イギリスのニューエイジ・ミュージシャン「Mike Oldfield」。 「Tubular Bells」があまりに有名なコンテポラリー・ミュージックの旗手。 オタクだったのを性格改善したりいろいろ面白い人だが、何といっても卓越したレコーディング職人芸とひとなつこいメロディ・メイカーとしての才能が飛び抜けている。 オリジナリティという意味では傑出したミュージシャンだ。
Mike Oldfield | instruments | Viv Stanshall | master of ceremonies |
Jon Field | flute | Lindsay Cooper | string bass |
Nasal Choir | Nasal Chorus | Mundy Ellis | Girlie Chorus |
Sally Oldfiled | Girlie Chorus | Steve Broughton | drums |
73 年発表の「Tubular Bells」。
若き天才ミュージシャンが、膨大な回数のオーヴァーダビングを重ねて作り上げた傑作。
内省的にして巨大なインストゥルメンタルは、唯一無二の境地を拓いており、レコーディングの可能性を拡げたという点でもエポック・メイキングな作品である。
空前の売上で新興 VIRGIN レーベルの基盤を作ったともいわれている。
「Dark Side Of The Moon」と同じく、酔っぱらった親父が土産に買ってくるくらい普通のマーケットに売れたのである。
ブランソンが気球で世界一周できたのも、このアルバムのおかげなのだろう。
映画「Exorcist」で本作のテーマが用いられ、映画のヒットとともに音楽も世界中へと広まった。
一つの大作をアナログ LP 片面づつ、2 パートに分けた構成。
シンプルなテーマを様々な楽器で順繰りに奏でてゆき、やがて積み重なった音が不思議な建築物のように世界をおおい尽くす。
クラシックのカノンとミニマル・ミュージック的な側面を兼ね備えたスリリングかつマジカルな展開である。
ちなみに有名な第一テーマは何気ない変拍子。
ゲストも凄い。
まずフルートに JADE WARRIOR のジョン・フィールド、ドラムスに EDGAR BROUGHTON BAND のスティーヴ・ブロートン、マスター・オブ・セレモニーに BONZO DOG BAND のヴィヴィアン・スタンシャルと癖物揃い。
スタンシャルの MC にしたがって楽器が登場し、テーマを延々と奏でた果てに Tubular Bells による荘厳なる大団円を迎えるパート 1 は、まさしくアイデアの勝利だろう。
暗い幼年期の思いを音楽につめ込んだといわれるこの作品だが、確かに繰り返しの中から浮かび上がってくる音像は、狭く温かい場所、たとえば誰かの懐に抱かれているような安心感と、そのぬくもりを失うと想像したときの恐怖のようなものを共に思い起こさせる。
(VDJ-23001)
Mike Oldfield | all instruments | Jane Whiting | oboe |
Lindsay Cooper | oboe | Ted Hobart | trumpet |
Chili Charles | snare drum | Clodagh Simmonds | voices |
Sarry Oldfield | voices | David Bedford | choir & strings conduct |
74 年発表の「Hergest Ridge」。
前作の空前の売り上げで田舎に土地を買い、隠遁したオールドフィールドがその田園風物を描いた作品。
前作同様アナログ片面に一曲づつという構成であり、ミニマルなリフレインを積み重ねてゆく手法も同じ。
したがって、やはり一種神経をすり減らすような狂的で揺るぎない緻密さをもった音楽である。
しかし、テーマのせいか、どこかおだやかな田園風景を思わせ、前作のような緊張感はない。
ギターのプレイに明らかなように、オールドフィールドの原風景であるアイリッシュ・トラッド色はさらに強まる。
同時に、リンゼイ・クーパーらのオーボエやデヴィッド・ベドフォードによるストリングスなど、純クラシック的な詩的感興もある。
「Tubular Bells」の優れた続編という表現ではもの足りない、人々の営みや歴史に思いを馳せさせる傑作だと思う。
Part.1 は、さまざまな音が織り合わされたオーケストラルな演奏が、メロディアスにゆったりと頂点目指して進んでゆく。
冒頭から繰り返されるテーマは「Tubular Bells」の最終主題の変奏のようだ。
おだやかな演奏がみるみる膨れ上がり、頂点を過ぎた後、ベース・リフのリードによるリズミカルな演奏は、いかにもこの人のものらしい。
そして、エンディングは、感動的な混声コラールと鐘の音である。
Part.2 は、さらに郷愁と田園風の穏やかさにあふれた演奏から始まり、ヴォカリーズも交えて神秘な雰囲気すら漂わせる。
後半は、ギターとオルガンが竜巻のようなリフで吹き荒れる。
テーマをも吹き飛ばさんとする若いエネルギーを強く感じる。
そして、エピローグは、再びか細くたおやかなストリングスとギターが綴ってゆく。
本 CD はアナログの音質を目指したという 2000 年発表のリマスター HDCD である。
(7243 8 49368 2 2)
Mike Oldfield | instruments |
Paddy Moloney | Villeann pipe |
75 年発表の「Ommadawn」。
三度タイトル大作一つからなるアルバム。
幻想的な広がりをみせるシンセサイザーとケルティックなメロディを歌い上げるアコースティック/エレクトリック・ギターのコンビネーションによって、美しく躍動感にあふれた不思議の世界が描かれている。
ユーモラスなフォルクローレからスケールの大きなオーケストレーションまで、幅広い音楽が一綴りの織物のようにまとめあげられている。
謎めいた神秘性も匂いたつが、前作および前々作と比べると、外を向いた音になっており、明快さがある。
緻密さが閉塞感をも強調した作風から、より共感を呼びやすい作風へと変化したともいえる。
反復フレーズのシーケンスっぽさから TANGERINE DREAM 風のシンセサイザー・ミュージックへの接近が感じられるのも新鮮な発見である。
おそらく 80 年代以降のニューエイジ/ワールド・ミュージックのブームのルーツはここなのだ。
後半、アコースティックなスコティッシュ・ジグによる自信にあふれた展開もみごと。
奔流のようにスケール大きくあふれ出る音と一人静かな世界で慈しむ音がシームレスにつながるさまが胸を打つ傑作。
(CAROL 1855-2)
Mike Oldfield | instruments | Mike Laird | trumpet |
Pierre Moerlin | drums, vibraphone | Sally Oldfield | vocals |
Maddy Prior | vocals | David Bedford | strings & choir conducted |
Sebastian Bell | flute | Terry Oldfield | flute |
Jabula | african drums | ||
The Queens College Girls Choir | chorus |
78 年発表の「Incantations」。
アナログ二枚組で各面一曲という重厚な作品。
得意の反復にストリングスやヴォーカルも交え、ドラマチックな展開のある作品に仕上がっている。
ギターに加えてキーボードの演奏も鮮やかである。
LP 一枚目では、弦楽による緊張感を効果的に用いて高踏にして悠然たる風格を見せるが、LP 二枚目 A 面で鮮やかな「転」たるアグレッシヴな演奏(ここまで抑え気味だったギターを弾きまくっている)でクライマックスを迎える。
最終面は、いかにもオールドフィールド調のマリンバ、ヴァイブによる重なり合う波紋のようなミニマル演奏を経て、これまた彼らしい(というか「Tubular Bells」風の)ベース・パターン反復の上にさまざな音が散りばめられてゆく。
全体としては、トラッドな哀愁とアフリカンなエキゾチズム、そして交響曲的高揚があり、ミニマルの浮遊感とシンフォニーのスケール感がみごとにマッチした大作といえる。
いままでの作品の序章として、LP 一枚目を付け足した感じでしょうか。
フルート、特にさえずるようなパンフルートが美しい。
個人的にはベストです。
「Part One」(19:08)終盤、フルート、弦楽による濃密なアンサンブルが感動的。
「Part Two」(19:37)パンフルート、弦楽とシンセサイザーによるファンタジックな幕開けがみごと。聖歌、ヴォーカルが入った後は、今聴くとややステレオタイプ。もちろん、オリジナルなのはこちらなのだから、オールドフィールドのせいではない。
「Part Three」(16:58)ギターを大きくフィーチュアしたエネルギッシュな作品。14 分辺りの雄大なイメージもいい。
「Part Four」(17:01)きらびやかなヴァイブ(モエルラン氏でしょう)が綾なすマジカルな美の世界から、オールドフィールド節というべき変拍子パターンを交錯させた微妙なノリの世界へ。
(CAROL 1854-2)
Mike Oldfield | guitars, piano, synthsizer, vibraphone, marimbas, vocals | ||
Pierre Moerlin | drums, vibraphone | Alan Schwartzberg | drums |
Maurice Pert | drums | Neil Jason | bass |
Hansford Lowe | bass | Franscisco Centeno | bass |
Nick Ramsden | keyboards | Peter Lemer | keyboards |
Sally Cooper | tubular bells |
79 年発表の「Platinum」。
なんといっても A 面のタイトル作「Platinum(Parts 1-4)」。
GONG のリズム・セクションを得た、まさにバンドによる「Tubular Bells」 の再構築である。
オールドフィールドのギターもじつに楽しそうだ。
もちろん本家「Tubular Bells」 の芸術性とは異なる次元の表現だが、あちらの狂的な緻密さがしんどいときには、こちらが悪くない。
「Incantations」で孤高の音楽性の頂点を極めたのち、本作では音楽の間口を広げるアプローチに変化したといってもいいだろう。
(73 年には新奇なものでもぜんぜん大丈夫だったのが 79 年にはポップじゃないとしんどくなっているというのは、ポピュラー・ミュージックとリスナーの関係性として興味深い)
ほかの作品でもケルト風味のギターは大活躍。
B 面の「Sally」は、タイトルこそそのままだが、初回 LP 以外の版では、「Into Wonderland」という曲に置き換えられているといういわくもある。
(CAROL 1856-2)
Mike Oldfield | lots of instruments | Maggie Reilly | vocals |
Rick Fenn | guitars | Tim Cross | piano, synthesizers |
Mike Frye | percussion | David Hentschel | steel drums, synthesizers, vocals |
Dick Studt | strings section leader | Raul D'Oliveira | trumpet |
Guy Barker | trumpet | Paul Nieman | trombone |
Philip Todd | tenor sax | Phil Collins | drums |
Morris Pert | drums |
80 年発表の「QE2」。
内容は、粘っこいギターが奏でるケルト風味たっぷりのフォーキーでにぎにぎしいインストゥルメンタル・ミュージックである。
溌剌とした小気味のいい作風/パフォーマンスであり、持ち前のペーソスもいい感じの味付けとして機能している。
比較的短めの楽曲をそろえていること、カヴァーが二曲あるなど、製作作業もリラックスして行われたようだ。
全体にキーボード・アレンジが多彩で、普通に「いい音」なのは、デヴィッド・ヘンチェルの手によるのだろう。
タイトル曲は、素朴な味わいを活かした楽しい作品。スタンダード曲のような貫禄もある。
「Taurus 1」はオールドフィールド節にポップな味わいを加味した傑作。
ユーモアと哀愁が一つになった道化師のパントマイムが目に浮かぶ。
「Sheba」はサード・ワールドへも目を向けたニューエイジ・ミュージックのはしり。
迫力ある人力ドラミングが特徴的な「Conflict」はスティーヴ・ハケットのよう。
ニューエイジ・ミュージックの隆盛も見据えた、個性を活かした 80 年代に向けた音楽的な舵取りは成功していると思う。
テーマは「クイーンエリザベス二世号讃歌」らしい。(帯にそうあった)
ジャケットは船体の拡大だろう。
「Taurus 1」(10:17)
「Sheba」(3:32)
「Conflict」(2:48)
「Arrival」(2:45)ABBA のカヴァー。
「Wonderful Land」(3:37)SHADOWS のカヴァー。
「Mirage」(4:39)
「QE2 / QE2 Finale」(7:39)
「Celt」(3:04)
「Molly」(1:13)
(7243 8 49377 2 0)
Mike Oldfield | guitars, bass, keyboards, vocals | Maggie Reilly | vocals |
Rick Fenn | guitars | Tim Cross | keyboard |
Morris Pert | percussion, keyboard, string arrangement | ||
guest: | |||
---|---|---|---|
Mike Frye | percussion | Paddy Moloney | uileann pipe on 1 |
Carl Palmer | percussion on 4 | Graham Broad | drums on 5 |
82 年発表の「Five Miles Out」。
前半は、「面白うてやがて悲しき」名作「Taurus II」。
演奏全体があたかも一つの大きなバグ・パイプのように聴こえるメイン・テーマがいい。
これまでの大作の延長上ながらも、レゲエのリズムを取り入れたり、マギー・ライリーによる哀愁のヴォーカルをフィーチュアするなど、ポップな展開の奔放さが目を引く。
特徴であった「緻密さ」はやや引っ込み、アンサンブルにリラックスした感じがある。
後半も、バンド形式の完成度の高いポップ・チューンが続く。
「Family Man」は、コケットなヴォーカルに眩暈くらくらの 80 年代初頭らしいニューウェーヴ・ポップス。
「Orabidoo」は、オルゴールの調べにまぶたが重くなるが、イコライジングされたヴォーカル・パートで目が醒める。ここのギターはオールドフィールドとは芸風が異なるのでリック・フェン氏なのだろう。
オールドフィールド流ミニマル・ミュージックとしては 1 曲目よりも味わいがある気がするし、プログレ的興奮度も申し分なし。
典雅なヴォーカルによるエピローグもいい。
「Mount Teidi」では、珍しくゲスト参加でカール・パーマーがパーカッションを担当している。
ポリリズミックなアンサンブル。
「Five Miles Out」は、いかにもオールドフィールドらしいビートの効いたエレクトロ・ポップ。
凝ったヴォーカル処理による独特の暗さがいい。
全体に、オールドフィールドのスタイルと空っとぼけたようなポップ・テイストが素直に結びついた佳作です。
(CAROL 1853-2)
Mike Oldfield | instruments | Roger Chapman | vocals |
Phil Spalding | bass | Anthony Phillips | guitars |
Rick Fenn | guitars | Pierre Moerlen | vibraphone |
Maggie Reilly | vocals | Jon Anderson | vocals |
Simon Phillips | Tama drums, shaker, finger snaps, bells, tambourine, boots |
83 年発表の「Crises」。
すさまじい顔ぶれのゲストをオルガナイズするオールドフィールドの新たな才能に驚かされるアルバム。
内向的で、友達は楽器さ、といった雰囲気だった頃からすると、えらい変わりようだ。
1 曲目「Crises」は明らかに「Tubular Bells」の変奏。
サイズこそコンパクトだがスケールという点ではむしろ大きくなっている。
独特のギターに代表される哀愁ある抒情的なプレイが聴かれる一方で、長調の響きそのままの明るさと躍動感を保った、ポップでハードな面も見せる。
中盤ヴォーカルを披露する辺りは、完全にメジャー志向のブリティッシュ・ポップである。
フェアライトを使った TANGERINE DREAM のような展開もある。
さまざまな音世界を巡っても安定感と統一感を失わない、オールドフィールドの成長と変化を如実に語っている作品といえるだろう。
また、この曲をオープニングにもってくる辺り、自分が演りたい事とリスナーの期待をうまく折り合わせた自信がうかがえる。
そして他の作品も、かつての内省的な、やや強ばった表情が信じられなくなる軽快なものが多い。
2 曲目「Moonlight Shadow」のキュートなアップテンポのポップスで度肝を抜かれ、3 曲目「In High Places」でなんと YES のジョン・アンダーソンがリードするニューウェーヴ・ポップときては、オールド・ファンは卒倒しそうだ。
もちろん、彼の音楽センスがポップスのフィールドでも卓越していると見るべきではある。
そして、彼独特のメランコリーは、ライリーの伏し目がちでコケットなお姉さんヴォーカルに巧妙に隠されているのだ。
1 曲目「Crises」のシンセサイザー・ソロや、サイモン・フィリプスの歯切れよいドラムスとオールドフィールドのアコースティック・ギターさばきでつくられた
5 曲目「Taurus 3」は、楽しげだが、どこかプライベートで密やかな香りが強い。
また、4 曲目「Foreign Affair」は、再びライリーをフィーチュアしたミニマル・ポップ。
エキゾチックなリフレインが印象的であり、一見無機的な展開にチャームがにじみ出る。ただし、スタイリッシュなだけに、今聴くとかなり懐かしく、悪くいえば古臭く聴こえる。
そして、6 曲目「Shadow On The Wall」は、何とロジャー・チャップマンがヴォーカルを取るヘヴィなプロテスト・ソング。
バグパイプを思わせるギターがすばらしい。
前作でトライしたポップ・ロック化を、みごとにオールドフィールド・サウンドとしてまとめ上げた傑作。
これは確か日本でもえらく流行っていたような気がします。
(CAROL 1850-2)
マイク・オールドフィールドの際立ったオリジナリティは数多くのミュージシャンに直接的な影響を与えている。(アンビエント、ニューエイジといったサブジャンルはそれ自体がオールドフィールドの作風の敷き写しといってもいい) 影響範囲は限りなく広いと思うが、作風上への顕著な例をいくつか挙げておく。 オーストリアの GANDALF、フランスのジャン・パスカル・ボフォ(Jean Pascal Boffo)、フランスのローラン・チボー(Laurent Thibault)の唯一作、スウェーデンのビヨルン・ヨハンソン(Bjorn Johansson)の作品、 フランス、CRYPTO レーベルのミシェル・ムーリニ(Michel Moulinie)の作品「Chrysalide」(秀作だが未 CD 化)など。 逆に、スウェーデンのボ・ハンソン(Bo Hansson)は似たスタイルをオールドフィールド以前に奇しくも確立している。