イギリスのベーシスト「John G Perry」。 GRINGO、CARAVAN、CURVED AIR、QUANTUM JUMP、Gordon Giltrap Band を渡り歩いた腕利きプレイヤー。 二つのソロ・アルバムは、KING CRIMSON から CARAVAN、BRAND X、果てはイタリアの NOVA にまでわたるゲストを迎えた、英国ジャズロックの佳品。
John G. Perry | bass, vocals, piano on 2, 12 | Rupert Hine | piano, electric piano, celeste, moog on 2, backing vocals |
Michael Giles | drums | Morris Pert | marimba, vibes, assorted percussion |
Geoffrey Richardson | viola, flute on 1, 3, 11 | Elio D'anna | soprano sax, alto sax, flute on 4 |
Corrado Rusticci | guitars | Beryl Streeter | vocals on 1 |
Roger Glover | A.R.P 2600 on 13 | Simon Jeffes | koto, arranger, conductor |
Gavyn Wright | 1st violin | Steve Rowlinson | 2nd violin |
Levine Andradi | viola | Helen Liebmann | cello |
76 年発表のアルバム「Sunset Wading」。
タイトルとおり、早朝や薄暮をイメージさせる微妙な陰影のある作品であり、全編に水音などの環境音が散りばめられているところからトータルな印象を描いた作品と考えられる。
ジャズロックというスタイルを基本として、ときに実験的なアプローチも交えつつ、映像的なイメージを叙することに徹している。
ヴォーカルも入るが、より印象に残るのは霞んだようでいてカラフルなサウンドをシャープなリズム・セクションが支えるインストゥルメンタルの方である。
ペリーはベーシスト、ヴォーカリストとして演奏に加わるが、特にベーシストとして緩急硬軟、楽曲に合わせたみごとなプレイを披露する。
全体に、ソフトなジャズロックといっていい作風だが、いわゆるジャズロックからはみ出す要素もある。
アコースティックで控えめ、ほのかなエキゾチズムの漂うサウンドの基調は JADE WARRIOR に近く、ときに MIKE OLDFIELD のように聴こえるところもあるからだ。
(余談だが、ぺリーは現代音楽の素養もあるらしい。シュトックハウゼンが好きだといっているインタビュー記事を見た覚えがある)
何にせよ、数年後に隆盛するニューエイジ・ミュージックの出現を予言した内容になっている。
また、ジャジーな表現があることから一種の AOR という見方もできそうだが、それにしてはあまりにデリケートで叙景的、なおかつ多彩なイメージを盛り込んだ音作りである。
フルートや弦のクラシカルな表現、エキゾチズムを意識した精妙なアレンジ、優美な叙情性などから考えて、CAMEL や MANDALA BAND のようなエレクトリック・ジャズの要素を多く取り込んだプログレッシヴ・ロックに近しい存在というべきだろう。
(実際、スキャット風ヴォーカルや小気味のいいハイハットが追い立てるサックス・ソロなど、フュージョン期の CAMEL の演奏を、よりタイトにレベル・アップした感じといって差し支えないところもある)
さて、薄味の楽曲を印象深いものにしているのは、ジョフリー・リチャードソンのヴィオラ、NOVA 組、すなわちエリオ・ダーナのフルート/サックス、コラード・ルスティチのせっかちなギター、そして、マイケル・ジャイルズの繊細きわまるシンバル・ワーク、モーリス・パートのマリンバ/ヴァイブなど、錚々たる顔ぶれのゲストのプレイである。
楽曲よりも、むしろこういった記名性のあるプレイを楽しむべきかもしれない。
ときに、キツキツにせめぎあう場面もあるが、それでも全体の印象は、波紋にゆらめく薄暮の光のようなデリケートな音、すなわちジャケット通りのものといえるだろう。
ものすごく地味ですが、心穏やかになりたいときには、特効薬になり得ます。
アナログ・バンド・サウンドによるアンビエント・ミュージックへの試みという見方も可能です。
水音など全編に散りばめられる背景音は実際に湖水地方で録音されたものであり、その場で意図せずに拾った音にも手を加えていない、という注意書きがあります。
ジャケット写真は VOICEPRINT の再発 CD のもの
なお、VOICEPRINT 版の CD はメディア上の曲の切れ目が実際の楽曲の切れ目と合致していない可能性が強い。(「How Goes The Night?」が冒頭 15 秒くらいで次曲に移る、「Devoke Water」の始まりが前曲に含まれてる、「As Clouds Gather」と次曲の間に切れ目がない)
下記の解説では曲の切れ目は独断で決めた。
「I Wait My Friend」鳥のさえずり、せせらぎ、JADEWARRIOR 風のフルート(リチャードソン)、ピアノ、女性スキャット/ヴォーカル、弦楽奏、ベースによる神秘的な序章。
「How Goes The Night?」ヴァイブ、ヴィオラ、ベースをフィーチュアしたグルーヴィな歌ものジャズロック。
ペリーのソウルフルな歌声とは対照的に演奏はクールである。ベースのテーマが耳に残る。
「Devoke Water」ピアノ、フルート(リチャードソン)、弦楽奏、チェロらによるおだやかでクラシカルなアンサンブル。不協和音による演出もある。
「Birds And Small Furry Beats」
フルート、ギター、ピアノによるミニマル・ミュージック風の作品。
おそらく NOVA 組(エリオ・ダンナ、コラード・ルスティチ)の演奏。
「As Clouds Gather」ドラムス、ピアノ、ベース、パーカッションらによる即興。「湧き集まる雲」。
「Storm」前曲に導かれる「嵐」。
「Ah Well, You Can Only Get Wet!」 ギター、ヴィオラ、サックス、マリンバらをフィーチュアしたけたたましく勢いのいいジャズロック。後半すでに弦楽奏の準備が始まっている。
「Dawn」チェロ、ピアノ、パーカッション、弦楽四重奏によるエキゾティックで神秘的なアンサンブル。VIRGIN レコードのイメージです。次第に動きが現れてくる。
「Morning Song」サックス、ヴィオラ、ギター、ベースをフィーチュアしたシャープなジャズロック。モノローグ風のヴォーカルが入る。
「On The Moor」ピアノ、フルート、マリンバらによるニューエイジ風の「癒し」のアンサンブル。
VOICEPRINT 版の CD のインナーでは本曲の歌詞が記載されているが、実際はその歌詞は前曲で歌われている。歌詞には「On the moor...」とあるが?
「Roundelay」ピアノ・ソロ。
「Etude」ベース、リズムを強調したファンキーなのに醒めきったジャズロック。MAHAVISHNU ORCHESTRA 的。
「A Rhythmic Stroll」ピアノ、シンセサイザー(グローヴァー)によるニューエイジ・ミュージック。
「Sunset Wading」前曲をイントロに導かれる、美しい終曲。
ヴィオラ、ピアノ、チェレステ、ヴァイブ、琴などざまざまな音が走馬灯のように駆け巡る。ヴォーカルはフィル・コリンズ風。
(SKL 5233 / BP288CD)
John G. Perry | WAL bass, vocals | Rupert Hine | keyboards |
Michael Giles | drums | Morris Pert | percussion |
Geoffrey Richardson | viola, flute | Elio D'anna | sax, flute |
Corrado Rusticci | guitars | Simon Jeffes | strings arrangement |
94 年発表の作品「Seabird」。
95 年にリリースされたが、クレジットから考えて、前作の直後に録音されたものの未発表のままだった作品のようだ。
前作のメンバーで結成された「Sunset Wading」としてツアーにも出たようだが、ユニットとしてアルバムを発表できなかった、ということだろう。
内容は、70 年代後半らしい洗練されたサウンドのジャズロック。
STEELY DAN のようなジャズ、R&B、ファンクをソフィスティケートされた形で消化したアメリカン・サウンドを強く意識しつつ、英国ロックらしい実験色と格式あるロマンチシズムを貫いた作風である。
キーボードが管楽器、弦楽らと並置されていた時代ならではの精妙なアナログ・サウンド・テクスチャが、来たるデジタル時代の準備をするかのように均一的に洗練され人工的なニュアンスを持ち始めた、そのまさに瞬間にある音だ。
台頭するワールド・ミュージックにも前作同様目配りは怠りない。
精緻なドラミングと野性味あるギター、ヴィオラ、ベースによる心地よいドライヴ感、フルート、ピアノ、パーカッションによるパステル画調の神秘的なアンサンブル、ワイアットのようなモノローグや弦楽による詩趣、スケールの大きさ、そして、ほどよく抑えられたエフェクトの「効き」もいい。
ファンキーな演奏がかっちり決まる、なんとも矛盾した表現だがそういう「端正さ」こそがアメリカの音との違いであり、イギリスの音の魅力である。
ただし、前作が一貫した「イメージ」を丹念に叙することで薄味のサウンドからは信じられないほどのトータルな輝きを生んでいたのに対して、本作品は要素こそホトンド変わらないにもかかわらず、前作ほどの余韻はない。
各曲の出来、楽曲のヴァリエーションは申し分ないが、すべて足し合わせても「Seabird」というトータル・イメージはあまり伝わってこない。
まあトータル・イメージからくる余韻ではなく、各場面でキレのいいダイナミックな演奏を楽しめばいいのだろう。
もちろんこれは大傑作であった前作と比較しての話であり、本作品も 70 年代終盤のブリティッシュ・ロックの佳作といってまったく問題はない。
ペリーはカスタムメイドのフレットレスベースを使用しているようだ。
また、ヴォーカルが、ロバート・ワイアットやピーター・ゲイブリエルやフィル・コリンズと似た表情をすることを発見した。
作詞はマーティン・ホール。
プロデュースはルパート・ハイン。
「Uncle Sea Bird:His Nibs 」(5:18)
「The Art Of Boeing」(9:05)
「Uncle Sea Bird:Has No Truck」(5:31)
「Getting Off The Ground」
「The Kittyhawk Strut」
「Uncle Sea Bird's Finest Hour」(4:07)
「The Lockheed Lizard」(6:15)
「Obsoletely True」(3:51)
「(a) Uncle Sea Bird Remembers Himself」(6:53)
「(b) The Orchid Lounge」
(VP169CD)