RIFF RAFF

  イギリスのジャズロック・グループ「RIFF RAFF」。ロッド・クームスのプロジェクト "STRABISMUS(CRIKEY)" を母体に MARK-ALMOND を脱退したロジャー・サットンとトミー・アイアによって 72 年に結成。二枚の作品を残す。アイアは、スタジオ・ミュージシャンとして数多くのアルバムの録音へ参加するも、2001 年逝去。またサットンは中期 NUCLEUS へと加入。

 Riff Raff
 
Tommy Eyre organ, Rhodes, 6/12 string guitars, concert & bass flute, vocals
Roger Sutton fretless bass, double bass, 6/12 string guitars, vocals
Pete Kirtley guitar(Telecaster), vocals
Aureo De Souza drums
Bud Beadle saxes

  73 年発表のアルバム「Riff Raff」。 前半は、一曲目で予兆はあるものの、密やかにしてアメリカナイズされた爽快感とほのかにジャジーなグルーヴも散りばめられた垢抜けたサウンド。 特徴的なのは、アコースティック・ギターが大きくフィーチュアされたフォーク風味が強いところだろう。 これは、MARK-ALMOND の流れかもしれない。 ブリティッシュ・ジャズロック特有の「ねじれ」はさほどでもなく、繊細だがごくストレート・アヘッドであり、独特の秘密めいたリリシズムや感傷がほんのりと浮かび上がる。 しかし、アルバム終盤で事態は一変する。 エンディングの二曲は、グルーヴィなサウンドの内側で抑えていたエネルギーがほの暗く燃え上がる、極上のジャズロック。 特に、最後の大作「La Meme Chose」は、RETURN TO FOREVERWEATHER REPORT と同じく、フリー・ジャズを経た後の知的なエネルギーの放出を感じさせる、ジャズロックの大傑作だ。 エキサイティングなインタープレイとサックス、ヴォーカルのテーマが交錯し、ひたすらスリリングである。 アイアとサットンの共作であるこの二作こそが、グループの目指す音楽と思っていいだろう。 MARK-ALMOND および多様なセッション・ワークで培ったサウンドで、ジャズロックにクールでアダルトなロマンティシズムを吹き込み、オリジナリティを発揮している。

  「Your World」(7:39)サットン作。アコースティックな音をフィーチュアした気だるくブルージーなジャズロック。 サットンの絞り出すようにソウルフルなヴォーカルとアコースティック・ギターの調べが、MARK-ALMOND の名作「The City」を思わせる。ヴァースからサビへのメロディのさり気ない冴え。中盤、ギター、エレクトリック・ピアノ、ベース、ドラムスの密やかながらもシビアなやり取りの中からワウ・ギターが浮かび上がるところがカッコいい。クールなフルートもいい。

  「For Every Dog」(3:46)カートレイ作。一転して PENTANGLE を思わせる都会的にしてフォーキーな弾き語り作品。再び、二つのアコースティック・ギターの調べと儚げなハーモニーが繊細な音を紡ぎ出す。微妙なスワンプ風味含め、英国らしい侘しさのある音だ。 このフォークとジャズのシームレスな結合は英国ロックの重要な一面である。

  「Little Miss Drag」(3:12)サットン/ソープ/リチャードソン共作。 アコースティック・ギターのコード・ストロークが心地よいパストラルなフォーク・ロック。 昔語り風の頼りないヴォーカルはアイアーか。垢抜けない STACKRIDGE、つまりド田舎の THE BEATLES。 ラフなピアノのビートがいい。

  「Dreaming」(4:32)カートレイ作。 ラテン風の開放感と欧州的な翳りが一つに交じりあう、英国ロックらしい多面性を誇る名作。 冒頭からエレクトリック・ピアノ、オルガンがムードたっぷりに現れる。 切り返すギターのオブリガートがカッコいい。 間奏ではアコースティック・ギターのストロークとさりげないソロ・ギターが雰囲気を作る。 つややかなサックスが登場すると演奏は一気にパワフルで密度の高いジャズロックと化して、ジャジーなピアノ・ソロを導く。 このシャープでしなやかなアンサンブルの動きとヴォーカル・ハーモニーに象徴される繊細で幻想的な味わいの対比がドラマを描いている。

  「Times Lost」(4:15)アイア作。 アコースティック・ギターの丹念なアルペジオが力ないヴォーカルを支え、行き場のないまま感情を揺らがせるアーバン・フォーク作品。 哀愁と幻想が入り交じり、ひたすら内向的。 この気持ちに寄り添うようでも突き放すようでもあるフルートがすばらしい。 ダブル・ベースのアルコやピチカートもひっそりと歌唱を支える。 曇りがちの空をにらんでいるような作品だ。

  「You Must Be Joking」(7:29)サットン/アイア共作。 ファンキーにして気怠く薄暗いユーモアの漂う即興的なジャズロック。 サックスとオルガンによるネジを巻くようなお下劣ユニゾン、そして、ネジが緩んでいるのか一杯引っかけているのかラリラリ気味のヴォーカル。 中盤、クールなエレクトリック・ピアノとコントラストする、サイケデリックで破裂気味のギター・ソロがいい。 WEB/SAMURAI から JONESY、最初期の KING CRIMSON に通じる世界である。(アグレッシヴなアコースティック・ギターのプレイやいななくようなテナー、バリトン・サックスのせいか) 終盤のエレクトリック・ピアノのソロはストイックにして大胆な名演。 ヴォーカルはサットン。いかにも英国プログレらしい乱調美である。

  「La Meme Chose」(12:12)サットン/アイア共作。 大胆な序章が内容を象徴する RETURN TO FOREVERSOFT MACHINE に並ぶ野心的ジャズロック。 ここでも内省的なブルーズ感覚と開放感のバランスがみごと。 音を発散させずにキャッチーなサビに捉え込む辺りのセンスがすばらしい。 抑制された即興パートの味わいも格別。 これは名品でしょう。

(RCA Victor SF8351 / DISC 1952 CD)

 Original Man
 
Tommy Eyre keyboards, string synthsizer, vocals
Roger Sutton bass, cello, vocals
Pete Kirtley guitars, vocals
Aureo De Souza drums, percussion
Bud Beadle saxes
Steve Gregory sax, flute, clarinet
Jo Newman vocals on 4
Joe O'Donnel viola on 1

  73 年発表のアルバム「Original Man」。 内容は、R&B テイスト、管楽器の拡充とともにインストゥルメンタルの密度を上げたプログレッシヴなジャズロック。 クールに抑制された表情とソウルフルにバウンスするプレイが自然に交差し、いつしかテンションが上がってゆくカッコいいアルバムである。 ファンキーなのは間違いないが、あくまでも色合いは渋くくすんでいる。 なのに不思議なほど情熱的。 技巧で迫る姿勢と R&B への傾倒度合いは前作以上だろう。 そしてデリケートなハーモニーが寄り添うヴォーカル・パートは、意外なほどにファンタジックであり、英国ロックらしいマジカルな魅力を放つ。 サックス、フルートはもちろん、アイアのエレクトリック・ピアノ、ハモンド・オルガン、ストリングス・シンセサイザーとカートレイのギターも冴えたプレイを次々と放つ。 アメリカンな土臭さ、黒人音楽っぽい汗の香りと即興主体のジャズ・インストゥルメンタルが相乗効果を上げ切れていないところだけが弱点か。

  「Original Man」(7:40)カートレイ作。 ヴォーカル表現などアメリカンな R&B への寄せ方が日本のミュージシャンと似ている。 後半のインストゥルメンタルは、ダークにしてファンキー、そして、あろうことかサイケデリック。 つまりファンクな PINK FLOYD である。 シンセサイザーの威力大。

  「Havakak」(6:06)クラドック/カートレイ/ギブスン作。 管楽器をフィーチュアした破天荒なジャズロックの傑作。 変拍子、リズム・チェンジを交えつつダイナミックに迫る。 中盤は、クリス・スぺディング・タイプのギターと達者すぎるエレクトリック・ピアノ、オルガンがアグレッシヴなリズム・セクションにドライヴされてハイ・テンションの演奏を繰り広げる。 BS&T ばりのアヴァンギャルドさと RETURN TO FOREVER も真っ青のパワーを誇示しながらも、どこまでもリリカルである。 木管の音がユニークだ。 シメのハープシコード(!)まで、大胆に突き進む。 総体としては「ロマンティック」というべきか。

  「Goddamm the Man」(6:09)サットン作。 アコースティック・ギターのストロークとパーカッションがノリを支える、土臭くも粘っこくファンキーな作品。 THE ROLLING STONES に通じるグルーヴである。 きびきびとしたリズムがルーズで脂ぎったタッチを支える。 押し出しのいいエレクトリック・ピアノがソウル・ミュージックをジャズロックさせている。

  「In The Deep」(3:59)カートレイ作。 リリカルにして抑制されたバラード。 クールにして繊細な風情に MARK=ALMONDGREENSLADE を思い出して正解。 リード・ヴォーカルはジョー・ニューマン。 ファルセットのハーモニーあり。 ソウルっぽいようでモノクロームの陰影あり。

  「The Waster」(5:09)サットン作。 サックスをフィーチュアした本場ものと区別がつかない気怠くソウルなバラード。 濃いです。

  「Tom's Song」(4:22)アイア作。 クラシカルなピアノ、ストリングス、フルートがフィーチュアされた現代音楽風味のある弾き語りバラード。 微妙におちつかず終始謎めいているのは、独特の和声進行のせいだろうか。 斜め上から切り込むフルートが現実味をかき消す。 ロマンティックにして幻想的。

  「Speed」(9:16)サットン作。 南部っぽさとソウル・フィーリングの交じり合った重厚な作品。終盤に向けて密度が上がってゆく演奏がカッコいい。 インストゥルメンタルを極めるのがこのグループの目指す方向だったと思う。

(RCA Victor LPL1 5023 / DISC 1953 CD)


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