Keith Tippett
イギリスのジャズ・ピアニスト「Keith Tippett」。
70 年のアルバム・デビュー以来、様々な形態での活動を続ける。プログレッシヴ・ロックとの接点として、69 年からの KING CRIMSON への参加が名高い。ジャズ、ロックに強く影響されるも、きわめて独自の審美センスでわが道を往く。2020 年逝去。
You Are Here... I Am There
Keith Tippett | piano, electric piano |
Mark Charig | cornet |
Elton Dean | alto sax |
Nick Evens | trombone |
Jeff Clyne | double bass, bass |
Alan Jackson | drums, glockenspiel |
Giorgio Gomelsky | bell |
70 年発表のアルバム「You Are Here... I Am There」。
バリー・サマー・スクールのベスト・プレイヤーで構成されたキース・ティペット・グループに、ベテラン・ベーシスト、ジェフ・クライン、ドラムスのアラン・ジャクソンのリズム・セクションを加えて録音されたデビュー作である。
名物プロデューサーのジョルジオ・ゴメルスキが、ジャズとロックの垣根を取っ払ってプロデュースにあたり、なぜか、演奏にまでクレジットされている。
また、エンジニアは、YES で有名なエディ・オーフォード。
まさに、ジャズとロックがともに新しい姿へ変貌しつつ互いに交錯していた、当時のシーンを象徴するような顔ぶれである。
楽曲は、すべてティペット作。
内容は、ホーン・セクションを活かした幻想的フリー・ジャズをベースに、クラシック、トラッド、ポップスからのさまざまな和声、メロディを盛り込んだユニークなものである。
ラウドなリズム・セクションが、ジャズを逸脱してロック的なノリをつくり出すこともあるが、全体的には、ジャズロックより一歩ジャズ寄りの演奏である。
フリー・ジャズで鍛え上げた緊張と弛緩のコントラストを鮮やかに制御して、気高いイメージの叙情性を築き上げている。
爆発的なフリーといえるところもあるが、暖かいホーンの音色とシャープな 8 ビート、的確なピアノらによるクロスオーヴァー的なニュアンスもある。
かように微妙な位置にある、ややおとなしめのサウンドだが、熱気を封じ込めて、マイルドな口当たりにしながらも、鋭利なピアノが一瞬のきらめきのように飛び出してくる。
さらには、高邁な芸術性の横顔に浮かんだ微笑が THE BEATLES だったりする。
若々しくも充実したテクニックと豊かな感性が結びついた傑作である。
ティペットは本作品の後、三作品にわたって、KING CRIMSON とコラボレーションする。
「This Evening Was Like Last Year(To Sarah)」(9:05)オープニング、誰もが「Islands」の冒頭「Formentera Lady」を思い浮かべるはず。
フリージャズ的な混沌よりも、ユニゾンするホーンによる貫くような真っ直さが強烈な印象を残す。
ピアノがせせらぎのように湧き立つ、きわめてシンフォニックな作風だ。
「I Wish There Was A Nowhere」(14:02)シンプルなリフの上で即興演奏が繰り広げられるジャズロック。
ディーンのサックスをフィーチュアしたダルでブルージーなピアノ・トリオを経て、ホーン・セクションがオーヴァー・ラップ。
ディーンのプレイが加熱するともに、アンサンブルは、メル・コリンズ在籍時の KING CRIMSON のイメージが強まる。
中盤は、マーク・チャリグのコルネットが主役。
センチメンタルだが、ベタつかず、ほどよい甘さで悪くない。
ディーンもビター・スウィートなソロで応酬し、ベース、ピアノも揃うとすっかりオーセンティックなモダン・ジャズ・トリオである。
最後はホーン・セクションとピアノによるメロディアスな全体演奏。
ブルージーに過ぎず、ほどよく抑制された叙情的な作品である。
後のジャズ・オーケストラ作品へのマイル・ストーン的な位置にあると思う。
「Thank You For The Smile」(2:03)
映画音楽風のグルーヴィなホーン・アンサンブルに「Hey Jude」が現れる。
ジェフ・クラインのオーソドックスにして俊敏なベースにも注目。
「Three Minutes From An Afternoon In July(To Nick)」(4:11)タイトルとおり、ニック・エヴァンスのトロンボーンをフィーチュアした幻想的(悪夢的)な作品。デリケートな音作りが冴える。
「View From Battery Point(To John And Pete)」(2:00)ベースとグロッケンシュピールをフィーチュア。
「Violence」(4:00)コルネット、トロンボーン、ピアノ、サックスがリードする快速チューン。ドラム・ソロあり。
「Stately Dance For Miss Primm」(6:51)この時期らしいジャズロック。ディーンのサックスがカッコいい。
「This Evening Was Like A Last Year」short version(4:05)ボーナス・トラック。
(DISC 1963 CD)
Dedicated To You, But You Weren't Listening
Keith Tippett | piano, Hohner electric piano |
Mark Charig | cornet | Elton Dean | alto sax, saxello |
Nick Evens | trombone | Robert Wyatt | drums |
Bryan Spring | drums | Phil Haward | drums |
Roy Babbington | double bass, bass | Nevile Whitehead | bass |
Gary Boyle | guitar |
71 年発表のアルバム「Dedicated To You, But You Weren't Listening」。
メンバーに、ロバート・ワイアットら SOFT MACHINE 人脈も動員された第二作。
タイトルは、SOFT MACHINE の第二作の作品名を拝借しているようだ。
この豪華な顔ぶれは、エルトン・ディーンの SOFT MACHINE 参加にともなう交流をきっかけにしているのだろう。
また今回は、ティペット以外にもニック・エヴァンス、エルトン・ディーンが楽曲を提供している。
演奏は、二重にも三重にも強化されたパワフルなリズムの上で、アグレッシヴなホーンが吹き荒れる熱狂的フリー・インプロヴィゼーションを中心に、多様な器楽を組み合わせたもの。
もちろん、実験的な音づくりが図られている。
ティペットは、ホーンをフィーチュアした楽曲の提供以外にも、動きの敏捷さと音色の重厚さを兼ね備えたプレイで、鋭くソロを挿入している。
管楽器がフィーチュアされたシャープなグルーヴのある 1、3 曲目は、ピアノの入った NUCLEUS というイメージだ。
ダイナミックでスリリングなジャズロック・サウンドである。
輪郭のはっきりしたテーマとイケイケな演奏がとにかくカッコいい。
一方、2、4、5 曲目は、フリージャズ色濃い即興作品。
音の切片が微生物のように反応しあい、次第に有機的な関連をつくり上げてゆく。
7 曲目は、再びエネルギッシュなリズムを従えて、トロンボーンがリードする強力な作品。
ティペットのエレクトリック・ピアノとゲイリー・ボイルのギターがリフを刻む。
全体に、スピード感と自由でエネルギーに溢れた演奏が特徴のアルバムだ。
プロデュースは、ピート・キング。
「This Is What Happens」(4:57)ニック・エヴァンス作。
クインシー・ジョーンズを思わせるファンクなソウル・ジャズロック。
フロアが沸立つジャングルなリズムと吹き上げるコルネット、そして舞うようなピアノ。
イケイケドンドンで、なにもかもカッコいいです。
ソロは、チャリグ、ティペット。
「Thoughts To Geoff」(10:15)ティペット作。
溌剌としたインプロヴィゼーションをテーマ演奏が貫く巨大なジャズ作品。
後半はピアノも全開。
ソロは、エヴァンス、チャリグ。
ギターのバッキングも隙あらば前に出てくる。
「Green And Orange Night Park」(8:07)ティペット作。
メロディアスなホーン・セクションがフィーチュアされたロマンティックで劇的な作品。
ディーンのソロは、なめらかな光沢を放ってホーンのテーマとせめぎあう。
スタイリッシュでクールなプレイにほのかな感傷が浮かび上がる。
後のビッグ・バンド作品の原点を見る傑作。
「Gridal Suite」(6:09)エルトン・ディーン作。
複数のドラム・セットによる押し寄せるような激しいビートの上で、熱狂的なホーンが火花を散らす。
ストリングス・ベースとピアノの低音が密かに通じ合う。
「Five After Dawn」(5:16)ティペット作。
次々と立ち上がるホーンのロングトーンをパーカッション類やエレクトリックなエフェクトが取り巻くフリー演奏。
ノイズ、ヴォイスも入ったサイケデリックな悪夢。
「Dedicated To You, But You Weren't Listening 」(0:33)ヒュー・ホッパー、マーク・チャリグ、ディーン共作。
「Black Horse」(5:54)エヴァンス作。
ギター、エレクトリック・ピアノの骨太なリフにホーンのエネルギッシュなテーマが重なるグルーヴィなジャズロック。
リードするのはシンプルなフレージングでパワフルに、サイケに迫るトロンボーン、サックス、ギター。
ボイルのプレイはクリス・スぺディングをさらに技巧的にしたようなスタイル。
ドカドカなドラミングもカッコいい。
ニック・エヴァンス氏とは仲良くなれそうです。
(REP4449-WP)
Septober Energy
Keith Tippett | piano, Hohner electric piano | Ian Carr | trumpet, flugelhorn |
Mongesi Feza | pocket cornet | Marc Charig | cornet |
Elton Dean | saxes | Ian McDonald | alto sax |
Garry Windo | tenor sax | Brian Smith | tenor sax |
Alan Skidmore | tenor sax | Karl Jenkins | bariton sax, oboe |
Nick Evans | trombone | Paul Rutherford | trombone |
John Marshall | drums | Robert Wyatt | drums |
Brian Godding | guitar | Roy Babbington | bass |
Others | |
71 年発表のアルバム「Septober Energy」。
内容は、ティペットによって編成された「CENTIPEDE」なる総勢 50 余名の巨大ユニットによる一大フリー・ミュージック組曲。
ヴォーカル、管絃、ベース、ドラムスらが、編成を変えつつフリー・フォームのソロ、アンサンブルを次々と繰り広げ、ジャズ、クラシック、ロックとすべての様相を呈する巨編であり、独特の神秘なる世界が提示されている。
目まぐるしく変転する即興演奏のなかにも、たゆとうような沈静と勇壮な昂揚を維持する箇所があり、また、ストレートにポップなグルーヴを打ち出すことにも潔いため、語り口はきわめて明快である。
20 分近い各作品はそれぞれに軸となる強い個性があり、それを多彩な音色と陰翳あるソロが取り巻いている。
演奏に散漫なイメージはなく、全編パワフルでしなやかなドラマになっている。
サウンドは、前作をぐっとスケール・アップしたものといってもいいだろう。
一部前作からの引用すらあると思う。
メンバーは、クラシック、ジャズ、ジャズロック、ロックの各世界から集まったティペットの友人たちということらしい。
ビッグバンドのホーンに慣れた耳には、ストリングス・セクションが新鮮。
また、ヴォーカル・セクションも器楽の一部として存在感を示している。
プロデュースは、KING CRIMSON のロバート・フリップ。
「監督」業に追われ、残念ながらプレイはしていないようだ。
ただし、KING CRIMSON ファンには、「Islands」以降の音楽的なネタがしっかり見つかる。
フリップ氏の入れ込みようは想像に難くない。
アメリカ盤はジャケット違い。
とっつきやすく音楽的にも充実した傑作です。
「Septober Energy - Part 1」(21:35)声明渦巻く霧深いオープニングをブラス・セクションが塗りかえてゆく序盤、視野周辺から次第に火の手が上がり始め、瞬く間に見渡す限りが爆音とともに火の海に。ハイテンションの典型的な集団即興を経て、謎めいたエンディングへ。
「誕生」のイメージあり。リゲティの鎮魂歌からの深宇宙のイメージ、「Formentera Lady」、ドン・エリス、フランク・ザッパなど連想は尽きない。
弦楽の加わった 11:00 付近の熱狂はすごい。その後しばらくは、ピアノ入りのSOFT MACHINE、いや ELTON DEAN QUARTET に。
「Septober Energy - Part 2」(23:28)R&B テイストたっぷりの重めのグルーヴがいい感じのビッグバンド・ジャズロック。
ブライアン・ゴディングがへヴィなギターをぶちかます。
冒頭、前曲との落差にかなり驚かされるはず。
イアン・カーによる熱いフリューゲル・ホーン、アラン・スキッドモアのテナー(いいです)、ゴディングのサイケでセンチメンタルなギター、ティペットは乱れ打ちのバッキングで活躍。
後半は、マーク・チャリグのコルネット、カール・ジェンキンズの木管ソロがある。
意外なヴォーカルでリードするエンディングもカッコいい。
「Septober Energy - Part 3」(21:07)相聞歌調のメロディアスなアカペラ・コーラスで幕を開ける、統率感のあるフリー・ジャズ。
1 曲目の冒頭と同じくティペットのピアノによるノイズが口火を切り、ドラムス・ソロ、弦楽がバックを固める管楽器集団即興へと発展してゆく。魔術的。
14 分辺りからは、ジュリー・ティペットの声明と弦の騒音が交錯する幽界のカオス。
「Septober Energy - Part 4」(18:39)ナイーヴなまでにシンフォニックに高まる感動の終曲。
2 曲目に通じる R&B テイストは弦楽が加わることでカンツォーネ風の開放的な熱を放ち始め、管楽器の絶叫とともに悠然と歩みを続けてゆく。
(DISC 1965 CD)
Blueprint
Keith Tippett | piano |
Roy Babbington | bass |
Keith Bailey | percussion |
Frank Perry | percussion |
Julie Tippetts | guitar, voice, recorder, mandolin |
72 年発表のアルバム「Blueprint」。
清らかな美しさと滑稽なまでの荒々しさに満ちた傑作。
ジュリー・ティペットは活躍するが、意外に「ピアノが少ない」のがおもしろいところである。
クレジットによれば、電気楽器は使用されておらず(ロバート・フリップのコメント)全体が完全な即興演奏(キース・ティペットのコメント)である。
この編成は「OVARY LODGE」の二作まで続いてゆく。
プロデュースは、ロバート・フリップ。
したがって、「Islands」やこの後に発表される「Lark's Tongues In Aspic」にはここでの音響的、音楽的な要素が抜け目なく取り入れられている。
特に予期せぬ東洋風味を持つリコーダーの使い方や金属パーカッションなどに顕著ではないだろうか。
また、最初期 ECM からの影響もあるはずだ。
(RCA SF 8290 / BGOCD 634)
Ovary Lodge
Keith Tippett | piano, zither on 3 |
Harry Miller | bass |
Frank Perry | percussion, piano interior on 3 |
73 年発表のアルバム「Ovary Lodge」。
前衛アンサンブル「OVARY LODGE」による二作目。
内容は、ピアノ、パーカッションらの打楽器的なサウンドを活かした即興音楽。
ベースも弦を擦る音が主。
鐘、鉢、笙のような音が静かにあふれて紡ぎ出す世界は、完全に「お寺」である。
3 曲目ではピアノの弦を弾いて演奏しているようだ。
4 曲目はピアノの豊かでメランコリックな響きがいい。
全体に電気音は使用しておらずアコースティック・サウンドのみ、と注意書きがある。
時おり奏でられるピアノの響きが非常に美しい。
「Islands」期 KING CRIMSON のファンはぜひ。
プロデュースは、ロバート・フリップ。
(RCA 8372 / WHAT4CD)
Ovary Lodge
Keith Tippett | piano, harmonium, recorder, voice, maracas |
Julie Tippetts | voice, Er-Hu, Soprano recorder |
Harry Miller | bass |
Frank Perry | percussion, voice, hsiso, sheng |
76 年発表のアルバム「Ovary Lodge」。
ビッグバンドを経たティペットが取り組んだユニットによる前衛アンサンブル「OVARY LODGE」による「Blueprint」から数えて三作目の作品である。
内容は、個性的なフリー・ジャズまたは現代音楽というべきなのだろうが、レッテルはともかく、独特の美感に支えられた神秘的な世界が味わえるものである。
ジュリー・ティペッツを中心とした声明の如き、または、リゲティの「レクイエム」のようなヴォイス・アンサンブルと、判別できない打楽器、弦楽器、雅楽調のリコーダーなどが入り乱れて、東洋風の謎めいたニュアンスを醸し出す。
妖しくも厳かであり、宗教音楽風の効果も感じられる。
倍音を欠いた抽象的な音が絡み合う中で、ハリー・ミラーのダブル・ベースがゆったりと音を受け止めて広げてゆくいい感じのドローンとして機能している。
他にも、深い余韻をもつチャイム系の音が印象的だ。
ティペットのピアノは得意の音塊打撃技中心である。
2 曲目のような爆発は魅力的だ。
出るところでは出るが、全体を通してみると役者の一人に過ぎないことが分かる。
KING CRIMSON ファンはどうしても「Formentera Lady」に聞えてしまうと思います。
75 年ロンドン、ネトルフォールド・ホールでのライヴ録音。
(OGUN OG 600 / OGCD 021)
Pipedream
Mark Charig | cornet, tenor horn |
Keith Tippett | organ, zither, piano, voice, bell |
Ann Winter | voice, bell |
76 年発表のアルバム「Pipedream」。
コルネット奏者マーク・チャリグのソロ第一作。ブリストルの聖ステファン教会での録音。
ティペットが珍しくパイプ・オルガンを演奏しているが、そもそもティペット発案によるオルガン演奏のために教会での録音を決めた模様。
内容は、プログレッシヴ・ロック・ファン向けの清澄にして神秘的、幻惑的なる即興演奏。
KING CRIMSON ファンであればチャリグのリリカルなコルネットの音だけでご飯三杯いけそう。
ウィンター女史のソプラノ・スキャットはほぼ管楽器である。
「ノー・エレクトロニクス」というクレジットあり。
プロデュースはチャリグとキース・ビール。
「Bellaphon」(15:50)チャーチ・オルガンをフィーチュアした作品。管楽器のプレイがみごと。
「Ghostly Chances」(7:08)ウィンター女史による声明風のスキャットとツィターの爪弾きをフィーチュアした謎めいた作品。ピアノの弦弾きもあり?
「Vega」(0:59)ホルンとコルネットの二重奏。
「Ode To The Ghost Of An Improvised Past」(7:18)KING CRIMSON の「Islands」 でもそうであったが、最初期 RETURN TO FOREVER に憧れながらも、どうしてもこういう妖しく病んだ感じになるところが英国の血らしい。
即興らしい即興。ピアノは内部奏法か。
「Pavanne」(7:19)再びチャーチ・オルガンが登場し、チャリグのコルネットと強烈に反応しあう。コルネットのどこまでも穏やかな風情がすばらしい。
「Pipedream」(7:12)気高くも心優しいコルネットの調べとハーモニウム風のオルガンのドローンによる美しい作品。
この残響のすばらしさ、教会での録音は大成功だと思います。
「The Trio Gets Lost In The Magic Forest」(7:50)未発表曲。CD ボーナス・トラック。
(OGUN OG 710 / OGCD 033)
Frames(Music for an imaginary film)
Keith Tippett | piano, harmonium |
Others | |
78 年発表のアルバム「Frames」。
総勢 22 名から成る「Keith Tippett's ARK」なる楽団による「映画のない映画音楽」。
澄み渡る静けさの中、神秘的な音が生み出されるスペイシーなシーンから、厳格強固なモダンアート的世界、モダン・ジャズ、フリーキーなソロ、そして怒涛の強圧的集団即興まで、映像を喚起させるきわめて多彩なサウンドに満ちている。
OVARY LODGE と同系の「雅楽/声明」ノリもあるが、それ以上に、嵐のように吹き荒れるエネルギッシュなフリー・ジャズの坩堝にエモーショナルな色艶があり、メロディアスでなめらかなところもある。
そこがすごい。
これはおそらく、ジャズではなく、フリー・ジャズの手法を応用したバロックで巨大な「ポップス・オーケストラ」なのだ。
ソロでも刺激的なプレイがそこここにある。
KING CRIMSON の「Islands」や MAGMA を思わせるシーンもある。
プログレ・ファン向きの大傑作です。
プロデュースはヒュー・ホッパー。
LP/CD 二枚組。
「Frames - Part 1/2」(20:07+19:06 = 39:13)パート.1 は、謎めいた長大なイントロを経た 11 分辺りからの展開がすごい。強圧的なブラス・アンサンブルとソプラノ・ヴォイスによる扇動は、ほぼ MAGMA である。14 分付近からはトレヴァー・ワッツらしきサックスが先導するシャープなモダン・ジャズ。狂気のヴォイスの復帰とともに一気に集団即興が沸騰する。怒りをぶつけ合うトロンボーンの猛るようなデュオをはさんで、再び発狂した雑踏のような混沌へ。
パート.2 は重厚なピアノと弦楽器による変拍子オスティナートで幕を開ける。プログレ王道なオープニングだ。リゲティの「レクイエム」の如き不気味なヴォイスも加わってオスティナートは幾重にもつながるノイジーなカノンと化す。
「Frames - Part 3/4」(23:52+20:37 = 44:29)ジュリー・ティペッツの声に導かれるパート.3 が非常に美しい。後半のモダン・ジャズもすばらしい。
個人的にはジャズらしくないヘンリー・ロウザーのリリカルなソロと思い切りジャズなティペットのソロが好み。ハリー・ミラーのベースも躍動している。
(OGUN 003/004 / OGCD 010/011)
Birdman
Paul Rogers | double bass |
Paul Dunmall | alto & tenor saxophone, chinese shenai |
Keith Tippett | piano (woodblocks, pebbles. chimes) |
Tony Levin | drums, percussion |
96 年発表のアルバム「Birdman」。
ソロ・プロジェクトと同名のカルテット MUJICIAN による三作目。
おそらく即興であろう三つの大作で構成される。
ティペットはプリペアド・ピアノや直接弦を弾くなど特殊奏法を駆使し、何かを振りほどいて遮二無二突き進むような超速パッセージと殴打のようにパーカッシヴな反復で演奏をリードする。
サックス奏者ポール・ダンモールという人の経歴はよく知らないが、いわゆるフリー・ジャザーらしく、パワフルな悶絶ブロウで吹きまくるタイプの奏者であり、ソロで爆発し、他の器楽にもヴィヴィッドに反応してゆく。
リズム・セクションが豊かな音ながらも堅実さが特徴なので、音の存在感という意味では一番目立つ。
フリージャズ作品にはよくある現象かもしれないが、こういった奏者による力技が遠慮なく衝突し合った結果、各器楽の騒音的な位相が同期して一気に巨大な「うねり」となる瞬間がある。
そこに醍醐味がある。
モダンジャズ調の演奏も、さながらコラージュの断片のように、浮かび上がっては濁流に呑まれてゆくのだ。
75 分を越える強烈なプレゼンスを心底体験できる作品だ。
「Birdman」(28:19)
「Shubunkins」(31:27)
「The Hands Are Just Shadows」(16:10)
(Cuneiform RUNE 82)
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Elton Dean | alto saxophone, saxello | Trevor Watts | alto saxophone, soprano saxophone |
Harry Miller | bass | Peter Kowald | bass, tuba |
Alexandra Robinson | cello | Tim Kramer | cello |
Louis Moholo | drums | Frank Perry | percussion |
Stan Tracey | piano | Larry Stabbins | tenor saxophone, soprano saxophone, flute |
Brian Smith | tenor saxophone, soprano saxophone, alto flute | Dave Amis | trombone |
Nick Evans | trombone | Henry Lowther | trumpet |
Marc Charig | trumpet, small trumpet, tenor horn, kalimba | Geoffry Wharton | violin |
Rod Skeaping | violin | Steve Levine | violin |
Phil Wachsmann | violin, electric violin | Julie Tippetts | voice |
Maggie Nicols | voice | | |
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