イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「CURVED AIR」。70 年SISYPHUS を母体に結成。メンバー・チェンジを重ねつつ 77 年解散。 RENAISSANCE とともに女性ヴォーカルをフィーチュアしたグループの代表格。 アコースティックでフォーキーな作風を軸にサイケデリックでブルージーなセンスや YES 風の技巧を盛り込んでいる。
Sonja Kristina | vocals |
Darryl Way | vocals, electric violin, piano |
Francis Monkman | guitar, keyboards, VC3 synth |
Ian Eyre | bass |
Rob Martin | bass |
Florian Pilkington-Miksa | drums |
70 年発表の第一作「Air Conditioning」。
内容はコケティシュな女性ヴォーカルとヴァイオリンをフィーチュアしたサイケデリック感覚あふれるアートロック。
作風は一言でいえば、ブルーズ・ベースのヘヴィなロックとそれとはかけ離れたクラシック風の精緻さやフォークのデリカシーなどの要素を衝突させた勢いで散った火花である。
新奇さが突出した、目指す美麗なイメージに到達する前の未完成で猥雑な味わいが特徴だ。
クラシカルなヴァイオリンやピアノとファズをギンギンに効かせたサイケ・ギターのミスマッチが意外に楽しめる。
女性ヴォーカルの声質や歌唱スタイルがトラッド系の美声ソプラノでなくドスの効いた「お水」系なところもユニークだ。
このデビュー作で全英 8 位に輝いたそうだ。
音楽大の学生がレコード会社にいわれるまま「不良っぽさ」をセールス・ポイントにして売り出したら予想外に当たってしまったという感じだろうか。
プロデュースはマーク・エドワーズ。
なお、ベーシストが二人クレジットされているのは、録音直後にロブ・マーティンが脱退したため。
「It Happened Today」(5:02)
せわしないリフを刻むギターとピアノが駆り立て、腰のすわった女性ヴォーカルが妖艶に迫るパンチの効いたポップ・チューン。
フォーク・ロック風のメランコリックなメロディ・ラインを悩殺ヴォイスと饒舌ギターのロックンロールに乗せた、アンバランスと調和の面白さである。
酒場のピアノに寄りかかって歌うガーターベルトの女のイメージである。
ところが後半流麗なるヴァイオリンが現れて一気に高尚なムードに変化。
イージーリスニング風の優雅な世界になる。
なぜか裏切られたような気持になる。
モンクマンとクリスティーナの作品。
「Stretch」(4:06)
シャフル・ビートが強調された英国らしいパブ・ロック。
ブルージーなギターがオブリガートにもソロにも活躍する。
ヴァイオリンも曲調に合わせてここではフィドル風だ。
やや粗削りだが WISHBONE ASH に近い作風だ。
ヘヴィに揺れる曲調はパンチのあるクリスティーナのアルト・ヴォイスには合っているようだ。
後半のヴァイオリンとギターのインタープレイの強引さがこのグループの特徴だとわかる。
ギタリストとしてのモンクマンはこういうブルーズかかったプレイが得意なようだ。
ウェイとモンクマンの作品。
「Screw」(4:02)
ヴァイオリンとオルガンをフィーチュアしたクラシカルでファンタジックな作品。
ヴァイオリン、オルガン、ギターらのアンサンブルがゆるゆると上り詰めては頂点で自らを解き放つのを繰返す。
空虚な感じと緊張感、高揚感がくるくると入れ替わる。
シンプルなリフレインのみから構成されるが、どこか憑かれたような演奏でありダイナミクスの変化が酩酊感を生む。
歌唱もほぼシングル・ノートで呪文っぽい。
全体にマジカルなムードが強い。
歌ものにもかかわらず、インストゥルメンタルのようなイメージである。
ヴァイオリンはクラシカルなフレージングを放つとさすがに存在感あり。
ヴォーカルはパンチがあるだけではなく二日酔い的な虚脱感も似合うことを発見した。
ウェイとクリスティーナの作品。
「Blind Man」(3:35)
物憂いささやきヴォイスがすてきなフォーク・ソング。
伴奏はしなやかで楽しげだ。
ポクポクいうパーカッションとアコースティック・ギターのコンビネーションはドイツ・ロック風。
ヴァイオリンのアクセントが全体を引き締める。
ちょっとヘンクツかなあと思ってた彼女が実は可愛いって分かった時のほっとした気分、みたいな曲です。
ウェイとマーティンの作品。
「Vivaldi」(7:33)
バロック・ヴァイオリンがリードするクラシックとエレクトリック・サウンド、ロック・ビートの融合であり典型的なプログレ・アプローチといえる作品。
ヴァイオリンは、憂鬱なロマンを感じさせるアルペジオ、カデンツァにおける豊かな音色、シリアスなフレージングにおいて際立った表現を見せる。
カデンツァからエレクトリック・ヴァイオリンによるピチカートも含むノイジーな暴走へと突入し、夢から覚めたようにアンサンブルへと回帰する展開はきわめてドラマティック。
「展覧会の絵」におけるエマーソンのキーボード・ソロに匹敵する破天荒さである。
これだけぶっ飛んだ激情的なエレクトリック・ヴァイオリンのソロにはなかなかお目にかかれない。
場末の楽団のようなチープな擬似クラシック風のエンディングにユーモアを感じる。
ウェイの作品。
「四季」の中で選ぶなら「冬」。
「Hide And Seek」(6:19)
「夕陽のガンマン」的なウエスタン風の斜に構えた勇ましさがおもしろいサイケデリック・ロック。
リズムの刻みを変化させて雰囲気を切り替えるテクニックがおもしろい。
けたたましく喚くギターとクールな表情をやや歪めるヴォーカルが早馬を駆るように走る。
いびつに傾いだ演奏がミステリアスだ。
終盤の三連リズムからの展開もエピローグ風でいい。
珍しくギターのプレイにセンスを感じた。
分厚い化粧とロングヘア、そしてベルボトムが似合いそうな音だ。
ウェイとクリスティーナの作品。
「Propositions」(3:09)
テンポのいいサイケデリック・ロックンロール。
蓮っ葉でパンチのあるヴォーカルはシンプルな歌メロによく似合う。
小気味よくけたたましいギターはナチュラル・トーンにするとほとんど THE VENTURES。
ディレイとオーヴァーダブで波紋のように広がるギター・リフにはエキゾチックな色あいもあり、スティーヴ・ヒレッジのいた GONG の B 級版という感じがしなくもない。
ひたすら騒ぎ立てるギターとヴォーカルのクールな面持ちがのコントラストがここでも生かされている。
曲名は、提議や見解という意味とともに秋波やナンパという意味もある。
前曲とともにやや音が割れている。
モンクマンの作品。
「Rob One」(3:27)
エレガントでロマンチックなインストゥルメンタル。
ほぼピアノ、ヴァイオリン、リズム・セクションのみの演奏だ。
ヴァイオリンがシンプルで美しいテーマを曲線を描くように柔らかな起伏をつけて奏でていく。
空気の色を描くようなすてきな演奏だ。
ブリッジ的な小品だが、味わいは格別。
品のある落ちついたアンサンブルがなんともいい。
ぎりぎりジャジーにならないところに若々しさや清潔感があるようだ。
マーティンの作品。
「Situations」(6:24)
メロディアスなヴォーカルがリードする悪夢的なサイケデリック・プログレッシヴ・ロック。
メロトロン・ストリングスをバックに謎めいた表情のヴォーカルがリードするパートとアシッドな器楽が不分明のうちに交錯する。
書き割りの楽園でひらひらと舞うヴォーカルは妖精なのか妖魔なのか。
間奏部はメロトロン・ストリングスをバックにネジが外れたように弾きまくるギター・ソロである。
さまざまなパーカッションがミス・ハヴィシャムのような狂気寸前の愛らしさ、穏やかさを孕む歌唱を彩る。
降りられないメリーゴーラウンド、呪文を唱えるオルゴール、そういったイメージが浮かぶ。
間奏部のギターは雰囲気をぶち壊しているのか何かミスマッチの効果を狙っているのか判然としない。
ウェイとマーティンの作品。
「Vivaldi And Cannons」(1:37)
エレクトリック・ヴァイオリンとノイジーなシンセサイザーが正面衝突する過激なインストゥルメンタル。
アカデミックなモンクマンのロックに関するセンスは音楽的 KY というかやや怪しいようだ。
ウェイとモンクマンの作品。
さまざまな実験が試みられ、サイケデリックな面が強調されている。
クラシック畑の技巧を誇るヴァイオリンにはさすがに凛とした存在感がある。
ただし、その存在感はファズ・ギターとぶつかり合うことで生まれる異常な熱気の前で怪しく姿を歪ませてさらに輝く。
このグループの作風の特徴がそこに凝縮されている。
火元となるモンクマンのギター・プレイは、ひたすら野蛮であり楽曲をまとめるのではなくぶち壊す方向を目指している。
さて、アヴァンギャルドでエネルギッシュ作品が未完成の魅力で迫る一方、素朴な叙情性をもつ 4 曲目や 8 曲目は完成された魅力を放っている。
(両曲の作曲に携わったマーティンが脱退しているのは、グループの音楽的な方向性に乱れを感じたせいではないだろうか)
全体を見渡すと、作品のスペクトルがハードロックからフォークや実験音楽まで各メンバーの嗜好そのままに幅広い。
たしかに方向はバラバラでとにかく荒っぽい。
しかしその熱気に面くらってそのまま酔わされてしまうのが心地よい。
そしてなんといっても最大の成果は、美人で親しみやすい大島優子ちゃんのような隣のオネーさん風のクリスティナさんのヴォーカルでしょう。
(WSX 3012 / WPCP-4222)
Sonja Kristina | vocals |
Darryl Way | vocals, electric violin, piano |
Francis Monkman | guitar, keyboards, VC3 synth |
Ian Eyre | bass |
Florian Pilkington-Miksa | drums |
71 年発表の第二作「Second Album」。
ソフト・ロックを多彩な器楽アレンジで膨らませた、ふんわりしたファンタジー色のある佳作。
さまざまなポップミュージックのテンプレートを生かして独自色を要領よく盛り込んでいるために楽曲の完成度が高い。
前作の無茶さに辟易した人には、次作ほどでないにしろ、アコースティックでていねいに起伏をつける作風がうれしいはずだ。
逆にやたらとギターが突出する(モンクマン氏の興味がギターからキーボードやアレンジに移って安堵)ようなルーズで武骨なアレンジはなくなった。
したがって前作のガツンとくる感じがうれしかった人、おそらくサイケデリック・ロックのファン、にはやや退屈かもしれない。
ハードなナンバーでもサイケデリックなルーズさは抑えられてタイトで小気味いい演奏になっている。
クリスティーナ嬢は声量はなく唱法も不安定だが、それを逆手に取ったつぶやき歌唱に妖しい魅力があっていい。
管弦楽らしき音も聞こえるがシンセサイザーなのかどうかは不明。
クラシカルなヴァイオリンのプレイは前作よりも本作の方が座りがいいようだ。
プロデュースはグループとコリン・コールドウェル。
「Young Mother」(5:55)
スペイシーでまろやかなシンセサイザー・サウンドをフィーチュアしたメロディアスなクラシカル・ロック。
シンセサイザーとエレクトリック・ピアノがリードする未来的なインストゥルメンタル・パートとヴォーカル、ヴァイオリンのコンビネーションによるフォーキーなアコースティック・パートが対比しつつもシームレスにとけあっている。
リズミカルでタイトなインストゥルメンタル・パート、リズム・チェンジの妙といったプログレらしさが顕著。
サイケデリック・ロックというにはたおやかでフォーク・ロックというにはあまりにエレクトロニックなサウンドがいかにもこのグループらしい独特のポジションを表している。
タイトルによるとヤンキーからヤンママへと進化したわけですね、ソーニャ姐は。
「Back Street Luv」(3:38)
エレクトリック・ピアノの刻むリフが支える 60 年代風の快調でストレートなサイケデリック・ロック。
イントロや B メロではオルガンやギターがノイジーに土煙を上げて迫る。
それでも素人っぽい醒めたヴォーカルのせいで重苦しくならない。
コギャルの生態のようなストリートっぽいブルージーな内容は BIG BROTHER & THE HOLDING COMPANY に入っていてもおかしくないが、ヴォーカルのパンチのなさが一種独特な効果で現実感を払拭している。
「Jumbo」(4:11)
ストリングス、ピアノが寄り添うクラシカルでドリーミーなバラード。
歌唱はシンプルな繰り返しであり、いわばポップス風の讃美歌。
ヴォーカルは素朴ながらも気品あるテーマをたおやかな弦楽の調べに支えられて歌い上げている。
丹念にメロディをなぞる端正な歌唱はアニー・ハズラムにも近いイメージである。
リズム・セクションなし。
「You Know」(4:11)
リフ一発、60 年代ビート・ポップ風のシンプルなロック。
エレクトリック・ピアノ、ファズ・ギターによるクランチなリフ、センスのいいギター・ソロ、コーラス、ささやかな黒っぽさ。
歯切れいいタテノリ・ビートとちょっとだけ不良っぽい表情。
展開部のしなやかに広がる感じもいい。
ヴァイオリンはなし。
「Puppets」(5:26)
ピアノ、メロトロンが導くマジカルな雰囲気のフォーク・ソング。
ダイナミクスの変化を抑えた、なだらかな起伏をゆったりと上り下りする郊外での散歩のような演奏だ。
ジャーマン・ロック風のパーカッションと声量のなさを逆手に取った念仏ヴォーカルが特徴的。
ゆっくり回る渦巻きに巻き込まれたようなミニマル・ミュージック的な酩酊感もあり。
単調なビートの中でベースラインの動きが心地よい。
「Everdance」(3:06)
コケットなヴォイスとヴァイオリンをフィーチュアしたこのグループらしいサイケデリック・ロック。
若干慌ただしくもジャズロック的な緊張感のあるアンサンブルと吐息の如きヴォーカルという奇妙な取り合わせがうまくハマっている。
ヴァイオリンはバッキングでもオブリガートでも大活躍。
間奏部のシンセサイザー・ノイズとヴァイオリンのコンビは評価の難しいところ。
フィジカルな高揚を生む内容だ。
「Bright Summer's Day 68」(2:52)
カマトトっぽいコケット・ヴォイス全開のコミカルなねじれポップ・ロック。
甘ったれてよろめくリード・ヴォーカルに酒焼けしたようなハスキーヴォイスがツッコミを入れる。
バロック調のチェンバロがフィーチュアされている。
クラシカルな表現を見せるオルガンやチェンバロに対して、ヴァイオリンと節操ないギターが安っぽいロックンロール色で対抗する。
エフェクトを効かせたギターのプレイそのものは悪くない。
前作よりはずいぶんセンスがよくなった。
色気はあるが焦点の定まらないクリスティナのヴォーカルが全体にユーモラスな調子を与えている。
「Piece Of Mind」(12:54)
大胆な変化を繰り返しつつもミステリアスなトーンが一貫するヘヴィ・プログレッシヴ・ロック。
序盤から演奏は呪術めいた怪しげな雰囲気に包まれている。
ヴォーカルは邪神に仕えるトランス状態の巫女の唱える呪文だ。
打楽器の演出がいい。
リズム・チェンジを経てヴァイオリンが加わってからはロックなドライヴが強まる。
たたみかけるように忙しないトゥッティが邪悪さを盛り上げる。
一転してソロ・ピアノそしてストリングスがすべり込むとクラシカルなインストゥルメンタルへ。
急な加速とともに演奏は切り替わりピアノのストロークのブリッジから無表情で妖しいメイン・ヴォーカル・パートに回帰する。
ここではブラス・セクションやギターのバックアップがあるようだ。
長い間奏部ではピアノ、ギター、ヴァイオリンらによる一体感あるタイトでしなやかなアンサンブルがさりげない自己主張を交えながらひた走る。
一番の目立ちたがりはピアノだ。
モノローグを経てヴォーカル・パートに戻るも、ピアノが一閃、シンセサイザーが主導するタイトな演奏が続いてゆく。
エピローグは実験音楽風。
12 分あまりの大作。モンクマン氏の独壇場か。
女性ヴォーカルによるフォーク・ロックにサウンドとアレンジでひねりを効かせた好作品。
特にキーボードのサウンドとプレイが音楽を豊かにしている。
シンセサイザーやギターによるきらめく演奏は RENAISSANCE にも近い。
ただし、こちらの魅力は品の良さではなく手を伸ばせば届く親しみやすさにある。
実験的な演奏に傾きすぎてバランスを失いかける勇み足は本作にも若干ある。
若者らしい素朴な詩心とワイルドな感性とアカデミックな先鋭性がごちゃごちゃになっているところを、コケットなヴォーカルでまとめあげた作品といってもいいだろう。
(K 46092 / WPCR-1455)
Sonja Kristina | vocals, acoustic guitar |
Darryl Way | vocals, electric violin, piano, tubular bells |
Francis Monkman | guitar, organ, electric piano, harpsichord, VC3 synth |
Mike Wedgwood | bass, acoustic guitar, assorted percussion, vocals |
Florian Pilkington-Miksa | drums, assorted percussion |
guest: |
---|
Annie Stewart | flute |
Crispian Steele-Perkins, Paul Cosh, Jim Watson, George Parnaby | trumpet |
Chris Pyne, Alan Gout, David Purser, Steve Saunders | trombone |
Frank Ricotti | xylophone, vibes, congas |
Jean Akers, Mal Linwood-Ross, Colin Caldwell | assorted percussion, hooters |
72 年発表の第三作「Phantasmagoria」。
初期の傑作として名高い作品。
本作よりベーシストとして、名手マイク・ウェジウッドが参加し、タイトなリズムに貢献する。
サイケデリック・ロックからエレクトリックなフォーク・ロックへと微妙な舵取りを行い、独善的な実験音楽によって破綻する寸前で踏みとどまることに成功している。
素直にアコースティックな美感を前面に出すとともに、ジャズ系のゲストらによるカラフルかつパワフルなプレイでもうまく演奏を引き締めている。
さらに、不安定な歌唱を弾き語り風のバラードやアヴァンギャルドな曲調の中で「歌」ではなく「音」として使って救済した上に効果も上げる、実験音楽の危うさをバロック、ロマン系クラシックのプレイで強引に均衡させる、などの「整理」をうまくやることで、いいアルバムとなった。
「Over And Above」はプログレッシヴなアプローチが図らずも生み出したグループの代表作だろう。
なお、作曲者として「Linwood」なるメンバーがクレジットされているが、これはクリスティナが結婚後の名字を使ったため。
プロデュースはグループとコリン・コールドウェル。
タイトルの「ファンタズマゴリア」は走馬灯幻想の意であり、ルイス・キャロルの詩でも有名。
「Marie Antoinette」(6:20)
ロマンティックな代表作。
ヴォーカル、ピアノの響きの生む落ちついた雰囲気とロックのワイルドな熱っぽさがいいバランスを保っている。
中間部、風に舞うホィッスル風のシンセサイザーを経て、後半は一気に引きずるようなヘヴィな調子へと突っ込んでゆく。
ジョン・レノンの作風にも通じるのでは。
ウェッジウッドはテクニカルなベースでアピールする。
クリスティナの歌唱もいい表情を見せる。
キレのないギターだけは専門家に頼むべきでした。
ウェイ、クリスティナの作品。
「Melinda(More Or Less)」(3:25)
アコースティック・ギターがさざめく感傷的で憂鬱なフォークソング。
フルート、ヴァイオリンの切ない調べが優しく歌を取り巻く。
クリスティナのヴォーカル表現はこういう作品で最も輝く。
簡潔にして味のある名曲。
クリスティナの作品。
「Not Quite The Same」(3:44)
悪戯っぽく密やかな歌を管楽器が彩るブラス・ロック小品。
トランペット、トロンボーンらによるブラス・セクションが、クラシカル/ポップス風の表現で、さまざまな雰囲気を支える。
オープニングから RENAISSANCE の大作のように物々しいが、メイン・パートはピアノ伴奏でクリスティーナのヴォーカルが舞い踊る。
シンセサイザーによるキュートな演出もいい感じだ。
ヴァイオリンも終盤少しだけ活躍。
3 拍子を基本にしてテンポを変化させる手法もおもしろい。
ヴォーカルの声域からするとキーがやや低過ぎるのが残念。
ウェイ、クリスティナの作品。
「Cheetah」(3:31)
ヴァイオリンをフィーチュアしたドラマティックかつスリリングなインストゥルメンタル。
ベース、ドラムスのプレイにもキレがあり、後の THE WOLF を思わせる内容だ。
スピーディな 8 ビートを基本に大胆にリズムとテンポを変化させて怪しさを募らせてゆく。
ドラムス、ベース、ヴァイオリン、ギターのカルテットによる演奏だろう。
一瞬のブレイクをおいて、最後はチーターの唸り声。
ウェイの作品。
「Ultra-Vivaldi」(1:24)
シンセサイザー・シーケンスによるヴァヴァルディのヴァイオリン・カデンツァ。
ウェイ、モンクマンの作品。
「Phantasmagoria」(3:13)
フォークと R&B が入り交じった英国ロックらしさあふれるリズミカルな作品。
蓮っ葉ながらも声量のなさでどうしても弾き語り風、つぶやき風になってしまうヴォーカルを、ビート風のコーラスや俊敏なオルガンで支え、ピアノとヴァイオリンがクラシカルなアクセントをつける。
特に、適切にオブリガートする R&B 風のハモンド・オルガンがいい。
本作品のような何ともいえないチープシックな味こそが、本グループの最大の特色である。
モンクマンの作品。
「Whose Shoulder Are You Looking Over Anyway ?」(3:23)
クリスティナのヴォーカルやモノローグの断片とキーボードの音を電子処理して、編集を加えた音響実験作品。
ノイジーな変調による新規な効果を狙った一種の「コラージュ」である。
その効果はいわばレトロ・フューチャーであり、50 年代の米国 SF 映画で流れそうなサウンドである。
モンクマンの作品。
「Over And Above」(8:33)
切迫感のあるリフレインとともに疾走するプログレらしい大作。
前曲のノイズを序奏に、怪しげな雰囲気をまとったままアンサンブルが走り出す。
ブラス・セクションを再びフィーチュアし、オーケストラ風にスケールをひろげる。
大胆な変拍子も駆使。
抜群の存在感を示すのは、ゲストのフランク・リコティによる鍵盤打楽器類。
主としてたたみかけるような調子だが、そのなかで、ヴォーカル、ヴァイオリンがメロディアスな存在感を示す。
ヴォーカルがリコティのプレイとともにジャジーななめらかさを発揮すれば、ヴァイオリンは邪悪なリフで煽り立てて、全体の表情に深みをつける。
後半は、シンセサイザー、エレクトリック・ピアノによってジャジーでファンタジックなイメージが強まる。
躍動感あるベース・ラインにも注目。
終盤のブラス・セクションとヴォーカル、ワウワウギターによるパワフルな盛り上がりもカッコいい。
モンクマンの作品。
屈指のテクニカル・チューンといえるだろう。
「Once A Ghost, Alway A Ghost」(4:21)
ジャジーなイージー・リスニング調の作品。
ヴァイブ、ブラス・セクションをフィーチュア。
独特の性急さがあるヴォーカル・パートとラウンジ風の演出が巧みに交差する。
ゲスト奏者のフランク・リコティのヴァイブが冴える。
モンクマン、クリスティナの作品。
(K46158 / WPCR-1456)
Sonja Kristina | vocals, acoustic guitar |
Eddie Jobson | keyboards, electric violin, vocals |
Kirby Gregory | guitar, vocals |
Mike Wedgwood | bass, acoustic guitar, vocals, lead vocals on 7 |
Jim Russell | drums, percussion |
73 年発表の第四作「Air Cut」。
ピルキントンミクサ、ウェイ(WOLF を結成)、モンクマンの脱退によってバンドは空中分解するも、ウェッジウッドとクリスティナは 17 歳の気鋭のミュージシャン、エディ・ジョブソンとジム・ラッセル、カービー・グレゴリーをリクルートして新体制を整えた。
クリスティナ、ウェッジウッドの存在感からして、このグループを CURVED AIR と呼んで正しいのだろうが、音楽的なリードは明らかにグレゴリー、ジョブソンであり、彼らのアレンジ力、演奏力になくしてはこのアルバムは語れない。
内容は、女声ヴォーカルを据えたイージーなフォーク・ロックを基調に、目の醒めるようにクラシカルなプレイと洒脱なロック・ギターを放り込んで無造作にまとめたもの。
フォークとエレクトリック・サウンドのぶつかりあいが刺激的で、明快な仕上がりとなった。
ただし、ハモンド・オルガンとシンセサイザーとヴァイオリンを入れれば何でもプログレになる、というあまりうなずきたくない事実を突きつけられた感もある。
未 CD 化作として、また、エディ・ジョブソン参加作としても、長年かまびすしい扱いを受けてきたが、雑食性旺盛なバンドらしいキテレツさの味わいはともかく、アコースティックなサウンドの質感、作品としてのトーンと調和感は前作の方がはるかに上ではないだろうか。
本作で最も目を見張るべきは、カービー・グレゴリーのセンスあふれるブリティッシュ・ロックらしいギター・プレイであり、彼とジム・ラッセルを獲得することで CURVED AIR のロック・バンドとしての真のカッコよさは成立したというべきだろう。
本作発表後ほどなくしてこの体制は崩壊し(このメンバーでの第二作「Lovechild」は後年発掘、発表された)、ジョブソンは ROXY MUSIC に合流、ラッセルとグレゴリーは STRETCH を結成した。
プロデュースはマーティン・ラシェット。
「The Purple Speed Queen」(3:32)グラムっぽさもあるきらびやかなロックンロール。
バッキングの中心はオルガン。
シンセサイザーとギターのソロをそれぞれフィーチュア。
「Elfin Boy」(4:14)トラッドか教会音楽のアレンジのような歌もの。
ソーニャの歌唱は、トラッドの枯れた味わいとポップスの都会的な憂愁を巧みに交差させる。
ドラムス・レス。
「Metamorphosis」(10:40)クラシカルなピアノを大きくフィーチュアしたフォークロックがしなやかなシンフォニーへと変転する。終盤はラグタイム調に。
「World」(1:34)コケットなヴォーカルとヴァイオリンによるキャバレエ・ソング。
酒場の歌姫による埋め草。
「Armin」(3:45)勢いあるヴァイオリンを活かしたクラシカルかつグラマラスなインストゥルメンタル作品。
才気の感じられるブルージーなギター・プレイ、がっちりと堅実なベースのプレイもいい。
「U.H.F.」(5:08)スケールアウトするギター・リフがカッコいいブギー。ジョブソンは再びヴァイオリンで追撃。
フェード・アウトとピアノのフェードインを経て夢想的なバラードに変化。ギターも西海岸調であり、メロトロンがざわめくと B.J.H のような雰囲気に。
最後はブギーへと回帰。
「Two-Three-Two」(4:12)アップ・テンポながらもしっとりとした湿り気のあるブリティッシュ・ロック。
ウェッジウッドがリード・ヴォーカルを取る。ソーニャはコーラスへ。オーソドックスなロック・ギター・プレイがじつにいい。
「Easy」(6:42)悩ましげなヴォーカルをエレガントなピアノが支える THE MOODY BLUES 風のブルージーなバラード。
悩みといっても高尚なものではなく「また男に逃げられた」といった類である。
たまに唸るのも「あり」だろう。
相聞歌のように男声コーラスが応じるかと思えば、4 ビートのモダン・ジャズにも変貌する。
けたたましいギターが引きずり回し、ノイジーなシンセサイザーのブリッジを経て、最後は歌唱パートへ。
あくまで歌謡曲風である。
(K 46224 / WPCR-1456)
Sonja Kristina | vocals |
Darryl Way | violin, keyboards, vocals |
Francis Monkman | guitar, organ, synthesizer |
Florian Pilkington-Miksa | percussion |
Philip Kohn | bass |
75 年発表の作品「CURVED AIR Live」。
74 年 12 月 4 日のカーディフ大学、12 月 5 日のブリストル・ポリテクニークでのライヴ録音。
再々結成を経、ベーシスト以外は初期メンバーが揃っている。
パーソナルなトラブルを吹き飛ばすように勢いある(やや自棄酒焼け気味の)クリスティーナのシャウトをはじめ、荒々しくもエネルギーに満ちた演奏を堪能できる。
ワイルドなだけではなくテンポや演奏のバランスが取れているところが見事だ。
スタジオ盤では、シンフォニックなエレクトリック・フォークというとらえ方もできたが、本作ではサイケデリックなハードロックとしての面が強調されている。
ヴァイオリンはライヴでもその威力を遺憾なく発揮して、暴れ馬のようなアンサンブルを統率する。
シンセサイザーの音響インプロヴィゼーションもうまく収まっておりさほど古臭く聴こえない。(これは編集の妙の可能性もある)
できれば、アンコール含めフル・ステージ分を収録してほしかった。
選曲はすべて既発のアルバムから。
プロデュースはデヴィッド・ヒッチコック。
「It Happened Today」(5:25)第一作より。
「Marie Antoinette」(6:45)第三作より。
「Back Street Luv」(3:43)第二作より。
「Propositions」(7:42)第一作より。
「Young Mother」(8:56)第二作より。
「Vivaldi」(9:00)第一作より。
「Everdance」(5:36)第二作より。
(SML 1119 / ARC7019)