フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MAGMA」。 69 年結成。 70 年代を通じ、激しいメンバー交代を経つつ活動、ソロ名義やライヴ含め、九枚の作品を発表。 83 年活動停止。 90 年代に入り復活、ライヴ活動や新作発表を行う。 クリスチャン・ヴァンデをリーダーに「コバイア」という架空の文化が生み出す前衛音楽を媒介する謎の集団。 ミステリアスな暗黒宗教風のコンセプトの内実は、低音域とリズムを強調した圧迫感のあるユニークな音楽である。
Stella Vander | vocals, chorus, percussion | Kabare Feuillebois | vocals, chorus |
Hervé Akmin | vocals | Benoit Alziary | vibraphone |
James Mac Gaw | guitars | Bruno Ruder | Fender Rhodes |
Philippe Bussonnet | bass, piccolo bass | Christian Vander | drums, vocals, keyboards, percussion |
2009 年発表のアルバム「Ëmëhntëhtt-Ré」。
再結成 MAGMA によるスタジオ第二作。
前作の続編にあたるようで、コーンタルコスの師となる古代エジプトの大神官エメンテト・レとの出逢いが描かれている模様。
元曲はコーンタルコス時代つまり 70 年代初頭にまでさかのぼるらしいので、前作同様未完成だった作品を完成させたようだ。
内容は、オペラ風の混声歌唱をフィーチュアしたリズム、ビートと低音部重視のハイ・テンション・ジャズロック。
ヴォーカル・パフォーマンスとピアノの多用からアコースティックなイメージが強い。
変則拍子や無調音楽、ミニマリズムなど現代クラシックの暗黒面とジャズ、ロックの邪なエネルギーと呪術的なヴォーカル・パフォーマンスを合体させた不気味な音楽である。
第三章までのとどまるところを知らない爆走は、強靭なる知性に潜む錯乱、鬱積したエネルギーが出口を求めて狂おしく走り続けるイメージだ。
この無窮動の疾走の痛快さ、一種危ういカタルシスは MAGMA ならではのものといえるだろう。
元曲が古いので当たり前ともいえるが、芸風にまったくブレがない。
第五曲は UNIVERS ZERO や PRESENT に影響を与えたと思わせる MAGMA の邪悪面を象徴する。
CD + DVD の二枚組。
「Ëmëhntëhtt-Ré I」(6:53)
「Ëmëhntëhtt-Ré II」(22:25)
「Ëmëhntëhtt-Ré III」(13:06)
「Ëmëhntëhtt-Ré IV」(3:54)
「Funëhrariüm Kanht」(4:19)
「Sêhë」(0:27)
(SEVENTH A XXXV)
Christian VANDER | drums, percussion, vocals | Claude ENGEL | guitars, flute, vocals |
Francis MOZE | electric bass, contrabass | François CAHEN | piano |
Teddy LASRY | soprano sax, flute, reed | Richard RAUX | alt & tenor sax, flute |
Alain CHARLERY | trumpet, percussions | Louis SARKISSAIAN | vocals |
Klaus BLASQUIZ | lead vocals |
70 年発表の第一作「Magma」。
内容は、強靭なリズム・セクション、爆発力のある管楽器、オペラチックなヴォーカルをフィーチュアしたビッグ・バンド風のジャズロック。
フリー・ジャズや電化ジャズの影響を受けながらも、ロック的なヘヴィネスと奇怪なコンセプトに沿ったアヴァンギャルドな音作りが徹底しており、きわめてオリジナルな音楽になっている。
非西洋的な旋律や反復、無調性など現代音楽の影響もあるようだ。
エキゾチックなメロディと執拗な反復が過剰で狂的なエネルギーを生み、もはやジャズロック・オペラというべきものになっている。もっとも初めて聴くとオリジナリティ云々よりもどこか座りの悪い奇妙さが強烈なのだが。
CD は二枚組。
曲の間隔がほとんどなく長大な 1 曲としてとらえられなくもない。
初期 CRIMSON 同様、ファラオ・サンダース(レオン・トーマス含め)の諸作の影響もありそうだ。
ライヴ盤「Concert 1971 Bruxelles - Theatre 140」にて、この"ジャズロック"期の演奏を聴くことができる。
「Kobaia」(10:09)。
狂暴なうねりを持ったビッグ・バンド風ジャズロック・ナンバー。
うねるようなリフがドライヴする疾走感あふれる前半から、フリー・フォームの中盤を経て、後半では爆発するタイミングを見計らうような演奏が繰り広げられる。
バーバリックでどらえく重いアンサンブルや東洋風のエキゾチズムなどのインパクトをもつ、初期 MAGMA のジャズロックの名曲といえるだろう。
重いのに疾走感もあるのだ。
ヴァンデ作曲。
「Aïna」(6:15)
ピアノとサックスによるオープニングは、透明感あるオーソドックスなモダン・ジャズ調である。
ヴァンデの趣味が素直に現れているのだろう。
ヴォーカルが加わって開放感が高まりメロディアスで洗練された演奏が続いてゆく。
テンポ・アップ後もダンサブルなビート感は強まるも、まだ明朗なジャズ・アンサンブルである。
しかし執拗な反復と強いアクセントが、次第に曲調を捻じ曲げてゆく。
終盤は、ネジの外れた暴走ブラスを中心にひたすらエネルギッシュな演奏が続く。
ここはヴァンデにとってのフリー・ジャズの解釈なのかもしれない。
ひょっとすると著名なフリー・ジャズ奏者の語法を採用したのかもしれない。
静動・硬軟・旋律 vs ビートなどジャズを核に演奏の幅広さを見せつける。
個人的には「生活向上委員会大管弦楽団」を思い出す。
ヴァンデ作曲。
「Malaria」(4:20)
クールでメロディアスなテーマと壊れたようなブラス・セクションがユニークなジャズロック。
力みかえった行為の生む狂的なエネルギー・緊張と表裏一体を成す不気味なユーモア。
反復のたびに少しづつ道を外れ、気がつけばかなり取り返しのつかない世界になっている。
ファンクという点では初期の英国ジャズロックにおなじような音があるが、こちらはやはりどこか尋常でない。
バッキング中心ながらもギターがかなり目立つ。
ヴァンデ作曲。
「Sohïa」(7:41)
幻想的な美しさと鋼のような強靭さが同居するカッコいいジャズロック・ナンバー。
うごめくようなベース、緩急の変化を執拗に繰り返すなど得意の不気味な手法を用いるが、リリカルなフルート、ロックらしいうねるようなギターなどクロスオーヴァー風の聴きやすい音がメインとなっている。
ギターが特にカッコよし。
ラスレイ作曲。
「Sckxyss」(2:47)
神秘的にして高速・高密度の疾走ナンバー。
シャープなブラス、ヘヴィなベースとピアノが強烈に攻め立てる。
ベラスキスのテナー・ヴォイスが入るともう MAGMA 以外の何物でもない。
1 曲目のエッセンスを凝縮したような曲だ。
初期の RETURN TO FOREVER のようなクロスオーヴァー・テイストもある。
カーン作曲。
「Auraë」(10:52)
トンチキなムードと病的に深刻な雰囲気を猛スピードで往復しつつ、疾走を重ねるジャズロック。
重苦しい幕開けにもかかわらずすでに異様な熱気を孕み期待と不安で胸がつまる。
そして予想通り中盤以降はハイ・テンションでたたみかけるような演奏が続く。
全速力での疾走というよりは、押しては引きを 3 段階くらいのレベルで入れ子にしたような巧妙な演奏であり、幾重にも巻き続ける竜巻のような奇怪な運動性を持つ。
ヴォーカルは歌というよりオペラに近くオペラよりは祝詞に近い。
スタジオ録音にもかかわらずライヴと同じような圧迫感もある。
MAGMA 型暗黒シンフォニーの傑作。
ヴァンデ作曲。
「Thaud Zaia」(7:00)
邪悪な帝国の閲兵式の如きスローにして不気味極まるヘヴィ・チューン。
あまりに無垢な東洋風のフルートに続くのは、雄々しき男性ヴォカリーズとサックスのユニゾンによるテーマ、そしてギター、ピアノらによる透き通るような伴奏。
ドラム・ビートとともにブラス・セクションが立ち上がり魔境の行進が始まる。
鈍く重苦しいビートに身を任せているうちに、巨大な何かが地の底から這い上がってくるのを固唾を呑んで待っているような気分になる。中盤ブラスとベースの高音トリルが重なるクライマックスのなんともいえぬ居心地の悪さ。
終盤一瞬タイトなリズムにてテンポが上がり「Kobaia」のテーマが復活しかける。
ジャズロックというよりは現代音楽調のヘヴィ・ロックといった方が適切だろう。
オープニングとエンディングにおけるドビュッシーを思わせる東洋風のフルートも印象的。
アンゲル作曲。
「Naü Ektila」(12:55)
フォーク・タッチのアコースティック・アンサンブルとフリーなジャズ・アンサンブルをひとつにまとめた野心作。
序盤フルート、アコースティック・ギターによるアンサンブルは、これまでの曲とは一線を画しストレートに叙情的である。
アコースティック・アンサンブルが次第に表情を危うくしてゆき、やがて一気にエレクトリックなビッグ・バンド調へと発展する。
この辺りのジャズロックっぽい流れにも、ここまでとは異なるストレートなものを感じる。
パーカッション、サックスらによる爆発的な即興フリー演奏を経て、再び叙情的なアコースティック演奏へ。
ヴォカリーズも民謡風である。
続いて再び、サックス、ギターによる鋭い演奏からピアノのリードするアップテンポのジャズロックへ。
ここのジャジーでタイトな演奏を聴くと、オーソドックスなジャズロックにおいてもみごとな演奏手腕を持っていることが分かる。
パストラルなフォーク・ロックとダイナミックなジャズロックを気まぐれ風に組みあわせただけではない、アーティスティックなものが感じられる。
プロデュースのチボー作曲。
本アルバムでは異色作だろう。
この人はマイク・オールドフィールドに通じるセンスをもっていると思う。
「Stoah」(8:08)
一貫してヴォイスが主導権をとり、きわめてフリージャズ的な怪しさを満々とたたえた作品。
オープニング、狂気のアジテーションとどこか間の抜けた決めの繰り返しは絶望的に怪しい。
不協和音を刻むピアノとヴォイスによる祈祷の如き演奏に、頓狂なブラスが降りかかると、これは真面目なのか不真面目なのかさっぱり分からなくなってくる。
過剰な性急さをもつ演奏はどんな変則リズムにも乱れぬ一体感をもち、それだけになおのこと「キxガイに刃物」的な危うさに満ちている。
アグレッシヴなヴォイスを支えるフルート、ピアノ、ギターなどのプレイもみごと。
ここでも前作同様にドビュッシー、サティ、ガーシュイン風の耽美なセンスを垣間見せているところが興味深い。
巻き舌のアジテーションだけではここまで面白くならないだろう。
最も不気味な作品といえる。
しかしこの後この作風をさらに研ぎ澄ませスリムにそぎ落として傑作を生んでゆくのだ。
ヴァンデ作曲。
「Mûh」(11:17)
オープニングからは、全く予想できない展開をもつプログレッシヴな作品。
11 分あまりにわたる曲であり、ほとんどインプロヴィゼーションのようだが、短いモチーフも積み重ねられている。
顕著なのは、ブラスによる奇妙なリフレインが加速、減速、ユニゾンと自由自在にアンサンブルをリードする部分。
スリルというよりは、不気味な明るさの印象が強い。
クラシック風、モンド風やジャズ風の比較的まともな演奏も、その「まともさ」そのものよりも、変容させられる素材として結果とのギャップを対比するためのもの、いわば「変さ」を強調するために、あるような気がする。
子供じみていると思うが、天才芸術家とは、えてしてそういうものなのかもしれない。
もっとも、気まぐれに大揺れするヴォイスやブラス・アンサンブルに追従するドラムスやギター、ピアノは、ここでもみごとな技巧を見せる。
後半からの不気味なヴォーカルについては、もはや多くを語らない。
ヴォーカル含めブラスなどの旋律楽器がまず怪奇なテーマを提示し、そこへ、ドラムスや他の楽器が重なってゆき、ユニゾンと化して、一気にいびつなアンサンブルが盛り上るケース、そして、微妙にずれた旋律を重ねたリフレインがドラムスのきまぐれなテンポ変化によって揺らぎ、異常なムードを高めるケース、この二つが典型的な展開方法だと思う。
エンディングの力強い自己肯定調の演奏を、あっという間にチンドン屋の戯言としてしまい、最後は安保闘争のデモの如きアジテーションでトドメを指す辺りがすごい。
狂気を感じさせるという意味では抜きん出た作品だ。
ヴァンデ作曲。
ブラスとスキャット風のヴォーカルを中心にギター、フルート、ピアノを交えた迫力あるジャズロック。
後半は、ジャズロック調のフィジカルなスリルに加えて、器楽によるクラシカルな構築性も含み、さらにユニークさを発揮している。
重量感あふれるリズム・セクション、パワフルなブラス、鮮烈なピアノなど、技巧的にはすばらしい。
さらに、メロディやアンサンブルにも洗練されたところが多く、ジャズ・ファンにもアクセンプタンスはあるかもしれない。
しかし、とにかく問題は、「変さ」である。
ヴォーカルやリード楽器に唐突に現れる東洋風の不気味な旋律は、ジャジーだが引き締った演奏を一気にひっくり返す。
この独特の旋律は、ユーモラスであるとともに、秩序を逸脱し、せせら笑うような不気味さもはらんでいる。
この感じは、おそらく、エリック・サティの「グノシェンヌ第一番」の旋律の奇妙な味わいを思い出していただくと、分ると思う。
おちゃらけていて、なおかつ不気味な旋律が、随所で噴出するジャズロックを、怪しいといわずして何といおう。
そして、執拗に繰り返されるリフによって、演奏は、深刻さを経て次第に呪術性を帯び始め、やがては、トランス状態に陥った集団狂気へと近づいてゆく。
加速と減速もきわめて頻繁かつ唐突に行なわれる。
極めつけは、雄たけびのように湧き上がるコーラス。
こんなアンサンブルがいとも簡単に暴走し始めるのだ。
恐るべきである。
これらの異常な兆候の果てに気づくのは、自らの「変さ」を認知した上で力強く肯定するような溌剌としたポジティヴさが全体に満ち満ちているということだ。
これを不気味といわずになんといおう。
それでも、人間恐ろしいもので、繰り返し聴くうちに、このお尻がムズムズするような「変さ」に慣れてくる。
独特のノリを受け入れられるようになるのだ。
これを「感染」というべきか「帰依」というべきか「洗脳」というべきかは、各人にお任せしたい。
個人的には、チボーの作品を代表に、リリカルな瞬間が現れるアルバム後半が気に入っている。
(PHILIPS 6395 001/002 / SEVENTH REX IV/V)
Christian VANDER | drums, percussion, Chorus | François CAHEN | piano, electric piano |
Francis MOZE | bass | Teddy LASRY | clarinet, sax, flute, Chorus |
Jeff SEFFER | sax, bass clarinett | Louis TOESCA | trumpet |
Louis SARKISSAIAN | conduct | Klaus BLASQUIZ | vocals, percussion |
71 年発表の第二作「1001°Centigrades」。
内容は、ベース主導のリフ、呪術的なユニゾンおよび怒涛の疾走と不気味な沈滞を極端に繰り返すスタイルなど、第一作の延長上のサウンド。
東洋風の旋律はまたも多用されている。
ギタリストが脱退するも、前年加入のヨシコ・セファーとゲストによって管楽器セクションが強化され、後半 2 曲では SOFT MACHINE に迫るエレクトリック・ジャズロックという新機軸も見せる。
ドラムスとブラス・セクションの前進するパワーは、ここでも圧倒的だ。
べースの音は、後のトップやパガノッティに通じる独特のものに近づいている。マイケル・ヘンダーソンの影響がありそうだ。
ライヴ盤「Concert 1971 Bruxelles - Theatre 140」にて、この"ジャズロック"期の演奏を聴くことができる。
「Rïah Sahïltaahk」(21:45)。
魔術的な反復による全体主義的高揚感と強迫的閉塞感が共存する変拍子ジャズロック。
サウンドがややスリムになっただけで、ほぼ前作の延長上である。
変態オペラ風の男性ヴォーカルの反復(もしくは呪文というべきだろう)とねじくれる管楽器を支えドライヴするのは、さまざまなリズムをいとも軽やかに切りかえては突き進むドラムスである。
エレクトリック・ピアノの使用によるやや軽めのビート感や、独特のいやらしさをもつクラリネットなど新しい音もある。
無限の体力と揺るぎない一体感を誇る空恐ろしい演奏だ。
ジャズのビッグ・バンドに近い部分やフリーの即興パートらしい部分もあり。
特に前半はリズミカルな曲調とは裏腹に底知れぬものを感じさせ、また恐るべき吸引力をもつ。
エンディングは慈愛に満ちたピアノのささやき。
ヴァンデ作曲。
「"Iss"Lanseï Doïa」(11:46)。
前曲から一転して、あえて焦点を合わさず漂流するような調子のビッグバンド・ジャズロック。
鋭く直線的なブラス・アンサンブルと暗く粘ついた声を交差し激しいドラム・ビートで貫いた作品である。
怪しげなベースのリフがつぶやくオープニング、ざわめくパーカッション、ブラスとともに祝詞のようなスキャットが湧き上がる。
ブラス・アンサンブルがシャープなモダン・ジャズ調の主題となるハーモニーを提示、直線的に高まるブラスのリードでオーソドクスなジャズロックが進んでゆく。
ベース・リフ、エレピの伴奏の上で三つの管楽器が断続的な即興演奏でせめぎあう。
一転、リズムレスのブラス・アンサンブルによる静かな演奏。
不協和音の響きを交えて次第に悪夢的な展開となってゆく。
インプロヴィゼーション部もきっちり範囲を決めており、発散後の明晰なユニゾンにはリリシズムとともに涼感すらある。
うっすらとしたヴォーカル・ハーモニー、どえらく不気味なバリトン・モノローグの呼応から、輝かしいブラス演奏へと移るシーケンスを繰り返すうちにすべてが歪曲し始める。
5 拍子による引きずるようなピアノのリフレインに支えられたブラス・アンサンブルがドラムスの乱れ打ちとともに狂乱のピークに達したかと思った途端、リズムは瞬時に断ち切られ、寂しげなエレピの響きに再び不気味なうめき声が重なってゆく。
そして鐘のように鳴り響くエレピとすすり泣く声、時を刻む時計の音で終わる。
ドラムスはかなりフリーなプレイでありリズム・キープがもっぱらピアノやベースに任されている。
ラスレイ作曲。
「Ki Ïahl Ö Lïahk」(8:23)。
ややフリー系のオーソドックスなジャズロック。
ブラスのテーマに 1 曲目のテーマが見え隠れするところが怖い。
ブラス、ベースがマメながらもけったいなリフを刻み、ピアノが奔放なプレイを放つオープニング。
パワフルなヴォーカルが入ってブラス、ピアノと重厚にわたりあう。
緊張と逸脱が背中合わせになったような演奏だ。
ベースがゆったりとしたパターンへ切りかえピアノがエレピと交代すると、やや人間味のあるジャジーな演奏になってくる。
ピアノ、管楽器のうねるようなパターンと絶叫が交錯したかと思うと、一気に演奏は加速し緊迫感が高まる。
テンポ・アップしたままベースとドラムスのスリリングなやりとりが続くが、エレクトリック・ピアノによる不自然なくらいメローでジャジーなソロが始まる。
ベースのヴィブラートは不気味だがとりあえずフュージョン化である。
この変化は実に鮮やかだ。
ここだけ聴くと、フランク・ザッパのジャズ作品のような明解さがある。
透明感あふれるサックスが切り込み、1 曲目のテーマのややコミカルな再現も交えつつシャープな演奏が続く。
ブラス、ピアノ、ベースが巧みに交錯するリズミカルなジャズロック。
表情豊かなドラミングはさすがである。
エンディングは、1 曲目の迫力と比べるとやや拍子抜けかもしれない。
こういう作風の曲はこの後はほとんど見られない。
カーン作曲。
(PHILIPS 6397 031 / SEVENTH REX VI)
Christian VANDER | drums, vocals, organ, percussion | Jannick TOP | bass |
Klaus BLASQUIZ | vocals, percussions | Jean-Luc MANDERLIER | pianos, organ |
Rene GARBER | bass clarinet, vocals | Claude OLMOS | guitar |
Stella VARDER | vocals | Teddy LASRY | brass, flute |
brass section | choir |
73 年発表の第三作「.M.D.K.」。
72 年ヴァンデ、ベラスキス以外ほぼ全員が脱退し、新たなメンバー(一人は出戻り)を得た後の最初の作品。
メンバー交代とともに音楽も最初の大きな転換期に突入、混声合唱をフィーチュアしたほかに類を見ないオリジナリティあふれる作風となる。
特に、本作で示された超絶個性的な作風のキーパーソンとなるのが、ベーシスト、ヤニック・トップとソプラノ・ヴォイス、ステラ・ヴァンデである。
また、ジャンリュック・マンドリエは、ARKHAM を経てダニエル・デニとともに MAGMA に加入。
内容は七部からなる組曲「Mekanïk Destruktïw Kommandöh」のみ。
ヴァンデによれば、この作品は「Theusz Hamtaahk」の第三楽章にあたるとのこと。(2000 年の全三楽章ライヴ演奏が CD で発表された)
サウンドは、前作までのジャズロック的な器楽ものから、リズム・セクションとコーラスを中心に執拗な繰り返しを多用するエキセントリックなものへと変化する。
ギター、オルガンを巧みに用いたダイナミックさもある。
呪術的反復と低音部を強調した演奏は、息苦しくなるような緊迫感に満ち満ちている。
管楽器のアレンジは、ジャズロックではなくエキセントリックなコーラスを支えるなめらかなファンファーレ調のものとなる。
新加入のヤニック・トップのベースは、不気味に唸る低音から異様なきらめきを見せる高音まで、幅広い音域をカヴァー。
そして、全編を通してこだまする執拗なコーラス・リフレイン。
クラウス・ベラスキスによる狂おしいリード・ヴォイスとともに、ステラ・ヴァンデを中心とした女性コーラスが、トランス状態に陥った如く妙なるオペラを延々と歌い続ける。
この、あらゆるものを肯定するような明るさと力強さが、やがてとんでもない狂気を浮かび上がらせてゆく。
これこそが、この時代の MAGMA 特有のものだ。
怖気立つような不気味さが、遂にヴェールを脱いだのだ。
打楽器のリードによるコーラスの疾走は、止むことのない邪神の饗宴か、精霊のダンス・パーティか、はたまた百鬼夜行の運動会か。
そして、架空の言語による洗脳アジテーション。
2 曲目「Ïma Sürï Dondaï」なんて、本当にまともでない感じがする。
どこへゆくのか全く分からない疾走であり、子供の歌うデタラメな歌にも通じるリフレイン。
いわゆるロック的なカッコよさはあっという間に超越し、リスナーは、ピアノが煽りドラムスとベースが駆りたてるアンサンブルに必死でついてゆかねばならない。
なぜかフェード・アウトの 3 曲目に続く 4 曲目「Da Zeuhl Wortz Mekanïk」は、幽霊じみた女声コーラスによる変拍子リフレインが風を切るように疾走し、ソプラノはトランス状態になってゆく。
5 曲目「Nebëhr Gugahtt」は、テーマは引き継いでいるものの、演奏中心と思わせておいて、結局異様な叫びとコーラスが出現し、すべてを埋め尽くしてゆく。序盤は、全曲で絶頂を極めて果てた後の虚脱感か。
また、最終曲「Kreühn Köhrmahn Lss De Hündïn」は、前曲の爆発の後の浄化の如き、静謐なピアノ演奏から始まる讃美歌。
それでも、厳かなコーラスもつかの間、今度はベースにリードされた、エレクトリック・マイルスとローマ史劇の合体の如き怒涛のインストゥルメンタルが湧き起り、すべてを呑み込んでしまう。
ヴァンデの力作だ。
ジャズ的なバランスを保っていたサウンドから、いわば狂騒的オペラ・ロックというべきオリジナリティのあるサウンドへと突き進んだ大傑作。
クラウス・ベラスキスとステラ・ヴァンデが圧倒的な存在感を放つ。
ブラス・セクションは、本作を最後に消滅。
いってみれば、すごく変なワーグナーという感じでしょうか。
(AMLH 64397 / SEVENTH REX VII)
Klotz Zaspiaahk(Klaus BLASQUIZ) | vocals, percussion |
Wahrgenuhr Reugehlem Esteh(Jannick TOP) | bass |
Tauhd Zaia(Stella VARDER) | vocals |
Zebehn Strain De Geustaah(Christian VANDER) | piano, keyboards, drums, vocals |
74 年発表のクリスチャン・ヴァンデのソロ・アルバム「Wurdar Ïtah」。
デモ・テイクが未許可で映画「トリスタンとイゾルデ」のサウンド・トラックに使われたため、急遽リリースされた作品。
ソロ名義だが、内容は「Theusz Hamtaahk」の第二楽章であり実質グループの作品である。
楽曲は 12 のパートに分かれており、間隔なく連続して演奏される。
演奏者が変名を使っているのは、契約上の問題と思われる。
内容は、特徴的なソプラノとテノールらによる、オノマトペ的なスキャットを駆使する混声合唱とピアノ、ドラムスらによるビート感を組み合わせた孤高のアコースティック・ジャズロック。
ベースはリズム・セクションというよりはきわめて個性的なポルタメントでむしろ高音部での不気味なアクセントとして機能する。
全体に、重量感よりもスピーディな無窮動の疾走感のある作風であり、エキセントリックな姿勢の向こうに、元祖フュージョンの RETURN TO FOREVER やオーセンティックなフリージャズからの強い影響を感じさせる。
賛美歌調やピアノ中心のアンサンブルなどクラシックの形式を換骨奪胎している面もあり。
「Malawëlëkaahm(Incantation)」(3:37)
「Bradïa Da Zïmehn Iëgah(L'Initie A Parle)」(2:17)
「Manëh Fur Da Zëss(Ensemble Pour Le Maitre)」(1:37)
「Fur Dihhël Kobaïa(Pour La Vie Eternelle)」(4:55)
「Blüm Tendiwa(L'Ame Du Peuple)」(3:25)
「Wohldünt MΛëm Dëwëlëss(Message Dans L'Etendue)」(3:31)
「Waïnsaht !!!(En Avant)」(2:29)
「Wlasïk Steuhn Kobaïa(Ascension Vers L'Eternel)」(2:47)
「Sëhnntëht Dros Wurdah Süms(La Mort N'Est Rien)」(3:25)
「C'Est La Vie Qui Les A Menes La ! 」(5:00)
「Ëk Sün Da Zëss(Qui Est Le Maitre ?)」(2:16)
「De Zeuhl Ündazïr(Vision De La Musique Celeste)」(2:41)
(BARCLAY-80.528 / SEVENTH REX IX)
Christian VANDER | drums, vocals, percussion, piano |
Jannick TOP | bass, cello, vocals, piano |
Klaus BLASQUIZ | vocals, percussions |
Gerard BIKIALO | pianos, Yamaha organ |
Michel GRAILLIER | pianos, clavinet |
Stella VANDER | vocals |
Brian GODDING | guitar |
74 年発表の第四作「Kohntarkosz」。
盤石たるトップ、ヴァンデのリズム・セクションとベラスキス、ステラ・ヴァンデのヴォーカル・セクションによる強圧サウンドに、ギターによるハードなエッジとオルガンによるシンフォニック色を加え、新たな進化を遂げた作品である。
全体にリズムは重みを増し、演奏はアタックの強い鋭角的なものになった。
このアタックを象徴するのがアコースティック・ピアノである。
二台のピアノが、透明な音響美とともに厳格な打鍵でビートを強調している。
一方、ギターとオルガンのノイジーなドローンは、サイケデリックで凶悪な奔流を成し今までにない色彩感と熱気を演出する。
音楽はキーボードなどエレクトリック・サウンドの多用によって一気にヘヴィ・ロック化し、激情を爆発させつつ怒涛のようにうねる。
ヘヴィなプログレ色では一番の作品だろう。
LP では両面に分けられていた表題曲が、CD では、連続するように曲順が変更されている。
的を射た編集といえるだろう。
なお、英国人ギタリスト、ブライアン・ゴディングの録音セッションへの起用は、正ギタリスト脱退のためによるらしい。
KING CRIMSON のファンには、絶対のお薦め。
アコースティック・ピアノの多用にクリスチャン・ヴァンデの音楽的な素養を感じる。
「Köhntarkösz Part 1」(15:23)
神秘的なヘヴィ・ロック。
ジャズ色は露でなくなり、フォーレやドビュッシーを思わせるクラシカル・タッチと入れ代わった。
のしかかるような演奏には前作までの狂気の疾走のような速度こそないが、質量はあたかも倍増したかのようだ。
ギリギリと響くオルガン、険しいピアノ、機を見ては高音に飛び出すベース。
これだけへヴィな音にもかかわらず、音数は多くない。
ただ、一撃一撃のモーメントがものすごく、それが幾重にも渦をまいて迫ってくる。
また、オルガンやファズ・ギターによるサスティンのあるサウンド・メイキングは新機軸である。
スキャットなどクロスオーヴァー的な表現や東洋風味、クラシカルな美感も備えるへヴィ・ロックの傑作。
ヴァンデ作曲。
「Köhntarkösz Part 2」(16:04)
パート 1 終盤の幻想性を引き継ぐ、印象派風の鮮やかなピアノ・ソロをイントロダクションに、ジャジーでデリケートな即興気味の演奏が繰り広げられる序盤(初期 KING CRIMSON や RETURN TO FOREVER の影響はあるだろう)。
KING CRIMSON を思わせる即興調の演奏だが、ドラムスが直線的で鋭利なリズムを刻みベースと不気味なオルガンが挑発しあう展開はきわめてプログレッシヴ・ロック的といえる。
中盤 6 分付近、スキャットによってミステリアスな空気が熟成され、トップのベースが牙を剥くのをきっかけに一気に高潮、ベースの爆発は全体へと遊爆し、未曾有の暴走が始まる。
フリー・ジャズのサックスを思わせる無遠慮なエレキギターのプレイも強烈だ。
呪術的なスキャットの反復、絨毯爆撃的なドラミングによる扇動が続く。
終盤、ベラスキスのハイ・テンションなヴォイス・パフォーマンスが飛び出し、単純化したビートとともにすべてが狂乱する。
ピアノを先導に MAGMA 以外の何物でもない激走で一気に駆け抜けてゆく。
エンディングは読経。
ヴァンデ作曲。
「Ork Alarm」(5:16)
不気味なチェロが迸るイントロダクション、切り刻むような擦過音で迫る弦楽と、唸るエレクトリック・ピアノとともに祈祷が始まる。
きわめて UNIVERS ZERO 的な展開である。
(時系列的には UNIVERS ZERO がこちらの影響下にあるのだが)
怪しく高鳴り身を捩るベース、金属的なオルガン、小刻みなストロークと流麗な調べを巧みに操るチェロ、絶叫のようなギターとあえぎ声が交錯する。
地の底から轟く悪鬼のざわめき、哄笑。
エレクトリックなノイズが左右のチャネルを往復する。
おそらく 70 年代後半のチェンバー・ロックに強い影響を与えた佳作。
どこまでもコワく怪しい作品です。
トップ作曲。
「Coltrane Sündïa」(4:14)
厳かなピアノがオルガンとともに湧き上がり、ティンパニのざわめきのような低音のトリルに支えられて、芳しきメロディがささやかれる。
アタックを消したギターがピアノの調べに寄り添い、妙なるヴィブラートを響かせる。
シングル・ノートを、厳かに自信を持って力強く響かせるギター、ピアノ。
気高く宗教的な厳粛さをもつ小品であり、鮮烈なアルバム・クローザである。
フランスというよりも、ドイツ的ではないだろうか。
フリージャズの巨魁ジョン・コルトレーンに捧ぐ曲と思われる。神の降臨を称えるのか、はたまた無上の愛を謳い上げるのか。
ヴァンデ作曲。
ピアノ演奏もヴァンデ自身によると思われる。
(AMLS 68260 / SEVENTH REX VIII)
Christian VANDER | drums, vocals | Bernard PAGANOTTI | bass |
Klaus BLASQUIZ | vocals | Benoit WIDEMANN | keyboards |
Jean-Pierre ASSELINE | keyboards | Stella VANDER | vocals |
Gabriel FEDEROW | guitar | Didier LOCKWOOD | violin |
75 年発表のライヴ・アルバム「Magma Live - Köhntark(MAGMA Hhaï)」。
75 年 6 月 1 日から 5 日にかけてのパリでのライヴを収録。
ベルナルド・パガノッティ、弱冠 17 歳のデディエ・ロックウッドを迎えて充実したラインナップで繰り広げられる楽曲は、スタジオ盤を凌ぐ迫力もつ。
特に「Köhntark」後半のヴァイオリン、ドラムス、ベースによる壮絶な演奏はグループ最高のパフォーマンスの一つ。
またヴォーカル(ヴァンデ本人と思われる)をフィーチュアした「Hhaï」は美しく感動的な傑作。
「Köbah」は、一作目とはうってかわってストレートかつ R&B 調のジャズロック。
もっともドラムスが一直線に攻め立てるため、グラインドするようなうねりとともにスピード感もあり。
そして終曲は巨大なる「M.D.K」がその威容をのぞかせ、扇動と狂気の宴は最高潮へ達する。
ヴァンデの超人的ドラミング、圧倒的な存在感を見せつけるロックウッドのヴァイオリンを堪能すべし。
CD では「Ëmëhntëht - Rê」、「Da Zeuhl Wortz Mekanïk」が追加された。CD 二枚組。
「Köhntark(part one)」(15:44)
「Köhntark(part two)」(16:16)
「Ëmëhntëht - Rê」(8:07)
「Hhaï」(8:48)
「Köbah」(6:22)
「Lïhns」(4:53)
「Da Zeuhl Wortz Mekanïk」(8:48)
「Mëkanïk Zaïn」(18:11)
(CYL2-1245 / SEVENTH REX X/XI)
Klaus BLASQUIZ | vocals | Stella VANDER | vocals |
Lucille CULLAZ | vocals | "LISA" | vocals |
Catherine SZPIRA | vocals | Pierre DUTOUR | trumpet |
Alain HATOT | sax, flute | Bernard PAGANOTTI | bass, vocals, percussion |
Patrick GAUTHIER | keyboards, synthesizer | Benoit WIDEMANN | keyboards |
Michel GRAILLIER | keyboards | ||
Janik TOP | bass, fret cello, vocals, synthesizer, bass synthesizer, keyboards | ||
Christian VANDER | drums, percussion, vocals, keyboards, synthesizer, piano |
76 年発表のアルバム「Üdü Wüdü」。
不安定な編成のまま録音されるも、パガノッティや復帰したヤニック・トップが充実した曲を提供し、高度かつ多彩な内容になっている。
ただし MAGMA という統一性よりは、トップ、パガノッティのソロ的な面が強く出ており、過渡的な性格は否めない。
白眉は B 面を圧する「De Futura」。
ヘヴィなファンク、ロカビリー色にもびっくりさせられる。
シンセサイザーによる不気味な電子音のヴィブラートの多用も特徴的。
なぜかウィデマン、グラリエはメンバー・クレジットはあるものの、個々の楽曲にクレジットがない。
本作の後パトリック・ゴーシェ、ベルナルド・パガノッティが WEIDORJE 結成と動き、事実上 MAGMA は崩壊する。
CD 最終曲は巨大な構築物の一部に過ぎない。
「Üdü Wüdü」(4:10)アップテンポの快調なジャズロック。
ピアノ、ソフトなトーンの管楽器セクション、オペラチックな混声ヴォイスがリードし、映画音楽やモンド・ミュージック的なニュアンスもある。
アルト・ヴォイスの抑えを効かせたハーモニーと巻き舌ベラスキスのスキャットのかけあいが心地いい。
「Weidorje」(4:30)
シンセサイザーらキーボードを多用したミドル・テンポの歌物作品。
コーラスそのものは軍隊もしくは宗教じみた MAGMA のスタイルだが、そういうコーラスがメロディアスなテーマを悠々と歌い上げるところが変である。
「らしさ」は不気味な反復に残る。
軽やかさ、爽やかさもかえって不気味。
「Tröller Tanz」(3:40)
トップの唸るベースと奇妙なキーボードをフィーチュアしたフィルム・ノワールのサウンド・トラックのような作品。
スリリングな反復に鳴き声のようなキーボードで素っ頓狂なアクセントをつける。
後半ベラスキスの力みかえったヴォイスが加わり変態に磨きがかかる。
「Soleil D'Ork」(3:50)「お経」ファンク。
珍しくメインストリームのファンク・フュージョン風の出来映え。
インドのハービー・ハンコックである。
「Zombies」(4:10)ベースが快調なファンク・チューン。
シンセサイザーがどよめき、スキャットが扇動する。
サスペンスフルでミステリアスだが、ガレージっぽいチープさとテンポのよさが先立ち、MAGMA らしいコワさはあまりない。
ロカビリーっぽいノリのドラムスがいい。
普通にロックしてもカッコいいのです。
「De Futura」(18:00)
トップ、ヴァンデのリズム・セクションが猛進し、あやかしのシンセサイザーが舞い踊る、きわめてスリリングなヘヴィ・ジャズロックの傑作。
スペイシーでサイケデリックな感覚が 70 年代を総括し、ポリリズミックな展開は 80'KING CRIMSON を先取りする。
臨場感あふれるドラミングがカッコいい。
プログレ的アプローチの種類は VdGG に近いと思う。
「Emehnteht-Re(extract)」(3:12)
(FPL1-7332 / SEVENTH REX X/XI)
Christian Vander | vocals, drums, percussion, piano, Rhodes, Chamberlin |
Guy Delacroix | bass |
Klaus Blasquiz | vocals |
Stella Vander | vocals |
Lisa Bois | vocals |
Benoit Widemann | piano, Rhodes , Mini moog, Chamberlin polyphone |
78 年発表のアルバム「Attahk」。
解散状態から再編し、製作されたアルバム。
いわゆる「重低音 MAGMA」を期待するとズっこけるほど軽いノリの作風だが、凶暴/邪悪な面が抑えられた分、ポップな中から初期の「変さ」がにじみ出て、やはり MAGMA 以外にはあり得ない音になっている。
スキャットを駆使するエレクトリック・ジャズロックを基調に、快速 16 ビートによる R&B、ブラック・ソウル調などアメリカナイズした音に積極的にアプローチしている。
また、キーボードが大きくフィーチュアされて普通のシンフォニック・プログレっぽさが出ているところもある。
御大自らヴォーカルをとる部分も多いようだが、芸風がベラスキスと変わらないため、すぐには区別がつかない。
その美声にして血圧極大のように力み返る歌唱スタイルは、エマニュアル・ブーズやケベックの BREGENT らと同系統であり、ここが出発点というよりは、おそらくシャンソンのスタイルに端を発してデフォルメを効かせたものなのだろう。
クラシカルなピアノなどがヨーロッパらしい気品や音楽として構築的に均整の取れたイメージも示している。
なににせよジャジーでタイトなロックとしての完成度は高まり、聴きやすさという点でも優れた好作品というべきだ。
ベーシストとキーボーディストに関しては明確なメンバークレジットがないが、他サイトの情報によると上記のとおりということになっている。
意図的な偽名使用なのかどうかは不明。
アルバム・ジャケットはもちろん H.R.ギーガー。
「The Last Seven Minutes(1970-77, Phase I)」(7:00)
「Spiritual(Negro Song)」(3:17)
「Rind-ë(Eastern Song)」(3:07)
「Lirïïk Necronomicus Kanht(In Which Our Heroes Ürgon And Gorgo Meet)」(4:59)
「Maahnt(The Wizard's Fight Versus The Devil)」(5:29)
「Dondai(To An Eternal Love)」(7:59)
「Nono(1978, Phase II)」(6:17)
(EURODISC 913 213 / VICP-61662)
Klaus BLASQUIZ | vocals, percussion | Louis TOESCA | trumpet |
Teddy LASRY | sax, flute | Jeff SEFFER | tenor sax |
François CAHEN | piano | Francis MOZE | bass |
Christian Vander | drums, vocals |
96 年発表のアルバム「Concert 1971 Bruxelles - Théâtre 140」。
アーカイヴ作品。
1971 年 11 月ベルギー、ブリュッセルでのライヴ録音。
「1001°Centigrades」期のライヴ。内容は、充実の管楽器セクションを擁する「フリージャズ系ジャズロック」。
扇動的で高揚感あふれる圧巻の演奏である。
フリージャズの薫陶を受けた芸風には、「攻撃的にしてナンセンス」という VdGG との共通点もあり。
CD 二枚組。
「Stoah」(5:23)第一作より。MAGMA の「異常さ」を代表する作品。
「Kobaïa」(7:24)第一作より。英語で歌っている。
「Aïna」(6:17)第一作より。
「Riah Sahiltaahk」(19:09)第二作より。大怪獣誕生直前の奇怪な蠢動の如き変幻自在の傑作。
「«Iss» Lanseï Doïa」(11:20)第二作より。怒涛のドラムス乱れ打ち。トランペットが新鮮。
「Ki Ïahl O Lïahk」(9:36)第二作より。序盤はスットコドッコイ感満載。終盤はシャープなジャズロック。カーンのエレピがカッコいい。
「Sowiloï (Soï Soï)」(6:58)SOFT MACHINE 系変拍子チューン。だんだん変になる。
「Mekanïk Kommandöh」(17:19)第三作の原型。変拍子ジャズロックから「念仏コーラス」への過渡的作風。
(AKT VIII)
Klaus BLASQUIZ | vocals, percussion | Claude OLMOS | guitars |
Michel GRAILLIER | Fender Rhodes, keyboards | Gérard BIKIALO | Fender Rhodes |
Jannik Top | bass | Christian Vander | drums, vocals |
99 年発表のアルバム「BBC 1974 Londres」。
アーカイヴ作品。
1974 年 3 月イギリス BBC ラジオ放送用音源。
「Kohntarkosz」期(ギタリスト脱退前)のライヴであり、管楽器なしでフェンダーローズを多用したエレクトリック・ジャズ・スタイルである。
「Theusz Hamtaahk」(29:59)幻の第一楽章。
巻き舌とエレクトリック・ピアノのワンノートで呟かれる呪文と男娼のように妖しいサイレンの誘い、弾け飛ぶ神経線維のようなベースのフラジオも現れて、邪教の祈祷と化す。
ミュージック・コンクレート風の序章からミニマル・ミュージック的展開を経て、抑制の果て、凶暴なる巨像が立ち上がり、走り出す。
当然ながらリズム・セクションとヴォイスが主導。ギターはアクセント。
終盤数分間の弩変態なグルーヴに降参。
「Kohntarkosz」(27:26)「Hamatai!」ステラ・ヴァンデ不在を逆手に取るように、暴虐の限りを尽くす演奏からマイルス・ディヴィス的な濃密な幻想美と重厚さが立ち昇る名演である。
(AKT XIII)
Stella Vander | vocals, percussion | Isabelle Feuillebois | vocals |
Himiko Pagnotti | vocals | Antoine Paganotti | vocals |
James Macgaw | guitars | Emmanuel Borghi | piano, Fender Rhodes |
Frëderic D'oelsnitz | piano, Fender Rhodes | Philippe Bussonnet | bass |
Christian Vander | drums, percussion, vocals |
2004 年発表のアルバム「K.A (Kohntarkosz Anteria)」。
再結成 MAGMA によるスタジオ第一作。
1972 年に書き上げられ、長年練られてきた作品である。
作品の位置づけは、「Kohntarkosz」と「M.D.K」の "ミッシング・リング" であり、「Emehnteht-Re」(次作として発表された)につながるものそうだ。
内容は、混声コーラスを大きくフィーチュアした宗教儀式的な高揚感あふれるシンフォニック・ミュージック。
現代的なクリアーさ、明快さを加味した正調 MAGMA 節である。
サウンド面ではエレクトリック・ジャズを志向するが、器楽のスタイルはソロを大きくフィーチュアしつつもジャズ、ジャズロックからは微妙にずれているようだ。
トータルで見ると、ビートを強調したコラール付き室内楽というべき音だ。
決めどころでオペラ風の混声コーラスを中心に一点集中して加熱するトゥッティがそう思わせる一因だろう。
邪悪さを超越して無限の自己肯定に基づいた、宗教的で光輝でなおかつ病的な清潔感にあふれる作風である。
ブルーズ・ロック風のオールド・ロック・テイストも散見され、気まぐれなモダン・ジャズ風のインサートもある。
ベースの唸りや音数勝負のドラミングなど、とにもかくにも MAGMA らしい音を駆使している。
やはり、「Kohntarkosz」と「M.D.K」の変奏曲ととらえるのが正しそうだ。
「K.A I」(11:13)巻き舌女声コーラスが扇動するアッパーな呪術系変拍子ジャズロック。
徹底したテナー、ソプラノ反復合唱による高揚と陶酔。
全編を彩るスキャットはコラールとジャズ・ヴォーカルの嫡子である。
ベースは伝統的な MAGMA スタイルのトーンを使うが技巧は現代的。
緩徐パートのジャジーで涼やかな響きは新鮮。
緊張と弛緩の対比も効果的。
佳作。
「K.A II」(15:54)第一章で刻み込んだテーマを回想しつつ器楽アンサンブルを充実させ、目まぐるしい展開を繰り広げる。
ギターも活躍。
ザッパ風味も。
「K.A III」(21:51)前半の SOFT MACHINE 的な演奏はプログレ・ファンに訴えるはず。
(クレジットがないが、アナログ・シンセサイザーも使われているようだ)
ここではコーラスもゴスペル的なニュアンスが出てくる。
エンディングに向けてのエネルギッシュな演奏とハレルヤ連呼に胸熱になり、エピローグで衝撃を受ける。
(SEVENTH A XXXIV)