Frank Zappa

  アメリカ前衛ロックの最先端にして最高峰 「Frank Zappa」。 66 年のデビューから、THE BEATLES を筆頭にあらゆるミュージシャンが固唾を呑んで、一挙手一投足に注意を払ったミュージシャンズ・ミュージシャン。 希代の音楽家にして希有なギタリスト。 もっと長生きしてほしかったですね。

 Uncle Meat
 
Frank Zappa guitars, low grade vocals, percussionRay Collins swell vocals
Jimmy Carl Black drumsRoy Estrada bass
Don Preston electric pianoBilly Mundi drums
Bank Gardner windsIan Underwood keyboards, winds, percussion
Artie Tripp drums, percussionEuclid James winds, percussion
guest:
Ruth Komanoff marimbaNelcy Walker soprano

  69 年発表の「Uncle Meat」。 THE MOTHERS 名義の作品。 内容は、管楽器や鍵盤打楽器が特徴的なジャズロック。 本アルバムの作品の大半は、同名映画のサウンドトラック用として用意された。(映画は未完のままオクラ入り) 若き天才作曲家らしく、ノスタルジックなサウンドやダイアローグをコラージュしつつもテーマは親しみやすく、ときに美しく、それでいて近現代クラシック影響下、音が幾何学模様を成すように精緻なアンサンブルを組み上げている。 変拍子やポリリズム、不協和音やミニマリズムも大胆に取り入れられている。 フリージャズ的な管楽器の即興演奏を変拍子のリズム・セクションが支えるところが新鮮だ。 毒気のあるユーモアもあるが、後の作品と比べるとまだおとなしいと思う。 「真剣なジョーク」または「真面目に不真面目」、「テクニカルにしてバカ」、「抜群の審美センスと下品さの同居」といったファクターは、英国気質とのみごとな整合性を見せ、そのままカンタベリー・シーンへと連なってゆく。- たとえば、ジャズロック組曲「King Kong」は SOFT MACHINE に影響を与えているはず。 LP 二枚組。 CD になってから、映画用の音声からの抜粋(40 分あまり)が追加された。 インストゥルメンタル好きのカンタベリー・ファンには絶対のお薦め。

(RYKODISC RCD 10506/07)

 Hot Rats
 
Frank Zappa guitar, octave bass, percussion
Ian Underwood piano, organus maximus, flute, all clarinets, all saxes
guest:
Captain Beefheart vocals(2)Sugar Cane Harris violin(2,5)
Jean Luc Ponty violin(6)John Guerin drums(2,4,6)
Paul Humphrey drums(3,5)Ron Selico drums(1)
Max Bennett bass(2,3,4,5,6)Shuggy Otis bass(1)

  69 年発表のソロ・アルバム「Hot Rats」。 ザッパの意図を忠実に実現する盟友イアン・アンダーウッドら、多彩なゲストとともに生み出したジャズロック大作。 フリージャズのブレイクスルーという方向からの、いわゆる "クロスオーヴァー" ではなく、ザッパの好きなビッグ・バンド・ジャズとノスタルジックなオールディーズ、ドゥワップに現代音楽的なアンサンブルをミックスし、ロックのビートとグルーヴで打ち出した、きわめて独特の作風である。 前作「Uncle Meat」のインストゥルメンタル部分を拡充して小粋に仕上げたといってもいいだろう。 管楽器とヴァイオリンはあでやかに迫り、リズム・セクションは生命力にあふれて躍動し、ギターは奔放な知性のままに自由闊達に暴れまわる。 詩的にして豊穣なる音をたっぷりと味わえる大傑作であり、音楽の無限性を感じさせる超越的な作品である。

  「Peaches En Regalia」(3:37) 弾けるようなタム回しから、イントロはギターのトレモロと、湧き上がるようなピアノが切なく歌う。 テーマはギター、オルガンのユニゾンである。 ノスタルジックでいい感じのメロディだ。 応ずるは、2 本のサックスによる愛らしいハーモニー。 続いて、アコースティック・ギターとフルートによるオリエンタルなアンサンブル。夢見るような世界を紡ぎだす。 ギターのオブリガートには、クラシカルにしてキュートなオルガンが応酬。 再びサックスのハーモニー。 今度は、クラリネットによるクラシカルなフレーズが受け止める。 最後のテーマは、エレクトリック・ピアノ、クラリネット、オルガンが、華やかなオブリガートで彩る。
  メロディアスでリリカルなテーマを巡り、管楽器、オルガン、ギターのトレモロらが織りなす芳醇なるアンサンブル。 力強くも妖しく、無垢なようでグルーヴィ、目が眩みそうな音の万華鏡世界だ。 胸をしめつけるような郷愁を生み出す奇跡のインストゥルメンタルであり、英国のカンタベリー一派はこの音に相当感動したはず。 大傑作であり、ザッパの代表曲の一つ。

  「Willie The Pimp」(9:16) ザラついたヴァイオリンのバッキングにダミ声ヴォーカルが唸るオープニング。 ヴァイオリンからワウの効いたギターへ。 ヴォーカルは奇声を上げる。 ファンキーにして機械のようなビートを放つドラムスとベースがグルーヴィなリフを打ち出し、その上で、ギターは明るい音色を使ってライト・ブルーズ風のアドリヴをうねうねと続ける。 サイケデリックにしてジャジーな、華のある演奏だ。 再びヴァイオリンとギターのユニゾン・リフへと収束して終る。
  ワウ・ギター・ソロをフィーチュアしたエンドレスのブルージーなジャズロック。 唯一のヴォーカル・ナンバーである。 カッタるくズルズルしたギター・プレイを、休みなくこれでもかとばかりに見せつける。 引き締ったリズムは、そのまま昇天しそうなサイケデリック・ブルーズの世界に研ぎ澄まされた緊張感をもたらし、地上に繋ぎ止める。 このリズム/ビートのおかげで、ヒップホップ系のファンにも受けそう。 ギターは格好のサンプリング・ネタなのでしょう。 ヴォーカルはもちろんキャプテン・ビーフハート。

  「Son Of Mr.Green Genes」(8:58) ビッグ・バンド風のブラス・アンサンブルが提示するテーマが、スリリングかつ映像的なドラマを感じさせるオープニング。 幾重にもオーヴァー・ダブされ、エコーの効いた管楽器のタペストリのようなハーモニーが美しい。 スリリングなリズムとともに走るメロディアスなベースとギター。 管楽器とギターが絡む。 スケールをきらきらと駆け抜けるエレクトリック・ピアノとギターのインタープレイも華やかだ。 続いてブラスとオルガン、ギターのアンサンブル。 ギターの攻撃的なフレーズにサックスが応酬する。 ギターは、ブルージーだが軽快である。 オクターヴを活かしたベースのプレイが躍動感を生む。 ライド・シンバルを多用するドラムスもいい感じだ。 ギターはひたすら突っ走る。 ピアノの軽やかな演奏をきっかけに、オルガン、クラリネットなどさまざまにバッキングは変化するも、ギターは足取り軽く走り続ける。 ドラムスは、ひたすらシャープなリズムを叩きだす。 そして、エキサイトしたピアノとしなやかなギターが絡み、ロカビリー風の演奏がインサート。 再びスリリングなギター・ソロへ。 劇的なピアノのグリッサンド、そして、古い映画音楽を思わせる演奏とともにオープニング・テーマが復活する。 エンディングはブラス、オルガンが高らかに響き渡り、ピアノの和音が轟く。 シンフォニックな締めくくりだ。
  ビッグ・バンド・ジャズとロックがブレンドされた、華やかなジャズロック・シンフォニー。 芳しきメロディ・美しいハーモニーとともに、次々とスリリングな場面が展開する。 後半のサイケデリックなギター・ソロが、クライマックスだろう。 ビッグ・バンド歌謡調のテーマは、誰の耳にもなじむ普遍性をもつ。 エドガー・ヴァレーズよりもカステルヌォーヴォ・テデスコか。 1 曲目と 2 曲目を合わせたような豊かなオーケストレーションを堪能できる名作だ。 「Uncle Meat」の作品の快速続編。 インストゥルメンタル。

  「Little Umbrellas」(3:04) ピアノ、ダブルベース、ソプラノ・サックスらで一気にモダン・ジャズ寄りの演奏を見せるオープニング。 適度に緊張感ある上品なテーマは、ヨーロッパの映画音楽、いやカンタベリーの源流か。 ざわめくピアノによるあでやかなオブリガート、湧き上がるハモンド・オルガン、再び追いかけるピアノ。 キーボードを幾重にも重ねたアンサンブルが、細かな模様を描きながら暖かみのある音をつむぎ出す。 これはもうクラシックのアンサンブルだ。 リコーダーも交えた管楽器セクションによる分厚いテーマが流れを受け止めて、穏やかに静かに消えてゆく。
   エレクトリック・サウンドを絶妙にブレンドしたジャジーな管弦楽奏。 アンサンブルは緻密なのだが、どこまでも親しみやすく微妙な陰影があって魅力は深い。 郷愁を誘うメロディが美しい。 ザッパ氏はおそらくロマンティストなのでしょうね。 傑作。

  「The Gumbo Variations」(16:55) ギターによるテーマの提示を経て、前半は挑戦的なサックスのブロウがリード、7 分辺りからブルージーなフィドルをフィーチュア、それぞれソロのエンディング近くにはベーシストの見せ場を作り、最期はギターも乱入してハモンド・オルガンの轟音とともに幕を引く。 フロントのソロに引っ張られてリズム・セクションもいい感じで加熱してゆく。 ギターは、サックスやヴァイオリンに果敢に挑んでは流れを変える動機となっている。
   サックス、ヴァイオリン、ギターのソロ・パートもフィーチュアした、押しっぱなし走りっぱなしの 16 分の即興風変奏曲。 スリルに満ちた、わくわくするようなジャム・セッションである。 サックスに象徴される生命力あふれるフリー・ジャズに、小刻みに動くリフによってしゃっきっと引き締ったロックの魅力が注ぎ込まれ、すべてがクールに研ぎ澄まされる。 俯瞰すると、パワーがみなぎっていることが分かり、細部へ分け入ると、粋なカッコよさでいっぱいである。 テーマであるワンノートを強調したリフも魅力的。 明確かつ必要十分であること=カッコいいこと、といっているような作品です。

  「It Must Be A Camel」(5:15) 打楽器をフィーチュアした優美にしてダイナミックなジャズロック。 ここまでの作品同様ジャジーでデリケートな旋律を使いながらも、曲の骨格はポリリズミックにしてテンポも自在に変化させる、現代音楽的なものである。 そしてその野心的なアンサンブルを貫くのは、ザッパのへヴィなロック・ギターである。 管楽器による暖かみあるメロディがいい余韻を残す。
   音の連なりによる美と、その音がにじんで他の音と干渉しあった結果のゆらぎのようなものを重ね合わせたような作品である。 音をスコアから抜け出させ、自ら交わらせるような魔法を会得してるのかもしれない。 なんというか、音が自律しているのだ。 音質は異なるが、最初期の WEATHER REPORT を思わせるところもある、と考えると、やはりこの作品もカンタベリーの源流の一つなのだろうか。


  濃密にして豊穣なポップ・ミュージック。 サイケデリックなブルーズ・ロックと気品あるジャズと愛らしきクラシックが交歓する世界である。 きめ細かいビートとグルーヴ、そして幾重にも織り込まれた旋律が、とけあいながらも一つ一つの明確さを保ち続け、郷愁へと誘うユニークな美感を呈する。 インプロヴィゼーションに近いようだが、実際はスタジオにおいて緻密なパッチ・ワークが行われたのだろう。 ジャズロックというにはあまりに不思議な美しさと妖しさを湛えている。 時おり流れる映画音楽のような美しいメロディが印象的だ。 今まで聴いたことのない音楽です。

(RYKODISC RCD 10508)

 Waka/Jawaka
 
Frank Zappa guitars, percussionTony Duran slide guitar
George Duke electric & acoustic pianoSal Marquez trumpets, chimes, flugel horn, vocals
Erroneous bass, fuzz bassAynsley Dunbar drums, tambourine
Chris Peterson vocalsJanet Ferguson vocals
Joel Peskin tenor saxMike Altschul baritone & tenor sax, piccolo, bass flute, bass clarinet
Jeff Simmons Hawaiian guitar, vocals"Sneaky Pete" Kleinow pedal steel solo
Don Preston piano, Mini-moogBill Byers, Ken Shroyer trombone, bariton horn

  72 年発表のソロ・アルバム「Waka/Jawaka」。 内容は、ソロを大きくフィーチュアしたビッグ・バンド・スタイルの妖艶なるジャズロック。 THE MOTHERS に加えて、多くのジャズ・ミュージシャン(不勉強なので、ほとんど知らないです)をゲストに迎える。 スペイシーでサイケデリックな感覚とポップスのグルーヴの絶妙の均衡はこの人ならでは。 ジャズロックというスタイルを超えた新鮮な感動がある。 同時期のマイルス・デイヴィスとの音楽的/人的連関はどのようなものなのか、これからの研究課題です。 ジャケットもすばらしい。

  1 曲目「Big Swifty」(17:22) 冒頭、いきなり挑戦的な変拍子アンサンブルをぶつけてくる(リズム・チェンジもすごいです)が、その後は王道なるエレクトリック・ピアノ・ソロ、どうしたってマイルス・ディヴィスを思わせるトランペット・ソロ、ギターによるタフでエロティックなソロなど、ダウナーな混沌に不気味なエネルギーをはらむジャズロックが繰り広げられる。 演奏はおそらく即興主体。 抑制と放埓さのバランスが取れた寸止めの酩酊状態がいつまでも続くが、終盤の管楽器アンサンブルで眼が覚める。 屋台骨を支えるのは、ジョージ・デュークのエレクトリック・ピアノとダンバーのドラミング。 イアン・アンダーウッドの穴を埋めたサル・マルケスのトランペットが印象的。 インストゥルメンタル。

  2 曲目「Your Mouth」(3:12) LITTLE FEAT を思わせる(順序としては逆かもしれないが)ブルージーな歌ものソウル・ロック。 ルイジアナかどこか、アメリカの田舎を連想させる。 パンチのある女性コーラスがいい感じだ。 管楽器が丹念に混声のヴォーカルを彩ってゆく。

  3 曲目「It Just Might Be A One-Shot Deal」(4:16) ユーモラスなヴォードヴィル調スワンプ・ロック。 スライド・ギターがフィーチュアされる。 けだるい女声ヴォーカル、アジテーション、唐突なカントリー、ドウワップ、大勢のヴォーカルがおり重なるようなハーモニーなど人を食った場面展開を続け、ついにはウエスト・コーストの涼風吹き抜けるスライド・ギター・ソロ(クレジットによればトニー・デュランか)が炸裂。 リズムとともに曲調はめまぐるしく変化する。 トロンボーンの表現など、超絶なコミック・バンド(クレイジー・キャッツか)というイメージもあり。

  4 曲目「Waka/Jawaka」(11:18) 明朗な官能というべきエネルギーにあふれるビッグ・バンド・ジャズロック・インストゥルメンタル。 ブラス・セクションが提示するテーマのなんとカッコいいことか! この報道番組の OP になりそうなほどシャープでヒップなテーマで冒頭から一気に惹き込まれる。 テーマを継いで、天翔けるトランペット、異星人の独り言のようにスペイシーなムーグ・シンセサイザー、コミカルなのにヒステリックで厳めしくもカッタルいギター、ドラムスらの個性の強すぎるソロが次々と渡ってゆく。 軽やかに飛翔し、自在に華やかに舞い踊り、悩ましげな風情すら見せる。 クリアーなサウンド・メイキングにも感動。


  フランク・ザッパは偉大なギタリストにして偉大な作曲家/アレンジャーでもあった。 明快にして聴き心地のいい名曲ばかりであり、3 曲目のような不気味な捻りも冴えている。 そして、4 曲目は、スタンダードになっても不思議のない、ビッグバンド・ジャズ・フュージョンの快作。 心に届くモールス信号のようなギター・プレイの味わいは格別。 ともあれ、ジャズ/ジャズロック・ファン、特に、マイルス・デイヴィス、ギル・エヴァンス、NUCLEUSマイク・ギブス、ドン・エリス辺りのジャズ・オーケストラ・ファンは必聴。

(RYKODISC RCD 10516)

 The Grand Wazoo
 
Frank Zappa guitars, vocals
Janet Neville-Ferguson vocalsErroneous bassAynsley Dunbar drumsGeorge Duke keyboards, vocals
Bob Zimmitti percussionSal Marquez vocals, trumpetMike Altschul woodwindsEarl Dumler woodwinds
Tony Ortega woodwindsJoanne Caldwell McNabb woodwindsJohnny Rotella woodwindsFred Jackson woodwinds
Malcolm McNabb brassBill Byers tromboneEmie Tack brassAlan Estes percussion
Don Preston mini moogTony Duran slide guitar, guitarErnie Watts saxKen Shroyer trombone
Joel Peskin woodwindsLee Clement percussion

  72 年発表の「The Grand Wazoo」。 内容は、前作を洗練し、調和感あるビッグ・バンド・ジャズロック。 THE MOTHERS 名義の作品である。 サウンドは管楽器を大きくフィーチュアした暖色系の豊かなものであり、ノスタルジーの温もりあるメロディアスで親しみやすいテーマに続き、アグレッシヴにしてセクシーという魅力あふれるソロとキレのいいノリツッコミのようなインタープレイが次々と現れる。 ファンキーにしてクラシカルというなかなか得難い世界であり、好き勝手やっているようで全体には不思議な統一感がある。 この土曜日の昼下がりのような暖かみと穏やかさこそが、ザッパの作曲世界律なのだろうか。 ナチュラル・トーンにワウをかけたすべてを見渡しているようなギター・プレイももちろんカッコいい。 オリジナル LP では 1 曲目と 2 曲目が逆。
  主題は「5000 人の管楽器奏者、5000人のドラマー、5000人の電気楽器奏者を擁する皇帝 Cletus Awreetus-Awrightus と 5000 人の男性ヴォーカリストと...(めんどくさいので省略)を 10000 人の女性コーラス陣がバックアップする宿敵 Mediocrates Of Pedestrium が月曜日ごとに繰り広げる壮絶な音楽闘争、しかしすべてはアンクル・ミートの生み出した幻影?」。 今ならライヴ盤「Zappa Wazoo」もぜひ。

  「The Grand Wazoo」(13:19) ホーン・セクションをフィーチュアした、重厚で威風堂々としながらも軽妙洒脱なビッグ・バンド・ジャズロック傑作。 モダン・クラシックとブルージーなジャズ、ロックを、堅苦しさなど微塵も見せずにさらりとゆったりとまとめている。 そして、キュートで暖かくノスタルジックなテーマの妙。 アインズレイ・ダンバーの自信に満ちたビートも心地いい。 3:00 辺りのノリは PINK FLOYD の「Money」とどっちが先ですかね。 後半、そこまでとは対照的に即興パートで緊迫感が湧き上がっては雪崩のように崩れ落つ。(個人的には、即興初体験の KING CRIMSON を思い出した) 導き手となるトロンボーンのリリカルなソロ、狂言回し風のワウワウ・トランペットのアドリヴもいい。 エンディング付近の奇妙な音のソロは管楽器ではなくムーグだろうか。 豊麗にオーソドキシーを極めた名品である。

  「For Calvin」(6:06) けだるい対話のテーマが導くユーモラスかつスリリングな即興器楽。 ノイジーな集団即興や無調風のテーマなどは間違いなくカンタベリーの原点。 即興を経て無調変拍子のテーマを提示するブラス・セクション、そして SF コメディ映画の OST のようにエネルギッシュかつナンセンスな後半から終盤の展開もおみごと。 なんだかんだいって音のテクスチャは映画音楽のように美しいからすごい。 冒頭部の力の抜け具合には GONG と共通する味わいあり。 ザッパらしい「コワいユーモア」や現代音楽的なセンスがサラリとふりかけられている。

  「Cletus Awreetus Awrightus」(2:57) ふざけながらもクレオール、ニューオリンズなテイストを盛り込んで上品にまとめたインストゥルメンタル小品。 暖かみと懐古風味のあるテーマの抜群の存在感など、1 曲目のビッグ・バンド・ジャズのエッセンスを凝縮したイメージである。 目まぐるしい展開が実際の倍くらいの長さに感じさせるアレンジのマジック。 自分で TV 番組を制作するとしたら、この曲をテーマソングにしたいです。 どこか無礼で変なスキャットもすてき。

  「Eat That Question」(6:42)ガッツあふれるヘヴィ・ジャズロック。 シンセサイザーが提案するブルージーでかったるくもカッコいいテーマを全員でぶちかました後は、エレクトリック・ピアノとシンセサイザーが交互にリードする RETURN TO FOREVER のような「ジャズロック」へ。 ドラミングとキーボードがリードするあまりにスリリングなアンサンブルを陶然と見守るのみ。 壮絶なバトルである。 後半、エレクトリック・ピアノを受け止めて応戦を引き継ぐザッパのギターもテンション高くカッコいい。 ダンバーのドラミングがロバート・ワイアットに聴こえてしまう箇所も。 破断を経て復活するテーマの邁進、そして祝祭的なエネルギーとともにシンセサイザーが朗々と高鳴る。 そのプログレ・ノリはほとんど中後期の EL&P。 マイルス・ディヴィス、RETURN TO FOREVERMAHAVISHNU ORCHESTRA に対する、ロックからの軽妙で、不敵で、粋な返礼である。

  「Blessed Relief」(7:59) ソフトなテーマが心地よいジャジー・チューン。 「フュージョン」といっても違和感はない。 優しくファンタジックなオープニングからバカラックや THE CARPENTERS を思わせるテーマへの展開など、遅く起きた日曜日の朝にラジオから流れてきそうな作品だ(ってゆーか、FM の「Crossover Eleven」かなんかのエンディングでしたっけ)。 ここでも、前半のエレクトリック・ピアノがさりげなく支えるトランペットのソロが印象的。 中盤は午睡の夢を彩るようなメローでひそやかなエレクトリック・ピアノのアドリヴ。 さらに後半のエレアコにワウをかけたようなトーンのギターも不思議な後味を残す。 このメロディアスで暖かみあるテーマの味わいは、カンタベリー一派に影響を与え、さらにはそのカンタベリーから影響を受けたアメリカのインディ系のアーティストにまで鳴り響いていると思う。 最終パートで裏を取るシンセサイザーやフルートのセンスがすばらしい。 初夏の休日、ほんのり汗ばんだからだを和ませる気だるくも心地よい風のような音である。

(RYKODISC RCD 10517)

 Roxy & Elsewhere
 
Frank Zappa guitars, vocalsGeorge Duke keyboards, synthesizers, vocals
Tom Fowler bassRuth Underwood percussion
Jeff Simmons guitars, vocalsDon Preston synthesizer
Bruce Fowler trombone, dancing(?)Walf Fowler trumpet
Napoleon Murphy Brock flute, tenor sax, vocalsRalf Humphrey drums
Chester Thompson drums

  74 年発表の「Roxy & Elsewhere」。 73、74 年のツアーから録られた LP 二枚組ライヴ盤であり、卓越した演奏力を誇示する屈指の名盤。 ザッパ流のファンクで黒っぽい擬ジャズロックが堪能できる。 きわめてテクニカルで緻密な演奏が続くにもかかわらず、オーディエンスを巻き込む最終面に象徴されるように、どこまでも珍妙奇天烈で、エンタメノリに徹している。 プログレ・ファンは、5 曲目「Echidna's Arf(Of You)」から 6 曲目「Don't You Ever Wash That Thing?」への急展開で悶絶でしょう。 また、怪獣映画話 MC (「制作費がかかってないほど名作」という持論や珍品「金星人地球を征服」に言及)に続く 7 曲目「Cheepnis」は、MAGMA ファンにも聴いていただきたい。 わたしは、オープニングのザッパの MC と「Village Of The Sun」が大好きです。 LP 二枚組。

  「Penguin In Bondage」(6:47)不気味な予兆の如きオープニング・ナンバー。ギター・ソロを大きくフィーチュア。

  「Pygmy Twylyte」(2:13)管楽器を活かしたしなやかな小品。ヤクザなヴォーカルとともに、アンダーウッドのパーカッションが冴える。

  「Dummy Up」(6:03)マーフィ・ブロックのいかにも黒人なヴォーカルがリードする R&B ファンク・チューン。 中間部は、ジョークらしい会話とザッパの MC が続く。3:50 からのギターがカッコいい。小刻みなコード・カッティングはジェフ・シモンズ?

  「Village Of The Sun」(4:17)ダミ声ヴォーカルにもかかわらず、心地よくオプティミスティックな雰囲気のある作品。 汗臭いソウル・ミュージックとソフトなポップスのバランスいい融合。

  「Echidna's Arf (Of You)」(3:53)コミカルにして超絶なエンディングから次曲へと雪崩れ込む。

  「Don't You Ever Wash That Thing」(9:40)前曲から繰り広げられる目のくらむような変拍子アンサンブル。しかし美しい。歌詞はセクハラ。終盤はタフでクールなグルーヴのある名演奏。

  「Cheepins」(6:33)

  「Son Of Orange County」(5:53)

  「More Trouble Every Day」(6:00)

  「Be-Bop Tango (Of The Old Jazzmen's Church)」(16:40)

(RYKODISC RCD 10520)

 One Size Fits All
 
Frank Zappa all guitars, lead vocals on 4,6,9, backing vocalsGeorge Duke all keyboards & synthesizers, lead vocals on 1,8,9, backing vocals
Napoleon Murphy Brock flute, tenor sax, lead vocals on 5,8, backing vocalsChester Thompson drums, gorilla victim
Tom Fowler bassRuth Underwood vibes, marimba, other percussion
James "BIRD LEGS" Youman bass on 2Jonny "GUITAR" Watson flamble vocals on the out-choruses of 7,8
Bloodshot Rollin' Red harmonica

  75 年発表の「One Size Fits All」。 THE MOTHERS OF INVENTION 名義の作品。 内容は、ザッパ一流のパワフルなハード・ジャズロック。 ヘヴィかつメタリックなギター・ソロの脇をブラス、キーボード、マリンバらがしっかりと固め、なめらかな音の印象とは裏腹に堅固にして超ダイナミックなアンサンブルを作り上げる。 ユーモラスにして俊敏、強情にして軽快、アヴァンギャルドでノスタルジックという、きわめてゴージャスなサウンドだ。 ナンセンスな歌詞に乗せて飛びきりのギター・ソロやクールなハイテク・アンサンブルが惜しげなく繰り広げられる音楽の遊園地(もちろんシビアな大人向け)というべき ZAPPA ワールドである。 1 曲目から超絶的な快速変拍子アンサンブルが全開で息を呑み、ポップな聴き心地と胸キュンなロマンにも心揺さぶられる。 ロックのアルバムを代表する一枚といっていいでしょう。 「万物同サイズの法則」という邦題がついていますが、英語の意味は衣類の「フリーサイズ」こと。 もっとも、だからといってこの邦題の奇天烈な味わいが損なわれるわけではないけど。

  「Inca Roads」(8:45) ヴァイブのリードによるオープニング、そして、変態っぽいファルセット・ヴォイスによって一気に引きずり倒されるファンクな「フュージョン」の名作。 粘っこいのに爽やかで、ひっくり返ったリズムなのにダンサブル。 ワウを駆使したギター・ソロもメロディアスかつグルーヴィ。 超カッコいいです。 プログレらしさ満点のシンセサイザー・ソロもグー。 そして最後の 3 分間、超絶五段変則アンサンブルが走りに走りに走る。 お洒落でジャジーで坂道を上に向けて転がってゆくようなパワーを誇示する、豪華絢爛問答無用の名作。 じつは、こういう曲に出会えるから、いつまでもロックを聴くのです。 ギター・ソロは名高いライヴ「ヘルシンキ」の録音。 ルス・アンダーウッドの超速マリンバもカッコいい。

  「Can't Afford No Shoes」(2:38) ヘビメタ・ギターが唸りを上げるロックンロール。 完全にイっているヴォーカル・ハーモニー。 ギターはすばらし過ぎ。 濃密である。 景気がいいのか悪いのか。

  「Sofa No.1」(2:40) ピアノを中心にシンセサイザー、ギター、マリンバが繰り広げる、メロディアスかつドラマチックなインストゥルメンタル。 メロディと音色を丹念に織りあわせた、スケール大きな美しさも、ザッパの持ち味の様だ。 「Peaches En Regalia」を思わせる佳作。 胸を打つアメリカン・ノスタルジーの響きあり。

  「Po-Jama People」(7:39) ギター、ジャジーなピアノをフィーチュアした AOR 調のブルーズ・ロック。 ヴォーカルはザッパ、猥褻低音ドゥワップ・ヴォイス。 イントロを経て、リズミカルに動き出す瞬間のグルーヴ。 死人も甦りそうだ。 「ヘンーニャニャニャ、ホイホイホイ」なんてコーラス、他に誰が演る? 長大なギター・ソロは、デタラメかも知れないのに、切れ味抜群。 スピードとスリル。 カッコよくて世間をナメてる傑作。 打楽器の超絶的なリズム、テンポの変化にも注目。

  「Florentine Pogen」(5:27) さまざまな楽器が織り成す分厚い流れが、変幻自在の動きを見せる、シンフォニックな歌もの。 イージー・リスニングのようで、ビッグ・バンド・ジャズのようで、クラシックのようで、どれでもない。 波に揺られるようなメロディアスな心地よさがあり、パワフルに気勢も上がるも、どこまでもフザケているようであり、オブリガートは気まぐれ、ハーモニーは変態。 このうねりというか、確信に満ちた「ノリ」をなんと説明しよう。 一夜にして金持ちにのし上がったような気がする傑作である。 ヴォーカルはナポレオン・ブルック。

  「Evelyn, A Modified Dog」(1:05) チェンバロ伴奏によるザッパの一人語り。 ノスタルジックな暖かみ、エゲツナイ歌詞。

  「San Ber'dino」(5:57) 得意のローカル・ネタによる小噺風カントリー・ロック。 キーボード主体の粋なジャズロック・テイスト、ギターやハーモニカによる武骨なハードロック・テイストのブレンド。 ギター・リフが冴える。 ヴォーカル・ハーモニーは、分厚く塗り込まれて脂ぎる。 ネバネバした DOOBIE BROTHERS みたいです。 後半、ディストーション・ギターをバックに、パワフルにがなるヤクザっぽいジョニー・「ギター」・ワトソンがすてき。

  「Andy」(6:03) R&B、ロックンロールの姿を借りたシャープな現代音楽の名作。 魔術的パッチワークもしくは臨界点的コラージュというべきであり、ジャンク・アーティストの面目躍如である。 スピードあふれる変拍子アンサンブルは、人知を超える。 ここでもシンセサイザー・サウンドを主に、キーボードが効果的に使われている。 テクニカル・チューンとして、代表作の一つ。

  「Sofa No.2」(2:38) ドゥワップとドイツ・リートが交ざったような歌ものシンフォニック小品。 息み返るヴォーカルはドイツ語。


   現代というゴチャゴチャな時代を象徴するように雑多な音が詰め込まれ、それでいて、豊かな情報と音色が有機的に生き生きと織り上げられている大傑作。 古びることのない豊穣なるロックであり、遊んでいるのに隙がないという達人の技です。 70 年代には奇跡がいくつか起こったそうですが、この音を聴くとそれを信じる気になります。

(RYKODISC RCD 10095)

 Zoot Allures
 
Frank Zappa guitars, bass, synthesizer, lead vocalsTerry Bozzio drums
Davey Moire lead vocals, backing vocalsAndre Lewis organ, vocals
Roy Estrada bass, vocalsNapoleon Murphy Brock sax, vocals
Ruth Underwood synthesizer, marimbaDonnie Vliet harmonica
Ruben Ladoron de Guevara backing vocalsDave Parlato bass
Lu An Neil harpSharkie Barker backing vocals

  76 年発表の「Zoot Allures」。 内容は、ダークでアグレッシヴ、魔術的な面が強調されたテクニカル・ヘヴィ・ロック。 諧謔と皮肉に満ちた言語表現を卓越したグルーヴで支える音楽的な高級感のある作品だ。 ザッパらしい、蛇が出てきそうな手癖全開のギター・プレイが堪能できる。 楽曲ごとのメンバー・クレジットからすると、主としてザッパ氏とテリー・ボジオの二人によって製作されたようだ。 キレすぎるボジオのドラミングがアルバムを包む凶暴で切迫したムードによく合っている。 この二人のみの演奏もあり、「黙ってギターを弾いてくれ」と同じく、ザッパ氏のプレイに注力して聴けるアルバムということもできる。
  唯一の来日公演を経て発表された。 大阪公演のライヴ録音による「Black Napkin」は名演。 メタリックで狂的なブルーズ・ギター・プレイと饒舌で挑発的なドラミングによる濃密な音空間。 タイトル曲は凶暴なのにジャジーで人懐こいリゾート・ミュージック。

  「Wind Up Workin' In A Gas Station」(2:29)
  「Black Napkins」(4:15)
  「The Torture Never Stops」(9:45)
  「Ms. Pinky」(3:40)
  「Find Her Finer」(4:07)
  「Friendly Little Finger」(4:17)KING CRIMSON 的な緊迫感のあるインストゥルメンタル。
  「Wonderful Wino」(3:38)
  「Zoot Allures」(4:12)
  「Disco Boy」(5:09)

(RYKODISC RCD 10160)

 Zappa In New York
 
Frank Zappa conductor, lead guitars, vocals Ray White rhythm guitar, vocals
Eddie Jobson keyboards, vocals, violin Patrick O'Hearn bass, vocals
Terry Bozzio drums, vocals Ruth Underwood percussion, synthesizer, various humanly impossible overdubbs
Don Pardo sophisticated narration David Samuels timpani, vibes
Randy Brecker trumpet Mike Brecker tenor sax, flute
Lou Marini alto sax, flute Ronnie Cuber baritone sax, clarinet
Tom Malone trombone, trumpet, piccolo  

  77 年発表の「Zappa In New York」。 76 年のニューヨーク公演より。 内容は、グラマラスでテクニカルなザッパ流フュージョン・ミュージック。 モダン・ロック的なサウンドが産声を上げた時代の最先端を、60 年代より一貫する独自の感性をフル回転させてやりたい放題駆け回る。 その音楽は、抜群のリズムのキレとカラフルなブラス・セクションを巻き込む豊かなサウンドによる下品な音の万華鏡としかいいようがない。 実験音楽まがいの超絶アンサンブルがあると思えばナンセンスと脱力の極みのような馬鹿ブギーやスタイリッシュなジャズロックもあり、ザッパ先生の諧謔とヘソマガリはかわらず全開である。 レイ・ホワイトがマーフィー・ブロックやビーフハート氏の役割をみごとにこなす。 ライヴな楽しさとスタジオ盤のパラノイアックな緻密さが合体しています。 後の U.K. のメンバー二人(ジョブソンのムーグ・シンセサイザーのプレイはすばらしい)とブレッカー・ブラザースが参戦。 もちろん御大のギターもがっつり入ってます。
   LP に四曲追加で、CD 二枚組。 最近、一公演丸々追加の五枚組み完全盤があるようです。誰か Xmas プレゼントでください。

  「Titties & Beer」(7:36)グラマラスなブラス・ブギー。ラップみたいな歌唱とベシャリのハイブリッドな感覚って英語圏には普通なのかなと思った。得意の掛け合い漫才。
  「Cruisin' For Burgers」(9:12)名演。フリジアンなギター・アドリヴは怪しい宗教のお祈りっぽい、ていうかそもそも「それ」だ。
  「I Promise Not To Come In Your Mouth」(3:32)エディ・ジョブソンの星が降るようなアナログ・シンセサイザーにピート・バーデンスを見た。美しい曲にひでえタイトルをつけるのは照れ隠しですかね。
  「Punky's Whips」(10:50)軽やかな変拍子アンサンブルにうっとり。日曜の昼日中の妄想の如く、和むんだよなあ。これも名演。パンキー・メドウズ可哀想。初期 LP で発表されたがワーナーが訴訟を心配して再発 LP では削ったりもした。 そういえばグレッグ・ジフリアってメロトロン好きだよね。
  「Honey, Don't You Want A Man Like Me?」(4:12)
  「The Illinois Enema Bandit」(12:41)粘っこく邪悪な名演。漫才ですが。

  「I'm The Slime」(4:23)ファンク・ロック。
  「Pound For A Brown」(3:42)シンセサイザーが眩しい変拍子インストゥルメンタル。濃密。
  「Manx Needs Women」(1:50)管楽器を巻き込む超絶アンサンブル。
  「The Black Page Drum Solo / Black Page #1」(3:51)前曲のまま打楽器リードの超超絶ドラムス・ソロへ。チンドン屋だけで編成されたオーケストラのよう。鍵盤打楽器のトレモロが加わって後半の奇天烈アンサンブルへ。
  「Big Leg Emma」(2:17)ゴージャスなバカ・ロック。
  「Sofa」(2:56)ブレッカーのサックスがテーマをメロディアスに歌い上げる。感動。
  「Black Page #2」(5:36)シンセサイザーとマリンバがリードする技巧的で華麗なアンサンブル。「Peaches」のアップデート版という感じもする。無調のテーマによる現代音楽。
  「The Torture Never Stops」(12:35)名演。
  「The Purple Lagoon / Approximate」(16:40)ハイテンションのインプロヴィゼーション。序盤、7 拍子で突っ走るマイケル・ブレッカーがすんばらしい。

(RYKODISC RCD 10524/25)

 Sleep Dirt
 
Frank Zappa guitars
Dave Parlato bass
Terry Bozzio drums
Patrick O'Hearn double bass
Chester Thompson drums
George Duke keyboards
Ruth Underwood percussion
James "Bird Legs" Youman bass
Bruce Fowler brass

  79 年発表の「Sleep Dirt」。 内容は、ジャジーでまろやか、ゴージャスなサウンドにもかかわらずミステリアスで怪しい変拍子ジャズロック。 音の感触は名作「Hot Rats」の路線だが(75 年ごろには完成していた曲が主らしい)、曲調にはよりアグレッシヴで安定を拒否するような姿勢が反映されている。 抜群のキレを見せるリズム・セクションをしたがえ、管楽器を動員したビッグバンド風のカラフルで豊かなサウンドでひねくれた抽象画のような音楽を描き出しており、いわゆるプログレッシヴ・ロックにかなり近接した作風だと思う。 謎めいたムードは、ジョー・ザヴィヌルばりのエレクトリック・ピアノのプレイもさることながら、メタリックなサウンドでモーダルな、あたかも「モールス信号のような」ギター・プレイによるところが大きい。 ギターに引っ張られてキーボードや管楽器もエネルギッシュだがどこか無機的でアブストラクトなプレイを繰り広げる。 マリンバも健在。 初期の CD ではヴォーカル入りになっていた曲が本 CD ではオリジナル LP に近いインストゥルメンタル中心の編集になっている。
   ジャケットはゴジラを苦しめた公害怪獣「ヘドラ」。ザムザは芋虫だったけど、この人は「目やに」がたまり過ぎてヘドラになっちゃったんですかね。 当初四枚組として発表予定の作品がワーナーの要求で四つのアルバムに分割されて発表された。本作品はその三番目。

  「Filthy Habits」(7:33)ノイジーで終始不気味なムードのプログレ。ギターは変態。

  「Flam Bay」(5:02)ウッドベースとオスカー・ピーターソンみたいなピアノのジャズ。転がるマリンバ。ギターなし。

  「Spider Of Destiny」(2:54)小さいのに大きな曲。シンフォニーだ。

  「Regyptian Strut」(4:15)ビッグバンド・ジャズロックという「らしい」作品。

  「Time Is Money」(2:52)和声もリズムも現代音楽っぽいがギターのおかげで聴きやすい。つむじ風のようなリズム・チェンジにどことなくユーモアがあり、狷介なだけではないところがいい。

  「Sleep Dirt」(3:21)アコースティック・ギター・デュオ。アドリヴ交代かと思ったら終わり。「指が動かねえ」

  「The Ocean Is The Ultimate Solution」(13:20)やれるもんならやってみろ的な作品。とにかく蹴散らす。珍しく開放感あり。終盤のノリは津軽三味線か鬼太鼓座。

(DSK 2292 / ZR 3858)

 Orchestral Favorites
 
Frank Zappa guitars
Dave Parlato bass
Terry Bozzio drums
Emil Richards percussion
Michael Zearott conductor

  79 年発表の「Orchestral Favorites」。 内容は、管弦楽によるノスタルジックでハートウォーミングで実験的なシンフォニック・ジャズ/ロック。 「Hot Rats」、「Waka Jawaka」、「The Grand Wazoo」らの作風に管弦主導の現代音楽的な試みも交えた作品である。 ギターは当然として、得意の鍵盤パーカッションやベースのプレイも、しっかりと主張しながら同時にオーケストラと一体化もしている。 ここではバンドとオーケストラ、クラシックとロックなどといった区別にはすでにあまり意味がなく、単にそういう編成向けに作曲されたユニークな作品を効果的に演じているだけである。 特段現代音楽好きでなくとも、映画音楽と TV の番組テーマとジャズのビッグバンドを合わせたような内容なので、映画好き、テレビ好き、イージー・リスニング好きにはお薦めできる。 第一曲と第五曲は「200 Motels」の作品のリワーク・ヴァージョン。 全編インストゥルメンタル。ジャケットには「今日の作曲家は死ぬことを拒否している」というよく分からないエドガー・ヴァレーズの言葉がある。
   当初四枚組として発表予定の作品がワーナーの要求で四つのアルバムに分割されて発表された。本作品はその四番目。

  「Strictly Genteel」(7:04)原曲には歌があったことを容易にうかがわせるメロディアスでノスタルジックな傑作。

  「Pedro's Dowry」(7:41)不協和音、調性と拍子の剥奪など、典型的な現代曲。 ドシャメシャ感、ぶっ飛び感は一番。キース・ティペットのジャズ・オーケストラの陽性版。ただし、完全即興ではなくスコアありでしょう。

  「Naval Aviation In Art」(1:22)雅楽風のドローン。さすがヴァレーズに弟子入りしただけのことはある。前衛です。

  「Duke Of Prunes」(4:20)エレクトリック・ヴァイオリンをフィーチュアしたビッグバンド・ジャズロック。 「The Grand Wazoo」的。 強烈なフィードバックとアームを駆使したメタリックなサウンドが特徴的なギターも活躍し、管弦とヴィヴィッドに反応し合う。 カッコよさでは一番。 いつもながら、管弦のテーマ部は、歌謡曲っぽかったりハリウッド映画音楽っぽかったりする。それだけこなれた和声、旋律なのだろう。 ボジオのフィル、ロールのキレがじつにいい。

  「Bogus Pomp」(13:31)美しい旋律や和声を散りばめて即興風に自由奔放に展開する音楽絵巻的大作。 これはもはやクラシックでもジャズでもロックでもない、諧謔パロディ精神旺盛なるザッパ流交響楽。 あるいは、スリリングでカラフルな現代音楽。楽しいです。

(DSK 2294 / 0238602)

 Shut Up 'n Play Yer Guitar
 
Frank Zappa guitars
Warren Cucurullo rhythm guitarsDenney Walley rhythm guitarsIke Willis rhythm guitars
Steve Vai rhythm guitarsRay White rhythm guitars
Tommy Mars keyboardsPeter Wolf keyboardsBob Harris keyboards
Andrew Lewis keyboardsEddie Jobson keyboards
Arthur Barrow bassPatrick O'Hearn bassRoy Estrada bass
Ed Mann percussion
Vinnie Colaiuta drumsTerry Bozzio drums
Jean-Luc Ponty violin

  81 年発表の「Shut Up 'n Play Yer Guitar」。 81 年に独立した三枚の LP として通信販売のみで発表されたが、(結構売れたので急遽)翌年三枚組の作品として発表された。 内容は、ザッパのギター・ソロを大フィーチュアしたインストゥルメンタル曲集。 タイトル通り、黙ってワウワウ・ギターを弾き捲くっている。 ヴィニー・カリウタ、テリー・ボジオといった名ドラマーのサポートも完璧である。 スティーヴ・ヴァイ、ウォーレン・ククルロら名ギタリストの弟子たちにとっては本パフォーマンスは修行の一環にあたるのだろう。 ドラムスとリード・ギターが強調されたミックスになっており、そのやり取りの呼吸がはっきり分かるようになっている。 ハードロックでもフュージョンでもニューウェーヴでもない心地よい呪文のような音楽であり、トリップできること受け合い。 未知の金属の振動音のような独特のトーンと抽象的ワールド・ミュージックとでもいうべき個性的なアドリヴを中心に、独創的な想像力とユニークな世界律のままに音楽が紡がれてゆく。
   三枚のディスクには、それぞれ以下のタイトルがつけられている。
  
  「Shut Up 'n Play Yer Guitar」いきなりハイ・テンションの 1 曲目「five-five-FIVE」、壊れたフュージョンの 4 曲目「While You Were Out」がお気に入り。5 曲目「Treacherous Cretins」はレゲエ。6 曲目「Heavy Duty judy」のギターはロバート・フリップに似る。安定感ある 7 曲目「Soup'n Old Clothes」。
  
  「Shut Up 'n Play Yer Guitar Some More」アラビア風味(なんとかモード)からプログレ臭漂う 3 曲目「Canarsie」。 緊張感がいい 4 曲目「Ship Ahoy」。 楽曲として完成された 5 曲目「The Deathless Horsie」。 6 曲目「Shut Up 'n Play Yer Guitar Some More」はリラックスした感じでザッパらしさを目いっぱい引き出す。 歓声が沸きあがる 7 曲目「Pink Napkins」はスロー・テンポでジャジーかつブルージーなギターが彷徨う。
  
  「Return Of The Son Of Shut Up 'n Play Yer Guitar」タイトルは「ゴジラの息子」的なギャグか。

(RYKODISC RCD 10533/34/35)

 You Can't Do That On Stage Any More VOL.2
 
Frank Zappa guitars, vocals
Napoleon Murphy Brock sax, vocals
George Duke keyboards, vocals
Ruth Underwood percussion
Tom Fowler bass
Chester Thompson drums

  88 年発表の「You Can't Do That On Stage Any More VOL.2 」。 1974 年 9 月 22 日のフィンランド、ヘルシンキでのライヴ録音。 妙な言い方だが「演奏重視」の内容であり、その上ライヴならではの疾走感も申し分ない。 目まぐるしくも麗しく精緻にして逞しい演奏は、いわばロック・ミュージックに命を吹き込む魔法使いのパフォーマンスだ。 グループとしての絶好調期の録音であり、「Roxy & Elsewhere」ファンは必携。 (「Echidna's Arf」でももう一度泡を吹けます) スタジオ版「Inca Roads」の編集元はこのライヴ録音のもの。
  フランク・ザッパ氏は、ロック・バンドを器楽アンサンブルとして見た場合の性能や機能を、ごく当たり前なカッコよさやナンセンス具合を損なうことなく、極限まで突き詰めることを目指しているようです。

  「Tush Tush Tush (A Token Of My Extreme)」(2:48)
  「Stinkfoot」(4:18)
  「Inca Roads」(10:54)
  「RDNZL」(8:43)
  「Village Of The Sun」(4:33)
  「Echidna's Arf (Of You)」(3:30)
  「Don't You Ever Wash That Thing?」(4:56)
  「Pygmy Twylyte」(8:22)
  「Room Service」(6:22)
  「The Idiot Bastard Son」(2:39)
  「Cheepnis」(4:28)

  「Approximate」(8:11)
  「Dupree's Paradise」(23:59)
  「Satumaa (Finnish Tango)」(3:51)
  「T'Mershi Duween」(1:31)
  「The Dog Breath Variations」(1:38)
  「Uncle Meat」(2:28)
  「Building A Girl」(1:00)
  「Montana (Whipping Floss)」(10:15)
  「Big Swifty」(2:16)

(RYKODISC RCD 10563/64)

 Imaginary Diseases
 
Frank Zappa conductor, guitars, vocals
Malcolm McNabb trumpet
Gary Barone trumpet, flugelhorn
Tom Malone tuba, sax, piccolo trumpet, trumpet
Earl Dumler woodwinds
Glenn Ferris trombone
Bruce Fowler trombone
Tony Duran slide guitar
Dave Parlato bass
Jim Gordon drums

  2006 年発表の「Imaginary Diseases」。 「Petit Wazoo」といわれる小編成のホーン・セクションを帯同した 72 年のツアーからのライヴ録音。 内容は、ホーンをフィーチュアしたジャズ・オーケストラ風のジャズロック。 ごく自然な、なめらかなタッチで、ブルーズ・ロックもあれば、クラシックもあれば、フュージョンもあるという得意の作風である。 序盤で目一杯ホーン・セクションの音を紹介して、その後卓越したロック・バンドを登場させるニクイ演出。 暖かみのあるホーン、ナチュラル・トーンのつややかなギター、まろやかな木管楽器など、ぜいたくな音遣いだ。 管楽器はテーマ・パートでもアヴャンギャルドなソロ・パートでも抜群の存在感を示し、音楽を溌剌と躍動させている。

  「Oddients」(1:13)
  「Rollo」(3:21)
  「Been To Kansas City In A Minor」(10:15)
  「Farther O'Blivion」(16:02)
  「D.C. Boogie」(13:27)冒頭の催眠術的なギター・ソロからブラス・セクションへの展開がカッコいい。
  「Imaginary Diseases」(9:45)
  「Montreal」(9:11)

(ZR 200001)



  close