スウェーデンのキーボーディスト/作曲家「Bo Hansson」。 60 年代は Hansson & Karlsson で活躍し、72 年「指輪物語」の英国盤発表で注目される。 マルチ・プレイヤーにして作曲家、さらに作風という点でマイク・オールドフィールドに共通し、なおかつこちらがやや先をいっていた。
Bo Hansson | organs, guitars, moog, bass |
Rune Carlsson | drums, congas |
Gunnar Bergsten | saxophone |
Sten Bergman | flute |
70 年発表のアルバム「Sagan On Ringen(Lord Of The Rings)」。
トールキンの名作にインスパイアされた、オール・インストゥルメンタルによるコンセプト・アルバムである。
内容は、ファズ・ギター、オルガンを中心にしたサイケデリックなフォーク・ロック。
演奏は、管楽器のゲストを迎えるも、基本的には、ハンソンの一人マルチプレイと盟友ルーン・カールソンのドラミング(太鼓といった方が合っている)によるものだ。
土臭い民謡調とアシッドなエレクトリックなサウンドが交差する、素朴にして呪術めいた、幻想あふれる世界である。
楽曲は、調子のいいダンサブルなナンバーから哀愁あふれるバラードまでさまざまであり、一貫しているのは、ひなびたペーソスを基調にしたオリジナルなトラッド・フォークにサイケデリックな酩酊感を加味した趣向である。
ギターのファズ、リヴァーヴ、毛羽立ったオルガンは、ここ十年くらいの多くの優れたミュージシャンが憧れて再現したがるあの 60 年代独特の味わいに満ちている。
(個人的には幼少期に刷り込まれた音である)
そして、訥々と音を並べてゆくような純朴極まるパフォーマンスであるにもかかわらず、メロディとハーモニーには深い味わいがあり、普遍的なイメージを投げかけてくる。
往時の新規なテクノロジの象徴たるムーグ・シンセサイザーすらも、この朴訥としたアプローチによる、田舎臭い音の中で生かされている。
ハンソン氏の卓越したイマジネーションが、確固たる音の世界を作り上げているといえるだろう。
今聴くと、アンビエントなラウンジ・ミュージックとしてもいい感じだ。
のどかな曲調が主なだけに、4 曲目「The Black Riders & Flight To The Ford」でのアップ・テンポな演奏が際立つ。
名盤。
(rescd 508)
Bo Hansson | Hammond organs, guitars, bass, synthesizer, slide bass |
Rune Carlsson | drums, conga, cowbell |
Kenny Hakansson | guitars |
Gunnar Bergsten | saxophone, flute |
Sten Bergman | flute |
Bobo Stensson | piano on 10 |
Owe Gustavsson | bass on 10 |
Pelle Ekman | drums on 10 |
72 年発表のアルバム「Ur Trollkarlens Hatt(Magician's Hat)」。
今回もファンタジック小説からのインスピレーションによるそうだ。
原典は、「ムーミン」の「飛行鬼」かとも思うが私の不勉強のため定かでない。前作に続き「指輪物語」もあるような気がする。
オール・インストの内容は、オルガンやシンセサイザーを中心に管楽器も活かしたノスタルジックな音を基調に、ジャズロック、素朴なバラード、けたたましいサイケデリック・ロック、謎めいたジャジーな作品まで多彩。
技巧ひけらかしとは無縁の、素朴な旋律、和声、丹念なリズムの組み合わせを工夫しつつも明快な作りが魅力である。
マイク・オールドフィールドと比べると、リスナーに緊張を強いない分異常な興奮では迎えられないが、いつでもどこでも耳に優しく響く音楽である。
ナチュラル・トーンのギターの表現はここでもみごと。
1 曲目「Big City」は、本 CD のクレジットでは、Extended バージョンということになっている。前半、フルートとムーグをフィーチュアしたクールなラウンジ・ジャズ風の展開がイイ感じだ。後半は、サックスのリードによるサイケかつシャープな展開がカッコいい。
素朴なファンタジーが貫く中、10 曲目「The Sun」はエレクトリック・ピアノ、ギターがフィーチュアされた異色のサイケ・ジャズロック作品。
ドイツのヒッピー系ジャズロックに通じるものもある。
近年のファンタジーは情操教育向けの清潔なパッケージなのかもしれないが、60 年代から 70 年代にかけてのファンタジーは、反体制的で田舎っぽく汗臭く、ときとして性の匂いすら漂う、一種「後ろ暗く薄汚い」ものであり、その暗がりでこそ無限の輝きを放ち、多くの大人未満を幻惑した。
10 曲目を聴いているとそういうことを思う。
(OW33655)
Bo Hansson | organs, guitars, bass, synth, mellotron, special effect |
Rune Carlsson | drums |
Kenny Hakansson | electric guitar |
Joran Lagerberg | bass, acoustic guitar |
Gunnar Bergsten | saxophone |
Rolf Scherrer | acoustic guitar |
Thomas Netzler | bass |
Mats Glenngard | violin |
75 年発表のアルバム「Mellanväsen(Attic Thoughts)」。
ひなびた味わいのファンタジック・ロック・インストゥルメンタル。
たそがれたギターとキーボードによるアンサンブルが、ほのかなユーモアをたたえた昭和歌謡調のメロディを浮かび上がらせる。
さらに、民族俗謡/フォーク・タッチもあり。
ストリングス・シンセサイザー(CAMEL の「Moonmadness」で使われている音によく似ている。同じ機材なのだろうか)の音がやけにモダンに聴こえてしまうほど、くすんだ薄暮のような不可思議の世界である。
しかし、技巧もただならないものがあり(KEBNEKAJSE のメンバーに負うところも大きい)、ダークな場面での張り詰めた演奏や急展開するジャズ風の演奏での俊敏性は相当なものだ。
このギャップが面白い。
75 年にしては古臭い、が、この「古臭さ」が持ち味なのだ。
暖かみのあるギターのトーンが癖になります。
RAGNAROK や KEBNEKAJSE のファンもぜひ。
(OW33656)