ハンガリーのハードロック・グループ「OMEGA」。
62 年結成の国民的グループ。時代ごとにスタイルを変化させ第一線をキープする。
コンサートに 100 万人集まるそうです。
原語盤と英語盤の関連が複雑なので注意が必要。
Benko Laszlo | organ, piano, Moog |
Debreceni Ferenc | drums, percussion |
Kobor Janos | vocals |
Mihaly Tamas | bass, piano |
Molnar Gyorgy | electric & acoustic guitar |
99 年発表の作品「Szvit(Suite)」。
73 年発表のオリジナル LP「Omega 5」の曲順をメンバーの本来の意図通りに変更した
99 年発表のリマスター盤 CD である。
オリジナル LP とは A/B 面が逆であり、曲そのものもオルタネート・テイクだそうだ。
ジャケットは、左側が本作品、右側がオリジナル作品。
内容は、オーケストラの導入やキーボードによって、かなりシンフォニックな音作りがなされたハードロック。
ヴォーカル、ギターはヘヴィに引きずるようなハードロック・スタイルだが、オルガンやオーケストラのおかげで、PROCOL HARUM や RARE BIRD のような悠然たる広がりが生まれている。
曲調は、ハードロック、ブルーズロック、R&B など多岐にわたるが、キャリアは伊達ではなく、太く力強い本格派の演奏を聴かせる。
特徴的なのは、サビのキメでコーラスが使われること。
この時期、QUEEN 辺りもすでに人気を誇っており、影響があったのかもしれない。
NEW TROLLS などと同じく、ベテラン・グループらしいビート時代の余韻という可能性もある。
ギターやオルガンのプレイは、ブルージーな味わいと荒々しさが入り交じったみごとなものだ。
キーボードを導入することで、ハードロック、ヘヴィなシンフォニック・ロックのどちらとも解釈可能な、この時代特有の音となったといえるだろう。
そして、原語のいかつい響きもまた格別。
アルバムは、前半がタイトルと同名の組曲になっているようだ。後半もさまざまなスタイルの曲で楽しめる。
「Svizt」オーケストラを導入した重厚にして雄大な組曲。
スピード、調子の変化でメリハリをつけた、オムニバス風の内容である。
「Ebredes」(5:36)RARE BIRD の作品を思わせる厳かなオルガンと力強いリズム・セクション、ヴォーカルがリードする、シンフォニック・チューン。
堂々たるミドル・テンポと高まるストリングス。
終盤見せるジャジーな変転がみごと。
「A Malomban」(4:01)ヘヴィなベースのリフがリードし、オルガンが守り立てるハードロック。
ギターのオブリガートがクサい。
「Hazafele」(5:17)熱いオルガンとジャジーなギターによるスローなブルーズ・ロック。
厳つい原語の響きが NIEMEN を思い出させる。
ワウ・ギターのソロは濃厚そのもの。
後半はオーケストラも加わって COLOSSEUM を思わせる重厚なスケールを広がりを見せる。
クライマックス。
「A Hetedik Napon」(1:54)ここから一気に終章へ突っ込む。
ギターが吼える快速ハードロック。
メタリックなギターと対比をなすようにヴォーカルはあいかわらずハーモニーを強調。
「Delutani Szerelem」(1:19)前曲エンディングのストリングスの余韻をそのままつかまえたフィーチュアしたロマンティックな歌もの。
この落差がいい。
「Van Aki Nyugtalan」(2:07)前々曲のギターが吼える凶暴なハードロックが再現。
終曲らしく駆け上るような上昇スケールの繰り返して、インストゥルメンタルで盛り上がり、ティンパニの雷鳴にオーケストラも交差し、度迫力のエンディングを迎える。
ここまで 3 曲、なかなか見せ場を心得たエンディングとなっている。
「A Jovendomondo」(4:00)DEEP PURPLE 風のハードロック。
「Space Truckin'」のイメージ。
「En Elmegyek」(5:14)オルガンたなびく哀愁の PROCOL HARUM風バラード。
メイン・ヴォーカルはここでも賛美歌調のコーラスである。ツイン・ギターがむせび泣く。
「A Madar」(3:34)ややアメリカンなハードロック。オブリガートのシンセサイザーが印象的。
「Jart Itt Egy Boldog Ember」(4:21)クールに醒め、エキゾチックな響きもあるブルーズロック。ワウギターとファルセットのハーモニー。引きずるようなリフは低音にストリングスが入っているためか。佳曲。
「Hazug Lany」(3:03)派手めのロックンロール。初期の ELO のイメージ。
「Bucsuztato」(4:59)分厚いサウンド支えるゆったりと広がりのあるシンフォニックなロック。オルガンの調べ。力強いハーモニー。
テーマをなぞる大胆なシンセサイザー。
(PEPITA SLPX 17457 / MEGA MCDA 87614)
Kobor Janos | vocals |
Molnar Gyorgy | guitar |
Mihaly Tamas | bass |
Benko Laszlo | synthesizer, keyboards |
Debreceni Ferenc | drums, percussion |
75 年発表の第六作「Nem Tudom A Neved(Help To Find Me)」。
内容は、エレクトリック・キーボードを多用したシンフォニックなブギー・アルバム。
この時代の多くのハードロック・グループがエレクトロニクスを多用したと思うが、本作はそれを押し進め、エレクトリック・キーボードを演奏の中心にすえた、スケール感のある音作りを図っている。
おおざっぱにいえば、DEEP PURPLE や URAIH HEEP のオルガンをシンセサイザーにおきかえたようなイメージである。
ギターのリフにもシンセサイザーが絡み、厚みと広がりを加えている。
手数が多く安定感あるリズム・セクションから泣きのギターまで、かなりの水準にあるハードロック・アルバムであり、その演奏の中心にギター
を超えてシンセサイザー、ハモンド・オルガン、チェンバロが鎮座している。
そして、このキーボードがそれぞれの曲の調子をリードしている。
クラシカルな雰囲気と斬新で未来的なイメージをともにもたらすのも、このキーボードである。
かようなキーボードを活かした神秘幻想的な展開もみごとだが、それ以上に、大御所グループらしいヒット・ソング的なまとめ方にも舌を巻く。
へヴィなロックやアップ・テンポの押し捲りチューンでも、歌メロはあくまでキャッチーであり、分厚いコーラスも決まっている。
こういうツボのおさえ方はさすがといえる。
この調子だと 80 年代は、バリバリのアリーナ・ロックで乗り切ったのではないだろうか。
また、ヴォーカルがややグラムっぽいのも、発表時期を考えると興味深い。
原語のヴォーカルが気にならなければ、プログレッシヴ・ハードロックとして聴くことは十分可能である。
特に、70 年代中盤までの作品は NEKTAR やアメプロ・ハードに抵抗のない方にはお薦め。
「Nem Tudom a Neved」(7:38)
シャフル・ビートで突き進むエレクトロニック・ハードロック。
「シンセサイザー中心の DEEP PURPLE + コーラス」という典型作。
テーマは気持ちいいくらいシンプルかつポップ。
「Addig elj」(3:28)
能天気なアメリカン・ロケンロー。
「Egyszemelyes orszag」(2:32)
能天気なアメリカン・ロケンロー。
「A Buvesz」(4:49)
シンセサイザー、ハモンド・オルガンを使用した、ややグラムっぽい作品。
David Bowie か。
「Az egben lebegok csarnoka」(2:47)
ストリングス・シンセサイザーが取り囲むファンタジックなバラード。
イタリアン・ロックによくある曲調である。佳作。
「Mozgo Vilag」(4:51)
ストリングス・シンセサイザー、オルガンによるクラシカルな味付けが施されたハードロック。
曲調こそずいぶんワイルドだが、アレンジのセンスは、KAYAK にも通じるもの。
「Huszadik szazadi varoslako」(6:17)
ややスパニッシュでセンチメンタルなメロディが印象的な SANTANA 風泣きのロック。
コテコテの泣きのギターに対して、技巧的なキーボードが呼応して、いい感じの緊張感をもたらす。
アフロなパーカッションがユーモラスな効果を上げる。
エンディングが盛り上がる。
「Tuzvihar」(3:53)
逞しいビートが印象的なロケンロー。
クラヴィネットのようなキーボードによるクラシカルなアクセントあり。
ギターに引っ張られたエンディングの疾走は完全に DEEP PURPLE。
(PEPITA SLPX 17483 / MEGA HCD 17483)
Kobor Janos | vocals |
Molnar Gyorgy | guitars, synthesizer |
Mihaly Tamas | bass, acoustic guitar |
Benko Laszlo | synthesizer, keyboards, mellotron |
Debreceni Ferenc | drums, vibraphone, percussion |
79 年発表の第九作「Gammapolisz」。
エレクトリック・キーボードを駆使した SF アニメ調シンフォニック・ハードロック路線の傑作。
ギター、アナログ・シンセサイザーによるクラシカルでつややかな旋律とどぎついストリングス系サウンドによるスペイシーなハーモニーが充満した、シンフォニック・ロックらしい内容である。
SF アニメ調とはいったものの、子ども向けというよりは若者から大人向けであり、東欧らしいというか 70 年代初期のブルーズロックの名残か、男性的なヴォーカルにリードされるこってりとした哀愁が通奏低音にある。
ただその哀感がトラッドフォークのような枯れた色合いではなく、あくまで仰々しい色調で表現されているところが個性である。
サウンドのイメージは感電しそうなほどに咲き乱れるネオン・サインなのだ。(場末のネオンサインに哀愁を感じるのは大人になってからだろう)
定番であるメロトロンやオルガンや重量感あるモノフォニック・シンセサイザーは、バッキングからオブリガートまで、夜空一面にばらまかれた流れ星のように全編にギラギラ満ち満ちており、濃い目のエフェクトを利かせたギターがその空隙を縦横無尽に駆け巡る。
ドバッとあふれるストリングスの涙におぼれそうになり、レゾナンスの効いたアナログ・シンセサイザーの、時にさえずるような、時にネジを巻くようなオブリガートに泡を吹く。
そして、謎めいた原語の響きを生かした哀愁の演歌バラードを基調に、時に突発的なロックンロール(後期 ZEPPELIN 風のド派手なギター・オーケストレーションあり)、メロディアスなエレ・ポップス調、ヴォードヴィル調を巧みに交えて、チープな特撮映画のような宇宙空間とそこできらめく未来都市のキッチュなイメージをうまく作り出している。
70 年代前半から培われたプログレらしい神秘性や大胆なサウンド・メイキングが冴える一方で、アップ・テンポになったときのコーラスを効かせたギターのカッティングやクリアーなエレクトリック・ピアノなど音作りはいかにも 70 年代終盤らしい。
全体としては、泣きのギターとケバいながらも神秘的なサウンドに彩られたミドル・テンポのバラードに真価があると思う。
PINK FLOYD や NEKTAR の影響は強そうだ。
というか、銀河鉄道の頃のゴダイゴか。
英語盤も発表された。
わたしの世代の方は、「宇宙戦艦ヤマト」を思い出していただけるとイメージがつかみやすいと思います。
アルバムを一貫したテイストの演出はみごとです。
「Start - Gammapolis」(6:26)泣きのギターと歌唱による「演歌」な序章。音響処理はスペース・オペラ風。
「Nyári Éjek Asszonya」(4:31)愛らしさも演出した甘めのバラード。にじむような音響はやはり宇宙風。
「Õrültek Órája」(5:09)一転、ギターの位相系エフェクト・サウンドが渦を巻くけばけばしいブギー。
「A Szám&ucic;zött」(4:34)70 年代終盤から 80 年代にかけてのメロディアスなスタジアム系ハードポップ(JOURNEY や REO SPEEDWAGON や STYX や ASIA といったところ)に近い、ただし若干サウンドの着色が垢抜けない作品。
「Hajnal A Város Felett」(7:08)ファンタジックな効果音で彩られる神秘のスペース・ボレロ。
アナログ・シンセサイザーではなくオルガンを使っていれば「サイケデリック」といわれた音である。
かなり PINK FLOYD 的。
もう少しドラムスにキレがあればさらにカッコよくなったはずだが、それは本家も同じ。
「Arcnélküli Ember」(2:08)複数のヴォーカリストで唱和しアジテーションするオペレッタ風の作品。
「Ezüst Esô」(5:10)ピアノが導き、ストリングスがどっとかぶさる感傷的な AOR 風のバラード。
終盤のメロトロン・クワイア風シンセサイザーがアルバムを通じた統一感をきっちりと持たせている。
「Gammapolis II」(7:37)躍動感と厳粛さがともにある、感動的なフィナーレ/エピローグ。デジタルなビート感も似合っている。
エンディングのバロック音楽風のシンセサイザー・テーマがトータル・イメージをみごとにまとめている。
(PEPITA SLPX 17579)