フィンランドのジャズロック・グループ「TASAVALLAN PRESIDENTTI」。 68 年、ギタリストのユッカ・トローネンを中心に結成。 74 年解散。 アルバムは四枚。 ブルージーな英国風のジャズロック・サウンド。 ライヴ・アルバムの発掘を願っています、といっていたら 2019 年、ついに発掘ライヴ盤「Live In Lambertland」が出た。 2021 年「Changing Times And Movements」に続いて、2023 年、1973 年のライヴ録音「State Visit」発表。
Frank Robson | vocals, percussion |
Pekka Poyry | soprano & alto saxes, flute, percussion |
Jukka Tolonen | guitar |
Mans Groundstroem | bass |
Vesa Aaltonen | drums |
2021 年発表の作品「Changing Times And Movements」。
初期ラインナップのライヴ・アーカイヴ。
CD 二枚組。
CD 一枚目の三曲目までは 1970 年 8 月 22 日、フィンランド、ツルクでの録音。
CD 二枚目の二曲目までは 1970 年 9 月 6 日、スウェーデン、ストックホルムでの録音
CD 二枚目の三曲目以降は 1971 年 5 月 8 日、フィンランド、ラッピンランタでの録音。
内容はヴォーカルをフィーチュアしたパワフルでダイナミック、ソウルフルでブルージーなジャズロック。
COLOSSEUM のフィンランド・ヴァージョンといっていいだろう。
ただしこちらはパワフルでしなやかな一管とギタリストの存在感が圧倒的。
終始熱っぽく汗びちょなブルーズ・フィーリングがリードする。
「Going Back」(3:38)
「Ain't Ya Coming Home, Babe」(13:31)
「Tis Me Tis You」(2:42)
「Deep Thinker」(3:04)
「Tell Me More」(4:10)
「Introduction/Driving Through」(17:25)
「Tis Me Tis You」(2:11)
「Ain't Ya Coming Home, Babe」(15:08)
「Whirlwind Nightmare」(3:42)
「Deep Thinker」(4:05)
「The Old Woman」(6:31)
「Impressions Of India」(5:34)
「Gigold」(3:29)
(SRE386CD)
Jukka Tolonen | guitar |
Frank Robson | vocals, piano, organ |
Juhani Aaltonen | saxes, flute |
Vesa Aaltonen | drums, percussion |
Mans Groundstroem | bass |
69 年発表の第一作「Tasavallan Presidentti」。
内容は、ずばり同時期のブリティッシュ・ロック。
ブルーズ・ロックをベースに、ジャズ・テイストを交え、管楽器や鍵盤も多用してギター・ソロも充実させた演奏である。
TRAFFIC、COLOSSEUM ほどの迫力は到底ないが、さまざまな音楽が奔放に跳ね回り、若々しく大胆なイメージがある。
リフ主体の演奏にソロを交えてゆくジャズ・スタイルを基本に、思い切りジミヘン調のギター・ソロ、フリーに近い暴れ方をするサックス、ブルーズ・ハープの代役のようなフルート、挙句はシンフォニックに高まるオルガンなどいかにもプログレッシヴな内容である。
CREAM のような快調なブルーズ・ロックへ管楽器がはっしと切り込むスリリングなナンバーから、フルートを用いた PROCOL HARUM 風(そう思うとギターがロビン・トロワーに聴こえてくる)のバラード、果てはポエトリー・リーディングまで、60 年代末の空気がたっぷりと入っている。
そして、歌メロのテーマは、ブルーズよりはややメロディアスでピースフルなものになっている。
また、ヴォーカルは英国人らしく、英語は自然。
WIGWAM のジム・ペンブローク同様、ゲイリー・ブルッカーを思わせるソウルフルな悪声型なのは、偶然なのだろうか。
短いブリッジ風のイントロをちりばめたアルバム作りなど、アーティスティックな工夫はみられるが、音楽そのものは、まだビートポップ色が強く、思いほどは整理され切っていない。
しかし、それでも、ジャズロックの芽は、しっかりと育ち始めている。
聴きものは、縦横無尽に弾きまくるトローネンのギターだろう。
ブルーズ・ギターのエネルギッシュなソロから、ウエス風オクターヴが冴えるジャズ・ギターまで、堂に入ったプレイを見せている。
10 曲目は、北欧ジャズの香りもする野心的なジャズロック・インストゥルメンタル。
エンディング・ナンバーもセンスよいピアノ・ソロである。
プロデュースはオットー・ドナー。
「Introduction - You'll Be Back For More」(6:15)
「Obsolete Machine」(3:54)
「Who's Free」(3:28)
「I Love You Teddy Bear」(3:39)
「Crazy Thing Nr 1」(0:45)
「Drinking」(3:14)
「Crazy Thing Nr 2」(0:14)
「Driving Through」(4:31)
「Ancient Mariner」(3:25)フルートのアドリヴが取り巻く「老水夫行」の朗読。
「Wutu-Banale」(6:37)
「Woman Of The World」(2:52)
「Roll Over Yourself」(2:26)
「Thinking Back」(3:01)
「Solitary」(3:43)ボーナス・トラック。
「Deep Thinker」(2:42)ボーナス・トラック。
(LRCD 7)
Frank Robson | vocals, organ |
Pekka Poyry | saxes, flute |
Jukka Tolonen | guitar |
Mans Groundstroem | bass, organ |
Vesa Aaltonen | drums, percussion |
70 年発表の第二作「Tasavallan Presidentti」。
スウェーデン盤であり、楽曲には第一作の再録もある。
内容は、パワフルな管楽器とギターを活かした COLOSSEUM や SOLID GOLD CADILLAC 風の演奏に PROCOL HARUM 風のスワンプ・テイストを交えたジャズロック・サウンド。
ユニークなのは、逞しく洗練された演奏力と繊細なセンチメンタリズムが矛盾なく交わるところ。
新任管楽器奏者、ペッカ・ポイリの卓越したプレイが光る。
牧歌調からアーバンでブルージーなタッチまで多彩な表現で演奏をリードしている。
フルートとエレクトリック・ギターのインタープレイが滅茶苦茶カッコいい。
トローネンはアコースティック・ギターさばきもみごと。
オルガンを強調したアレンジがあるのは、当時の流行への気配りか。
7 曲目のような郷愁サイケもいい。
英国ロックへの憧憬こそ露なものの、全体としては音楽的に優れた、楽しめるアルバムだと思う。
「Introduction」(4:00)再録。
「Deep Thinker」(2:30)再録。
「I Love You Teddy Bear」(2:50)再録。
「Struggling For Freedom」(4:40)
「Tis Me Tis You」(1:54)
「Weather Brightly」(3:15)
「Sinking」(6:58)
「I'm Going Home Once Again」(3:58)
「Tell Me More」(3:51)
(4E 062-34264 / 7243 538778 2 8)
Jukka Tolonen | guitar |
Eero Raittinen | vocals |
Pekka Poyry | saxes, flute |
Vesa Aaltonen | drums |
Mans Groundstroem | bass |
72 年発表の第三作「Lambert Land」。
ヴォーカリストが交代し、管楽器奏者として夭折の名手ペッカ・ポイリが加入。
ギタリスト、トローネンは作曲でもリーダーシップを発揮し、ギターと管楽器をフロントとしたインストゥルメンタル中心のジャズロック色が大いに強まった。
英国ロックと同じく、アートロック的なアプローチでロックとジャズを混交しているが、こちらはプレイヤーのジャズの素養のレベルが高いせいか、とにかくファンキーでスリリングでキレもいい。
けたたましく突っ走っても余裕があり、神秘的な場面も演出も冴えている。
COLOSSEUM ほど骨太ではないが、音楽的な感覚は十分に匹敵している。
それでいて、フォーキーな幻想性によるしっとりとした抑えも効いている。
加工されすぎない、つまり、生っぽい素朴さをもつ音も魅力だ。
一筋縄ではいかない多面性、意表を突く大胆な展開も盛り込んでいて、英国ロック・ファンには、たまらない逸品でしょう。
冒険心あふれる芸術性を感じさせるロックであり、NEON、DAWN レーベルあたりのジャズロック・サウンドを期待して正解です。
タイトル・ナンバーは、スペイシーなエフェクトを利用したファンタジックな作品。
メロトロン(あるいは音質調整したハモンド・オルガン)も聴こえるようです。
プロデュースは、サム・チャーターズ(Samuel Charters、なかなか変わった経歴の人です)。
「Lounge」(8:25)クリス・ファーロウばりの男臭いヴォーカルをハイテンションかつ肌理細かい器楽が取り巻くジャズロック。
フルートとオルガンによるシリアスなバッキングの妙。
しなやかなサックスと豪快なワウ・ギターのスリリングなインタープレイには熱気があふれる。
ベースも唸りを上げて疾走。
しかし、これだけエネルギッシュなのに、インストゥルメンタル・パートにはサイケデリックでアブストラクトな非現実感が強い。
終盤のアコースティック・ギターのコード・ストロークはバッキングにもかかわらず妙にカッコいい。(初めて人間臭さが現れたということか)
COLOSSEUM と共通するテンションと技巧、そして隙間が見えるような限られた音数で緊張感を演出するスタイルが初期 KING CRIMSON にも通じるのでは。
同時にいくつもの顔を見せる不思議な作品だ。
「Lambertland」(6:59)
デイヴ・ロウソンの WEB、SAMURAI を思い出させる幻想的な作品。
サイケデリックな虚無感と独特のギクシャク感のある茫洋感にあふれる。
なめらかに走り出す瞬間の切れ味がすばらしくいい。
ヴォーカルにからむサックスのオブリガートも絶妙。
「Celebration Of The Saved Nine」(3:33)細かなパッセージが重なり合い反応しあう挑発的なフリージャズ系ジャズロック小品。
インストゥルメンタル。テーマはゆるくてナンセンスな感じだが、演奏そのものはシャープでハイテンションだ。
「The Bargain」(7:17)リフで駆動し、即興風のプレイの連続で彩るブルージーなジャズロック。
忙しないリズムが間断なく走り、ヴォーカルがきっかけを作ってはサックス、ワウ・ギターが反応する。
単調なようでいて、ひそひそと細やかに展開する。
「Dance」(5:57)フルートとワウ・ギターがクラシカルなアンサンブルも交えながら互いに負けじと疾走する作品。
二つのフルートによるバロック音楽風のアンサンブルもあれば、爆発的なワウ・ギター・ソロもあり。
デリケートな表現においても、逞しさというか野趣が際だつ。
インストゥルメンタル。
「Last Quarters」(8:14)フルート、ピアノをフィーチュアしたフォーク・タッチの作品。
テーマとなるリフにセンスを感じる。
(LRCD 60)
Jukka Tolonen | guitar, keyboards |
Eero Raittinen | vocals |
Pekka Poyry | saxes, flute, pianos |
Vesa Aaltonen | drums, percussion |
Heikki Virtanen | bass |
74 年発表の第四作「Milky Way Moses」。
WIGWAM へ加入したマンス・グランドストロムに代わって、ヒッキ・ヴィルタネンがベーシストとして加入。
作詞には、同じく WIGWAM のジム・ペンブロークが名を連ねる。
内容は、AVARAGE WHITE BAND のようなファンキーでエキサイティングな演奏と、メロディアスなヴォーカルが生む抜群のポップ・フィーリングをもつジャズロック。
超絶的にテクニカルでなおかつユーモラスで軽やかな TRAFFIC なぞというものがあるとしたら(ないと思うが)、こんな感じだろう。
第一作と比べて、演奏の切れとサウンドの洗練度合いは驚くほど進歩している。
ワウ・ギターやサックスが甘みと汗臭さの両方を巧みにコントロールして、絶妙のバランスでパフォーマンスを繰り広げる。
器楽はハイテンションの即興風。そして、熱気やスリルとともに常にほのかなユーモアがあって、耳にもハートにもやさしい。
タフな演奏力だけでなく、英国ロック的な大胆な音響表現やしかけを施すセンスもあり。
ソウルっぽいキャッチーなメロディとクロスオーヴァー的な緊密なアンサンブルが生むサイケデリックでポップなあじわいが印象的な傑作だ。
ヴォーカルは英語。プロデュースは、ピーター・エデン。
「Milky Way Moses」(8:18)センチメンタルなテーマを巡って、北欧ポップスらしいビロードのような管楽器アレンジ、トローネンのワウ・ギターとチャーリー・マリアーノのようなポイリのサックスによるスリリングかつユーモラスな対話、クラシカルなエレクトリック・ピアノ、ソウルフルなヴォーカルが冴える。
ヴォーカルは WIGWAM によく似ている。
テクニカルにしてまろやかな R&B 調ジャズロックの傑作である。
「Caught From The Air」(11:36)ユーモラスなテーマを経てサイケデリックなアドリヴで突き進むもダレない大作。
なんだろうこの懐の深さ。
イーロ・コイヴィストイネン作曲。
「Jelly」(3:33)クライマックスのみの抽出のような高密度のテクニカル・チューン。ギターが派手に暴れる。インストゥルメンタル。
「Confusing The Issue」(5:42)ユーモラスにしてブルーズ・フィーリングもある快調な歌ものジャズロック。ブギー風でイケイケです。
「How To Start The Day」(13:45)AREA ばりの変態的なヴォーカル・パフォーマンスに幻惑的な器楽が寄り添う悪夢的ファンク・ロック。
フルートらの繊細な陰影と弾力あるリズム・セクションのコンビネーションがおもしろい。
THE BEATLES のサイケデリック時代に通じる作風だ。
「Piece Of Mind」(4:00)
(LRCD 102)
Eero Raittinen | vocals, percussion |
Pekka Poyry | soprano & tenor saxes, flute, organ, backing vocals |
Jukka Tolonen | guitar |
Mans Groundstroem | bass |
Vesa Aaltonen | drums |
2019 年発表の作品「Live In Lambertland」。
1972 年「Lambert Land」プロモーションのライヴ録音。
CD 二枚組。
CD 一枚目は 1972 年 8 月 17 日、ヘルシンキのレストランでの録音。観客は静かめ。
CD 二枚目の 1、2 曲目は 1972 年 9 月 4 日、ヘルシンキの「Eastern Pop」コンサート(OMEGA や MODRY EFEKT も参加したらしい)での収録。3 曲目以降は 1972 年 7 月 10 日、ヘルシンキの大学での収録。
内容は北欧らしいペーソスと英国風のメランコリーを盛り込んだソウルフルで熱いジャズロック。
ライヴらしく楽曲のアドリヴ・パートを大幅に拡充。
トローネンはワウワウ・ギターで哀愁のアルペジオとグルーヴィなコードワークまでバッキングでもソロでも縦横無尽に動き回る。
そのギターとともにツートップなのがペッカ・ポイリのソプラノ・サックス。
抜群に存在感ある音色で軽やかにギターに絡みアンサンブルをリードする。
全体にハードにしてルーズな「ロック」のグルーヴあり。
ヴォーカル(英語)は B 級クリス・ファーロウながらも英語は不自然ではない。
「Celebration Of The Saved Nine / The Bargain」(13:00)
「Lounge」(12:36)ポイリは後半オルガンに従事。シャープな反復がドライヴするルーズな即興。
「Lambertland」(8:08)物憂くも幻想的な名曲。トローネンのギターの表現力がみごと。ポイリがサックスに復帰。
「Dance」(14:19)なんとなくザッパを連想する作品。いいグルーヴです。
「The Bargain」(13:40)
「Ramblin'」(11:52)ハイテンションの名演。
「Lambertland」(6:20)このヒネクレ感は英国風というべきでしょう。ヴォーカルがデイヴ・ローソンに聞こえてくる。
「Dance」(9:55)
「Celebration Of The Saved Nine」(9:23)
(SRE387CD)