イギリスのジャズロック・グループ「NUCLEUS」。 69 年トランペットのイアン・カーを中心に結成。 70 年代を通して活動する。 マイルス・デイヴィスの影響を受けつつも独自なセンスを貫いた、革命的な英国ジャズロックの筆頭グループ。 ロック・ファンのためのジャズ入門であり、ジャズ・ファンのための英国ロック入門である。 2009 年 2 月イアン・カー逝去。
Ian Carr | trumpet, flugelhorn |
Karl Jenkins | baritone sax, oboe, piano, electric piano |
Brian Smith | tenor & soprano sax, flute |
Chris Spedding | guitar |
Jeff Clyne | bass, electric bass |
John Marshall | drums, percussion |
70 年発表の第一作「Elastic Rock」。
トランペット、エレクトリック・ピアノ、ギターらによる静謐なアンサンブルを中心としたジャズロック・アルバムである。
謎めいた静けさと神秘性が特徴であり、ギル・エヴァンスのオーケストラやエレクトリック・サウンドを導入したマイルス・デイヴィスの音楽に強く影響された内容だ。
特徴は、カール・ジェンキンズお得意の反復や英国のラリー・コリエルことクリス・スペディングのジャジーだが武骨なギター表現など。
ベースもストレートな 12 小節のブルーズ進行がロックっぽさを訴えている。
ジョン・マーシャルによる重みと敏捷さを兼ね備えたドラミングもジャズ・アンサンブルにおいては新鮮だったに違いない。
ホーンの二人のオーソドックスなプレイと比べると、ジェンキンズのオーボエは音色もプレイもいわゆるジャズというよりもクラシックのイメージが強い。
ジャズ的なホーンと、ロック的なギター、リズム・セクションのコンビネーションを基本としたアンサンブルは、一見メロディアスで穏やかなようでいて、そのすぐ裏側にはヒリヒリするような緊張感と噴出寸前のパッションが渦巻いていると思う。
音楽的なスタイルはほぼ電化マイルスだが、アドリヴのサイケデリックでアヴァンギャルドな面を強調したり、リフの上にホーンのロングトーンを幾重にも重ね合わせて肌理細かな色合いのグルーヴを生み出すところが個性ではないだろうか。
そのタッチには独特の陰影がある。
小品が多いアルバム構成は、実験的アプローチの成果をとりあえず提示しているのか、それともオムニバス調を狙ったと見るべきか。
個人的には、前者のような気がする。
仮に素材集だったとしても、これだけの瑞々しさと品格ある演奏はまれである。
冒頭の爆発的なドラム・ソロとメロディアスなホーンの衝撃的なコントラスト。
呆然としているうちに始まるタイトル・チューンでは、ホーン、エレクトリック・ピアノ、ドラムスのジャズ・トリオがギターの介入によって次第にロックなノリを強めてゆく、ファンタスティックな瞬間に酔わされる。
プロデュースはピート・キング。
「1916」(1:10)ドラムスのエネルギッシュなソロに神秘的なホーンのユニゾンが重なるインパクトあるオープニング。
ジェンキンズ作。
「Elastic Rock」(4:25)クールでメランコリックな英国ジャズの芳香をたっぷり含むジャズロック。
ホーンのハーモニーが織り成すテーマとエレクトリック・ピアノ伴奏のギター・ソロ。
ドラムスは、スローだが生き生きした 8 ビートを刻み、フィルも多彩だ。
妖しくも涼やか、打ち沈みつつも色気を放つテーマと、デリケートながらもロックな(不調法なジャズか?)語り口のギターがすばらしい。
フェード・アウトがあまりに惜しい。
佳作。
ジェンキンズ作。
「Striation」(2:15)ベースのボウイングとギターの即興デュオ。
アコースティックな音による気まぐれな呼応。初期 KING CRIMSON との共通性も。
クライン/スペディング作。
「Taranaki」(1:41)つぶやくようなベース・リフが誘導するホーンのユニゾン・テーマ。
クールなモダン・ジャズの余韻。
春雨ににじむような暖かい響きのローズ・ピアノとギターの和音。
スミス作。
「Twisted Track」(5:12)前曲から続く、暖かくメローなギター・リフ。
グリッサンドによるシンコペーションを用いたフォーク・タッチのレガートなリフだ。
ホーンが柔らかいハーモニーで追いかけ、トランペットとテナー・サックスのインタープレイをギターが静かに彩る。
モード特有の浮遊感ある演奏が次第に熱を帯びる。
ギターもコード・ワークからボトル・ネックによるブルーズ・スケールのプレイへと発展する。
ロックなギターとジャズなホーンによる絶妙のアンサンブルだ。
最高潮を過ぎ、ギターのフレーズが静かに締めくくる。
Prestige のマイルス・デイヴィスからバート・バカラックまでを想起させるリリカルなジャズロックの名品である。
スペディング/ブラウン作。
「Crude Blues(part 1)」(0:54)
ジャジーな m7 系和音をかき鳴らすギターをバックに典雅なオーボエが朗々と歌う。
クラシカルにして温度は低く、夢見るようなアンサンブルである。
カー/ジェンキンズ作。
「Crude Blues(part 2)」(2:35)一転エネルギッシュなアンサンブル。
ホーンのユニゾンがファンキーなテーマで迫り、ギターが反応する。
R&B 調のテーマは抜群にカッコいい。
ソロの口火は、オーボエ。
前曲のクラシカルな幻想曲調から一転して生臭くジャジーに走る。
演奏は、シャープな 8 ビートによる 12 小節のブルーズ進行である。
ギターは、バッキングながら、ブルーズ調のベンディング・フレーズを連発。
再び、フランク・ザッパ的な豊麗さを誇示するテーマ。
クールに醒めつつもファンキーにうねる。
大胆にしてデリカシーを保つファンクネス、個性的なオーボエ、荒削りなギターなど際どい魅力に満ちた名品だ。
カー作。
「1916-The Battle of Boobaloo」(3:05)
ベース、ギターによるブルージーな変拍子リフが提示される。
シンコペーション、変拍子を用いたリフが独特の緊張感を保つ。
リフの支えでホーンのユニゾンが豊かな音色でゆったりと伸びやかにテーマを歌う。
カノン風に追いかけ、重なりあうホーン・セクション。
リフとホーンがポリリズミックな幾何学模様を成す。
ボトムは一貫して細かくビートを刻む。
いかにもジェンキンズらしい抽象的な変拍子リフだ。
後期の SOFT MACHINE にホーンが加わった感じ。
アブストラクトでコンテンポラリーなジャズロックの傑作。
ジェンキンズ作。
「Torrid Zone」(8:52)
リムショットが静かに刻む明快な 8 ビート。
ギターによるブルーズ・ロック調の軽めのリフ。
テーマは、サックス、トランペットのロングトーンのユニゾンによるややメランコリックなもの。
抑制され節度を保ったイメージの演奏だ。
最初のソロはモダン・ジャズ調のトランペット。
バックではリフをベースに任せたギターがかなりヘヴィな音も使ったアドホックなプレイでトランペットの挑発に応じてゆく。
バッキングはエレクトリック・ピアノ、この組み合わせになるとマイルスのイメージが強まる。
リズム・キープを越えた手数のドラミングもカッコいい。
ひとしきりの高潮を経て、再びギター・リフとホーンのユニゾンのテーマへと回帰し、小休止。
次のソロはサックス。
サックス特有の扇情的な面も見せつつ、叙情的で品のあるなめらかなプレイに徹する。
エレクトリック・ピアノが前半のギターのようにこのサックスによく反応してゆく。
サックスは次第に加熱、コルトレーンばりの "シーツ・オブ・サウンド" も披露する。
最後はリフから緩やかなテーマを回想し、トランペットとサックスの小競り合いを経て終わる。
トランペットとサックスのソロをフィーチュアした大作。
リフ、テーマ、ソロという堅実なフォーマットによる作品であり、いわば思いきりジャジーになった SOFT MACHINE である。
グルーヴはさほどでないが、ストイックな感じの整合感がある。
ジェンキンズ作。
「Stonescape」(1:43)
ドリーミーなエレクトリック・ピアノ伴奏によるマイルス・デイヴィスそのものなトランペットのテーマ。
ブルージーであり、とりとめない思いが頭を駆け巡る深夜のイメージである。
コントラバスとともに静かにギターが重なる。
静けさのなかに懊悩があるような気がする。
ジェンキンズ作。
「Earth Mother」(5:59)前曲のトランペット・ソロとダブルベースのやり取りがそのまま続いて本曲へ。
しかし、フェード・アウトしてしまう。(本来この部分は前曲に入るべきではないか。CD のミス・カットの可能性もある)
一転してシンバルが刻まれ、ベースとギターによる 8 曲目のリフが再現。
今度はオーボエのソロ。
ベースのリフが変化すると、シンバルも細かく躍動的な動きを見せる。
オーボエに挑発されるように、ギターも次第に動き出す。
フラジオ風の音も交える奔放なオーボエ・ソロを引き継ぐのは、オブリガートから前に出てくるギター・ソロ。
コードをかき鳴らしてはハマリングオン/プリングオフを連続する独特のプレイで歌う。
エンディングはクリアーに高鳴るホーンのリフレイン。
緩めのグルーヴィなリズムに支えられて、各プレイヤーが自由なプレイで自己主張する。
オーボエの音色は新鮮。
グループ作。
「Speaking for Myself, Personally, In my Own Opinion, I think...」(1:30)前曲からそのまま続いてドラム・ソロ。
マーシャル作。
「Persephones Jive」(2:12)
ギターとソプラノ・サックスのインタープレイがフェードイン、トランペットにサックス、オーボエも加わってトリオ、ギターも復活してカルテット、とポリフォニックなアンサンブルが刻々と変化し、最後は管楽器がユニゾンで快調に走る。
シャープにして技巧的なジャズロック小品。
カー作。
(VERTIGO 6360-008 / LMCD 9.00688 O)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn |
Karl Jenkins | baritone sax, oboe, piano, Hohner Electra piano |
Brian Smith | tenor & soprano sax |
Jeff Clyne | bass, electric bass |
John Marshall | drums, percussion |
Chris Spedding | guitar, bouzouki |
70 年発表の第二作「We'll Talk About It Later」。
第一作の続編的なサウンドながらも起承転結ある楽曲が充実し、音楽性への深い自信が感じられる傑作となった。
爆発力あるシャープなリフとクールにして歌のあるホーンのフレーズがかみ合ったところにエレクトリック・ピアノの神秘的な余韻が加わり、
ハードでパンチがありながらスタイリッシュで陰翳にも富むという独自の世界が完成している。
後期 SOFT MACHINE でも認められるカール・ジェンキンズ色、すなわちシグナルのようにミニマルでアブストラクトなタッチもすでに全開である。
パワフルなドラムスによるうねり、粘るリズムも最高。
ライド・シンバルがなんともカッコいい
グルーヴィなファンキーさとともにクールな緊迫感をも味わうべき内容である。
前作に続き、またも派手なぶちかましを決めてくれるオープニング・チューンのリフは、後に SOFT MACHINE の「Bundles」の 1 曲目でも用いられる名品だ。
プロデュースはピート・キング。
「Song For The Bearded Lady」(7:22)
ワイルドなリフとともにグラインドしながら疾走を続けるヘヴィ・ファンク・ジャズロックの傑作。
豊かな音色のホーンによるアブストラクトなテーマ。
そのテーマとリフのポリリズミックな応酬。
ソロはカーとスペディングとジェンキンズ。
トランペットのソロはかなりマイルス・デイヴィス。
スペディングはワウを用いた演奏。
ジェンキンズのキーボードはオルガンのようなエレクトリック・ピアノ。
マーシャルの重くてユルいドラミングを堪能すべし。
ヘヴィでアグレッシヴだが、どこまでもスタイリッシュ。
ブルーズ・ロックを経た英国シーンらしいジャズの発展系である。
ジェンキンズ作。
「Sun Child」(5:16)
ジェンキンズのオーボエ、ワウ・ギター、ベース、ドラムスがそっぽを向きつつも対話を繰り広げる即興風の作品。
サウンド的にはきわめてサイケデリック・ロック的。
エフェクトされているらしきオーボエの音はまさに SOFT MACHINE の「7」そのもの。
クライン/マーシャル作。
「Lullaby For A Lonely Child」(4:21)
震えるように揺らぐエレクトリック・ピアノ、ギター、トランペットによるムーディなモダン・ジャズ風の作品。
トランペットの奏でる哀愁のテーマが、昭和 35 年頃の明け方に数寄屋橋でタクシー拾ってるような気分にさせる。
後半、ブズーギのトレモロや金属のパーカッションなどさまざまな音によるリリカルなアンサンブルもあり。
後に MARK-ALMOND が推進した路線である。
ジェンキンズ作。
「We'll Talk About It Later」(6:13)
ギターとエレクトリック・ピアノによるサイケデリックな対話がトランペット、エレクトリック・ピアノ、ワウ・ギター、ワウ・サックスによる緊張感のある演奏へと発展する。
ギターはオーヴァー・ダビングされているようで、重なり合って凶暴な表情を見せる。(本作では弦のテンションを変えて音程を変化させる技をたびたび使っている)
リズムも重く、不気味な迫力のあるサイケデリックでハードなジャズロックである。
終盤になって提示されるアブストラクトなテーマも「らしい」。
冒頭のギターに KING CRIMSON の「Ladys Of The Road」を思い出す。
(8 分の 6 拍子はみな KING CRIMSON に聴こえる、という病気かもしれないが)
ジェンキンズ作。
「Oasis」(9:44)フリューゲル・ホーン、オーボエ、エレクトリック・ピアノによる幻想的なオープニング。
テンポが上がってからは、ホーンとサックスのユニゾンによるテーマが美しいクロスオーヴァー。
ソロは、カーのフリューゲル・ホーン、ジェンキンズのオーボエ。
ベースが 1 曲目のリフを変奏する。
オーボエ・ソロへ移る直前の展開が奇妙。
ジェンキンズ作。
「Ballad of Joe Pimp」(3:45)いきなりファズ・ベースでびっくり。
ブルースというよりも民謡風の歌ものである。
サックス、ホーンのユニゾンは美しい。
スペディングのワウ・ギターのカッティングもすばらしい。
8 分の 4+6 の変拍子。
クライン/カー作。
「Easter 1916」(8:49)
ミステリアスな序章からのエネルギッシュなフリー・ジャズ。
1 曲目に似た変拍子ギター・リフ。
不気味なヴォイス、メロディアスなホーン、サックスが重なる。
たたみかけるようなせわしないリズムとゆったりしたメロディ・パートの不均衡。
ソロはブライアン・スミスのアルト・サックス。
ここまで我慢したせいか、かなりの勢いでほとばしる。
ふと気づけばフリー・ジャズになっている。
サックス恐るべし。
サックス相手に一歩も引かぬドラムスも傑物。
ジェンキンズ/カー作。
(VERTIGO 6360-027 / LMCD 9.00729 O)
Ian Carr | |||
Kenny Wheeler (1,2,5,6) | trumpet, flugelhorn | Harry Beckett (3,4) | trumpet, flugelhorn |
Brian Smith | tenor & soprano sax, flute | Tony Roberts | tenor sax, bass clarinet |
Karl Jenkins | electric piano, baritone sax, oboe | Chris Spedding | guitar |
Jeff Clyne | bass, double-bass | Ron Matthewson | bass on 4 |
John Marshall | drums, percussion | Chris Karan | percussion |
Keith Winter | VCS3 synthesizer |
71 年発表の第三作「Solar Plexus」。
ミステリアスなシンセサイザーの響きで幕を開ける本作の内容は、管楽器セクションの補強を得てアンサンブルもソロも充実した、きめの細かいサウンドのジャズロックである。
電化モードから一歩進むもファンク・クロスオーヴァーには一歩手前の、英国らしいビッグ・バンドだ。
たとえば、3 曲目のオーボエとダブル・ベースのデュオのような音はなかなか他では聴けないだろう。
また、5 曲目のブライアン・スミスのソロやクリス・スペディングのコード・カッティングなど、ダンサブルな躍動感と一直線に突っ走るカッコよさの均衡もジャズだけではできないような気がする。
そして、アヴァンギャルドな感性を躍動させつつも、クラシカルなクールネスもあり。
イアン・カーは、楽器のクレジットがないことから、作曲とアレンジのみに携わっているようだ。
ちなみに 1 曲目のシンセサイザーで二つのテーマを提示しており、他の作品はこのテーマのいずれかを発展させたものだそうだ。
プロデュースはピート・キング。
個人的には聴きやすさがうれしい傑作。
「Elements I & II」
シンセサイザーによるノイズと謎めいた脈動音と異形のテーマを巡って、ベースのボウイングやパーカッションなどさまざまな音が渦巻く。
「Changing Times」
金管楽器をフィーチュアしたクールな直球勝負的ジャズロック。
アブストラクトなテーマをリズム・チェンジと熱いソロを繰り返して発展させてゆく。
モダン・ジャズ的なスリルとクールネスにヘヴィな R&B テイストと微妙にクラシカルなタッチも加味している。
敏捷なキレに加えて太く武骨で男臭く、それでいてロマンティックだったりラウンジ風の寛ぎもあるという多面的な魅力あり。
ソロはテナー・サックス、フリューゲル・ホルン(ケニー・ホイーラーのデリケートなプレイがみごと)。
ウッド・ベース、ギターのコード・カッティングもカッコいい。
湧き立つような躍動感はパーカッションのおかげだろう。
第一曲前半の主題を応用。クライム・ムーヴィーのサントラのイメージ。
「Bedrock Deadlock」
室内楽風の序章が特徴的なファンク・ジャズ。
オープニングはオーボエ、ダブル・ベースのボウイングのデュオで前曲と似た冒頭部のテーマを奏でる。
室内楽らしい透徹で知的な構成美を見せる。
ギターの和音とライド・シンバルが加わり、神秘的な、呪術的なムードが盛り上がる。
オーボエのヴィブラート、ダブルベースのアドリヴに導かれて、メロディアスな管楽器のユニゾン・ラインが登場し、クールなビッグ・バンドへと発展する。
なだらかな旋律による落ちついた演奏だが、反復されるテーマ・リフがえもいわれぬ緊張感を持続させる。
ここでも、ドラムス、パーカッションの絨毯爆撃的なプレイが演奏を沸騰させている。
第一曲後半の主題を応用。
「Spirit Level」
スペイシーな現代音楽風フリージャズ。
イントロは、エレクトリック・ピアノによる現代音楽風の無調ポリフォニー。
管楽器とベースのトリオによる主題の再現アンサンブルを経て、フリー・フォームの即興へ。
バス・クラリネット(バリトン・サックスか?)とベースの即興による敏捷な対話、管楽器がメロディアスなテーマを奏でると一気に統一された安定感ある動きとなり、ロングトーンで支えるフリューゲル・ホルンも現れる。
いつのまにかすっかりと整合感のあるジャズ・コンボへ。
ホルンの旋律へトランペットが重なってゆく後半の展開は、かなり感動的。
終盤のホルンのソロからは、60 年代マイルス・ディヴィス調のモダン・ジャズ。
エンディング、稚気たっぷりのハリー・ベケットのプレイがみごと。
第一曲前半の現代的な主題を応用。
空間の間隙を強く意識させる独特の世界である。
「Torso」
センチメンタルなテーマとともに軽やかに走るファンキーなソウル・ジャズロック。
ソロはソプラノ・サックス、ドラムス。
雰囲気は山下版ルパン三世、はたまた高橋達也と東京ユニオンか、原信夫とシャープスアンドフラッツか。
これはクラブ向けでしょう。
切なくも熱いソプラノ・サックス。
あまりに小気味いいギターのカッティング。
ドラム・ソロのままエンディングという荒業。
第一曲後半の主題を応用。
大傑作。
「Snakehip's Dream」テナー・サックス、フリューゲル・ホルン。
全員バッキング。
うねるベース・リフとカントリー風のギターの和音とエレクトリック・ピアノの何気ない交歓の果てに、力強いサックスと柳腰のフリューゲル・ホルンのソロが訪れる。
反復を軸とした、SOFT MACHINE にも通じる硬派でアブストラクトな演奏が、次第に緩やかな歌になってゆく。
もう少しスリリングだとさらにカッコよかったような気がするが、この穏やかさもたしかに魅力である。
難しいところだ。
15 分にわたる大作。
第一曲の二つのテーマをともに応用。
(VERTIGO 6360-039)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn |
Brian Smith | tenor & soprano sax, alto & bamboo flute |
Dave Macrae | Fender electric piano |
Alan Holdsworth | guitar |
Roy Babbington | bass |
Clive Thacker | drums |
Gordon Beck | Homer electric piano on 1,4,5,6 |
Trevor Tomkins | percussion on 1,3,4 |
72 年発表の作品「Belladonna」。
イアン・カーのソロ名義の作品。
ソロ名義となったのは、グループが解体状態にあったためと思われる。
(進歩的なミュージシャンにありがちではあるが、音楽的成功に金銭的成功が必ずしも伴わず、さらに健康上の理由もあってかなりの苦境にあったようだ)
サキソフォニストのブライアン・スミス以外はほぼ新たな顔ぶれであり、このメンバーで新生 NUCLEUS を結成することになる。
ディヴ・マックレエ、ゴードン・ベック、アラン・ホールズワースといった演奏の猛者の参加がうれしい。
ドラムスは、ブライアン・オーガー・グループ出身のクライヴ・タッカーが担当。
演奏面ではリフとアドリヴのオーヴァーラップというスタイルの確立、サウンド面では、さらなるジャズとロックのクロスオーヴァー化とヘヴィなエレクトリック・サウンドの追求が進展している。
楽曲の充実に新たな方向性を定めた、自信のある歩みを感じることができる。
さまざまの変化はあるが、カーを中心とした実験的ジャズロック・ユニットという点で、本アルバムは NUCLEUS の四作目といって差し支えないだろう。
プロデュースはジョン・ハイズマン。
「Belladonna」(13:41)管楽器とエレクトリック・ピアノをフィーチュアし、即興と作曲を結合させた充実のジャズロック大作。
サウンド・メイキングという点でマイルス・ディヴィスの「In A Silent Way」の流れにあるのかもしれないが、緻密に作曲されたユニゾンのテーマ/ハーモニーを前面にしてシンプルなビート(ただし変則拍子)で明快な運動秩序を作り上げてゆくスタイルは独特である。
変拍子のリフも特徴的。
ドラマーのスタイルがジョン・マーシャルによく似ていると思う。
カーのリリカルなアドリヴも大きくフィーチュアされている。
ホールズワースはスペディングの代役をしっかり務めている感じ。
トムキンスのパーカッションが小技でしっかりと演出を効かせている。
次第にパーティのようなにぎにぎしいアンサンブルになってゆくところがいい。
「Summer Rain」(6:10)攻撃的ながらもセンチメンタルなエレクトリック・ピアノと物寂しげな管の調べが郷愁を湧きあがらせる、ブルーズ・フィーリングあふれる佳品。
中盤からの歪ませたエレクトリック・ピアノのプレイ(マックレエ)がカッコいい。
歌謡曲調。
「Remadione」(3:38)ナイト・ミュージック風のアルト・フルートが美しい感傷的な序盤から、一気にホールズワースの超絶ギターとマクレエのエレクトリック・ピアノが爆発するエレクトリック・ジャズへと変貌する。ギターは得意の「レフトハンド」奏法による超速レガートプレイ。
「Mayday」(5:33)サックスをフィーチュアしたスリリングな作品。
ギターは執拗にリズムを刻み、ベースとエレクトリック・ピアノが呼応しながら管楽器とは別のラインを紡ぐポリフォニックな演奏となる。
エレクトリック・ピアノはゴードン・ベック。
「Suspension」(6:07)ミドルテンポの夢想曲。
アブストラクトなリフがモノトーンのイメージを生む。
エキゾティックなバンブー・フルートのプレイはヴォイス・パフォーマンスのよう。
エレクトリック・ピアノはゴードン・ベック。
トランペットのソロ辺りから進行感ある秩序が生まれる。
「Hector's House」(4:32)豪快なソロが続くエキサイティングなビッグバンド風テクニカル・ジャズロック。
ヘヴィにしてレガートという無茶なギター、パワフルなブラス、なめらかに走るサックス、ワイルドなエレクトリック・ピアノなど何もかもがカッコいいです。
エレクトリック・ピアノはゴードン・ベック。
現代でも十分通用する音だ。
(VERTIGO 6360 -076 / BGOCD 566)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn | Kenny Wheeler | trumpet, flugelhorn |
Norma Winstone | vocals | Tony Coe | bass clarinet, clarinet, tenor sax |
Brian Smith | tenor & soprano sax, flute | Dave MacRae | fender electric piano |
Gordon Beck | hohner electric piano | Roy Babbington | bass |
Clive Thacker | drums | Tony Levin | drums |
Trevor Tomkins | percussion | Paddy Kingsland | VCS3 synthesizer |
73 年発表の第五作「Labyrinth」。
メンバーの安定やその他の状況の改善から再びグループとして始動。
そして、本作にてサウンドは電化マイルスを受け継ぐクロスオーヴァーへと変貌を遂げる。
前作からの管楽器の拡充に加えて、初期メンバーの影響力、つまり、カール・ジェンキンス、クリス・スペディング、ジョン・マーシャルら、ジャズを異化する方向にはたらいたベクトルの消失により、ダイナミックな 8 ビート、ファンキーで油っこいリフ、ヘヴィなコード・ワークなど荒削りでゴツゴツとしていた音が、なめらかで精妙な陰影のあるエレクトリック・ジャズ・サウンドの中にきれいにとけこんだのだ。
スタイル的にも、スキャットによるヴォーカルやエレクトリック・ピアノの使い方などに、アメリカの「いとこ」たちの影響がうかがえる。
特に、ノーマ・ウィンストンのヴォカリーズは、ブラスのなめらかなタッチとともに、サウンドに一層の光沢と湿り気を加えている。
このテイストなら、初期 RETURN TO FOREVER の英国版といっても大きく外してはいないだろう。
イアン・カーの目論見であった、ジャズにダイナミックなビートを持ち込み新たなサウンドを引き出すという試みは、ここで一つの到達点へとたどりついたようだ。
空間を意識させる音の美しいテクスチュアとパーカッシヴなビートのコンビネーションは、すでにさまざまの音を経験してしまった現代の耳にとっては、画一的で陳腐に感じられるかもしれない。
しかし、理屈を越えた心地よいグルーヴ感があるのもまた確かである。
そしてよく聴けば、いかにもクロスオーヴァー的なほの暗くも透明感のある音を使いながらテーマやユニゾンにミステリアスなパワーと「含み」があるところが、このグループのユニークなところである。
スタイルに依拠しつつもアヴァンギャルドなセンスを巧みに発揮した佳作といえるでしょう。
プロデュースはイアン・カーとロジャー・ウェイク。
カーは本作の出来映えをいたく気に入って、ギル・エヴァンスに寄贈したそうである。
「Origins」(2:57)
短いフレーズやノイズが無造作に散りばめられたアヴァンギャルドなイントロダクション。
奔放なクラリネットの導きで、独特のうねりのあるファンキーにして憂鬱なテーマが提示される。
再び、さまざまな音の破片がさえずり、散らばる。
ハープのようなエレクトリック・ピアノのさざめき。
突如高まるノイズと、ドラムスの乱れ打ちが波乱を予感させる。
強烈なインパクトの序章である。
「Bull-Dance」(8:17)
ベースによる 7 拍子のシンコペーション・リフの提示。
パーカッション、ドラムスの参加とともにホーン・セクションが対位的なテーマを提示し、複雑なアンサンブルとなる。
ヴォカリーズとともにホーンはロング・トーンを活かしたなめらかなオブリガートを挿入しつつ、躍動する変拍子テーマを刻みつけてゆく。
メロディアスながら、挑発的な演奏だ。
間奏部では、まずサックスが悩ましげに迫り、エレクトリック・ピアノが刺激的なバッキングを繰り広げる。
エレクトリック・ピアノはエフェクトされたホーナーとストレートなローズのコンビネーションのようだ。
ロングトーンとヴォカリーズによるテーマを高らかに歌い上げ、リズムはどんどん力強くなる。
リタルダンドとともに一度中盤でブレイク、続くトランペットのソロは KING CRIMSON 的である。
エフェクトでにじむベースによって最初のリフが再現されるも、トランペットはベースのリフとタイトなビートの上で自由なソロを繰り広げる。
次第に速度と力を増してゆくバッキングのアンサンブル。
再びロングトーンを活かしたスリリングなテーマが打ち出され、ヴォカリーズとの呼応の果てに、ドラマティックなエンディングを迎える。
変拍子テーマを中心にしたスリリングかつメロディアスなジャズロック・チューン。
ビッグバンド、モダン・ジャズのスリルやパンチの効きをしっかりと活用している。
「Ariadne」(7:48)
序盤はゴードン・ベックによる幻惑的なエレクトリック・ピアノ・ソロ。
ドリーミーにして薬味も効かせた演奏には、チック・コリアへの相当な意識がありそうだ。
リズムを呼び出す秘めやかなコード弾きとウィンストンのヴォーカルに寄り添う丹念なオブリガートに痺れる。
ウィンストンのヴォイスに、どうしたってフローラ・ピュリムを思い出さざるをえない。
フルートはそよ風のようにヴォイスにまとわりつき、気づけば、品のいいベースとともに洗練されたアンサンブルが構成されている。
吸い込むようなハイハットもいい感じだ。
セカンド・コーラスのオブリガートは、奔放なクラリネット。
終盤もエレクトリック・ピアノが躍動する。
官能のほめきと抑制された陰翳に味のあるブラジリアン・テイストの佳品。
「Arena」(6:52)
ヴォイス、フリューゲルホーン、サックス、パーカッションらが短いフレーズで刺激しあう即興風のオープニング。
ブレイクを経て、再び即興演奏がフェードイン(これは LP A 面のエンディングと B 面のスタートをあらわすようだ)し、1 曲目「Origins」の変拍子のテーマが再現する。
抑えたテーマの反復の果て、遊爆するように管楽器群とヴォイス、シンセサイザーまでが巻き込まれて、パワフルな全体演奏がとなる。
豪快なツイン・ドラミング。
テーマを軸に躍動しつつ、さまざまな枝葉を伸ばしてゆく。
そして終盤は、再びアヴァンギャルドな即興の海へと沈んでゆく。
LP では両面にまたがっていたと思われるフリー・ジャズ調の作品。
「Exultation」(6:03)
ファンキーに吹き上げるホーン(4 管か)のテーマが冴えるビッグバンド・モダン・ジャズ調ジャズロック。
クライム・ムーヴィのサントラ風である。
二作目の 1 曲目をほうふつさせる。
ウィンストンのヴォカリーズがホーンと渡り合う。
中盤、ジャック・デジョネットのようなドラムスとともに走るデイヴ・マックレエの酸味の効いたフェンダー・ローズ・ソロが抜群にカッコいい。
エレクトリック・ピアノとツイン・ドラムスによるタイト過ぎるアンサンブル(カッコいい!)を経て、終盤からはツイン・ドラムス・デュオ。
タイトルは耳慣れない言葉だが「歓喜」の意味。
「Naxos」(12:23)
バビントンのエレクトリック・ベースが提示するスローなテーマを軸に、パーカッション、サックス、クラリネット、ヴォイスが次々と寄り添ってゆく謎めいたオープニング。
6 小節のゆったりとしつつも無機的なテーマをホーンのオブリガートやトランペットの即興がこれまた怪しげなムードで取り巻いてゆく。
4 分過ぎ辺りから、ホーンのリードでやや情緒的な新しいテーマが示されて、不穏なよどみからメロディアスな美観を湛えるアンサンブルへと変化してゆく。
スローなテーマの再現から、ドラムスの乱打とともに、今度はトランペット(フリューゲル・ホーンか?)とソプラノ・サックスが大胆なインタープレイで交歓しはじめる。
奔放なインタープレイの果て、8 分半くらいから再びスローなテーマが強調されるも、ヴォカリーズとともにホーンらのロングトーンが放射され、交錯する。
エンディング 1 分間の展開が、妖艶かつドラマティックなクライマックスである。
カラフルなスローモーションの映像を見せられているような、官能的な作品である。
(VERTIGO 6360-091 / KTCM-1159)
Ian Carr | trumpet |
Brian Smith | tenor & soprano sax, flute, bamboo flute |
Dave MacRae | electric piano, acoustic piano |
Jocelyn Pitchen | guitars |
Roger Sutton | bass |
Clive Thacker | drums |
Aureo De Souza | percussion, drums on 2 |
Joy Yates | vocals |
73 年発表の第六作「Roots」。
SOFT MACHINE でも活動するロイ・バビングトンに代わって、元 RIFF RAFF のリズム・セクション、ロジャー・サットンとオレオ・ド・サウザが加入する。
また、ひさびさに加入したギタリスト、ジョスリン・ピッチェンは、クリス・スペディングが再来したようなクリア・トーンのアドリヴを大胆に放つ逸材だ。
この新布陣とともに打ち出した内容は、前作の夢想的なスタイルを下地にしつつも、初期のようなヘヴィでノイジーなサウンドも大胆に交えた、キャッチーにして骨太なジャズロックである。
神秘性か、グルーヴかといわれれば後者に傾いているが、決してノリ一辺倒ではなく緩やかな叙情性があり、またそのスペクトルの逆側には、驚くばかりにゴツゴツとした音や幻想的(プログレ的といってもいい)な表現、前衛精神あふれる実験的な音も用意されている。(ただし、あからさまな変拍子は少なくなっている)
中途半端というなかれ、かように品格を失わずに心地よさとぶっ飛んだスリルを実現する音には、他ではなかなかお目にかかれない。
クレジットによれば、タイトル曲の「Roots」は 40 分あまりの大作の短縮版であり、また、「Caliban」は四楽章から成る「Ban, Ban, Caliban」の第三楽章とのこと。
ヴォーカリストのジョイ・イェーツはデイヴ・マックレエと同じくニュージーランド出身のミュージシャン。
プロデュースは、フリッツ・フライヤー。
「Roots」(9:22)
ブルージーな翳りのあるテーマの上でトランペットをフィーチュアした、けだるくもミステリアスなミドル・テンポのビッグバンド・ジャズロック。
スリリングなモダン・ジャズを洗練されたエレクトリック・サウンドで彩った、完成度のあるキラー・チューンだ。
ニヒルな抑制、もしくはスタイリッシュな偏屈。
宝石を転がすようにオブリガートするエレクトリック・ピアノ、シャリッと音数多いギターもいいスパイスとなっている。
抗うようにワイルドなドラミングもよし。
緩やかな斜面を登りつめた果ての最高潮では、フランク・ザッパのビッグバンドに近い味わいも。
カー作。
「Images」(4:53)
イェーツの魅惑のアルト・ヴォイスによるメローなジャズ・ヴォーカルもの。
フローラ・ピュリムよりもヘレン・メリルやジュリー・クリスティといったモダン・ジャズの歌姫を思い出すのは、曲にポップス的な表情があるためだろう。
メジャー 7th コードのなんとも暖かい響きがイェーツの揺らぐヴォイスとマッチしている。
クールなフルートが、ヴォーカルをなぞりつつも遥かにシャープなラインで追いかけ、幻惑的なソロで魅せる。
ギター、エレクトリック・ピアノのバッキングも冴えわたる。
カー作。
「Caliban」(4:32)
捻くれながらも腰が据わり、なおかつ弾力あるスタイリッシュなギター・リフで突き進む潔さもある、このグループらしい作品。
クライヴ・タッカーのドラミングがシュアーかつトリッキーで非常にカッコいい。
この曲ならジョン・マーシャルの打撃も似合っただろう。
ギターが分厚いホーンのロング・トーンの裏で爆発的なアドリヴを繰り広げる。
コンガだろうか、波打つように鳴り続けるパーカッションもカッコいい。
リフ一発な曲は当り外れが大きいですが、これは当り。
荒々しい混沌の魅力にあふれ、SOFT MACHINE ファンも納得のでき。
カー作。
「Whapatiti」(3:23)
キャッチーでスピード感あふれるテーマが印象的なラテン・ジャズロック。
火の出るようなリズムに煽られて、ソロ・パートが熱い。
ソロは、スミスの軽快なテナー・サックス、マックレエの熱いエレクトリック・ピアノ。
RETURN TO FOREVER にパッションの温度では負けていないが、キレキレ度合いではやや分が悪い。
その辺りが個性である。
沸き立つサウザのパーカッションから SUN TREADER のモーリス・パートへの連想も。
ドラムスもがんばる。
スミス作。
「Capricorn」(4:00)
アルト・サックスがリードするアンニュイで叙景的なバラード。
SOFT MACHINE のサックスがメローになったようなイメージ、つまりはやはり RETURN TO FOREVER か。
サックスの裏を取るギター、エレクトリック・ピアノ、ベースによる密やかなやり取りは、トランペットの参加とともにワウワウ・ギターも現れて一気に熱くなる。
スミス作。
「Odokamona」(3:25)
ユニゾンによる重厚なリフが轟々とドライヴするエネルギッシュなヘヴィ・チューン。
ノイジーでおどろおどろしい作風だ。
渦を巻くようなハードロック風のアンサンブルにトランペットのアドリヴが立ち向かう。
怒号のようなモノローグやアジテーションがコラージュされる。
このグループの作品にしてはなかなかの変り種。
スミス作。
「Southern Roots And Celebration」(7:43)
電気ノイズや特殊奏法といった実験性とジャジーなグルーヴを一つにまとめたピッグバンド風の「ジャングル」ジャズロック。
序盤はエレクトリック・ピアノがノイズに取り巻かれながら素朴で穏やかな、どこかノスタルジックなアドリヴを繰り広げる。
サイケデリック時代の名残も感じられる。
2:00 辺りから世界は一気に変転、グルーヴィなホーン中心のジャズロックへ。
ただし、PINK FLOYD ばりの幻惑的な効果音が散りばめられる。
スミスがバンブー・フルートを演奏するのもこのタイミング。チャーリー・マリアーノか、と突っ込みたくなる人もいそう。
リズム・セクションもシャープなビートで全開になる終盤のテンションの集中がすごい。
津波のように音とグルーヴが押し寄せる。
ひょっとするとネタ元はデューク・エリントンなのか?
マックレエ作。
(VERTIGO 6360-100 / BGOCD 567)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn |
Bob Bertles | alto & baritone sax, bass clarinet, flute |
Gordon Beck | electric piano, percussion |
Geoff Castle | electric piano, synthesizer |
Jocelyn Pitchen | guitars |
Ken Shaw | guitar |
Roger Sutton | bass |
Bryan Spring | drums, percussion, timpani |
Kerian White | voice on 2 |
74 年発表の第七作「Under The Sun」。
ファンキーなフュージョンに至る寸前で沼に足を取られたように澱んでしまう、その停滞感に漂うリリシズムとヒネクレ趣味がすばらしい傑作アルバム。
R&B 志向が強すぎるのか、フリージャズが忘れられないのか、無駄に汗びちょソウルフルだったり、アブストラクトだったり、センチメンタルだったり、「枠に嵌められたがらなさ」が全開である。
本作の特徴の一つは、名手ロジャー・サットン、豪腕ブライアン・スプリングによる、下品なまでに演奏を煽るリズム・セクション。
2 曲目「The Addison Trip」は笑っちゃうくらいすごい、違った意味での元祖ドラムンベース。
そして、カーと、ブライアン・スミスに代わったボブ・バートルズの二管のバトルとゴードン・ベックのエレクトリック・ピアノのプレイ。
華やかな組曲主題 I「Sarsaparilla」では、ベックがチック・コリアもぶっ飛ぶプレイを放ち、それに引っ張られて演奏もハイ・テンションで突き進む。
全体に英国らしい R&B タッチのある、エレクトリックな処理も堂に入ったジャズロックであり、3 曲目「Pastoral Graffiti」を聴いていると KING CRIMSON が一作目のメンバーのまま突き進んだらこうなったかもしれないと妄想する瞬間すらある。
また、エレクトリック・キーボードによるアドリヴというには気まぐれ過ぎる効果音も特徴的だ。
プログレの精神性は旺盛であり、WEATHER REPORT に何かが足りないと感じたら、本作でしょう。
プロデュースは、フリッツ・フライヤー。
ギタリストとピアニストが二人づつクレジットされているなど、ややバンドが安定を欠いていた時期の作品なのかもしれない。
作風の変化は、初期から個性ある作曲を担ったブライアン・スミスの不在の影響が大きそうだ。
ジャケットは、脱力したユーモアが効いていますが、売れそうかというと「?」...
「In Procession」(2:52)シンセサイザーの怪しげなリフとほとんどノイズなオブリガートになめらかなホーンのテーマが重なるこのグループならではのオープニング・チューン。
「The Addison Trip」(3:53)ドラムンベース。
「Pastoral Graffiti」(3:28)フルートが主役の叙情的で美しいプログレ。
「New Life」(7:01)変拍子リフで走るスペイシーにして逞しいビッグバンド・ジャズロック。
ここでもドラムスとベースがいい仕事をしている。
ピッチェンのギターもアグレッシヴに前面に出てくる。
「A Taste Of Sarsaparilla」(0:40)
「Theme 1 Sarsaparilla」(6:45)アッパーでイケイケ、なおかつロマンティックなビッグバンド・ジャズの傑作。
ゴードン・ベックの独壇場。
「Theme 2 Feast Alfresco」(5:56)狷介不羈というか、どこかぐずぐずと屈折した独特のタッチ。
「Theme 3 Rites Of Man」(9:58)サスペンスフルでミステリアスな作品。一番マトモにメインストリーム・ジャズの影響を反映した、オーセンティックな作風である。
(VERTIGO 6360-110 / BGOCD 568)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn, piano, Moog, percussion |
Bob Bertles | alto, soprano & baritone sax, flute, voice, percussion |
Ken Shaw | guitar, 12 sting guitar, percussion |
Geoff Castle | keyboards, Moog, percussion |
Roger Sutton | bass, percussion |
Roger Seller | drums, percussion |
75 年発表の第八作「Snakehip Etcetera」。
ファンキーだが翳りと不気味な重さをはらむこのグループらしいジャズロック/フュージョンを奏でるアルバムである。
ライナーノーツによれば、カーは本作品で「何かとんでもない」ことをやりたくなり、その背景には e.e.カミングスなるアメリカの詩人の作品からの影響があるそうだ。
前作からほぼメンバーは変わらず、メインは二管を中心にした伸びやかなサウンドであり、特にカーによるテーマ演奏にポジティヴな明るさが感じられるところがいい。
ただし、2 曲目「Alive And Kicking」序盤と終盤のような、不気味な抑圧感のある厳かな音が、初期と変わらず現れている。
こういう音とハリウッド製サスペンス映画のサントラのようにクールなジャズ・アンサンブルの配合が特徴的だ。
3 曲目「Rachel's Tune」も犯罪映画のテーマで使いたくなるクールな作品である。バートルズのソプラノ・ソロが切れまくる。
タイトル曲は、エフェクトされたエレクトリック・ピアノの音が酩酊感を生むサイケデリックなジャズロックの佳作。いわば、メロディアスな SOFT MACHINE である。武骨なギターもクリス・スペディング風でカッコいい。オルガンが入ると 5 年くらい時代を遡りそうだ。
アコースティック 12 弦ギターをフィーチュアした最終曲「Heyday」は、シェークスピア生誕 410 周年記念の献呈曲「Will's Birthday Suite」からの抜粋だそうだ。
全体にパーカッションの音がよく効いているのも特徴的。
メローなフュージョン路線のようでいて初期の作風もゆり戻してきている不思議な作品だと思う。
プロデュースは、ジョン・ハイズマン。
エンジニアにニューウェーヴ時代の寵児スティーヴ・リリイホワイトの名前がある。
アシスタント・エンジニアの名前もクレジットされているのでまだヒヨッコだったんでしょう。
メイナード・ファーガソンあたりのファンにもお薦め。
「Rat's Bag」(5:49)
「Alive And Kicking」(9:24)
「Rachel's Tune」(6:58)
「Snakehips Etcetera」(10:23)
「Pussyfoot」(3:59)
「Heyday」(7:43)
(VERTIGO 6360-119 / BGOCD 568)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn, synthesizer |
Bob Bertles | alto, soprano & baritone sax, flute |
Ken Shaw | guitar |
Geoff Castle | keyboards, Moog |
Roger Sutton | bass |
Roger Seller | drums, percussion |
guest: | |
---|---|
Trevor Tomkins | percussion on 1,2,3 |
75 年発表の第九作「Alleycat」。
前作と同一のメンバーによる作品であり、内容は、ファンキーさとミステリアスなタッチがブレンドしたジャズロック。
AWB のようになめらかな R&B 的感性を前面に出したかと思えば、SOFT MACHINE を思い出さざるを得ないサイケデリックかつ透徹なまなざしも息づかせていて、全体としてはキャッチーかつ気品ある作風になっている。
長編における「ソロ紡ぎ」にとどまらないストーリー展開にも英国ロックらしさがにじみでていると思う。
カーのリリシズムは澄み渡り、インタープレイにおけるバートルズとの呼吸もいい。
ギター(多才)、キーボード(ムーグがいい!)は鮮やかといかいいようのないプレイで存在感を示している。
そして、サットン、セラーズのリズム・セクションは、本作品でも圧巻の「攻撃的」グルーヴを打ち出している。
曲のよさ、バンドとしてのノリのよさ、など気難しいカンタベリー・ファンにも十分お薦めできる水準である。
プロデュースは、ジョン・ハイズマン。エンジニアはスティーヴ・リリイホワイト。
「Phaideaux Corner」(6:22)サットン作。
「Alleycat」(14:24)カー作。
「Splat」(11:49)タイトでスリリング、なおかつファンタジックな傑作。カーの作品。ムチャクチャカッコいいです。
「You Can't Be Sure」(4:16)カー、ショウ、サットン共作。アコースティック・ギター、トランペット、ダブルベースによるブルージーなトリオ。
「Nosegay」(4:50)バートルズ作。メイナード・ファーガソン風のイケイケなジャズロック。
(VERTIGO 6360 124 / BGOCD 565)
Ian Carr | trumpet, amplified trumpet, flugelhorn, electric piano |
Brian Smith | tenor & soprano sax, flute, alto flute, pecussion |
Geoff Castle | fender rhodes electric piano, yamaha electric piano, synthesizer |
Billy Kristian | bass |
Roger Sellers | drums, percussion |
guest: | |
---|---|
Neil Ardley | ARP Oddyssey, polyphonic synth |
Richard Burgess | percussion |
Chris Fletcher | percussion on 3 |
79 年発表の第十一作「Out Of The Long Dark」。
内容は、マイルス・デイヴィス調のトランペットを軸に、管楽器やキーボードをフィーチュアしたクロスオーヴァー・サウンド。
テーマがメローに過ぎず、あくまで、ファンキーな力強さと角張ったリフ、さらにはブルージーな翳りと神秘的な広がりを持つ点が、いわゆるフュージョンや昨今のスムース・ジャズとは異なる。
ニール・アードレイのジャズロック作品をややモダン・ジャズ寄りにしたような音といってもいいかもしれない。
当時の STEELY DAN のようにゴージャスなポップ・タッチやアメリカのブラス・ロック、さらには、ソウル/ディスコ的な面もある。
しかし、きっちりしたリフが演奏をタイトに引き締め、雨ににじむネオンのようなシンセサイザーの呪文が独自の瞑想性を与えている。
サックスが甘目のプレイを見せる一方で、フルートはすでにニューエイジ風の域に入っていたりする。
後半 5 曲目から 8 曲目までは、とある彫刻家の作品からインスパイアされたものであり、サブタイトルに彫刻の作品名が入っている。
多彩な作風を個性的なスタイルで貫いた、英国フュージョンの堂々たる代表作品である。
プロデュースはグループとジョン・ディクソン。
後年明らかになったが、本作のタイトルは、カーの神経症からの全快の意味を含ませたのだそうだ。
1 曲目「Gone With The Weed」のテーマは「Labyrinth」の 1、4 曲目のテーマをテンポ・アップしたもの。
2 曲目「Lady Bountiful」は、執拗な変拍子リフの上でメロディアスな管楽器ソロがフィーチュアされる力作。優美なソプラノ・サックスと典雅なピアノが印象的だ。やはり「Labyrinth」の作風に近いイメージである。ブルージーな揺らぎも見せる。終盤はカーのアンプリファイされたトランペット・ソロ。
3 曲目「Solar Wind」は、RTF 直系のフュージョン・サウンド。陰影をもちながらも、軽やかに走ってカタルシス。パーカッションのセンスが冴える。スペイシーなシンセサイザー、トランペットもカッコよし。
4 曲目「Selina」は、STEELY DAN 調のジャジーなアーバン・ポップス。モーダルなトランペット・ソロはマイルスなりきり。
5 曲目「Out Of The Long Dark」はトランペット、フルート、ベース、キーボードがほの暗い空間で柔らかな対話を繰り広げる、きわめてニール・アードレイ的な名作。
6 曲目「Sassy」
7 曲目「Simply This」
8 曲目「Black Ballad」
9 曲目「For Liam」
BGO からの CD はカーのソロ作品「Old Heartland」とのカップリング。こちら弦楽奏をステージに管楽器をフィーチュアしたモダン・ジャズというべき内容。美しいサウンド・トラック風である。
(CAPITOL 11916 / BGOCD 420)
1971 Line up: | 1982 Line up: | ||
---|---|---|---|
Ian Carr | trumpet, flute | Ian Carr | trumpet, flute |
Brian Smith | tenor & soprano sax, flute | Tim Whitehead | tenor & soprano sax |
Karl Jenkins | baritone sax, oboe, piano, electric piano | ||
Chris Spedding | guitar | Mark Wood | guitar |
Jeff Clyne | bass, electric bass | Joe Hubbard | electric bass |
John Marshall | drums | John Marshall | drums |
2003 年発表の作品「The Pretty Redhead」。
1971 年と 1982 年の二つのライヴ録音をまとめた発掘編集盤。
1971 年のパフォーマンスはロンドン、Kensington House スタジオにおける BBC 海外放送用スタジオ・ライヴ。
1982 年のパフォーマンスはロンドン、Maida Vale スタジオにおける BBC ラジオ放送用スタジオ・ライヴ。
前半は、ややリラックスしたタッチながらもスタジオ盤と遜色ないカラフルで充実した、挑戦的な姿勢のうかがえる演奏になっている。
一方後半は、保守性を帯びつつあった時代を反映したのか、スタイルの安定感に依拠した印象の演奏になっている。
演奏そのものはバンドの音の均衡がとれていてまったく問題なし。
特に後半第一曲はモダン・ジャズに揺りもどった感あり。
ただし、初出のカーのペンによる作品だけは、ジャズロック、フュージョンといっていいけれん味あり。
後半第三曲は、タイトルそのままマイルス・デイヴィスへのオマージュ。ホールズワース風のギター・プレイや技巧的なベースのプレイもあり。
唐突なロカビリー調や素直な抒情性などアヴァンギャルドとポピュラリティの調和した時期の CHICAGO の作品と同質のセンスの振れ幅を感じる。
全編インストゥルメンタル。
十年以上を隔てた二つの演奏でジョン・マーシャルが変わらぬアグレッシヴな打撃を見せているのも興味深い。
「Song For The Bearded Lady」()第二作より。
「Elastic Rock」()第一作より。
「Snakehips Dream」()第三作より。
「Easy Does It Know」()85 年の最終作「Live At The Theaterhaus」より。
「The Pretty Redhead」()初出。
「For Miles And Miles」()85 年の最終作「Live At The Theaterhaus」より。
(HUX 038)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn, percussion |
Karl Jenkins | oboe, Hohner electric piano |
Brian Smith | tenor & soprano sax, flute, percussion |
Ray Russell | guitar |
Roy Babbington | bass |
John Marshall | drums, percussion |
2003 年発表の作品「Live In Bremen」。
1971 年 5 月 25 日のドイツ、ブレーメンでのライヴ録音をまとめた発掘編集盤。
メンバーは最初期編成からクリス・スペディングがレイ・ラッセルに、ジェフ・クラインがロイ・バビントンに交代している。
初出らしい二曲目は初期プリティッシュ・ロックらしいリリシズムの感じられる佳曲。フィーチュアされるフルートのせいで TONTON MACOUTE を連想してしまう。
レイ・ラッセルのファズ・ギターはスぺディングと比べると個性という意味では一段落ちるが、どんなスタイルもこなせる器用さがありこの時代らしい無暗な熱気はある。
CD 二枚組。
全編インストゥルメンタル。
プロデュースはピーター・シュルツ。
「Song For The Bearded Lady」(9:27)第二作より。
「By The Pool (Wiesbaden '71)」(12:59)このグループの未知の部分を見せる異色作。リリカルなフォークロック。前半はフルートをフィーチュア。後半にオーボエのアドリヴあり。
「Kookie And The Zoom Club」(17:01)ええとこのリフは既存曲ですよね。ジェンキンズ加入後の SOFT MACHINE かな。
やさぐれて死にかけたようなフリューゲル・ホーンがいい味。ギターは普通。マーシャルのドラミングが殺気立っていていい。終盤のエレクトリック・ピアノのアドリヴ周辺のケイオティックなムードはマイルス・デイヴィスのグループに酷似。
「Torrid Zone」(9:08)第一作より。トランペット・ソロはフルート・ソロに置き換わっている。
「Zoom Out」(2:17)これもどこかで聴いたような。
「Snakehips' Dream」(13:40)第三作より。ライヴの定番。
「Oasis / Money Mad」(8:50)第二作より。ソプラノ・サックス大暴れの激熱フリー・エレクトリック・ジャズ。サックスのアドリヴはエルトン・ディーン風。ベースが俊敏。
「Dortmund Backtrack」(7:20)前曲からそのまま突入するので即興か。ソプラノ・サックスがリードし、ギターとエレクトリック・ピアノが追いすがる。パワフルなジャズロック。
「Bremen Dreams」(2:26)カーの調整曲?
「Elastic Rock」(8:33)第一作より。クールでスタイリッシュな名曲。ロックなんだぜ、これ。
「A Bit For Vic」(5:20)マーシャルのドラムス・ソロ。最初期打楽器奏者の Vic Higgins へのトリビュートらしい。
「Persephone's Jive」(1:18)第一作より。
(RUNE 173/174)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn, percussion |
Jeff Clyne | bass |
Karl Jenkins | Hohner electric piano, oboe |
John Marshall | drums |
Brian Smith | tenor & soprano sax |
Chris Spedding | guitar |
2006 年発表の作品「Hemisphere」。
第一作発表後の 1970 年と第二作発表後の 1971 年のヨーロッパ・プロモーション・ツアーのライヴ録音。
最初期のメンバー構成による演奏である。
録音状態は極めて良好。
ここに集められた最初期の作品では「Kind Of Blue」までのマイルス・ディヴィスに大きな影響を受けたと思しきトランぺッターがうっすらとした色彩のモードにとどまったままジャズロックへのアプローチを見せている。
結果としてアフロ・アメリカンではないミュージシャンが「Bitches Brew」を目指したようになっている。
マイルス・ディヴィスのような潜在的な暴力性と呪術性から来る無暗な迫力とは異なる、メランコリックで冴え冴えとした抒情性が特徴だ。
全編インストゥルメンタル。
Live In Europe March 1970
「Cosa Nostra」(4:28)モダン・ジャズっぽいトランペットに食い入るギターとドラムスがカッコいい。
腕慣らし風の即興か。
「Elastic Rock」(5:06)第一作より。「自信あふれる漂流」とでもいえそうなジャズロックへのコミットを感じさせるテーマ。サックスがセクシー。ギター・ソロもブルージーで渋い。
「Stonescape」(1:37)第一作より。リリカルでメランコリックなテーマをトランペットとギターでたどる。
「Single Line」(1:04)ベース・ソロ。
「Twisted Track」(5:30)第一作より。ギターが導くアーバン・タッチの美しいジャズロック。MARK ALMOND に通じる世界。オーボエ・ソロに対峙するギターとベース。 代表作の一つ。
「1916」(6:02)第一作より。ハードロック風のギター・リフとレガートなホーンのテーマがポリリズミックにオーヴァーラップする激しい「ジャズロック」。フリューゲル・ホーン・ソロ、テナー・サックス・ソロ。
「Persephone's Jive」(1:15)第一作より。アグレッシヴなドラムス・ソロをフィーチュア。刑事ドラマのテーマ曲のようなスリリングな小品。
Live In Europe February 1971
「Song For The Bearded Lady」(7:12)第二作より。SOFT MACHINE が拝借した腰にくるリフが印象的なマッチョなジャズロック。トランペット・ソロ。ギターのサイケなエフェクトが酸味を利かす。
「Tangent」(7:46)安定感あるサックスがリードする小気味いい 8 ビート・チューン。ギターはまたもエフェクトにふける奔放なソロ。
「We'll Talk About It Later」(5:12)第二作より。オーボエがリードする茫洋たる即興風の作品。終盤、得意の武骨なテーマが現れて収拾する。
「Snakehips Dream」(9:10)第三作より。トランペットが先導する軽妙なミドル・テンポの作品。ギター、エレクトリック・ピアノが執拗にオブリガートする。中盤ギターらがヘヴィなリフを提示。ソプラノ・サックス・ソロ。エンディングはクリアーなホーン・セクションが締める。
「Hemisphere」(6:13)ペンタトニックのせいなのか民謡か演歌に聞こえてくる。ブルーズなんだろうけれども。トランペット主導。やや呪術ムードも。
(HUX 078)
Ian Carr | trumpet, flugelhorn, synthesizer |
Bob Bertles | alto & baritone & soprano sax, flute |
Geoff Castle | keyboards |
Roger Sellers | drums |
Ken Shaw | guitar |
Roger Sutton | bass |
2006 年発表の作品「UK Tour 76」。
「Alleycat」発表後の 1976 年の英国内ツアーのライヴ録音。
録音状態は良好。
カーの操るシンセサイザーがフィーチュアされる。
全編インストゥルメンタル。
「Snakehips Etcetera」(15:46)同名アルバムより。
「Phaideaux Corner」(11:32)「Alleycat」より。サットン作。終盤のグルーヴがいい。
「Alleycat」(19:41)同名アルバムより。カー作。
「Nosegay」(7:36)「Alleycat」より。バートルズ作。
「You Can’t Be Sure」(5:37)「Alleycat」より。カー、ショウ、サットン共作。
「Pastoral Graffiti」(7:23)「Under The Sun」より。
「Splat」(12:01)「Alleycat」より。カー作。
「Alive And Kicking」(22:12)「Snakehip Etcetera」より。
(MLP13CD)