アメリカのジャズロック・グループ「WEATHER REPORT」。 マイルス・グループを経たメンバーが、新たな即興音楽の創造を掲げ、70 年に結成。 エレクトリック・ジャズの草分けの一つである。 編成は、キーボードとサックスを双頭とし、ギターレス。 中後期がポピュラーだが、SOFT MACHINE ファンはぜひ初期を。
Joe Zawinul | electric piano | Wayne Shorter | soprano sax |
Miroslav Vitous | bass, electric bass | Alphonze Mouzon | drums, voice |
Airto Moreira | percussion | Burbara Burton | drums |
71 年発表の第一作「Weather Report」。
マイルス・デイヴィスに「Bitches Brew」を作らせたザヴィヌルの美的感覚が生み出した傑作。
内容は、音響美を活かしたエレクトリックなフリー・ジャズという表現がぴったりだが、ということは、即興と音響を重視したプログレ(暗く閉ざされた感じと神経症的なスリルというロックらしからぬ要素で共通する)ともいえる。
ファズ・ベース、ポルタメント気味のサックス、エコーの深いエレクトリック・ピアノなどできるだけ音の立ち上がり、アタックを抑えたプレイを積み重ねている。
空間に点描された音の残響が干渉、交錯し合って新しいパターンとなるときの生誕の感動と緊張感。
そういうものをイメージさせる神秘的なサウンドである。
打楽器奏者はなかなか決まらず、管弦楽の打楽器奏者であったバーバラ・バートンをリクルートするも、最終的にはアイアート・モレイラを招聘して本作品を仕上げたようだ。
「Milky Way」(2:30)
シンセサイザーのような音(エレクトリック・ピアノのヴォリューム奏法だろうか?←ほぼ完全にミュートしたサックスとピアノの弦弾き、ペダリングの組み合わせだそうです)が舞うスペイシーで神秘的な序曲。
どうやら、編集作業によってフレーズが重ねられているようだ。
密やかにして大胆な印象である。
意図的なのかどうか定かでないが、ミスタッチのような音含め、さまざまなノイズが聴こえる。
「2001 年宇宙の旅」をイメージさせるサウンドだ。
「Umbrella」(3:24)
スネアが激しく叩き出す生々しく強烈なビート。
ファンキーなファズ・ベースも暴れながら、加わる。
サックスとピアノが、前曲を思わせるテーマを提示。
リズムがファンキーなビートで細分化されると、エレクトリック・ピアノとベース、パーカッションによるせめぎあうような演奏が始まる。
荒々しい演奏のなかで、サックスだけは、自己主張がしなやかだ。
最後は、再び冒頭のファズ・ベースがリードする一直線な演奏へ。
ストリートっぽいテーマと即興演奏によるジャズロック。
エレクトリック・ピアノはマイルス・デイヴィスのフィルモア・ライヴを思わせるワイルドなタッチ。
ベースも思い切り前面に出て、自己主張する。
ざらついた空間を鮮やかに切り裂くサックスが印象的。
「Seventh Arrow」(5:20)
タム回しとサックスによるせわしないユニゾンが決まるオープニング。
硬質なライド・シンバルの連打とうねるベース、そしてきまぐれなエレクトリック・ピアノ、パーカッションによる小手調べは、やがてアドリヴ風にふらつくサックスを呼び覚ます。
それぞれ勝手なプレイをするのだが、ポイント・ポイントでドラムスが険しい表情で高まり、仕切り捲くる。
サックスとエレクトリック・ピアノがハーモニーを成すも、ワイルドな調子は変わらず鋭いユニゾンで章を改める。
再び金切り声を上げるサックス、暴れまわるドラムス、ジャジーなアドリヴに徹するエレクトリック・ピアノ、ベース。
エレクトリック・ピアノとサックスの間にだけはコミュニケーションができているようだ。
ベース、ドラムス、パーカッションは一貫して攻め込むような調子である。
エレクトリック・ピアノは次第にノイジーな音を立て始め、サックスも狂おしく変化する。
ドラムスにあおられて、すべてが熱っぽく汗びっしょりのイメージ。
軽やかなタム回しで終わり。
終始ハイ・テンションで突っ走るテクニカルなエレクトリック・ジャズ、もしくはフリーなジャズロック。
音だけで RETURN TO FOREVER と区別するのは、なかなか困難である。
(SOFT MACHINE との違いはサックスのスタイルか)
すべての楽器がエネルギーを放出し、煮え立つような演奏である。
ジャスト・ビートを打ち出す超絶的なドラミングにも注目。
「Orange Lady」(8:41)
自らを抱きしめようと身悶えるようなエレクトリック・ピアノの響き。
ダブル・ベースのボウイングとサックスが忍び寄り、泡立ちきらめくエレクトリック・ピアノの調べに、ユニゾンが重なってゆく。
ヒーリング系ニューエイジ・ミュージックとも一脈ある夢想世界である。
サックスを軸にゆっくりと流れができてくる。
エレクトリック・ピアノの柔らかな和音がダブル・ベースと呼応し、パーカッションがさざ波を立てる。(4:00)
新たな展開だ。
きらめくパーカッションとたゆとうエレクトリック・ピアノ。
サックスがまるでフルートのように柔らかな調べを歌う。
ベースとエレクトリック・ピアノによる幾何学模様のような伴奏。
サックスは、凛とした力強さを見せて湧きあがる。
散りばめられた音は、微妙な距離を保ちながら漂っている。
再びサックスを中心とした核ができてくる。(6:40)
ゆるやかなうねりを成す演奏。
やがて、何ごともなかったかのように静けさが戻ってくる。
美しく幻想的な即興曲。
前半は、ドラムレスのたゆとうような曲調であり、後半は心地よい流れ/動きを見せる。
サックスとベースのボウイングの織り成すハーモニーに、エレクトリック・ピアノが美しい装飾をしてゆく。
後半は、パーカッションが現れ、ベースもエレクトリックなエフェクトを用いている。
RETURN TO FOREVER の一作目同様「暗黒のフリー」の終焉時代に優美なセンスで光明を投げかけた代表作。
雅楽にも通じるデリケートで神秘的な世界である。
「Morning Lake」(4:23)
前曲と同様にアンビエントで叙景的な作風ながらリズムと和声進行による緊張感が加味されている。
「Waterfall」(6:17)
3 連パターンを用いたエレクトリック・ピアノによるノリのいいリフレイン。
朴訥なウッド・ベースのリフに導かれて、サックスがゆったりとテーマを示す。
左右のチャネルからは転がるようなエレクトリック・ピアノのハーモニーが響く。
ベースも主張を怠りない。
ドラムスは、ほとんどミュートしたハイハットのビートのみだが、要所でフィルを入れ安定を保っている。
サックスを中心にうねりを作ってゆく。
いつの間にか、ベースはエレクトリックへ。
次第にドラムスの音が増え、ふくよかなエレクトリック・ピアノ、つややかなサックス、腰の据わったベースによる反応のいいアンサンブルが快調に続いてゆく。
酩酊させるような 3 連フレーズ。
幻想的な中にもまろやかで躍動感のあるジャズ・アンサンブル。ほのかにグルーヴィでもラテンやソウルにはならない絶妙の寸止めである。
一部を除き即興と思われる。
「Tears」(3:22)
実験的で幻想的なサウンドをロマンティックなナイト・ミュージックに応用したような作品。
メロディアスなサックスのパートと酸味のあるエレクトリック・ピアノ、ファズ・ベースのアンサンブルのパートを対比する。
「フュージョン」前夜のジャズロック。
スキャットはムザーンによる。
サックスのテーマはマイルス・デイヴィスのセンスに通じると思う。
「Eurydice」(5:44)
逞しいランニング・ベースが印象的な 4 ビート・ジャズ作品。
ショーターのプレイは珍しくコルトレーン調であり、抜群のキレを見せる。
骨太な推進力を得た、はち切れそうなアドリヴだ。
終盤、再び謎めいた幻想を提示してアルバムは終わる。
SOFT MACHINE のようです。
さざめくように揺らぐエレクトリック・ピアノの余韻と、サックスの短く柔らかなフレーズが干渉し合い、輪郭をにじませてゆく官能美の世界。
このとき、時を刻むリズム楽器は必須ではない。
無限の広がりのなかで出会ったことを感謝するように、いつまでも音の会話を聴いていたいからだ。
また、タイトでダイナミックなリズムと音響の共存が生み出すグルーヴ。
そして、音数少なくあくまで密やかで穏やかながらも、即興演奏には緊張感が漂う。
繊細な美と気難しい表情が同居するところもある。
このアプローチは、音響の美と組み合わせの自由さを積極的に求めるものであり、トラディショナルなジャズの図式を破壊したところに新たな世界を作るという目標に向かっている。
美しい音に身を委ねることのできる作品だ。
即興の一部を編集したためか、フェード・イン、フェード・アウトが多い。
ここの音は本質的にライヴにて味わうべきものなので、スタジオ盤はあくまでその片鱗に過ぎぬということの表明なのだろう。
(SRCS 9138)
Joe Zawinul | electric & acoustic keyboards | Wayne Shorter | reeds |
Miroslav Vitous | bass | Eric Gravatt | drums |
Dom Um Romao | percussion on 2 | ||
guest: | |||
---|---|---|---|
Andrew White | English horn on 1 | Hubert Laws.Jr | flute |
Wilmer Wise | D & piccolo trumpet | Ralph Towner | 12 string guitar on 2 |
71 年発表の第二作「I Sing The Body Electric」。
ドラムス、パーカッションにメンバー変更はあったものの、ザヴィヌル、ショーター、ヴィトウスのユニットは揺るぎなく、前衛ジャズの実験は続く。
それは、まさに、次々と浮かび上がるアドリヴ・ソロとヴィヴィッドに反応しあうインタープレイによる、幻想的かつスリリングなエレクトリック・ミュージックである。
どんなに暴れてもデリケートなタッチをもつサックスと、時にワイルドなエレクトリック・ピアノ、そしてさまざまなアイデアを駆使するベース。
フリー・ジャズ、ジャズロック、サイケデリック・ロック、すべてを呑み込んだプログレッシヴな世界がある。
A 面は、テープ編集によるコラージュ/サンプリングのタッチが奇妙に生々しさを加えている。
B 面は、日本公演の模様を収めたライヴ録音。
司会が入る辺りが「ジャズ・コンサート」である。
タイトルは、ブラドベリイの小説から。
ヴィトウスのファズ・ベースがカッコいい。
「Black Market」辺りからファンになった我が世代は、初期の姿を見たときに、SOFT MACHINE に出会ったときとおなじ感動を味わった。
「Unknown Soldier」(7:57)
煽り立てるようなハイハット連打にスキャットが重なる謎めいたオープニング。
サックスの明快な音色がその謎めいたムードを切り裂く。
ウッド・ベースのうめきとともに、フリー・ジャズらしい小爆発が起こる。
ようやく油が全体に回った感じだ。
サックスがなめらかなフレーズを提供するが、なかなか回りが追従しない。
ベースとピアノのさりげないバトル。
管楽器はユニゾン、ハーモニーで高まる。
再びドラムスが爆発。
サイレンを思わせる管楽器処理、マーチング・スネア、暴れるウッドベース。
サックス、トランペットのエネルギッシュなブロウとともにフリー・ジャズのスタートだ。
重低音から過激な打音を発するピアノ、轟々たるウッドベース、不気味なスキャットも復活し、生々しい電子音も炸裂する。
怪しい祈祷に朗々たるサックスが重なり、次第に管楽器アンサンブルが形作られてゆく。
カンタベリー風のアンサンブルが、高音へと抜け出ていきそうで、なかなかいかない。
せわしないドラムス、ベースと対照的に印象的なロングトーンは木管楽器だろうか。
妖しい物語を独特の美感で伝えるフリー・ジャズ。
意外にも電気楽器はほとんどない。
ややハッタリ気味の効果音もあるのだが、演奏のキレがそういう感じに聴こえさせない。
終盤の管楽器のアンサンブルが美しい。
ザヴィヌル作。
「The Moors」(4:40)
ラルフ・タウナーの 12 弦ギターをフィーチュアした作品。
透明にして硬質な音色(ナイロンではなく金属弦である)を使って、自信たっぷりにフレーズを繰り出してくる。
ストロークも過激であり、カントリー色が皆無なのもおもしろい。
バラバラと砕け散りそうなリズム・セクションとともに、ソプラノ・サックスによるスリリングなロングトーン・フレーズが提示される。
ファズ・ベースが唸りを上げ、エレクトリック・ピアノのコードが打ち込まれる。
トランペットによる高らかな歌唱。
三味線の如きギターのストローク、ファズ・ベース、手数の多いドラミングによるざわめきを管楽器が鮮やかに貫く。
ふとねじ切られるように空中へと音が消えてゆく。
BRAND X 辺りが影響を受けたのでは、と想像してしまうミステリアスかつ凶暴なインプロヴィゼーション。
ヴィトウスは得意のファズ・ベースで暴れ捲くる。
1 曲目よりも格段にロックである。
ショーターの管楽器による透徹な音とファズ・ベースらによるざらついた音のコントラストが、初期の本グループの特徴であることを再認識する。
ショーター作。
「Crystal」(7:16)
吹きすさぶ隙間風のような電子音とトムトムのようなパーカッションによるミステリアスなオープニング。
サックスがキュートなアドリヴで歌いだす。
得意の電子音ノイズ、そしてオルガンが湧き上がる。
ベースはブリッジの反対側を弾いているのだろうか、雑音のような音を立てる。
ファズをかけた凶暴な音だ。
テープ編集の痕跡も明らかにされ、不安定な音像が、まるで世界が傾いているような不思議な効果を生む。
サックスはただ一人明晰な存在感をもち、時にヴォカリーズのようなみごとなニュアンスで屹立する。
トランペットがサックスに絡んでゆく。
エフェクトされたエレクトリック・ピアノが和音のリフを刻み始めると、ファズ・ベースが応じて、サックスのアドリヴとともに有機的は動きが生まれる。
スリリングだが、微妙な距離を感じさせるトリオが間合いを保ちつつ、ときに密度を変えながら続いてゆく。
テンポはエレクトリック・ピアノが握っているのだろうか、先導しては後の二人の追従を待つようなところがある。
ほとんどリズムレスでソプラノ・サックス、エレクトリック・ピアノ、ファズ・ベースによる反応性の高い即興アンサンブルが続く。
ファズ・ベースと独特の緊張感が KING CRIMSON や SOFT MACHINE を思わせる名曲。
ほぼドラムレスながらも、トリオの呼吸を感じさせるスリリングな演奏だ。
アメリカのグループとは思えない作風である。
ややアンビエント・サイケ調もあり。
ヴィトウス作。
「Second Sunday in August」(4:09)
アコースティック・ピアノ、ファズ・ベース、サックスが力強く勇ましく前進する作品。
サックスをリーダーに、安定したビートに支えられた一体感ある演奏である。
2 管によるなめらかなユニゾンが鮮やかだ。
フロア・タムによる地響きのようなフィルが、演奏にダイナミックなドライヴ感をもたらす。
スタンピードのシーンを俯瞰したときに流れる西部劇のサウンド・トラックのようなイメージだ。
メロトロンもあり。
ザヴィヌル作。
「Medley」(10:10)日本でのライヴ録音。
「Vertical Invader」
激しいアフロ風のドラミングに挑発されるように、ノイジーなエレクトリック・ピアノが荒々しく動き出す。
サックスがつややかなブローでエレクトリック・ピアノと呼応。
エレクトリック・ピアノはフィルモアのチック・コリアやライヴ・イブルのキース・ジャレットを思わせる荒々しいプレイ。
シュアーなベースのリフも加わり、サックス対エレクトリック・ピアノの挑発合戦が続く。
サックスとエレクトリック・ピアノの応酬はどんどん加熱、猛然たるドラムスとともにアグレッシヴな演奏が続く。
即興によるファンク・ジャズ。ザヴィヌル作。
「T.H.」エフェクトを使ったベース・ソロ。
ドラムスは地鳴りのようなプレイで迫る。
アルコだろうか。
荒々しいエレクトリック・ピアノの和音が演奏を断ち切る。
(ヴィトウスの曲は必ずエフェクト・ベースあり)
ヴィトウス作。
「Dr.Hornoris Causa(from Zawinul's solo album)」
ドリーミーなエレクトリック・ピアノのささやきは、すぐに歪んだ音へと変化して、スピーディな音の応酬が甦る。
サックス、エレクトリック・ピアノが呼応、パーカッションも放たれ、ベースもすぐに追いかけてくる。
細やかなエレクトリック・ピアノのパッセージをきっかけに、サックスは伸びやかに応じ、ベースもかみつくようなプレイを見せる。
結局、三者が互いに他を圧することを目指すようなアドリヴ合戦になってゆく。
ザヴィヌル作。
トリオのバトルが繰り広げられるワイルドな即興演奏。
このグループにしては、それほどすごい演奏ではない。
「Surucucu」(7:41)日本でのライヴ録音。
カリンバ系のパーカッションや奇妙な電子音が渦巻く妖しいオープニング。
ドラムスがビートを提供すると、サックスが放たれ、アコースティック・ベースとアコースティック・ピアノも加わってジャジーな演奏となる。
ピアノは弦を直接叩いたり、弾いたりしているようだ。
サックスのしなやかなブローを押さえ込むように、唐突にエレクトリック・ピアノが爆発。
ファズ・ベース、サックス、エレクトリック・ピアノによる、ザラザラした音のトリオが始まる。
とたんにブレイク。
アルコによるベース高音が泣き叫ぶ。それもつかの間、サックスが絶叫し壮絶なバトルが復活する。
エレクトリック・ピアノのプレイは、かなり適当というか思いつきというか荒っぽいの何の。
電気フリージャズである。
主導権はエレクトリック・ピアノへ。
やや抑制されたエレクトリック・ピアノとベースの呼応が続く。
再びサックスのロングトーンにアコースティック・ピアノの衝撃が加わる。
電化マイルスそのもののような電気フリージャズ。
SOFT MACHINE と同じような演奏なのだが、抽象的なイメージがあまりないのが不思議である。
タイトルからしてアフリカのイメージだろうか。
ショーター作。
「Directions」(4:35)日本でのライヴ録音。
ドラムスとエレクトリック・ピアノの素早いユニゾンの決めで幕を開ける。
サックス、エレクトリック・ピアノともに最初から飛ばす。
タイトなドラミング。
スピード感。
フリー・ジャズに近い展開。
最後もビシッと決める。
ザヴィヌル作。マイルス・デイヴィスの重要なレパートリー。
第一作と同路線にある作品。
キーボードの種類が増え、アンサンブルにも変化が現れる。
3 曲目「Crystal」は一作目の延長上にある美しい作品。
4 曲目「Medley」はそこにパワーが加わっている。
また、1 曲目「Unknown Soldier」は、緊張と迫力とに満ちた即興アンサンブルがすばらしい。
アコースティック・ピアノの効果を十分生かしている。
ライヴ録音の曲は、スタジオ曲独特の凍るような美しさではなく、ドライヴ感を中心に演奏を組み立てている。
混沌に熱気が加わった感じといえばいいだろう。
ヴィトウス、タウナーのせいだけではないだろうが、透徹で抽象的な ECM 風味も強い。
(CK 46017)
Wayne Shorter | soprano & tenor sax | Joe Zawinul | acoustic & electirc piano |
Miroslav Vitous | acoustic & electric bass | Eric Gravatt | drums |
Dom Um Romao | percussion |
72 年発表の第三作「Live In Tokyo」。
1972 年 1 月 13 日の渋谷公会堂でのライヴ録音。
ジャズ、ファンク、クラシックなどから生まれた「新しい音楽」である。
いろいろな形容ができると思うが、とにかくスリリング、そしてミステリアス。
不思議なことに、あまり激しい運動性を感じさせず(MAHAVISHNU ORCHESTRA と対照的)、静かに停滞したまま、すべるようになめらかにパフォーマンスが広がってゆく。
そしてその進展の中で、音の細胞の対流が渦巻き沸騰している。
これはフリー・ジャズとして一流だからなのだろうか、それとも別の理由があるのだろうか。
言葉遊びだが、ここの音は「フリー・スムース・ジャズ」なのだろう。
また、全メンバーが楽器で遊ぶのが本当に好きそうだ。
だからここの音は素朴な音でもある。
このアルバムも、SOFT MACHINE のファンには絶対のお薦め。
プログレ・ファンとしては、ミロスラフ・ヴィトウスの感覚をずっと生かしてほしかった。
長大なメドレーが 5 曲。
LP / CD 二枚組。
(SRCS 9142)
Joe Zawinul | keyboards | Wayne Shorter | soprano sax |
Miroslav Vitous | bass | Eric Gravatt | drums |
Dom Um Romao | percussion | Muruga | percussion |
Herschel Dwellingham | drums | Andrew N. White III | English horn, Fender bass |
ライヴ盤をはさみ、73 年発表の第四作「Sweetnighter」。
オープニングの「Boogie Woogie Waltz」が、ザヴィヌルの求めるサウンドの方向を物語る。
それは、集団即興調から制御されたライト・ファンク調への移行である。
ヨーロッパ的美意識を反映した美しいタペストリのような音響コラージュ的作風に「グルーヴ」の追求という重心が生まれている。
具象を空間に融かし込み、にじんだような広がりを感じさせるサウンドは、正確なビートで時空を細かく刻んでエクスタシーの瞬間を求めるものへと変化した。
本作を出発点に、この独自のファンク・スタイルを突き詰めるために必要なメンバーを求めてゆくことになり、将来のポップ路線もこの延長上にある。
ヴィトウスは「Will」を提供しているものの、演奏においては既に影が薄い。
アナログの A/B 面のそれぞれトップを飾るザヴィヌル作曲の二つの大作が、アルバムを完璧に性格づける。
両曲とも、ミニマルなリフ反復とシンプルなビートによる秩序の上で、エレクトリック・ピアノが官能的なうねりを見せる。
それは、決してイケイケゴーゴー的なファンクではない。
熱気はあるが、その中に醒めた意識と緊張がある。
音に独特の重みがあるのは、本来陽性で開放的なファンクを、生真面目だがあまり明るさのない計画性で再構築したためか。
この複雑さ、ザヴィヌルのパーソナリティとも無縁ではないだろう。
みごとなのは、そういう変わった「ファンキー」な楽曲においても、ショーターによるメロディアスなプレイが非常にうまく機能していることだ。
叙景的な美しさを持つ小品「Adios」は、前作の音響路線の直接的延長上にある。
全体に、ファンク色にさえ抵抗がなければ前作までのファンもいける内容だろう。
「Boogie Woogie Waltz」(13:04)コントロールされたファンク・ビートの上でのサックス、エレクトリック・ピアノによる幾何学的なデュオを突き詰め、最後に SOFT MACHINE 的なテーマを提示する。
「Manolete」(5:56)力強く混沌としたリズム・セクションとエレクトリックなノイズを貫いて神秘的なサックスが歌う。
傑作。
ショーター作。
「Adios」(3:00)第一作的な音響インプロ。ほのかにニューエイジ・ミュージック的。
「125th Street Congress」(12:14)再びグルーヴィなファンク・ビートによる作品。終盤のノリがカッコいい。
主役は打楽器だと思う。
ハービー・ハンコックの世界に近い。
ショーターのフリーキーなサックスがエルトン・ディーンを思い出させる。(コルトレーンなんだと思う、おそらく)
ヴィトウスの表現は明らかにこの世界に異議を唱えている。
「Will」(6:21)ファンク・ビート(ヒップホップ的ですらある)を採用しているが、サックスとベースは非常に瞑想的。ヴィトウス作。
「Non-Stop Home」(3:54)ドラムスをフィーチュア。シリアスな音響実験とメロディアスな表現のバランスがいい。プログレ色強し。
ショーター作。
(SRCS 9142)
Joe Zawinul | Rhodes, synthesizer, vocals, percussion | Wayne Shorter | tenor &soprano sax, piano, sea shell |
Miroslav Vitous | bass on 2,8 | Alphonso Johnson | bass |
Ishmael Wilburn | drums | Skip Hadden | drums |
Dom Um Romao | percussion | Isacoff | tabla, finger cymbals |
74 年発表の第五作「Mysterious Traveller」。
キャッチーなテーマ、メカニカルだがダンサブルなビート、スペイシーかつ祝祭的なサウンド、ワールド・ミュージック調のエキゾティックなアクセントなどを現代音楽風のアブストラクトなテイストでまとめあげた労作。
メロディ・ラインやテーマは洗練されアクセスしやすいにもかかわらず、実験的な作品としての緊張感も切れ目なく続くというきわどいバランスの上に成立した作品である。
前作ほどにはディープなファンク色が感じられないのは、スペイシーなシンセサイザー・サウンドの充実が相対的にファンクなグルーヴのインパクトを上回ったためと思われる。
作曲ものではあるが、即興から作曲を積み上げるアプローチによるためか、起承転結よりも一瞬のきらめきを重視したようなところがあり、曲の展開はわりとラフである。
こういうところは第一作から変わらない。(「Black Market」以降は、この点で飛躍する)
一方、ダンサブルなノリというかポップなサービス精神もあり、そういうところとアヴァンギャルドな姿勢とがぶつかって中途半端になっているところもある。
エレクトリック・マイルスのドロドロ感をシンセサイザー・サウンドで巧みに薄めたような感じもあり。
特に後半は、シンセサイザーによる、ワールド・ミュージック風味を活かした音響派プログレと化してゆく。
本作品、僕には「陽性屈折 SOFT MACHINE」として響いてきます。第一作に続いてプログレ・ファンにお薦め。
ミロスラフ・ヴィトウスは本作品を最後にアルフォンソ・ジョンソンにベーシストのポジションを譲る。
「Nubian Sundance」(10:40)アグレッシヴなダンス・ビートとエレクトリック・キーボードが支配する名曲。
EL&P ばりにシンフォニックでプログレなエレクトリック・サウンドによる明朗なラテン・テイストがおもしろい。
本作品の後はこのグルーヴをよりストレートでキャッチーなものにしてゆく。
エレクトリック・キーボードのレベルの高い録音が強烈。
徹底して攻めるドラムスもいい。
70 年代後半の東欧ロックがこの音を参考していた可能性大。
ザヴィヌル作。
「American Tango」(3:40)ザヴィヌル、ヴィトウス共作。ベースはヴィトウス。沈黙を意識させる独特の作風。
「Cucumber Slumber」(8:22)ザヴィヌル、ジョンソン共作。冷徹なエレクトリック・ジャズにファンクのグルーヴを注ぎ込んだ名作。
ヴィトウスとの違いがはっきりと分かるベースが躍動感を担う。
ここでのキーボードはリズム・ギターに近い役割を負っている。
同じファンクでもマイルス・ディヴィスの解釈とは異なり血肉や混沌のイメージがなく、リズム媒体としてクールにパッケージされている。
「Mysterious Traveller」(7:21)ショーター作。
グルーヴィなファズベースと派手な音のわりには堅実なドラム・ビートが支える現代音楽風ジャズロック。
秩序に向かわないアヴァンギャルドなピアノがカッコいい。
サックスはメインのようでいて実はアクセント的存在。とはいえ、そのブルーズ・フィーリングがアブストラクトな音空間で鮮やかに光る。
「Blackthorn Rose」(5:01) ショーター作。
ザヴィヌルのピアノ、ショーターのソプラノ・サックスによるデュオ。
室内楽風味もある美しいフリー・ジャズ。
「Scarlet Woman」(5:45)ジョンソン、ショーター、ザヴィヌル共作。ミステリアスなニューエイジ・ミュージック。
「Jungle Book」(7:24)ザヴィヌル作。アフリカン・テイストあふれるニューエイジ・ミュージック。
「Miloslav's Tune」(5:25)ボーナス・トラック。未発表曲。ストリングスの出現に感動。英国ジャズ・オーケストラものに通じる傑作。
(SRCS 9143)
Joe Zawinul | synthesizer, Rhodes, organ, melodico, piano, xylophone, percussion, vocals |
Wayne Shorter | soprano & tenor sax |
Alphonso Johnson | bass |
Alyrio Lima | percussion |
Ndugu | drums, percussion |
75 年発表の第六作「Tale Spinnin'」。
内容は、ワールド・ミュージック風の明朗快活なテーマを奔放な即興と緊張感ある和声で支えるインテリジェントなフュージョン。
楽曲は、開放的なテーマがリードするキャッチーなものであり、ライトなグルーヴのある曲調がメインである。
一方、実験的な音作りは見えにくくなり、冷徹でメカニックなイメージや神秘的なイメージは抑えられている。
さて、グルーヴィでキャッチーな楽曲を支えているのは、本作でも、丹念に練り込まれたキーボード・サウンドである。
本作品で顕著なライトで爽やかなラテン・テイストは、すでにポップ・ミュージックの特徴の一つとして普通のものになって久しいが、おそらく、ここら辺りがその端緒である。
パット・メセニーとどちらが先かといえば、メインストリームへの現われとしてはこちらが少し先だろう。
ただし、エキゾチックな音を使うことがポップ・ミュージックの常套手段と化している現代の感覚からすると、そういう音の効果に依存する割合が大きい作品に新鮮味が感じられないことは否めない。
「Man In The Green Shirt」(6:28)ザヴィヌル作。シンセサイザーとサックスのユニゾンによる清涼感あふれるテーマとサックスの奔放なアドリヴによる作品。
リズムも軽やかである。
「Lusitanos」(7:21)ショーター作。ロマンティックでスペイシーなフュージョン。パット・メセニー・グループへの影響大。
「Between The Thighs」(9:28)ザヴィヌル作。粘っこいファンキー・チューンを妖しいシンセサイザー・サウンドで彩る。
ドラムスの見せ場。トニー・ウィリアムズのフュージョン・アルバムを思い出した。
即興シーンの発展の仕方もカッコいい。
「Badia」(5:20)ザヴィヌル作。アフリカ趣味丸出しのニューエイジ・ミュージック。往時の新鮮さ、インパクトを味わい得ないのが残念。
「Freezing Fire」(7:27)ショーター作。東洋風のかわいらしいテーマにもかかわらず演奏はきわめてテクニカル。
「Five Short Stories」(6:57)ザヴィヌル作。スムース・ジャズ。
(CK 57905)
Joe Zawinul | piano, keyboards, synthesizer |
Wayne Shorter | soprano & tenor sax, lyricon |
Alejandro "Alex" Acuña | percussion, congas on 2,3,4,5,7 |
Don Alias | percussion, congas on 1,6 |
Alphonso Johnson | bass on 1,3,4,5,7 |
Jaco Pastorius | bass on 2,6 |
Chester Thompson | drums on 3,4,5,6,7 |
Narada Michael Walden | drums on 1,2 |
76 年発表の第七作「Black Market」。
内容は、シンセサイザーの特異なエレクトリック・サウンドからアフリカンなビートとともにエキゾチズムのエキスとグルーヴを抽出した挑戦的なフュージョン。
メロディアスなショーターとフリーでエキセントリックなザヴィヌルの対比と連携を基本にした、強靭なリズム・セクションがサポートする楽曲、演奏スタイルは変わらない。
ただし、テーマやメインのバッキングとなる凝ったキーボード・サウンドの存在感が強いため、メロディアスなテーマがあっても「お気楽リラックス・フュージョン」にならず、第一作と同じメカニカルでスペイシー、未来っぽい感触の音楽になっている。
キーボードだけ聴いていると、完全にプログレである。
変拍子や音響志向の現代音楽じみたところもある。
また、リズム・セクションが屋台骨を支えるのにとどまらない主張を見せる。
特にベースにそれが顕著だ。
メンバーの入れ代わりがあってレコーディングがたいへんだったようだが、それを感じさせない、これまで以上に一貫するイメージを与える作品である。
みんな大好きジャコ・パストリウスは本作の収録の途中から参加。
わたしがかつてフュージョン嫌いだった理由は、その音楽に官能性を嗅ぎつけたからだと思う。抽象的で数学的な美に魅せられていた子どもは得体のしれぬ艶めかしさに拒絶反応を示したわけだ。無論、知らず知らずそれに溺れてしまいそうな恐怖を感じたからである。晩稲だったのね、ボク。
今はわりと好き、ちょっと遅いか。
「Black Market」(6:30)
「Cannon Ball」(4:40)
「Cibbaltar」(7:49)
「Elegant People」(5:03)リリコン、アコースティック・ピアノをフィーチュア。
「Three Clowns」(3:27)
「Barbary Coast」(3:10)
「Herandnu」(6:38)
(CK 34099)
Joe Zawinul | electric piano | Herbie Hancock | electric piano |
George Davis | flute | Hubert Laws | flute on 4 |
Woody Show | trumpet | Jimmy Owens | trumpet on 3 |
Earl Turbinton | soprano sax | Wayne Shorter | soprano sax on 4 |
Miroslav Vitous | bass | Walter Booker | bass |
Joe Chambers | percussion | Billy Hart | percussion |
David Lee | percussion | Jack Dejohnette | melodica on 3, percussion on 4 |
70 年発表のアルバム「Zawinul」。
先ごろ亡くなったジョー・ザヴィヌルのソロ作品。
マイルス・グループを経た WEATHER REPORT 前夜の名作である。
「In A Silent Way」、「Bitch's Brew」を生み出した才能の一つが、自らの音楽観を内省的に現した作風は、エレクトリック・ピアノと管楽器、アコースティック・ベース、パーカッションによるきわめて幻想的なものであり、この音楽性はそのまま WEATHER REPORT の第一作へと引き継がれてゆく。
プログレ・ファンには、1 曲目に SOFT MACHINE の酩酊感を呼び覚ますリフの原点を感じてほしい。
また、KING CRIMSON の「Islands」のファンには絶対のお薦め。
混沌と美が矛盾なく、ほどよい抑制とともにキャンバスに描かれています。
「Doctor Honoris Causa」(13:45)二つのエレクトリック・ピアノと管楽器が綾なすコズミックな幻想世界。
「In A Silent Way」(4:47)マイルス・ディヴィスの同名作の再演。きわめてプライヴェートなニュアンスをもつ美しい作品である。
「His Last Journey」(4:37)
「Double Image」(10:37)1 曲目と対を成す「動」のアスペクト。デジョネットの力強いドラミングが印象的。
「Arrival In New York」(1:59)一種のミュージック・コンクレート。
(ATLANTIC 1579-2)