イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「GRINGO」。 68 年結成。 72 年解散。 SAILOR へ参加するヘンリー・マーシュ、CARAVAN へ参加するジョン・G・ペリーの出身グループ。 作品は一枚のみ。
Casey | vocals |
Simon Byrne | drums, vocals |
Henry Marsh | guitar, keyboards, vocals |
John Perry | bass, vocals |
71 年発表の唯一作「Gringo」。
60 年代ビート・グループ風のスウィートなヴォーカル・ハーモニーをフィーチュアした、やや懐かしめのブリット・ポップロック作品。
ジャズ、R&B テイストと独特の含み、翳りのあるメロディ・ラインが魅力的だ。
ヴォーカルは、パンチのある女性ヴォーカルと甘めの男性ヴォーカル陣で分け合う。
ハーモニーやメロディなどが 60 年代風のオーソドックスなビート・スタイルなのに対し、変拍子を用いたクールなリフ、凝った和声、意外性を持つ展開、エレクトリック・ピアノやオルガンのプレイなどは、プログレといって問題ないき内容である。
1 曲目の変拍子や 4 曲目中盤のインストゥルメンタル・パートからの展開などは、斬新だったに違いない。
ギター、キーボード、安定感のあるリズム・セクションなど、演奏面ではかなりの技巧派といえる。
マーシュは、いわゆるリード・ギター的なアドリヴ以上に、バッキング、リフ、間奏などでアンサンブルの妙味を心得たセンスのいいギター・プレイを見せている。
ペリーのベースも積極的なプレイで前面に出ている。
このセンスのいい演奏のおかげで、メロディ・ラインが甘めのナンバーがぐっと締まってくる。
メロディのよさと演奏のキレ、シンフォニックな余韻の引き方など、テクニカルな THE MOODY BLUES とでもいったらよさそうだ。
6 曲目はジャジーなスキャット・パートとリズミカルなビートポップを組み合わせた幻想的な佳作。
7 曲目ではクラシカルなエレクトリック・ピアノ・ソロからヘヴィな 8 分の 6 拍子へとなだれ込むスリリングなナンバー。
オルガン、エレクトリック・ピアノなどキーボードをフィーチュアしている。
9 曲目はエレクトリックなキーボードを多用し、勇ましいテーマにクラシカルなプレイやジャジーなプレイを交えた力作。
インストゥルメンタルが充実する。
これぞブリティッシュ・ロックといいたくなる逸品だ。
プロデュースはトニー・コックス。
「Cry The Beloved Country」(5:54)ブルーな歌メロと多彩なエレクトリック・ピアノが印象的な英国鬱体質系バラード。
メイン・パートは 8 分の 6 拍子のスロー・テンポで、サビはメロディアスで広がりのあるコーラスで決める。
7 拍子のエレクトリック・ピアノのリフによるスピーディな間奏がスリリングだ。
緩急のメリハリが効いて、曲をドラマティックにしている。
エレクトリック・ピアノは演奏全体をリードしている。
メイン・ヴォーカルは男性で、スキャットに女性も加わる。
「I'm Another Man」(4:16)CARAVAN にも通じる 70 年代版ビートポップ。
今度はギターが主役。
メイン・テーマの転調が奇妙な味わいだ。
ここでもメイン・ヴォーカルを支えてコーラスがフィーチュアされる。
サビのハーモニーは、完全に 60 年代風。
「Merry-Go-Round」という歌詞とともに演奏もくるくると回りだす演出がおもしろい。
リード・ヴォーカルは 1 曲目とは異なる男性。
「More And More」(4:42)
マイナーなギターのアルペジオとイノセントな歌メロが泣かせる 8 分の 6 拍子のサイケ調バラード。
「朝日のあたる家」かと思わせるオープニング、そして泣きのメロディだが、ヴォーカルの声質が乾いているためにあまり嫌味はない。
唐突ともいえる展開部では、ベースに導かれてアッパーな 8 ビートへと変化し、忙しい伴奏とともにビート・サウンド風のコーラスが盛り上がる。
ギターもファズを効かせてアグレッシヴに走る。
ドラムス連打とブレイクの連続から、メインのバラードへと回帰、そして再びアップテンポのパートへと向かってそのままフェード・アウト。
ここまで 3 曲すべてフェード・アウト。
リード・ヴォーカルは女性。
「Our Time Is Our Time」(5:04)
アップ・テンポで快調に天駆けるギター・シンフォニック・ロック。
8 分の 9 拍子のギターによるイントロダクションから、飛び立つように進んでゆくところは、初期の YES そっくり。
切れ味いいギターのストロークと伸びのあるハイトーンのヴォーカル・ハーモニーは、空高く飛翔するイメージ。
モールス信号のようなトレモロによるリフがカッコいい。
中間部では急転直下ブルージーに沈み込み、ジャジーなギターとともにヴォーカルが、テンポこそ落ちついているが、乱調気味の表情を見せる。
シンプルなアップ・ビートのパートでは、ベースの冴えたプレイが目立つ。
緩急、躁鬱の大きな振幅で鋭角的なメリハリをつけている。
リード・ヴォーカルは女性。
「Gently Step Through The Stream」(3:55)
過激なテンポ、曲調変化を繰り広げる幻想的プログレ・ポップ。
重厚なボレロ風の序奏から一気にテンポアップして駆け上り、最初のパートは憂鬱な幻想をまとう英国フォーク調である。
ヤサグレ気味の女性ヴォーカルがいい。
忙しないテンポ・アップとヴォカリーズ、スネア・ロールをきっかけに、ブルージーだが気まぐれなギター・ソロが快調に繰り広げられる。
テンポアップのヴォカリーズを繰り返して、メインの英国フォークへと回帰し、にじむようなエコーが響く。
アコースティック・ギターの響きを押しつぶすような重厚勇壮な序奏が再現するも、忙しないテンポアップで終わり。
曲調の過激な変転が特徴だ。
リード・ヴォーカルは女性。
「Emma And Harry」(3:55)
アコースティックな響きを活かした元祖シティ・ポップス風の佳作。
透明感あふれる弾き語りフォークを前後に配し、中間部のメロー & スウィートなブリット・ポップスを浮かび上がらせている。
70 年代中盤に全盛になるスタイルである。
抑えたソロ・ギターやベースの動きもセンスあふれる。
男性リード・ヴォーカルはマーシュかペリーか。
甘口ながらも最もプロっぽいみごとなヴォーカルである。
「Moonstone」(4:38)
クラシカルなアレンジとたたみかけるトゥッティのコントラストを効かせたヘヴィ・チューン。
雑踏の響きにように重く激しいトゥッティから逃れるようなメロディアスでセンチメンタルなメイン・ヴォーカル。
間奏はファズを効かせたエレクトリック・ピアノの奔放なアドリヴ。
演奏のテンションが高い。
ピアノのオスティナートが波乱を呼ぶ予感。
ヴォーカルとハーモニーはあくまでも優美でメロディアスだ。
邪悪さと健やかさを対比させたような作品だ。
「Land Of Who Knows Where」(4:06)
得意のハーモニーを活かした独特のクールネスと熱のある安定のビートロック。
オブリガートや間奏の演奏のキレと重みが 70 年代である。
R&B からジャズへと寄っていたということだろうか。
テクニシャンがそろったこのグループには一番似合ったスタイルに思える。
ギターとエレクトリック・ピアノのバトルもカッコいい。
最終パートのジャジーな響きは CARAVAN 風。
ハーモニーは男性でリード・ヴォーカルは女性。
「Patriotic Song」(5:12)
ハーモニーで決めようとするところが 60 年代サイケ風だが、ギター・リフのリードはハードロックっぽく、最終的にはやはりサイケだった作品。
エレクトリック・ピアノが舵を取ると途端にジャズへと傾くが、一瞬で主導権を SF サイケ風のノリが奪い取る。
この融通無碍さ、切り換えの強引さはプログレの特性である。
中間部で、ノイジーなエレクトリック・サウンドが祈りのような重苦しい調べで渦を巻き、ピアノの刻むビートとともに感傷的な電子音がさらに混迷を極め、謎めいたまま消えてゆく。
リード・ヴォーカルは女性。
伝法な勢いがいい。
「I'm Another Man」(3:37)ボーナス・トラック。
シングル A 面(MCA MKS 5067)。シングル・ヴァージョン。
「Soft Mud」(3:17)ボーナス・トラック。
シングル B 面(MCA MKS 5067)。
(MCA MKPS 2017 / AACD 036)