退きそうになるが、全体として、クールなテクニックの応酬にほのかな詩情/ロマンチシズムの漂う傑作となった。
冒頭の挑戦的な変拍子ジャズロックでは、アグレッシヴな姿勢を見せる一方で、レガートなギターとシャープなリズムの鮮やかな対比をオルガンが縁取るなど、シンフォニックな余韻をはらませることにも怠りない。
鋭すぎるリズムとギターの応酬にエキサイトした後は、ピーコックのドリーミーなヴォイスとホイーラーのリリカルなホーンが癒しの空間を用意する。
また、ヴァイブやパーカッションを駆使して凄まじい技巧を遠慮なく放つ、明らかに打楽器主導の展開も多い。
本作の後、ブルフォードは U.K. 結成へと向かうため、当然ながら U.K. の第一作に通じる音がそこここにあり、共通する雰囲気もある。
特に、アグレッシヴでミステリアスな場面は、そういう印象が強い。
そう、うっすらと白霧におおわれたような幻想味は、音響そのものの透明感とは裏腹に、本作品の持ち味だ。
また、タイトル・ナンバーは、スチュアート・ガスキンを思わせるポップなカンタベリー・サウンドの代表曲。
この愛らしいテーマがブルフォード氏の手になるのだから、作曲者としても、どうして並々ならぬセンスである。
そして、スチュアートがポリ・シンセサイザーとともに HATFIELDS を思わせる音を放つとくれば、どうしたって頬が緩むはず。
音の密度や速度だけではない、デリケートなジャズ・アンサンブルの妙味を放つ佳作であり、70 年代初頭から SOFT MACHINE や BRAND X らによって試みられたブリティッシュ・ジャズロックの旅路に燦然と輝く逸品である。
個人的には、このメンバーでもう何枚かアルバムを作ってもらいたかった。
プロデュースはロビン・ラムレイ。ニール・マーレイやジョン・グッドソールらも一部参加しているようだ。
個人的には RETURN TO FOREVER への意識が強い作品だと思う。
「Beelzebub」(3:22) ごく個人的に、ホールズワースといえば本作品の演奏のイメージあり。挑戦的な変拍子ジャズロック。
「Back To The Beginning」(7:25)
「Seems Like A Lifetime Ago(Part One)」(2:31)
「Seems Like A Lifetime Ago(Part Two)」(4:29)
テクニカルにエキサイトしてゆく名作。
「Sample And Hold」(5:12)
「Feels Good To Me」(3:53)スチュアートのキーボードが冴える、ポップなカンタベリー・サウンドの名作。
ジョン・グッドソールが客演しているそうだ。間奏後半部のピアノの演奏がやや荒っぽいが、この弾き飛ばし感も魅力か?
「Either End Of August」(5:24)ホイーラーのホーンが KING CRIMSON でのチャリグのコルネットを思い出させるロマンティックな作品。
「If You Can't Stand The Heat...」(3:26)
「Springtime In Siberia」(2:44)ホイーラーのホーンがやわらかく響く佳品。次作の「サハラ」といい、アイロニカルに迫ろうとしているかのようなタイトルの効果は微妙。しかし曲は美しい。
「Adios A La Pasada(Goodbye To The Past)」(8:41)
(EGCD 33)
Bill Bruford | drums, percussion |
Alan Holdsworth | guitar |
Dave Stewart | keyboards |
Jeff Berlin | bass, vocals |
guest: | |
---|---|
Sam Alder | narration on 5 |
Norman Taylor | voice on 5 |
79 年発表の第二作「One Of A Kind」。
クールな大傑作であった第一作に続く本作は、一言でいうと「NATIONAL HEALTH によるテクニカル・フュージョン」もしくは「ジャズロック型 U.K.」。
カンタベリー・スタイルと、KING CRIMSON、YES らに端を発し U.K. がまとめあげた幻想的なプログレ・サウンドが融合した大傑作である。
U.K. を離れたブルフォードが、第一作のメンバーと再会(スチュアートはこの時期 NATIONAL HEALTH を脱退している)して録音された。
全体演奏のテーマがアメリカンなフュージョン・タッチになると、英国プログレの陰鬱なロマンチシズムとは離れるような印象もあるが、演奏そのものは、サウンド、リズム、アンサンブル、ソロ、すべての面で技が尽くされた驚異的なものである。
ブルフォードは、エレクトリック・ドラムスも積極的に用いている。
そして、挑戦的な変拍子を操るばかりか、作曲家としても才能を発揮している。
5 曲目「Fainting In Coils」は、幻想的な空気と余韻をたたえた名作といえるだろう。
アグレッシヴなサウンドにもかかわらず哀愁と洒落っ気があり、ブリティッシュ・ロックらしい魅力を放っている。
8 曲目「Forever Until Sunday」も、優美なヴァイオリンからシンフォニックなキーボードが高まる、U.K. といっていい力作だ。
そして 9 曲目からの組曲「The Sahara Of Snow」も、ブルフォードの作品(後半はエディ・ジョブソンとの共作)として永遠に残る名作。
やはり本作は U.K. の三作目か、いや "Discipline" CRIMSON はここから始まったのか、なぞとあらぬ妄想も浮かんでしまう。
強圧的にしてロマンあふれる逸品だ。
作曲の先生と思われるスチュワートは、抜群のテクニックに加えて幻想夢の BGM のようなシンセサイザーなどきわめて多彩な音色を駆使して、ドラムスとともに楽曲の枠組を支える。
記名性という意味でも傑出したパフォーマンスである、
ホールズワースは、音階や和声という点できわめて個性的な(非ギター的な)プレイを見せるが、素人にはその特異さ加減がややワンパターンに聴こえてしまうところもある。
弾け過ぎるというのも悩ましいことだ。
また、この頃からベーシストもギター並の技巧で注目されるようになるが、このバーリン氏もそういう新時代のベーシストの一人といえる。
スチュワート/ガウエンによる 1 曲目は、カンタベリー・シーンへのオマージュ兼あいさつ代わりなのかもしれない。
全体としては、英国ジャズロック作品を代表する一枚といえる。
ノン・クレジットだがエディ・ジョブソンが、客演(CD 8 曲目の導入部でしょうか)しているとのこと。
全編インストゥルメンタル。
「Hell's Bells」(3:33)7+7+5/16 拍子のリフが印象的なファンタジック・チューン。ブルフォード/ガウエン作。
「One Of A Kind part one」(2:20)
カンタベリー・ジャズロックらしい名品。
機知に富みながらも安定感あふれる演奏だ。
エレクトリック・ピアノ、レゾナンスを効かせたシンセサイザーなどキーボードの音も魅力的。
そしてこのタム回しの音、間違えようがない。
ブルフォード作。
「One Of A Kind part two」(4:04)
パート 2 は即興風のアンサンブルからスタート。
挑発的なギター、受け止めるエレピ、何気なく超絶技巧を放つベース。ドラムスは、おとなしいのだが意地悪くパターンを変化させる。
ブルフォード/スチュアート作。
「Travels With Myself - And Someone else」(6:13)
ドリーミーなナイト・ミュージック風の作品。
美しくさえずるムーグ・シンセサイザー、デイヴ・スチュアートらしからぬロマンティックなピアノ。
クライマックスで弾けるシンセサイザーの和音の響きは、この時期になって現れたものだ。
キーボードがリードする後半の展開は、カンタベリーらしいウィットと活気があるもの。
ブルフォード作。
「Fainting In Coils」(6:33)
音像が大きく揺れ動くようなイメージの過激でドラマティックなヘヴィ・ジャズロック。
中盤 PROCOL HARUM のようにリリカルな瞬間が訪れる。
思い切りジャジーなソロ・ピアノを凶暴なシンセサイザー、ギターが切り裂いてゆく。
ブルフォード作。
「Five G」(4:46)
前半は、荒々しくもしなやかにひた走り、後半は、爆発的なギター・アドリヴ。
若干、メローな旋律も現れるが、基本的には、ISOTOPE のような硬派のテクニカル・ジャズロックである。
バーリン/スチュアート/ブルフォード作。
「The Abingdon Chasp」(4:54)
RTF 風のわりとストレートなテクニカル・フュージョン。
ややラテン調になってからのキーボードがカッコいい。
ホールズワース作。
「Forever Until Sunday」(5:51)
序盤は、ジャンリュック・ポンティ風のリリカルなエレクトリック・ヴァイオリン、そして珍しく緩やかに朗々と歌うギター。
これで最後?と思います。
ブルフォード作。
「The Sahara Of Snow part one」(5:18)ピアノによる挑戦的な変拍子リフレイン、ワイルドなリズムに小気味よくマリンバが弾む。
モーダルなギターの調べが最高潮で美しい和声へと弾け、シンセサイザー・シーケンスが渦を巻く。
どう聴いても U.K. である。 ブルフォード作。
「The Sahara Of Snow part two」(3:24)
鋭いミドルテンポで進む終章。ギターが叫び、オルガンがつぶやく。
ブルフォード/ジョブソン作。
(EGCD 40)
Bill Bruford | drums, percussion, electric chat |
Dave Stewart | electric keyboards |
Jeff Berlin | bass |
The Unknown John Clark | guitar |
79 年発表の作品「The Bruford Tape」。
79 年ニューヨークでのライヴ録音。この内容を目の前で見られたというのは幸運以外の何ものでもない。
(現在は DVD で様子を味わうことができる)
2 トラック録音なので音質はスタジオ盤には及ばない(バランスはいい)が、呆れたことに、この小難しい作品をスタジオ盤そのままに再現したうえに、ハイテンションで即興もバンバン交えるという離れ業を演じている。
デイヴ・スチュアートの力強いキーボード・サウンド・メイキング、あまりにキレる個性的なドラミング、超絶的なベース・プレイ、すべてが一体となって真正面からぶつかってくる。
知的な興奮とスリルにあふれた理想的なパフォーマンスだと思う。
テクニカル・ロックの極致である「Red」のままのブルフォードが、フュージョンという文脈でも唯一無二の存在感を示している。
じつに痛快だ。
そして、さらに驚くのは、ヨーロッパ・ツアー直前に現れてホールズワースの代役を完璧に務めた恐るべき「無名の」ジョン・クラーク。
「Fainting In Coils」のプレイが代役だとは信じられない。
英国スタジオ・ミュージシャンの層の厚さにただただ驚愕である。
Winterfold Record からの CD はボーナス・トラック「The Age Of Information」付き。
「Hell's Bells」()「One Of A Kind」より。
「Sample And Hold」()「Feels So Good」より。
「Fainting In Coils」()「One Of A Kind」より。
「Travels With Myself - And Someone else」()「One Of A Kind」より。
「Beelzebub」()「Feels So Good」より。
「The Sahara Of Snow part one」()「One Of A Kind」より。
「The Sahara Of Snow part two」()「One Of A Kind」より。
「One Of A Kind part two」()「One Of A Kind」より。
「5g」()「One Of A Kind」より。
「The Age Of Information」()ボーナス・トラック。80 年ボストン録音。ヴォーカルが入るとアメリカのプログレ・バンドの発掘もののようだ。
(BBWF006CD)
Bill Bruford | acoustic & electric drums, percussion, whirled instruments |
Django Bates | keyboards, E♭tenor horn, trumpet |
Iain Ballamy | soprano, alto, and tenor sax |
Mick Hutton | acoustic bass |
86 年発表の作品「Earthworks」。
KING CRIMSON 終焉とともにソロ活動へと戻ったブルフォードは、ジャズへのアプローチを深めてオリジナル・グループ EARTHWORKS を結成する。
本作はその第一作であり、その内容は、快調なジャズロック/フュージョンと、打楽器をフィーチュアしたアヴァンギャルドな作品がこん然となった意欲的なものである。
INCAHOOTS や Hugh Hopper BAND らのサウンドに、メイン・ストリーム風の洗練されたテーマを重ねたようなイメージである。
これもカンタベリーの発展形の一つだろう。
ベースはアコースティックのみであり、ピアノなど 60 年代風のジャズ然とした演奏が顔を出す瞬間もある。
しかしながら、エキゾチックな音使いやエレクトリック・ドラムスなどは、いかにもこの時期のものだ。
これらの刺激的な音に、管楽器のメロディアスにして存在感あるオーソドックスなプレイが重なるところがユニークだ。
プロデュースとキーボード客演としてデイヴ・スチュアートがクレジットされており、エレクトリックなビートの処理は、彼の手腕によるところが大きいと思う。
プロデュースは、デイヴ・スチュアートとブルフォード。
「Thud」(4:10)
「Making A Song And Dance」(5:52)
「Up North」(5:19)本グループのキャッチーな代表曲。懐かしい音です。
「Pressure」(7:25)かつての BRUFORD を思わせるハード・チューンだが、真ん中にいきなりピアノ・コンボが入る。
奔放なドラミングが痛快な力作だ。
「My Heart Declares A Holiday」(4:35)エレクトリック・パーカッションによる変拍子パターンがもろに CRIMSON な作品。全体としては NATIONAL HEALTH を思い出す音だ。
「Emotional Shirt」(4:45)パワフルなフリー・ジャズ。ベイツの作品。
「It Needn't End In Tears」(5:04)
「The Shepherd Is Eternal」(1:50)
「Bridge Of Inhibition」(4:15)エキゾチックな超絶技巧曲。
(EEGCD 48)
Bill Bruford | acoustic & electric drums, percussion, whirled instruments |
Django Bates | keyboards, E♭tenor horn, trumpet |
Iain Ballamy | soprano, alto, and tenor sax |
Tim Harries | acoustic bass, fretless bass |
89 年発表の EARTHWORKS 第二作「Dig ?」。
技巧派アヴァンギャルド、ワールドミュージック・フュージョンという面を見せつつも、前作よりもさらにメロディアスなモダン・ジャズ風味を強めた作品。
音的な主役はフロントの管楽器であり、ブルフォードはサイドに控えて、ロック的なビートとフィル、サード・ワールド調のエレクトリック・ドラムスを駆使して、テンポや調子の変化など音楽的なにらみを効かしている。
とはいえ、音の表層は、スチール・ドラムスとふくよかな管楽器のテーマによるカリブの燦燦たる太陽と海のブリージンなイメージである。
このやわらかくも健やかで官能的というほどには汗っぽくないサウンドは、まろやかな管楽器に加えて、ベイツのキーボードが、何気なくもツボをおさえたプレイで画竜点睛するおかげだろう。
オルガンもいい。
その爽やかで豊かな音に硬軟さまざまなアクセントを散りばめるのも、ブルフォードのパーカッションである。
しかしながら、最後から 2 曲目「Libereville」は、本作を特徴つけるコロニアル/カリビアン・テイストのソフトなオープニングをもつ(ナベサダすら頭をよぎる)にもかかわらず、中盤からは、きわめて挑戦的な演奏となり、ブルフォードならではの世界が繰り広げられる。
この一曲のために本作はある、といっていいかもしれない。
確かにジャジーだが、いわゆるモダン・ジャズらしいスリルやノリはあまり感じられず、きわめてメロディアスな管楽器が貫くコアを取り巻いて、音をにじませたり捻じ曲げたりしているようなイメージである。
フュージョン、と言い切りにくいタッチである。
奇妙に歪んだイージー・リスニングという趣であり、やはり独特の、というかカンタベリーらしい、アヴァンギャルドな色合いがある。
「Downtown」のアレンジ、いや変奏曲というべきか、なんて、かなりプログレ。
カテゴライス不能に近い音であり、カンタベリー・ファン、フリー・ジャズ・ファン、ザッパ、ユーロ・ジャズ・ファンにはお薦め。
プロデュースは、アダム・モズレイとブルフォード。
「Stromboli Kicks」(5:33)
「Gentle Persuasion」(4:21)
「Downtown」(5:48)
「Pilgrim's Way」(6:20)
「Dancing On Frith Street」(4:19)
「A Stone's Throw」(6:04)
「Libreville」(6:10)
「Corroboree」(4:44)
(EEGCD 60)
Bill Bruford | electric, acoustic & chordal drums |
Django Bates | keyboards, E♭peck horn, trumpet |
Iain Ballamy | sax |
Tim Harries | acoustic & electric bass |
91 年発表の EARTHWORKS 第三作「All Heaven Broke Loose」。
内容は、カリビアン/ワールド・ミュージック調の管楽器アンサンブルを目まぐるしい変拍子が支える個性的な「ジャズロック」。
南国の涼風の如くなよやかな二管をキーボードの多彩な音が取り巻き、挑戦的なパーカッションが雨あられと降りかかる。
エレクトリック・ドラムスによるキーボードばりの音響効果も無理なく楽曲にしみわたる。
ジャンゴ・ベイツのフリー感覚あふれる幻想的なピアノもいい。
叙情的な表現の完成度は、前二作を凌ぐだろう(これはベイツの作曲能力に負うところ大である)。
アヴァンギャルドにしてメローの極みという実験的ユニットの集大成といえるみごとな作品だ。
上ものだけ聴いていると、時にチャック・マンジョーネを思い出しますが。
プロデュースは、デヴィッド・トーンとブルフォード。
色彩感と広がりある音響は、トーンのセンスによるところも大だろう。
「Hotel Splendour」(4:41)
「Forget-Me-Not」(8:26)
「Candles Still Flicker In Romania's Dark」(4:35)
「Pigalle」(6:31)
「Temple Of The Winds」(5:00)
「Nerve」(6:09)
「Splashing Out」(5:23)
「All Heaven Broke Loose」(9:23)
(EEG 2103-2)
Bill Bruford | electric, acoustic & chordal drums |
Django Bates | keyboards, E♭peck horn |
Iain Ballamy | sax |
Tim Harries | acoustic & electric bass |
94 年発表の作品「Bill Bruford's Earthworks Live - Stamping Ground」。
変拍子、エレクトロニクス、カリビアン・テイスト、ノイズ、無調、不協和音などなど、モダン・ジャズから逸脱しつつも(モダン・ジャズとは「逸脱」そのものである、ともいえようが)、グルーヴィでなめらかなタッチを貫く好演である。
ノスタルジーの魔法をふりかけた上品なブルーズ・テイストと溌剌としたフュージョン・タッチのブレンド具合も絶妙。
バラミーのサックスとベイツの鍵盤の即興もしゃきっと筋が通っており、互いの反応もいい。
ジャズというのはスタジオ盤が存在せず、すべてがライヴ盤なのだ、と再確認した。
ベスト盤としても機能する。
「Nerve」(6:07)
「Up North」(5:20)
「A Stone's Throw」(8:26)
「Pilgrim's Way」(8:45)
「Emotional Shirt」(6:01)
「It Needn't End In Tears」(8:02)
「All Heaven Broke Loose」(7:46)
「I. Psalm」
「II. Old Song」
「Candles Still Flicker In Romania's Dark」(6:41)
「Bridge Of Inhibition」(10:58)
(CAROL 1893-2)
Bill Bruford | drums, percussion, a little keyboards |
Tony Levin | basses, stick |
David Torn | guitars, loop |
Chris Botti | trumpet |
97 年発表のアルバム「Bruford Levin Upper Extremities」。
90 年代初頭、離合集散を繰り返す YES を経て、再始動した KING CRIMSON と合流、即興演奏を極めるアプローチの末に、積年の名パートナー、トニー・レヴィンと本作を製作する。
デヴィッド・トーンの傑作「Cloud About Mercury」の「裏」アルバムのようなイメージもあるが、本作は、間違いなく個性的なアヴァンギャルド・ジャズロックの傑作である。
KING CRIMSON のリズム・セクションの圧倒的威力、そして、それに敢然と挑むトーン、ボッティ。
ブルフォードによる傲慢なまでの変拍子パターンの追撃は、もはや感動的である。
そして、スペイシーにしてモノトーンの幻想美、インダストリアルな凶暴さ、冷ややかなロマンティシズム、煮えたぎる剛の衝突らが、不思議なことに次第に精神を落ちつかせ、やがてしっとりとした余韻を残す。
ドラムスティックのような棒でベースを打弦するプレイや、ボウイング、ベースとドラムスの融合体のような新楽器を使うなど、レヴィンもアイデアを駆使している。
クリス・ボッティのトランペットがあるが電化マイルスと違ってアシッドなファンク感覚やサイケデリックな色調はなく、80年代 KING CRIMSON と同質のエスニック、インダストリアルなタッチとミニマル・ミュージック的な面が強い。(そのリズム・セクションがそのままいるのだから当然といえば当然)
つまり、ロックな部分の解釈が異なるような気がする。
したがって、トランペットの音は、ほんの一部でマイルスっぽさも見せてはいるものの(どちらかといえば、ファンクではなくモダン・ジャズ調である)、基本は、常に ECM の作品のようなクールなリリシズムを湛えている。
パーシー・ジョーンズ/マーク・ワグノンの TUNNELS のファンはぜひ。
ジャズ・ファンは、こういう音に興味を持てるかどうかで自分の頭のやわらかさが判断できると思います。(固くて悪いということはありません、もちろん)
KING CRIMSON によるドラムンベース、ゲストはマイルス・デイヴィス、そんな感じです。
「Cerulean Sea」(7:07)インダストリアルかつミニマルな作品。アヴァンギャルドです。
「Interlude」(0:24)
「Original Sin」(4:56)トランペットが映える。ノイジーなギターが吼える。
「Etude Revisited」(4:58)ハードロック風のジャズロック。
「A Palace Of Pearls」(5:37)映像的ロマン。名曲です。メロトロンが鳴り響いてもよかった。
「Interlude」(0:20)
「Fin De Siecle」(5:24)80' CRIMSON を思わせる凶暴なポリリズム・チューン。トランペットの旋律が奇妙なのどかさをかもし出す。
「DrumBass」(:59)
「Cracking The Midnight Glass」(6:07)
「Torn DrumBass」(:56)
「Think With Thin Air」(3:30)
「Cobalt Canyons」(3:59)
「Interlude」(0:30)
「Deeper Blue」(4:16)
「Presidents Day」(6:28)
(PCCY-01226)
Bill Bruford | drums |
Tony Levin | bass, stick |
David Torn | guitars, loops, oud |
Chris Botti | trumpet |
99 年発表のアルバム「BLUE Nights」。
「BRUFORD LEVIN UPPER EXTREMITIES」の全米ツアーを収録したライヴ・アルバム。
インプロヴィゼーションを含む新曲が 4 曲あり。
CD 二枚組。
「Piercing Glances」(7:54)新曲。
「Etude Revisited」(5:24)
「A Palace Of Pearls (On A Blade Of Grass)」(5:58)
「Original Sin」(8:14)
「Dentures Of The Gods」(6:25)新曲。
「Deeper Blue」(6:32)
「Cobalt Canyons」(7:30)
「Fin De Siecle」(5:46)
「Picnic On Vesuvius」(9:28)新曲。
「Cerulean Sea」(7:03)
「Bent Taqasim/Torn DrumBass」(5:40)
「Cracking The Midnight Glass」(6:53)
「Presidents Day」(6:47)
「3 Minutes Of Pure Entertainmen」(10:54)新曲。
(PCCY-01435)
Bill Bruford | drums |
Patrick Clahar | tenor & soprano sax |
Steve Hamilton | piano, keyboards |
Mark Hodgson | bass |
99 年発表のアルバム「A Part, And Yet Apart」。
新編成の EARTHWORKS による アコースティック・ジャズ・アルバム。
透明感のあるスムースでスタイリッシュな「ジャズ」・サウンドがなかなか新鮮。
しかし、一曲目の展開ですぐに変拍子マニアぶりが明らかになる。
いわゆる 4 ビートはオマージュを含めて一つの「シーン」として機能している。
そして、テーマとソロといった枠組みにはあまり拘泥しないアンサンブル志向であり、また作曲重視であることなどから、モダン・ジャズのサウンドを拝借したユニークな音楽といったほうがよさようだ。
ドラムスのプレイは、変拍子にしてもシャープすぎるリズム・チェンジにしてもモダン・ジャズにはあり得ない目立ち方だし、フュージョンと思って聴くとプログレに聞こえてくる。
このドラムスと対照させるためか、他のメンバーは、サキソフォニストを筆頭にオーソドックスなプレイをこなすタイプのミュージシャンのようだ。
地味ではあるが、音は引き締まっているし、時おり要求(!?)されている変拍子のフレーズもきっちり決めてくる。
ただし、ジャンゴ・ベイツのような変り種はいない。
奔放さはドラマー一人が発揮している。
ジャズらしい意匠と枠組を提示して、ドラマーが執拗かつエレガントな変拍子でそれを突き崩して楽しむ、いわば、砂山の砂を少しづつ取っていって倒れる瞬間を固唾を呑んで待つ、そういう趣向なのかもしれない。
カンタベリーの DNA は、シニシズムとユーモアのための酵素を元気に作り続けているようだ。
ジャケット・アートもセンスあふれるものだ。
今の自分には、80 年代のエレクトリック・ドラム時代の音楽よりも、本作の「アコースティック・ドラムスを使ったジャズに似た独特の音楽」に魅力を感じます。
ただ、かつてはテクノロジーの制約から思いを遂げられなかった可能性もあるので、もし今ならそのくびきから逃れられるのならば、ぜひもう一度エレクトリック・ドラムスに挑戦してもらいたい、とも思います。
「No Truce With The Furies」(4:50)変拍子リフと鋭いリズム・チェンジを繰り広げるも、あくまでスタイリッシュでキャッチー、なおかつ開放感のある好作品。
「A Part, And Yet Apart」(5:30)ロマンティックなタッチとスリルがバランスした洒脱な作品。ソプラノ・サックスがリードする。
「Some Shiver, While He Cavorts」(4:06)4 ビート・ジャズを変拍子で執拗に突き崩す。テナー・サックスがリード。
「Footloose And Fancy Free」(6:35)5 拍子独特の前のめり、加速感。7 拍子の宙づり感。
盛りだくさんの変拍子ジャズロック。
「Sarah's Still Life」(7:02)ピアノが支えるセンチメンタルなバラード。
「The Emperor's New Clothes」(5:25)思い切り明快な(とはいえピアノのリフは裏拍シンコペーションの独特のノリ) 7 ビートのカンタベリー・ジャズロック。後半のピアノ・アドリヴがクール。
「Curiouser And Curiouser」(3:49)どこかミステリアスなイメージの小品。
曲名は不思議の国のアリスの有名な台詞より。比較級の誤用。
「Eyes On The Horizon」(5:03)4 ビート、ランニング・ベースのモダン・ジャズ。サックスとピアノが華やかに交歓する。
ドラムス・ソロも。王道も悪くない。
「Dewey-Eyed, Then Dancing」(5:33)詩的で希望溢れるフュージョン。
(DGM 9905)