フランスのミュージシャン「Laurent Thibault」。 MAGMA 最初期のベーシストにしてプロデューサー。 79 年のソロ・アルバムはマイク・オールドフィールドやアンソニー・フィリップスの作風と ZEUHL サウンドの邂逅たる傑作。
Laurent Thibault | bass, guitars, noise, cries, mixing |
79 年発表のアルバム「Mais On Ne Peut Pas Rever Tout Le Temps」。
内容は、MAGMA サウンドに異国情趣あふれるフォーク・テイストを加えた美しきインストゥルメンタル集。
ベーシストにフランシス・モーゼ、ヴァイオリニストにデヴィッド・ローズなど ZEUHL 人脈、GONG 人脈、さらにはアマンダ・パーソンズまで、多彩なゲストのサポートを得て実現した本作は、ジャケットを飾るルソーによる幻想的な絵画のイメージそのままのファンタジックにして翳のある大傑作である。
さざなみのようなアコースティック・ギターの調べに原色のエキゾチズムあふれるメロディが寄り添い、それらが描き出すのはあくまで淡い色合いの白昼夢である。
しかし、トム・ニューマンの「妖精交響曲」のような繊細な幻想美にとどまらない、フリー・ジャズ的な肉体美もしっかり誇示している。
シンセサイザーは一切使用していないというクレジットにも、音響へのこだわりと自信が感じられる。
英仏の感覚の差異を味わうという試みとして、Neil Ardley の「Harmony Of The Spheres」との聴き比べもおもしろい。
ジャケットはルソーの画。
BALLON NOIR レーベル。
「Oree」(11:30)雄大にして木目細かい幻想大作。
アマンダ・パーソンズのヴォカリーズをフィーチュアしている。
エレピとリズム・セクション、混声ヴォカリーズには MAGMA を思わす暗黒ジャズロック調が底辺にあるが、フルートとアコースティック・ギター、テーマのもつピュアな瑞々しさが、ユニークな味わいをもたせている。
結果的には、マイク・オールドフィールドにも通じる、密やかで郷愁を誘う音になっている。
名曲。
「Aquadingen」(4:29)波の音にフランジャーのかかったベースが重なるややフュージョン調のオープニング。
ベースをフィーチュアした演奏である。
シンバルの音がやたらとソリッド。
シャーマン系ヴォカリーズ。
終盤跳ね回るドラムスをよそに、デヴィッド・ローズのエレクトリック・ヴァイオリンが静かに歌い出す。
ベースをフィーチュアし、SE をふんだんに散りばめた幻想的なジャズロック。
「La Caravane De L'oubli」(7:07)ミニマル風のリフはやがてヴァイオリンと管楽器(?)を呼び覚ましインド風の旋律が渦を巻きはじめる。
ドラムスとリフが微妙に拍をずらしながら重なり合う眩惑的な演奏だ。
オリエンタルなヴォカリーズも加わって東洋幻想に拍車がかかる。
混沌。
「Mais On Ne Peut Pas Rever Tout Le Temps」(8:19)はき捨てるような男の一言。
アシッドなギター・リフに続くのは、眠気を誘うギターのアルペジオと女性のヴォカリーズ。
ベースもたゆとうように流れる。
ここのベースは、フレットレスのせいか、パーシー・ジョーンズ風。
一転シャープなリズムが動き出すところは GONG 調。
再び、ノイジーなギターによる即興風のリード。
ギター・リフに乗せて狂乱する混声のヴォカリーズが続く。
湧き上がる不安。
泣き叫ぶようなギター。
雰囲気はいいが、思わせぶりであり最後の一歩のインパクトに欠ける。
(FGBG 4054.AR)