イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「WEB」。 67 年 J.L.WATSON & THE WEB として結成。 70 年デイヴ・ロウソン加入後に一作、そして、71 年、若干のメンバー交代とグループ名変更を経て、さらに一作発表する。 管楽器とオルガン、ヴァイブらをフィーチュアしたジャジーなサウンドであり、ドスの効いたヘヴィさとカラフルで線の細いところが並存(jaxtapose ですな)する。 ひねくれたメロディと繊細な感傷は、どうしようもなく英国風。 英国ジャズロックの変り種。
Dave Lawson | organ, piano, harpsichord, mellotron, vocals |
Lennie Wright | drums, vibes, tympani, congas, guiro |
Kenny Beveridge | drums, bongoes, woodblock, jawbone |
Tom Harris | sax, flute, tambourine |
Tony Edwards | guitars |
John Eaton | bass |
WEBの第三作である 70 年発表の「I Spider」。
ジャジーなまろやかさとルーズなヘヴィさを、ネジが外れ気味のおセンチなヴォーカルがまとめあげた、ブリティッシュ・ロックの傑作。
粋で洒脱で反骨精神旺盛なロンドン気質に、成りあがりの野心と 70 年代初期の猥雑な空気が化学反応した、とてもユニークなサウンドだ。
ジャジーで繊細なアンサンブルに、時おりアヴァンギャルドな表現が突出する面白さ。
管楽器がフィーチュアされているのだが、決して体育会系のブラス・ロックではない、インテリジェントな音である。
どの楽器もしっかと見せ場を作り、互いに背を向けているようで、アンサンブルはみごとに統率が取れている。
こういう粋さが身上のようだ。
こまめにファズをオンオフするギター、多彩にして適切なキーボードなど、音色には配慮が行き届いている。
打楽器奏者が二人いるところもユニークだ。
特に印象的なのは、ヴァイブとハモンド・オルガン。
作曲はすべてデイヴ・ロウソン。
プロデュースはロビン・クリフォード。
この音が気に入った方には、フィンランドの TASAVALLAN PRESIDENTTI というグループもお薦めします。
「Concerto For Bedsprings」(10:10)五章構成の組曲。
ブラスが強烈にブローする凶暴な第一章「I Can't Sleep」。
渦を巻くような 8 分の 6 拍子のリフレインで悪酔いしそう。
第二章のジャジーで都会的なインストゥルメンタル「Sack Song」は、サックスとロウソンのピアノがフィーチュアされた逸品。
メローでこなれたフュージョン手前のジャズロックである。
第三章「Peaceful Sleep」は、音は二章の流れを汲む穏やかな歌もので、歌詞内容は一章と照応する。
タイトル通りヴォーカルは眠たげ。
第四章「You Can't Keep The Good Life」は、再びブラスとギターのユニゾンによるヘヴィなリフが突き上げる乱調ブギー風のブラス・ロック。
縦ノリのアクセントが強烈だ。
ピアノによるビート感、感電しそうなファズ・サウンド、パンチだけはすごいサックス・ソロ。
調子っ外れなヴォーカル・メロディがカッコよく聴こえるところが「ロック」である。
なかなかの衝撃。
終章「Loner」はヴァイブが響く穏やかなエピローグ。
あまりにあっさりしたエンディングだが、これもポリシーかもしれない。
全体を通すと、ぶっ飛んだメロディ・ラインや挑発的なリフが不思議な後味として残る大作である。
「I Spider」(8:31)幻想味たっぷりの陰鬱なスロー・バラード。
眠りを誘うように神秘的なオルガンとサックスのうねりが続き、サビでは、ファズで毛羽立ったギターの唸り声と冷静なオルガン、ヴァイブの余韻が好対照を成しつつ、鋭く切り込む。
ヴォーカル・パートから、サックスとオルガンのユニゾンによるクールな間奏へと渡り、クライマックスは、テーマをなぞるクールなアルト・サックス・ソロ、そしてけだるいヴォーカル・パートへと回帰する。
テーマ部のアンサンブルとぐわっと牙を剥くハードなコーラス部、そしてサックス、オルガンのソロのみでできたジャズ・タッチのシンプルな構成ながら、巧みなドラミングで起伏をつけており、一定の緊張が続いてゆき決してだれない。
バッキングや間奏部では、メロトロンが控え目にいい音を出して、沈み込むようなアンサンブルに彩りを添えている。
こういう地味な曲好きなんです。
寝る人もいるだろうな。
「Love You」(5:21)表情豊かでドラマティックなビッグバンド風ブラス・ロック。
メロトロン・ストリングスとアコースティック・ギターが憂鬱にたゆとう挽歌風のイントロダクション。
つぶやきのようなヴォーカルと無表情なピアノが次第に演奏にジャジーで豊かな深みと広がりをもたらす。
きわめて幻想的なオープニングだ。
ピアノの和音の一閃、そして長いブレイクを経て、一転、パワフルなブラス・セクションと歪んだベースが力強く噴出して演奏が走り出す。
ブラスとユニゾンするヴォーカルにもソウルフルな張りがあり、高揚している。
飛翔前の力を蓄えるような B メロ・パート。
地響きをたてて駆けあがってゆく。
ここでも、メロトロンがヴォーカルにぴったりと寄り添っている。
ファズ・ギターが前面に出、ハモンド・オルガンとブラスのユニゾンが痛烈に煽る。
エンディングも壮大だ。
ドラムス、強烈なファズ・ベース、ファズ・ギターが強烈な疾走型サウンドであり、吹き上げるブラスが一気呵成のハードロックの直線性に豊かな色艶を加えている。
オープニングとメイン・パートの落差も面白い。
スリリングなハード・チューンだ。
「Ymphasomniac」(6:43)偏屈な趣味と自由闊達な演奏が同居するソウルフルなインストゥルメンタル。
ピアノとサックスのかけ合いによる一癖あるリフレイン。
ハモンド・オルガンに煽られて、演奏はどんどん捻れてゆく。
即興風のミニマム・インストゥルメンタルである。
達者なドラミングとともにおどろおどろしいメロトロンが響くかと思えば、オルガンがリフレインに変化をつけ、アフロなパーカッション・ソロが始まる。
唐突な展開だ。
シンバルの一閃でヒップホップ調のリズムがすべてをリセットする。
ここ中盤からは、管楽器とオルガン、ピアノのリードする安定感抜群のゴキゲンな演奏がスタート。
ファンキーにして荒々しく 8 ビートを雪崩打つジョン・マーシャル風のドラムス、アッパーに踊るサックスがすばらしい。
クラブ系にも十分通用しそうだ。
万を辞したハモンド・オルガンのオブリガートは熱っぽくもクール。
オープニングのアヴァンギャルドな展開で唖然としたことも、この後半のイケイケな演奏で忘れてしまう。
タイトルは「不眠症」だそうですが、本当に英語なんでしょうか。
この内容で 1970 年ですからね、昨今の音楽がいかに頭打ちかがよく分かります。
現代音楽風味もあるクラブ向けインストゥルメンタル。
「Always I Wait」(8:10)即興をぶち上げたへヴィでサイケデリックなジャズロック。
イントロダクションは、ファズ・ギターによる苛ついたリフである。
すぐにサックス、オルガン、ヴァイブが絡んで、まろやかな響きを加えるもギターも執拗に唸りつづける。
おだやかなブラス、ファズ・ギターに支えられた酔いどれ系ヴォーカルは、ひねくれたメロディ・ラインを気まぐれにふらつくが器楽との相性はいい。
ジャジーだがサイケデリックで逸脱感が半端ない。
間奏部では、ハモンド・オルガンによるジャジーだが重くとらえどころのない即興ソロとブラス、ヴァイブのメイン・リフとが交互に現れる。
ベースも活発に反応して動き回るが不安定な世界である。
ヴァイブが一くさりリリシズムを演出するも、ギターとハモンド・オルガンが妙に軽薄に応じて、まとめはジャジーなギター・ソロが努める。
ヴォーカルも戻ってくるが、やはり気まぐれなセッション風のパフォーマンスだ。
ヘヴィなギター・リフが息を吹き返し、レガートなオルガンと対比するようにヘヴィなメイン・リフを再現する。
酔いどれヴォーカルとともにけだるい演奏が続いてゆく。
ファズ・ギターのエキサイト、ヴァイブのさびしげな響き、なめらかなブラス、渦を巻くようなオルガンの響き。
すべては散りばめられて、大きな渦を巻きながら曖昧に消えてゆき、取り残される。
宙ぶらりんな終わりだ。
落ちつきどころのない進行で、どこか散漫なイメージの作品である。
ドラッギーな悪夢調である。
どこを取っても音が凝縮されていて手応えがあるが、つなげるとボンヤリしてくる、不思議な曲だ。
力尽きたのか演出なのかは定かでない。
繊細さとヘヴィネスが同居する、一筋縄ではいかない曲者ロック。
わざとらしい歌メロがどうしても耳について離れないということは、既にデイヴ・ロウソンの術中にはまってしまったのかもしれない。
単にヘヴィ・ロックにブラスとヴァイブを混ぜ込んだだけでは、到底出てこない音である。
ブリティッシュ・ロックとはいかなるものかを追い求める方には、絶対のお薦め。
もちろん、ジャズロック・ファンも必聴。
個人的には、シンセサイザーがなかった頃の方が、アンサンブルの音色は豊かだったのかもしれない、という思いにとらわれる。
(ERC-29230)
Dave Lawson | vocals, keyboards |
Tony Edwards | guitar |
Lennie Wright | vibes, drums, percussion |
Kenny Beveridge | drums |
John Eaton | bass |
Tony Roberts | sax, flute, clarinet |
Don Fay | sax, flute |
グループ名を「SAMURAI」に変更後、71 年に発表されたアルバム「Samurai」。
サックス奏者が脱退し、新たに二人の管楽器担当が加入した。
この変化に伴って、ブラス・ロック色が抑制されて、より純ジャズ要素が強まったともいえるだろう。
内容は、オルガン、サックス、フルートら管楽器、ヴァイブなどをフィーチュアし、ひねったメロディを毛羽立ったサウンドで守り立てる
WEB の第三作の前作の延長上にある作風である。
そしてそのサウンドがさらに木目細かくコントロールされており、キーボードの比重を高めた知的でアヴァンギャルドなタッチの突出とともに青臭さは微塵も感じられなくなった。
ジャズ、R&B を基本に MARK-ALMOND のような都会的でアンニュイなムードと、アンビエント・サイケのような空ろさ、そしてヘヴィなブラス・ロックの中間点にあるような、きわめて個性的な音である。
最初期の KING CRIMSON から、フォーキーで深刻なセンチメンタリズムを取り除いたような印象もある。
ポップス好きにはこちらかも。
ロウソンのリード・ヴォーカルも、頼りなげなのにタフでどこか怪しげ。
結局、この「正体不明さ」こそが特徴なのだろう。
全曲ロウソンの作曲。
プロデュースはヴィブラフォン奏者のレニー・ライト。
71 年のライヴ録音のボーナス・トラックには、前作「I Spider」からの曲も入っている。
サックスは、かなりの使い手だ。
「Saving It Up For So Long」
野太いベースが刻むビートとオルガン、ギターの無表情なリフが導く、ヘヴィにして醒め切ったような冷気の漂うジャズロック。
イコライザでトリミングされたヴォイスと、ゆらめくヴァイブ、吹き上げるジャジーなサックス。
珍妙なかけあいもある。
アメリカには絶対無い音です。
「More Rain」メランコリックにしてねじくれた幻想的ラヴ・ソング。
ツイン・フルートの妙。
ほのかなラテン風味とクールダウンの魅力。
重心を支えるベースの独特な響き。
名曲。
「Maudie James」
ファズ・ギターが唸るブルージーでヘヴィなジャズロック。
しかし、基本は前曲と同じメランコリックな世界を漂う。
パラパラとアラレのようなピアノ、ジャジーなサックスの唸り、ヴァイブの点描がフィーチュアされる。
パーカッションも効いている。
「Holy Padlock」
遮二無二突き進むハードなジャズロック。
サックス、ピアノが哀しげに歌うイントロから、一気に無骨なリフをたたみかける不恰好なヘヴィ・ロックへと突き進む。
半音階風の奇妙なメロディが、ストレートなサビへと花咲くところがカッコいい。
ブラス・ロック調のストレートな高揚がカッコいい。
パーカッションを効かせた挑戦的なオルガン・ソロも短いが存在感あり。
GREENSLADE へ直結するスリリングな名作。
「Give A Little Love」
攻撃的なワウ・ギター、マッチョなサックスらがフィーチュアされたパワフルな R&B 調ブラス・ロック。
ソウル・ミュージック的なセンスが全開になったヘヴィ・ロックである。
黒いです。
とぐろを巻くようなオルガンといななくサックスのせめぎあい、太く力強いドラミングが印象的。
「Face In The Mirror」
荒々しいサウンドが取り囲むも、基本はジャジーでドリーミーな歌もの。
メイン・パートの 8 分の 7 拍子を用いたワンノート風のテーマは奇妙な味わいだが、その底辺にはジャズ・タッチが横溢し、優美なイメージである。
一方間奏では、ノイジーなテープ逆回転ギターがシュールなイメージを強め、アフロなドラミングとオルガンがフリージャズ風の野卑な調子で炊きつける。
いわば、STEELY DAN と KING CRIMSON の接点。
おそらくサックス奏者は、本格的なジャズのプレイヤーなのだろう。
エンディングは、スタン・ゲッツばりである。
シンフォニックなイントロ/アウトロの丹念なドラミングはマイケル・ジャイルズ風。
「As I Dried The Tears Away」
ヴァイブをフィーチュアし、轟々としたトゥッティを叩きつけるも、虚脱したようなロウソンのヴォーカルが活きるアヴァンギャルドなバラード。
間奏部は巨大でありきわめて野心的な演奏である。
オルガン、ギターのフレーズや、テーマのうっすらとした不安定な色調は特有のモードのせいなのだろうか。
テープ逆回転を用いたカタストロフィックな演出もすごい。
オルガンも猛り狂う。
ヘヴィなトゥッティはジャズ・ヴォーカルを気取るロウソンを叩き潰す勢いだが、最後までこのヴォーカルの危うく夢想的なムードが支配的である。
以下のボーナス・トラックは 71 年録音。拍手の数からしてスタジオ・ライヴではと思っている。
「Give A Little Love」管楽器セクションなしの演奏のようだ。ギターとオルガンでカバーしている。
(予算の関係で管楽器奏者をツアーに帯同できなかったという話もある)ロウソンが忙しそうだ。ただし、オルガン・ファンにはこれで十分。ギターは渋めのブルージーなソロも披露。
「Holy Padlock」MC によればこのライヴ録音は SAMURAI のアルバムが出る前の時期のようだ。イントロはオルガンによる。管楽器セクション不在もオルガンでカバー。もちろんギター・ソロもあり。
「More Rain」フルートの不在をワウ・ギター、ピアノが補って不足なし。みごとなアレンジ。
「Concerto For Bedsprings」WEB の作品より。オルガン主体のアレンジ。メロトロンはなし。
第一章のパワフルに叩きつけるトゥッティが管楽器不在で大丈夫かと思ったがに、まったく大丈夫。
オルガンとギターの緊密なアンサンブルと歌いながらも弾き捲くれるロウソンのセンスで乗り切る。
ヴァイブのアクセントも一層際立つ。第二章もジャジーなギター・プレイをフィーチュアしてオーケー。
第三章はオルガンのバッキング。
第四章は、ヘヴィに歪ませたギターでブラスをカバー。ギターはピックアップや音量、エフェクトを制御したプレイで、音色の色彩不足を補う。
ロウソンの個性的な歌声はライヴでも存在感あり。
「Love You」WEB の作品より。ここでのメンバー紹介の MC で管楽器奏者不在が分かる。(思えばアルバムの内ジャケの写真もメンバーは 5 人だけしか写っていない)
管楽器不在のため華やぎはないが、よりソリッドで引き締まったイメージの、ハードロック的な演奏になっている。
(LRCD 9612)