イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「GREENSLADE」。 COLOSSEUM 解散後の 72 年、デイヴ・グリーンスレイド、トニー・リーヴスを中心に結成。 76 年の解散までに四枚のアルバムを残す。 2000 年再編、新作発表。 ロック・キーボードとして確固たるオリジナリティあるプレイを放つツイン・キーボードと、敏捷なリズム・セクションのチームワークが生む洗練されたブリティッシュ・ロック。 朝靄のように立ち昇るメロトロンがすばらしい。
Dave Greenslade | keyboards, vocals |
Tony Leeves | bass |
Dave Markee | bass on 3, percussion on 3 |
John Perry | bass on 6 |
Mick Grabham | guitars on 3 |
Steve Gould | vocals |
Lisa Gray | vocals on 3 |
Simon Phillips | drums, percussion |
Bill Jackman | bass flute on 8, bass clarinet on 8 |
76 年発表の作品「Cactus Choir」。
デイヴ・グリーンスレイドのソロ・アルバム第一作。
内容は、グリーンスレイドのカラフルなキーボード・サウンドを生かしたファンタジックにしてタイトなキーボード・ロック。
メロトロン、シンセサイザー、エレクトリック・ピアノ、オルガンを駆使して、どんなにやんちゃにパンチを効かせても、どこまでも愛らしいのがグリーンスレイドの魅力である。
本作では、特に、まったりとした品のあるシンセサイザーのサウンド、プレイが魅力的だ。
そして、フワフワッとしたキーボード・サウンドをきっちり締まったアンサンブルにするのがテクニシャンたちのベース・プレイである。
また、サイモン・フィリップスは、鼓笛隊風のクラシカルなバック・グラウンドのプレイから思い切りジャジーなドラムスに代わったことを除けば、アンディ・マックローチの代役としては十分すぎるだろう。
さりげないフィルやオブリガートに驚くようなキレを見せている。
かように、音楽的には GREENSLADE の グリーンスレイド分のみを取り出した感じなので、未完成(ロウソン分がないということ)のグループ第五作といってもいい。
グールドのヴォーカルをフィーチュアした作品では英国ポップスらしいデリカシーが伝わってきて感激。
この歌唱の味わいで失われたロウソンの R&B テイストを補っている。
グリーンスレイドのクラシック志向やニューエイジ・ミュージック体質もよく出ている。
6 曲目はグループを思い出させる粘っこくもキレのいいロック・インストゥルメンタル。
最終曲は、サイモン・ジェフズのアレンジしたオーケストラを率いたスケールの大きなシンフォニー。
ヴォーカリスト、スティーヴ・グールドは元 RAREBIRD のメンバー。
ギタリスト、ミック・グラハムは元 PROCOL HARUM のメンバー。
ベーシスト、ジョン・ペリーは CARAVAN や QUANTUM JUMP の「あの」ジョン・G・ペリー。
プロデュースは、グリーンスレイド、グレッグ・ジャックマン、ルパート・ハイン。
Edsel の再発 CD にはボーナス・トラック「Gangsters」(なんとヴォーカリストはクリス・ファーロウ。録音が悪いのはこの人の声がでか過ぎるからでは、とすら思わせる強烈なパフォーマンス)が付く。
本アルバムの製作を契機に GREENSLADE は再結成し、77 年にツアーを行っている。(ドラムスは、旧知ジョン・ハイズマンが担当したようだ)
「Pedro's Party」(2:35)インストゥルメンタル。
「Gettysburg」(3:54)軽快にして緻密なアレンジが魅力の歌ものロック。
「Swings And Roundabouts / Time Takes My Time」(10:06)前半はオルガン、エレクトリック・ピアノをフィーチュアしたファンタジックなインストゥルメンタル。後半はグリースレイド御大がリード・ヴォーカルを取る AOR 調のスローバラード。さすがに補強が要ると思ったか、リサ・グレイ嬢のスキャットも参加。ギター、ピアノのさりげないバックアップもよし。
「Forever And Ever」(4:03)インストゥルメンタル。シンセサイザー、メロトロンのメロディが美しい。ノスタルジックにしてメカニカルなエンディングのオーケストレーションもみごと。
「Cactus Choir」(6:09)
「Country Dance」(5:29)
「Finale」(8:27)オーケストラ・アレンジはサイモン・ジェフズ。ドラムスがエラくカッコいいです。
「Gangsters」(2:57)ボーナス・トラック。
(EDSA 5036)
Dave Greenslade | keyboards |
Dave Lawson | keyboards, vocals |
Tony Reeves | bass |
Andrew McCulloch | drums |
73 年発表のデビュー・アルバム「Greenslade」。
COLOSSEUM 出身のグリーンスレイド、リーヴスに加えて、KING CRIMSON でジャジーなドラムスを叩いていたアンディ・マクローチ、SAMURAI のデイヴ・ロウソンなど腕の覚えの猛者が集まり、ツイン・キーボードをフィーチュアしたユニークなサウンドを生み出した。
ハモンド・オルガン、ピアノ、エレピ、メロトロン等、多彩なキーボードを駆使するも、いわゆる弾き倒し型のキーボード・ロックとは異なり、サウンド全体にドリーミーな響きと暖かみがあるところが特徴だ。
業師たちの演奏は、きわめてスリリングながらもどこまでも優しくユーモラスであり、しっとりとしたクールネスをたたえた名曲達を、敬意を払ってこの世に送り出すことに注力している。
YES や GENESIS が、なんとかたどりついた場所へ、五年も前に早々と到達していた人たちがいた、といってもいい。
音楽の味わいはポップにして軽やか、そして限りなく深い。
ロジャー・ディーンによるグリーンを基調とした幻想的イラストのジャケットは、彼の作品中でも屈指のでき映えだろう。
プロデュースはトニー・リーヴス、デイヴ・グリースレイド、スチュアート・テイラー。
「Feathered Friend」(6:46)まるでギターのようにブルージーなコール・レスポンス調のオルガン・リフによるオープニング。
ベースの動きも素早く、巧みなオブリガートを決めてゆく。
オルガンとエレピがリズミカルにコードを刻むロックンロール調から、次第にテンポは落ちてゆき、ブリティッシュ・ロック然としたバラードへと着地してゆく。
みごとな展開だ。
ソウルフルな歌唱、メロディにもかかわらず、個性的な声質が熱気をクール・ダウンしている。
なんともいい感じだ。
サビでは、粘っこく表情を変化させるヴォーカルを、巧みなバッキングが支える。
クラシカルなオルガンのオスティナートにも暖かみがある。
ここでもベースのオブリガートが、いいアクセントになっている。
ドラムスはきわめて間隔を空けた打撃で、ティンパニ的な役割を果たしている。
アンサンブル全体でのテンポのキープがみごと、ということにもなる。
次第にシンフォニックな広がりが生まれ、メロトロンが絶妙のタイミングで切り込んでくる。
朝もやの草原が広がり、緑の波涛に太陽がまぶしくきらめく、そんなイメージだ。
キーボードは、一方がオルガン、ピアノ、メロトロンと状況に応じて変化をつけ、もう一方はワイルドな音色のハモンドによる優しげなフレージングという巧みの技を見せる。
悠然とした高まりの果てに、静かな余韻が胸をうつ作品だ。
ノスタルジックなバラードへメロトロンを巻き込んで、シンフォニックな広がりをももたせた名曲。
軽快かつ粋なロックンロールのオープニングから、切なくもクラシカルなフィーリングあるヴォーカル・パート、そしてシンフォニックなインストへと、かなり大きな曲調の変化を見せつつも、流れはナチュラルである。
そして、ロウソンのヴォーカルには、頼りなげなのにしたたかという矛盾したような独特の味わいがある。
暖かくメロディアスなキーボードを支える切れ味/タイム感抜群のリズム・セクションにも注目。
グリースレイド作曲。
ロウソン作詞。
「An English Western」(3:27)
オープニングは、変拍子を用いたオルガン・デュオによる、せわしなくトリッキーなアンサンブル。
テーマは、オルガンとエレピによるクラシカルなユニゾンである。
テーマを引き継ぐように、クラシカルなアンサンブルが繰り返される。
続く第二テーマは、オルガンによるシンコペーションであり、奇妙なブレイクをはさみながらもメロディアスだ。
変則的なリズムにもかかわらず、リードするキーボードとドラムス、ベースの連携は完璧である。
ピアノとベースはシャフル・ビートのホンキー・トンク調を保ち、一方オルガンは、カントリー・フレイヴァーあるテーマでリードする。
きりきり舞いするようなオルガンの 3 連下降フレーズを、アクセントに交えながら演奏は進む。
第二テーマに続き、切り返すように鮮やかに第一テーマが復活し、スリリングな演奏を繰り広げる。
次第に第一テーマは変容し、オルガンと全体がせめぎあううちに終盤へ。
リズムを強調したアンサンブルを経て、最後はテーマを交えたピアノがロマンティックにさざめき、吹き上がるようなメロトロンが締めくくる。
たたみかけるようなテーマを軸にした、リズミカルなクラシカル・ロック・インストゥルメンタル。
変拍子アンサンブルにつまづきつつも、3連やシャフル・ビートのおかげで全体としては軽やかに走るイメージがある。
と同時に、音色にはやはり暖かみとまろやかさがあり、夢見るようなタッチは決して失われない。
リズミカルなプレイと、メロディアスにふわりと浮かび上がるようなプレイのブレンド具合が絶妙だ。
キーボードは、クラシカルなフレージングを見せながらもあくまでテンポよく、ブルーズ・フィーリングを持ち続けている。
みごとなセンスだ。
ドラムスも小気味よいフィル、ロールを見せている。
短いが内容は濃い。
グリースレイド作。
「Drowing Man」(5:50)
唸るようなオルガンの低音によるリフレイン、そしてけだるい歌声による幕開け。
問いかけに応ずるのは、古の弦楽を思わせるメロトロン(やや THE BEATLES 風な気もする)。
やがて静かなオルガンの伴奏とともに、ヴォーカルは讃美歌調に変化してゆく。
この何気ない変転が、小面憎いまでに巧みなのだ。
ハモンド・オルガンとエレピによる柔らかなアンサンブル。
今度のサビは、オルガンの響きを背景にフォーク・タッチで迫る。
リズムがやや力強さを発揮しはじめると、メロトロンがこだまし、オルガンのリフとともになめらかにテンポ・アップ。
小気味いいリズムで快調なツイン・オルガンのアンサンブルが走る。
オルガン・ソロはどちらなのだろう。
エフェクトを効かせたユーモラスな 3 拍子の決めも交えつつ進む。
オルガンとエレピのコンビネーションへと変化し、オルガンのリフの伴奏でエレピ・ソロ。
ファンキーで愛らしい。
インスト部の最後は、深いドラム・ロールからメロトロンがゆったりと響き、テンポが落ちてゆく。
背景をオルガンが流れ、柔らかな音色のエレピが夢見るように歌ってゆく。
そして歌声が復活。
伴奏はレスリーを効かせつつも教会調のオルガン。
エレピが柔らかくスケールを駆け上がり、歌声とともにメロトロンが静かに幕を引く。
歌、演奏ともに、お伽噺のような語り口をもった作品。
おそらく「おぼれるものは藁をもつかむ」というお話なのだろう。
演奏は、オルガンとエレピによるクラシカルなアンサンブルを軸に、さまざまなテンポ/曲調へと変化する。
そして、全編ファンタジックなムードに貫かれている。
大まかな骨格は、教会風からフォーク調へと表情を変えるゆったりしたヴォーカル・パートと、クラシカルなプレイを基本にシャープなリズムで進む間奏部から成る。
特に間奏部では、リズミカルなオルガンのデュオ、攻め立てるようなユニゾン、エレピ・ソロ、ワサビの効いたバッキングなど、めくるめくキーボード・アンサンブルを堪能できる。
変則的なリズム処理を含め、緩急の変化がみごとである。
グリースレイド作。
「Temple Song」(3:34)
エレピによるリズミカルな中華風のテーマをヴァイブの響きが包み込む、ユーモラスなイントロダクション。
ヴァイブとユニゾンする歌メロも、すっかり東洋風である。
ヴォーカル・パートのリズムは 7 拍子。
繰り返しの途中からテンポが軽やかに変化し、間奏へと入ってゆく。
ファンタジックなヴァイブからエチュードのようなエレピのアドリヴへ。
ベース・ラインが非常におもしろい。
ヴァイブもずっとついてくる。
再びヴォーカル、そしてテーマと繰り返されて、密やかなスキャットとともに軽やかなエレピのソロへ。
ジャジーでリラックスした演奏だが、バックには何気なくメロトロン・フルートが流れてゆく。
またもテーマが現れて、少し謎めいた雰囲気を取り戻して終わり。
エレピによる中華風のテーマをマリンバで彩った小粋な小品。
オルガンではなく、減衰音系のキーボードを主に用いている。
芯の周りにゆらぎながらにじんでゆくマリンバの音による、イージーリスニングになりそうでならない微妙なニュアンスが、演奏全体に活かされている。
ベース、ドラムスのプレイもユーモラスで可愛らしい。
間奏部のエレピのソロには、ジャズともブルーズともつかぬ味わいあり。
エレクトリック・ピアノは、音質の異なる複数の種類の楽器が使われているようだ。
グリースレイド作曲。
ロウソン作詞。
「Melange」(7:29)
オープニングから、やや蓮っ葉な感じのオルガンのリフが、景気よくリードしてゆく。
ノリノリの演奏を受けるのは、ファズ・ベースのリードをメロトロンが支えるメランコリックなアンサンブル。
しかし、その演奏にも、オルガンと引きずるように伝法なスネア打ちがすばやく反応する。
繰り返しからベースのリードが明確になり、演奏の中心となってゆく。
一転、伴奏は R&B 調のエレピのコード弾きとなり、ベースが大胆にソロを取ってゆく。
ベースはソロとベース・ラインの二重録音のようだ。
軽やかなライド・シンバルの連打、そしてクール・ダウンさせるようなファルセットのスキャット。
エレピの和音の余韻を引きずるベースのアドリヴから、2 つのベースがリードする小洒落たポップス調へ。
ベースは、フランジャー系のエフェクトで音をにじませている。
淡々としたピアノのビートがいい感じだ。
ティンパニのようなドラム・ロールを経て、オルガン伴奏が復活するもメロトロンも湧きあがり、ベースのリードを支えてゆく。
ビートをキープしていたピアノはオルガンに役回りを譲り、今度はベースが、ワウを使ったトーンでリードしてゆく。
メロトロン・ストリングスが高鳴り、ドラムスが劇的にフィルをかまし、ベースのソロはマイペースで進んでゆく。
ベースを大きくフィーチュアした即興色の強いインストゥルメンタル・チューン。
ベースがリードを取る場面が多く、キーボードは要所で小気味いいフレーズを決めるも、基本はバッキングに徹する。
快調なオープニングから静かな中間部を経て、ややブルージーな調子へと変化し、すかさずメロトロンが寄り添ってくる。
このタイミングがいい。
全体に、ブルージーな中にクールなポップ・テイストを盛り込む、お得意の曲調といえるだろう。
ベースは、歯切れのいいナチュラル・トーンから、さまざまなエフェクトを効かせたトーンまで音色を使い分けている。
Melange とは「ごた混ぜ」という意味らしい。
リーヴス/グリーンスレイド/ロウソン作曲。
「What Are You Doin' To Me ?」(4:44)
3 連 2 拍の力強いオルガンのリフがリードするハードなオープニング。
ドラムスもフロア・タムを打ち鳴らし、ヘヴィなリズムを轟かせる。
ヴォーカルはワイルドに迫り、バッキングではメロトロン・ストリングスが思い切り轟く。
JONESY のような大胆なメロトロンだ。
一転、なめらかにジャジーな 8 ビートへとリズムが変化し、ロウソンもソウルフルなシャウトへと切りかえる。
スネアを軽やかに転がすドラムスがみごと。
このパターンが繰り返され、最後にはダメを押すようにミステリアスなメロトロン・ストリングスが高まり、ベースが派手な動きでついてゆく。
エピローグは、高めのトーンを用いたハモンド・オルガンとエレピが愛らしいデュオを聴かせる。
ロウソンらしい R&B 調のヴォーカルが冴えるファンキー・チューン。
こういう作品を、オルガンとメロトロンにどっぷり浸してしまうところが驚きである。
切れのあるオルガンのプレイ(特にオブリガート)は、キース・エマーソン風に聴こえるところもある。
3 連の 8 分の 6 拍子から 8 ビートへと変化するリズムの小細工とともに、オルガンの直線的なリフにメロトロンが翳りをつけるヘヴィ・ロック調と、グルーヴィな R&B 風のサビとの落差が、たまらなくカッコいい。
あまりにパターンがカチッと決まってしまってるため、やや単純な感じもするが、3 連で攻めるハードなオルガンや古式ゆかしいメロトロン、エレピを用いたエンディングの味付けなど、キーボード・ファンをくすぐるような音の面白さは十分あり。
ロウソン作詞/作曲。
「Sundance」(8:44)哀愁漂うアコースティック・ピアノ・ソロに点描風のエレピが重なってゆく、美しいイントロダクション。
明確な音色によるジャジーなピアノ演奏が続き、控えめなエレピとともに、次第に夢見るような雰囲気を作ってゆく。
一気に高まるは、ディストーション・オルガンが刻むヘヴィなリフと、エレピのコード弾きによるアンサンブル。
リズムも加わって、ややメランコリックなテーマを乗せ、ワイルドながらも、クラシカルな演奏が走り出す。
透明な音色のロングトーンを響かせるオルガンを支えるのは、ねじれるように歪んだハモンド・オルガンの和音とメロトロンの響き。
シンフォニックな力強さとともに繊細さもある演奏だ。
待ったをかけるような和音の連打に呼び出されるのは、ジャジーなエレピ・ソロ。
ここはロウソンだろうか。
ベースがリフを刻み、奔放なようで緻密なドラミングが、巧みにアクセントをつけている。
自由気ままなエレピを盛り上げて、リズム・セクションが冴える。
いつの間にか、ソロは先ほどのエレピとよく似た音色のオルガンへと変わっているようだ。
ブルーズ・テイストあふれるソロが続く。
オルガンの余韻をメロトロンがすくい上げ、変調したノイズが渦巻くうちに、リズムは消えゆったりとたゆとううちに、ソロの前のリフがこっそり復活する。
リフに重なってゆくのは、ハモンド・オルガン・ソロ。
ここはグリーンスレイドだろう。
あれよあれよという間に快調にテンポを上げてゆき、熱っぽい疾走がスタートする。
ドラムスは鮮やかな 8 ビートを刻む。
火を噴くようなオルガン・ソロが続く。
前半の全体演奏が復活しクライマックス、そしてオルガンとメロトロンが重なりあうと、静かに音は消えてゆく。
吸い込まれるように静けさが戻り、冒頭のピアノ・ソロが再現する。
震えるような音はエフェクトされたベースだろうか。
静かにハバネラのリズムを刻むピアノ、そしてメロトロンが静かに幕を引く。
ロマンティックな物語を感じさせるインストゥルメンタル大作。
気品と幻想美にあふれるアコースティック・ピアノ・ソロ(7th 独特のポップな美しさとロマン派風の味わいが交じっている)で幕を開け、熱っぽくスリリングなアンサンブルとソロを繰り広げ、最後は再びすべては一時の夢であったといわんばかりの、美しいピアノとメロトロンで幕を引く。
中間部では、オルガン、エレピ、ベース、ドラムスとすべてがハイ・テンションであり、ドライヴ感あふれるリフの上で目くるめく展開を見せ、火花が散るようなソロを交えて進んでゆく。
ソロは前半がロウソン、後半がグリーンスレイドだろう。
疾走するオルガンがカッコいい。
締まったリフとコード弾きによるバッキングをさまざまに重ねたヘヴィにしてリズミカルな演奏が、このグループ独特の味わいを強烈にアピールしている。
グリーンスレイド作曲。
プログレ・キーボードといえば、ジャズ、クラシックの素養を全面に出して弾き倒す、これが典型であった。
しかし本作は違う。
オルガン中心のキーボード・アンサンブルは、ジャズでもクラシックでもないのである。
強いていうなら、ハードな場面はややブルースがかり、ソフトなところはジャズロック風の夢見るような音だ。
これこそがロック・キーボードなのだろう。
オルガンのプレイはかなりギターを意識しているようだが、ギターほどは泥臭くならず洒脱でありながらきちんと整った印象を与える。
この辺も興味深い。
おそらく本作が、60 年代後半から現れたオルガン・ロックの究極形なのだろう。
レスリーを通したオルガンとメロトロンという古びてささくれだった音と、エレピやヴォーカルのポップ・フィーリングが絶妙の配合を見せている。
ブルージーでポップそしてほんのり物悲しい音は、1975 年頃のうららかな日曜日の昼下がりを思わせるのだ。
個人的にはブリティッシュ・ロックで五指に入る傑作と思ってます。
(WPCR-1450)
Dave Greenslade | keyboards |
Dave Lawson | keyboards, vocals |
Tony Reeves | bass |
Andrew McCulloch | drums |
74 年発表の第二作「Bedside Manners Are Extra」。
ブリティッシュ・テイストあふれる、クールでファンタジックなサウンドが冴え渡る名品である。
おそらく、グループとしての最高傑作といえるだろう。
メロトロン、ピアノ、エレピ、オルガンにシンセサイザーも取り入れたサウンドが、メランコリックにしてユーモラスな曲想をカラフルに描き、心地よい幻想の世界へと誘うのだ。
6 曲中 3 曲のインストゥルメンタルでは、緻密に絡むキーボードやリズムのテクニックもさることながら、どこか心温まる響きが印象的である。
その響きは、なぜか、子供の頃の日曜日の午後を思い出させる。
プロデュースはグループ。
「Bedside Manner Is Extra」(6:24)
ベースとアコースティック・ピアノが刻むハバネラのリズムは、まるでベッドに射し込む朝の物憂い光の様に、ぼんやりと沈みこんでいる。
ヴォカリーズが加わって、ますます美しい、ブライアン・ウィルソンばりに幻想的なイントロダクションだ。
ロウソンのなまめかしきヴォーカルがひっそりと忍び入る。
ヴォーカルにぴったりと寄りそうピアノ伴奏もいい。
間奏は、柔毛のように柔らかな夢見るシンセサイザー。
再びヴォーカルそして、一瞬の伴奏のピアノがジャズっぽい敏捷な動きをほのめかす。
メロトロンがやるせない夢を吹き上げ、それに応えるように切ないヴォーカル・リフレインが続く。
毛羽立つようににじみつつも、まろやかに響くエレピ・ソロ。
ビートはピアノの和音がリードし、ジャジーである。
再び、メロトロンが立ち昇り、悠然と広がる演奏に支えられて「Please write to me」の切ないささやき。
リズムは再びジャジーにグルーヴし始め、ユーモラスなシンセサイザーのソロと「Have A Holiday」コーラスがオーヴァーラップする。
シンセサイザーのオブリガートはピッチベンドを巧みに使っている。
最後も、メロトロン・ストリングスがざわめきピアノがゆったりと響き、いつしかオープニングのハバネラがゆっくりと奏でられ、メロトロンとともに吸い込まれるように消えてゆく。
ひんやりとした手ざわりをもつドーリミーなバラード。
午睡から目覚めたけだるさと、夢うつつの心地よさ。
なんとデリケートな音だろう。
マイナーとメジャーを微妙に行き交うコード進行による不思議な味わいと、多彩な音色を用いながらも、しっとりと落ちついたキーボードが堪能できる。
そして、切ない恋を歌うヴォーカルに漂うペーソスと仄かなユーモア。
さりげなく立ち上がり、軽やかに動き出すキーボード・ソロもみごと。
前作 1 曲目同様、このグループの特徴が現われた出色のオープニング・ナンバーである。
「Bedside manners are extra」は、医者の患者に対する思いやりある態度というのが原意だが、ここでは別れを告げる相手を思いやる姿勢に比喩的に使われているのだろう。
また、歌詞の冒頭後半「...I'm not kind to be kind to be cruel.」も、be cruel to be kind(相手を思って苦言を呈す)という慣用表現をひっくり返したおもしろい表現である。「僕は意地悪くあえてやさしく振舞うようなタイプじゃない」といった感じか。
ロウソンとグリーンスレイドの作品。
「Pilgrims Progress」(7:05)
古式ゆかしいフルート・メロトロンがベースとともに静々と進む、神秘のイントロダクション。
3 度目の繰り返しからストリングス・メロトロンも重なる。
幻想的だ。
そして静寂を破り、一気に走り出す勇ましいツイン・オルガンのテーマ。
リズムは軽快なシャフル・ビート。
メロトロンとオルガンがリードする。
オルガンとエレピはツイン・ギターのような歪んだ音色で絡んでゆく。
再びテーマ。
フルートのようなメロトロンも健在だ。
再び、歪んだオルガンとエレピのデュオ。
テーマに戻ると、今度は、リズムが潮を引くように消え去り、メロトロンのおだやかなメロディが残る。
ストリングス・メロトロンの伴奏でユーモラスなオルガンなソロ、続いて、ややエフェクトでふくらんだエレピ。
オルガンも絡み、ストリングス・メロトロンが高鳴るトリオ・ソナタである。
リズムが復活すると、テーマが再現。
心地よいベース下降。
エンディングは、バロック風のキュートなオルガン・デュオがリズミカルに続き、やがてブルージーなインタープレイへと鮮やかな変化を見せる。
神秘的なイントロからシャープなロックンロールへの変化が絶妙なインストゥルメンタル。
シンプルだがグルーヴィなシャフルのリズムとともに、小気味いいキーボード・アンサンブルが次々と現れる。
勇ましく飛び出すテーマもカッコいい。
ほのかにブルージーながらも軽快で洒脱な感じは、「Valentine Suite」のモダンなアップデートをイメージさせる。
中間部では、オルガンとメロトロンによる美しいクラシカル・アンサンブルも楽しめる。
繰り返し主体のきっちりした展開が、エンディングで弾けるようにジャム風に盛り上がるのも面白いアイデアだ。
簡にして密、そしてキュートなキーボード・ロックの大傑作。
インストゥルメンタル。
グリーンスレイドの作品。
「Time To Dream」(4:51)
イントロはファズ・ベースによる小気味よくもメランコリックなリフ。
低音のシンセサイザーがユニゾンし、オルガンがけたたましく煽りたてると、どことなく意味深な調子になる。
スピーディなピアノのトリルでエネルギーをため込んで、ロウソンのヴォーカルが解き放たれる。
斜に構えたロウソンの曲者ヴォーカルが、オルガンのサポートとともに意外や軽快なロックンロールで風を巻いて突っ走る。
歌謡曲っぽいイージーさとロックなカッコよさの微妙な合流点といえばいいだろうか。
B メロはオルガンとベースがユニゾンで攻め、スピーディにオブリガートし、伝法な歌が走る。
間奏はエレキギターを思わせるブルージーでけたたましいエレピ。
バックは、メロトロン・ストリングスが広々とした音で支える。
ベースが刻み出すテンポも心地いい。
開放感あるアンサンブルだ。
一転、テンポがどっしりとした調子に変化するとともに、毛羽立ったシンセサイザー(またはエフェクトされたオルガン?)によるブルージーなソロが始まる。
バッキングは気まぐれ風のピアノが支え、ドラムスのフィルも巧みに絡んでくる。
ピアノのトリルから意味ありげなブレイクを経て、メイン・パートへ。
ひねたヴォーカルが似合わないながらも、きっちりと落とし前をつけたようなエンディングである。
エピローグはオルガンのカデンツァ。
ちょいとひねったヴォーカルをフィーチュアした、アップテンポのロックンロール。
イントロからベースが機敏に動き、軽快でグルーヴのある曲調を支えている。
ポップな軽やかさが、よれて捻じれたヴォーカルのおかげで独特の雰囲気をもつようになる。
シンセ、オルガン、ピアノはシンフォニックなバッキングやクラシカルなオブリガートを的確に見せるかと思えば、手癖風のペンタトニックのソロを小粋に決めるなど大活躍。
シンプルなポップ・ソングと大仰でクラシカルなプレイがバランスした佳作である。
ロウソンとグリーンスレイドの作品。
「Drum Folk」(8:53)
雷鳴のようなティンパニのロールとイコライジングされて平板なノイズになったオルガンが渦巻く。
テープ操作だろうか、フェイズ・シフタでうねるオルガンも聴こえてくる。
不気味なイントロダクションだ。
銅鑼の一撃、そして一転、せわしないスネア・ドラムの連打がフェードイン、オルガンとエレピによるクラシカルなテーマがせわしなく奏でられる。
スピーディだがどこかユーモラスであり、忙しいスネアは EL&P 風である。
受けるアンサンブルもクラシカルであり、なだめるような演奏によってリズムがおちついてゆく。
そして、流れのままにすっと始まるドラム・ソロ。
スネアのロール中心だが、タムやツイン・バスドラを細かく刻み、アフロな強烈さも出している。
カール・パーマーに重みをつけたような、僕の大好きなタイプのドラムスである。
ドラムスの沈黙をきっかけに、雅楽を思わせるメロトロン・フルートの調べが流れ出る。
東洋風の幽玄さが醸し出され、オルガンのブルージーな響きとナチュラルに交差してゆく。
ベース・ラインは、打ち沈むように、しかしくっきりと刻まれる。
この演奏の詩的なメランコリーは、初期 KING CRIMSON に通じる。
そして、悩ましきオルガン・ソロ。(グリーンスレイドのプレイだろう)
伴奏はチャーチ・オルガン調の豊かな和音である。
「Valentine Suite」を思い出して正解だろう。
次第にリズムが復活するも、オルガン・ソロは延々と続く。
クラシカルかつブルーズ・フィーリングたっぷりの、グリーンスレイド得意のスタイルだ。
再び激しいドラムスのピック・アップ、一気に猛烈な手数のドラムス・ソロへと進み、重厚な演奏にピリオドを打つ。
スネアの小気味いい連打が忙しないオルガンのテーマを呼び出して、スパッと終わり。
ドラム・ソロ、オルガン・ソロをフィーチュアした即興風のインストゥルメンタル。
ドラム・ソロに対するリズムレスの幻想的なアンサンブルが美しい。
テーマ部のエレピ、メロトロンのコンビネーションや、中間部のメロトロン、オルガンの静かなアンサンブルに対して、後半はブルージーでクラシカルな圧巻のオルガン・ソロが続く。
もっともこのオルガンのプレイは、現代の感覚からするとやや古めかしいかもしれない。
グリーンスレイドとマカロクの作品。
「Sunkissed You're Not」(6:36)
エレピ、オルガン、ドラムスが激しくクロスする、アドリヴのような、しかしキレのいいイントロダクション。
そして、5 拍子で独特の軽さとなめらかさを生むリズミカルなメイン・パートが走る。
ロウソンのソウルフルでヤクザっぽい早口ヴォーカルもキマっている。
メロトロン・フルートのバッキングが意外だ。
たたきつけるような繰り返しとオブリガートから、意表を突いてジャジーな展開へ。
ヴォーカルも一転して密やかな表情となり、エレピもメローに揺らぐ。
シャープなドラミングが支えるエレピのアドリヴは、GENTLE GIANT のような奇妙にモーダルなテイストながらも、ジャズロック的な演奏である。
ギターのストロークのような音は、スタッカートするオルガンの和音だろうか。
ギターのお株を奪う「ロックな」タッチのある演奏である。
キメどころのシンセサイザーとのユニゾンもカッコいい。
エレピのデュオはクロスオーヴァー系のグループの演奏イメージである。
最後はメイン・パートに戻り、密やかなサビを繰り返して終わり。
本作の中においては、明快なポップ・テイストを感じさせる歌もの。
ソウルフルなシャウト、得意の謎めいたバラードなどヴォーカルが存在感を見せる。
しかしながら、コンパクトながらも精密なアンサンブル、変拍子、ジャジーなアドリヴのスペース、そしてそれらを千切りとってつなぎ合わせたような奇妙な曲展開など、
アレンジは尋常ではない凝りようである。
エレクトリック・ピアノによるジャズ、クロスオーヴァーもしくはカンタベリー・テイストをフルに生かしているが、サウンド以上に、捻じれたような展開に妙味がある。
ある意味ぜいたくなポップ・チューンである。
ロウソンの作品。
「Chalkhill」(5:27)
ベースとシンセサイザーによる低音のリフがずっしりと繰り返されるブルージーなイントロ。
低音のメロトロンも重なって、怪しくも力強い、粋で思わせぶりな演奏である。
か細いオルガンの入りとともに 8 ビートと 6 拍子を連ねて、緩やかに渦を巻くような調子となる。
リズム・チェンジしてエレピを受け止めるのは、レゾナンスを効かせたシンセサイザーのロマンティックなテーマである。
メロトロン・フルートが静かに寄り添い、ドラムスはスクエアなビートを打ち出して、どこか堅苦しい行進曲風のアンサンブルを続ける。
エレピとシンセサイザーのリフレインを、軽やかなエレピの 3 連で受け止めて、一気呵成にエレピのアドリヴが走り出す。
ドラムスも解放されてうれしそうだ。
オルガンも軽快なアドリヴで走る。
キーボードの 3 連が重なり合ってブラス・セクションのようにパワフルな波となる。
ピッチベンドを駆使したシンセサイザーのアドリヴも、ブラス・キーボードによって追い立てられる。
最後は、1 曲目のオープニングのように、けだるくも夢想的なピアノが緩やかな響きをたてる。
ブルーズ・フィーリングをクラシカルなアンサンブルに押し込めたような、やや実験的な前半とジャジーなアドリヴで痛快に迫る後半から成るインストゥルメンタル作品。
うつむき加減でなかなか明るく突き抜けない、現代音楽のような曲調をシンセサイザーのテーマが鮮やかに突き破る。
後半は、ブラスを思わせるキーボードがアドリヴを盛り上げて一気にクライマックスへ。
ロマンティックなエピローグは、宴の後の虚脱感というか、陽と陰のような二面性を印象つけるみごとなまとめである。
リーヴスとロウソンの作品。
前作のクールで淡いロマンチシズムにメリハリと緻密な演出を行き届かせた大傑作。
次々と繰り出されるカラフルなキーボード・アンサンブルと胸のすくようなフレーズの旋風に耳を奪われっぱなしだ。
リズム・セクションのシンプルながらもこれ以上ないキレにも驚かされる。
繊細にして卓越した運動性を備えている上にほんわかとねじれたポップ・フィーリングにも満ちた傑作といえるだろう。
(WPCP-4795)
Dave Greenslade | keyboards |
Dave Lawson | keyboards, vocals |
Tony Reeves | bass |
Andrew McCulloch | drums |
99 年発表のライヴ・アルバム「Live」。
活動絶頂期 73 年(前半 4 曲目まで)と 75 年のライヴを収めた奇跡的な発掘作品。
大げさな技巧や硬直した独りよがりとは無縁の、ドリーミーでキレのいいロックのライヴを堪能できる。
チームワークと小気味よさが印象的だ。
特に、キーボードの多重録音部分を補うベースの活躍がみごと。
ファズを巧みに使用して音色にも気を配る。
また、緻密にして音の明快なドラムスのプレイは、今日の加工され切った音の水準からすると驚異といえないだろうか。
もちろんオルガン、メロトロン、エレクトリック・ピアノはスタジオ盤そのままの味わいある音。
音質は上質の海賊盤並。
ファンタジックで叙景的なオープニングは YES と共通する味わいあり。
「Sundance」(8:10)第一作より。
「Drowning Man」(5:50)第一作より。
「Feathered Friend」(6:15)第一作より。
「Melange」(7:35)第一作より。
「Joi De Vivre」(8:55)第三作より。ヴァイオリン抜きだが二つのキーボードを軸にしたアンサンブルの魅力はたっぷり。リズム・セクションとの呼吸もすばらしい。
「Bedside Manners Are Extra」(5:10)第二作より。
「Sundance」(13:15)第一作より。
「Red Light」(2:40)第三作より。
「Spirit Of The Dance」(3:05)第三作より。
(MYS CD 136)
Dave Greenslade | keyboards |
Dave Lawson | keyboards, vocals |
Tony Reeves | bass, leslied bass |
Andrew McCulloch | drums, percussion |
guest: | |
---|---|
Clem Clempson | guitar |
Andy Roberts | acoustic guitar |
Graham Smith | violin |
74 年発表の第三作「Spyglass Guest」。
新境地を拓くためか、メンバーに加えてギター、ヴァイオリンなどのゲスト・プレイヤーを迎えている。
そしてロウソン、グリーンスレイドそれぞれが主張を強めたらしく、一部で互いに相手の作品の演奏に加わらないという状況にもなっている。
そういった状況から考えて変革期の作品といってよさそうだ。
おおまかにいって、グリーンスレイドがクラシカルな音を用いた牧歌的な楽曲を指向するのに対し、ロウソンの作品はジャジーで大胆、独特のポップ・センスあふれるもの。
全体として、明快な性格づけを優先したメロディアスな表現が主の作品と、非常に晦渋で置いてきぼりを食らわされたように感じさせる作品(特にロウソンの作品)が渾然としている。
このグループの特徴であった一種謎めいたような妖しい魅力や白熱するアンサンブルの妙味が後退したように感じられるのは、この混沌とした感じのせいかもしれない。
5 曲目がかなりいい線をいっているだけに逆にこれ一曲だけというイメージが強まる。
もっとも、そんなことを呟いてしまうリスナーとは、アーティストのイメージを決めたがりその挑戦を酷評したがる厄介な存在である。
いろいろといったが、2 曲目の目の醒めるようなギター・ソロ、4 曲目のチェンバロを思わせるクラシカルなアコースティック・ギター、5 曲目の朗々と歌うヴァイオリンら、ゲスト・プレイヤーの起用法は、脈絡、効果ともに抜群。
つまり、この「多彩さ」は本アルバムの最大の特徴としてとらえるべきだろう。
7 曲目はカルテットとしての新境地へのチャレンジが感じられる佳作。
8 曲目は COLOSSEUM も取り上げたジャック・ブルース/ピート・ブラウンの名作。
ややアルバムを通して散漫な印象はあるものの、サウンド的にはキーボードがさらにきめ細やかに使われており、キーボード・ファンには一、二作目に続きお薦めできる。
プロデュースはグループとジェレミー・アンソール。
「Spirit Of The Dance」(5:08)クラシカルで愛らしいインストゥルメンタル。オルガン、ARP シンセサイザー中心。メロトロンは要所。終盤のエレクトリック・ピアノ・ソロ、メロトロン・フルート・ソロはこの人以外にありえないファンタジックなタッチ。
リズム・セクションとのポリフォニックなやり取りもすばらしい。
グリーンスレイド作。
「Little Red Fry-Up」(5:11)ムーグのピッチ・ベンドが耳に残る、ジャジーでグラム風味もあるプログレッシヴ・ファンキー・チューン。
英国のスティーヴィ・ワンダーを目指したようだがどうしても陰にこもる、というか叙情性に翳りが出てしまう。GENTLE GIANT ばりの変拍子のせいかもしれない。
クレムソンが痛快なギター・プレイを披露。
マクローチの精妙なドラムスも堪能できる。
ロウソン作。夢のように融通無碍に変化する名曲。
「Rainbow」(4:20)悪夢のように歪んだ世界に降り注ぐ驟雨、そして雨上がりに虹が出る。
変拍子反復やジャズロック/AOR 的な展開など幻想的なバラード。
WEB の四作目があれば、こういうタッチになっただろう。
前衛的でポップという極みに近づいた一人らしい風格ある佳作。
ロウソン作。
「Siam Seesaw」(4:43)典雅にして暖かいファンタジーのまま R&B へと昇華する、このグループにしかできない佳曲。
アンディ・ロバーツによるアコースティック・ギターの竪琴のように透明な音とエレクトリック・キーボードのまろみのある音のコントラストを活かしている。
ベースのオブリガートもさりげなく。
弾けるクレムソンのギターをメロトロンで受け止め、ゆったりと帰ってゆく流れのみごとなこと。
インストゥルメンタル。
リーヴス作。
「Joie De Vivre」(8:25)チャーチ・オルガンが高鳴りパッヘルベルのカノンを思わせる序章、得意の 3 連パターンやドリーミーなサウンドと愛らしくもドライなテーマなど、このグループが完成させたスタイルのクラシカル・ロック作品。
ジャズ、R&B も自然に交差させるセンス。モンド・ミュージック的な側面も。
ここでもエレクトリック・ピアノがいい。「Spy-glass guest」という歌詞が現れる。(作詞はマーティン・ホールによる)
名曲。
ヴァイオリンのグレアム・スミスをフィーチュア。第一作の作風を自ら回顧するようなイメージもあり。
グリーンスレイド作。
「Red Light」(2:27)ジャジーな AOR にしてストリートっぽいタフさも感じられるバラード。
悪声ヴォーカルは、街場のワルのイメージ、というか薄味のミック・ジャガーか。
バッキングのファンタジックな音とのギャップもユニーク。
ロウソン、マクローチの二人による演奏。
ロウソン作。
「Melancholic Race」(4:15)まろやかで暖かなサウンドにもかかわらず無機的なタッチのインストゥルメンタル。
予定調和を覆すようにポリリズミックで衝動的な展開を繰り広げる。
オルガン、メロトロンをフィーチュア。後半にはフィル・リアンばりのシンセサイザーの強烈なソロも。
実験精神旺盛な作品だ。
グリーンスレイド作。
「Theme For An Imaginary Western」(3:52)あのピート・ブラウン、ジャック・ブルースによる名曲。
バラードとしての説得力の重みの次元が違う。
情熱を秘め、艱難辛苦を越えて幾度も立ち上がる男のように悠然たるテーマを GREENSLADE 色に染めあげている。
カッコよすぎるクローザーである。
(WB 7599-26867-2)
Dave Greenslade | keyboards |
Dave Lawson | keyboards, vocals |
Martin Briley | bass, guitar, vocals |
Andrew McCulloch | drums, percussion |
guest: | |
---|---|
The Treverva Male Voice Choir |
75 年発表の第四作「Time And Tide」。
前作での新展開は一段落し、ローソンとグリーンスレイドそれぞれの独演曲こそあるものの、全体の構成や雰囲気は第一作、第二作に近い内容に戻っている。
ポップでトンがった(ほんのちょっとケバ目)ブリティッシュ・ロックとして魅力的な作品だ。
したがって、全曲ローソンのヴォーカルをフィーチュアしてもよかったのでは、となりそうだが、それではアクの強さにおそらく胃もたれがするだろう。
グリーンスレイドの趣味であるノーブルなクラシカル・テイストが入ることでいい感じのバランスができるのだ。
楽曲のイメージを大事にしたキーボード・サウンドの適用が、これまた絶妙である。
アナログ・キーボードはこう使うんだよー、というお手本のように感じる。
マーティン・ブライリーの前任者に劣らぬテクニカルなディストーションを効かせたベースのプレイもいい。
唯一残念なのは、やや発展不足の小粒な作品もあること。
プロデュースはグループとジェレミー・アンソール、グレッグ・ジャックマン。
個人的には前作よりもいい。
「Animal Farm」グラマラスでダンサブル、アッパーなロックンロール。
薬味の効いた 100% 英国ロック。
ブラス・ロック風のアレンジ、ホンキートンク調の跳ねるようなピアノが印象的。
アグレッシヴだけれどユーモラスな、つまりチンピラ風だったりスペイシーだったりといったグラムっぽさも。
B メロでのオーボエ風のクラシカルなオブリガートに、そういった素養がグリーンスレイドだけのものではないことを再認識。
70 年代前半と後半の橋渡しのような空気を感じる。
ローソン作。グリーンスレイドは演奏に参加していない。
「Newsworth」
ELO や PILOT のようなブリティッシュ・ポップ。
キャッチーでセンチメンタルでアーティフィシャル。
80 年代すら先取りしたようなセンスもあると思う。グリーンスレイド/ローソン作。
「Time」英国バロック音楽風の作品。グリーンスレイドの独演。男声合唱との共演。グリーンスレイドはハープシコードを演奏。グリーンスレイド作。
「Tide」グリーンスレイドの独演。メロトロン・ストリングス、フェンダーローズによる神秘的かつシリアスなインストゥルメンタル。シーケンス風の低音のエレピが特徴的。グリーンスレイド作。
「Catalan」クラシカルな変拍子テーマを巡ってファンタジックなドラマが展開する、「らしい」傑作インストゥルメンタル。デリケートな音遣いのキーボード・プレイが満載。キレのいいリズムも健在。グリーンスレイド作。
「The Flattery Stakes」ライトなブギー。ピリッと締まったリズムがいい。
間奏やオブリガートのファンタジックで上品なキーボード・プレイとローソンの悪声ヴォーカルのミスマッチが魅力と再認識。
ブライリーのギターもいい見せ場をもらっている。ストリングス・シンセサイザーがいい音だ。モータウンなコーラスも泣かせる。グリーンスレイド/ローソン作。
「Walz For A Fallen Idol」ジャジーなバラード。
「Bedside Manner Is Extra」を思い出すが、より一層ルーツ回帰というか、R&B、ドゥワップなど 50/60 年代、黒人音楽への志向が明快。
そこへスペイシーなシンセサイザーが切り込むからおもしろい。
グリーンスレイド/ローソン作。
「The Ass's Ears」クラシカルなオルガン、ピアノとソウルフルなヴォーカルが絶妙のコントラストをなす COLOSSEUM 復活風の佳曲。
ギターもいい感じだ。
コミカルになりそうで決してならないアッパーなノリがいい。
グリーンスレイド/ローソン作。
「Doldrum」ドリーミーなキーボード弾き語り。ジャジーでスウィートな AOR の兆し。ひょっとするとデイヴ・ローソンはスティーヴィー・ワンダーへの英国からの回答だったのか。
ローソンの独演。ローソン作。
「Gangsters」ジャジーなインストゥルメンタル。
ジャジーといってもフュージョンではまったくなく、あえていえばモダン・ジャズ・カルテットのロック・アレンジといった感じ。
ノスタルジックにしてプログレッシヴ。
ヤン・ハマーばりのピッチコントロールも印象的。
完全に独自の境地だけに、もう少し発展させてほしかった。
グリーンスレイド作。
(WB 7599-26868-2)
Dave Greenslade | keyboards |
John Young | keyboards, vocals |
Tony Reeves | bass |
Chris Cozens | drums |
2000 年発表の第五作「Large Afternoon」。
まさかの復活作。
オリジナル・メンバーはグリーンスレイドとベーシストのリーヴスのみ。
デジタル・キーボードの音色にこそ若干の違和感をおぼえるが、独特の優しさ、暖かみ、ユーモアはそのままに GREENSLADE 節が冴え渡る佳作である。
奥行きのある圧力の強い音を重ねたアンサンブルに映像音楽作家としてのキャリアを感じさせるものの、メロディやフレージングのセンスはまったく往時と変わっていない。
1 曲目「Cakewalk」も、中盤を過ぎた辺りのリリカルなメロディはまさにあの第一作の世界のままである。
改めて、リリシズムと緊張感の絶妙のバランスの上に構築されたチャーミングな音楽世界を味わうことができた幸せをかみ締めた。
ジョン・ヤングはヴォーカリストとしても健闘。
リラックスした AOR 調のバラードのようでいてクラシカルな薬味や意外な急展開を見せるなど、一筋縄ではいかないブリティッシュ・ロックらしさもたっぷりある。
すべてにうっすらとしたブルーズ・フィーリングがあるところもいい。
5 曲目「Anthems」は再結成にあたってのファンへのプレゼント。
プロデュースはデイヴ・グリーンスレイド。
「Cakewalk」(4:56)インストゥルメンタル。
「Hallelujah Anyway」(6:46)
「Large Afternoon」(4:34)インストゥルメンタル。
「No Room - But A View」(3:38)
「Anthems」(6:09)インストゥルメンタル。懐かしい姿をとどめる。
「In The Night」(5:19)
「On Suite」(6:46)
「Lazy Days」(4:18)インストゥルメンタル。現代的。"CINEMATIC" といえばよろしいかと。
「May Fair」(4:13)インストゥルメンタル。英国らしい音。THE ENID への連想も
(MYS CD 142)
Dave Greenslade | keyboards |
Dave Lawson | keyboards, vocals |
Martin Briley | bass |
Andrew McCulloch | drums |
2013 年発表の作品「Live In Stockholm March 10, 1975」。
タイトルの通り、1975 年 3 月 10 日ストックホルムでの放送用スタジオ・ライヴ音源の発掘。
MC によれば第四作「Time And Tide」発表直前のライヴのようだ。
すでにトニー・リーヴスは脱退しており、ベースはマーティン・ブライリーがつとめている模様。
オルガン、メロトロン(絶品)、エレクトリック・ピアノ、シンセサイザーすべての音が胸にしみる詩的な響きであり、ソウル調のヴォーカル、緻密なドラミングも交えたアンサンブルは、ポップスとしてのロックの一つの完成形である。
音質は最上質の海賊盤並。
「Pilgrim's Progress」第二作より。
「Newsworth」第四作より。
「The Flattery Stakes」第四作より。
「Bedside Manners Are Extra」第二作より。
「Joi De Vivre」第三作より。MC では曲名を「Joy Of Life」と呼んでいる。クラシカルかつファンキーで自由なイメージの名曲。
「Waltz For A Fallen Idol」第四作より。MC では、ここからは次のアルバムから関連し合う二曲を続けてと説明される。ロッド・スチュワートに捧げた曲らしい。
「The Ass's Ears」第四作より。
「Drum Folk」第二作より。冒頭で「アンディ・"マカロク"のドラムスを」といってますな。終盤のオルガン、メロトロンによる哀愁あふれるアンサンブルもすばらしい。ドラム・ソロを組み込んだ作品として出色。
「Spirit Of The Dance」第三作の冒頭を飾る、なんとも愛らしい佳品。ライヴの締めの定番だったのか。
(MYS CD 136)
このグループのサウンドが、他のキーボードをフィーチュアしたグループと大きく異なるのは、ロックにクラシックやジャズといった要素を取り入れた後のサウンドのこなれ具合が、遥かに進んでいるということだろう。 ニューロック、アートロックといわれた時代の音に比べると、接ぎ木のような不自然さや観念先行の晦渋さは微塵も見られず、革新性あるユニークなロックというポジションをしっかりとつかんでいる。 グリーンスレイド、ロウソン、ともに以前所属したグループでジャズ、ブルース、クラシックとロックの混合といったプログレッシヴなアプローチを十分に経験済みであり、このグループでは、いわば次の段階のプレイ・音楽を目指した、ということなのだろう。 ロックの同義語ですらあるギター・サウンドから脱却しながらも、いわゆるプログレ的なキーボード・プレイによる自己主張のみには頼らず、時にはギターを模するようなプレイすら見せながら、あくまで切れをもつアンサンブルとクールなファンタジーの余韻を重視したスタイルを貫いている。 アルバム全体を貫くどこか世離れした不思議なトーンは、ハードロックや重厚長大型のプログレとはまったく異なる、独特のポップ感覚なのだ。 暖かく小粋なサウンドは、世代を越え、永遠の魅力を放ち続けるに違いない。