スウェーデンのジャズロック・グループ「RAGNARÖK」。 72 年結成。 70 年代から 90 年代初頭まで活動し、五枚の作品を残す。2008 年復活し、作品を発表。2011 年来日。 多彩な作風は独特の「ひなびた」空気が貫く。 SILENCE RECORD。
Lars Peter Sorensson | drums |
Stefan Ohlsson | drums, guitar |
Peder Nabo | flute, guitar |
Steffan Strindberg | bass |
Peter Bryngelsson | guitars |
Henrik Strindberg | electric guitar, flute, soprano flute, soprano sax |
76 年発表の第一作「Ragnarök」。
内容は、歌謡曲、フォークソング風の渋い味わいをもつ、個性的なギター・インストゥルメンタル。
ベースも含めて二本のエレキ/アコースティック・ギターが、フルートらの彩りを得て、トラッド風味たっぷりに絡み合う演奏である。
本格的なクラシック・ギターのプレイがあるかと思えば、北欧のグループ特有の「場末のスナック歌謡」風なところもあるし、クレジットにはないが、ローズ・ピアノを使った「あの」クロスオーヴァー・サウンドも見事にこなしている。
そして、どの曲にも、精妙な表情を持つギター・プレイがある。
特に、7 曲目、アコースティック・ギター・アンサンブルによる美しい和音の響きを活かした、ラテン/トラッドの微妙な味わいはみごと。
この 1 曲で、ビリンゲルソンのギターの魅力に取りつかれるだろう。
ナチュラル・ディストーション・サウンドが「70 年代ルパン三世(山下毅雄)と探偵物語(SHOGUN)」的郷愁を誘う演歌ロック、ヨーロッパ片田舎の風景のようなひなびたフォーク・アンサンブル、マイルス・デイヴィス- RETURN TO FOREVER -KING CRIMSON「Moonchild」-「Islands」路線のクロスオーヴァー/ジャズロックなど、70 年代ポピュラー音楽総覧的な音であふれる大傑作。
いわゆるシンフォニックなプログレを期待するとズッコけるが、あまりにユニークな音に目を見張るのは、確実である。
70 年代を生きた人々には、おそらく心象風景の BGM として、極自然に馴染んでゆくでしょう。
バラードです。
「Farvel Køpenhamn(Goodbye Copenhagen)」(2:30)アコースティック・ギター・トリオ。
「Promenader(Walks)」(4:40)ナチュラル・トーンのアルペジオとファズ・ギターがリードするフォーク・ロック。
ローズ・ピアノが寂しげに響く。
どうしても、昔の喫茶店やダンスホールの BGM に聴こえます。
「Nybakat Bröd(Freshbaked Bread)」(3:01)アコースティック・ギター・トリオに二本のフルートが加わったリズミカルかつ哀感あるアンサンブル。
奇妙なつぶやきと調子ッパズレなギターが突如挿入される。
「Dagarnas Skum(Foam of the Days)」(8:07)アルペジオとスライド・ギターが静かに呼応しフルートがささやくドリーミーなナンバー。
雰囲気は 2 曲目に似る。
ハーモニクスが美しい。
次第に演奏は高まり、ソロの応酬とハーモニーへと進むも、温度はあまり上がらずもの悲しい。
リズム・セクションは地味ながらも的確なプレイだ。
終盤のソロ合戦はみごと。
「Polska från Kalmar(Reel from Kalmar)」(0:46)トラッド風のフルート・ソロ。
「Fabriksfunky(Factoryfunk)」(4:49)一転してブルージーなジャズロック・ナンバー。
ローズ・ピアノ。
田舎から少し街へでてきた感じである。
シンコペーションのせいかグルーヴがある。
フルートはトーキング・スタイル。
生々しい音のギターがいい。
「Tatanga Mani」(4:34)ラテン色豊かなアコースティック・ギター・トリオ。
スパニッシュ・ギターを思わせるモダンな和声も使われている。
後半フルートも加わり、ブルージーな展開を見せる。
「Fiottot」(1:23)エレピ、ギター、リズム・セクションによるユーモラスなトラッド小品。
「Stiltje-Uppbrott(Calm-Breaking up)」(4:21)アコースティック・ギターと二つのフルートによるアンサンブルが美しく哀しいバラード。
イントロにピアノが使われている。
タイトル通り終盤は、フルートが音高くさえずり、7th の和音が優しい。
「Vattenpussar(Pools of Water)」(4:08)古いオルゴールを思わせるエレキギターとローズ・ピアノによる歌謡曲風のバラード。
中盤からサックスが加わり、一気に音の表情にツヤが出る。
(SRSCD 3613)
Peter Bryngelsson | guitars |
Peder Nabo | piano, flute, pecussion |
Dan Söderqvist | guitar |
Thomas Wiegert | drums, percussion |
Kjell Karlgren | sax |
79 年発表の第二作「Fjärilar I Magen」。
前作に続き、トラッド風のテーマを用いた「間隙の多い」ジャズロック。
じつは、「ジャズロック」という言葉はそのスタイルを短く表現するための便宜上のものであり、より説明的になるならば、ギターを主役にした、感傷と無常感の交じった音の波紋が広がるさまが見えるように緩やかなインストゥルメンタル・ロックというべきだろう。
基本は、音を静かに置いてゆくような演奏であり、その安定感は抜群である。
置かれた音が揺れる水晶のように自らもの哀しい調べを紡ぎだす。
ギターのほかには、エレクトリック・ピアノやサックスが登場する。
ソロが突出するのではなく全体演奏のアンサンブルで雰囲気を描き分けてゆくタイプであり、そういう点でも単純にジャズ的とはいいにくい面がある。
ジャズ的な音による叙景的な音楽であり、イージー・リスニングやラウンジ・ミュージックの一種といってもいい。
ヴァイブやバス・フルートなど北欧らしい「たそがれ」感の演出も効いている。
ヘヴィなアクセントのある作品からエレピ入りのムーディな作品、アコースティックな作品まで、さまざまな曲調に共通するのは、ノスタルジックな哀愁とそこから行き着いた幻想性である。
流行であったいわゆるワールド・ミュージック風の展開に安易に陥っていないところも個人的には好きである。
新機軸は、ヘヴィな展開や鋭いアップ・テンポのインタープレイへの変転である。
特に 1 曲目の「Adrenalin」は、何が起こったのか、突然変異的な超弩急のへヴィ・チューンである。
間違いなく「浮いて」いるが、それが気になり出すのはこの曲の勢いに脳震盪を起こした後、しばらくしてからだ。
他の作品でも、うっすらと幻想的な風景にぎらぎらとした色彩が撒き散らされるかのように過激な音が放り込まれることがある。
そういった対比による効果はきわめて鮮やかだ。
また、ヒステリックなロングトーン・ギターや叙情的な場面のフルート、サックスのプレイなど、表現として KING CRIMSON との接点もあるようだ。
全曲インストゥルメンタル。
ギタリストのセデルヴィストは、ÄLGARNAS TRÄDGÅRD の元メンバー。
ベーシストのクレジットがないが、実際にはキレのいい音がしっかり入っている。
こういう音は当時の英米のポップシーンを追いかけているだけでは決して出会えなかったと思う。
翻って現代は、さまざまな地方の音へのアクセスは比較的容易になった。
しかし、同時に、グローバリズムなる疾病が良きローカルを駆逐する可能性も拡大した。
ローカルからローカルへ、パーソナルからパーソナルへの実りある架け橋を失わないようにするための努力は、昔よりもずっと必要である。
「Adrenalin」(1:40)驚愕のへヴィ・チューン。
「Första Ön」(6:21)メランコリックなトーンが貫く奇想曲風の作品。
ピアノを中心とした「本格ラウンジ・ミュージック」風のアンサンブルに不思議なゆらぎがある。
CAMEL のような甘みがにじみ出るところもある。
ロバート・フリップ風のスペイシーなギターが遠く鳴っている。
マリンバ、フルートらのアクセントもいい。傑作。
「Östen Ar Vöd」(5:30)ディレイなどエレキギター特有のサウンド、効果を活かした夢想曲。ほぼギターののみの演奏。
「Var Glad Var Dag」(4:00)ダイナミックだが独特の「ひなびた感じ」のあるジャズロック。エレクトリック・ピアノによるバッキング。キレのあるリズム、力強いサックスとギターのデュオ。
「Blåmolnfolket」(8:20)幻想的なオムニバス作。KING CRIMSON の「Islands」や JADE WARRIOR など Virgin レコードの作風に通じる。雅楽から影響もありそうだ。傑作。
「Brushanespel」(2:17)パーカッションを効かせたサイケ・トラッド風のエレキギター・デュオ。
「Vattenytor」(8:35)幻覚と癒し、ブルーズ・フィーリングが一つになった、スウェーデンからのブリティッシュ・ロックへの回答のような作品。多分に ÄLGARNAS TRÄDGÅRD 的。5 曲目同様、本グループの特徴をよく表す作品である。最後は、せせらぎの音。
(SRS 4655)
Peter Bryngelsson | guitars, keyboards, xylophone, bouzoki, glocken spiel |
Tomas Wiegert | drums, xylophone |
Kjell Karlgren | sax, flute, keyboards |
Per F. Andersson | bass, xylophone, glocken spiel, trumpiano |
Magnus Jarlbo | trumpet, flugel horn, keyboards |
81 年発表の第三作「Fata Morgana」。
第二作で見せた変化は一気に四方八方に発展し、サウンドは管楽器を大幅に取りいれたドグサレ系へヴィ・ジャズロックへと変貌する。
フュージョンでは決してなく、ビッグ・バンド風のジャズロックであり、凶暴なギターや野太いサックスの存在などは中期以降、「Lizard」、「Islands」辺りのKING CRIMSON と比較しうる音だ。
全体に、管楽器とキーボードがジャズ面を固め、ギターとリズムがヘヴィ・ロックとしての側面を固めている。
サックスやトランペットが泥臭いフレーズを遠慮なくぶちかますと、ギターもまったく躊躇なく超へヴィな音で正面衝突してくる。
このガチンコ勝負がアルバムのテンションを決めている。
テーマやアンサンブルには一部クラシカルなところもある。
シロホン、グロッケンシュピールを使ったワールド・ミュージック的なサウンドや 81 年以降の新生 KING CRIMSON に通じる無国籍エスニック・テイストもある。
そういったさまざまな要素を盛り込んでいる。
しかし、一番興奮させるのは、へヴィなギターが唸りを上げて爆音アンサンブルが走り出すところである。
アルバム・タイトルは「蜃気楼」の意。
「Midvinterblot I」(2:50)東アジア・エキゾチズムあふれる作品。
シロホンがフィーチュアされている。JADE WARRIOR 的なワールド・ミュージックである。
「Fata Morgana」(5:32)怒涛のリズムと凶暴なギターによる緊迫感あふれる KING CRIMSON 調ジャズロック。
中間部、思い切りなサックスのブロウには初期 KING CRIMSON をぶっ飛ばすようなパンチあり。
「Jatora Em Bak」(4:43)シンプルなドラミング、シンセ・ベースによるニューウェーヴなリズムの脳天気ソングがフォーク風のテーマを得て独特のたそがれ感を醸し出す、イケイケなビッグ・バンド・ジャズ。
ヘヴィなギター・フィードバックに呼ばれてブズーギがささやく辺りが普通でない。
「Vild Av Friden」(4:02)
サム・テイラー風のサックスがブロウしまくるラウンジ風のバラード。
ギターのアルペジオが伴奏。
ワイルドな音色のわりには流れはスムースであり、モダン・ジャズとは決していえない。
「Leningrad I & II」(9:15)
パート I は、アコースティック・ギターがさざめき、オルガンとフルートが応えるパストラルな作品。ギターの和声が不安をかきたてる響きを帯びることもあるが、概ねメロディアスだ。
パート II は無国籍な音で押し捲る超ヘヴィな作風。
木琴アンサンブルが巧みに使われている。
後半は、ヘヴィなギターと豪快なサックスがリードし、リズムも次第に荒々しく力強くなってゆく。
ブレイクの後の、自信にあふれた強烈なユニゾンがカッコいい。ギターは ロバート・フリップばりの凶暴さで迫る。
「Midvinterblot II」(3:15)
サックスがリードする「ダン池田とニューブリード」的なビッグバンド・ジャズロック。
前曲との落差にズッコケるが、だんだんヒネリの効きがよくなってくるので聴き通せる。
「Elefanten På Tåget」(2:28)コワレたようにぶちかますへヴィ・チューン。前作の「Adrenalin」に無理やりビッグ・バンド・ジャズをくっつけたような作品である。
「Eskapage」(4:04)トランペットとファズ・ギターによるサイケ・ムード・ミュージック。80 年代でもこういう音が出せた北欧に乾杯。
(SRS 4666)
Peter Bryngelsson | guitar, piano, vibraphone | Dan Johnsson | guitar, vocalsm synth |
Lars Liljegren | piano | Hans Bruniusson | D-drums, drummachine, sequencer programming |
Ove Karlsson | cello | Roine Stolt | bass |
Mera Gartz | afrodrum, drums | Ola Johansson | harmonium |
Per-Ake Holmlander | tuba | Jorgen Adolfsson | soprano sax |
Roland Kjejser | soprano sax | Kjell Westling | soprano sax, bass clarinet |
Thomas Lindabl | flute |
87 年発表の作品「Reliques」。
ピーター・ビリンゲルソンを中心とするらしきユニット「TRIANGULUS」による第二作目。
内容は、管弦を動員した室内楽調ロック、ややニューエイジ系。
アコースティックな音を主にした演奏であり、音質は若干異なるが、KING CRIMSON が最終アルバムで見せたようなアコースティックなサウンドを使ったへヴィで叙情的な表現が近いと思う。
へヴィな表現だけではなく、英国ロックと共通する、ブルーズ・フィーリングを黄昏の無常感へと昇華した哀愁のバラードもある。
当然ながら、70 年代とは異なる 80 年代らしいキッチュな感じ、つまり退廃的なヴォーカル表現、シンプルでスクエアなビート、デジタルなシンセサイザー・サウンドなども盛り込まれている。
どうやら、本作品の魅力は、北欧特有のフォーキーなペーソスとジャジーな洗練、80 年代的な新奇性がぶつかりあって軋むところにあるようだ。
ビリンゲルソンは、アコースティック・ギターでは翳のあるアルペジオを刻み、エレクトリック・ギターではロバート・フリップ的なヒステリックなロングトーンを駆使している。
サウンド面ではワールド・ミュージック/ニューエイジの文脈に近接しつつも、根底にはブルーズ・フィーリングが見え隠れするので、やはりアヴァンギャルドなロックとしてとらえるべきだろう。
落ちついた、癒し系の音に油断していると、突如演奏のテンションが上がって轟くようにシンフォニックな調子になって驚く。
近年では AFTER CRYING がこういう作風を継承していると思う。
(SLS 4708)
90 年発表の作品「Via」。
RAGNARÖK のリーダー、ピーター・ビリンゲルソンのソロ・アルバムである。
内容は、管弦楽器を動員したクラシック・アンサンブル風のインストゥルメンタル。
作風は、おなじみ長閑な北欧調を基本に、ギター・シンフォニック・チューン、メロディアスなクロスオーヴァー、サロン/トイ・ミュージック、現代音楽、哀愁のフォーク・ミュージック(やや歌謡曲寄り)まで、本人の志向のままに多彩である。
どのような曲調でも、サウンドがお茶目でやさしげ、濃い目の叙情美を涼やかにオプティミスティックに描くところが特徴である。
演奏は、あたかも暖かな日ざしに突然影が差し再び晴れ間が訪れるように、自然な息遣いのままに展開する。
ややおとなしめではあるものの、バンドとしてのグルーヴもあるのでプログレ・ファンには絶対受けると思う。
大傑作。
(SLACD 001)