イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「SUN TREADER」。 STOMU YAMASH'TA と活動した COME TO THE EDGE を母体に 72 年結成。 ピート・ロビンソンは元 QUATERMASS。 作品一枚のみで解散。 モーリス・パートは YAMASH'TA との活動を経て BRAND X へ参加。 76 年の作品「Luminos Chromosphere 4 Japanese Verses / Music Of Morris Pert」に本グループのライヴ録音が収録されている。 2001 年幻の第二作が発掘される。
Morris Pert | drums, percussion, strings arrangement |
Peter Robinson | electric pianos |
Alyn Ross | bass |
guest: | |
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Robin Thompson | soprano sax on 2,3,4 |
73 年発表のアルバム「Zin-Zin」。
内容は、モーリス・パートのパーカッションをフィーチュアした現代音楽調のジャズロック。
エレクトリック・ピアノ、ベース、ドラムスのトリオに、ゲストのソプラノ・サックスを交えた編成による一体感ある演奏である。
音数ではなく、盤の的確な場所に駒を配置してゆくゲームのようなイメージの知的で無駄をそぎ落とすスタイルである。
全体的な音の感触は、初期 RETURN TO FOREVER に似たクロス・オーヴァー系だが、単に手数が多いというよりもほとんどタメのない機械のようなドラミングと、アイデアに満ちた多彩なパーカッションの効果によって、ナチュラルなファンキーさとデジタルで独特の未来っぽさが不思議なブレンド具合を見せる。
ドラミングは、ヴォリュームを大きく変化させない素早いストロークによる連打に加えて、すべてのタムとシンバル、ハイハットを万遍なく叩いてゆくスタイル。
特にハイハット、シンバル類の使い方は、かなり芸術的。
リズムキープ・オンリーや猛然たる手数で勝負といったロック・ドラマーとは明らかに異なる、自己主張のあるプレイである。
パーカッションは、大げさではないが音数は多く、ユーモラスな効果も生んでいる。
さまざまなガラクタのようなものが並んだステージ姿が、目に浮かぶようだ。
そして、すべての曲が一種のエキゾチックな神秘性を漂わせており、いわゆるクロス・オーヴァー的なクリシェとは一線画した、幻想的な味わいを秘めている。
エレクトリックな実験性が陳腐にならず、一貫して聴きやすさが守られているところも、さすがというべきだろう。
全体演奏による尖った反復が、一転メロディアスなアンサンブルへと流れ込む瞬間などの呼吸のよさに、「演奏」ではなく「音楽」を大切にしている姿勢がよく分かる。
BRAND X のミステリアスなムードは、やはりこの人が持ち込んだにちがいない。
モダン・クラシックを思わせる厳格な調子も現われるが、それ以上に、ナチュラルなファンキーさが心地よい作品だ。(パート本人も現代音楽とファンキーネスの相互補完を目指していたようだ)
ソロもフィーチュアされるロビンソン、堅実かつ多彩な音でバックアップするロスのプレイもすばらしい。
全曲インストゥルメンタル。
芸風からいうとジェイミー・ミューアが陰ならばモーリス・パートは陽でしょうか。
「Zin-Zin」(13:52)
ワウ・ベースのリフを軸にパーカッション、ドラムス、エレクトリック・ピアノの奔放なプレイ、タイトなアンサンブルをオムニバス風に続けてゆくカッコいい大作。
ファンキーに躍動しながらも、どこか陰にこもっている。
終盤はジャジーで愛らしいエレクトリック・ピアノのソロ。
「Stardance」(9:57)
ほの暗い中をうねうねと続く演奏に、ゲストのソプラノ・サックスが愛らしく舞う佳作。
中盤からはシャープなフュージョン調で走る、が、聴きものは多彩な打撃技。
そこらじゅうにあるものををなんでもかんでも叩いているように聞こえます。
「Orinoco」(12:50)
サックスが入る全体演奏では、やや細身ながらも、すっかり RETURN TO FOREVER 風のラテン・タッチが強まるが、エレクトリック・ピアノの反復や多彩過ぎるパーカッション類が、ロマンティックな中にカタストロフィックでダークなイメージを加えている。
グルーヴィなまろやかさとクールで鋭角なイメージが熱気とともに融けあってゆく。
「From The Region Of Capricorn」(12:17)
電子音、シリアスなストリングスとパーカッションによるスペイシーな現代音楽作品。
険しくアンビエントな演奏が、中盤には次第にファンキーなグルーヴに波打ち始め、パーカッションも湧き立ってくる。(ファンキーな部分はロビンソンの作曲らしい)
重厚なイメージにどこか傾いだユーモアが感じられる。
プログレです。
(HELP 13)
Morris Pert | drums, percussion, keyboards |
Peter Robinson | keyboards |
Neville Whitehead | bass |
2001 年発表のアルバム「The Voyage」。
74 年に録音されるも発表されなかった第二作のテープが 2001 年に発見され、モーリス・パートの個人レーベルより発表された。
CD 化の時点でベーシック・トラックにパーカッションやキーボードのオーバーダビングを行っているそうだ。
内容は、打楽器とキーボード(エレクトリック、アコースティック両ピアノが主)をフィーチュアし、大胆な音響処理とともに複雑で抽象的なアンサンブルを繰り広げるジャズロック。
電子音や多彩なパーカッションなどインダストリアルなイメージの音響を駆使した現代音楽的な作風である。
前作と同じく、ドラムスがいわゆるロックやジャズのスタイルではなく、自由な発想でアンサンブルを率いている。
アフロ、西アジア風のエキゾティックなサウンドや音階、和声もある。
ネヴィル・ホワイトヘッドが短二度を含むフレーズを爪弾くのは、パーシー・ジョーンズからの影響?
4 曲目のみが、パートのソロ演奏による新作。
全曲インストゥルメンタル。
2009 年現在、BUCKYBALL MUSIC から別のジャケットでリリースされている。
「Eclipse And After」(23:12) キャッチーな 5 拍子のテーマが印象的な作品。ロビンソンとパートのピアノ二重奏あり。
冒頭から 5 分間でその後の展開が心配になるが、大丈夫です。
「Kuikuru Part I」(9:14)終盤のシリアスな現代音楽調がすばらしい。
うっすらとかぶさるメロトロン・クワイアがこわい。
「Kuikuru Part II」(15:38)一転してピアノをフィーチュアしたリズミカルなジャズロックに。しかし、泡沫の夢のように、序盤を過ぎると再び電子ノイズの交錯するミステリアスな世界に入ってゆく。
「Sirian Blue」(9:52)
(NNW 002)