イギリスのジャズロック・グループ「BRAND X」。 75 年結成。 80 年解散。92 年、2015 年に再結成。作品は九枚。 70 年代イギリス・ジャズロック・シーンを代表するグループであり、一流スタジオ・ミュージシャン集団による技巧とエキゾチックな神秘性に満ちたサウンドが特徴。 アメリカの先達への敬意とライバル意識は、英国流のヒネクレの効いた洒脱なグループ名に明らか。
Percy Jones | bass |
John Goodsall | guitars |
Robin Lumley | keyboards |
Phil Collins | drums |
Jack Lancaster | wind |
76 年発表の第一作「Unorthodox Behaviour」。
英国ロック畑のハイテク・ミュージシャンが集まり、時代の音であった「クロスオーヴァー・フュージョン」という土俵の上で勝負を挑んだ快作。
様式はアメリカの音の踏襲に近いが、真っ向勝負の緊張感とロック寄りのパワー、弾力性、さらには英国/ヨーロッパ的な陰影も活かされて、いわゆるフュージョンとは一線を画する、硬質で暗い色彩をサウンドになっている。
ハードロックを加速したようなハイテク・ギター、スリリングなフィルで演奏をドライヴするドラムス、看板ともいえる摩訶不思議なフレットレス・ベース、そして丹念に隙間をうめてゆくキーボード・ワークまで、すべてのプレイがハイレベル。
どうしても明るく突き抜けず、内に向かって収斂してゆくような演奏がいかにもイギリスのグループらしく、聴けばすぐに BRAND X だと判別できるサウンドが確立されている。
フュージョン系のグループでこういう個性は希ではないだろうか。
プロデュースはグループとデニス・マッケイ。
全曲インストゥルメンタル。
なお、グループ名は、TV CM などで他社製品との比較を行う際に、特定他社の名前を出して名誉毀損訴訟になるのを避けるため、社名を隠すカバーやシールに「BRAND X(X 社製)」と書かれていたことに由来するようだ。(また、このことを逆手にとって宣伝に使った BRAND X という洗剤の会社が実際にあったらしい)
「Nuclear Burn」(6:23)
テクニックを見せつけるド派手にして硬派なジャズロック。
冒頭から個性的な変拍子フレージングを駆使するハイテク・ベースと音数勝負のドラムスのリードでエネルギーをため込み、ギターのテーマをきっかけに爆発、前傾のまま転げてゆくように凄まじい演奏を繰り広げる。
ギターによるせわしなくもほのかにスパニッシュなテーマとその余韻は、明らかに中期 RETURN TO FOREVER からのものだ。
いわゆる「フュージョン」よりも遥かにインパクトがあるのは、メロディに安住せずにキメのフレーズへ向けて容赦なく押し捲るからだろう。
また、審美センスあるキーボードのプレイには、アメリカのフュージョン・グループとは異なるファンタジックなプログレ滋味が感じられる。
中盤、ブリッジ風のアンサンブルに我慢ならないかの如く猛り狂うドラムスに感動。
そして、ビジーなベース・リフから始まる終盤のジャムは、楽器同士の呼応が熱気へと変化し、炎のようにみるみる全体へと燃え広がってゆく。スリル満点。
変拍子のテーマをもつれるように速射するタイトル通りのこの爆発力は、イタリアの AREA や後期の KING CRIMSON を連想させる。
「Enthanasia Waltz」(5:42)
ドリーミーな音響とテクニカルなプレイが品よく調合された、抒情味あるジャズロック。
ふくよかな 12 弦アコースティック・ギター、ファンタジックな余韻を響かせるエレクトリック・ピアノらによる優美な演奏が、シャープなリズムととけあってロマンを生み出す名品である。
テーマはメローな和声によるが、メロディではなく和音の響きに依存しているために「含み」を感じさせ、「快適リゾート・フュージョン」からは百万光年ほど離れたストイックで芸術的な世界になっている。
あまりブルーズ的でないエレクトリック・ピアノのソロもこの幻想味あふれる世界の重要な構成要素だろう。
3 連を刻み捲くる精密かつ攻撃的なドラミングにも注目。
中盤、アンサンブルが次第に加熱してベースが弾け捲くる。
RETURN TO FOREVER と同種の緊張感とそこからの解放のカタルシスがある。
クールなサウンドの感触が U.K. の第一作に通じるような気もする。
コリンズのドラムスは通常硬めにチューンしてあると思うが、ここでのタムは音がやや緩めであり、そのせいでタム回しの感じがブルフォードに似て聴こえるせいかも知れない。
三作目のライヴ・アルバムにも取り上げられた傑作であり、代表作のひとつ。
「Born Ugly」(8:15)
ほぼ即興に近いジャム作品。
前半は、ファンキーなリフを主体とした「柔らかめのハービー・ハンコック」といった感じのフュージョン調である。
跳ねるリズム主体の演奏に、愛らしくもこまっちゃくれたアコースティック・ピアノのテーマが映える。
何気なく決める超絶ユニゾンがみごと。
最も面白いのは、演奏に奇妙に抽象的なイメージがあるところだ。
ノリはいいが、そのグルーヴを何かに還元しようとすると一筋縄ではいかない。
ピアノに導かれてメローでエモーショナルな世界も見えてくるが、再び原色ファンクに取り込まれる。
ブリッジを経て、ギターのリードで荒々しいアンサンブルがスタート。
後半からはさらに即興風になり、やや冗漫なスペース・ジャズロックへと突入。
それでも、緊張と弛緩が交互に訪れて、メリハリはある。
きっかけがあると、ギターを軸に瞬時にハイテンションの全体演奏へとまとまる。
鮮やかな技巧だ。
次第に分かってきたが、四人でこの音数の多さというのも凄い。
ドラムスは、ときおり目のさめるようなプレイを見せる。
寸鉄を放つギターの音は「Wired」ジェフ・ベックを連想させる。
「Smacks Of Eurhoric Hysteria」(4:30)
粘っこいギターのテーマとエレクトリック・ピアノのリズミカルなバッキングを軸に、即興風の過激な変転を盛り込んだ野心作。
挑戦的なタム回しとフィルインが、眠り込みそうになる演奏をたたき起こすように、安定点で落ちつこうとする演奏を拒絶するように、荒々しく場面展開を促してゆく。
後半、シンセサイザーが口火を切るギターとのやり取りは、ともにさほど目立ちたがりではないながら、知的でクールでテクニカル。
特にシンセサイザーのつややかな音色と上品で丹念なポルタメントやピッチ・ベンド・プレイがいい。
歌わせ方がうまいといえばいいのだろうか。
終盤は変拍子による頭のくらくらするようなアンサンブル。
曲としてはやや脈絡がぶっ飛んでおり、初めと終わりで別の曲のような趣である。
「Unorthodox Behaviour」(8:29)
リズム・セクションがファンキーなグルーヴを作ってタイム・キープはするが、インプロヴィゼーションに近いせいか、結局最後までアンサンブルらしいアンサンブルには収束せず、張りつめたような緊迫感もない。
その代わり、色彩感のある穏やかさとほのぼのとしたユーモアに満ちており、聴き心地はいい。
マリンバはラムレイ氏のプレイだろうか。(モーリス・パートはまだいないはず)
初期 RETURN TO FOREVER風のスペイシーな即興をイギリス人がやるとこうなる(それは「Moonchild」のことか?)、あるいは百戦錬磨のスタジオ・ミュージシャンによる「賄い膳」的即興ジャムか。
「Running Of Three」(4:38)
弾けるような前のめりのリズムを強調したハード・ジャズロック。
ブレイクをはさんだスタッカート気味のテクニカルなユニゾンと、メロディアスなテーマを対比させつつ、過激に突き進む痛快な演奏である。
やたらと音の多いベース・リフ/オブリガートと挑発的なドラムスは変わらず我を張るが、ここでは、ギターがその上をいって展開をリードし、タガがぶっ飛んだように弾き捲くる。
終盤は、どうやったら呼吸を合わせられるのか不思議になるほどストップとスタートを繰り返す、技巧的な演奏が続く。
地味ながらもシンセサイザーの暗くつややかな音色がここでも活きている。
「Touch Wood」(3:04)
オリエンタル趣味の即興風アコースティック・アンサンブル。
ギターはアコースティック、ピアノもアコースティック、ベースもダブルベースのようだ。
Virgin もしくは Island レーベル風の薄墨を流したような色合いのニューエイジ・サウンドは、本アルバムでは異色である。
ソプラノ・サックス担当はジャック・ランカスター。
完成度の高い独特のハイテク・ジャズロック作品。
独特のテンションとせわしなさをもつリズム・セクションを筆頭に、どのプレイヤーも極めて高度な技巧を誇る。
そして、最も特徴的なのは、深海の暗闇で蛍光を放つ微生物が伸縮するようなイメージを与える、謎めいたアンサンブルである。
いわゆる超絶技巧という言葉から連想されるような演奏にはない、奇妙な穏やかさと妖しい非現実感が魅力だ。
「引き」のうまさというのだろうか。
侘び寂びという感じもある。
もしくは、いかにもイギリスらしい翳りのあるグルーヴということだろう。
そして特に印象的なのはリズム・セクション。
こねくり回すようなフレットレス・ベースのプレイと、弾け飛ぶようにフィルを入れ、タムタムを叩きまくるドラムスは、テクニカルであると同時にきわめて個性的だ。
キーボーディストは、ツボを心得ており、最小の音で最大の効果を出す腕の持ち主。
プロデューサーとしてもセンスを発揮しているにちがいない。
ミステリアスでトリップできる即興アンサンブルのおもしろさは随一だろう。
(CAS 1117 / CASCD1117)
Jack Lancaster | wind |
Robin Lumley | keyboards |
John Goodsall | guitars |
Percy Jones | bass |
Philip Collins | drums |
Bernie Frost | vocals |
Morris Pert | percussion |
Simon Jeffs | koto |
76 年発表の「Marscape」。
ロビン・ラムレイとジャック・ランカスターの企画/作曲による「映画のないサウンド・トラック・ミュージック」。
BRAND X のメンバーを総動員していることから明らかなように、音楽的にはファンタジックでやや神秘的なジャズロックである。
パーシー・ジョーンズのフレットレス・ベース、グッドソールの超絶速弾きアコースティック・ギターなど記名性の高いプレイがバンバン出てくる。
キーボードは意外なほどアコースティック・ピアノが多い。
叙景的な音楽だけにキーボードに加えてパーカッションや管弦楽器も数多く使われている。
ピアノと変拍子オスティナートが強調されてスキャットが重なると、軽めの MAGMA といった趣も生まれる。
劇判という性格上、効果音のような作品もあるがごく一部である。
リラックスした曲調もあり、全体としてはニューエイジ・ミュージックを先取りしたようなジャズロックといえるだろう。
(OZ 005-2)
Percy Jones | bass |
John Goodsall | guitars |
Robin Lumley | keyboards |
Phil Collins | drums |
Morris Pert | percussion |
77 年発表の第二作「Moroccan Roll」。
パーカッションに SUN TREADER の名手モーリス・パートを迎え、五人編成となる。
内容は、神秘的な音響美と「第三世界」のエキゾチックなテイストを導入した技巧的ジャズロック。
RETURN TO FOREVER 風のラテン・テイストに代えて、流行し始めたワールド・ミュージック調と PINK FLOYD 流のスペース・サウンドを取り入れ、ユニークなサイケデリック・ジャズロックをぶち上げた。
ヴォーカル、ヴォイスのフィーチュアも新機軸である。
エキゾチズムから自然に染み出てくる叙情味とアクロバティックな演奏との相性はいい。
全体に前作よりも「引き」のセンスが発揮されていると思う。
作曲は、モーリス・パート以外の四名で分け合い、各自のソロが冒頭に散りばめてある。
白眉はジョーンズ作のハード・ジャズロック「Malaga Virgen」。
プロデュースはデニス・マッケイ。
ジャケットはヒプノシス。
ちなみにパートの眼鏡とマイク・ラトリッジの眼鏡が似ている。
「Sun In The Night」(4:25)なんとなくジョージ・ハリソン風のスローなエスニック・チューン。
サンスクリット語のヴォーカル入り(コリンズか?)。
新加入のパートのパーカッションがフィーチュアされている。
グッドソールのシタールはギターのときと手癖が同じ。
グッドソールの作品。
「Why Should I Lend You Mine」(11:16)薄暗い空間で繰り広げられる即興主体らしき謎めいた大作。
パーカッション、エレクトリック・ピアノ、ギター、ベースらによる余韻に縁取られた音が、いかにも BRAND X らしい質感を持つ。
トレモロ風の細かな音による目まぐるしいプレイが多いにもかかわらず、エキサイトという言葉の対極にある、空間的で瞑想的な演奏が続く。
奇妙によどんだ暗闇のなかを蛍光を放つ魚群が回遊するようなイメージ、もしくは楽器同士の内緒話のイメージである。
各パートが気まぐれに刺激し合い、音は静かにたゆとう。
シンセサイザーとギターのやりとりなど、メロディアスにふくらみ、流れるように動くところもある。
しかし、大きな発展やテーマの全体演奏的な部分はなく、いつしかフェード・アウト。
緊張が走るところもあるが、全体としては浮遊するような調子がキープされる。
薄暗いファンタジーだ。
コリンズの作品。
「...Maybe I'll Lend You Mine After All」(2:10)
アコースティック・ピアノの水の滴るようなサウンドをフィーチュアしたドリーミーでファンタジックな小品。
透明な響きにほのかな甘みあり。
輪郭のくっきりした幾何学模様がソフトなタッチで描かれる。
うっすらと聴こえるヴォカリーズはコリンズだろう。
コリンズの作品。
「Hate Zone」(4:41)
R&B 色の濃いファンキーなジャズロック。
スティーヴィ・ワンダーをメタリックに、ヘヴィにした感じ、または、ハービー・ハンコックとジェフ・ベックがバトルした感じである。
クラヴィネットをフィーチュア。
冒頭ははち切れそうなドラム・ソロ、そしてメイン・パートはファンキーかつやんちゃなテーマがドライヴする。
アナログらしさ全開のノイジーなシンセサイザーは無限にグリッサンドし、ギターは暴発気味に突っ走る。
意外だがリズム・セクションは抑え目。
ロジャー・サットンとブライアン・スプリングならもっとすごいかも。
辺境惑星のダウンタウンのような、ダーティでストリート感覚あふれるエレクトリック・ファンク。
グッドソールの作品。
「Collapsar」(1:35)
スペイシーなシンセサイザーをフィーチュアしたニューエイジ・ミュージック風のロマンティックな小品。
フルートを思わせる旋律部、鍵盤楽器らしい丹念なバッキング、透き通るストリングスなど、アナログ・シンセサイザーの音の質感を活かしたていねいな音作りである。
あまりに短く発展の余地がないのが残念。
ラムレイの作品。
「Disco Suicide」(7:55)
ニューエイジ・タッチのあるテクニカル・ジャズロック。
メイン・ストリーム向けの明快なフュージョンにリリカルなブリッジをいくつも設けて陰翳をつけ、ファンタジーとして昇華している。
ギターのリードするスピーディで疾走感あるテーマ、テクニカルなキメ、ロマンティックでメローな緩徐パート、ファンタジックな停滞、演奏はどこもみごと。
オムニバス風のなめらかな曲の表情の変化が演奏力を物語る。
4:30 辺りの強引な突っ走りとシンセサイザー、エレクトリック・ピアノのリードによる粋でダイナミックな全体演奏がいい。
イギリス人がやると、フュージョンがプログレとシームレスにつながるムーヴメントであったという事実にようやく納得ができる。
終盤は、ヴォカリーズとともにカリヨンも打ち鳴らされて、シンフォニックに広がりスケール大きく高まってゆく。
ラムレイの作品。曲名は、ディスコで自殺というショッキングな事件なのか、「自殺」という名前のヒップなディスコのことなのか、ディスコ・ミュージックに身をやつすのはミュージシャンとして自殺行為である、ということか、何でしょう?
「Orbits」(1:38)ベース・ソロをフィーチュアした小品。
ハーモニクス、短九度、フレットレスらしいベンディング、グッサンドなど得意技連発。
エコーのようなフィードバックのような音響効果は何だろう。
ジョーンズの作品。
「Malaga Virgen」(8:28)ジョーンズの超絶プレイが披露されるテクニカル・ジャズロックの傑作であり、代表作のひとつ。
メロディがまとうサラセンなスパニッシュ風味の独特の翳りは、まさに RETURN TO =「Romantic Warrior」= FOREVER への挑戦状か。
幻想美にあふれなおかつ緩急、動静の変化も大きくダイナミックであり、アコースティックな音も巧みに活かされている。
ギターは舌をかみそうに小刻みなフレーズと伸びやかなフレーズを対比させて展開をダイナミックにリードする。
シンセサイザーはスパニッシュなフレーズを痛快に弾き飛ばして一気に溜飲を下げるが、丹念な陰影づけという点でベースやパーカッションには及ばない、カッコいいけどね。
ここでは、キーボードはストリングスやピアノなどバッキングの方がいい。
ジョーンズの作品。
「Macrocosm」(7:24)
スカッと開放的ながら、和風のややレイドバックしたフュージョン調のテーマが独特なハード・ジャズロック。
グッドソールは、デメオラばりのミューティングを駆使したプレイやマクラフリンばりの不気味な轟音アルペジオを放つ。
後半のラムレイとのソロ合戦、かけあい、ユニゾンがすごい。
珍しくラムレイがぶち切れる。
この後のテクニカル・フュージョン・シーンに影響を大いに与えたであろう豪快作。アメリカでは評判がよかったのでは?
グッドソールの作品。
(CAS 1126 / CASCD1126)
Percy Jones | bass |
John Goodsall | guitars |
Robin Lumley | keyboards |
Phil Collins | drums |
Morris Pert | percussion |
Kenwood Dennard | drums |
77 年発表の第三作「Livestock」。
超絶技巧と陰影に富んだサウンドが巧みにブレンドされた、屈指の名ライヴ・アルバム。
5 曲中 3 曲がスタジオ・アルバム未収録の作品である。
オープニング「Nightmare Patroll」のフェード・インからテーマが決まるまでの神秘的な演奏は、WEATHER REPORT や RETURN TO FOREVER のスタイルのイギリス的咀嚼とも考えられる名演。
SOFT MACHINE の名曲「Facelift」にも似た法悦の瞬間がある。
直線的に突っ込むかと思えば絶妙の呼吸でひるがえり、うねりながら再びグルーヴィな流れへと注ぎ込んでゆく。
ゲストでドラムスを叩くケンウッド・デナードの豪快なプレイもコリンズの弾力性あるプレイとは趣が異なり新鮮である。
本作では、フュージョン/ジャズロック特有のテクニカルな「決め」や超絶ユニゾンももちろん堪能できる。
しかし、そういったあからさまな技巧以上に、蠢きながら放たれる、ぬぐいようにもぬぐい切れない「翳り」が印象的だ。
もっというならば、このアルバムは「うるさくない」のである。
現代のデジタルな音のプレゼンスに慣れてしまうと、恐ろしいくらいにこのアルバムは音がない。
ただし、その音と音の間隙には、プレイヤーが互いの様子を探り合っている緊張感が詰まっているのが分かる。
この静けさとテンションは、KING CRIMSON の即興とよく似ていると思う。
ライヴ独特の空気が入っているアルバムなのだ。
個人的に口ずさめるほど聴き込んだアルバムのように記憶するが、複雑過ぎて実はとても口ずさめない。
当時いわゆるフュージョンが大嫌いだったわたしが初めて意識して聴いたジャズロック系のアルバムです。
プロデュースはグループ。録音は、76 年 9 月 Ronnie Scott's Club、77 年 8 月 Hammersmith Odeon と Marquee Club。
余談。LP では「Nightmare Patroll」と「Malaga Virgen」の二曲のドラムスがケンウッド・デナードとクレジットされていたが、CD では「Nightmare Patroll」と「Isis Morning Part.1/2」となっているらしい。
真実や如何に。わたしは音だけではわかりませんでした。
「Nightmare Patroll」(7:57)インテリジェントにしてファンタジック、キメもカッコいい傑作。
フュージョン嫌いのわたしも惚れました。デメオラばりのミューティングもいい。
「-Ish」(8:30)エフェクトを駆使した謎めく即興風のエレクトリック・ジャズ。無窮動の演奏に息づくような起伏がある。
パートのパーカッションが時限爆弾のように時を刻む。ギターのオクターヴ・プレイがいかにもジャズ。
SOFT MACHINE の「7」の世界に近い。
「Enthanasia Waltz」(5:26)第一作より。劇的で耽美、沈痛ですらあるフュージョン。
暴走気味のギターすらもロマンティックである。
「Isis Morning Part.1」(5:36)異教的なムード漂う幻想即興曲。
「Isis Morning Part.2」(4:41)
「Malaga Virgen」(9:06)第二作よりエキゾティックな傑作。スタジオ盤を上回る迫力。4 分辺りの展開は RETURN TO FOREVER そのもの。
(Charisma CLASS 5 / CAROL 1388-2)
Danny Wilding | acoustic & electric flute on 5, wah flute on 6 | Pete Bonus | guitars, bass on 8 |
John Goodsall | guitars on 2,8, bass on 3,6,9, acoustic guitar on 4 | Phil Collins | drums on 1,2,5 |
Gregg Sheehan | drums on 3,6,8,9 | Preston Heyman | drums on 4, percussion on 5,6, hi-hat on 7 |
Mike Shrieve | drums on 5 | Phil Chen | bass on 1 |
John Giblin | bass on 2,4,5,7, acoustic guitar on 4 | Kiki Gyane | keyboards on 1 |
Bayete | keyboards on 3,6,8,9 | Robin Lumley | keyboards on 4 |
Andy Clarke | keyboards on 4 | Chris Parren | keyboards on 7 |
Rebop Kwaku Baah | congas on 1 | Morris Pert | congas on 7 |
Ashton Tootle & Phil Todd | horn section on 1,5,6,8 | Kate St. John | oboe on 4 |
78 年発表のアルバム「Pleasure Signals」。
初期 BRAND X のメンバーであったセッション・ミュージシャン Danny Wilding と Pete Bonus によるユニットの作品。
BRAND X のメンバーが多く参加していることでも知られる本作品、その内容は、全編ワイルディングのフルートをフィーチュアし、多彩な雰囲気を華やかかつタイトにまとめたジャズロック。
BRAND X をよりファンタジックでリラックスさせたイメージである。
典型的なジャズロック・スタイルを、メロディアスでメランコリックな叙情性、ホーンなどのファンキー・テイスト、R&B 調のグルーヴ、鋭い技巧、エキゾティックなサウンドといった手札でさまざまな方向に揺らして料理し、最後までしっかり楽しめる作品になっている。
R&B 調のノリとニューエイジっぽいフルートの取り合わせがかなり新鮮だ。
一般にフルートは叙情的な表現が似合うと思われているが、ワイルディングのプレイはクールでアブストラクトな音色をファンキーな曲調とうまく組み合わせていて、溌剌とした、豊かなイメージを生み出している。
相方であるボーナスのリズム・ギターもツワモノぞろいのリズム・セクションを仕切って目立っている。
また、レゲエのリズムを大胆に挿入したり、シンセサイザーなど、いかにも 70 年代後半らしい展開もある。
もちろん BRAND X 調のキメやクリシェもあって、ファンはニンマリできます。
ジョン・グッドソールやフィル・コリンズにいたっては、目立ち過ぎという話も。
また、フェード・アウトが多いため、どうしてもライヴを聴きたくなります。
未発掘のディスクはないのでしょうか。
1 曲目、2 曲目は、フィル・コリンズのドラムスによるアッパーで挑戦的なノリがいい。フィルインがすごすぎる。
4 曲目で美しい音色のオーボエを奏でているのは、あの美貌の管楽器奏者、ヴォーカリストのケイト・セント・ジョン様なのでしょうか? だとすると、ずいぶんお若い頃の作品ということになりそうです。
5 曲目、ジョン・ギブリン作の「Rampage」は、フュージョンならぬジャズロックとして燦然と輝く傑作。
エレクトリック・フルートの音が、OSANNA 一派による NOVA の作品を連想させます。ボーナスのソロ・ギターもカッコよすぎる。ギブリンのチョッパー・ベースやマイク・シュリーヴのドラムスなど BRAND X 色が希薄なところがここではいい効果を生んでいる。
6 曲目は、ファンキーにしてエレクトリック、スペイシーな未来派の傑作。
ワウ・フルートとギター、アッパーなホーンがカッコいいです。BRAND X を無重力空間に解き放ったような(笑)演奏です。
アルバム後半は、エレクトリック・キーボードが活躍。
(OZ002-2)
Percy Jones | bass |
John Goodsall | guitars |
Peter Robinson | keyboards |
Chuck Burgi | drums |
Morris Pert | percussion |
78 年発表の第四作「Masques」。
GENESIS の活動に専念するために脱退したコリンズの後任としてチャック・バーギがドラマーとして加入。
さらに、前作までキーボードを担当したラムレイもプロデュースに回り、演奏は元 QUATERMASS、SUN TREADER のピーター・ロビンソンが受けもつ。
ロビンソンのプレイはきわめて技巧的かつ明快ながら、独特の粘っこさがある。
ラムレイのような神秘性というか「含み」のあるプレイではない。
またモーリス・パートは進境著しく、鍵盤打楽器やパーカッションで八面六臂の活躍をする上に、三曲の作品も提供している。
さて、即興よりもまとまりのある楽曲を目指したせいか、全体にハイテクなままポップな味わいが増した内容となっている。
変わり者が安住する場所を見つけたというか、当時のメイン・ストリームの音の影響も強そうだ。
フュージョン・ブームへの迎合や TOTO のような技巧派イージー・リスニング・ロックへの接近とともに、エキゾチズムこそ適宜散りばめながらも、パワフルなファンク色や刺激的な即興性が薄れたような気もする。
しかし、それでもかなりカッコいいし、スリリングだし詩的な味わいもある。
ただ、個人的には、もう少し耽美で謎めいた、ねじくれた世界を深く掘り下げていってほしかった。
5 曲目は完成度の高いフュージョンの傑作。
ドラムスがもうちょっと切れ味がいいと大傑作になったと思う。カリビアンなパーカッションは大活躍し、トレードマークのフレットレス・ベースも唸る。
ソプラノ・サックスを思わせるシンセサイザーもいい。
ジョーンズは本作から Wal のフレットレスを使い始めたそうです。
プロデュースはロビン・ラムレイ。
「The Poke」(5:10)グッドソール作。
テーマ部はドラマーの違いが際立つ、ハードでキャッチーでけたたましいフュージョン。
プログレらしく派手で怪しいシンセサイザーがフィーチュアされる。
テクニカルだがガチャガチャしてアンバランスな感じや、要所で変なプレイで破断させるところに個性が見える。
「Masques」(3:17)ジョーンズ、ロビンソン作。
パーシー・ジョーンズの独壇場。
この音のなさ。
アジアン・テイスト(チベットとかあっちの方)あふれる小品である。
「Black Moon」(4:49)パート作。ここからパートの作品が続く。三作品で一つの共通コンセプトを描いたような佳品である。
耽美なのに愛らしくどこかスピリチュアルなムードもある、BRAND X らしく、同時に 70 年代終わりらしいエレクトリック・ジャズ。
さえずるシンセサイザーをフィーチュアし、アンサンブルは終始おだやかなビートで音をつづる。
ネオンが瞬く裏路地の暗闇に沈むバーでチャイナドレスの姑娘が不思議な舞を舞うような曲です。
同時期の GONG にも通じるサウンドである。
エレクトリック・ピアノはパートが演奏。
「Deadly Nightshade」(11:22)パート作。
リズム・チェンジとともに激しい場面展開を繰り広げるジャズロック大作。
鍵盤パーカッションも活躍する序章と終章では、ギターとベースがリードする悠然としたシンフォニック・テイストあふれる演奏。
中盤は、キリキリ舞をするようなアンサンブルが主役を代えつつ走り続ける。
テクニカルなハードロックとして聴くことも可能。
「Earth Dance」(6:09)パート作。
パーカッション大炸裂、地面が沸き立つようなアフリカン・ハード・ジャズロック。
キャッチーなサードワールド・テイストと弾ける躍動感と狂おしいほどに詰め込まれた音。
それでもキツキツな閉塞感はなく、どことなくユーモラス。
「Access To Data」(8:01)グッドソール作。
「このたび BRAND X が明るくなりました」という表明のような作品。
ガシャガシャしたテーマと開放的なフュージョン・テイストはグッドソール氏の好みだろう。
アメリカのグループが好きそうな音を目指して、目標に近づいたが、あと一歩でしょうか。
「The Ghost Of Mayfield Lodge」(10:18)ジョーンズ作。
思わせぶりな変拍子と中華風のテーマがおもしろいテクニカル・ジャズロック。
陰陽のすばやい切り換えは和声によるものなのだろうか、きわめて多重人格的な、変人的な演奏である。
フロアタムのロールがカッコいい。
(Charisma 1138 / CASCD 1138)
Jack Lancaster | lyricon |
Rick Van Linden | Yamaha GX1 |
Barry Morgan | drum |
The English Chorale |
79 年発表の作品「Wild Connections」。
BRAND X との共演も多い管楽器奏者ジャック・ランカスターとオランダの名鍵盤奏者リック・ヴァン・デル・リンデンによるユニットの作品。
内容は、ニューエイジ風味のあるデジタル・タッチのシンフォニック・ジャズロック。
ポリフォニック・シンセサイザー(スーパーエレクトーン)とリリコン(管楽器操作のシンセサイザー)をフィーチュアした、未来志向のエレクトリック・ジャズ・サウンドとクラシカルなキーボード・ロックが交じり合った作風である。
タイトル曲はリンデンのバロック調のオルガンが炸裂する、遅れてきたキーボード・ロックの傑作。
YAHAMA GX1 はリック・リンデンの愛機のようだ。
プロデュースはジャック・ランカスター。
(ACRO 2 / HST147CD)
Mike Clarke | drums |
Phil Collins | drums, percussion, vocals |
John Goodsall | guitars, vocals |
John Giblim | basses |
Robin Lumley | keyboards, gunfire, chamsaw |
Morris Pert | percussion |
Peter Robinson | keyboards, gunfire, vocals |
Percy Jones | basses |
79 年発表の第五作「Product」。
コリンズの復帰は実現したが、音楽の方向性の違いから、ほぼ二つの別々のユニットによる録音となった異色作である。
コリンズ、グッドソール、ギブリン、ラムレイのユニットは、ヴォーカル曲に取り組むなど、よりメインストリーム・フュージョンに近づくキャッチーなサウンドで、新たな方向を模索している。
一方、ジョーンズ、クラーク、パート、ロビンソン、グッドソールのユニットは、テクニカル・エスニック・ジャズロック路線を堅持しつつ、ファンキーさをアピールし、やはり新たな面を見せている。
グッドソールだけが両ユニットをまたがっているところが、いかにも彼のグループ内での位置を示すようで興味深い。
アルバムとしては一貫性に欠けるが、実験的であり、二枚分楽しめるほど毛色の違うさまざまな曲の入った作品ととらえることもできる。
プロデュースはグループとコリン・グリーン、ニール・カーノン。
ところで、ドラムスでクレジットされているマイク・クラークは、あの HEAD HUNTERS のマイク・クラークなのですか?
「Don't Make Waves」(5:31)
コリンズの巧みなヴォーカルに驚かされるアップテンポのキャッチーな作品。
オープニングのヘヴィな決めは次第に軽やかな音色へと変化する。
ギターのリフは従来のサウンドからの脱却を象徴するようだ。
基本はハードポップ、随所で見せるプレイは洗練されたジャズロック。
少しもったいない気もする。
ラテン色がほとんどないために、普通のフュージョンというイメージはない。
コリンズ組の作品。
「Dance Of The Illegal Alienst」(7:49)
いきなりテクニカルなユニゾン、そしてややオリエンタルなリフでベースが跳ねはじめる。
流麗なピアノもギターもホンワカ中華風。
アンサンブルをリードするベースは、エフェクトをかけソロも取る。
軽快なのにどっしりしたリズムがすばらしい。
ピアノとベースの短い交歓に続いて、エスニック風味のないハードなアンサンブルが始まる。
キーボードの神秘的な変拍子リフを聴きながら、このグループ特有のハードな決めが続く。
そしてギター。
アクセントの強い演奏が繰り返される。
やはり和音の響きに、どことなくエキゾチックな味わいがある。
再び激しいユニゾンが迸るが、ピアノのリフレインが再現し、ギターがリードを取る。
オブリガートのベースがすばらしい。
ドラムスもタムをフルに使ってアピールしている。
やや抑え目で繰り返しの多い展開だが、間違いなく BRAND X の音である。
ドラムスは、張詰めた感じのコリンズのプレイとはまた違ったテクニシャンである。
ジョーンズ組の作品。
「Soho」(3:40)
いかにもこの時代らしい、ほんのりテクノなヴォーカル・チューン。
1 曲目とともにグッドソールの作品。
彼はこういうポップ路線を目指していたらしい。
最後の SE はソーホーの街だろうか。
コリンズ組の作品。
「Not Good Enough - See Me!」(7:29)
ジョーンズの超絶ベース・ソロから始まるファンキーなジャズロック。
ベースのソロやユニゾン、リフなど内容はあるが、全体を通してはまとまりが感じられないセッション風の作品。
ベースとエレクトリック・ピアノのみでバトルを続けた方が、古臭くはあるがシンプルかつテクニカルで面白かったような気がする。
ギターはやや浮き気味。
ジョーンズ組の作品。
「Alagon」(6:08)
フレッシュなサウンドに独特の美感を漂わすジャズロック。
シンセサイザーがフィーチュアされたスピーディな展開である。
ユニゾンを狂言回しにしたおかげで、分かりやすくメリハリもできている。
ベースは、最初のピアノとのインタープレイはいいが、後半のアグレッシヴな場面ではやや力不足に思えてしまう。
もっとも本作品が、アルバムでは一番の出来かもしれない。
ジョーンズ組はジャズロックまでコリンズ組に譲ってしまい、やや残念。
コリンズ組の作品。
「Rheses Perplexus」(4:00)
もろにラテン風のフュージョン。
キーボード、ギターともに典型的な演奏である。
コリンズ組の作品。
「Wal To Wal」(3:14)
コリンズ、ジョーンズ、ギブリンによるツイン・ベース、ドラムスの変則トリオ。
コリンズはリフ、ジョーンズがあいかわらず変った音で跳ね回る。
「And So To F...」(6:28)
スピーディな変拍子リフとともにグッドソールのギターがしなやかに走る、重量感ある作品。
一直線に走る展開とギターの音はややハードロック的である。
得意の暴走気味の速弾きもあり。
コリンズ組の作品。
「April」(2:08)鳥のさえずりの中でギブリンのベースがゆったり歌う。
コリンズ組の作品。
(CAS 1147 / CAROL 1390-2)
Percy Jones | fretless bass |
John Goodsall | guitars, MIDI-guitar |
Frank Katz | drums |
92 年、再結成後発表された「Xcommunication」。
内容は、MIDI ギター、ベース、ドラムスのトリオによる、ファンキーでワイルドで独特の「澱み」もあるジャズロック。
HIPHOP 調のリズム・パターンや硬質で金属的なサウンドといった現代的な面を取り入れつつも、基本的な作風は 70 年代当時から大きく離れてはいない。
何が「変わらない」という印象を与えるかといえば、それは間違いなくパーシー・ジョーンズのフレットレス・ベースの超絶個性的なプレイ・スタイルである。
ハーモニクスやグリッサンドなど、左手を駆使するプレイによる独特の音が懐かしい。
グッドソールのギター・プレイも、コード・ワークがややヘヴィなものの、無茶な疾走型のソロ・スタイルはまったく変っていない。
そして、ペンタトニックにとどまらないジャズ寄りのアドリヴを新たに習得しているからすごい。
一方、ドラムスは相当な技巧派。音は抜けがよくて軽目。
これはおそらく、ジャズ出身のプレイヤーであるためだろう。
このスタイルのドラムスの採用は、甦った BRAND X が、近年流行の「HM/HR 系フュージョン」ではなく、ブルーズ、ジャズ、ファンク・フィーリングを備えたサウンドを目指していることの証ともいえそうだ。
全体に、流れそうで流れず、停滞しそうで轟々と突き進む、あの独特な気難しいスタイルが貫かれている。
全編インストゥルメンタル。
プロデュースは、パーシー・ジョーンズとジョン・グッドソール。
1 曲目「Xanax Taxi」(5:57)WEATHE REPORT や TRIBAL TECH 辺りと同系統のテクニカル・ファンク・フュージョン。ソロ・パートも含んだ自己紹介風の作品である。
ベースとギターのやり取りの部分は、和声含め不思議なほど昔と同じ。
MIDI を駆使した多彩な音色がキーボードレスを十分補っている。
グッドソールのソロは達者なジャズ・ギター(タッチはけっこう HR 系だが)。
グッドソール作。
2 曲目「Liquid Time」(4:39)
ギターがぐっとハードになるもメローなムードもある AOR ヘヴィ・フュージョン。
ロックっぽいシンプルなビートがカッコいい。
普通っぽい展開にもかかわらず、4 拍子と 5 拍子の組み合わせによる座りの悪いアンサンブルでヒネリを入れている。
グッドソール氏、ホールズワース氏と比べると格段にハードロックなマインドにあふれる方のようです。
キーボード風のバッキングも自然である。
グッドソール作。
3 曲目「Kluzinski Period」(7:00)
超絶的ドラムンベース+ ギター+ MIDI シンセサイザーによるポリリズミックなインダストリアル・チューン。
ギターがきわめて効果音的に使われる一方、ベースは完全に進行をリード。
歪んだイメージのテーマがぎこちなく轟く。
ニューウェーヴ調ながらもタイトで険しい表情の作品だ。
力作。
90 年代以降の KING CRIMSON のリズム・セクションに通じる作風である。
ジョーンズ作。
4 曲目「Healing Dream」(3:51)
ラテン・フレーヴァーあるアコースティック・ギター・ソロ。
序盤は、5+7 や 5+6 を組み合わせつつもシンプルなアルベジオ中心のプレイ。
中盤からデメオラばりのスピーディなソロも交える。
グッドソール作。
5 曲目「Mental Floss」(3:17)
ミステリアスな超絶ハードロック。
FIRE MERCHANTS の流れか、一人 MAHAVISHNU ORCHESTRA といった趣も。
タイトルの駄洒落はいかがなものか。グッドソール作。
6 曲目「Strangeness」(3:23)
ほとんどベース・ソロなエスニック・ジャズロック。
ハイハット以外の打楽器の音もベース?
ジョーンズ作。
7 曲目「A Duck Exploding」(6:47)
シンプルなビートとぐにゃぐにゃベース、シンセサイザーらのコンビネーションがいかにもモダンな印象を与える作品。
これが現在の BRAND X なのだ。手癖ギターは少しウルサイ。濃密。
グッドソール/ジョーンズ作。
8 曲目「Message To You」(0:25)
MIDI シンセサイザーの性能検査。グッドソール作。
9 曲目「Church Of Hype」(5:54)
ヤクザな 8 ビートがカッコいいジャズロックンロール。
いわば、ジャジーでハードな DIRE STRAITS である。
トリオのシンプルな音を活かした作品であり、TUNNELS にも通じる。
ジョーンズ作。
10 曲目「Kluzinski Reprise」(4:25)
緊張感あふれる、BRAND X らしい音の演奏に、MIDI キーボードとダニー・ワイルディングのフルートが吹き荒れる。
テクニカル。
グッドソール/ジョーンズ作。
(OZ 001)
Percy Jones | fretless bass, Wah bass, keyboards, sequencing |
John Goodsall | electric & acoustic guitars, MIDI-guitar, Wah guitar, narration |
Frank Katz | drums, vocals |
Marc Wagnon | MIDI vibes, 3D synth pad |
Frank Pusch | keyboards, 3D percussion, sample, sound effect, vocals, sequencing |
Danny Wilding | flute |
97 年の再々結成作「Manifest Destiny」。
パーシー・ジョーンズのグループ TUNNELS からマーク・ワグノンも迎え、より強力なサウンドで甦った BRAND X。
前作が、トリオによるストイックな音作りであったのに対し、今回はエスニック、ファンク、ハウスにサイケデリックな音響と即興演奏もふんだんに取り入れた、貪欲な内容である。
カッツのシンプルにしてダイナミックなリズムと、グッドソールのハードロック的なセンスに、ワグノンのヴァイブ、キーボードがアクセントと大胆な広がりを与える演奏は、きわめてコンテンポラリーなストリート・ジャズロックの提示といえる。
とにかくファンキーでロックでカッコいいです。
ミニマルな展開にはヒップホップを越えてサイケデリック・ロックの感性が息づいている。
HR/HM ファン、テクニカル・フュージョン・ファンはもとより、ジャム・バンド・ファンにもお薦め。
1 曲目から 3 曲目までは本当に圧倒されます。
詰め込むばかりが能じゃないといわんばかりの間の取り方、サイケデリックな音響、さりげなくもじつは挑戦的なポリリズムに、変わらぬセンスを感じます。
TRIBAL ナントカや VITAL カントカとは、住む時空が若干違うようであり、わたしはこちらに住んでます。
プロデュースはグループとデヴィッド・ヘンチェル。
アルバム・ジャケットのデザインは、曲名にもある「ウィルス」だと思いますが、「感染力強し」というメタファーによるメッセージとともに、マーク・ワグノンの "理系好き"(おそらく)も伝わってきます。
「True To The Clik」(5:22)スペイシーかつヘヴィな作品。KING CRIMSON と同じ根性を感じます。
「Stellerator」(6:14)ヒップホップ調のドラムス、オーケストラヒットに囲まれてベースとギターが暴れ捲くる。ノリノリで凶暴。ギターは少しだけホールズワースを意識?
「Virus」(7:53)ケバいアフロ/アジアン・エスノ・ジャズロック。ダンサブル。
「XXL」(5:51)ホーミーが導くファンキーな「歌もの」。バッキングの器楽は変わらず凶暴。
「The Worst Man」(4:32)粘っこくリズミカルなファンク・チューン。
「Manifest Destiny」(4:10)痛快さを越えて爽快感すらあるフーチャリスティックなハードロック。ギターがカッコいい。
「Five Drops」(3:51)ディメオラばりのアコースティック・ギターとヴァイブをフィーチュアしたニューエイジ風のリリカルな作品。
「Drum Ddu」(5:47)モエルラン GONG のようなパーカッシヴ・ジャズロック。
「Operation Hearts And Minds」(4:39)普通のテクニカル・フュージョンもできます、という表明か。器用なグッドソール氏らしい曲である。
「Mr. Bubble Goes To Hollywood」(2:27)続きは TUNNELS のアルバムでお聞きください。
(PCCY-01046)
BRAND X の音楽性から影響を受けた作品として、ISOTOPE のギタリスト、ゲイリー・ボイルの名作「Dancer」やイタリアの OSANNA のメンバーによるグループ、NOVA の「Vimana」がある。 ジャック・ランカスター、ロビン・ラムレイらによるプロジェクト作「Peter And The Wolf」もまだ探せば見つかるかもしれない。