カンタベリー・ジャズロックの最高峰「SOFT MACHINE」。 66 年 WILD FLOWERS を母体として結成。 結成ラインアップは、後に GONG へ移るデヴィッド・アレン(guitar)、ケヴィン・エアーズ(bass/vocals)、ロバート・ワイアット(drums/vocals)、マイク・ラトリッジ(keyboards)。 目まぐるしいメンバー・チェンジとともにサウンドは変遷を重ね、最初期のシュールなサイケデリック・ロックから、管楽器奏者の加入に伴ってジャズロック化が進み、その後はフュージョンからミニマル的なサウンドにまで到達した。
Mike Ratledge | organ, piano, electric piano |
Hugh Hopper | bass |
Robert Wyatt | drums, vocals, organ, electric piano, bass |
Elton Dean | alto sax, saxello |
Rab Spall | violin on 3 |
Lyn Dobson | flute on 1, soprano sax on 1 |
Nick Evans | trombone on 2 |
Jimmy Hastings | flute on 2, bass clarinet on 2 |
70 年 6 月発表の「3(Third)」は、これぞジャズロック、という意気込みが感じられる好盤。
アナログは、二枚組で片面一曲、計四曲のみ。
この CD は、十年ほど前に買ったままずっとラックの飾りになってたが、最近ふと思って聴いたところ、吃驚仰天、一気に頭と体にキてしまった。
本作品の時点のサウンドは、まだファースト/セカンド時の退廃的なポップ感覚がほんの少し残っているせいか、単なるジャズではなく、もっと微妙なニュアンスのサイケデリック・ジャズロックとでもいうべきものになっている。
ホッパー、ディーンの強烈なジャズ感覚とワイアットのサイケ/アヴァンギャルド感覚がバランスしている、といってもいいだろう。
また、変拍子が多用されテンポも頻繁に変化するにもかかわらず、即興ではない計算された器楽アンサンブルというイメージで貫かれている。
ホッパーのファズ・ベース、ジャズにはかなり過激な音だと思います。
なお、収録は、1 曲目が 1970 年 1 月 4 日クロイドンのフェアフィールド・ホールおよび 1 月 11 日バーミングハムのマザーズ・クラブ(二つのライヴ音源を編集)、2、3、4 曲目は同年 4 月 10 日及び 5 月 6 日の録音セッションにて行われている。
エルトン・ディーン愛用のサクセロはソプラノ・サックスの朝顔が前方を向いている形状が特徴的な楽器だそうです。
2007 年、BMG より久々の再マスタリング盤発表。ボーナスは「Proms」丸ごと。
「Facelift」(18:45)エレクトリックなカオスが痺れるほどカッコいい決めのフレーズへと収斂する、血沸き肉踊る代表作の一つ。
ちょっとフランク・ザッパの「King Kong」に似てません?
序盤は、何の楽器か判別のつかない電気の混沌。イザナギ、イザナミが稲妻の矛で電子の海をかき回す。
モジュレータで歪んだオルガンのインプロヴィゼーションは、かなり初めの方で決めのテーマを奏でている(同時にエレクトリック・ピアノが演奏しているようにも聴える)が、次第に湧き上がってくるブラスの混沌によって、すぐにかき消されてしまう。
バスドラのキックとともにオルガンがテーマを提示し、ブラスが次第に反応し始める(5:15)。
8 分の 7 拍子の演奏。
スネアとシンバルを打ち鳴らし、アクセントをつけ、ロールを繰り返すドラムス。
テーマに沿った演奏だ。
そして、一気に走り出すアンサンブルでは、ブラスがテーマを発展させる。
(5:54)不安定に揺らぎつつ背景に響くオルガン。
テンポが上り(7:02)、オルガンがせわしない第 2 テーマを提示すると、ブラスのユニゾンが反応してオルガンとサクセロの烈しい応酬が続く。
狂おしいインプロヴィゼーション・パートである。
ベースとサクセロが、初め交互に、やがてユニゾンで第 3 テーマともいうべきリフを刻む。
再び 8 分の 7 拍子の演奏である。
烈しいアンサンブルを経て、オルガンによって第 2 テーマが再現され、ブラスとユニゾンする。
(10:09)クロス・フェード(後述のように、ここは苦しまぎれの編集の結果かもしれない)で始まる新たなアンサンブルは、ベースのリフとインダストリアル風のドラムスのノイズが轟く 8 分の 7 拍子。
(11:02)再び、クロス・フェードでベースとブラスが動き出すが、すぐにオルガンのエレクトリックなノイズに吸い込まれる。
フルートが思うさま暴れるも(11:29)、次第にバロック風のソロへと落ちついてゆく。
オルガンのノイズは、まだ続いている。
空から降るようにブラスとドラムス、8 分の 7 拍子を刻むベースが戻り(13:00)、不機嫌なブラスが吠え、フルートが再びフリー・ジャズ風に舞い踊る。
バッキングは、エレクトリック・ピアノとブラスのリノイジーなフレイン。
ベースのリフ以外は、8 分の 6 拍子も交えているようだ。
暴れるドラムスとサックス。
暴力的な演奏だ。
再びベースのリフが浮かび上がると、サックスをバックにサクセロがけたたましく叫び始める(15:00)。
パワフルでしなやかな見事なソロだ。
シンコペーションをうまく使ったスリリングなフレーズに、説得力がある。
8 分の 7 拍子に戻り、ピアノとベースがリズミカルな第 3 テーマ・リフを刻み始める。
(17:05)
そして、オルガン、サクセロのユニゾンで第 1 テーマの堂々たる再現。
突如テープ逆回転効果音がかぶさり、エレクトリックな混沌のイメージのまま終ってゆく。
挑戦的なテーマが印象深いインダストリアル・ジャズロックの傑作。
管楽器とは思えないいくつものノイズが、オルガンの金属音に導かれてまとまっていく様子は、ゾクゾクするようなスリルを生み、不安定に揺らぐフレーズが、サイケデリックな快感を呼ぶ。
非常に新鮮なサウンドである。
部分を取ると強く即興性が感じられるが、全体を見渡すと変拍子の展開や印象的なテーマなどに意外に明確なシナリオがありそうだ。
過剰なまでに混沌としたエレクトリックなサウンドは、ラトリッジのほかに、ワイアットやホッパーのアイデアも盛り込んでいるにちがいない。
ホッパー作。
ちなみに、収録後、編集作業が行われており、特に 1 月 10 日のテイクが挿入されているとのこと。
これはおそらく、曲中のクロス・フェードの部分だろう。
ラトリッジ作の「Slightly All The Time」(18:12)クロスオーヴァーらしいスリリングなグルーヴと精緻にしてメロディアスな安定性が均整を見せる作品。
ドラムスとベース・リフによる巧まざるリズム・チェンジに支えられて、次々と管楽器による魅力的なソロ、インタープレイが繰り広げられ、なおかつ、発散せずにアンサンブルとしてみごとなまとまりを見せている。
ハーモニクスを巧みに交えるベース・リフに導かれたブラス・セクションが、落ちついた雰囲気のテーマ演奏を繰り広げ、ステージを作り上げてゆく序盤。
ラトリッジはエレクトリック・ピアノ伴奏。
シャープな新テーマを一瞬だけ提示して、ディーンのソロへ。
絶叫する寸前でテーマを思い出すような、どちらかといえばメロディアスなプレイである。
ブラス・アンサンブルによるグルーヴィなテーマ演奏も現れて、サックスとまとまろうとする。
シンバルさばきにも注目したい。
やがて、再びおだやかなブラス・アンサンブルへと収束(5:00)。
テンポが上がるとともに、以前一瞬だけ提示されたスピーディなサックスのテーマが再現し、ベース・リフのリードによる 16 分 11 拍子のパターンとともに、ヘイスティングスによる幻惑的なフルート・アンサンブル(多重録音だろうか)が始まる。
ファンタジックなサウンドとスリリングな変拍子パターンが混然となる世界は、初期 KING CRIMSON 的だ。
アンサンブルは力を増して疾走する。
唐突に、淡々とした 8 分の 9 拍子をエレクトリック・ピアノが刻み始め、スクエアなドラム・ビートにドライヴされてサックスが熱っぽく、朗々と歌い出す。
クロス・フェードで湧き上がるオルガンがサックスのプレイを上書きしてゆく。
伴奏のエレクトリック・ピアノは、クレジットこそないものの、サックスを離したディーンに交代するのだろう。
ヘイスティングスはフルートからバス・クラリネットへ持ちかえて、柔らかな低音を緩やかに響かせてベースの役割を果たしている。
リズムが唐突に止み(編集だろう)、サックスとベースがうねるような息の長いテーマを静かに繰り返す。
いよいよファンタジーの核心へと歩みを進める時がきた。
(「Noisette」ホッパー作)
13 分付近からは、フェイザーの効果でうねるオルガンに支えられ、サクセロがメランコリーに打ち沈みつつも切々と歌う。
このシーンは、サイケデリックな幻想性とともにに、意外なほどストレート・アヘッドなジャズらしいグルーヴをもつ。
メロディは美しく官能的であり、サクセロに的確に反応するベースが優雅だ。
しかし、一転リズムは 8 分の 9 拍子へ変化してテンポ・アップ、饒舌にリフを刻むベースとエレクトリック・ピアノが叩き出すリズムに支えられてサックスがエネルギッシュに疾走する。
エレクトリック・ピアノはオルガンへと切り換わり、(「Backwards」ラトリッジ作)最後は、うねうねとした長いサックスのリフレインが再び現われる。
(「Noisette」再現)
管楽器をフィーチュアし、ファンタジックな叙情性と整った構築性を両立させた傑作。
「Backwards」から「Backwards」への展開はあまりに感動的である。
パワーだけではない、しなやかな表現でリードするサックス、サクセロとともに、脇役のフルート、バス・クラリネットも美しい。
このグルーヴはマイルス・デイヴィス・グループの「Filles De Kilimanjaro」辺りと共通する。
肉感的なジャズと冷ややかなミニマル現代音楽の邂逅が生んだ美しき仇花。
凛と落ちついた佇まいが魅力。
「Moon In June」(19:08)ワイアットのセクシーなかすれ声のヴォーカルをフィーチュアした超名曲。
本作で最後となる SOFT MACHINE のヴォーカル曲である。
ヴォーカルにまで器楽と同じ電気で痺れてしまったようなマジカルなタッチがあるところが面白い。
そして、ヴォーカルにぴったり寄り添い、しなやかに進んでゆくバッキングのカッコいいこと!
得意のスキャットも交えたインスト・パートは、浮遊する楽しさを追求しているに違いない。
そんなサイケデリックな酩酊と熱気を孕みつつも、あくまで均整が取れている。
こういうところが、インテリジェントなグループといわれる理由なのだろう。
無闇に発散せず、自らの昂揚を冷静に見つめるような演奏になっている。
そこがじつに気持ちいい。
壊れた TV のような色合いと酸味をもつ、いわばドラッグ幻想の極致のようなサウンドと、計画的で緊密なアンサンブルの絶妙のバランスともいえるだろう。
シャープなリフを中心にしたテーマ部もインタープレイも、じつにきちんとしている。
また、クレジットはないが、ディーン以下ホーンが登場しないことからも、本作はワイアット自身の多重録音も交えているようだ。
おそらく、コード主体のエレクトリック・ピアノやオーヴァーダヴされたアドリヴ(無茶苦茶)風のオルガンの演奏もワイアットだろう(もちろんディーン、ラトリッジの可能性もある)。
ちょっぴり THE BEATLES、特にジョン・レノンの「I Am The Walrus」を思わせるところもある。
エンディングに向かう長い坂道に流れるヴァイオリンのアドリヴをテープ加工したらしき緩やかな音響効果など、前衛的ながらもいかにもワイアットらしいシュールでユーモラスなタッチで夢見心地を演出する。
悪夢の果ての穏やかな覚醒か、悪夢のような現実から穏やかな幻覚への逃避なのか。
一つわからないのは、オープニング、オルガン伴奏で歌う部分に続く間奏。
明らかにギターと思うが、本当はどうなのだろう?(後日再び聴いてやはりベースかなあとも思いました。ホッパーはワイアットの名作「Rock Bottom」でも無茶なベース・ソロを見せてたし)
ところで、僕はワイアットの声を聴くとシリトーの小説に出てくる徹底して反抗的な主人公を思い出す。
理由は分からない。
「Out-Bloody-Rageous」(19:14)。
テープ逆回転のようなオルガンとエレクトリック・ピアノを重ねた、エレクトリックで幻惑的なプロローグ(エピローグも同じ)。
長い長いクレシェンドは、虚空をさ迷うような、サイケデリックな酩酊感のあるエフェクトを生む。
このサイケなイントロが 5 分間あまり続く。
しかし、テーマに導かれて電子の沼から立ち上がるメイン・パートは、ピアノとベースの刻む 15/16 拍子のスリリングなリフの上で管楽器群が力強いテーマを押し出す、明確極まる演奏である。
スタッカートのオブリガートをきっかけに、管楽器群は変調され歪み切ったオルガンと交代し、そのオルガンによる奔放でアグレッシヴなアドリヴが繰り広げられる。
(伴奏のピアノはここでディーンに交代だろうか?)
9:30 付近からオルガンを押しのけるようにブラス・セクションが復活するも、謎めいたエコーのサックスのいななきも一瞬のこと、再びオープニングのようなカオスの奈落へと転落してゆく。
フェイド・アウトとブレイクを経て、厳めしい現代音楽風のピアノ独奏に導かれて演奏が戻ってくる
。
サックスとトロンボーンによる気品あるデュオを経て、フェイズ・シフタ系でエフェクトされたオルガンとベース・リフがゆるやかに渦を巻き始める。
そして、サックスがやや憂鬱に、それでもしなやかに歌い出す。
遠景には、サックスによるクールなフリー・ジャズ、そして、前景にはスペイシーなサイケデリック・サウンドがゆるゆると模様ならぬ模様を描く。
融合の妙だ。
マイルス・デイヴィスの種子は、ここでも実を結んでいる。
時おり降りしきるドラム・ロール、舌足らずな変拍子パターンをイライラと刻むベース。
サックスに深くエコーがかかるとともに、呼び寄せられたような管楽器群が重なり合い、やがてユニゾンへと変化し、ピアノの和音が刻む 8 分の 5 拍子のリフがクローズアップされると、一気に 15/16 拍子の快速アンサンブルが復活、再び演奏のテンションが高まる。
管楽器とエレクトリック・ピアノの反復が渦を巻き、集団即興のような圧倒的なパワーを放ちながら最後の頂点に達する。
再び電気の混沌、エレクトリック・ピアノのオスティナートは幾重にも降り積もり、打ち寄せる宇宙の波動のように次々と現われては彼方へと消えてゆく。
感覚を麻痺させる幻想的な雰囲気としなやかなアンサンブルの生み出す生命力やスリルという矛盾しそうな二種類の属性を結びつけた作品である。
WEATHER REPORT の最初期と共通する感覚を活かした、サイケデリックなアシッドなジャズロックである。
ドイツ・ロックや PINK FLOYD とは表現手法が若干異なるが、同じところを目指している音である。
ラトリッジ作。
まるでサイケ・ポップとジャズ、現代音楽がグツグツと煮込まれて、ちょうどいいスープができあがっているようなアルバムだ。
いわばこのアルバムこそが、本当の「フュージョン」なのではないだろうか。
フリー・ジャズとサイケデリック・ロックの微妙なところで作り上げられた、初期の傑作である。
(CBS S 64080 / ESCA 5535)
Mike Ratledge | organ, piano |
Hugh Hopper | bass |
Robert Wyatt | drums |
Elton Dean | alto sax, saxello |
guest: | |
---|---|
Roy Babbington | double bass on 1,3,4,6 |
Nick Evans | trombone on 1,2,4 |
Mark Charig | cornet on 2,3,4 |
Jimmy Hastings | alto flute, bass clarinet on 1, 6 |
Alan Skidmore | tenor sax on 1,6 |
71 年 2 月発表の「4(Fourth)」。
本作から、エルトン・ディーンが正式メンバーとなる。
作品は、前作のサイケデリックにして重厚な中からロマンが醸成する味わいを引き継ぐも、フリージャズ的な主張と逸脱のパワーを強めた作風となる。
サックスとオルガン、エレクトリック・ピアノのせめぎ合いから生まれるスリルがいや増す一方、サイケでケイオティックなエレクトリック・サウンドは相対的に引っ込み、爆発的なソロとテーマのアンサンブルがはっきりとした、ジャジーで明確な輪郭をもつスタイルである。
特に光るのは、奔放でありながらどこまでもしなやかなプレイでフロントを仕切るエルトン・ディーン。
2 曲目でリリカルに迫るかと思えば、3 曲目では生粋のインプロヴァイザーらしい爆発力も披露する。
ラトリッジは、そのディーンと呼応して官能的とすらいえるような絡みを見せ、そこからの発展が独特の漂うような幻想性を生み出し続けている。
旧 B 面を占める組曲は、ホッパーが前作でも見せた作曲センスを発揮した、フリー・ジャズを注入したサイケデリックな傑作。
即興の味わいは初期の KING CRIMSON に酷似している。
ワイアットのドラミングも、タイムキーパーにとどまらない多彩な表情を見せている。(ただし、ヴォーカル・パフォーマンスはない)
ゲストの演奏では、後に「7(Seven)」からメンバーとして参加するロイ・バビントンのダブル・ベースが印象的。
ミロスラフ・ヴィトウス在籍時の初期 WEATHER REPORT と聴き比べるのも、おもしろいだろう。
また、当時のマイルス・デイヴィス・グループの演奏(「Black Beauty」など)と比較すると、爆発力では分が悪いもののあちらにはない知的な叙情性が感じられる。
録音は 1970 年 10、11 月。
(ゲストの管楽器奏者のクレジットが実際とは異なる気がする。バスクラやスキッドモアのプレイは 4、5 曲目ではないか)
1 曲目「Teeth」(9:12)
パワフルなフリージャズ感覚と疾走する変拍子パターンが生む知的なイメージが融合した力作。
ジャズの鋭い運動性を象徴するのは、明確なテーマを打ち出すサックスである。
ダブル・ベースをフィーチュアし、サックスがリードする序盤の展開は、アコースティックなジャズ・コンボを意識した表現なのだろうか。
鋭いタッチのアルト・サックスがカッコいい。
ラトリッジは、エレクトリック・ピアノのバッキングに徹し、ディーンの饒舌なサックスとの呼応を見せつつも、引き立て役に回っている感じだ。
マイルス・ディヴィスの「In A Silent Way」の世界にも通じるものもあり。
一方、ワイアットは、奔放で手数の多い打撃で鋭いリズムを打ち出して、モダン・ジャズ風の安定感をあえて拒否しているようだ。
サックスのリードによる、スリリングだがしなやかなイメージのアンサンブルが続いてゆく。
3:15 付近でダブルベース(バビングトンとホッパーのデュオ?)がイントロのパターンを回顧し、管楽器とオルガンによる得意のノイジーなユニゾンが提示される。前作を思わせるサイケデリック調が浮かび上がる。轟音はファズ・ベースだろうか。
オルガン中心の幻惑的な 8 分の 9 拍子のリフレインから、一瞬、エレクトリック・ピアノ主導でエキサイティングな変拍子演奏へと飛び込むが、三度ダブル・ベースのきっかけとともに、ブラス・セクションのユニゾンが応酬、すぐさま走り出す。
唐突なブレイクで思わせぶりな息を整えて、8 分の 6 拍子の管楽器(アルト、トロンボーン)ユニゾンによるテーマとともにジャジーでなめらかな演奏へ。
ここまで、短時間にじつに目まぐるしい展開だ。
再び 8 分の 9 拍子をメリーゴーランドのように刻むエレクトリック・ピアノ、そして管楽器セクションのユニゾンがゆったりと誠実に高鳴る。Zappa のビッグ・バンドを思わせる展開だ。
そして、遂にラトリッジがオルガンで荒々しく切り込んでくる。
攻めたてるように激しいアドリヴだ。
管楽器セクションは、ゆったりと懐の深いビッグ・バンド風のバッキングへと追い立てられる。
ここのエレクトリック・ピアノのバッキングはディーンか。
激しいドラミングとオルガンに触発されて、オルガン vs 管楽器セクションのアンサンブルによる疾走が続く。
リズミカルに音を刻む管楽器、そして暴れまわるオルガン。
乱れるブラス・セクションによる混沌をオルガンが貫いて、力技の勝負が続く。
最後は、変調され細切れになったノイズの混沌が渦を巻き、消えてゆく。
8 分の 9 拍子による切れ味鋭いプレイの交錯とスピード感あるアンサンブルが印象的な名作。
オープニング、バビングトンのダブル・ベースとサックスによるシビアな対話は、明快なジャズ路線の決意表明に思えてくる。
サックスをフィーチュアしながら、ラトリッジのオルガンとワイアットのドラムスが正面切って勝負を挑む姿が、感動的だ。
なめらかな運動性とクロスオーヴァー風にこなれた音が新鮮である。
次々と意外性をもってオムニバス風に進展し、ややまとまりに欠けるが、サイケデリックで混沌としたサウンドからジャズへと変化する瞬間をとらえた、いわば遷移途中の作品と解釈できるだろう。
HENRY COW を思わせる瞬間もあり。
ラトリッジ作。
ホッパーの演奏は、後半のベース・ランニングのみ?
2 曲目「Kings And Queens」(5:02)
ミドルテンポの 8 分の 6 拍子による堂々たる歩みが、次第にロマンティックな響きを帯びてゆく叙情的な傑作。
穏かながらも緊張を孕んだベースのリフが静かにしかしきっぱりと進行を司り、その上でサックスがメランコリックな調子ながらも官能的に、表情豊かに歌い続ける。
幾何学性、無機性の果て、ついには呪術的な響きすら帯びたベースパターンと、息遣いのあるサックスの対比が本作の醍醐味だろう。
ドラムスは、いずれとも異なる即興的な独自性を発揮しているが、エレクトリック・ピアノとともに背景として機能する。
ディーンの叙情性がよく分かる。
パワフルにしてしなやかなブロウは感動的ですらある。
リフと奔放なソロという形がきっちりと保たれており、完成されたイメージを与える作品になっている。
ラトリッジはエレクトリック・ピアノに専念。
2 コードを中心とした、抑制された雰囲気がすばらしい。
終盤、ディーンのサックスがオーヴァーダヴされているようだ(または二管吹き?)。また、最後にチャリグのコルネットとエヴァンスのトロンボーンが遠くに聴こえる。
テーマは、「Facelift」のテーマのテンポを落としたようにも聴こえる。
ホッパー作。
3 曲目「Fletcher's Blemish」(4:35)では、ディーン主導のフリー・ジャズ志向がはっきりと現れる。
ときおりへヴィなテーマが浮かび上がるものの、基本的にはサックス、コルネットがリードするキナ臭いインプロヴィゼーションが繰り広げられる。
コルネット、サックス、ダブルベースのボウイングによる邪悪で挑戦的なオープニングがカッコいい。
ドラムスもバスドラ連打を多用して不気味さを強調する。
「Third」のような漂流感あるサイケデリック・タッチはなく、あくまで力と力が拮抗しては雪崩を打つような爆発を繰り返す、挑戦的なジャズ・インプロヴィゼーションだ。
ダブル・ベースのノイジーなボウイング、沸き立つようなドラミング、狂乱するエレクトリック・ピアノ、そして絶叫する管楽器。
全体のイメージは、轟音とともに永遠に崩れ落ち続ける巨大な構築物、もしくは管楽器をフィーチュアした KING CRIMSON。
ワイアットの即興が冴える。
ディーン作。
組曲「Virtually」は、四部構成のきわめて幻想的な即興組曲である。
パート 1(5:17)
エレクトリック・ピアノとベース、トロンボーンの迫力ある低音リフにダブル・ベース、ブラスが応酬するサスペンスフルなオープニング。
ダブル・ベースのハーモニクスを交えたアドリヴとワイアットのシンバル・ワークが、静かにすべり出すような疾走を演出する。
低音パートが主役である。
4 分の 7 拍子によるベース、エレクトリック・ピアノのリフが再現すると、リムショットとともに演奏は快調に動き出し、うねるようにドライヴする演奏の表面に、バス・クラリネットら管楽器のアドリヴの断片が次々と浮き上がり、もつれ合う。
そして高まる緊張。
息づくブラス群。
最高潮にあと少し。
クライマックスは、オルガンとサックスによる KING CRIMSON 風の鋭くも怪しく、そして感傷的な響きもあるユニゾン。
すでに、パート 2(7:06)である。
祈りのようなユニゾンは、せめぎあうようなハーモニーへと解きほぐされてゆく。
デュオの周囲で烈しく暴れまわるドラムスとベース。
力強く明確な音を連ねるオルガンとサックスのデュオは、すばしこく動くリズム・セクションの即興と鮮やかに対比する。
そして中盤、パート 1 のエレクトリック・ピアノによる 4 分の 7 拍子リフの変奏が出現し、管楽器の力強さはそのままにアンサンブルは安定感を確保する。
ラトリッジがエレクトリック・ピアノへ回り、ゲストが一歩退くと、サックスのソロへ。
エネルギッシュでもつれるようなコルトレーン風のソロは、アラン・スキッドモアか。
カルテットによる 4 分の 7 拍子の引き締ったジャズロックである。
縦揺れのリズムが強調されるととともに、ゲストの管楽器も参入して音の流れの厚味を増すが、あまりに唐突な一瞬のブレイク。
パート 3(4:33)。
テープ逆回転による効果音を背景に、管楽器が無秩序にざわめく。
断続的な管楽器の鳴き声を聴きながら、ベースがゆっくりと歌い始め、位相系エフェクトをかけたオルガンがゆったりと響く。
ダブル・ベースのボウイング。小刻みなサックス。
「Slightly All The Time」に通じる表現であり、フリー・ジャズとはニュアンスの異なるエレクトリックなインプロヴィゼーションである。
ファズ・ベースがギターのように吠え、エフェクトで丸まったオルガンが応える。
リズムレス。
サックスは静かに歌い始める。
もがき苦しむようなファズ・ベース。
三者による緩慢で混沌としたインタープレイが続く。
パート 4(3:22)へと続き、ファズを外したベース、にじむオルガン、サックスが静かに響き合う。
位相をずらしつつ広がる、幻想的なオルガンの音。
もどかしげに蠢くベース。
演奏はサックスが提示するリフに向かって次第にまとまり、スネアが静かにロールして応答する。
すべてがリフへ収束することを暗示したまま、すべてが静かに消えてゆく。
リフと即興、そしてエレクトリックな効果を駆使して徹底的に幻惑的にスリリングに迫る佳作。
「Third」の作風に通じるホッパーの傑作である。
これだけ「盛り上がりそうで盛り上げない」スタイルもおもしろい。
やはり、SOFT MACHINE のサウンドにこの人を欠くわけにはいかないようだ。
パワフルでストレートな感触は、フリー・ジャズに傾倒するエルトン・ディーンが持ち込んだものだろう。
しかし、フリー一辺倒に流れないところが、ラトリッジ、ホッパーのコンビのバランス感覚だろう。
コンポーザーとしてのホッパーの力量も感じさせる作品だ。
(CBS S 64280 / A 26254)
Elton Dean | alto sax, saxello, electric piano |
Roy Babbington | double bass |
Hugh Hopper | bass |
Mike Ratledge | organ, electric piano |
Phil Howard | drums on 1,2,3 |
John Marshall | drums on 4,5,6,7 |
72 年 6 月発表の「5(Fifth)」。
遂にロバート・ワイアットが脱退、新ドラマーを迎えた作品となる。
当初エルトン・ディーンのグループからフィル・ハワードが加入するが、アルバムの前半収録の段階で脱退、その後 NUCLEUS からジョン・マーシャルが加入して後半が収録された。
同時に、前作までフィーチュアされた管楽器セクションは解消され、管楽器はエルトン・ディーン(一部エレクトリック・ピアノも担当)のサックスのみとなる。
管楽器数のスケールダウンは、そのまま全体のサウンドのコンパクトかつ引き締まったイメージにつながっており、フリー・ジャズ的でありながら、抑制された、ストイックな作風が貫かれている。
前作までの太く分厚いサウンドによるパワフルなノリとは異なる味わいがあり、ひとことで言うと「ミステリアス」というのがその印象だ。
演奏面でソリストの地位を確定したディーンだったが、音楽的な発展を望んでかホッパー/ラトリッジによるジャズロック路線と意見を異にしたか、本作収録直後の 5 月には SOFT MACHINEを脱退(代わって NUCLEUS からカール・ジェンキンズが参加)、発表時にはすでにメンバーではない。
この交代劇は、「アシッドなサイケデリック・ロック的フリージャズ」という音楽スタイルに一区切りつけることを象徴している。
次に進む方向は、旧 NUCLEUS 人脈の加入をトリガーとする個性派フュージョン路線である。
録音は 1971 年 11、12 月及び 72 年 2 月。
エレクトリック期のマイルス・デイヴィス、初期 WEATHER REPORT、初期 RETURN TO FOREVER と同列に並べるべき好作品である。
オープニング「All White」(5:59)ディレイと深い残響を持つサックスによるミステリアスなイントロから、疾走する変拍子ジャズロックへと展開する作品。
静かにすべるように動き出すアンサンブルがいい。
8 分の 7 拍子を中心に変拍子を刻むホッパーのリフの上で、エレクトリック・ピアノと残響から浮かび上がったサックスが自信あふれる平行線を辿り、攻守を切り換えつつ、最後に劇的なユニゾンへと発展する。
サックスのしなやかさ、力強さが目立つが、エレクトリック・ピアノも烈しく動いてサックスとからみあう。
ラトリッジ作。
2 曲目「Drop」(7:47) イントロは、水の滴るエフェクト音。
クリスタルに反響するようなエレクトリック・ピアノとテープによる残響効果など、最初期 WEATHER REPORT と共通する神秘幻惑的な空間を演出する。
ディーンの力強いエレクトリック・ピアノとエフェクトで緩んだラトリッジのエレクトリック・ピアノが交歓を続け、ベース、ドラムスが細やかに動き出すと、一気に世界は躍動、7 拍子による疾走感ある演奏になってゆく。
リフを追いかけるようにノイジーなファズ・オルガンが現れて、圧倒的なアドリヴで君臨する。
エレクトリック・ピアノは呼吸よく空隙を攻め、ベースは俊敏な対応で全体の運動をリードする。
フィル・ハワードは、きめ細かいシンバル・ワークと緩めのスネア・ドラムが特徴的だ。
ワイアットに共通するスタイルであり、ジャズ・ドラマーらしいプレイを持ち味とするようだ。
四者による白熱したぶつかりあいが痛快な、前二作と共通する作風の傑作ジャズロック。
ラトリッジ作。ディーンはエレクトリック・ピアノに専念。
3 曲目「MC」(4:52)深い残響空間におけるミステリアスな即興チューン。
宝石を転がすようなエレクトリック・ピアノ、遠く崩れ落ちる打楽器、演奏を先導するようでいて思いのほか抑制され苦悩するサックスなど、フリー・フォームに近い演奏が、ヴォリューム制御の下に繰り広げられる。
音より先に走り出そうとする想像力は、抑えつければつけるほどに、あらぬ方向へと広がり始める。
エレクトリック・マイルスの英国らしい発展形である。
ホッパー作。
4 曲目「As If」(8:21)
オルガン、サックスの爆発的なユニゾンが迸る衝撃的なイントロダクション。
ラトリッジのエレクトリック・ピアノとディーンのサックスの双頭によるリードというパターンが復活する。
名インプロヴァイザーとして狂おしく熱気を迸らせるサックスとは対照的に、キーボードは終始謎めいたアドリヴで応酬し、リズム・セクションは非常にクールなスタンスを貫く。
演奏は途中から音量が落ち、8 分の 11 拍子のリフを刻むベースの上で、エレクトリック・ピアノとダブル・ベースのボウイングが空ろなダンスを続ける。
緊張と弛緩が繰り返し訪れ、火を噴くような決めとともに、ドラム・ソロへとなだれ込む。
このテイクから、ドラマーはジョン・マーシャル。
オープニング、ハワードに比べて、ロック風の豪快さでアピールしている。
ラトリッジ作。
5 曲目「LBO」(1:31)マーシャルによる自己紹介ドラム・ソロ曲。
6 曲目「Pigling Bland」(4:22)
7 拍子の 2 つのパターンによる疾走と停滞の反復から飛翔するようなイメージを演出するスタイリッシュな作品。
フロントはサックス(サクセロ?)の独壇場であり、イントロダクションにおけるメローなイメージそのままに軽快なアドリヴでひた走る。
エネルギッシュでハードなブロウが特徴のディーンだが、ここでは終始なめらかなフレーズでリード。
エレクトリック・ピアノ、ベース、ドラムスによる音の疎密の制御が鮮やかだ。
終盤一気にテンポ・アップ、緊迫感あふれる演奏になる。
70 年頃にすでに演奏されていた作品である。
ラトリッジ作。
7 曲目「Bone」(3:30)
波打つシンバルとざわめき揺らぐノイズの中を、オルガンが深い残響、ディレイとともに浮かび上がる。
旋律はやや東洋風ではないだろうか。
深淵を覗き込むような神秘的なムードは、1 曲目と共通する。
管楽器ともフィードバック音ともつかぬ音が、暗闇で振り回される刃のように、一瞬のきらめきを残しつつ消えてゆく。
ノイズが蠢くインダストリアルなイメージの即興作品。
厳粛。
ディーン作。
ミステリアスな空気と、ルーズさのない引き締まった演奏が、すばらしい作品。
エネルギッシュなプレイの連続にもかかわらず、全体の印象は落ちつきとしみ入るような美しさである。
あたかも混沌から浮かび上がったかのように、フリー・ジャズ的なジャズロックがくっきりとした輪郭で示されている。
(CBS S 64806 / ESCA 5418)
Mike Ratledge | organ, synthesizer, electric piano |
John Marshall | drums |
Hugh Hopper | bass |
Karl Jenkins | oboe, baritone sax, soprano sax, electric piano |
73 年 2 月発表の「6(Six)」は、一枚目がギルフォードでのライヴ・テイク、二枚目がスタジオ・テイクのアナログ二枚組。
本作から、タイトルが序数ではなくなった。
さて、このアルバムに先立つ 72 年半ばから、ディーンに代わって元 NUCLEUS のカール・ジェンキンスが、管楽器及びキーボード奏者として加入する。
マーシャルに続く NUCLEUS 人脈からの参加だ。
ジェンキンスは、演奏面のみならず、作曲でも力をふるう。
演奏に着目しよう。
基本的には、従来と同じ楽器構成であり、キーボードに若干の変化がある。
つまり、ジェンキンスのエレクトリック・ピアノとラトリッジのエレクトリック・ピアノ/シンセサイザーが新しい音色のアンサンブルを生む一方、オルガン・プレイはやや後退している。
主としてこれを理由に、ゆるやかにしてスペイシーなクロスオーヴァー・タッチが強まる。
最初期の WEATHER REPORT を連想させるところもある。
また、ジェンキンスはサックスに加えてオーボエもプレイする。
この音色が新鮮だ。
そして、ミニマルなリフによる独特のトランス効果を生む手法もすでに導入されている。
録音は、前半のライヴが 72 年 11 月、後半が同年 12 月。
結論、ディーンの脱退によるフリー・ジャズらしさの後退とフュージョン/クロスオーヴァー・タッチの微妙な均衡が、クールで薄暗い個性的な色彩の音楽につながった佳作である。
以下ライヴ・テイク。基本的にメドレーである。
「Fanfare」(0:42)強烈なサックスのブロウによるコルトレーン風のモダン・ジャズ・イントロダクション。
「All White」(4:46)「Fifth」より。
スタジオ版の神秘的なイントロダクションは省いて、一気にシャープな 7 拍子リフとともにあの独特の音色を持つオーボエとエレクトリック・ピアノのリードで走り出す。
マーシャルのドラミングがワイアットを彷彿させる。
「Between」(2:33)エレクトリック・ピアノ・デュオによる幻想的な即興演奏。
「Riff」(4:28)前曲をイントロダクションに、ベースが 13/8 拍子のリフ(どこかで聴いたリフだ、NUCLEUS だろうか)を提示し、このホッパー作と思われる凝ったリフの上で、得意の歪みきったオルガンのアドリヴが走る。
ジェンキンズはベースとともにエレクトリック・ピアノでリフを刻み、オブリガートする。
ホッパー、ラトリッジの数少ない主張である。
「37 1/2」(6:53)
再び軽妙なベースによる 7+6/8 拍子のリフでサックスがテーマを示す。
続いて、エレクトリック・ピアノとオーボエのインタープレイが続く。
ドラムスは安定したリズムを供給しつつ、さまざまなプレイを繰り広げている。
ベースは、ときおり 8 ビートのリフをブリッジにはさむ。
そして、クラシカルで典雅なイメージのオーボエの音色が、ジャジーなフレーズを紡ぐ無類の面白さ。
変拍子にもかかわらず、どっしりとした安定感となめらかな動きを感じさせる佳曲である。
静かな躍動感がいい。
ここまで 旧 LP 一枚目 A 面。
「Gesolreut」(6:13)
5+7/8 のリフでサックスとエレクトリック・ピアノが歯切れよくユニゾンするイントロ。
ジェンキンスもエレクトリック・ピアノを演奏し始めるが、エフェクトでオルガンのような音である。
アクセントの位置のせいか、微妙な不安定感あり。
リズムも 5+7 から 4+8、8+4、5+7 と変化する。
エレクトリック・ピアノのデュオ。
再びオープニングのサックス、エレクトリック・ピアノによるテーマに戻って終る。
多様なリズム/アクセント変化を見せ、ファンキーな調子のある作品だが、洒脱なテーマ以外は、アブストラクトでややかったるい演奏である。
「E.P.V.」(2:50)
再びドリーミーなエレクトリック・ピアノ、そして深いエコーをしたがえたサックスの透き通るようなメロディが突き刺さる。
サックスのささやきは、ややオリエンタルなイメージだ。
シンバルを打ち鳴らすドラムスとともに、次第に演奏は熱を増してゆく。
最後はオーボエが静かに歌う。
初期の WEATHER REPORT にきわめて近い、スペイシーでロマンに満ちた演奏だ。
「Lefty」(5:02)
様々なエフェクト音、ノイズが飛び交い漂う実験的な作品。
狂ったように叩き捲くるドラムス。
ノイズは、エフェクトされたエレクトリック・ピアノによるようだ。
エンディング近くで、久しぶりにオルガンが暴れ出す。
初期のサイケデリックなスタイルに通じる演奏だ。
「Stumble」(1:36)一転ファズ・オルガンとアコースティック・ピアノによる明確でやや挑戦的なアンサンブルが始まる。
もつれるような変拍子テーマ、続いて、エレクトリック・ピアノとピアノのデュオによる新たな変拍子テーマ。
ようやくホッパーのファズ・ベースが聴こえてくる。
SOFT MACHINE らしいアンサンブルの断片。
「5 from 13(For Phil Seaman with love & thanks)」(5:15)
ドラム・ソロ。
前半はスネア、タム周りで軽やかに進むが、後半にゆくにしたがい激しくなる。
「Riff II」(1:27)再び前曲から切れ目なく続く。
ベース・リフが入ったところで、ひそめていた息を吐き出すように聴衆が拍手する。
ステレオから臨場感があふれでる。
オルガンとエレクトリック・ピアノがシャープなユニゾン・リフを決める。
初めて公開されたライヴ録音は、個性的な演奏スタイルを再認識させるものである。
ジャズロックといいながらも、いわゆるフュージョン・サウンドとは異なり、むしろスペイシーで緻密な実験音楽に近い。
込み入った作りをもつだけに、スリリングなリフで一気に攻め込むシーンのカタルシスも格別である。
ホッパーの存在感がかなり薄まっているのが残念。
ここまで 旧 LP 一枚目 B 面。以下、LP 二枚目のスタジオ・テイク。
「The Soft Weed Factor」(11:16)
複数キーボードのテーマ反復による眩惑的な効果が印象的なオープニング。
リズム・セクションの開始とともに、ベースが新たなリフを提示し、演奏はさらにポリリズミックな展開を見せる。
続いて演奏をリードし始めるのは、ジェンキンスのサックスとファズ・オルガンのユニゾンだろうか。
謎めいた呪文のようなロングトーンが、リフのモワレの上をすべってゆく。
執拗な反復が、やがてすべての基準を曖昧にし、自分の足がちゃんと地についているのかどうか分からなくなる。
マーシャルの打撃も、この催眠術で揺らいでいるのでは。
フリー・ジャズからの揺り戻しによる均一な構築世界である。
おそらくジェンキンズの作風であり、次作への展開が予見される。
「Stanley Stamps Gibbon Album(For B.O.)」(5:58)アコースティック・ピアノが右手で 8 分の 5 拍子のリフを提示し、左手で奔放なアドリヴを見せる強烈なオープニング。
一気にリズムが走り出し、8 分の 7 拍子のピアノのリフの上で、オルガンがパワフルに暴れる。
アフロ・ラテン系の音数の多いパーカッション/ドラムスが、カッコいい。
全体にハイテンションを維持した、エネルギッシュな演奏である。
珍しく疾走感のある作品であり、跳ねるようなファンキーさは感じられず、強圧的で角ばっていて硬く尖ったイメージがある。
終盤 1 分間は再び 5 拍子による無機的なパターン反復。
不気味である。
「Chloe And The Pirates」(9:30)位相変調(テープ逆回転?)されたキーボードなど電子音がうねり渦を巻くオープニング。
無機的な世界にソプラノ・サックスのメロディアスなフレージングが暖かい人智を感じさせ、一安心。
こうなると、世界は急激にソフトなクロスオーヴァー・サウンドに彩られてゆく。
エレクトリック・ピアノの和音のゆらぎがフュージョン的なグルーヴを演じる一方、ソプラノ・サックスの調べはやや現代音楽調でもある。
電化マイルス、初期 WEATHER REPORT につながる音ではあるが、こちらのほうがリリカルであり、また堅固で融通が利かない感じでもある。
ダイナミックではないのだ。
エピローグも電子音のうねり。
「1983」(7:56)
アコースティック・ピアノとエフェクトされたベースなど、エレクトリック・ノイズによるきわめて深刻、重厚な現代音楽。
電化マイルス風の即興。SOFT MACHINE の作品では最も PINK FLOYD や KING CRIMSON などのヘヴィなプログレに迫った異色作ではないだろうか。
明らかにホッパーの作品であり、ドラムスや管楽器が入っていないことなどから一人多重録音の可能性もある。
(CBS 68214 / ESCA 5536)
Mike Ratledge | organ, synthesizer, electric piano |
John Marshall | drums |
Roy Babbington | bass |
Karl Jenkins | oboe, soprano sax, electric piano |
73 年 10 月発表の「7(Seven)」。
前作でついにヒュー・ホッパーも脱退。
そして、本作では露なフリー・ジャズ色はほぼ消え、「6」の延長上にあるフュージョン・タッチのエレクトリック・ジャズ路線を突き進んでいる。
テーマ、ソロ、リフの明快さが際立ってきたが、だからといって SOFT MACHINE らしい個性、つまり知的なのにどこかヤサグレたようなワイルドなタッチがなくなったわけでは決してない。
以前は特徴的だった、エレクトリックな混沌と込み入った幾何学模様のような構築性の生む魔術じみた音楽は、ジェンキンスの導入した徹底した反復による抽象性の中にも新しい形で現れている。
音楽のキーとなっている管楽器、鍵盤楽器を中心とした緻密な渦巻きのような反復の呪文が、じつは、かつて主流にあったサイケデリックな浮遊感と酩酊感が呼び覚ましているのだ。
フュージョン風のライトなグルーヴを取り込みながらも、管楽器のソロやアンサンブルには、このグループらしい予断を許さない緊張感とクールなシニシズムが健在なのである。
洗練され、抑制の効いたサウンドにもかかわらず、全体の感触が「Fourth」や「Fifth」よりも「Third」に近いように感じられるのもそのせいだろう。
小品が並ぶアルバム構成ではあるが、全体を通したトーンに一貫性があり、実質アルバム一枚が一曲といえる作品である。
73 年 7 月録音。
僕の SOFT MACHINE 初体験である。
ちなみにロイ・バビングトンは、以前の作品では主としてダブルベースを演奏していたが、本作の頃は Fender の 6 弦エレクトリック・ベースを愛用していた模様。
ジャケットの写真でも、ギターのような 6 弦の楽器を手にしている。
「Nettle Bed」(4:49)
冒頭にも書いたように、ファズ・ベースとオルガンの 16 分の 15 拍子のユニゾン・リフが、あまりに印象的。
前作の「Riff」にて提示されたスタイルである。
このスキップするような躍動感のある執拗なリフに絡むように、ムーグ・シンセサイザーが暴れる。
シンセサイザーの音色の実験のような面もあるのかもしれない。
アンサンブルは、リフで溜まったエネルギーを噴き出すように軌道を外れては、奈落へと消えてゆく。
ジェンキンス作。
「Carol Ann」(3:43)ベースとシンセサイザーによる密やかな交歓をきらめくエレクトリック・ピアノが彩る幻想世界。
フュージョンや AOR といった音楽によくある、都会的な感傷の傷跡が夜の帳とともに浮きあがってくる、そんなイントロダクションだ。
シンセサイザーによる、はかなくもつややかなメロディと気まぐれな鼓動のようなベース・ライン。
都会的なアンニュイは、ふと気づけば無機的なクールネスで上書きされている。
エンディングのシンセサイザーとエレクトリック・ピアノのインタープレイも美しい。「Backwards」の再来である。
ジェンキンス作。
「Day's Eye」(5:02)
ベースとエレクトリック・ピアノによる 8 分の 9 拍子のリフレインにメロディアスながらもどこか覚束ないサックスが重なるイントロダクション。
フリージャズというよりは「謎めいた」という形容が似合うジェンキンズのプレイである。
サックスを受け止めるのは、「Third」の世界から舞い戻ったような、シャープなオルガン・ソロ。
ジェンキンスは、このタイミングで、サックスからエレクトリック・ピアノによるバッキングに移る。
一度このオルガンが響き渡ると、ベースのプレイもファズなしのヒュー・ホッパーに思えてくるから不思議だ。
エンディングには再びサックスの抑制されながらも官能的なプレイが現れ、オルガンとともにスリリングに幕を引く。
中期 SOFT MACHINE を回顧しつつ、クールに決めた佳作である。
ラトリッジ作。
「Bone Fire」(0:31)
前曲をそのまま引継いでサックスが高揚し、新たなリフを示唆すると、オルガンとのユニゾンへと変化、再びたたみかけるようなユニゾンで新たな展開を求めてゆく。
ラトリッジ作。
ブリッジ的な小品である。
「Tarabos」(4:30)
ファズ・ベースとエレクトリック・ピアノによるのたうつような 8 分の 18 拍子のリフに支えられて、なかなかセクシーなオーボエ・ソロが繰り広げられる。
リフは NUCLEUS の作品がモチーフになっているようだ。
オーボエは微妙に電気処理されており、ディーンのサクセロ同様、にわかにはオルガンと区別がつかない。(ラトリッジの作品なので、じつはオルガンかもしれない)
リフの上下でオーボエとドラムスがそれぞれ次第に高まってゆき、エレクトリック・ピアノの和音連打をきっかけに、一気に破裂する。
たたみかけるドラム・ロール、乱れうちとともに、管楽器、オルガンらによるヒステリックなリフレインが提示される。
最後は決め一発で終わり。
1 曲目と共通する酩酊感。
ここまで 3 曲は、あたかも一つの組曲のようだ。
ラトリッジ作。
「D.I.S」(3:01)
エフェクトでうねる電子音と化すオルガン、そしてドラの一撃。
その後は、カリンバのような金属音が残響とともに切れ切れに宙を舞うパーカッション・ソロである。
シンバル・ワークを電気加工した音だろうか、せせらぎのように聞こえる音の群れにテープ処理による音も混じっている。
エキゾティックな悪夢のイメージ。
マーシャル作。
「Snodland」(1:50)
神秘的なドローンの上でオルゴールのようなエレクトリック・ピアノとウィンド・チャイムがさざめく小品。
音片は吹き上げられたようにゆっくりと中空を漂う。
ジェンキンス作。
「Penny Hitch」(6:37)
キーボードの 6 拍子、ベースの 8 拍子によるメカニカルな反復の上で、サックスが厳かに歌う。
管楽器にこもる熱をキーボード・シーケンスが静かに散らし、繰り返しごとに冷気が強まる。
ふと視線を外すようなブレイク、オルガンによる短いイントロダクションを経て、オーボエ・ソロへ。
複合拍子のボトムとフリーなオーボエが絡み合う幻惑的な演奏である。
演奏は次第に熱気を帯び、ベースも高音へ抜ける挑発を繰り返す。
8 拍子の新たなリフにまとまり、タイトなアンサンブルへ。
ミドルテンポによるエレクトリックな迷宮世界である。
ジェンキンス作。
「Block」(4:17)
前曲エンディングからそのままテンポ・アップ、ベース・リフ上でオーボエとファズ・オルガンによるスピーディなユニゾンが続く。
リズム・ブレイクとユニゾンによるキメ。
ユニゾンを経て、オルガン・ソロへ。
伴奏はエレクトリック・ピアノ。
シャフル気味の前のめりのリズムが独特だ。
オルガンはフリージャズ風のアドリヴで自由に走り回り、ベースも機敏に動いて挑発する。
風を切るようにシャープに走るアンサンブルがカッコいい。
エンディングの複雑なユニゾンなど、初期 SOFT MACHINE (特にホッパーの作風) に近いイメージの作品だ。
ただし、独特の無機質なタッチが呪文風の怪しさを醸し出している。
ジェンキンス作。
「Down The Road」(6:00)
8 分の 10 拍子による抑制の効いたエレクトリック・ピアノ、ベース・リフに導かれるのは、トーンを変調させたオルガン・ソロ(ホイッスル風だが管楽器ではないと思う)。
ここでもリフの反復は執拗である。
続いて、オーボエとファズ・オルガンによるレガートにして無表情なユニゾンの主題が示される。
やや調子っ外れなところが独特であり、ブルーノートに気づけばそれを巧みに使ったブルーズ・テイストにも気がつく。
そして、ダブル・ベースのボウイング・ソロ。
高音で引きつるベースとともに、エレクトリック・ピアノも次第に主張を始め、不気味なベースリフとともに、波紋が広がるようにすべてが茫洋としてゆく。
反復の生む魔術的効果とモーダルな旋律による逸脱感を組み合わせた不気味なアヴァンギャルド・ジャズ作品。
インダストリアルで危険なムードがカッコいい。
ジェンキンス作。
「The German Lesson」(1:22)
電子音が膨れ上がって可聴域いっぱいを埋め尽くし、電気の雲に覆われて視界すら漠とする中を、オルゴールのような音が舞い踊る。
「Moonchild」を思い出して正解。
うねり、ねじれ、脈動する電子音。
ラトリッジ作。
「The French Lesson」(1:14)
前曲がそのまま続く。変化の相は見抜けない。
ジェンキンス作。
「Third」が、サイケな即興演奏でもって構築された大作主義の名作とするならば、こちらは、シンセサイザーに代表される洗練されたエレクトリック・テクノロジーでもって、リフを中心に組みたてられた、コンパクトな未来型ジャズロックの名作といっていいだろう。
クールで無機的、インダストリアルでテクノ・フェティッシュなタッチは、この時点で 80 年代を看破したようでもある。
フュージョン、ジャズ、プログレすべてのファンに聴いていただきたい作品だ。
(CBS S 65799 / ESCA 5419)
Roy Babbington | bass |
Allan Holdsworth | electric & acoustic & 12 String guitar |
Karl Jenkins | oboe, piano, electric piano, soprano saxophone |
John Marshall | drums, percussion |
Mike Ratledge | organ, electric piano, synthesizer |
75 年発表の「Bundles」。
遂にギタリストが加入、管楽器/キーボード/ギターのラインナップで音色/アンサンブルの幅を広げた。
王道テクニカル・ハード・フュージョンを SOFT MACHINE が料理するとどうなるか、まさにその答えとなっている作品である。
独特の長回しのリフを用いた作品では、ジェンキンスが、自分の作曲の実験を繰返しているようなイメージもある。
モダンなプレイを見せるジェンキンスに比べ、ラトリッジは、シンセサイザーを用いてもプレイ・スタイルそのものは初期と同じくフリー・ジャズ的なアドリヴである。
ジェンキンスがメロディアスなフュージョン・タッチと自己のアヴァンギャルドなセンスを折り合わせたのとは対照的に、ラトリッジはそれらに対立/拒絶することで緊張感を生み出しているような気がする。
端的にいって、ギターの導入をトリガーとしてテクニカルなクロスオーヴァー/ジャズロックというスタイルへの依拠が強まった。
従来の管楽器とキーボードによるアンサンブル、インタープレイはギターとキーボード/管楽器によるインタープレイへと移行し、その結果、スピード感が増している。
ただ、アラン・ホールズワースのギターは、管楽器的な抑揚をもつ独特のスタイルであり、思ったよりもしっくり SOFT MACHINE のサウンドにとけ込んでいる。
ダイナミックでシャープなジャズロック調の曲が続く中、ジェンキンス得意のリフがあてどなく漂流するような感触を生む環境音楽風の最終曲「The Floating World」が異彩を放つ。
そして、この回想を促すような最終曲がオープニングからの熱気をクールダウンし、独特の後味を残す。
全体としてはいまだ過渡的なイメージがある。
米国フュージョン音楽に目をやりつつ独自の世界を確立する手前にいる。
74 年 7 月録音。
個人的には、バックに響き続けるオルガンのロングトーンに惹かれている。
そのプレイヤー、オリジナル・メンバーのマイク・ラトリッジが本作品で脱退する。
なお、SEE FOR MILES の CD は、3 曲目と 4 曲目、10 曲目と 11 曲目の切れ目がおかしいようだ。
「Hazard Profile Part 1」(9:18)
NUCLEUS の第二作 1 曲目のリフを主題として翻案したヘヴィ・チューン。
ジェンキンズの作家としての構成力を見せつける。
ホールズワースはこの時点ですでに全開、ロック・ギターらしい痛快なプレイで演奏を引っ張ってゆく。
ギターとともに加熱するリズム・セクションもカッコいい。(シャープなドラミング、ゆるカッコいいベースにも注目)
リフをしたがえるオーボエ、オルガンのロングトーンのユニゾンも、いかにもこのグループらしい音である。
ジェンキンズ作。
「Part 2」(2:21)ピアノ、アコースティック・ギターによる叙情的なデュオ。
ジェンキンズ作。
「Part 3」(0:33)BRAND X を思わせる伸びやかなテーマ。
ジェンキンズ作。
「Part 4」(1:25)一転して、ギターのテーマ中心のヘヴィな演奏へ。テーマそのものは「らしい」。
ジェンキンズ作。
「Part 5」(5:29)変拍子リフによる、メカニカルなシンセサイザーとソプラノ・サックスをフィーチュアした重厚にして挑戦的、なおかつキャッチーなエンディング。
環境音楽的な要素も垣間見せる、王道テクニカル・フュージョンである。
エンディングのテーマが非常に「らしい」。
ジェンキンズ作。
「Gone Sailing」(0:59)現代音楽調の 12 弦アコースティック・ギター・ソロ。
ホールズワース作。
「Bundles」(3:14)
RETURN TO FOREVER、MAHAVISHNU ORCHESTRA を思い出して間違いないハード・チューン。
スペイシーで挑発的なテーマがカッコいいが、「Hazard Profile Part 1」のテーマの変奏に聴こえなくもない。
そして、ベースによる執拗な変拍子リフは SOFT MACHINE のもの。
ビル・ブルフォードとアラン・ホワイトを一人にしたようなドラムスもすごい。
規格外の超絶ギターは当然として、バッキングのオルガンの響きが全体をプログレ色に染め上げているのは間違いない。
ジェンキンズ作。
「Land Of The Big Snake」(3:35)ホールズワースがタメの効いたプレイで迫るバラード調の作品。
ミドル・テンポのメローなタッチにハードな表情を垣間見せる。
挑発的なドラミング、バッキングのオルガンもカッコいい。ここから切れ目なしに曲が続いてゆく。
ホールズワース作。
「The Man Who Waved At Trains」(1:50)ソプラノ・サックスとギターのユニゾンが描く、ロマンティックだがあくまで穏やかな風景画。ラトリッジ作。
「Peff」(3:37)オーボエがリードする快速チューン。エレクトリック・ピアノ伴奏。後期ソフツの音である。
ラトリッジ作。
「Four Gongs Two drums」(2:31)タイトル通り、ドラムス、パーカッション・ソロ。若干電気処理されているようだ。
マーシャル作。
「The Floating World」(7:12)美しく幻惑的なミニマル・ミュージック。
WEATHER REPORT の最初期の作風に通じる世界である。
輪郭のにじんだ主旋律はフルートのように聴こえるが、クレジットがないのでシンセサイザーなのだろう。
ジェンキンズ作。
(HARVEST SHSP 4044 / SEE CD283)
Roy Babbington | bass |
John Etheridge | acoustic & electric guitar |
John Marshall | drums, percussion |
Alan Wakeman | soprano & tenor saxophone |
Karl Jenkins | piano, electric piano, pianette, string & Mini moog |
guest: | |
---|---|
Mike Ratledge | synthesizer on 4 |
76 年発表の「Softs」。
ついに、最後のオリジナル・メンバー、マイク・ラトリッジが脱退し、事実上のグループ最終作となった。
ギタリストは、アラン・ホールズワースから Darry Way's WOLF のジョン・エサリッジに交代し、管楽器奏者としてアラン・ウェイクマンが加入、ジェンキンスはキーボードに専念することになった。
内容は、ハード・エッジにして情動をおおらかに、スケール豊かに表現するエサリッジのギターをフィーチュアし、キーボードが悠然と受けとめる、テクニカルかつメロディアスなジャズロック。
壮絶な緊迫感と耽美なリリシズムの間を大きく行き交う演奏は、後期 SOFT MACHINE 最大の見せ場だろう。
前作と比べると、詩的で豊かな広がりのある音楽という地平へ到達したおかげでぐんと筋が通った印象がある。
また、ストリングス系のシンセサイザー(新兵器か?)が響きわたる空間を情熱的なギターが貫いてゆく、ロマンあふれる演奏や、南欧風のアコースティック・ギターとピアノのデュオなど、抑制を効かせつつもメインストリーム・フュージョンへの接近が感じられる。
それでも迎合するようなところはなく、あくまで知的でプログレッシヴなジャズロックとなっているのは、エサリッジ、ジェンキンスらのクールなセンスのおかげだろう。
熱を帯びたプレイの一方、ジェンキンス得意のミニマル・パターンも曲間のつなぎをはじめあちこちに現れており、緻密に音を積み重ねる冷徹な計画性も露になっている。
結論として本作は、SOFT MACHINE という名前にこだわる必要はなさそうな傑作であり、ブリティッシュ・ジャズロックを代表する一枚といえるだろう。
76 年 3 月録音。
「Aubade」(1:51)ソプラノ・サックスとアコースティック・ギターによるおだやかなデュオ。
幻想的なイントロダクションである。
「The Tale Of Taliesin」(7:17)は幻想と叙情に満ちた、異色の大作。
悠然たる序章・終章の間にはギター、ドラムスが壮絶な疾走を見せ、世界は一瞬にして煮えたぎる。
ここでのエサリッジのプレイはジョン・マクラフリンを越えている。
「Ban-Ban Caliban」(9:22)は、穏やかなテーマとリズミカルなリフに支えられたシャープなソロをフィーチュアした作品。
シンセサイザーのシーケンスに続き、序盤をリードするのはソプラノ・サックス(これがジェンキンスのオーボエとよく似ている)とマリンバであり、歯切れいいギター・ソロ以降は、中期 RETURN TO FOREVER をやや小ぶりにしたような超絶演奏が続く。
ジョン・マーシャルがレニー・ホワイトに聴こえてしまう。
「Song Of Aeoius」(4:31)は、官能の疼きにメランコリーが翳を落とすバラード。
ソリッドなギターが、かえってリアルな重みと気品を感じさせる。
FOCUS を大人にしたようなサウンドだ。
「Out Of Season」(5:32)は、ピアノとアコースティック・ギターによるデュオからエレキギターの切ないテーマへと進む、ロマンティックなニューエイジ風の楽曲。
リラックスしたエレクトリック・ピアノが、いい感じだ。
「Second Bundle」(2:37)はキーボードの多重録音。
万華鏡のようにファンタジックで調和した世界。
「Kayoo」(3:27)は、東洋の民族打楽器を用いたと思われるパーカッション・ソロ。
前半で慣れない楽器にフラストしたか、後半は普通のドラムキットで叩き捲くる。
「The Camden Tandem」(2:01)は、快速ドラムスと超絶ギターによる弾けた即興デュオ。
現代のロックのリスナーには、向きかもしれない。
ボイル、グッドソールを凌ぎ、マクラフリン、ホールズワースと並ぶ名手の一発芸である。
「Nexus」(0:49)
「One Over The Eight」(5:31)は、ファンキーなリズムが NUCLEUS を思わせる R&B 調のジャズロック。
サックスがフィーチュアされアメリカンだが、どこか陰のあるところは BRAND X と同じ。
「Etka」(2:21)ほのかにラテンの香りのするアコースティック・ギター・デュオ。
(HARVEST SHSP 4056 / SEE CD285)
John Marshall | drums, percussion |
Karl Jenkins | piano, electric keyboards, synthesizer |
John Etheridge | acoustic & electric guitar |
Rick Sanders | violin |
Steve Cook | bass |
78 年発表の「Alive & Well」。
再び新メンバーを迎えて、77 年パリの Theartre Le Palace で収録されたライヴ・アルバムである。
(左がオリジナル LP ジャケット、右は SEE FOR MILES の再発 CD。2011 年現在、ESOTERIC からの追加音源付き CD 二枚組が入手できる)
シンセサイザー、ヴァイオリンによる透明感ある音質とスリリングなプレイを堪能できる好作品だ。
本作の時点で、オリジナル・メンバーは不在であり、SOFT MACHINE は原形をとどめていない。(マイク・ラトリッジがいくつかの作品のアレンジ、サウンド・メイキングなどに関わっている可能性はある)
管楽器の代わりにヴァイオリンを投入して、エサリッジのギターとともに演奏をフロントを務めさせて、テクニカルなユーロ・ジャズロックを演奏している。
もはや、前作同様 SOFT MACHINE という名前にあまりこだわる必要はなく、別の技巧派のジャズロック・グループとして新鮮に聴くということでよいと思う。
さて、作品だが、そつのないリズム・セクションとともにつややかな音色で旋律を押し出して存在感を見せるヴァイオリンと音数の多いテクニカル・ギターが微妙にフロントを分けつつ疾走する作品から、各プレイヤーをフィーチュアしたソロ作品、キーボードによるサウンドスケープ風の作品まで、アンサンブルこそややラフで緩めながらも、聴きどころは多い。
矢継ぎ早のメドレーから変拍子パターン、無機的な反復など、SOFT MACHINE の遺伝子は脈々と続いているようだが、そういったリフにも、叙情性と分かりやすさ(テーマがメロディアスになった)が加わっているようだ。
また、中盤はエサリッジの超絶ギターがぐいぐいと引っ張っるエネルギッシュかつハイ・テンションの演奏だが、どちらかといえば、シンセサイザーのサウンドスケープを活かした、幻想的で瞑想的なイメージが主ではないだろうか。
最終曲の印象がそれだけ強いということもできる。
しかし、しかしだ、オリジナル・メンバー不在のこの地点まできてもなお、このサウンド、パフォーマンスが、人影のない「メトロポリス」のようなレトロ未来都市で機械だけが蒸気音を立てて動いている情景をイメージさせる。
これは間違いなく SOFT MACHINE のものである。
遺伝子どころか、グループのアイデンティティという見えない何かが、奏者を突き動かしているに違いない。
そして、特に 1 曲あげるならば、ラスト曲「Soft Space」。
すでにジャズロックというレッテルは不適切であり、シンセサイザー・ビートが強烈なテクノ・ジャズ (TANGERINE DREAM という話もありますが) といっていい。
エサリッジ得意のアコースティック・ギターなど多彩な音が入っており、ライヴ・アルバムとしては優れている。
ARTI+MESTIERI のファンは本作もお見逃しなく。
スティーヴ・クックは、GILGAMESH や SEVENTH WAVE、リック・サンダースは ALBION COUNTRY BAND で活動。この作品の後、エサリッジ、リック・サンダースは、SECOND VISION 結成へと進む。
「White Kite」(3:00)シンセサイザーによる神秘的な序章。
「EOS」(1:22)ヤン・アッカーマン風のギターが切なく叫ぶ。
「Odds Bullets And Blades PT I」(2:18)7 拍子のリフがドライヴするも、ややライトなフュージョン調。
「Odds Bullets And Blades PT II」(2:33)エサリッジの超絶ギターがリードするハード・ジャズロック。
「Songs Of The Sunbird」(1:24)シンセサイザーが静かに歌うナイト・ミュージック。
「Puffin」(1:18)ギターが加わり、力強く前進する。
「Huffin」(5:12)SOFT MACHINE または NUCLEUS らしい変拍子パターンが冴える。超絶ジャズギターのアドリヴを見せつける。ここまでメドレー。
「Number Three」(2:25)エサリッジの独演会。アコースティック・ギター 1 本によるスパニッシュなソロ。
「The Nodder」(7:13)6+5 拍子のリフでドライヴするミドル・テンポの作品。
抽象的にして揺ぎ無い自信があるこの味わいは、SOFT MACHINE ならでは。
「Surroundings Silence」(4:04)サンダースのややジプシー・フィドル調のヴァイオリンをフィーチュアした作品。ニューエイジ、ワールド・ミュージック風。
「Soft Space」(8:17)
(HARVEST SHSP 4083 / SEE CD 290)
Mike Ratledge | keyboards |
Hugh Hopper | bass |
Elton Dean | alto sax, saxello |
Robert Wyatt | drums, voice |
88 年発表の「Live At The Proms 1970」。
「Third」リリースからニヶ月、1970 年 8 月、ロイヤル・アルバート・ホールでの BBC ライヴ録音。
選曲は、サードから 2 曲とセカンドのメドレー大作 1 曲。
最初の絶頂期を迎えたグループの姿を、タイミングよくとらえた作品である。
特に、アルバムに忠実なアレンジのテーマ部の演奏は、管楽器ゲストの不在はあるものの、完璧に近い。
また、ディーンのソロを突破口に白熱し拡大するインプロヴィゼーションもすばらしい。
しかし、演奏がややまとまり過ぎ、ライヴの迫力を削いだかもしれない。
メドレーではワイアット独特のシュールでアヴァンギャルドなヴォーカル・パフォーマンスが楽しめる。
ワイアットのドラミングもすばらしい。
2007 年「Third」再マスター盤のボーナス・ディスクとして復刻予定。
「Out-Bloody-Rageous」(11:54)プロローグのサイケデリックなテープ・エフェクト?がオリジナルに近く再現されている。
オルガンかファズ・ベースと思われるノイズすら、意図的なものに思えてしまう。
すべるように走り出すオープニングは、鳥肌がたつほどカッコよし。
「Facelist」(11:22)
「Esther's Nosejob」(15:39)「Volume Two」B 面収録の「Pig」から 4 曲のメドレー。
(RECK 5 / CD RECK 5)
Hugh Hopper | bass | Robert Wyatt | drums |
Mike Ratledge | electric piano, organ | Elton Dean | sax |
Phil Howard | drums | Ronnie Scott | tenor sax |
Marc Charig | cornet | Paul Nieman | trombone |
Roy Babbington | double bass | Neville Whitehead | bass |
93 年発表の BBC ライヴ盤「BBC Radio 1 Live In Concert」。
「Fourth」発表直後の 1971 年 3 月 11 日録音のライヴ盤である。
マーク・チャリグ以下管楽器奏者とベーシストを二人迎えた編成となっている。
ワイアット脱退が濃厚となったためか、フィル・ハワードを迎えた構成での演奏であるところも興味深い。
ディーン作曲のオープニング 2 曲がかなりの存在感を示すが、この作品は彼のファースト・ソロ・アルバムにも収録される。
以上より、本ライヴは SOFT MACHINE とエルトン・ディーンが同時進行で率いた ELTON DEAN GROUP の合体グループによると考えるべきだろう。
1 曲目は、エレクトリック・ピアノの切れ味がいいジャズロック、そして 2 曲目は、フリー・ジャズ色の強い即興演奏である。
4 曲目は、幾つかのライヴに収録されているラトリッジの作品。
演奏内容はまさしく「Fourth」期のものであり、ディーンのサックスが中心となったフリー・ジャズ期の SOFT MACHINE である。
全体に録音が優れており、管楽器がフィーチュアされた明快なジャズロックを堪能できる。
2005 年再発。
「Blind Badger」(10:08)二つの管楽器によるインタープレイは明確なユニゾンへと収束し、エレクトリック・ピアノのソロへと進む。
続いてコルネットのソロ。
サックスは、少しづつコルネットを攻め、自らのソロを奪い取る。
そして、サックス、コルネットのユニゾンが再現し、嵐のようなエンディングを迎える。
ベースは、非常にオーソドックスなジャズ・ベース。
ドラムスもシンバル連打とバスドラ中心の演奏だ。
迫力は今一つだが、互いに火をつけるきっかけを探し回るような、緊張した演奏が面白い。
演奏はディーン(sax)、チャリグ(cornet)、ラトリッジ(El piano)、ホワイトヘッド(bass)、ハワード(drums)ら、ELTON DEAN QUINTET による。
ディーン作。
「Neo Caliban Grides」(5:43)サックスのダルなフレーズから始まる即興演奏。
ラトリッジのファズ・オルガンとディーンのサックスから始まり、ホッパーのファズ・ベースも加わって、ソロを交えつつ凄まじいインタープレイを繰り広げる。
ドラムスは、ツインであることすら判然としないし、両者の区別もつかない。
管楽器を貫いて絶叫するオルガンは、いかにもこのグループらしい音だし、フリー・ジャズ的な展開に新鮮さを与えている。
ディーン(sax)、ラトリッジ(organ)、ホッパー(bass)、ワイアット(drums)、ハワード(drums)による。
ディーン作。
ここからがメドレーのスタートである。
「Out Bloody Rageous」(5:19)「Third」より。
同曲の中間部の抜粋。
エレクトリック・ピアノのバッキングによるサックスのストレートなソロ(原曲ではオルガン)をフィーチュアしている。
ベースは凄まじいファズだ。
アグレッシヴなのに洗練された明確な演奏がすばらしい。
ラトリッジ作。
「Eamonn Andrews」(1:27)ベース、サックス、エレクトリック・ピアノによるユニゾンの強烈なリフレイン、そしてエフェクトで狂暴に変容したベースが唸りを上げる。
シンバル/スネアを連打するドラムス。
次曲へのブリッジである。
「All White」(4:58)「Fifth」には、イントロにミステリアスなサックス・ソロが付け加わわった形で収録される。
ベースの静かなリフからオルガンが立ち上がり、波乱含みの演奏を予感させる。
何かを待つようなイントロダクションだ。
オルガンが口火を切るが、結局リードはサックスへ。
サックスの明確な力強いメロディ、そしてエレクトリック・ピアノが、バッキングにとどまらないプレイでサックスへと絡む。
「Fourth」の世界を、さらにコンパクトに凝縮したような印象の曲だ。
ラトリッジ作。
ここからスコット(tenor sax)、チャリグ(cornet)、ニーマン(trombone)、バビントン(double bass)が加わる。
「Kings And Queens」(4:41)「Fourth」より。
ベースの静かなリフで、サックスがメランコリックに歌う。
原曲のイメージ通り、抑制された中にロマンチシズムを孕んだ演奏である。
ホッパー作。
「Teeth/Pigling Bland」(15:53)前半は「Fourth」より。
後半は「Fifth」に収録される。
「Teeth」は全曲の荒々しい名残を吹き飛ばすドラムスから始まって、バビントンのダブル・ベースをきっかけに、ホーンが吠えるエネルギッシュなオープニング。
テーマを繰返して演奏は走り出そうとするが、エレクトリック・ピアノがからまって出直し。
再び走り出した演奏の最初のソロはディーン。
ワイアットのドラムスが、息を吹き返したように自由闊達に叩きまわっているのが印象的だ。
バックではエレクトリック・ピアノが暴れる。
そしてダブル・ベースのテーマから、いよいよラトリッジがオルガンで飛び出し、ホーンと真っ向衝突する。
そして力強いホーンによるビッグ・バンド風の演奏が続くが、やがてオルガンが主導権を取りソロで走る。
オルガンとホーンがからみあってグシャグシャになるが、トロンボーンの下、次第に秩序が戻る。
穏かなブラス・アンサンブル。
そして「Pigling Bland」である。
なめらかに優美にサックスが歌い出す。
「Fifth」ではホーンはディーンのみだが、ここではホーン・セクションがオブリガートに入ってくる。
いかにもジャズロックらしいスリリングなバッキングに対して、ディーンのサックスがとうとうと歌い続ける。
そしてエンディング。
オルガン主導の疾走するユニゾンがじつにカッコいい。
うねるように続くエネルギッシュな演奏に身を任せていると、メドレーこそこのグループの演奏スタイルなのだ、ということが改めて強く感じられる。
ラトリッジ作。
アルバムの再現というレベルはとうに超越した、驚異のスタジオ・ライヴ。
ディーン主体の時期ではあるが、ラトリッジの熱いバッキングやワイアットの荒々しくも表情のあるドラミングも魅力的だ。
ライヴ盤では一押しの作品。
(WINCD 031)
Karl Jenkins | sax, keyboards, electric piano |
Hugh Hopper | bass |
John Marshall | drums |
Mike Ratledge | electric piano, organ |
94 年発表の「BBC Radio 1 Live In Concert」。
WINDSONG からの BBC Radio 1 ライヴ・シリーズ第二弾。
ディーン脱退後、カール・ジェンキンズの参加したライヴである。
72 年 7 月 20 日パリス・シアターにて収録(CD のクレジットは 71 年となっているが誤り)、放送は 72 年 9 月 2 日。
サックスの代わりにジェンキンズのオーボエをフィーチュアした「Slightly All The Time」が興味深い。
他は五作目、六作目からの作品。
2005 年再発。
「Fanfare」(1:58)
「All White」(5:50)後期への橋渡しとなる代表作。ベースによるタイトな 8 分の 7 拍子のリフの上で、エレクトリック・ピアノとソプラノ・サックスによる挑戦的なアドリヴ合戦が続く。
心地よい緊張感そして開放。
「Slightly All The Time」(5:40)「Third」収録の名曲。
エレクトリック・ピアノのデュオによるイントロから、静かなベース・パターンに導かれてサックスのアドリヴへ。
ジェンキンズのプレイは狂的な熱気の中にリリシズムが浮き上がるディーンと比べると、テクニカルで冷徹なイメージがある。
「M.C.」(3:47)
「Drop」(10:06)
「Stumble」(5:54)
「L.B.O.」(3:30)
「As If」(3:19)
「Riff」(14:40)「Gesolreut」とのメドレーか。
(WINCD 056)
Elton Dean | saxello, alto sax, Rhodes piano |
Hugh Hopper | bass |
John Marshall | drums |
Mike Ratledge | electric piano, organ |
95 年発表の「Live In France」。
72 年録音。
「Third」以降「Fifth」までの作品に、即興曲を交えたフル・コンサートを収めている。
マーシャルを加えた編成での「Facelift」など「Third」の作品が珍しい。
アグレッシヴなドラミングが意外にもいい刺激になっていて過渡的な編成ならではの魅力が出ていると思う。
「Facelift」は、ディーンのエレクトリック・ピアノをフィーチュアしたインプロヴィゼーションからラトリッジのテーマに移り、その後は二台のエレクトリック・ピアノのアンサンブルが続く変則的な演奏だ。
複数管による演奏ほどの迫力はなく、後半のサックスの相手もオルガンではなくエレクトリック・ピアノなので、「Third」とはかなり印象が異なる。
ただし、後半のディーンのサックスの切れはみごと。(前半はステージ上のマイクロフォンの不調があるようだが)
全体に鳥肌が立つような荒々しさ、迫力はないが、安定感のある演奏である。
この作品の後、5 月にはディーンが脱退し、7 月にはすでにカール・ジェンキンスが新サックス奏者として加入している。
したがって、今のところディーン在籍時最後のライヴ・テイクになる。
毎度、マイルスのエレクトリック・バンドにコルトレーンがいたらこんな感じ?、と思います。
CD 二枚組。モノラル録音。
「Plain Tiffs」(3:32)即興による緩やかなイントロダクション。管楽器はサクセロか。「plaintiff」なら「原告」という意味だと思いますが、まさか、「シンプルな画像符号化形式」じゃないよね。
「All White」(6:23)「Fifth」収録曲。
前曲で準備が整ったか、饒舌なサックスのリードと 8 分の 7 拍子のリフが一気にギアを上げてゆく。
乾いたドラミングが似合う。
ラトリッジはエレクトリック・ピアノに専念。
終盤、サックス、エレクトリック・ピアノのユニゾンが冴える。
チック・コリアばりのラトリッジのアドリヴがカッコいい。
次曲へは、ホッパーのベースが導く。
「Slightly All The Time」(13:09)「Third」収録曲。
緩やかなテンポによるスイング感、メランコリックな響き、クールでアブストラクトなタッチが絶妙の配合を見せる傑作。
「Backwards」は省略されている。
ラトリッジはオルガン、ディーンはエレクトリック・ピアノ。中間でラトリッジもエレクトリック・ピアノに移行。
ついで、ディーンがサクセロでメランコリックな名テーマを演奏し、倍速展開への足懸りを作る。
「Drop」(7:43)「Fifth」収録曲。
序盤は手探りのようなフリー・フォームの演奏。2 台のエレクトリック・ピアノがディレイとフェイズ・シフタでにじみ、ドラムスが牙を剥く。
エレクトリック・ピアノの示す和音パターンをきっかけにドラムス、ベースが 8 分の 7 拍子の鋭いビートを刻み始めると、ラトリッジのファズ・オルガン登場。
ディーンはエレクトリック・ピアノで手堅く後方支援。いつもながらラトリッジのソロは奔放で無茶苦茶で、なおかつ創造性がある。
終盤に向けてアンサンブルがいい呼吸で盛り上がってゆく。
「M.C.」(2:59)「Fifth」収録曲。
前曲終盤から RETURN TO FOREVER を思わせる夢想的なエレクトリック・ピアノがたゆとい始める。
ディーンのアルトもなかなかリリカルだ。ただし、「普通の」ジャズっぽい。自信にあふれてテーマへと収束し、次曲の準備ができあがる。
「Out-Bloody-Rageous」(13:25)「Third」収録曲。
エレクトリック・ピアノとアルト・サックスのロマンティックなデュオのままスタート。サックスはすでにテーマをゆったりと奏でている。
ブルージーなサックス・ソロの末尾を飾るロングトーンをきっかけにベースがリフを提示、一気にスリリングなテーマへ。
管楽器が一つなためテーマの押し出しは今一つだが、キメの後、ディーンがエレクトリック・ピアノに回り、オルガンのアドリヴが始まると、スリリングな演奏が盛り上がってゆく。
6:30 辺りでエレクトリック・ピアノが交代、ディーンが再びサックスを手にして、角張った 4 分の 10 拍子の上でしなやかなアドリヴを放つ。
7+6 拍子で倍速化、演奏はディーンのソロとともに激しく過熱するも、頂点を迎えないまま終焉に。
「Facelift」(17:53)「Third」収録曲。
テーマも含んだツイン・エレクトリック・ピアノによるアドホックな序奏(アマチュア・バンドによる WEATHER REPORT のカバーのような感じ)を経て、5:25 付近でようやくオルガンのテーマが提示される。
この曲独特の「奇妙さ」があまり感じられない、やや薄味の演奏である。
ドラムスによる楽曲の解釈がイマイチである可能性もある。
後半、サクセロが入ってからのメランコリックなアドリヴ展開はなかなか味がある。
「And Sevens」(8:55)ドラムスがリードする衝撃的なプレイの連続からスタートする 7 拍子の即興。
マーシャルがさまざまな打撃音を繰り出す様子が、ジェイミー・ミューアを思い出させる。
「As If」(8:30)「Fifth」収録曲。ディーンの渾身のアドリヴをバックがクールに支える。
「LBO」(6:08)「Fifth」収録曲。ドラムス・ソロ。前曲からドラムス・ソロになだれ込む展開はアルバムと同じ。
「Pigling Bland」(6:05)「Fifth」収録曲。我慢していたせいか、拍手が起きる。
7 拍子、5 拍子のリフがドライヴするアグレッシヴにしてロマンティックなサックス・ソロ。緩急の変化とともに雰囲気を自在に制御するスタイリッシュな作品。
エンディングとともにアンコールの拍手が沸き上がる。
「At Sixes」(11:00)アンコール曲。カルテットによる即興曲。奔放にしてメロディアスなサックスのアドリヴがいい。
(OW 31445)
Mike Ratledge | electric piano, organ |
Hugh Hopper | bass |
Robert Wyatt | drums, vocals |
オフィシャル・ブートレッグ、95 年発表の「Live at the Paradiso 1969」。
69 年 3 月 29 日アムステルダムでの録音。
ヒュー・ホッパーをベーシストに迎えた三人構成による「Volume Two」からの演奏である。(もっとも内ジャケットの写真には第四の男エルトン・ディーンも写っている)
ジャズロック・インストゥルメンタルへと傾倒し始める直前の演奏であり、いまだワイアットのヴォーカルもたくさん入っている。
三人とは思えない音圧と迫力のあるインプロヴィゼーション、切ないまでのリリシズムをたたえた表情に、優れたライヴ・バンドであることを再認識させられる。
変拍子を叩きながら絶叫するワイアット、クレイジーかつクールなフレーズをノイジーに繰り出すラトリッジ、そしてファズ・ベースでブンブンと奇矯なリフを繰り出すホッパー。
アドレナリンが頭に集まってしまい、チキショウこうなったら全作聴き倒すかとばかりに興奮させられる。
音質は十分リスニングに耐えるレベル。
「Hulloder」(0:24)第二作 A 面「Rivmic Melodies」のメドレーより。第五曲。
「Dada Was Here」(8:21)第二作 A 面のメドレーより。第六曲。スペイン語で歌唱。後半のインストゥルメンタル・パートを大幅に拡大。
「Thank You Pierrot Lunaire」(0:45)第二作 A 面のメドレーより。第七曲。
「Have You Even Bean Green?」(0:57)第二作 A 面のメドレーより。第八曲。
「Pataphysical Introduction PtII」(1:00)第二作 A 面のメドレーより。第九曲。
「As Long As He Lies Perfectly Still」(1:55)第二作 B 面「Esther's Nose Job」のメドレーより。第一曲。
「Fire Engine Passing With Bells Clanging」(2:17)第二作 B 面のメドレーより。第三曲。過激なインプロヴィゼーション。
「Hibou, Anemone And Bear」(4:17)第二作 A 面のメドレーより。第三曲。
ホッパーの変拍子リフとラトリッジのオルガンが冴えるジャズロック SOFT MACHINE の代表作。
後々まで演奏されるレパートリーとなる。
「Fire Engine Passing With Bells Clanging(Reprise)」(3:26)第二作 B 面のメドレーより。第三曲のリプライズ。ドラムス・ソロ。
「Pig」(4:21)第二作 B 面のメドレーより。第四曲。
オルガンの変拍子オスティナートと凶暴なベースがファズを奪い合いながら繰り広げるジャズロック。
多彩なサウンドを放つオルガンに注目。
「Orange Skin Food」(0:15)第二作 B 面のメドレーより。第五曲。
変拍子ブリッジ。
「A Door Opens And Closes」(1:18)第二作 B 面のメドレーより。第六曲。
変拍子ブリッジの展開。後半ワイアットのヴォーカル・パフォーマンスあり。
「10:30 Returns To The Bedroom」(10:59)第二作 B 面のメドレーより。第七曲。
7 拍子をキープして走り続ける。オルガンとベースのみごとなユニゾン。
(BP193CD)
Elton Dean | alto sax, saxello, electric piano |
Mike Ratledge | electric piano, organ |
Hugh Hopper | bass |
Robert Wyatt | drums, vocals |
98 年に発表された 71 年のライヴ盤「Virtualy」。
「Fourth」発表直後、71 年 3 月 23 日ドイツ、ブレーメンにて収録。
録音時期の共通する「BBC Radio 1 Live In Concert」と、ほぼ同じ曲構成だ。
ただしこちらは、四人のみによる演奏である。
「Facelift」は、ラトリッジがソロでリードし、ディーンはエレクトリック・ピアノで伴奏する。
ホーンがディーンのみのためにパワーと広がりには欠けるものの、反面音の密度は上がりプレイのテンションも高い。
そして 2 曲目「Virtualy」になだれ込み、ディーンがサクセロでスリリングにたたみかける。
そして圧巻は、6 曲目の「Out-Bloody-Rageous」。
ディーンのエレクトリック・ピアノ伴奏によるラトリッジのオルガン・ソロは、まさに炸裂という表現が相応しい。
そしてオルガンを引き継ぎ、前面へと出るディーンのサックス・ソロ。
テーマとともに激しくもメロディアスなプレイがみごとだ。
ワイアットは、ディレイを用いたヴォーカル・パフォーマンスも見せる。
また、既発曲のみならず「Fifth」へ入る曲も演奏されており、興味深い。
僕にはどうもスタジオ盤をひいきする傾向があって、ライヴ盤には点が辛くなるんだが、このライヴは別格です。
音質も演奏も、充分及第点がつけられる。
四人のみによるタイトにして一体感ある演奏が堪能できる。
「Facelift」(10:04)「Third」より。
ホッパー作。
「Virtually」(8:17)「Fourth」より。
ホッパー作。
「Slightly All The Time」(8:12)「Third」より。
ラトリッジ作。
「Fletcher's Blemish」(5:41)「Fourth」より。
ディーン作。
「Neo-Caliban Grides」(9:26)ディーン作。ディーンの初ソロ作に収録される。
「Out-Bloody-Rageous」(9:59)「Third」より。
ラトリッジ作。
「Eamonn Andrews」(4:29)ラトリッジ作。
「All White」(3:16)後に「Fifth」へ収録。
ラトリッジ作。
「Kings And Queens」(3:37)「Fourth」より。
ホッパー作。
「Teeth」(9:20)「Fourth」より。
ラトリッジ作。
「Pigling Bland」(4:55)後に「Fifth」へ収録。
ラトリッジ作。
(CUNEIFORM RUNE 100)
Robert Wyatt | drums, vocals |
Mike Ratledge | keyboards |
Hugh Hopper | bass |
Lyn Dobson | saxes(on 1,2) |
Elton Dean | saxes(on 3-8) |
98 年発表の「SOFT MACHINE Live 1970」。
70 年 2 月録音のリン・ドブソンのサックスによる「Facelift」と「Moon In June」に、いつもの四人による 70 年 8 月録音の数曲を加えた、ライヴ・コンピレーション。
おそらく 3 曲目以降は、「Live At The Proms」と同じ音源だろう。
クレジットは 8 曲だが、CD プレイヤーは 11 曲まで表示する。
音源の古い編集盤やブートまがいのものには、よくある現象だ。
曲のクレジットもインナーとスリーヴで異なっているが、スリーヴの表記が正しい。
内容は「Third」のリリース前後の作品から。
前半のドブソンの加わった 2 曲は、残念ながら録音がかなり悪い。
しかし、インストのテンションの高さは、伝わってくる。
「Facelift」は、最後にテーマが出現するまではそれとはわからない。
「Moon In June」は、ヴォーカル・パートが終ってからのインストのみの演奏である。
音が薄く感じられるのは、ドラムスの音がうまく録れていないせいだろう。
3 曲目からはレギュラー四人による演奏。
「Live At The Proms」よりも音質がやや落ち、若干の編集もなされているようだ。
まず「Out-Bloody-Rageous」は、「Proms」では入っていたオープニング部分(拍手・歓声含む)が切られて、フェード・インになっている。
これは、オルガンかベースの不調によるノイズが入っていたためだろう。
「Facelift」の始まりのタイミングも、「Proms」よりも 30 秒くらい早め。
もちろんメドレーなので、どこで切るかはあまり内容には関係はない。
「Facelift」は、ディーンが大爆発しハイ・テンションで数分にわたって吹きまくる。
そして、実にタイミングよく、ラトリッジがエンディングのきっかけを入れる。
しかし曲は終わらず、そのままドラムスのロールとともに次へ。
ベースが走り出すとメロディが入りタイトな演奏が続く。
まったく切れ目なく次の曲へ。
遠くでワイアットが歌っているのが聴こえる。
「Proms」では「Esther's Nosejob」としてクレジットされていた「Pig」以降「10:30 Return to the bedroom」までは、セカンド・アルバム収録のメドレー。
第三作以降の精緻なインストゥルメンタル志向を打ち出した最初の作品である。
「Facelift」(4:57)「Third」より。
ホッパー作。
「Moon In June」(5:55)「Third」より。
ワイアット作。
「Out-Bloody-Rageous」(8:46)「Third」より。
ラトリッジ作。
「Facelift」(11:55)「Third」より。
ホッパー作。
「Pig」(1:31)「Volume Two」より。
ラトリッジ作。
「Orange Skin Food」(1:26)「Volume Two」より。
ラトリッジ作。
「A Door Opens And Closes」(1:43)「Volume Two」より。
ラトリッジ作。
「10:30 Returns To The Bedroom」(1:12+1:04+2:08+6:34)「Volume Two」より。
ラトリッジ/ホッパー/ワイアット作。
(BP290CD)
Elton Dean | alto sax, saxello |
Lyn Dobson | soprano sax, flute, vocals |
Hugh Hopper | bass |
Mike Ratledge | electric piano, organ |
Robert Wyatt | drums, vocals |
2000 年発表の「Noisette」。70 年 1 月 4 日、クロイドン・フェアフィールド・ホールにおけるライヴ録音であり、「Third」収録の「Facelift」が収録された日の他のテイクを集めた内容である。
編成は、ニック・エヴァンス、マーク・チャリグ離脱後のリン・ドブソンを交えたクィンテット。
スリーヴには、録音に際しすべてのテープが曲の途中で終ったため、編集及び 1 月 10 日の録音で修復してようやく発表できた、と記載されている。
録音状態は悪くなく、熱気と疾走感のある演奏が楽しめる。
「Backward」では、ディーンのサックスに代わり、ドブソンがフルートとヴォーカルを披露する。
また、ワイアットのヴォーカル・パフォーマンスは「Hibou, Anemone And Bear」のエンディングのみに抑えられている。
したがって、「Moon In June」はインストゥルメンタル。
ディーンのエネルギッシュなソロが続く佳曲「12/8 Theme」は未発表曲のようだ。
「Eamonn Andrews」(12:15)ラトリッジ作。タイトルは司会者の名前のようだ。
「Facelift」に通じる前のめりのリフで突き進む、カッコいい演奏である。
「Mousetrap」(5:24)ホッパー作。
管楽器中心にいかにもフリー・ジャズらしいフレーズで攻め立てるも、リリカルな表情も失わない佳曲。
挑戦的にしてインテリジェントな 8 分の 9 拍子のリフとの対比も鮮やか。
「Noisette」(0:37)「Third」より。
前曲を受け止めるように、ツイン・サックスで華やかにキメる。
ホッパー作。
「Backwards」(4:48)「Third」より。
そしてカンタベリーの代表曲の 1 つへ。ファンタジックなオルガンの和音に包まれた、胸を締めつけるようなフルートの調べ。ドブソンのトーキング・スタイルが新鮮だ。
終盤、なめらかに走り出し、スリリングなアンサンブルへと発展する。
ラトリッジ作。
「Mousetrap(reprise)」(0:26)ホッパー作。
「Hibou, Anemone And Bear」(8:50)「Volume Two」より。
ディーンが張り切る、端正にしてエネルギッシュ、スピード感あふれる変拍子ジャズロック。
ノイジーなオルガン・ソロもカッコいい。
ラトリッジ/ワイアット作。
「Moon In June」(6:55)「Third」より。
インストでも名曲。
ロマンティックで大仰で、オルガン炸裂。
初期 KING CRIMSON にも 後期 THE BEATLES にも聴こえるということは、本作の英国ロックとしての純血度の高さを物語るのか。
ワイアット作。
「12/8 Theme」(11:25)ホッパー作。
2 管の魅力をフルに生かしたジャジーなジャズロック。
堅実なベースランニング、エレクトリック・ピアノによるバッキングもいい感じだ。
「Esther's Nose Job」(14:30)「Volume Two」より。B 面後半のメドレーの発展系。
ラトリッジ作。
「We Did It Again」(7:15)「Volume Two」より。
エヤーズ作。
(CUNEIFORM RUNE 130)
Mike Ratledge | electric piano, organ |
Robert Wyatt | drums, vocals |
Hugh Hopper | bass |
Elton Dean | alto sax, saxello except 7 |
Marc Charig | cornet on 4,5,6 |
Lyn Dobson | soprano & tenor sax on 4,5,6 |
Nick Evans | trombone on 4,5,6 |
2002 年発表の「Backwards」。
70 年 5 月および 69 年 11 月収録のライヴ音源と、68-69 年収録ののロバート・ワイアットのデモから成る編集盤。
1 曲目から 3 曲目は、70 年 5 月末ロンドンにて収録の 40 分にわたるメドレーで 四人編成によるもの。「Third」
4 曲目から 6 曲目は、69 年 11 月末パリにて収録、管楽器を迎えた「Third」のレコーディング・メンバーに近い七人編成。
最終曲はワイアットによるデモ録音。前半が 68 年 10 月と 11 月に米国で収録、後半が 69 年中盤に英国にて収録。
「Facelift」(18:49)テーマまでの序奏部分が「Third」ヴァージョンとは大きく異なる(リン・ドブソンの不在を補うアレンジか)が、他の部分は完成形。
「Third」ヴァージョンは 1 月にライヴ収録されたものを元にしているので、5 月にはすでにレパートリーとして安定していたと思われる。第三作より。
「Moon In June」(7:38)ワイアットのヴォーカリゼーションを含む。メイン・ヴォーカル・パートを除いた後半のインスト部分のみ。第三作より。エルトン・ディーンはエレクトリック・ピアノも弾いているはず。
「Esther's Nose Job」(12:55)第二作より。「Pig」、「Orange Skin Food」、「A Door Opens And Closes」、「Pigling Bland」(「Fifth」収録曲)、「A Door Opens And Closes-Reprise」、ワイアットのヴォーカル/ドラムス・パフォーマンス、「10:30 Returns To The Bedroom」のメドレー(LP B 面の一部)。エネルギッシュな好演。
「Esther's Nose Job」(2:03)第二作より。「Pigling Brand」のみ。ボーナス・トラック。
「Facelift」(8:32)第三作より。完成度は高いが管楽器隊の参加でテーマのイメージがずいぶんと異なる。ビッグバンド・ジャズ化であり、クラシカルな印象。「Slightly All The Time」も聴きたかった。
「Hibou Anemone And Bear」(4:00)第二作より。モダン・ジャズなテーマと変拍子の組合せが「若い」。尻切れトンボ。
「Moon In June」(20:46)デモ録音。「Third」収録の作品のプロトタイプ。音質はやや劣る。第三作より。
(RUNE 170)
Kevin Ayers | bass, vocals |
Mike Ratledge | electric piano, organ |
Robert Wyatt | drums, vocals |
Hugh Hopper | bass |
Brian Hopper | sax |
Elton Dean | alto sax, saxello |
Marc Charig | cornet |
Lyn Dobson | flute, sax |
Nick Evans | trombone |
2003 年発表の「BBC Radio 1967-1971」。BBC ラジオ・プログラム、ジョン・ピールの「Top Gear」でのセッション全テイク集。
90 年「The Peel Sessions」として発表された CD の内容をほぼカヴァー。
エアーズのトボけたヴォーカルとオルガンのオーギュメント・コードの奇妙なブレンドから、麻薬的陶酔感を呼ぶインストゥルメンタルまで、急激な音楽的進化の過程が記録されており、ファンとしては興奮を押さえ切れない。
有名なオルタネート・テイク「Moon In June」ももちろん入っている。
3 曲目「Certain Kind」のワイアットの声で心和みます。
(HUX 037)
Elton Dean | alto sax, saxello, electric piano |
Hugh Hopper | bass |
Phil Haward | drums |
Mike Ratledge | electric piano, organ, synthesizer |
Karl Jenkins | electric piano, synthesizer, oboe |
John Marshall | drums |
Roy Babbington | bass, double bass |
Alan Holdsworth | guitar |
2003 年発表の「BBC Radio 1971-1974」。BBC ラジオ・プログラム、ジョン・ピールの「Top Gear」でのセッション全テイク集。
90 年「The Peel Sessions」として発表された CD の一部と、カール・ジェンキンス、アラン・ホールズワース在籍時までの内容をカヴァー。
最大の聴きものは、後期の代表曲「Hazard Profile」。
(HUX 047)
Hugh Hopper | bass |
Mike Ratledge | Lowery organ, electric piano |
Robert Wyatt | drums, voices |
Elton Dean | alto sax, saxello |
Lyn Dobson | tenor & soprano sax, flute, harmonica, voices |
2004 年発表の「Breda Reactor」。
1970 年 1 月 31 日、オランダのブレダにおけるライヴ。
「Noisette」と同じくリン・ドブソンを含むクインテット編成だが、ほぼフル・コンサート分が収められているので、楽しみはさらに多い。
「Facelift」は 21 分にわたるスペイシーにしてロマンあふれる名演である。
どうやらドブソンがいるとよりプログレらしく聴こえるらしい、ということを発見した。
二枚目の 3 曲目までの展開など、「Third」ファンには悶絶ものです。
雑談。
CD 二枚目を聴きながら思うことだが、電化マイルス影響下のグループ、たとえば WEATHER REPORT と比べるとサイケデリックな浮遊感とそれが生み出すファンタジー性はこちらが勝っている。
別の言い方をすると、こちらの方が圧倒的に THE BEATLES に近いのだ。
これは一つにはジャズ系のグループにはないリズムの緩やかさ、融通無碍さによる。
ジャズ系のグループはロックとの近接、融合といかに息巻こうとも、ハードロックに管楽器がからむだけ、もしくはモダンジャズにエレキギターのへヴィなリフがくっついただけのような奇妙な素人臭さとバランスの悪さに終始することが多いが、それに比べると、こちらはロックの捉え方がはるかに的確だし、進んでいる。
したがって、ジャズロックという的を正しく射ることができている、なんてことを思う。
CD 二枚組。
Hulloder に同日のライヴの記載がないのが不思議です。
(VP345CD)
Karl Jenkins | electric piano, soprano sax, piano |
John Etheridge | guitars |
Roy Babbington | bass |
John Marshall | drums, percussion |
Mike Ratledge | organ, synthesizer, electric piano |
2005 年発表の「British Tour 75」。
75 年 10 月 11 日ノッティンガム大学でのライヴ録音。「Bundles」から「Softs」への中間地点であり、マイク・ラトリッジとジョン・エサリッジが同時にグループにいた時期である。
キーボード中心の知的な曖昧さと幻想性が特徴的な演奏にエサリッジの高速ピッキングによる強引で爆発的なプレイが活を入れている。
圧倒的な演奏力をストレートに誇示するところが新鮮だ。
エサリッジのプレイは「Hazard Profile」を聴くとかなり手癖が強いことが分かるし、ホールズワースと比べると音色の存在感もやや弱い。
しかし決めどころでのフレーズの歌い方やその呼吸はナチュラルで悪くない。
どちらかというと、バッキングのコード・ワークにセンスを感じる。
一方ラトリッジはシンセサイザーにもだいぶん入れ込んでいる様子。
ツイン・キーボードが錯綜するアドリヴにギターのコード・カッティングが加わると一種独特のハイテンションが生まれるようだ。
管楽器の存在感が小さくなってしまったのは同じ役割をギターが担ったためか。
バビングトンがこまめにファズを使ってくれるのもうれしい。
このベーシストはアグレッシヴでいいプレイヤーだと思う。
ドラムス・ソロ含め、長大な即興演奏もあり。
メロウなフュージョン・タッチもあるが、ムード・ミュージックとは異なるサイケデリックな宇宙感覚があるし、何より枠に収まらない演奏の迫力がある。
録音は上々。
「Bundles」(3:17)「Bundles」より。BRAND X とよく似たテクニカル・チューン。冒頭からスリリングかつ濃密。
「Land Of The Bag Snake」(4:01)「Bundles」より。
ベースもギターに反応して俊敏に主張を繰り広げる。
ニューエイジとフュージョンの橋渡し。
「Out Of Season」(6:13)「Softs」より。スペイシーかつ抑制されたフュージョン。
ファズ・ベースのオブリガートとドラムスのフィル・インがカッコいい。
ここまでギターを大きくフィーチュア。
「The Man Who Waved At Trains」(6:15)「Bundles」より。
ギターは一歩下がってバッキングに徹し、オルガン中心のシャープな変拍子アンサンブルへ突入。
SOFT MACHINE らしさあふれる作風である。
「JVH」(4:12)電子音遊び。
「The Floating World」(1:12)「Bundles」より。
「Ban-Ban Caliban」(9:53)「Softs」より。ラトリッジがエサリッジに後押しされるようにだんだんと調子を上げてゆく。
「Sideburn」(10:21)ドラムス・ソロ。
「Hazard Profile Part 1」(6:12)「Bundles」より。例のリフの曲。ようやく管楽器が現れる。エサリッジの手癖爆発。
「Hazard Profile Part 2」(1:41)「Bundles」より。バラード調のソロ・ピアノ。後半のシンセサイザーのからみ方がいい。
「Hazard Profile Part 3」(0:24)「Bundles」より。しなやかなギターが駆け上がるブリッジ。
「Hazard Profile Part 4」(1:39)「Bundles」より。再びヘヴィな舟歌風のギター・リフがドライヴする。
「Hazard Profile Part 5」(4:14)「Bundles」より。エレクトリック・オルガン炸裂のミニマル・サイケデリック・変拍子ジャズロック。ハイテンションでひた走る。偏屈な変拍子ユニゾンもお似合いだ。
「Song Of Aeolus」(3:58)「Softs」より。ギターがロマンティックに歌うバラード。
「Sign Of Five」(14:45)ギターのチューニングをそのままオープニングにしているような。
ファンクやソウルっぽさもあるハード・ジャズロック。終盤にかなりの即興のネタ尽き感を漂わすも持ち直す。
(MLP10CD)
Elton Dean | alto sax, saxello, electric piano |
Hugh Hopper | bass |
Mike Ratledge | electric piano, organ |
Robert Wyatt | drums, vocals |
2006 年発表の作品「Grides」。
CD と DVD の二枚組。
CD の内容は、「Third」発表と「Fourth」発表の間である 70 年 10 月 25 日のオランダ、コンセルトヘボウでのライヴ録音。(Hulloder によれば、「Fourth」収録セッションの間をぬって行われたライヴである)
「Third」収録の楽曲とともに、後にディーンのソロ作「Elton Dean (Just Us)」(71 年 5 月発表)に収録された「Neo-Caliban Grides」や「Fourth」の楽曲「Virtually」、「Teeth」のプロトタイプを聴くことができる。
録音は低音がやや弱め。
パフォーマンスはタイトで小気味がよくサイケデリックな酸味の効きと妖しい夢想に陶酔できる。
音の厚み、迫力はスタジオ盤に及ばないが 4 ピース編成で最大限のパワーを出し切れている感じだ。
ライヴらしいプレイヤーの調子の良し悪しが分かるとともに、ライヴにもかかわらず緻密さが感じられることもある。
DVD(NTSC)は、ビートクラブでもおなじみの 71 年 3 月 23 日ラジオ・ブレーメンでの映像。
カルテットの演奏を 20 分あまりじっくり見ることができる。
このときまだ全員二十代です。とても信じられませんが。
CD
「Facelift」(6:59)例のリフからの演奏。オルガンのアドリヴがメイン。ディーンは休憩か? 最後のテーマでようやく現れる。
「Virtually」(15:34)ディーンのリードで進むスペイシーなサイケ・ジャズ。オルガンとのユニゾンをきっかけにシャープな変拍子ジャズロックがスタート。サックスのフリージャズ的なアドリヴとミニマルで精緻なバッキングとのコンビネーションの妙。
「Out-Bloody-Rageous」(8:12)しなやかなサックスのテーマ、奔放かつインテリジェントなオルガンのアドリヴ。半拍足りない変拍子のリフが疾走感を演出する。角ばったアンサンブルとコントラストするインプロヴァイザーのディーンから染み出るロマンチシズムがいい。
「Neo-Caliban Grides」(10:12)スタイリッシュなサックスのテーマからタイトな変拍子アンサンブルを経て集団即興へ。ワイアットが挑発するもなかなか乗り切れない。
「Teeth」(8:03)フリージャズにエレクトリックなサウンドを交差させたアグレッシヴな佳作。ディーンはサクセロを熱っぽくプレイ。サイケな混沌をモダン・ジャズの刃で切り裂く。終盤のオルガン出現からテーマへと収束。コンパクトにまとめたイメージの演奏である。
「Slightly All The Time」(10:34)点描風の即興的呼応で幕を開けサックスによるロマンティックなテーマへと展開。
サックスとエレクトリック・ピアノによるメランコリックなたゆといと轟音オルガンの導くメカニカルな機動性のあざやかな対比。クロスオーヴァーの名品。
「Eamonn Andrews」(1:36)挑発的な変拍子テーマ一発でやや埋め草風。
「Esther's Nose Job」(11:22)第三作、第四作への礎となった第二作のメドレー曲。奔放なオルガン・アドリヴを堅実にして変則的なパターンを操って幾何学模様を描くリズム・セクションが支えるスタイルを確立。
「Slightly All The Time/Noisette」(6:43)ハイテンションのアドリヴ合戦を最後は「Noisette」の不気味なテーマで締める。観衆大喜び。
DVD
「Neo-Caliban Grides」(5:16)
「Out-Bloody-Rageous」(6:57)
「Robert Wyatt's Vocal Improvisation」(2:22)
「Eamonn Andrews」(1:36)
「All White」(4:25)
(RUNE 230/231)
Elton Dean | saxello, alto sax, Fender Rhodes electric piano |
Hugh Hopper | bass |
Mike Ratledge | Lowrey organ, Fender Rhodes electric piano |
Phil Howard | drums |
2008 年発表の作品「Drop」。
内容は、「Fourth」発表と「Fifth」発表の間である 71 年 10 月のドイツ・ツアーでの録音。
在籍期間の短かったフィル・ハワードがドラムスを担当しているツアーである。
(ワイアットはすでに 6 月にグループを離れ、この秋の時点ではケヴィン・エアーズのアルバム収録に参加している模様)
ディーンが咆哮する楽曲では、ドラムスとのコンビネーションはよさそうだ。
(ハワードは元々ディーンのクインテットのメンバーである)
インプロヴァイザであるハワードの入った編成らしく、荒々しく骨太な演奏になっており、「Fifth」で見せる凍りついたようなエレクトリック・フリージャズがその表情を変え、いかにもライヴらしい爆発的な熱気で迫ってくる。
フリー・ジャズのたくましさをうまくロックのへヴィネスと重ねることができているといっていいだろう。
(実際には、作曲家肌のラトリッジ、ホッパーは、自らの技量を鑑みた上で、フリー・ジャズ的なライヴへの傾倒を抑制したいという気持があったようだ。
この辺りがハワードの「Fifth」への参加が途中までになり、やがてはディーンとも袂を分かつこととなった所以かもしれない)
音質はベストとはいえないが、迫力のある音の洪水に身を委ねて正解の好発掘盤である。
ロック・ファンよりは、電化マイルスやドシャメシャ系フリー・ジャズもいける方向け。
本アルバムは 2006 年に亡くなったエルトン・ディーンに捧げられている。
「Neo Caliban Grides」(6:23)エルトン・ディーンのソロ作より。この時期の得意技。ここでの演奏が本アルバムを特徴付けている。ベースの音がエフェクトで膨れ上がっているため、二管編成に聴こえる。
ディーンがエレクトリック・ピアノになってからのクールな展開もいい。
「All White」(6:14)第五作より。変拍子リフがドライヴするエレクトリック・ピアノのアドリヴ。
サックスは 3 分近くになって現れる。
「Slightly All The Time」(13:16)第三作より。
モールス信号のようなベースのフレーズが一気に熱を冷ましてこの名作バラードへと進む。
ディーンのエレクトリック・ピアノによるバッキングでラトリッジのオルガンが自由に振舞いつつ、ベースとの連携も見せてテーマへと収斂してゆく。
中盤のメロディアスなサクセロ・ソロが印象的。
「Drop」(7:40)第五作より。
ディレイを効かせたディーンのエレクトリック・ピアノ、ラトリッジのオルガンのツイン・キーボードによるエレクトリックでノイジーな演奏。
ファズ・ベースは鋭い 7 拍子のリフを刻む。
「MC」(3:25)第五作より。エコーをかけたサックスと爆発的なドラムスがリードするサイケデリックなフリージャズ。
比較的メロディアスなサックスに対して、ハワードのドラミングの破壊力が圧巻。
「Out-Bloody-Rageous」(11:30)第三作より。
前半は、テーマ担当のディーンはやや気乗り薄でラトリッジで持ち直している感じ。
ハワードのドラミングはうまくワイアットをなぞっている。(腕前はハワードの方が上に感じる)
後半のケイオティックな展開ではディーンも意気軒昂。
「As If」(6:10)第五作より。衝撃的なイントロとは裏腹な、抑え込まれたような展開が不気味な作品。
「Dark Swing」(1:55)
「Intropigling」(0:53)次曲のイントロ。
「Pigling Bland」(4:45)第五作より。
(MJR023)
Mike Ratledge | Lowrey Holiday Deluxe organ, Hohner pianet, Fender Rhodes stage piano Mark1 |
Elton Dean | Selmer alto sax, saxello, Hohner pianet |
Hugh Hopper | Fender Jazzman bass |
Robert Wyatt | Ludwig Maple drums, cowbell, voice |
2009 年発表の作品「Live At Henie Onstad Art Centre」。
1971 年 2 月 28 日ノルウェー Henie Onstad アートセンターでのライブ録音。
「Fourth」発表直後のプロモーション・ツアーと思しきパフォーマンスであり、セットは 98 年発表の 71 年 3 月収録の「Virtually」とほぼ同内容である。
大編成ならではのアレンジが効いた演奏であるスタジオ盤や BBC スタジオ・ライヴと比べると、四人編成では線の細さは否めない。
しかし、デリケートな表現の生む叙情性やタイトロープ的な緊張感、ビシッとまとまったときの小気味よさといった優れた面もある。
サックスとオルガンの応酬も熱気に満ちながらも音は絞り込まれている。
スリリングな完全即興(「Fletcher's Blemish」や「Neo-Caliban Grides」の中盤)や煽るようにアッパーな調子で走り出す痛快さはライヴならでは。
ディーンの管楽器のプレイはインプロヴィゼーションながらも常に詩的で歌心にあふれている。
そして、ワイアットのヴォーカル・パフォーマンスもあり。
「Volume Two」から打ち出してきた「サイケデリック変拍子ジャズロック」路線はすでに完成の域に入った。
本作は、小編成でなおかつキーボードの音が比較的強く録られているため、ラトリッジのプレイを味わういい機会になった。
改めて、オルガン、エレクトリック・ピアノのプレイは想像力を駆使した豊かな構築性を誇り、サイケデリックなエフェクト処理も巧みである。
このグループの知的なイメージはラトリッジのキーボード・プレイに負うところが大きいのではないだろうか。
CD 二枚組で、さらに資料映像入りの CD-ROM 付き。
CD #1
「Facelift」(10:54)第三作より。
「Virtually」(10:17)第四作より。
「Slightly All The Time」(9:56)第三作より。
「Fletcher's Blemish」(8:13)第四作より。
CD #2
「Neo-Caliban Grides」(8:16)ディーンのソロ作より。
「Out-Bloody Rageous」(8:48)第三作より。
「Robert Wyatt Vocals」(4:25)ワイアットの即興ヴォイス・パフォーマンス。
「Eamonn Andrews」(1:41)
「All White」(2:42)第五作より。
「Kings And Queens」(6:10)第四作より。悩ましいサックスのテーマがいい。
「Teeth」(11:13)第四作より。管楽器セクションの強烈なブロウをノイジーなキーボードにアレンジしている。ベースが弱めなのが残念。ジャジーなジャズロックの傑作。
「Pigling Bland」(5:10)第五作より。
「Noisette」(7:00)第三作より。
「Bonus Recording Soft Machine Trio」(8:55)1969 年、ブライアン・ホッパーを含む編成。ガレージ・サイケ・ジャズ。
(RR 014L/015L)
Roy Babbington | bass |
Karl Jenkins | oboe, soprano sax, tenor sax, recorder, electric piano, piano |
John Marshall | drums |
Mike Ratledge | electric piano, organ |
guest: | |
---|---|
Gary Boyle | guitar |
Art Theman | soprano sax, tenor sax |
Hugh Hopper | bass, tapeloop on 17 of DVD |
2010 年発表の作品「NDR Jazz Workshop - Hamburg, Germany 1973」。
「7」編成にゲストを迎えた編成によるライブ録音。1973 年 5 月 17 日収録。
楽曲は主に「6」と「7」より。
CD+DVD の二枚組であり、DVD には 70 分を越える演奏風景が収録されている。(演奏曲目は CD とほぼ同じ)
安定したバッキング(ぶっ飛んだ変拍子ではあるが)をしたがえてラトリッジがエレクトリック・ピアノで繰り広げるサイケデリックなアドリヴを堪能すべし。
CD Part I
「Fanfare」(0:48)
「All White」(3:38)安定感を示す導入部。
「Link 1 / Link 2」(5:04)つなぎのインプロヴィゼーション。最初期 WEATHER REPORT そのもの。DVD では 1 と 2 の間に「The Soft Weed Factor」(6:19)が挿入されている。
「37 1/2」(6:31)序盤はテナー・サックス vs エレクトリック・ピアノ、途中オーボエに持ち替える。終盤はツイン・ピアノ。
ジェンキンズ主導の熱気あふれる好演。マーシャルも全開。
「Link 3」(0:47)つなぎのインプロヴィゼーション。
「Riff」(3:51)ラトリッジはオルガンに移り、インプロを繰り広げる。ジェンキンズはエレクトリック・ピアノによる変拍子リフ。
CD Part II
「Down The Road」(10:41)まったりとした演奏。DVD 未収録。
「Link 3a」(1:00)つなぎのインプロヴィゼーション。DVD 未収録。
「Stanley Stamp's Gibbon Album」(4:47)エルトン・ディーン在籍時を思わせる。アグレッシヴな演奏。ただし、テナー・サックスのプレイのスケールはディーンほど大きくない。
「Chloe And The Pirates」(8:34)ディレイを効かせたエレクトリック・ピアノの重層音が導くファンタジー。ソプラノ・サックスの登場とともにうつむき気味の RETURN TO FOREVER 的な世界へ。しかし、リズムの導入とともに、よりブルーズ・ロック的なグルーヴへと変わってゆく。最後はジャジーに締める。
「Gesolreut」(11:48)ボイルによるギター・アドリヴ登場。後半のサックスはゲストか。
「E.P.V.」(3:34)ディレイを効かせたエレクトリック・ピアノとソプラノ・サックスによる混沌としたバラード。
「Link 4」(3:34)凶暴なつなぎのインプロヴィゼーション。他の曲のモチーフも見え隠れする。
「Stumble」(6:56)シンコペーションのテーマがいかにもな作品。変拍子テーマの全体演奏は GENTLE GIANT にも通じる。ギター・アドリヴをフィーチュア。
「One Across」(6:10)ドラムス・アドリヴ。
「Riff II」(1:08)
(RUNE 305/306)
Alan Holdsworth | guitar, voice |
Karl Jenkins | Fender Rhodes piano, piano, Hohne pianet, soprano sax, oboe |
Mike Ratledge | Fender Rhodes piano, Lowrey organ, AKS synthesizer |
Roy Babbington | electric 6-string bass |
John Marshall | drums, percussion |
2015 年発表の作品「Switzerland 1974」。
アラン・ホールズワース加入後のスイス、モントルー・ジャズ・フェスティバルでのライブ録音。1974 年 7 月 4 日収録。
(有名なモントルー・カジノは 71 年のフランク・ザッパのライヴ中に発生した有名な火災から復旧していなかったので公演は別のべニューで行われたようだ)
ギタリストの加入は「7」発表後に新展開を渇望したバンドにまさに新風を吹き込んだらしい。
才能あるギターのプレイをフルに生かすためにレパートリーも一新している。
ラトリッジはシンセサイザーにかなり入れ込んでいる様子。
妙にお経っぽいオーボエが他のフュージョン・グループとの差別化に貢献していることを改めて感じた。
サイケデリックでフリージャズという野放図なスケールこそなくなったものの、そこからの進化変転によってメカニカルで幻想的なフュージョンという個性をみごとに打ち立てていると思う。
この編成で年後半に「Bundles」が録音された。
CD+DVD の二枚組。
「Hazard Profile」(16:46)物語のあるジャズロック組曲。前半は傲慢なまでに押し捲るギターの独壇場。
ジェンキンスのピアノによるブリッジが美しい。後半はラトリッジの悩ましきオルガン・ソロ。
「The Floating World」(5:16)サイケデリックとニューエイジがじつは一つながりだったことに気づく。
最初期 WEATHER REPORT ばりのエレクトリック・ジャズ幻想曲。
「Ealing Comedy」(4:14)バビントンの 6 弦ファズ・ベースが炸裂する。
「Bundles」(3:10)タイトにしてロマンあふれるテクニカル・ギター・フュージョンの傑作。
「Land Of The Bag Snake」(4:28)火を噴くようなアドリヴにもヤン・アッカーマンばりのロマンチシズムあり。
「Joint」(2:21)
「The Man Who Waved At Trains」(3:02)
「Peff」(4:28)
「The Man Who Waved At Trains (Reprise)」(0:22)
「LBO」(4:46)
「Riff II」(3:09)
「Lefty」(2:08)即興。
「Penny Hitch (Coda)」(5:47)
(RUNE 395/396)
John Etheridge | acoustic & electric guitar |
Rick Sanders | electric & acoustic violin |
Dave Bristow | YAHAMA acoustic piano, CS 80, Fender Rhodes |
Jonathan Davie | bass |
Micky Barker | drums, percussion |
80 年発表の作品「First Steps」。
「Softs」に参加したジョン・エサリッジ、「Alive And Well」に参加したリック・サンダースらによるグループ 2ND VISION の唯一作。
(エサリッジは、ステファン・グラッペリをはじめヴァイオリニストのとの競演の多いギタリストである。(グラッペリの朋友ジャンゴ・ラインハルトに憧れているからだろう))
内容は、エレクトリック・ヴァイオリン、YAHAMA のピアノ/ポリ・シンセ、ギターをフィーチュアし、流麗なる技巧とニューエイジ的な爽やかさをブレンドしたジャズロック。
ヴァイオリンとキーボードの美しい音色が一番の特徴だろう。
この優美さと涼感は、そのまま南米のプログレ・シーンにつながっている。
エサリッジのスーパー・テクニカル・ギターも軽やかなサウンドの中で、やや性急な調子を残しつつも、融通無碍に飛翔する。
美しく健やかでしなやかな、かなりセンスのいいピアノとヴァイオリンではあるが、それでも一歩間違えるとクラシカルなイージー・リスニングになる危険がある。
それに待ったをかけているのが、リズム・セクションの頑張りと、意図的かどうかは定かではないものの、このギターの存在である。
アル・ディメオラばりのエキゾティックなアコースティック・ギターがヘブンリーなニューエイジ・ミュージックの文脈にうまくはまっている気がする。
8 曲目はメイン・ストリーム・フュージョンとしても一級品。
ベーシストのジョナサン・デイヴィは、GRYPHON の最終作でベースを弾いていた。
また、鍵盤奏者のデイヴ・ブリストウは、73 年に POLIPHONY の唯一作に参加。
リック・サンダースは、FAIRPORT CONVENTION の現メンバー。
全編インストゥルメンタル。
英国 BLUEPRINT の再発 CD では、グループ名がそのままアルバム・タイトルになっている。
プロデュースはジョン・キャメロン。
「Ice Bells」(5:54)プログレ風味満載のニューエイジ・フュージョン。
「Dancing Circle」(4:47)キース・エマーソンばりの豪腕ピアノをフィーチュアしたゴージャスなアコースティック・ジャズロック。ジプシー風のヴァイオリンも存在感あり。豪快なギターもシャフル・ビートで駆けまわる。イギリス風の DIXIE DREGS か。
「Putting Out The Bish」(1:43)変わった和声のアコースティック・ギターをフィーチュア。ベースとのデュオ。
「August 4」(4:57)鍵盤パーカッションらしきオスティナートやほのかなアジア風味などピエール・モエルラン GONG を思わせる作品。シンセサイザーの音色が美しい。
「First Steps」(1:36)
「Even In Sadness...」(4:20)
「Star Dance」(6:22)
「Coanda」(7:10)
「Wynsmead」(1:25)
(CHR 1289 / BP341CD)
さていろいろな人物が入り乱れた SOFT MACHINE だが、なかでも重要なミュージシャンについてはソロ含め別ユニットでの活動も見てみよう。 ミュージシャンの名前をクリックすると、そのページへと飛ぶので、参考にしていただきたい。 ヒュー・ホッパーは、ソロに加えて実にさまざまなユニットで活動し、プロジェクトに参加している。 追跡し甲斐のあるアーティストだ。 また、キース・ティペット・グループを経て参加したエルトン・ディーンも、SOFT MACHINE 脱退後はフリー・ジャズのインプロヴァイザーとしてさまざまなユニットで活躍する。 そして、カール・ジェンキンスは、ADIEMUS なるユニットにて作曲家としてニューエイジ系のクラシック音楽を手がけている。 アルバムもすでに数枚を数え、来日も果たしている。 SOFT MACHINE 出身では、もっとも商業的に成功したミュージシャンといえるだろう。
僕は、ファースト/セカンドのいわゆるカンタベリー風のポップな雰囲気よりも、明確にジャズを志向し始めた頃の音に惹かれています。 ちょっと退廃的なムードとお遊びたっぷりのポップ・ミュージックも面白いのですが、技術を身につけた結果として本格的なジャズ演奏へと向きを改め、ロックとジャズのはざまに際どい世界を開拓してゆく姿がなんともスリリングであり、そこから生まれる音は精神の高揚のみならず、肉体的な快感すら誘い出すように感じます。 セカンド・アルバムでは、ケヴィン・エアーズに代わりヒュー・ホッパーが加入して、よりジャズ色が強くなるといわれるのですが、個人的にはまださほどに思えません。 もちろん諸説あって当然でしょうが、サード・アルバムからが本当にスリリングなこのグループの音楽のスタートのような気がしてならないのです。